風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/11(木) 15:54:28 ID:MLa3jUaS0<>    ___ ___  ___
  (_  _)(___)(___)      / ̄ ̄ヽ
  (_  _)(__  l (__  | ( ̄ ̄ ̄) | lフ ハ  }
     |__)    ノ_,ノ__ ノ_,ノ  ̄ ̄ ̄ ヽ_ノ,⊥∠、_
         l⌒LOO (  ★★) _l⌒L ┌'^┐l ロ | ロ |
   ∧_∧| __)( ̄ ̄ ̄ )(_,   _)フ 「 | ロ | ロ |
  ( ・∀・)、__)  ̄フ 厂  (_,ィ |  </LトJ_几l_几! in 801板
                  ̄       ̄
        ◎ Morara's Movie Shelf. ◎

モララーの秘蔵している映像を鑑賞する場です。
なにしろモララーのコレクションなので何でもありに決まっています。

   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_||  |      | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ]_||
   |__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | ̄ ̄ ̄|   すごいのが入ったんだけど‥‥みる?
   |[][][]._\______   ____________
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_|| / |/    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |[]_||
    |[][][][][][][]//||  | ̄∧_∧     |[][][][][][][][].||  |  ̄
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ( ・∀・ ) _ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |
   |[][][][][][][][]_|| / (    つ|8l|.|[][][][]_[][][]_.|| /
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    | | |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    (__)_)
前スレ
モララーのビデオ棚in801板55
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/801/1261915081/

ローカルルールの説明、およびテンプレは>>2-9のあたり

保管サイト(携帯可/お絵描き掲示板・うpろだ有)
http://morara.kazeki.net/ <>モララーのビデオ棚in801板56 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/11(木) 15:55:55 ID:MLa3jUaS0<> 2.ネタ以外の書き込みは厳禁!
つまりこのスレの書き込みは全てがネタ。
ストーリー物であろうが一発ネタであろうが
一見退屈な感想レスに見えようが
コピペの練習・煽り・議論レスに見えようが、
それらは全てネタ。
ネタにマジレスはカコワルイぞ。
そしてネタ提供者にはできるだけ感謝しよう。

  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  | ネタの体裁をとっていないラッシュフィルムは
  | いずれ僕が編集して1本のネタにするかもね!
  \                           | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| . |
                               | | [][] PAUSE       | . |
                ∧_∧         | |                  | . |
          ┌┬―( ・∀・ )┐ ピッ      | |                  | . |
          | |,,  (    つ◇       | |                  | . |
          | ||―(_ ┐┐―||        |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   |
          | ||   (__)_), ||       |  °°   ∞   ≡ ≡   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/11(木) 15:57:54 ID:MLa3jUaS0<> ★モララーのビデオ棚in801板ローカルルール★

1.ノンジャンルの自作ネタ発表の場です。
書き込むネタはノンジャンル。SS・小ネタ・AAネタ等801ネタであれば何でもあり。

(1)長時間(30分以上)に及ぶスレ占拠防止のためリアルタイムでの書き込みは控え、
   あらかじめメモ帳等に書いた物をコピペで投下してください。
(2)第三者から見ての投下終了判断のため作品の前後に開始AAと終了AA(>>4-7辺り)を入れて下さい。
(3)作品のナンバリングは「タイトル1/9」〜「タイトル9/9」のように投下数の分数明記を推奨。
   また、複数の書き手による同ジャンルの作品判別のためサブタイトルを付けて頂くと助かります。
(4) 一度にテンプレAA含め10レス以上投下しないで下さい(連投規制に引っかかります)
   長編の場合は10レス未満で一旦区切り、テンプレAAを置いて中断してください。
   再開はある程度時間をおき、他の投稿者の迷惑にならないようにして下さい。

※シリーズ物の規制はありませんが、連投規制やスレ容量(500KB)を確認してスレを占拠しないようお願いします。
※感想レスに対するレス等の馴れ合いレス応酬はほどほどに。
※「公共の場」である事を念頭にお互い譲り合いの精神を忘れずに。

相談・議論等は避難所の掲示板で
http://s.z-z.jp/?morara

■投稿に当たっての注意
1レスあたりの最大行数は32行、タイトルは全角24文字まで、最大byte数は2048byte、
レス投下可能最短間隔は30秒ですが、Samba規定値に引っかからないよう、一分くらいがベターかと。
ご利用はテンプレをよくお読みの上、計画的に。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/11(木) 15:58:33 ID:MLa3jUaS0<> 3.ネタはネタ用テンプレで囲うのがベター。

別に義務ではないけどね。

テンプレ1

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  モララーのビデオを見るモナ‥‥。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  きっと楽しんでもらえるよ。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ヒトリデコソーリミルヨ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/11(木) 15:59:14 ID:MLa3jUaS0<> テンプレ2
          _________
       |┌───────┐|
       |│l> play.      │|
       |│              |│
       |│              |│
       |│              |│
       |└───────┘|
         [::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]
   ∧∧
   (  ,,゚) ピッ   ∧_∧   ∧_∧
   /  つ◇   ( ・∀・)ミ  (`   )
.  (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
  |            ┌‐^──────────────
  └──────│たまにはみんなと一緒に見るよ
                └───────────────

          _________
       |┌───────┐|
       |│ロ stop.      │|
       |│              |│
       |│              |│
       |│              |│
       |└───────┘|
         [::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]

                 ピッ ∧_∧
                ◇,,(∀・  ) ヤッパリ ヒトリデコソーリミルヨ
.  (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
  |                                |
  └────────────────┘ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/11(木) 15:59:59 ID:MLa3jUaS0<> テンプレ3
               ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 生 ||             ∧(゚Д゚,,) < みんなで
        //_.再   ||__           (´∀`⊂|  < ワイワイ
        i | |/      ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ〜
         | |      /  , |           (・∀・; )、 < 見るからな
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
  /    ゙  /  /   /                    ||
 | ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./   /                 /,!\
 |         |   /                   `ー-‐'´
 |         | ./
 |_____レ"
               ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 止 ||             ∧(゚Д゚,,) < やっぱり
        //, 停   ||__           (´∀`⊂|  < この体勢は
        i | |,!     ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ〜
         | |      /  , |           (・∀・; )、 < 無理があるからな
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
  /    ゙  /  /   /                    ||
 | ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./   /                 /,!\
 |         |   /                   `ー-‐'´
 |         | ./
 |_____レ
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/11(木) 16:00:38 ID:MLa3jUaS0<> テンプレ4

携帯用区切りAA

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

中略

[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!

中略

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/11(木) 16:04:41 ID:MLa3jUaS0<>  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | 僕のコレクションに含まれてるのは、ざっと挙げただけでも
 |
 | ・映画、Vシネマ、OVA、エロビデオとかの一般向けビデオ
 | ・僕が録画した(またはリアルタイムな)TV放送
 | ・裏モノ、盗撮などのおおっぴらに公開できない映像
 | ・個人が撮影した退屈な記録映像、単なるメモ
 | ・紙メディアからスキャニングによって電子化された画像
 | ・煽りや荒らしコピペのサンプル映像
 | ・意味不明、出所不明な映像の切れ端
 \___  _____________________
       |/
     ∧_∧
 _ ( ・∀・ )
 |l8|と     つ◎
  ̄ | | |
    (__)_)
       |\
 / ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | 媒体も
 | 8mmフィルム、VCR、LD、ビデオCD、DVD、‥‥などなど
 | 古今東西のあらゆるメディアを網羅してるよ。
 \_________________________
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/11(木) 16:05:33 ID:MLa3jUaS0<>    |__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | ̄ ̄ ̄|   じゃ、そろそろ楽しもうか。
   |[][][]__\______  _________
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || |       |/
    |[][][][][][][]//|| |  ∧_∧
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || | ( ・∀・ )
   |[][][][][][][][]_||/(     )
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   | | |
              (__)_) <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/11(木) 16:13:10 ID:MLa3jUaS0<> 今確認したら、ある時期から>>2>>3が入れ替わってるな。
自分も気がつかずに貼ってしまってごめん。
覚えておいて、次スレ立てることがあったら直します。 <> 瀕死の密航者(1/4)<>sage<>2010/02/11(木) 16:38:59 ID:15ehzLg80<> >>1乙です。
ブソレンよりヴィクバタ(爆)
捏造、傷描写注意

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


 蝶.野家所有の貿易船が、イギリスのリヴァプールの港を出ていく。
 船長室の扉の前のデッキから、海からの潮風に蝶々の形に整えた髭をなびかせていた蝶.野.爆.爵は、イギリスの白亜の岸壁を眺めた。
 商用でイギリスには何度も訪れているが、港を出るときはいくばくかの寂寥感を覚える。
 仕事自体は上手くいっているが、わざわざ自身が赴いた肝心の要件はなかなかはかばかしい成果を上げていない。
 行き詰ったか、と胸の内で息をついたとき、船員の一人が船長室に駆け込んできた。
 聞くとはなしに聞いていると、どうやら船倉に密航者が紛れ込んでいるらしい。
 しかもその男は、ひどい怪我をしているらしい。
 ふむ、と髭を撫で、爆.爵は様子を見に駆けていく船長らのあとを追った。

<> 瀕死の密航者(2/4)<>sage<>2010/02/11(木) 16:40:17 ID:15ehzLg80<>  その男は、ひどい血を流して船倉の片隅にうずくまっていた。
 蛍火のように淡く光る髪、褐色の肌、鍛え上げられた肉体。
 けれど不思議とアジア人には見えない。
 高い鼻梁や彫の深い顔立ちがそう見せているのだろうか。
 遠巻きに眺めながら、爆.爵は思った。
 英国人の船長が、アイルランド訛りの英語でぐったりした男に誰何する。
 だが男は答えない。
 よくは聞こえないが、近寄るな、と言っているようだった。
 見れば、左の腕がない。
 二の腕の半ばあたりからすっぱりとなくなっている。
 船長が声を荒らげた。
 男を中心に半円形になった人垣をぬって、爆.爵は前に出た。
「船長」
 船主の声に船長が振り返る。
「これほどの怪我なら暴れることもなかろう。それより船医を呼んできたまえ。ここは私が何とかしよう」
「ですが…」
「いい。私が責任を持つ」
 きっぱりした爆.爵のクイーンズイングリッシュに、船長は頷いて船員たちを仕事に戻れと追いたてた。
 2人きりになってから、爆.爵は数歩の距離で男を見下ろした。
「君は誰だ。見たところひどい怪我をしているようだが」
 問いかけると、男がわずかに身じろいだ。
「…っ、お前には、関係ない…」
 下を向いているのでくぐもってはいるが、存外しっかりした声だった。
 腕一本を失い、血だまりができるほどの出血の割に明瞭に意識を保っていられるとは、よほど強靭な精神を持っているか、肉体が頑強なのか。
<> 瀕死の密航者(3/4)<>sage<>2010/02/11(木) 16:41:02 ID:15ehzLg80<>
「返事できる、か。事情があるようだな。話せ。気に入れば助けてやる」
「…う、るさい…」
「なら海に投げ入れるまで。さ、ど・う・す・る?」
 一歩近づく。
 と、急にドクドクと動悸が早まり、同時に疲労感に襲われた。
「…なんだ、今のは」
 とっさに半歩後ずさる。
 1里ほどの距離を走ったあとのような疲労感に、爆.爵は背筋が冷たくなるのを感じた。
 船員たちが近寄ろうとしなかったのはこのためか。
 どういう仕組みかは分からないが、この男のそばに行けば、それだけでひどく体力を消耗するらしい。
 そして男の胸に浮かび上がった紋様には、見覚えがあった。
「寄るな…」
「…気が変わった。助けてやる」
 襲い来る疲労感をこらえながら、男に近寄る。
 ハンカチを取り出し、すっぱりと切れた男の腕の傷口に巻きつける。
 じんわりと白いハンカチが赤く染まる。
「……君も、死ぬぞ…」
 男がうめいた。
 実際、爆.爵の額には脂汗が浮き始めている。
 それでも、傷を縛る手は止めない。
 きゅ、と固く縛りあげてから息をつく。
「その印は、錬金術のものだろう」
 静かに訊ねると、男が弾かれたように身を起こした。
<> 瀕死の密航者(4/4)<>sage<>2010/02/11(木) 16:41:40 ID:15ehzLg80<>  警戒した表情を無視して言葉を続ける。
「それにこの疲労感。これも、錬金術の力。そうだろう?」
「…」
「君に、協力しよう。その代り、錬金術について知りたい」
「断る」
「私なら、君を生かせる。安全に匿うと約束しよう。私は錬金術についての知識が欲しい。対等な交換条件ではないか?」
「………」
「君をそのようにした者が、憎くはないのか?」
 爆.爵が問いかけた瞬間、男の表情が動いた。
 すさまじい怒気に息を呑みながら、爆.爵は彼を注視する。
「…………ヴ.ィ.ク.タ.ーだ」
 ややあってから、男が口を開いた。
「ヴ.ィ.ク.タ.ー・パ.ワ.ー.ド。俺の名だ」
 どす黒い憤怒が蒸気となって音になったようだった。
 気圧されながらも、爆.爵は胸が高鳴るのを感じた。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

スレで萌えました
バタ爺のツンデレ具合がうまく出てない…orz <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/11(木) 16:58:49 ID:QLjBF18v0<> 前スレまだ16KB分入るよ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/11(木) 17:34:04 ID:15ehzLg80<> >>15
!!!
ごめん、ほんまごめん…!
投稿するのに必死やった…orz <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/11(木) 18:39:03 ID:4KMCb4s80<> やった <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/11(木) 22:33:00 ID:RMIQsYvr0<> >>16
ドンマイ&GJ、楽しかった
この二人もずいぶん大河ロマンだよなあ <> 止まり木(1/6)<>sage<>2010/02/12(金) 04:39:25 ID:3z+in1or0<> >>1乙です。


生 昇天と合点 昇天紫緑+合点×昇天・灰先代司会者絡みのネタにつき注意

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

楽屋の中にそれぞれのテリトリーとも呼べる居場所があるのは、長年此処に通っているのだから
当たり前かも知れない。
定位置に座った樂太郎は頭の中だけで自分の周囲を着物と同じ紫色に塗ってみる。好樂はピンク、
小優座は水色。菊王は外へ出かけて行ったから、今は透明。鯛平は前の仕事が長引いているらしく、
到着にもう少し時間が掛かるとの事で、こちらも透明。
問題は、唄丸の深緑の端っこに滲んでいる灰色。否、樂太郎とて無闇に突っかかろうとは思わない。
そこまで大人気がない訳ではないので。大体翔太に妬いても仕方が無い。ゆっくりとしたペースで
話している二人の姿は、老人と孫の様なのだから。
翔太を孫呼ばわりしたら、きっと唄丸に睨まれるだろう。二人の年の差は親子程度のもの。
翔太の落ち着きのなさと童顔が悪いと、樂太郎は心の中で悪態をついた。
この二人が仲が良いのは仕方が無い。仕方がないという言い方が正しいかは分からないけれど、
唄丸は前座の頃から翔太を見ているのだから、そりゃ情も湧くだろうと樂太郎は思う。
唄丸のお茶を淹れながら――――寄席の楽屋で散々淹れて来たからか、翔太はいとも簡単に
唄丸の好みのお茶を淹れて差し出す。ありがとうと礼を述べて唄丸が湯飲みを口に運ぶのを
ちらりと横目で見ながら、俺だって淹れられるぞっと言いたくなったけれど、やっぱり
心の中だけに留めた。
自分の分のお茶を淹れながら、ふと翔太が尋ねた。
「唄丸師匠は、どうして噺家になろうと思ったんですか?」
「んー、そうだねぇ。昔ね、まだあたしが子供って位の頃に、家に流翔師匠が来たんだよ」
その話は知らないと聞き耳を立てていた樂太郎は、出てきた名前に驚いた。今は亡き流翔は翔太の
師匠だ。
翔太も流翔からこの話は聞いていなかったのだろう。目を丸くしながら食いついている。
「えっ、唄丸師匠のご両親と、うちの師匠って知り合いだったんですか?」 <> 止まり木(2/6)<>sage<>2010/02/12(金) 04:41:53 ID:3z+in1or0<> 「違うよ。話はちゃんとお聞きなさいって。あたしの家は置屋だっただろ。年に何回か、
お店の人達の娯楽で人を呼ぶ習慣があったんだよ。それで、うちのお女郎さん達の前で流翔師匠に
落語をやってもらったんだ。あんたの師匠、まだ二ツ目だったかねぇ。それを見て、あたしも
落語家になろうって決めたんだよ」
「そうだったんですか」
へぇーっと素直に感心した翔太は、不意に悪戯っぽく眼鏡の向こうの目を細める。
唄丸がその表情を問い質す前に柔らかそうな唇が言葉を紡いだ。
「ねぇ、師匠。うちの師匠の落語聴いて、これならあたしも出来るって思ったんでしょ?」
「……あたしがこの話をしたら、あなたの師匠も同じ事を言いましたよ」
嫌そうな言葉とは真逆に、柔らかく目を細めて唄丸が笑んだ。
その笑顔を向けられた翔太に対して、樂太郎が抱いた気持ちは悋気ではなかった。
ひどくささやかに、翔太が微笑んだので。
少し伏せられた視線の先にいるのが誰なのか、樂太郎には分かった。
今はもう会えない、翔太の大好きな師匠が、流翔が、きっと其処に居る。
仲の良い師弟だった。決してべたべたしたものではなく、甘やかしもせず、流翔は翔太を慈しんで
育てた。また翔太もその愛情に応えて、しっかりと生命力逞しい噺家に育った。
きっと翔太は何時かの師匠と今の自分が同じ感想を抱いた事を喜んでいる。
切なさに似た感情が胸の中を満たす。郷愁は薄い青色から始まるグラデーションを描いて、
最後にはくすんだ紺色になった。そう、まるで園樂の着物の様な――
吐き出された息に滲んだのは、きっとその色だ。師匠の不在に、樂太郎はまだ慣れてはいない。
何時か慣れる日が来るのかも分からない。乗り越えた翔太は立派だと思う。
視線を感じて顔を上げると、唄丸が樂太郎を見ていた。きっと思考が顔に出ていたのだろう。
樂太郎は知らず眉間に刻んでいた皺を解いて、ただ困った様な笑顔を浮かべて見返した。
<> 止まり木(3/6)<>sage<>2010/02/12(金) 04:42:30 ID:3z+in1or0<> 唄丸は心の内を覗き見しておきながら、それを隠す事もなくただ静かに視線を注いでくる。
慰められるよりも、それは堪えた。
悲しみの深さを知ってくれている人がいると思うと、寄りかかりたくなってしまう。ましてや唄丸は
長らく樂太郎にとって大切な人であり、師匠とはまた違った尊敬する相手でもあったのだから。
心の内で己に喝を入れ、傾ぎそうになる気持ちをしゃんと立て直す。
大丈夫と視線で頷いて見せて、樂太郎はついっと立ち上がった。余り長くは表情を
保っていられなさそうだ。
さも用事がある風を装って携帯を片手に廊下へと出た。携帯を耳に当てて歩くと、邪魔をしては
いけないと話しかけてくるスタッフもいない。
人気のなさそうな非常階段の辺りに辿り着くと、細く細く息を吐く。壁に寄りかかって苦笑いが
浮かぶままに小さく笑った。
「……駄目だなぁ」
日が経つにつれ、悲しみは遠ざかるどころか樂太郎の中に深く根を下ろした。きっと消える日は
こなくて、少しずつ当たり前のものとして馴染んでくれるのを待つしかない。
きゅっと瞼を閉じて界を遮断する。そっと近付いてくる足音を耳が拾った。
――優しいんだから、もう。
樂太郎の強がりは点で通じなかったという事だ。土台唄丸を誤魔化せるだなんて、樂太郎自身も
思っていなかったけれど。
せめて情けない姿は見せるまいと背を張って樂太郎は振り返ったけれど、ただ穏やかな表情で
立っている唄丸を見て負けたと心の中で呟いた。
叱るでも諭すでもなく、唄丸が名前を呼んだ。
「ねぇ、樂さん」
「はい」
「一門を背負って立つ大名跡を継ぐからって、感情に蓋をする事はないんじゃないのかって、
あたしは思うんですよ」
「でも、弱いのは嫌です」
「感情を殺すのが強い訳じゃないでしょ。誰彼構わず見せろって言ってるんじゃない。あんたには
見せても構わない人間がいるでしょ。好樂さんにしろ、他の兄さんにしろ」
「そうですね……唄丸師匠もですか?」
「はい?」
「師匠も、ですか」 <> 止まり木(4/6)<><>2010/02/12(金) 04:43:13 ID:3z+in1or0<>
子供じみた口ぶりに自分でも笑うしかない。こんな甘えを見せて尚、まだ言葉を欲しがる
己の弱さはただただ苦い。
唄丸は一度あからさまな嘆息を静かな床の上に落とした。叱られるだろうかと身構えた樂太郎の
強張りを、いかにも唄丸らしい言い草の優しい声が解す。
「違うと思ってるのかい?」
「……思ってません」
「ならそれでいいじゃないか。あんたが今悲しいのは、それだけ園樂さんを慕っていたからで、
園樂さんがあんたに向けた愛情をちゃんと受け取っていた証拠だろ?」
愛情という単語に胸が詰まる。
尊敬している、なんて言葉だけでは言い表せない。父親の様に思っていたあの大きな背中と
豪快な笑い声が耳に返って、樂太郎は俯きながら咽喉から掠れた声を絞り出す。
「だったら、少し甘えさせて下さい」
「好きにおしよ」
背を丸めて、唄丸の細い肩に額を預けて、樂太郎はぎゅっと目を閉じた。
頬を濡らすものはない。涙は師匠の棺の中に入れてきた。
頭の片隅を、先刻の翔太が過ぎった。翔太は泣いただろうか。それとも泣けなかっただろうか。
あの伏せた睫毛が濡れたのを、誰かが見ていただろうか。
誰しもが通る道といえばその通りで、師匠を直に送れなかった弟子もいる。先代の子さんの葬儀の時、壇

氏は家に足を向けなかったと聞いている。師匠を安置した家の横に建てられた剣道場で、
一晩壇氏を待っていたのは弟弟子の壱羽。ついぞ来なかった兄弟子に、彼はどんな気持ちを
抱いただろうか。憤ったのか、あの人らいしと笑ったのか。破門されているからと、それを押してまで
駆けつけなかった壇氏を薄情とは思わない。壇氏が子さんを惜しまなかった筈がない。
決して背を抱いたりしない唄丸に妙な安堵をしながら、樂太郎は心の中だけで泣いた。


着信を告げた携帯を三コール目に取ると、電話の主はいきなりこう聞いた。今日、どっか寄る? と。
名乗らなくても少し高いその声で分かる相手に、性急にそんな質問をされた経験はついぞなく、
士の輔はかなり泡を食った。特に予定はなかったけれど、寄るよと返してお互いに行き着けにしている
バーの名前を告げた。 <> 止まり木(5/6)<>sage<>2010/02/12(金) 04:44:24 ID:3z+in1or0<> 待ち合わせを決めた訳ではないが、落ち合う様にして顔を合わせたバーのカウンターに隣同士で
腰をかけたものの、翔太はあんな電話を寄越したとも思えない呑気さでウォッカベースのカクテルに
口を付けている。
何か良くない事でも起こったかと、会うまで揉んでいた気を返して欲しくなりつつも、言わないのは
それなりに理由があるからだとも思い直す。翔太が理不尽な真似をしない事を、士の輔はこれまでの
長くて深い付き合いでよく知っている。
焦れる気持ちを抑えつつも何度か横顔を伺っていると、ついに視線がぶつかって、士の輔は思わず
ぱっと逸らしてしまう。これじゃぁ盗み見していたのがバレバレだと、うかつに顕著な反応をした
自分を責めかけたけれど、それも翔太の忍び笑いで気勢を削がれてしまった。
「翔ちゃん」
「ごめん、ごめん。そっか、そうだよね。あんたの事だし、あんな電話貰ったら気にして
考えてくれちゃうよね」
物事を考え込まずにはいられない士の輔の性質を簡単な言葉で表して、翔太はもう一度ごめんねと
口にした。謝られてしまえば強くも出られず、別にいいけどと同じウォッカベースのカクテルを煽る。
「嫌な事があったんじゃないんだよ。……唄丸師匠にね、どうして噺家になったんですかって
聞いたんだよ」
「うん」
「そしたらさぁ、子供の頃にうちの師匠を見たから、だって師匠が言うのね。それで
『これならあたしも出来るって思ったんでしょ?』って言ったら、『あなたの師匠も同じ事を
言いましたよ』って」
小さな声で、まるで宝物の在り処を告白する様な口調で、翔太は言った。
嬉しさと切なさの混じった表情に士の輔は翔太を抱き締めてやりたい衝動に駆られたけれど、
勿論この場でそんな暴挙に及ぶ事も出来ずに、持ちうる限りの優しさを総動員した声で返す。
「そっか」
「うん。そんだけなんだけどね。……帰り道に思い出してたら、何か士のさんに
会いたくなっちゃって。悪いね、忙しいのに」
珍しいまでの直球な素直さを晒した翔太に、その心の中で流翔の存在がどれだけ大きいのかを、
また再確認する。
敵わないと思う気持ちに悔しさは滲まない。そんな不遜さは持ち合わせていなかった。 <> 止まり木(6/6)<>sage<>2010/02/12(金) 04:47:50 ID:it3ON6Qs0<> 士の輔にとって稀有だと思う翔太の感性を、寄席や伝統といった縛りですり減らさせる事なく、
また囲い込んでしまう事もなく深い愛情の元の放任で育て上げた流翔に、尊敬の念を抱くだけだ。
明るく軽いキャラクターだけでなく、計算高くてしたたかで、落語に対して何処までも貪欲に
挑んでいく、そんな翔太だからこそ惚れ込んだのだから。
カウンターの上に放り出していた煙草の赤い箱を取ると、中から一本抜き出して火を点ける。
一口吸ってから、何も気付いていない風に明るい口調で言った。
「指名してくれて、俺は嬉しいけどな」
「あんた指名すると、後々高くつきそうで嫌なんだよなぁ」
わざと顔を顰めた翔太に、そんな事ないだろと言い返す。
どれだけ忙しくても、翔太に求められればこうして来てしまうのだから。
分かっている筈の横顔が小憎らしくて、少しいじめてみようかと揶揄ってみる。
「翔ちゃん、他にいないもんな」
「何が?」
「こんな風に甘えられる相手。……って、俺の自惚れ?」
「勝手に自惚れとけばいいじゃん」
先刻の素直さを何処に仕舞いこんだのか、つっけんどんに言い放たれる。否定をしなかったのが
本心だというのは、もう分かっているから気分を害する事もない。
ちらりとこちらを伺った翔太の瞳に、気持ちを探ろうとする気配を感じて、士の輔は笑った。
妙な所で弱気になる翔太が可愛い。
「じゃぁ、勝手にそう思い込んどくわ」
「……うん」
カウンターの下で互いの手の甲が触れる。それ以上は触れないけれど、離れない。じんわりと伝わる
温もりが言葉にされない翔太の答えだ。
だから士の輔は自惚れていられる。お互いが唯一の相手だと。
遅くなれば明日に響くと分かっていながら、士の輔は三杯目のカクテルを注文した。
タイミグを合わせて飲み干したグラスを掲げて、翔太も同じものを頼む。
翔ちゃんも分かってるとは思うけど、と前置きを口にしようとして、動きかけた舌を止める。
恥かしいのでもなく、言いづらいのでもなく、必要がないと思ったからだ。 <> 止まり木(7/6)<>sage<>2010/02/12(金) 04:48:30 ID:it3ON6Qs0<> ふと交差した視線が呼んだのはささやかな笑み。わざわざ声にしなくても気持ちは添っている。
今士の輔が翔太の隣にいるのが、その証拠だ。
――俺にとっても、他にいないよ。
飲み込んだ言葉の代わりに、空になったグラスの中で氷がカランと音を立てた。




□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
途中ageてしまった件と、ナンバリングミス、すみませんでした。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/12(金) 11:08:33 ID:j7iPGRBi0<> >>19
GJ!
めっちゃツボでした…
朝から萌えをありがとうございます!! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/12(金) 13:29:41 ID:5/+WcmG0O<> まとめ読んだんですが、てるたいシリーズの続きが超きになる…
どなたかこの作者さんが作ったというサイト、ご存知ないですか?
ヒントだけでも是非!宜しくお願いいたします <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/12(金) 21:40:06 ID:b170dQV90<> >>19
GJ!!
ここが電車の中じゃなかったら泣く <> R.u.i.n.a 廃.都.の.物.語 メ.ロ.ダ.ー.ク×エ.メ.ク(0/3)<>sage<>2010/02/14(日) 15:21:39 ID:crh7N8V10<> 一応以前投下したものの続きです。
バレンタイン小品

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | > PLAY.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ヒトリデコソーリミルヨ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ <> R.u.i.n.a 廃.都.の.物.語 メ.ロ.ダ.ー.ク×エ.メ.ク(1/3)<>sage<>2010/02/14(日) 15:22:02 ID:crh7N8V10<> その日、神殿の厨房は朝から甘い匂いに包まれていた。
その匂いに起こされるようにして寝床から離れたエメクは、
生来の低血圧によりあまり働かない頭のまま
顔を洗い、身支度を整えた。
そして最後に胸もとの紐を結んでいる最中……
彼は恐ろしい可能性に気がついたのだった。

「…………!!!」

ただでさえ白い顔が一気に蒼白になる。
彼は慌てて、普段は厳重にしまってある神器をひっつかむと
厨房に向かって飛び出していった。

「メロダーク!!」
「ああ、おはよう、エメク」

悪夢は現実のものとなった。
厨房に立っていたのはエプロンを着けた彼の信者であり、
その手には甘い匂いを放つ鍋が握られていた。
以前は表情に乏しかった男は、今は穏やかに笑って朝の挨拶をしてくれる。
元の造作がいいのだから、その様子を見ると世の女性は羨ましがるのかもしれない。
確かに顔も性格も悪いところなどひとつもない。
ちょっと融通は利かないし、ちょっと脱ぎ癖もあるけれども。
しかしそんな彼にも致命的な欠点があることを
エメクや彼の仲間たちは身を以って知っている。

「う、うん、おはよう。いい匂いだね?」

半笑いで、オールを手に持ったままエメクは言った。
言いながら、視線は素早く厨房の中をチェックしている。
どうやらまだ不定形生物の類は発生していないということが確認できて、
エメクは心中で胸をなでおろした。 <> R.u.i.n.a 廃.都.の.物.語 メ.ロ.ダ.ー.ク×エ.メ.ク(2/3)<>sage<>2010/02/14(日) 15:22:33 ID:crh7N8V10<> 鍋から漂ってくるのもごく普通のチョコレートの匂いだ。
どうやらまだ湯煎にかけただけのところだったらしい。

「買出しで港に行ったら、たまたま入荷されてたんだ。
 お前もエンダも好きだったからと思って」

……それに今日はバレンタインだからな、と少しはにかんで付け加える姿は
本当に悔しいくらいの男前だ。
エメクの好きなものを買ってきてこうして振舞おうとしてくれる心遣いもありがたい。
しかし、そのチョコレートは頼むからそのまま食べさせてくれと願うエメクの心は
多分一生届くことはないのだろう。

「ええと、じゃあさ、僕にも手伝わせてよ!二人でやった方がはかどるし」
「……気持ちはありがたいが、今日はこういう日だからな。
 私が作ったものをエメクに贈りたいと思う」

エメクの決死の提案はにべもなく却下された。
しかしそこで諦める彼ではない。何しろここで引き下がってしまったら、
携えてきた神器が本当に必要になってしまう事態になるのが目に見えている。
あの皇帝をも倒した彼らに、本当なら怖いものなどあるはずはないのだが
皿からニョキニョキと立ち上がってくるブラックプリンや、
鍋からにょろにょろと触手を伸ばしてくるイドや、その他なんだか良く分からないものたちは
ビジュアル的になかなか厳しいものがある。
神殿なのに魔物が沸くことがあるなんて、噂になったら困るし。

「それならさ、僕だってメロダークにチョコレート食べてもらいたいよ。
 ね、二人で作って、あとで交換しよう?」
「…………」

頭ひとつ分低い自らの神からそんな風に言われて、否定するすべをメロダークは持たなかった。
少し照れた様子でこっくりと頷く彼に、エメクは安堵したが
今しがた言った事は単にメロダークを説得するための方便でもなく、9割がたは本心なのだった。 <> R.u.i.n.a 廃.都.の.物.語 メ.ロ.ダ.ー.ク×エ.メ.ク(3/3)<>sage<>2010/02/14(日) 15:23:16 ID:crh7N8V10<> それをこんな風にいいわけのように使ってしまったことに、彼は少し良心の呵責を感じた。

「ケーキにしようと思っていたんだが。レシピはひばり亭から借りてきた」
「うん、難しそうだけど、この通りにやれば大丈夫だよね。……多分」
「そうだな」

――そして、いくつかの困難はあったもののケーキは概ね問題なく完成した。
この「概ね問題なく」という様子が示すエメクの苦難と奇跡は余人の知るところではない。
途中で様子を見に来たアダは、仲睦まじく厨房に並んでいる若夫婦を見て目を細めた
(彼女はそこの所をあまり気にしていないらしい)。
デコレーションは、甘い匂いを嗅ぎつけてきたエンダとエメクが協力して
二人で大きなハートマークを描き、
結局交換などするまでもなく4人で仲良くお茶の時間に食べることが出来たのだった。
相当大きなホールケーキだったのだが、2分の1はエンダの口の中におさまっていた。

メロダークは、普段はなぜか敬遠されてしまう己の料理が
エメクの協力の下と言えど、他人に喜んで食べてもらえたということに深い感動を覚えたらしく
「小料理屋を開く」という夢をより強固なものにしたようだった。
そしてやはりいつかのような、雨に濡れた野良犬の瞳をして言う。

「私が店を開くことになったら、ここは出て行かなければならないのだろうな」

確かに店を建ててしまえば、「身を置く所がない」という
ふれこみだった彼のいる理由はなくなってしまう。

「……僕は、メロダークがずっといてくれたら嬉しいけど」

この言葉が彼に対する十分な抑止力であることを知って、エメクは答えた。
だからなんで、本当に思っていることなのに、こんなあざとい形でしか伝えられないんだろう。
エメクは本当にそれを歯がゆく思いながらも
とりあえずは自らの安全のために、そしてホルムの人々の安全のために、
彼の夢を阻止し続けることを固く誓ったのだった。 <> R.u.i.n.a 廃.都.の.物.語 メ.ロ.ダ.ー.ク×エ.メ.ク おわり<>sage<>2010/02/14(日) 15:24:25 ID:crh7N8V10<>  ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ この男は放し飼いにすると危険なので、
 | |                | |     ピッ   (・∀・ ) エメクがきちんと手綱を引いとくべき。
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
<> バレンタインデイ・パニック 前編 0/4<>sage<>2010/02/14(日) 16:04:27 ID:aqT2co860<>               ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 生 ||             ∧(゚Д゚,,) < 半ナマ・ドラマ半町から邑鮫さんと桜衣くん中心でバレンタインの話
        //_.再   ||__           (´∀`⊂|  < 桜衣が邑鮫さんにドキドキするけどほぼオールキャラでカプ色は薄め
        i | |/      ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ〜
         | |      /  , |           (・∀・; )、< 若干他カプ・女性陣等の絡みもあるので苦手な方はご注意
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
  /    ゙  /  /   /                    ||
 | ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./   /                 /,!\
 |         |   /                   `ー-‐'´
 |         | ./
 |_____レ" <> バレンタインデイ・パニック 前編 1/4<>sage<>2010/02/14(日) 16:05:15 ID:aqT2co860<> 冬もそろそろ終わりに近づき暖かな日差しが窓から差し込む、今日は2月の14日。
突如として陣楠署刑事課強行犯係を襲った前代未聞の事件はまさにその日の朝、始まりを告げた。
「…おはよう」
「あ、邑鮫さん!おはようございます」
背後から掛けられた聞き慣れた声に桜衣太市朗は振り返り、笑顔でいつも通りの挨拶をした。
…いつも通りの、はずだった。
直後、桜衣の顔がぎょっとした表情のまま固まったのに隣の席の瑞野がいち早く気づく。
「…どしたの?桜衣くん」
そう言いながら振り返った瑞野がこれまた彼女には珍しく明らかに一瞬怯んだ顔をした。
ようやく異様な雰囲気に気づいた残りのメンバーもいっせいに桜衣のデスク周辺へと視線を集める。
そこには。
「む…邑鮫、さん…?」
何とも形容しがたいどんよりとした雰囲気を纏った邑鮫が無言ですうっとつっ立っていた。
心なしか、邑鮫の周囲だけ空気の温度が数度は低いような気さえする。
普段ならその男ぶりをいっそう上げている180cm超の長身と端正な顔が今はやたらと不気味に思えるほどだ。
そもそも邑鮫のデスクには行こうと思えば何も自分の後ろを通らずとも行けるはずなのだが、
何故今自分の背後に立っているのだろうかと僅かに疑問を感じながらも桜衣は邑鮫に問おうとした。
「ど…、どうしたんで」
「桜衣」
「はいっ!」
直属の上司に低く名前を呼ばれ、条件反射的に背筋がぴんと伸びる。
これはひょっとしなくても原因は自分にあるのだろうか。自分は何かそんなにいけないことでもしたのだろうか。
今のところ思い当たらない。思い当たらないこと自体咎められることなのかもしれない。
とにかく厳しく指導されることはあってもここまで負の感情を露にしている邑鮫などついぞ見た覚えがなかった。
まずは原因を聞いて、反省して、改められるようなら改めて、ああその前に素直に謝って、それから、それから。
頭の中が軽いパニックに陥り、仕舞いにはどうしていいものやらだんだんわからなくなってくる。
「…これ」
「すっ…すみませんでした!」 <> バレンタインデイ・パニック 前編 2/4<>sage<>2010/02/14(日) 16:05:59 ID:aqT2co860<> 「……………」
「…あっ」
頭上から降り注ぐ無言の圧力に、しまったいきなり大声で謝るのはやはり逆効果だったか早まったと
即座に我に返り視線を上げて、桜衣は邑鮫の表情を窺おうとした。
――――が、その瞬間。
邑鮫の顔が視界に入る前に、ガサッという音がして目の前に紙袋が突き出された。
どぎつくもなく淡すぎることもない可愛らしいピンク色を基調に、全面ハートを散りばめたファンシーなそれは
どう見ても邑鮫が持つには少々、いや大いに違和感のある代物だった。
「………へ?」
思わず間抜けな声が出た。
固まったままの桜衣に構わず、邑鮫はその袋を手の動きと視線だけで押し付けるようにもう一度突き出す。
「…えっと…」
これは果たしてすんなり受け取るべきだろうか、否か。冷や汗が一筋、つうっと首筋を伝って落ちた。
助けを求めるように、室内を見回す。固唾を飲んで見守っていたらしい班員たちが視界に入った。
尤も隣の瑞野は先程の邑鮫を間近で見た衝撃から完全には抜け切れていないようだったし、
背後の素田と黒樹を見れば、これまた揃って二人でぽかんと口を開け、邑鮫の方ばかりを物珍しげに見やっている。
最後の頼みの綱とばかりに奥に座る安曇へ目をやった。
安曇も目を丸くしてはいたものの、桜衣の視線と言わんとしているところには流石に気づいてくれたようだった。
「あー…まあその。とりあえず一旦座ったらどうだ、邑鮫」
そう安曇が呼びかけると邑鮫が初めて桜衣から視線を外してそちらを見やる。
「何があったか知らんが落ち着け、な」
「…はい。ですが」
言いよどむ邑鮫に安曇が首をかしげた。
「それを桜衣に渡したいのか?」
「……………―――はい」
えらく長い間があったのがどうにも気になるところだが。
とりあえずは安曇が空気を変えてくれたことに安堵して桜衣は再度邑鮫に話しかけようと試みる。
「あの、すみません邑鮫さん…それ…何ですか?」
邑鮫が桜衣に視線を戻して無言で数秒見つめた。その迫力に竦みそうになりながらも今度はしっかりと見つめ返す。
すると邑鮫は目を閉じて大きく息を吸い込み溜息混じりに吐き出して、簡潔に一言だけを口にした。
「クッキーだ」 <> バレンタインデイ・パニック 前編 3/4<>sage<>2010/02/14(日) 16:07:14 ID:aqT2co860<> 「クッキー!?」
意外というか何というか。予想外の答えにどっと全身の力が抜けた。
クッキーひとつで、あんな、取調室でも滅多にないようなプレッシャーをかけられていたのだろうか。
そもそも何故邑鮫が自分にクッキーを渡そうとするような状況に陥ったのだろうか。
安心すると同時に新たな疑問が一気にあふれ出す。
「…とにかく受け取ってくれ」
「あ…はいっ」
桜衣が慌てて手を出し紙袋を受け取ると、邑鮫は自分の席へ戻っていった。
邑鮫が席につくのを確認して袋の口に貼ってあるシール――これまた可愛らしく赤いハート形のものだが――を
なるべく破らないように、そろそろと開封する。中からふわりといい匂いがした。
袋の中を覗き込んだ。そこには大きさも形もとりどりの、茶色い焼き菓子が所狭しと詰め込まれていた。
「これ、チョコレートクッキーですか?」
そう桜衣が訊くとひとつ置いた隣の席からワンテンポ遅れて「…ああ」と返事が返ってくる。
ひょいと後ろから誰かが手元を覗き込む気配がした。
「っていうかこれ、ひょっとして手作りじゃない?」
「素田さん!」
流石というか何というか、こういうことに関して素田の嗅覚は警察犬にも引けを取らない。
「え、素田さんそれマジっすか?」
向かいの席から、素田の相方の黒樹が驚いた顔をして尋ねた。
「ですよね?邑鮫さん」
素田の確認の問いに、邑鮫はあまり嬉しくなさそうな顔をしてもうひとつ「ああ」と呟いた。
クッキー。手作り。チョコレート味。ハートの袋とシール付き。
しかも邑鮫からの手渡しとなればさっぱり意味するところがわからない。一体全体何の謎かけだというのだろう。
本人に直接訊ける雰囲気でも到底なく、すわ事件は迷宮入りかと思えたその時。
「…あれ?」
焼き菓子の山の中に小さなカードが埋もれているのを見つけた。
指を伸ばしてその端を摘み、焼き菓子たちの圧迫から救出する。可愛らしくも上品な厚紙のカードだった。
表にはどうやら色鉛筆で書かれたと思しき「さくらいさんへ」の文字。
(…俺?)
茶色の粉を軽くはらってくるりと紙を裏返した。
そこには同じ色と筆跡でこう書かれていた。―――――「はなより」と。 <> バレンタインデイ・パニック 前編 4/4<>sage<>2010/02/14(日) 16:09:13 ID:aqT2co860<> 「………あ…っ!」
予想もしなかった名前に桜衣が思わず言葉を失ったその瞬間「おはようございます」と甘い声が室内に響いた。
振り返ると、新聞記者の耶麻口由希子が強行犯係の入り口に立っていた。
「半町、皆さん、おはようございます。今お時間ありますか?」
にこやかに彼女は続けた。今よりもっと新米だった頃、この友好的な笑顔に騙されかけたことも少なくない。
「お時間って…朝から何の用?」
瑞野が苛立ちを隠さない声で応対する。
正反対のタイプな瑞野と由希子は普段から衝突が多いが傍から見ればそれでうまく回っているような気もする。
なんだかんだで相性はいいのだろうと思う。
「何って…いいもの持ってきたんですけど、どうかなって」
「いいもの?」
「これですよ。ほら、チョコレート」
「チョコレートぉ?」
安曇が怪訝そうに「何でまた」と続けた。由希子は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻って言った。
「やだなあ半町、今日はバレンタインじゃないですか」
「あ」
「あっ」
素田と黒樹が同時に反応を返した。瞬間、桜衣の脳内で全ての糸が繋がった。
「ああ―――!」








[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!

思った以上に長くなって10レス超過しそうだったので残りはまた後で。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/14(日) 19:23:16 ID:YbAQdJJm0<> V.Dネタ美味しいです
ありがとう>>29姐さん
>>34姐さん続きwktkして待ってます!
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/14(日) 22:27:47 ID:Z5RWk7fb0<> >>34
村と桜ネタ美味しいですありがとう続き待ってる! <> バレンタインデイ・パニック 後編 1/6<>sage<>2010/02/14(日) 22:34:58 ID:aqT2co860<> |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ サイカイシマース!

「つまりこういうことですか」
素田がわかりやすくしかつめらしい表情を作って言った。
「邑鮫さんの娘さんが、桜衣にチョコレートを作ってあげたいって言ったのが全ての始まりだと」
邑鮫が彼に似つかわしくない仏頂面で小さく頷く。
男前が台無しだ、と桜衣は心の隅で思ったがこれ以上彼の機嫌を損ねたくないので黙っていることにした。
確かに先日邑鮫の自宅に招いてもらって美味しい夕食をご馳走になった覚えはある。
そこで邑鮫の娘、葉奈と仲良くなったことも実に記憶に新しい。しかしそれらが全て事実だとしても。
それが不機嫌の原因だとはまさか夢にも思わなかった。そんな素振り、あの時は少しも見せなかったのに。
「…初めてなんだ」
深い溜息を吐いて邑鮫が重い口を開いた。
「誰かにチョコレートをあげたいなんて言ったのは」
「そう…でしょうね」
むしろ早熟なくらいだと思う。最近の幼稚園児はこっちが思う以上にませているのかもしれない。
とにもかくにも、火傷の危険もあるチョコレートの自主製作はまだ少し早いというか危ないということで、
妥協案としてクッキーが提案されたという経緯らしい。もちろん母親の監修付きだ。
しかし仕事の忙しさゆえに近頃バレンタインデーなどというものにはとんと縁がないのに加えて
そんな変化球でこられては咄嗟に気づくはずもないわけで。おまけに配達係は当の邑鮫ときている。
「まあその初めての相手が桜衣じゃ不安にもなりますよね、パパとしては」
「ちょっ…どういう意味ですか!」
ははは、と他人事の顔をして笑う素田と黒樹を尻目に安曇がうんうんと頷いている。
きっと娘を持つ父親として同じような経験をしたことがあるに違いない。
「だってさあ、未来の息子になるかもしれないわけでしょ?」
「息子…」
邑鮫の周りの温度がまたもやがくんと下がった気がして、桜衣は慌てて否定にかかった。
「そっ、そんなわけないでしょ素田さん!」
「そんなわけないってどうして言えるんだ桜衣」
「う…」
まさかの邑鮫からの横槍に怯む。まるで「うちの娘じゃ不満か」とでも言われているようで。
(どうしろって言うんですかー!) <> バレンタインデイ・パニック 後編 2/6<>sage<>2010/02/14(日) 22:37:05 ID:aqT2co860<> そう思ったがこれも口には出さないでおく。正直、こんなに面倒な邑鮫にはお目にかかったことがない。
触らぬ神に祟りなしだ。代わりに軽く「すみません」と頭を下げた。
「まあまあ皆さん、これでも食べて落ち着いて下さい」
助け舟…のつもりは本人にはあまり無いだろうが、横から由希子がチョコレートの詰まった箱を指で示す。
「貴女まだいたの?」
すかさず瑞野が眉を吊り上げた。
「心配しなくても、女性だからって麻穂さんだけ仲間はずれにしたりしませんよ?はい」
にっこりと笑って由希子が上物のチョコレートをひとつ摘み、瑞野に差し出した。
「いっ…要らないわよ!何で貴女からチョコ貰わなきゃいけないの、バレンタインってそういう日じゃないでしょうが」
「あれ?案外麻穂さんてそういうこと気にするんですね。好きな男と一対一なんて、いまどきそんなの時代遅れですよ」
「…っ、はいはい貰うわよ!貰えばいいんでしょ!」
瑞野がチョコレートを受け取って豪快に口に放り込んだ。今日は由希子が一枚上手の日のようだ。
「皆さんもどうぞ」
「あ、いただきます」
「ありがとう」
安曇が礼を述べて手を伸ばそうとすると由希子がそれを制止した。
「あ、ダメです。半町はこっち」
そう言いながら洒落た包装紙にくるまれた別の小さな包みを差し出す。素田がそれを見て不満げな声を上げた。
「え、半町だけ特別?」
「ふふっ」
微笑んで小さくウィンクをする由希子と若干押され気味な安曇。結局いつものパターンなわけだ。
入り口の方からまた陽気な声がした。
「おー、何だか賑やかだねえ」
その声を聞いて安曇が「またか」といった顔をした。苦笑いのような、待ち望んでいたかのようなそんな微妙な表情だ。
安曇班の面々も、最早その声を聞き慣れすぎていて見なくとも誰が来たかはっきりわかる。
案の定、交通課の早見がそこに立っていた。
「お、安曇くんイイもの持ってるじゃないの。一口ちょうだい」
「あ、早見さんはこっちをどうぞ」
さり気なく全員用の方を勧める由希子の笑顔をものともせず、早見は電光石火の速さで安曇の手から包みを奪い取った。
「こら、早見」
口ではそう言うものの、本気で咎める気のない声だ。また早見の好きにさせる気だろうと桜衣は思った。 <> バレンタインデイ・パニック 後編 3/6<>sage<>2010/02/14(日) 22:39:34 ID:aqT2co860<> 「安曇くんの本命チョコもーらい」
「もう、早見さんてば!」
目の前でどたばたが繰り広げられる中、由希子に貰ったチョコレートが舌の上で溶けるのを感じながら、
桜衣はふと気になって邑鮫のデスクに目をやった。
どんよりとした雰囲気は既に消え、その代わりに少しばかり寂しそうにしている上司の横顔が目に映った。
「…邑鮫さ」
何を言えばいいのかわからなかったが、とにかく何か声をかけようとしたその時。
「こらお前ら、うるさいぞ!静かにしろ!」
こちらは不本意ながら聞き慣れてしまった怒声が響く。先程の早見の台詞ではないが今日はやたらと賑やかだ。
千客万来とはこのことかもしれない。尤も自分の所属する刑事課の課長を客と呼ぶならば、だが。
「あ、課長もおひとついかがですか?」
早見を追いかけることに疲れたのか、由希子が兼子課長にもチョコレートを勧めようとした瞬間。
『陣楠署管内で障害事件発生。被疑者は○○地区を逃走中。該当署員は直ちに現場へ急行せよ。繰り返す――』
放送が入り、全員の動きがぴたりと止まった。
「よし、みんな行くぞ」
一拍置いて安曇が号令をかける。
急いで自分のコートを掴み部屋を飛び出ようとしたその時、目に入った邑鮫の顔はもう刑事の顔になっていた。



件の事件は何とか当日中に解決を見、定時を少々オーバーしたものの今日は早めに帰れることと相成った。
今夜の当直は素田と黒樹だ。関係のない桜衣は待機寮への帰り支度を始める。
「桜衣、一緒に出るか?」
背後からそんな声がかけられた。見ると邑鮫が入り口の近くに立ってこちらを見ていた。
「あ、はいっ」
慌てて支度を済ませ、駆け出そうとしてデスクの上に鎮座しているイレギュラーの存在を思い出す。
(あぶないあぶない)
その可愛らしい贈り物を手に、桜衣は入り口へと足を向けた。 <> バレンタインデイ・パニック 後編 4/6<>sage<>2010/02/14(日) 22:42:14 ID:aqT2co860<> 少々歩きはするものの、寮は基本的に署から近いところにある。
それでも多少は邑鮫と話す時間が持てたことで心底ほっとしている自分がいることに桜衣は気づいていた。
道すがら、今日の事件の話を始めとして他にも他愛のない話が続いている。
(…よかった、すっかりいつもの邑鮫さんだ)
思い返してもつくづく今朝の邑鮫は強烈としか言いようがなかった。
葉奈の淡い好意は素直に嬉しいが、出来ればこの先ああいうことはないように願いたいものだ。
(葉奈ちゃんの彼氏や結婚相手は大変だよな…)
多分自分には直接関係のない話だろうけれどと会話の合間合間にちらりとそんなことを考える。
(でも、女の子は父親に似るっていうからきっとすごい美人に育つんだろうな)
ついでにそんなことも考えて、想像しながら一人でこっそり笑ってしまった。
そういえば葉奈から貰ったクッキーは結局一口も口に出来ていない。自室に戻ったらありがたくいただこう。
そろそろ寮への分かれ道だ。邑鮫に別れを告げようと隣を見た。
「…あれ?」
先程まで喋っていたはずの相手がそこにいない。振り返ると、邑鮫は数歩後ろでふいと足を止めていた。
「邑鮫さん、どうかしました?」
「…桜衣」
「はい」
「食べたか?」
「はい?」
邑鮫はうつむき加減で言いにくそうな表情を浮かべ、小さく「クッキー」と呟いた。
「あ、ああ…すみません、結局色々あって、まだ。でも必ずいただきますから」
「そう、か」
「じゃあ邑鮫さん、俺この辺で…葉奈ちゃんにありがとうございますって伝えておいて下さい」
「あ」
その一声にまだ何か言いたそうな響きがあった。気になって歩き出そうとしていた靴をまたその場にとどめた。
「…邑鮫さん…?」
「桜衣、悪いんだが」
「え?」
まさか今更娘の作ったものを返してくれとは言わないだろうが、今朝の今では何だろうと一瞬身構えてしまう。
そんな桜衣の耳に届いてきたのは意外な言葉だった。 <> バレンタインデイ・パニック 後編 5/6<>sage<>2010/02/14(日) 22:44:36 ID:aqT2co860<> 「そのクッキー、今ここで食べてくれ」
「え…」
咄嗟に邑鮫の意図が掴めず困惑する。だけれど、その次の台詞にようやく全てが腑に落ちた。
「食べて、その…感想を言ってやってくれないか」
そうしたらきっととても喜ぶから、と。
「………」
口元に手をやってぼそぼそと遠慮がちにそう言う上司の姿はひどく新鮮で、それから何故だか妙に可愛らしくて。
ああ今日はいい日だ、と桜衣はぼんやり思った。
普段滅多に拝むことの出来ない邑鮫の知られざる表情を二つも見ることが出来たのだから。
自分よりもずっと大人で冷静で、いつだって一番敬愛してやまない素晴らしい上司の意外すぎる一面。
口元に自然と笑みが零れた。まっすぐ顔を上げて邑鮫を見つめた。
きっと自分しか知らないだろう邑鮫の今の表情をしっかり目に焼き付けておこう。…そう思った。
「わかりました、いただきます」
そう告げて手に持ったままだった紙袋の封を開ける。
時間が経っても食欲をそそる焼き菓子特有の甘い匂いがその口からふわりと優しくあふれた。
大きすぎもせず小さすぎもしない、その中の一枚を選んで手に取り口元へ運ぶ。
自分の手元、口元を黙ってじっと見つめている邑鮫に思わずくすりと笑ってしまいそうなのをぐっと堪えながら。
ゆっくりと噛み砕くと、あの甘い匂いが口の中いっぱいにそのままの味で広がった。
「……美味しいです」
嘘偽りのない言葉だった。
「本当か?」
邑鮫がこちらを見つめて真剣な眼差しで問うてくる。
「はい」
「本当に美味しいんだな?」
「ほんとです。こんなことで嘘言いませんよ、俺」
「…ああ」
それでもまだ不安げにしている邑鮫の顔を上目で見上げて桜衣はにこりと微笑んだ。
「嘘だと思うなら邑鮫さんも食べてあげて下さい、ほら」 <> バレンタインデイ・パニック 後編 6/6<>sage<>2010/02/14(日) 22:47:51 ID:aqT2co860<> 可愛らしい袋からもう一枚手頃なサイズを取り出して邑鮫にすいと差し出す。
「…いやしかしだな、それはお前が貰ったものなわけで」
「葉奈ちゃんも大好きなパパなら文句なんか言わないですよ。それに貰った俺がいいって言ってるんですから」
躊躇いがちにぶつぶつと呟くその口元へ甘いクッキーをより近づけながら、そう告げた。
ふと、それまで色んなところを頼りなげに泳いでいた邑鮫の視線が急にこちらを向いた。
「…っ」
あまりの近さに一瞬息を飲む。同時にぐい、と。寄せた手首を掴まれ、引かれた。
「むっ、邑鮫さん!?」
予想だにしない行動に思わず驚いた心臓が大きく跳ねた。
――気づけば、先程まで自分の手の中にあった菓子は既に邑鮫の口元へ移動していた。
カリッ、と音を立てて邑鮫の歯がそれを食む。
「美味しい」
そんな言葉が小さく聞こえた。
「そ…」
そうでしょう、と言いたかったが残念ながら未だ激しい動悸は治まらないまま。
どくん、どくんと桜衣の心臓が大きく音を立てて脈打つ。
(…やっぱり今日の邑鮫さん、ちょっとおかしいわ)
言葉を返す代わりに心の中で、そう呟いた。
そしておそらくは、自分自身も。気づかないうちに少しばかり感化されていたのかもしれない。
掴まれた手首はまだ少し、熱を持ったまま痺れていた。
(でも)
こんなのも、たまには悪くない。そう思った。
「桜衣」
静かに名前を呼ばれた。桜衣が顔を上げると、そこにはいつも通りの冷静な顔があった。
ただその目はいつもよりも少々多めに細められ。
「…ありがとう」
その柔らかい声が嬉しくて。
つられてもう一度、いつもより少し多めに。ふわりと甘く、チョコレート味の焼き菓子のように。
心の底から、笑ってみせた。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/14(日) 22:49:19 ID:aqT2co860<>              ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 止 ||             ∧(゚Д゚,,) < 邑桜萌えが止まらずアウトプットしてみたけどカプぽくなくてすいません
        //, 停   ||__           (´∀`⊂|  < でも親バカな邑鮫さんは萌え、そんな邑鮫さん大好きな桜衣にも萌え
        i | |,!     ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ〜
         | |      /  , |           (・∀・; )、< お読み下さった方がいらしたら心からありがとうございました
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
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 |_____レ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/14(日) 22:55:29 ID:Z5RWk7fb0<> >>47
かわいい話をありがとう姐さん。ハートがホットチョコでポカポカした感じ。
本編ででてきても違和感ないw村と桜かわゆすぎる。
まったく正反対な人たちの話もよかったら投下してくださいw <> バレンタインナイト・パニック 0/6<>sage<>2010/02/14(日) 23:53:52 ID:aqT2co860<>               ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 生 ||             ∧(゚Д゚,,) < 半ナマ・ドラマ半町より>>バレンタインデイ・パニックの続き的なもの
        //_.再   ||__           (´∀`⊂|  < 中身自体は黒樹くんと素田さんの独立したお話です
        i | |/      ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ〜
         | |      /  , |           (・∀・; )、< 黒視点片想い?な感じでここにはこの二人しか出てこないよ
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´  引き続きもう数レスお借りします。
  /    ゙  /  /   /                    ||
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 |_____レ" <> バレンタインナイト・パニック 1/6<>sage<>2010/02/14(日) 23:54:57 ID:aqT2co860<> 「…よし、あと10枚!」
「まだ10枚もあるんすか!?」
午前に起きた事件は何とか無事に解決を見、他の班員たちが帰宅した後の刑事部屋で素田と黒樹は報告書を書いていた。
デスクワークも刑事の大事な仕事だ。大事ではあるが、如何せん事件の際には後回しにされることが多いのも事実だ。
今日のものはこれまたひとまず置いておき、まずはこれまでに溜めていた書類からかからなくてはいけない。
幸か不幸か今夜は素田と二人で当直にあたっている。
もののついでと言っては何だが、出来れば今夜中に在庫を全て片付けてしまおうというのが黒樹のひそかな目標だった。
「別にいいだろー、今晩中には終わるよ多分」
「夜中に何にもなけりゃ、の話ですけどね」
「ま、ね」
その返事に小さく肩をすくめ、黒樹はまたデスクに向き直ろうとする素田に話しかけた。
「もう昨日のことみたいですよね」
「ん?」
「バレンタイン…事件」
場所柄、“事件”を軽く強調してみせる。
「ああ」
素田が思い出したように小さく笑った。
「桜衣も災難だったよなあ」
「邑鮫さんのあの顔!俺、うわー自分じゃなくてよかったーってちょっと思っちゃいましたよ」
「うーん、…うん、実は俺も。そう思った」
「………」
「………」
何故か不思議な間が空いて、自然と顔を見合わせて、その間が妙におかしくて、二人ほぼ同時に吹き出した。
「っははは、ははっ」
「ふふ、ふっ」
まるで小さなこどもが拗ねるかのような、不機嫌を隠さないあの表情。
普段はすこぶる冷静な先輩刑事のあんな顔など滅多に見られない上に、そのご機嫌斜めの原因と
そんな直属の上司にひたすらびくびくしていた後輩刑事の顔がまた同時に思い出され、
申し訳ないと思いつつも思い出しただけでまだ笑いが込み上げてくる。 <> バレンタインナイト・パニック 2/6<>sage<>2010/02/14(日) 23:56:31 ID:aqT2co860<> お互いひとしきり笑った後。
よっぽど笑いのツボを刺激されたのか素田が目尻を指でごしごしと拭って、懐かしそうに呟いた。
「そういえば俺たちの頃ってどんなだったかなあ、バレンタイン」
由希子は、今の時代チョコレートは特定の一人の相手に渡すものでもないという前提で喋っていたようだった。
尤も去年は覚えがないので、今年はたまたま今日この部屋にいたためご相伴にあずかれたといった感じだろう。
それほどに忙しない今の職業に就いてから、各シーズンイベントの盛り上がりは正直なところよくわからない。
せいぜい、この時期が近づくと街全体が目に痛いくらいの赤色やピンク色へ一気に染まる印象があるぐらいだ。
バレンタインデーに関するイメージなど今やその程度のもので、本番は気づけば過ぎていることの方が多い。
しかし自分の学生時代は「女子が好きな男子にチョコを渡し告白する日」としてそこそこ定着していた気がする。
少なくともそこら全体にチョコレートをばら撒くような日ではなかった、と黒樹はしみじみ思い返した。
告白する側の女子だけでなく、今日という日が近づくと貰うあてのない男子連中も妙にそわそわしていたものだ。
時間としてはそんなに経過していない心地がするのに、この日の持つ意味は随分と変わってしまったのだろうか。
素田の頃は果たしてどうだったのだろう。ぼんやりとした疑問が浮かぶ。
「素田さんチョコレートとか貰ってましたか?」
素田はその問いに、言葉よりもまず顔の前の手をひらひらと横に振ることで答えた。
「俺はほんとそういうのさっぱりだったってば。お前は?モテたろ」
「…そうでもないっすよ」
「嘘つけえ」
「いやいやほんとですって!ていうかほら、手止まってますよっ」
疑いの眼差しを向けてくる素田を苦笑いでごまかしながらやり過ごし、自身もデスクに向き直る。
何故だろう。
甘い菓子と一緒に甘い言葉を貰った体験が過去にないわけではない。
むしろ一般的に見ると少しばかり経験が多い方かもしれない。
だけれど、何故だか。
それを素田にはあまり知られたくないと思った。 <> バレンタインナイト・パニック 3/6<>sage<>2010/02/14(日) 23:57:48 ID:aqT2co860<> 「…よし、あと1枚!」
「えっ、黒樹速くない!?」
「俺は素田さんと違って走るのも報告書書くのも速いですから」
にやにやしながらそう言ってやると。
「何だよそれー」
はははっと素田が笑う。悪意の全くない軽口と承知してくれているからこそこちらも遠慮なく言えるし、笑える。
仮にも警察という厳格な組織の上司と部下で有り得ない、と感じる人間もいるかもしれない。
それでも素田と自分にとってはこれが自然な日常なのだ。まるで呼吸をするのと同じくらい。
この関係と距離感が、心底たまらなく心地いい。
安曇班自体がそういう人々の集まりであることは間違いないが素田と二人の時間はまた特別だと黒樹は思う。
この人に出会えてよかった、と思う。
左の手首にちらと視線をやって腕時計を確認する。
あっという間に数時間が経過し、あと少しで今日という日が終わろうとしていた。
この報告書を書き終わったら少し仮眠を取ろうか。そう思った。
「あー、でも」
書類から目を離したついでに両腕を揃えて指を組み頭上に伸ばし、全身で大きく伸びをする。
「やっぱ疲れますね、書類書きは」
「だな」
「外で犯人追いかけて走ってる方がある意味楽っす」
「そうかあ?」
「そうですよ」
「ま、脳みそ使うと糖分消費するからな。腹減るよな」
そのいかにも素田らしい物言いに思わずくすりと笑ってしまう。
「そうそう、そうですよ。今なんかまさにその状態で」
「あ、じゃあさあ黒樹」
「はい?」
素田が緩慢な動きでごそごそと机の引き出しを探った。
「あったあった」
出てきたのは、よくコンビニで見かけるような一袋百円均一で売られている安物のチョコレートだった。 <> バレンタインナイト・パニック 4/6<>sage<>2010/02/14(日) 23:59:20 ID:aqT2co860<> 素田は既に開封済みのその袋の中から二、三粒を無造作に取り出して黒樹に手渡す。
「はい、糖分補給」
「あ、ありがとうございます」
「それ食べてラストスパートがんばれよ」
そう言って素田は引き出しを閉め、自分の目の前に先程の菓子を袋ごとガサッと置いた。
「あっ、素田さんも食べるんですか!?」
「え、食べちゃダメなの!?」
「こんな時間に食べたらまた太りますよー?」
「いいじゃん、お前も食べるんだから!それとも要らない?要らないの!?」
「いや貰いますけど!せめて袋はやめといて下さいってば」
言いながら素田のデスクに置かれた袋を取り上げ、中から数粒を取り出して袋のあった位置に転がした。
「あ」
「これは今夜一晩預かっときますからね」
「えー…」
未練がましく手元の袋を見やる素田に「ダメです」ともう一度通告してそれを自分の引き出しに仕舞う。
「はいはい、わかったよ」
潔く諦めたらしい素田が机上の報告書に向き直る。その手がごく自然に個包装の包みへと伸びた。
「………」
やれやれと黒樹はこっそり苦笑する。だけれどそんなところも嫌いじゃない。
むしろ微笑ましく、好ましくあるとさえ思った。
「…いただきまっす」
「うん、どうぞ」
両端で軽くねじられた簡素な包装を両手でつまんで引っ張り、くるりとねじり返して包みを開ける。
役目を終えかけた薄いプラスチック製のそれが微かな音を立ててその存在を主張した。
ふわりと鼻腔をくすぐる甘い匂いと同時に生身の姿を現した茶色の菓子を、口の中に放り込む。
見た目の色濃さと口の中に広がる甘ったるい味からしてどうやらミルク入りのようだった。
「…あ、美味し」
あまりにも素直な感想がその唇から零れ落ちた。 <> バレンタインナイト・パニック 5/6<>sage<>2010/02/15(月) 00:00:27 ID:aqT2co860<> 「美味しいだろ?やっぱこういう時には糖分が一番だよなあ」
にこにこと満足げに微笑んだ素田が早々と二粒目に手を伸ばす。
「……はい」
正直、少し驚いた。
昼間に由希子から差し入れられたブランド物のチョコレートとは美しい包装も高級感も比べ物にならないのに。
今口にした安物の一粒の方がずっとずっと甘くて、ずっとずっと美味しかった。
(…ん?)
そもそも何故チョコレートなんて物を差し入れられたのだったか。
再びペンを右手に持ちつつ、左の指で頭を掻き掻きたっぷり数秒間、考える。
「――――――――あ。」
カチッ。
妙に大きな音を立てて、耳元で長針が動いた。
慌てて見ると時計の文字盤に表示された日付はつい今しがた、2月の15日になったところで。
この数年間、意識もしなかった昨日という日が終わりを告げたところだった。
(これって)
空になった包み紙を見やる。薄く透明なそれの内側には僅かに残った茶色の欠片がこびりついていた。
「どした?」
怪訝そうな声が隣から聞こえた。その声にふっと我に返る。
「え…や、何でもありません」
「ほら、手ぇ止まってるぞー」
先刻自分が言われた台詞をこちらへ投げ返して素田がにやにやと笑う。
何故かその顔を直視するに忍びなくて、無言で最後の報告書にすっと視線を落とした。 <> バレンタインナイト・パニック 6/6<>sage<>2010/02/15(月) 00:02:46 ID:aqT2co860<> 殺人犯を前にしたところで最早滅多に動揺することもなくなった黒樹の強い心臓が途端に早鐘を打ち始める。
(…俺、今、何考えた)
「黒樹?」
打って変わって少しばかり心配そうな声がした。
「何か顔赤いけど大丈夫か?暖房効きすぎ?」
「だっ、大丈夫、です!」
「…おっ、あ、ああ、そう……?」
「あっ」
思ったよりも大きな声が出てしまったようで、隣へ目をやると小さな目を真ん丸に開いた素田の顔があった。
驚かせるつもりじゃなかったのに、と内心で軽く舌打ちをする。
「…すいません、素田さん」
「ん?んん、ああ大丈夫大丈夫。ちょっとびっくりしたけど」
ぱっと穏やかな笑みを浮かべ直して素田はぽんぽんと黒樹の背を叩いた。
すぐ傍で優しい声がする。
「まあ疲れてるだろうけどもうちょっとがんばろう。な、黒樹」
「…はいっ、がんばりましょう」
自分に言い聞かせるように返事をして頬を両手ではたく。
言われた通り、その頬は微かに熱かった。
叩かれた背も、熱かった。
やはり暖房が効きすぎているのだろう。経費削減のためにはもう少し寒々しいくらいがいいのかもしれない。
(考えすぎ、だよな)
疲れているからうっかり変なことを考えてしまうのだ。それだけだ。
心の中でそうも言い聞かせるようにして黒樹はペンを握った。
真横ではまたぞろ包みを開く微かな音とともに緩慢に身じろぐ柔らかな気配がした。
仕事で疲労の溜まった脳を、労わるように、もうひとつ。
…甘いチョコレートを、手に取った。



<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/15(月) 00:04:11 ID:aqT2co860<>              ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 止 ||             ∧(゚Д゚,,) < 両片想いノマ問わず基本が二人の世界な黒素萌え!
        //, 停   ||__           (´∀`⊂|  < あまりバレンタインぽくもない話でしたが
        i | |,!     ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ〜
         | |      /  , |           (・∀・; )、< お読み下さった方ありがとうございましたー
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
  /    ゙  /  /   /                    ||
 | ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./   /                 /,!\
 |         |   /                   `ー-‐'´
 |         | ./
 |_____レ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/15(月) 00:24:02 ID:BHC1BCCVO<> >>33-56
村桜と黒州まさかの二本立て嬉しい!!ありがとう最高のバレンタインになったよ!! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/15(月) 00:49:04 ID:DalxxrSp0<> >>29
エメクさんの受難っぷりは相変わらずですが平和なオチでひと安心しました…。
メロさんもエンダもばあちゃんもみんな可愛いなあ。
神殿組大好きだ。GJでした! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/15(月) 01:20:25 ID:kAHIO3aw0<> >>34
>>49
まさかの邑桜と黒巣に萌えましたありがとうございました!
脳内再生余裕でしたw <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/15(月) 04:33:02 ID:28Qng0ZOO<> >>33>>49
大好きでよだれものでした!ありがとう!
桜も可愛いけど村も可愛いなあ!
チッスするのかとドキドキした
黒酢は確かに誰にも止める事の出来ない
二人の世界が…!
また投下待っております! <> エ.ー.ジ.ェ.ン.ト.夜を往く 1<>sage<>2010/02/16(火) 00:21:53 ID:Qfeo8iBEO<> イ壬天堂の応援団シリーズ海外版より司令×チーフもしくはチーフ×司令です。
どっちがどっちかは読む人にお任せします。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

ギシっと音を響かせて椅子に腰掛ける。
目の前にいる彼の頭を抑え付け、いつもさせているように私自身をくわえさせた。
彼が夢中になってしゃぶっている様子に満足感を得る。
ああ、チーム設立当時からの友人に何をさせているのだろうか。
しかしその気持ちとは裏腹に、彼に愛撫された私のペニスは昂っていく。
粘着質な水音が深夜の部屋に響く。
部屋には電気スタンドの明かりだけが灯っている。
その仄かな明かりに照らされた彼と私の影が床に伸びていた。
気持ちいいか?と訊かれたが、私は無言で頷くだけであった。
<> エ.ー.ジ.ェ.ン.ト.夜を往く 2<>sage<>2010/02/16(火) 00:22:49 ID:Qfeo8iBEO<> …射精感が強く押し寄せてきた。
彼の髪を掴み、もっと深くくわえさせ、押し込む。
もごもごと言葉にならない声を上げる彼を無視する。
そしてそのまま、彼の口腔へ自身の精を流し込んだ。
目の前の彼は不味そうな顔をしながら出されたものを飲み干す。
力なく萎えた私自身の雁首の残滓を、若干ざらざらとした舌の刺激と共に嘗め取る。
その動作はまるで娼婦かと思わせるようなものだった。
が、目の前の友の体格は明らかに娼婦のそれよりも大きくて、我ながら馬鹿らしいなと思う。
<> エ.ー.ジ.ェ.ン.ト.夜を往く 3<>sage<>2010/02/16(火) 00:25:35 ID:Qfeo8iBEO<> どれくらい経ったか。
射精後の気だるさは過ぎ去り、乱れた服を手早く整える。
今日は私だけが楽しんだ。彼には悪かったか。
そんな事を思いつつ時計を見ると、行為を始めた時から大分時間が経っていたのに気付いた。
そろそろ戻ろう、と彼が上着を着ながら立ち上がる。
いつまでも任せている訳にはいかないと言いながら、私達は部屋を出た。
夜明けまではまだ時間がある。
淀んだような空気の廊下は非常灯の明かりだけで、暗く重い雰囲気に覆われている。
私達は背徳感を想いながらオフィスへ戻って行く。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

オッスオッスして下さった応援団スレの皆さんにこの場をお借りしてお礼申し上げます。
ありがとうございました。オッスオッス <> 新顔カンサシ新顔1/4<>sage<>2010/02/16(火) 00:54:49 ID:nTnm+1op0<>                     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  某ドラマの新顔さんとカンサシさんネタだよ。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  文章っぽいもの書くのが3年ぶりでお目汚しだよ。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  | <> 新顔カンサシ新顔2/4<>sage<>2010/02/16(火) 00:55:19 ID:nTnm+1op0<>  行為の後の浅い眠りからふと目を覚ます。
 ホテルの効きすぎた空調のせいか、喉が張り付くように乾いていることに気付き、大小内はサイドテー
ブルで汗を掻いたように濡れているグラスに俯せたまま手を伸ばした。
 氷はほとんど溶けかかり、薄くなってしまったウィスキーを口に含んで顔をしかめつつ、先ほどまで隣
に居たはずの男の姿がないことに気付いて視線を巡らせる。
 ふとタバコの匂いが鼻について重い身体を起こす。ベッドの下に投げ捨てたバスローブを拾って羽織り
ながら窓際に向かうと、探していた男がゆるく煙を上げるタバコを片手に、じっと窓の外に視線を向けて
いた。
「タバコ、吸うのか?」
「え?……ああ、起こしちゃいました?すみません」
「いや、熟睡していたわけではないから」
 言いながら大小内は缶辺の手からタバコを奪い、深く吸い込んで紫煙を吐き出す。驚いたように缶辺が
その指先を見つめた。
「大小内さんてタバコ吸うんですか?」
「そっちはどうなんだ?」
「昔は。大学卒業と同時に卒業しましたけど」
「私も似たようなものだ。入庁した時に出世したければ禁煙しろと上司に言われてそれきりやめた」
「ああ、必ず言われますよね。ちなみにこのタバコは一家の板見刑事をちょっとからかったら怒って投げ
られたのを拾った物で、俺の物じゃありませんから一応」
「拾った物を勝手に?」
「しけたタバコ返しても仕方ないでしょ?後でちゃんと1カートン熨斗つけてプレゼントしますから」 <> 新顔カンサシ新顔3/4<>sage<>2010/02/16(火) 00:55:51 ID:nTnm+1op0<>  悪気もない様子でにっこり微笑む缶辺に思わず大小内も口元を緩ませ、ソファーに腰を下ろした。大小
内にタバコを取られた缶辺は新しいタバコに火をつけている。
「……なんでですかね、持ってると思ったら急に吸いたくなって」
「苛つくことでもあったのか?」
「そういうんじゃないんですけど。どっちかっていうと淋しくなったというかなんというか」
「淋しい?」
 つい数十分前まで身体を合わせていた相手にそう言われると何となく釈然としない。そんな微妙な感情
に気付いたのか、缶辺が慌てて釈明する。
「別に大小内さんがどうこうとかそういうんじゃないですよ?ただ、何となく……」
「何となく、か」
 指先で遊ばせていたタバコに再び口をつけた。ほろ苦い煙が口に広がると、その苦さが不思議と胸の隙
間を埋めてくれるような気がする。大きな荷物を背負い続けるのが辛くなった時に、その痛みにも似た苦
さを無意識に求めてしまうのかもしれない。だとすれば。
「……缶辺」
「はい?」
「おまえ、腹に何を抱えている?」
「どういう意味ですか?」
 さっぱりわからないといった風を装って首をかしげる缶辺の手からタバコを奪い、灰皿に押し付ける。
「簡単に人に言えるようなことなら悩みはしない、か」
「そう思うって事は、あなたも何かを抱えてるってことですね?」 <> 新顔カンサシ新顔4/4<>sage<>2010/02/16(火) 00:56:21 ID:nTnm+1op0<>  笑顔の形を作った口元と、笑顔のかけらもない目線。その二つを同時に向けながら、缶辺も大小内の手
からタバコを取り上げた。そのままゆっくりと顔を近づけ、軽く唇を合わせる。
「……タバコよりこっちのがいいですね、やっぱり。苦くないし、気持ちいい」
「かん……」
「黙って」
 後ろ手にタバコを揉み消すと、缶辺は大小内の頭を抱き寄せるようにして頬を擦り寄せ、そして口付け
た。
 ゆっくりと、深く。
「缶辺」
「なんでしょう?」
「抱え切れなくなる前に誰かと分け合うという選択肢があることを、おまえは忘れるな」
「大小内さん…」
「頼むから」
 囁くように呟いて、大小内は立ったままの缶辺の腰を引き寄せる。触れた胸から伝わる鼓動を感じ、大小
内は静かに目を閉じた。
 抱えた荷物の重さも知らせないままに、全て一人で持って行ってしまった男の顔を思い浮かべながら。 <> 新顔カンサシ新顔 終<>sage<>2010/02/16(火) 00:57:28 ID:nTnm+1op0<>  ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ お付き合いありがとうございました。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/16(火) 05:19:28 ID:jOBjp1dw0<> >>64
最後のあたりでうっかり泣いた…
素敵な萌えをありがとう姐さん! <> 板と缶4<>sage<>2010/02/17(水) 00:12:29 ID:sVcjO3jD0<>                     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ilの板と缶その4モナ‥‥。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  つきあってさえいないし、喋りだけモナ。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ <> 板缶4 1/7<>sage<>2010/02/17(水) 00:14:14 ID:sVcjO3jD0<> 今日、神部が登庁していたとは、伊民は知らなかった。

基本的に特/命係というのは、土日が休みだと思っていた。
あの部屋が空っぽな日があろうが誰も気にしないし、係長である杉/下警部は、年間休日さえ合っていればいつ休みを入れたって別にいいと思ってる、・・・と、以前彼の部下だった男が言っていたからだ。
だが今日という日曜日、特別大きな事件も起きず、早く上がれそうだなと思い始めた午後4時半、伊民の携帯にメールが届いた。
その特/命係の神部警部補からだった。
『今日は何か予定ありますか? もしお時間あったら、ちょっと飲みに行きませんか?』
こんなことは初めてだった。先日一緒に事件を捜査するはめになった機会に、また今度ゆっくり話をしよう、というようなことを言って別れたことがあったので、そのせいかも知れなかった。
さてどう返事をしたものかと、伊民は2分ほど迷い、眉間に深く皺を寄せた。

さすがの伊民も知っている。今日は天下のバレンタインデーだ。
製菓会社が騒ぎ立てるのがいけないのか、イベント好きな女心が罪深いのか。何しろ2月の14日といえばなぜこの日が国民の祝日にならないのか不思議なくらいに日本中に浸透している、愛の祭りの日だ。
捜/査一課の若い連中たちは心なしか朝から明るい顔をして携帯のメールをチェックしているし、伊民や三浦のデスクにですら、女子職員からの義理チョコが配られてきた。
後輩の芹澤にいたっては、数ヶ月前からの激戦を勝ち抜いて、まんまと今日の非番をもぎ取ることに成功していた。今ごろ、彼女と楽しくデートでもしていることだろう。
今日という日はそういう日だ。
そこここでチョコレートとメッセージカードが飛び交い、恋人たちの間ではそれに負けないくらいに甘くてきれいな言葉が交わされる。
そういう日なのだと、いくら伊民だって知っていた。 <> 板缶4 2/7<>sage<>2010/02/17(水) 00:15:45 ID:sVcjO3jD0<> しかし不幸なことに伊民には、そういう相手がいなかった。もうどのくらいいないのかと、思い出すことさえしたくなかった。
別に、チョコレートがほしいわけではない。菓子の類はあれば食べるし疲れているときには効くものだが、自分で買ってまでは食べない。
女子職員がくれた駄菓子っぽいチョコレートにしても、もらえばそれなりに嬉しいとは思うのだが、ホワイトデーにはなにかお返しをしなければならないと思うと手放しで喜ぶ気にもなれなかった。
もちろん、彼女たちは「お返しはいりませんよ」と言ってくれるのだが、もらいっぱなしというのも気が引ける。

そんなところへ届いたのが、神部からのメールだった。
神部のような男に限って、バレンタインの夜が暇だとは伊民にはとても思えなかった。
予定をドタキャンされたか、それともコワイ女に好かれて逃げ回ってでもいるのか。
伊民に予定がないことを見透かされたような気もする。それもなんだか決まりが悪い。

断ろうかどうしようかと、なんでも即決体質の伊民にしては迷った挙げ句、ついに返信した。
『警部補殿の奢りならご一緒しますよ』
すぐにOKの返事が来た。

***

6時過ぎにエントランスで待ち合わせ、一緒に歩いて有楽町まで行った。
「伊民さん、焼鳥なんて好きですか?」
と神部に持ちかけられ、前に一度行ったことのある焼鳥屋の話をしたら、ぜひそこへ行ってみたいと言われたからだ。
早足で歩けば、あまり遠くはない。
時には並んで、時には前後になって歩きながら、世間話をした。神部はコートのポケットに手を突っ込んだまま、ニコニコと伊民に話しかけた。
正直、この男と何を話せばいいのかと思っていた伊民は、その明るい調子にホッとした。 <> 板缶4 3/7<>sage<>2010/02/17(水) 00:18:39 ID:sVcjO3jD0<> 「・・・俺、焼鳥屋ってあまり行ったことないんですよね。機会がなくてというか、焼鳥よりは焼き肉と思ってて」
「焼鳥屋には、きれいなおネエちゃんはいませんしね」
「え? なんですか、それ?」
「銀座のクラブのほうがお似合いなんじゃないですかね?」
「・・・ああ、この前の店ですか。あれはつきあいですよ。偉い人って、ああいう店が好きでしょ」
「さあ。俺たちにゃ雲の上のお話ですからねえ・・・」
「ははっ、もしかして羨ましいんですか、伊民さん?」
「いーえ、とんでもない。俺は焼鳥屋でけっこうですよ」
そんな調子の、軽いやりとり。伊民の棘のある言葉を、神部はさらりといなしてくれる。だから険悪にならない。

ほどほど混んだ焼鳥屋のカウンターに滑り込み、生中をふたつ頼むころには、伊民のガードもやや崩れはじめていた。
「警部補殿、何から行きますか?」
「こんなとこで、警部補殿はやめてくださいよ。あ、俺、ナンコツの唐揚げ好きです。でもまずは伊民さんのオススメを聞いてからですね」
革のコートを脱いで、神部は無造作に椅子の背に掛けた。注文を取りにきた女性店員がそれを見て、ハンガー片手に飛んできた。
すいません、と微笑む神部に、店員は明らかに普段の愛想以上の笑顔で答えていた。
すすけた焼鳥屋には似合わない男だなと、伊民はあらためて神部の横顔を見やった。
いかにもモテそうなこの男が、なぜ今日みたいな日に伊民なぞ誘って飲みに出るのだろう?

神部はしかし気にしたふうもなく、楽しそうにメニューを研究している。
「伊民さん、こういう店、詳しそうですよね」
「・・・普通ですよ」
「謙遜しないで、教えてくださいよー?」
屈託なく微笑みかけられると、悪い気はしなかった。


***
<> 板缶4 4/7<>sage<>2010/02/17(水) 00:20:30 ID:sVcjO3jD0<> 「・・・だからですね、俺としちゃ気に食わないわけですよ。あの人は確かに天才かも知れませんよ、だからってルールを無視していいわけないでしょう」
「ええ、そうですよね。遵法精神は大事にしないと」
「なんかこう、涼しい顔してサラッとみんな持ってくでしょう。そりゃ偉いさんとのつながりがあるってのはわかりますよ、もともとエリートキャリア様ですから。
 しかしですね、あの人だったら何をしても官/房長が出てきて無罪放免って、そういうのはズルかないですか」
「そういうこと、あるんですか?」
「そりゃありましたよ。こっちが必死になってやってんのに、あの人はこう、サラッとね・・・」
いつの間にか伊民は、神部に向かって愚痴を並べてしまっていた。
半分ほど酔いの回った頭で、相手はその杉/下警部の部下なのに、と思いながら。

神部はうんうんと頷きながら聞いてくれた。あの特/命係に飛ばされて平然としているところを見ると彼も普通の神経はしていないのだろうと思うが、少なくとも杉/下警部よりは常識人らしく見える。

「・・・まあ、ほどほどに行きましょうよ。俺だってあの人に負けたくないと思うし、伊民さんの気持ち、なんだかわかりますよ」
「でしょう。警部補殿だって思うもん、俺たちが」
「ちょっとちょっと伊民さん。いい加減に警部補殿はやめてくださいって言ってるでしょ?」
「だいたい、特/命係にゃ捜査権はないんですよ・・・」
「わかってますよ。逮捕権もありませんよね」
「なのに、気がつきゃ現場をうろうろしてんですから」
「ねー。誰が悪いんでしょうねー」

クスクス笑いながら、神部がレシートを取り上げる。ふと時計に目をやると、思ったよりも時間が過ぎていた。
「はい、タイムリミットです。2時間ルールにしときましょう。明日もありますから」
「・・・ああ」
「お約束どおり、奢らせていただきます」
「いや、それは・・・割り勘にしましょう」
「いいですよ」
「いやいや、俺のほうがいろいろくっちゃべっちまって」
「じゃあ、この次の機会に奢ってください」

そう言うと神部はコートを手にさっさと立って、レジへ行ってしまった。まいどー、ありがとうございましたー、と店員の声がその背にかかる。
伊民もタバコとライターをポケットに放り込んで、その後を追った。 <> 板缶4 5/7<>sage<>2010/02/17(水) 00:21:23 ID:sVcjO3jD0<> 店を出て、裏通りを歩いた。駅までの距離はあまりない。
つい愚痴を並べてしまったうえに飲み代まで持ってもらって、自分が言い出したくせにすっかり気の引けてしまった伊民は、なんとなくしょんぼりとした気分で神部の後をついて行った。

やがて曲がり角に来たとき、その神部が唐突に立ち止まった。
伊民が追いつくのを待って、のんびりとした口調で言った。
「今日、伊民さんと話せてよかったです」
「・・・そうですか」
「わざわざ出てきた甲斐がありました」
「は?」
「俺、今日は休みだったんです。ダメもとでメールしたら伊民さんがOKしてくれたんで、出てきちゃいました」
「はあ?」
「これ、どうぞ」

そう言って神部がポケットから取り出したのは、手のひらくらいの薄い箱だった。きれいな包装紙、きれいなリボンで飾られていた。
まるで絵に描いたような、・・・これはチョコレートの箱だろう、と伊民は考えるより前に思った。

「伊民さんにあげます」
「えっ、これはどういう」
「どうもこうもないでしょ」

きらきら輝くような小箱を伊民の胸元に押しつけておいて、神部はまたさっさと歩き出した。
伊民は彼の心情を謀りかねて、しばらくその場を動くことができなかった。 <> 板缶4 6/7と思ったけど6だった<>sage<>2010/02/17(水) 00:22:19 ID:sVcjO3jD0<> 「け、警部補殿!」
やっと声をかけたときには、神部は何歩も先に行っていた。呼ばれたのを聞くと彼はいったん肩越しに視線を寄越し、伊民がまだ同じ場所に立ちすくんでいるのを認めて、ふっと小さくため息をついた。
「・・・あーあ。『警部補殿』は勘弁してくださいって、あんなに何度も言ったのに」
それから周囲をきょろきょろと見回して、声の聞こえる範囲に人がいないことを確かめてから身体ごと振り返り、神部はまっすぐに伊民を見つめた。
まるで日本画のモデルのように整った神部の顔だちを、繁華街の安っぽい電飾やネオンが美しく縁取っていた。

「あのねえ、伊民さん。知らなかったと思いますけど、俺、あなたのことが好きなんです」

今度こそ、伊民の頭の中は真っ白になった。あまりに驚きすぎて声も出ない、どころか、身体もまったく動かせない。軽い箱を持った両手を下げることもできず、ぽかんと開いた口もそのままだった。
神部はさすがに照れくさそうな微笑を浮かべ、
「じゃ、また。この次は奢ってくださいよ?」
と言い残して、足早に駅のほうへ歩き去った。

その姿が角を曲がって見えなくなってからやっと、伊民は胸の前に上げたままだった両手を下ろして、手の中のものをまじまじと見た。
麻痺した頭で、神部の言葉の意味を考えた。
よりによって今日という日に、きれいにラッピングされた箱と一緒に渡された言葉の意味を。


<おしまい>
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/17(水) 00:23:06 ID:sVcjO3jD0<>  ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 仕事バカ伊民
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
前回、ドンマイみたいに言ってくれた姐さんたち、本当にありがとう!
色々とご心配かけたうえ、こんな会話だけの話でさらにすみません・・・。
さらに7あると思ったのが6だったというバカなミスもすみません! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/17(水) 00:42:41 ID:3Nwts3gt0<> >>70
お帰りなさい、バレンタイン話見たかったので本当に嬉しいです!
ここから始まる二人のストーリー(*´Д`) 二人ともなんて可愛いんだ
姐さんの板と缶萌えるよ大好きだよ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/17(水) 00:58:40 ID:x1qyH5qc0<> >>70

もしやと思って覗いてみたら、板缶キテター!!!
姐さんの板缶で新たな萌えを開眼してしまい
もっと読みたかったので嬉しい〜
今夜は眠れないな、萌えすぎて!!! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/17(水) 02:17:24 ID:QYWqiUhjO<> >>64
驚くほどナチュラルに脳内再生されましたw
二人からダダ漏れる色気がたまらない!
よろしければぜひまた読ませてください

>>70
なんてさわやかでカワイイんだ缶!
板がホワイトデーにどんなお返しをするのか、
気になって妄想が広がって眠れませんw <> こ/こ/ろ K→私 1/8<>sage<>2010/02/17(水) 07:41:46 ID:TZAxTFj+0<> 過去ログに触発されて私も書いてしまった。
時間軸的には『覚悟なら無い事も無い』から『御嬢さんを下さい』の間辺り



|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!






「その夜、私はどうにもKの用いた『覚悟』という二文字が、何時までも胸に引掛かって仕方がありませんでした。
自分の醜い嫉妬の為に随分と穢いやり口でKの心に傷をつけた事を考えると
今すぐあの固く閉ざされた襖を開けてKの部屋へと乗り込み彼の前に平伏して
謝罪したいと云う気持ちと、あれで良かったのだという卑怯な心が交互に現れ
それを重ねては布団の中で打ち消すを繰り返して居ました。

私はKをやり込めたという気持ちで興奮しきっていた為、あの晩は比較的安静な夜を
迎える事が出来たのですが、それ以降は前述した様に好く眠れない日々が続きました。
(今思えば私が神経過敏になっていたのでしょうが)

あのKの『覚悟』という言葉が、背後から洋燈に照らされて大きな影になっていたKの姿が
そしてあの朝の、近頃は熟睡が出来るのかというKの問い掛けが。
それら全てが私に向って来る何か恐ろしい物の様な気がして仕方が無かったのです。



<> こ/こ/ろ K→私(先生) 2/8<>sage<>2010/02/17(水) 07:44:40 ID:TZAxTFj+0<> 確かにKの告白を聞いて以来、私はKに何度も襖越しに声を掛けていました。
それはKの動向が気になって仕方が無かった為です。
無意味な事であると判っては居ても頻繁に声を掛ける事で
私の与り知らない部分で着々と進んで居るかも知れない御嬢さんへの『覚悟』を
阻害してやろう、監視してやろうという気に成っていたのでしょう。

Kの言葉は何と言う事も無い、唯私の健康面を気遣って呉れる言葉だったのかも知れません。
真面目で意固地な処もあるとは言え元来は優しい男だと記憶して居るので、実際そうだったのでしょう。
しかし、心に疚しい部分を持つ私はそのKの問い掛けに過剰な反応を示し
こうして眠れないながら熟睡をしている振りをし、Kに一言声を掛けることすら出来ない侭
今日も悶々と空が白けるのを待って居たのでした。

床に着き、元々活動をしている様子を感じられる事の少ないKの部屋から
完全に気配が消えてどれ位経ったでしょうか、不意に私の足元の襖が二尺ほど開きました。

その時丁度私は現在の姿勢に疲れて来ていた為寝返りを打とうとしていた処でしたので
突然開かれた襖に驚き慌てて目を閉じる事に専念した結果
少しばかり不自然な体勢で寝返りを止めざるを得ませんでした。
どうせなら思い切って姿勢を変えてしまえば好かったのに

元々狸寝入りを簡単に遣ってのける程私は器用では無かったのです。 <> こ/こ/ろ K→私(先生) 3/8<>sage<>2010/02/17(水) 07:46:30 ID:TZAxTFj+0<> 便所に行った気配も無かった上、如何して今時分確実に眠っているであろう私の部屋を覗いたのか
ぐるぐると考えていると段々と恐ろしくなってきました。
目を瞑っている為にKの動向は良く掴めませんでしたが、僅かな布擦れの音と
先程より若干掛けられるおいという声で、Kが部屋に入って来たと云う事だけは判りました。

私は如何しても狸寝入りを解いてはいけない様な気がして頑なに目を開けようとはしませんでした。
するとKから再びおいと声を掛けられました。しかもまた先程よりも近い位置です。



いつの間にか私の目の前にKが移動していました。
実際、目を開いて居なかったので正確な位置は判らないのですが
まるで熱を出した子供を枕元で看病する母親のような
通常の我々の関係を考えればそれ位不自然な位置にKが居たのです。

私の顔を見ながら『もう寝たのか』と声を掛けます。
此れは愈々おかしい。幾ら部屋の中が暗いと云えども
床に着いて随分経っている為暗闇に目が慣れて居る筈です。

大体明らかに眠っている私の顔がKからも見えている筈なのに
Kは妙に私に声を掛け、寝ているのかと念を押してくるのです。 <> こ/こ/ろ K→私(先生) 4/8<>sage<>2010/02/17(水) 07:48:55 ID:TZAxTFj+0<> 私は慄然としました。今からKは私に何をする心算なのだろう。
そもそも目を開いていない私には目の前に居るのが
果たしてKであるか判断が出来ませんでした。

若しかしたらKの声を持つ何か得体の知れない物なのでは無いか
はたまた私が作り出した悪夢と云う名の亡霊なのか。

『僕は苦しい』私の部屋を重苦しく包んだ沈黙を破ったのは、同じく重苦しい彼の呟きでした。
『人を好きになる事が…拒絶される事がこんなにも苦しいなんて思わなかった』
私は一瞬何を言っているのかが判りませんでした。
苦しいと繰り返すのに、私は益々亡霊では無いかと疑ってかかった位です。

それ程Kの言葉は突飛でした。呟くような彼の低い声はまだ続きます。
『その目には僕は邪魔者としてしか映っていないのか』
『如何すればいいのかわからない』

不図小さく名前を呼ばれ、背後の布団にみしりとした振動を感じたかと思うと
急に相手の気配が近づき、顔に僅かな風を感じました。
<> こ/こ/ろ K→私(先生) 5/8<>sage<>2010/02/17(水) 07:50:38 ID:TZAxTFj+0<> 私は余りの恐怖に情けなくも、小さくひっ、と声を上げてしまいました。
その瞬間気配が物凄い速さで遠ざかります。

狸寝入りも忘れた私は気がついたら飛び起きていました。
目の前には僅かに驚いたKの顔がありました。
Kは、『何だ起きて居たのか』と努めて平静を装って居ましたが彼の動揺は明らかでした。

私は混乱し、一体如何云う心算だと、真夜中にも関わらず語気を強めました。
今思えばあの時、よく御嬢さんや奥さんが起きて来なかったものだと思います。
第一彼の言葉の意味も判らなかったし、何をされそうに成ったのかも判りません。

唯私は、私の中に段々と押し入ってくる彼に恐怖して居たのです。
私は自分の疚しい心の為に、何か云いたそうに口をもぐもぐとさせていた彼の言葉を待つこと無く
すぐに出て行けと半ば怒鳴り散らす様に追い返してしまいました。 <> こ/こ/ろ K→私(先生) 6/8<>sage<>2010/02/17(水) 07:54:53 ID:TZAxTFj+0<> しっかりと閉ざされ、今は水を打ったように静かになった襖の向こう側が気に成りましたが
私には再びKにおいと声を掛ける勇気は在りませんでした。
再びそこからKが顔を出したら、とてもじゃ在りませんが
私は話どころかまともにその顔すら見られなかったでしょう。

苦しい。彼は図書館での帰りにも苦しいと呟きました。
よくよく考えてみると、最初に御嬢さんへの切ない恋心を告白された時とは
何処と無く心持が違った様に感じられました。

人を好きになる事が、拒絶される事がこんなにも苦しいなんて思わなかった。
私は、Kの拒絶という言葉に引っ掛かりました。
私が記憶する中では御嬢さんがKを拒絶したという部分というものが見当たりません。


『馬鹿だ』Kの言葉が頭の中で響きます。『僕は馬鹿だ』 <> こ/こ/ろ K→私(先生)7/8<>sage<>2010/02/17(水) 08:09:29 ID:NFWcm2MNO<> 不意に私は激しい喉の渇きに襲われました。
唯の渇きではなく、まるで締め付けられる様な苦しさを伴う渇きでした。
しかし部屋に置いた水は切れており、水を汲みにKの部屋を通る気にもなれなかったので胸を押さえつつ
カラカラになった口から何とか搾り出した唾液を飲み込んで遣り過ごす他在りませんでした。


この頃には私は、Kは何とかして私の気持ちを捻じ伏せる機会を狙っているのではないかと疑い始めて居ました。
そもそもKが私の御嬢さんへの気持ちを知っていたのか定かでは在りませんでしたし
この期に及んでも心のどこかではKなら大丈夫だという気持ちも存在し、迷いも生じていました。

然し、私は自分の卑怯さを棚に上げ、此の儘ではいけない、Kはきっと段々と私の心を蝕んで行くのだ
そして其れは確実に私を脅かす、と首を振り、無理矢理にその迷いを打ち消してしまいました。
彼はもう私の知っているKではない。
何を考えているのか判らなくなってしまったKは、もうKではないと自分に言い聞かせていたのです。



不図、窓の方に視線を向けると、段々と空が白んで来ていました。
明るくなりつつある空を見ながら、今が真夜中では無かった事に何故か私は心から安堵したのでした。 <> こ/こ/ろ K→私(先生) 8/8<>sage<>2010/02/17(水) 08:12:03 ID:TZAxTFj+0<> □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

ごめん。番号読み間違えて最後があとがきだけになっちゃいました。
規制に引っ掛かったので途中携帯から投稿。

どう足掻いてもバッドエンド回避ならず。
以下個人的な見解なので流してくれると嬉しいw

…実は少しおかしくなっていたのはKじゃなくて
先生だったんじゃないかと睨んでいる。

ありがとうございました! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/17(水) 08:21:26 ID:NFWcm2MNO<> 3に抜けがありました。若干近い距離で と脳内補完ヨロです。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/17(水) 20:44:03 ID:qyajO0X3O<> >>70
姐さん、有難う!
そうかあこんなふうに始まるのかあ。
缶の「ねー、誰が悪いんでしょうねー」ってリアルに聞こえてきそうで禿げますた。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/19(金) 03:06:28 ID:drGiPSuQ0<> 生注意
高学歴ゲ仁ソ 魯山 大阪府大×京大

ひさびさにネタを仕入れたので投下します
六角形クイズ出演回の収録後妄想です

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! <> 関西だからおバカとは言わないで 1/9<>sage<>2010/02/19(金) 03:07:53 ID:drGiPSuQ0<>
「何であそこで俺やねん!」

控室に戻ってきた『水も滴るイイ男』の第一声はこれであった。
びしょ濡れになった京大をそう評した木目方の大阪府大は、スタジオでこれでもかというぐらい笑い倒したはずだったが、扉を閉めコソビ2人きりになるや再び腹を抱え笑い出した。
「あーっはっはっはっ、ちょお、もお、うじはら、オマエ…っ、うははははは〜〜〜っ」
「すがちゃん、笑いすぎや!」
番組で京大がおいしくイジラれるのが三度の飯より大好きな大阪府大のことである(もちろん時と場合によっては京大がイジラれることで心底不機嫌になる時もある)。
今日の罰ゲーム、『布河両が水をかぶるという前フリを事前にさんざん出されながら、裏をかかれ京大がかぶる羽目になってしまった』というオチは、彼にとっては最高においしい木目方のイジラれ方だったらしい。
「あーもう、勝手に一人で笑うとけ!」
「あはっ、ゴメンゴメン〜。お詫びに髪は俺が拭いたる、な?ほら、服脱いでそこ座りや」
半分涙目ながらもようやく笑いを止めた大阪府大は、京大の手から半ば強引にタオルを奪い取る。
「別にええよ。俺の髪短いから、すぐ乾くし」
「ええからっ!俺が拭く言うとるやろー!」
「何でそこで逆ギレするっちゅーねん…」 <> 関西だからおバカとは言わないで 2/9<>sage<>2010/02/19(金) 03:08:43 ID:drGiPSuQ0<>
「それにしてもこういう役、ひっさしぶりやなかったかあ?東京じゃオマエ、基本インテリ押しやもんなあ」
そんな感想付きで、大阪府大にわしゃわしゃと濡れた髪を拭かれている間、京大はずっと押し黙っていた。
「もしかして、俺が笑うたことまーだ怒っとるん?」
「別に」
口ではそう言いながらも、やはり京大は憮然としたまま。
こういうところは意地っ張りというか嘘が下手というか、実にわかりやすいと大阪府大はいつも思う。
「なーあ、機嫌直せやー?」
大阪府大はタオルを動かす手を止め、上半身裸にバスタオルを羽織った京大の背中に後ろからべったりと抱きついた。
長い付き合い、こういう時どうすれば一番効果的か、大阪府大は熟知している――そのはずだった。

「………うじはらー?」
いつもだったら『もぉ〜、すがちゃんにはかなわんなあ』などと苦笑しながらあっさり落ちるはずの京大が、今日は胸に回した腕にすら触れてこようとはしない。
大阪府大がバスタオルがかかった京大の肩口に顎を乗せ、横から覗き込むように顔を寄せると、何故かふいっとそっぽを向かれてしまった。
<> 関西だからおバカとは言わないで 3/9<>sage<>2010/02/19(金) 03:09:41 ID:drGiPSuQ0<>
「オマエ、やっぱ怒ってんねやろ?」
「だから怒ってへんて言うてるやん!……そんなんやない、そんなんちゃうねん」
「ああー、ほんならアレか、拗ねとるとか?」
そう指摘された途端にうっ、と返事につまる京大。
ああどこまでもわかりやすいやっちゃなあと、大阪府大は喉の奥でくくっと笑う。
「さーて、めちゃめちゃ頭のいいうじはらくんは、一体何に拗ねとるんかいなあー?」
「オマエ、どこまでも楽しそうやな…まあそんなんいつものことやけど」
「わかっとるなら、はいはいテンポよう、さっさと吐かんかーい。はよせんと…」
オマエ今自分がどんな恰好しとるかわかっとるやろ――そう耳元で囁かれ、京大はギョッとした。
何せこの木目方サマは、時も場所も選ばず空気も読まず平気でコトに至れるツワモノである。
鍵もかけていないテレビ局の控室でいつものように組み敷かれ、そこに誰か入ってきたりでもしたら…。
それを考えると、結局のところ京大には自分が折れる道しか残されていなかった。
「結局いつもと同じパターンやないかい…」
「えー、何?何か言いましたかあー?」
「いーえ、何でもアリマセンっ!」
<> 関西だからおバカとは言わないで 4/9<>sage<>2010/02/19(金) 03:10:50 ID:drGiPSuQ0<>
「そのー、何ちゅーか、ちょっとした自己嫌悪?そんなんに陥っとるだけやねん」
「自己嫌悪?何の?オマエ今日も絶好調やったやん」
様々なクイズ番組を渡り歩いて、芸能界のクイズ王の呼び声も高い京大。
本日も大方の予想を裏切らず、正解に1位通過のオンパレード。
チームは最下位になったものの本人に特に目立った落ち度はなかった(最後の罰ゲームのオチを除いて)
最下位の原因の一端というならば、それはむしろ大阪府大の方が担っていた。
縄跳びを飛びながら答えるクイズで、豪快に間違えたあげくに縄にひっかかってアウト、などとやらかしてくれた彼は、間違いなく本日の戦犯のひとりと言えるであろう。
「今日の出来なら自己嫌悪に陥って然るんは俺の方やろ?何でオマエがそない卑屈になる必要があんねん」
いやいやそう言うてもオマエ全っ然気にせーへんやん!と京大はツッコミそうになったが、いまだ無防備な恰好を晒している内は黙っておくのが賢明であると、一度開きかけた口を再び噤む。
「ゲイニソとしての扱いで見たって、オマエは罰ゲームで、俺は縄跳びでそれぞれ1回はおいしかったんやから。それはそれでエエやろ」
「……それやねん」
「へ?どれ?」
「……が、その………したん」
「聞ーこーえーんー!はっきり喋れや!さもないとっ!」
「わー!縄跳びや、縄跳び!」
大阪府大が再び手をわきわきさせて迫ってきたので、京大は慌てて声のボリュームを上げる。
「なわとび?失敗したんは俺やで?」
「その失敗した時、俺すがちゃんとこに走って行ったやん」
「あーあー、そういやオマエ、真っ先に来てくれたなあ」
大阪府大は『あ〜やってもうた〜!』と天を仰いだ時視界に飛び込んできた、心配そうに眉根を寄せた京大の顔を思い出した。
<> 関西だからおバカとは言わないで 5/9<>sage<>2010/02/19(金) 03:11:55 ID:drGiPSuQ0<>
「すがちゃんがこけたの見たら、うわっはよ起こしたらな、手ぇ貸したらなって思って、そしたら慌てて、っちゅーか、もう体が勝手に動いとった」
そう白状する京大の頬は、少しだけ赤くなっていた。
「ホンマに無意識やってん。ほんでオマエを助け起こそうとした時、周りが『すがちゃん何してんねん』みたいな空気になっとることに気づいて、何や急に恥ずかしくなってもうて」
それでとっさに手を引っ込め、周りに合わせて『サイアクやー』などとガヤを飛ばしたらしい。
「アレは完全に俺の落ち度やったしな。オマエがとっさにそう判断したんは間違ってなかったと思うで」
京大が自分を庇わず周囲に同調したこと自体、大阪府大は特に気にしてはいなかった。
むしろ大阪ローカル番組のノリで京大に必要以上に構われて、共演者全員にひかれるような事態にならなくてよかったとさえ思ったくらいである。
「だからそれでオマエが引け目感じることは…」
「いや、俺が言うとるんは別にそういうことやないねん」
「あ?」
京大は今度こそ言いにくいのか、あーだのうーだの呻きながらしばらく落ち着かなく視線を泳がせていたが、やがて俯き加減から上目遣いでちらちら大阪府大の様子を窺いつつ口を開いた。

「俺はあん時本気で心配して飛んで行ったのに、すがちゃんは俺が水かぶった時大爆笑で、収録終わってもずっと笑いっぱなで……何や俺一人が一方的にすがちゃんのこと好きみたいで、めちゃめちゃアホっぽいやんか」
「…………」
大阪府大はポカンと口を開けたまま、二の句がつげなかった。
<> 関西だからおバカとは言わないで 6/9<>sage<>2010/02/19(金) 03:14:45 ID:drGiPSuQ0<>
拗ねる男の独白はさらに続く。
「そりゃゲイニソとしていかにオイシくいじってもらえるか、そういうのがめっちゃ大事やってのは重々わかってんで?けど、俺はゲイニソですがちゃんの木目方であると同時にすがちゃんの、その、コイビトやねんから。
コイビトがひどい目に合うたりしたら大丈夫かーって手を差し伸べたなるのは、自然の摂理っちゅーか当たり前のことやん?」
「…………」
「俺らは人に笑われてナンボの商売やから、誰に笑われてもそれはそれでよしっ!ってガッツポーズすべきなんやろうけどっ。けどなあ?俺かて頭から水かぶって結構寒い思いしてんねんで?
別に収録中とは言わん、せめて終わってから『大丈夫やったか?』の一言ぐらいあってもエエんちゃったんかなーとか、まあそんなこと思ったわけよ、うん」
「…………」
「あ、別にこれ全然義務とかやないし。強要してるんとちゃうで?まあ仮に強要したところで、すがの耳に念ぶ…あっ、いやっ、ちゃうねん!ちょっと語呂がよかっただけで、別に我ながら上手いこと言うたなーとか思ってるわけやな――」
「……プッ」

「はいい?」
思わず聞き返してみたものの、それは確かに笑いを兆す声だった。
その声の主は京大の目の前で、わかりやすく口元を押さえながら肩を震わせている。
「ぷっ、ぷぷぷ……っ、ぶは〜っははは〜〜〜〜〜っ!!」
しばらくすると堪え切れなくなったとみえた大阪府大の、本日何度目かもわからない爆笑が室内に響き渡った。

<> 関西だからおバカとは言わないで 7/9<>sage<>2010/02/19(金) 03:16:00 ID:drGiPSuQ0<>
「なっ、何が可笑しいねん!」
「いや、もうどっからツッコんだらエエかもわからんくらい、オマエっ……くっ、あっははははははは〜!」
「だから笑うなや!!」
抱腹絶倒の木目方に怒鳴る自分、という図式になんとなく既視感を感じつつ、京大は笑い止まらぬ大阪府大の肩をガッと掴む。
「あー、しんど〜。うじはらオマエさ〜、俺を笑い殺す気ぃやろ?」
「そんな気ぃあるかい!って、何でまたオマエにここまで笑われなアカンねん!?俺結構真面目に答えてんねんぞ!」
「だーからー、そうやって真面目に答えとるからオモロイねんって」
「はあ?」
大阪府大は京大の肩にかかっているタオルで涙目を拭うと、京大を見上げニッと笑った。
「とりあえず女々しいとか草食系丸出しとか、言い様はいろいろあるんやろうけど、まあ一番端的に言うたらこういうことや」
そう言って、グイッと京大の腕を引き寄せ顔を近づける。

「オマエ、めっちゃカワエエなあ」
そして間髪入れずに、京大の唇にチュッと軽い口づけを落とす大阪府大。
<> 関西だからおバカとは言わないで 8/9<>sage<>2010/02/19(金) 03:17:09 ID:drGiPSuQ0<>
「っ…!」
余りにも唐突で、しかもものすごく久しぶりのライトなキスに、京大の心臓が何故かドクンと跳ね上がる。
「あ、顔赤うなった。やっだ〜、うじはらクンって思ってたより純情〜。普段はあんなことやこんなことイッパイしたりされたりで、めっちゃエロいのにっ☆」
「すがちゃんっ!!」
真っ赤になった京大が長い腕を伸ばし大阪府大を捕らえようとするが、標的は小柄な体でそれをひらりとかわした。
「オマエ中学生とちゃうねんから、それくらいでそんな顔すんなって。それともアレか、もしかしてあんなもんじゃ足りひんとか?」
「〜〜〜〜っ!」
大阪府大の言葉にピキッ、と音を立てて固まる京大。
「あはっ、図星?もー、しゃあないなあ」
大阪府大はやれやれ、といった表情で京大に近づく。
そしてカチカチになったままの京大の首に手を回し、今度は深く口づけた。

「ふ、あっ…」
石化の魔法が解けたかのように、京大の腕がピクリと動いて、そのままそっと大阪府大を抱きしめる。
「魯山でカワイイって、本来俺のためにある言葉やのに…反則やで、ホンマ」
「すがちゃ……んっ…」
ちゅ……くちゅ…
水音も艶かしく、ふたりはいつしか激しく舌と舌を絡め合っていた。 <> 関西だからおバカとは言わないで 9/9<>sage<>2010/02/19(金) 03:26:15 ID:nXmEHznsO<>
「あんなあ」
長いキスの後、まだ半裸状態の京大の肌に舌を滑らそうとしたところを当の本人に押し留められ、大阪府大はややむくれ顔で口を開いた。
「縄跳びん時オマエが来てくれてホンマに嬉しかったし、罰ゲームん時は席離れとったから直で言えんかっただけでちゃんと大丈夫か?って心配したし――とか、オマエそんなんイチイチ言われんとわからんのん?」
「いや、だって…」
「オマエに爆笑するのかて、オマエが好きだからこそやろ。俺だけが許された、言わばオマエのコイビトの特権やで?それくらい察しろやー!」
「う……」
さっきまでの甘い雰囲気もどこへやら、大阪府大の京大に対する『これは果たして喜んでいいものか』的微妙な説教は延々と続くのであった。
「オマエIQは高いけど、そういうとこはホンマにアホやんなあ」
「結局どっちに転んでも、俺はアホ扱いかい!」


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!



最後規制にひっかかってしまい申し訳ありませんでした。

この後大阪府大サマに「『すがの耳に念仏』って、母音が合うとるだけで全っ然おもんないから、今後二度口にすんなよ?」と念押しされ、神妙に頷く京大さんw
<> 厄日(1/8)<>sage<>2010/02/19(金) 03:49:20 ID:t/xBTVRN0<> エヌエチケーにて放送中の人形劇三十四より アヌス×谷やんです。
本スレの素晴らしい流れに感化されて書いてみました。


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「これじゃあ、何をしに行ったんだか…」
今朝あった様々な出来事、そして頭を悩ませる枢機卿からの誘いについて考えるうちに、
いつのまにか下宿までついてしまった。気は乗らないが、今日は朝から行き先も伝えずに
出てきてしまったので、そろそろ戻らなければ不審に思われるに違いない。努めて平静を
装い下宿の扉を開くと、予想に反して室内は静まり返っていた。
2階の自分たちの部屋に上がっても静寂はそのままで、どうやらこの下宿の全員が全員今
は留守にしているらしい。正直ほっとした気持ちになって、自分のベッドに倒れこむと
深いため息が漏れた。無意識のうちに枕の下に隠している枢機卿からの贈り物に手が伸び、
その怪しい輝きに目を奪われてしまう。こんなものが欲しいわけではない、と常々思って
はいるのだが、そのまま傍に置いておけばただ危険なだけの宝石を手放すことができない
のはどうしてだろう。思わず「まいったなぁ」と独り言が漏れた。 <> 厄日(2/8)<>sage<>2010/02/19(金) 03:51:04 ID:t/xBTVRN0<> 「確かにたいぶ参っているようだな。ダル」
あると思っていなかった返答に、ダルタニアンは慌てて起き上がる。声の主はゆっくりと
階段を上がってくるところで、とっさに毛布の下に宝石を隠した。
「アトスさん、おかえりなさい。 
 皆さん留守のようですけど、どこかにおでかけなんですか?」
「…まぁ、戦争も近いし色々ヤボ用があるんだろう。
 そんなことより、お前今日は朝からどこに行っていた?」
内心ぎくり、としたのを悟られないよう、できるだけ何でもない風を装って
「ジョギングと散歩に」と答えた。
「ふうん。
 …お前の散歩コースは、だいぶ遠いところまで延びているようだな」
そう言うが否や、何かを顔をめがけて投げつけられて一瞬視界が遮られる。あまりの唐突
さに抗議しようと思った声は、投げつけられたものが何かを確認してそのまま水蒸気の
ように消えてしまった。
“それ”は、昨日貰ったばかりの、見た目は多少粗末かもしれないが、想いのこもった
銃士隊の隊服、だった。そう、今朝枢機卿のところに置き忘れてきて、「後で届けさせる」
と約束してもらった隊服。
『何もアトスさんに持たせなくても…!』
さぁっと、血の気が引くのがわかり、思わず枢機卿を呪いたくなる。 <> 厄日(3/8)<>sage<>2010/02/19(金) 03:52:10 ID:t/xBTVRN0<> 「ダルタニアン、枢機卿に何の用があった。 何を話したんだ」
「……言えません」
その回答でアトスが納得するわけがないことはわかっていても、それ以外に答えようがない。
「言えない、か。 おい、ダル。悪いことは言わん。
 …痛い思いをしないうちに、全て打ち明けたほうが身のためだぞ」
やんわりと、だが明確に脅迫をするアトスに、この脅され方をされたのは二回目だ、と
かすかな記憶が蘇る。あの時はトレヴィル隊長の助け舟が入ったが、今回は救いの手を
差し延べてくれそうな人間に心当たりがない。自力で窮状を脱する以外にないのだが、
唐突すぎる展開に頭のほうがついていかない。
「…言えないものは、言えません」
「やけに強情だな。なんでそこまで枢機卿に義理立てする必要があるんだ」
じりじりと間合いをつめられ、気がつけば後ろはベッドと壁、前はアトスに挟まれた格好
で、このままでは逃げるに逃げられなくなってしまう。確かこういう場合
『逃げ場は前にしかない!』
と教わった気がするのだが、前に立ちふさがるのがそれを教えた張本人なのだから、そう
簡単に見逃してくれるとは、やはり思えなかった。 <> 厄日(4/8)<>sage<>2010/02/19(金) 03:53:04 ID:t/xBTVRN0<> 「それとも、とても口にできないような事でもしてきたか」
勘違いも大概にして欲しいところだが、「じゃあ、何をしていたのか」と切り返されたら
どう答えば良いか、上手い口上も思い浮かばなくて。その言い訳を考える間の沈黙が変
な方向に作用したらしい。

「お前が誰のものか わからせてやる!」
不意を突かれてベッドに押し倒され、強かに頭を打ちつけてしまった。マットが安物なの
で、さしてクッションの役割をしてくれるでもなく、後頭部からじわじわと鈍痛が波の
ように押し寄せる。思わず
「痛った! 何すんです」
か、そう叫びかけた抗議の声は、そのまま荒々しくされた口付けによってかき消されて
しまった。あごを掴まれ無理やり上向かされると、口の中を蹂躙するような乱暴なキス
に上手く呼吸もできなくて、息苦しさから逃げようと力一杯抵抗をしてみてもアトスは
びくともしない。酸欠の苦しさに涙がにじんだ。
ようやく唇が解けると急激に空気が肺に流れ込み、げほげほと情けなくも咳き込んでしまう。
<> 厄日(5/8)<>sage<>2010/02/19(金) 03:54:06 ID:t/xBTVRN0<> その苦しさに恨みがましくアトスを睨み付けるが、そのアトスの視線は何故かこちらには
向いていなくて。その視線の先を確認して、体中の血が凍りつくかと思った。
そこには、燦然と輝く“罪”の証があった。

「これは、どうしたんだ」
言えない。この状況で言えるわけがない。
「言い訳は必要ないぞ。俺は、これに見覚えがあるからな」
「あの、違うんです」
何が何と違うと言いたいのだろう。自分でも良くわからない。
「言い訳はいいって言っただろ!」
その激しい剣幕に圧倒されてしまい、覆いかぶさるように再びベッドに押し倒されて、
シャツを繋ぎ止める皮ひもを力任せに引き抜かれても、その下のベルトに手が掛けられても、
抵抗らしい抵抗もできなかった。アトスと体を重ねるのは、なにもこれが初めてではない。
それなのに、こんなにもアトスが怖いと思ったことはかつてなかった。
こんなやり方は『嫌だ』と大声で喚きたかったが、決定的な証拠を見咎められた後ろめた
さと、何か言えば、更なる怒りを買うだけなのではないかという恐怖が口をつぐませる。
<> 厄日(6/8)<>sage<>2010/02/19(金) 03:59:02 ID:t/xBTVRN0<> 「お前が、こんな“やり手”だとは知らなかったよ」
こちらの意志などお構いなしに続けられる行為と、嘲るような口調になけなしの自尊心も
手ひどく傷つけられて、もう誤解だろうが何だろうが、なるようになればいいと思えてきた。
本来なら、誤解は解くように努めるべきだったし、枢機卿のところへ出向いた理由や転がり
出てきた宝石のことだって沈黙で返したりせずに、それなりに取り繕えば良かったのだろ
うが、『本当に知られたくないことは何なのか』すらもうわからなくて、何もかもが面倒だった。
その誠実でない態度が招いた“罰”は天罰覿面とばかりに自分に返ってきて。
…愛情の欠片もない行為が、こんなにも辛いとは知らなかった。

胸の突起を弄ぶ手つきも、わき腹や内股をなぞる愛撫も、全てが邪険にされている気がして、
いつもなら夢見心地で全身を蕩けさせてくれるそれが、今日はただ怖いとしか思えない。
それなのに身体だけは刺激に敏感で、意志に反して浅ましく快楽を貪り『もっとして欲しい』
と主張をする。
性急に攻められて吐き出した精を潤滑油代わりに、指で後ろを慣らすのもいつにはない
乱暴さで、気のせいではなくわざとそうされているのだとわかって、鼻の奥がつんと熱く
なった。こんなことで泣いたりなんかしたくないのに、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
<> 厄日(7/8)<>sage<>2010/02/19(金) 04:02:15 ID:t/xBTVRN0<> 「泣くまで我慢する前に、正直に全部白状しちまえば良かったのに」
「だって…」
「洗いざらいしゃべる気になったか」
「…ごめんなさい。今は、まだ。 考えがまとまらなくて」
「ふん。 強情だな」
その言葉は少し呆れたような口調ではあったが、さっきまでの怒気はほとんど感じられ
なかった。
「まあいい。今は、ってことは“そのうち”話してくれるってことだろ」
そのうち、か。確かに遅かれ早かれいつかは結論を出さなくてはいけないのだ。そのとき
は、好む好まざると関係なく全てが白日の下に晒されることになる。
出した結論によっては、この関係もそれまでのままとはいかない。でも、その瞬間が訪れる
まではできるだけ甘い夢を見ていたいと思うのは、…きっとただの我侭なんだろう。
ぐるぐるとした思考を停止させたのは、両足をいきなり抱え上げられた事に対する驚きで、何事かと視線を向けるとアトスと目が合った。
「考え事は終わったか」
「…え?」
<> 厄日(8/8)<>sage<>2010/02/19(金) 04:04:22 ID:t/xBTVRN0<> 「じゃあ、お仕置きの続きだ」
「って、えええぇぇ?!」
こっちの抗議もさして気にする風でもなくぐっと挿れられたそれに、慣らされているとは
いえ圧倒的な異物感は拭いようがない。その上身構えもできないうちに貫かれたから、
最初の衝撃を受け流すこともできなくて。お仕置きだといってたアトスの言葉に偽りは
なく、後はひたすら泣き続ける羽目になった。

「誰か帰ってきたらどうするんですか…こんな」
「しばらくは誰も帰ってこねえよ」
「なんで、そんなことがわかるんですか?」
「お前の秘密を話してくれたら、教えなくもないが」
「…ならいいです」
まだ昼前だというのに今日はもう何もしたくないほど疲弊しきって、他の皆が何をして
いるのかなんて、そのときは考えようとも思わなかった。アトスが帰ってこないという
ならそうなのだろうと、不自然ではない程度に身繕いをすませると生理的欲求に身を
任せて眠りに落ちた。
それが幸か不幸かは、まさに神のみぞ知る というやつだ。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

お目汚し失礼しました。 <> BUTTERFLY(1/4)<>sage<>2010/02/19(金) 18:34:43 ID:9zoVBP470<> ブソレンよりヴィクバタ(爆)
>>11-14の続きっぽいものです。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!



「君は誰だ」
 かの高貴な女性にちなんだ名を冠した流暢なイギリス語に呼びかけられ、ヴィクターはわずかに顔をあげた。
 船員や船長の粗野な言葉ではない。
 話しかける流麗なクイーンズイングリッシュは、貴族的な響きすら含んでいる。
 ゆっくりと目を上げると、長身のシルエットが見えた。顔はよく見えない。
 仕立てのいいインバネスマントを羽織っているのはわかる。髪はおそらく黒い。
 なにより目を引くのは、蝶々の形に整えられた見事な口髭だった。
 バタフライ、と朦朧とした意識の中そんな言葉が浮かんだ。

<> BUTTERFLY(2/4)<>sage<>2010/02/19(金) 18:35:17 ID:9zoVBP470<>

「私は、蝶野爆爵」
「…チョウノ・バクシャク?」
 耳馴染みの薄い発音に、思わず問い返してしまう。
 てっきり貴族かよほど伝統のある資産家の英国人かと思っていたが、外国人なのだろうか。生粋の英国人でもこれほど美しい英語を話す者は少ないだろうに。
 なにより、発音しにくい。
 船倉で密航を発見されたヴィクターは、なぜだか目の前の男の客として船室のベッドに横たわっている。
 いや、理由は分かっている。この男は、錬金術を知っている。その事実が、ヴィクターをひどく警戒させた。
 だがこの部屋に運び込まれてから、男は錬金術についてヴィクターに訊ねることはなかった。
 それに安心したわけではないが、気が緩んだのか、数日発熱した。
 朦朧とした意識ではっきりと覚えてはいないが、その間彼が傷の手当てや看病をしてくれていた気がする。
 ヴィクターのエネルギードレインは、たとえ本人の意識がなくとも常時周囲の生命から自動的に行われる。それを思えば、いささかの申し訳なさをあとになってヴィクターは感じた。
 ようやく熱が引いてから、自身の部屋を明け渡した男が再びヴィクターの前に現れた。
 そしてヴィクターの体調を訊ねてから、自己紹介がまだだった、と名を名乗った。
「この船は日本へ向かっている」
「日本…」
 ならばこの男は東洋人か。髪や目の色が黒いのはそのためか。しかし港などで見かける苦力(クーリー)と肌の色が違う。彼らよりはるかに白いが、かといって西洋人のように透けるような肌の色ではない。どちらかというと…。
「アイボリー…」
「ん? 象牙?」
「あ……いや…」
 肌理の細かな肌は象牙色をしている。日本人の肌とは皆こういう色なのだろうか。
 ヴィクターは相手の男をじっと見つめた。

<> BUTTERFLY(3/4)<>sage<>2010/02/19(金) 18:35:45 ID:9zoVBP470<>
「食事は口に合っているかね?」
「……食べられるなら、なんでも」
「夢のないことを言うな、君は。食事は身体の栄養だけではない。よい食事は心も満たす。食事を楽しまずに過ごすのは人生への冒涜でもある」
 チョウノ、という男の言葉にヴィクターは失った家族との食卓を思い出す。
 戦いの日々の中ではありながらも、3人で過ごした穏やかな時間は何物にも代えがたい。
 けれど同時にそのあとの悲劇を思い出す。
「…」
 黙り込んだヴィクターに、男は小さく肩をすくめた。
「まぁいい。食べたいものがあれば言いたまえ。可能な限り手配しよう」
「………」
「それから、目的地は日本だが、君が望むなら航路を変更することも可能だ。今は喜望峰経由のインド航路を取っている」
「………キミは何者だ」
 なんでもないことのように口にされた内容に、さすがにヴィクターは驚いた。
 こんな船上で、賓客のごとくもてなされ、むしろ船長以下を配下のごとく扱い、航路の変更にまで一存で決めてしまえる彼は何者なのだろう。
「私か」
 ふむ、と男は髭を撫でた。
「日本人、貿易商、この船の船主、医師、…………錬金術の探究者」
 はっとして、ヴィクターは身を固くした。
 久しぶりにALCHEMYの単語を耳にした。
 さりげなくとヴィクターの反応を観察していた男は、小さく笑った。
「どれでも好きに思いたまえ。外国からの新しい学問に心奪われているだけの半人前の学者、錬金術の力を使って国家転覆を企む大悪党、それとも…」
「いや…」
 ヴィクターは首を振った。
 一目でヴィクターの胸の印を錬金術の技によるものと見抜いたところを見れば、一介の学者ではない。
 悪人と言ってしまうにもためらいが残る。
「……今は、結論は出さない。キミが何者か、私は私の目で見極めよう」
<> BUTTERFLY(4/4)<>sage<>2010/02/19(金) 18:36:35 ID:9zoVBP470<>
 瀕死の密航者をわざわざ匿い、自身の身の危険を押してさえ錬金術にこだわるのはなぜなのか。
 ヴィクターに近づけば、それだけで生命力が奪われるのはもうすでに学習しているだろうに、いまだに数歩の距離にまで歩み寄ろうとするのはなぜなのか。
「キミに興味がわいた」
「それは光栄だ」
 男が笑う。
 そういえば他人の笑顔を見るのも久しぶりだ。彼は実に楽しそうに笑う。
「ミスター・パワード、私は君に最大限の助力を差し上げよう」
「…だが、錬金術について教えるとは言っていない」
「それについては、保留としておこう。君にも深い事情がありそうだ」
 あっさりと引かれて、ヴィクターは一瞬驚く。なんだか虚を突かれたような気分だ。
「……いいのか。私が口を割らない可能性もあるぞ」
「まず君の存在そのものが、錬金術の可能性を示している。それだけでも今の私には充分だ」
 ヴィクターは眉を寄せた。
「それにしても、この疲労感の理由くらいは、教えてもらいたいものだがな」
 額に浮いた汗をハンカチでぬぐいながら、男が呟くように言った。
「………バク…あー?」
「バクシャク、……そうだな、言いづらければバタフライとでも」
「バタフライ?」
「蝶野家は昔からバタフライをシンボルにしている」
「だから、その髭か」
「これは私の趣味だ」
「…そうか」
 妙な男だ、とヴィクターは思った。同時に、胸の内におかしみがほんの少しわいてきたようだった。
 あの悲劇の日から、忘れ去ったと思っていた温かい何かが、心の中によみがえった気がした。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

夢見すぎと罵ってくださいorz
お目汚し失礼しました。
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/19(金) 23:55:01 ID:I0E7rlcOP<> >>112
GJ!人間不信に陥ってたヴィクターが、初めてかつ唯一心を
許したのが爺様だったんだろうなあ… <> il間棒長缶1/4<>sage<>2010/02/20(土) 16:32:27 ID:Ufy50/Ur0<>
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  さらっと短め。ハードはまたね。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  お目汚し失礼。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ <> il間棒長缶2/4<>sage<>2010/02/20(土) 16:33:35 ID:Ufy50/Ur0<> 彼に呼び出されるのは初めてのことだった。
連絡が入ったのは一昨日。
もちろん極秘で聞きたいことがあるという。
昨夜は遅くまでレポートを仕上げ、少し疲れている。
今までの特/命で関わった事件をまとめ上げ、詳細を記す。
内容は全て頭に入っていた。

間棒長が缶部を呼び出したのはシティホテルの一室だった。
「缶部です。入ります」
「急に呼び出して悪かったね」
「いいえ、かまいません。大至急レポートを・・・」
「それより上着脱いで」
「は?」
「盗聴機、仕掛けられたりしてない?」
「まさか?」
「一応、確認してみてよ」
ジャケットを脱ぎ、あちこち探ってみる。
「ありません」
「後ろ向いてみて」
壁を見て間棒長を背に立つ。
後ろからベットの上に倒された。
「何するんです?!」
遠慮のない視線が上から全身に投げつけられる。
缶部は今日ここに呼び出された意味を悟った。

・・・さっさとこの部屋を出て行けばいい。間棒長は俺を力ずくでどうにかできやしない。
  その後も知らぬ顔をしてれば・・ <> il間棒長缶3/4<>sage<>2010/02/20(土) 16:34:25 ID:Ufy50/Ur0<> 「君はSなんでしょ。自分の立場はちゃんとわかってるんじゃないかしら」
その諭すような柔らかくも確信を持ったもの言いに
缶部の全身の力が少しずつ抜けていく。
・・・大公知の顔が脳裏に浮かぶ。

・・・迂闊だった。すっかり油断してしまっていた。
 特殊な仕事のせいで疲れてるのか
 今までも先輩や上司の視線には慎重に警戒し、うまく回避してきたのに
 間棒長のそれにはまったく気づかないなんて。

天井を見上げ、ため息を一つ、つく。

「間棒長に逆らうつもりはありません」

シャツのボタンが一つ一つ外されていく。
「君は頭がいいもの」
白い肌があらわになった。
首筋から下へ遠慮なく肌をまさぐってくる。
恥ずかしさに声が出そうになるのを堪える。

こんなことは初めてじゃないし、何でも無い。
逆に弱みを握ってやる。
そう頭の中で繰り返しながら、その時を声を殺して堪えた。 <> il間棒長缶4/4<>sage<>2010/02/20(土) 16:35:48 ID:Ufy50/Ur0<>  ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ヒトリデコソーリミルヨ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
お付き合いありがとうございました。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/20(土) 16:49:39 ID:XpTdZhPb0<> >>117
うわぁぁぁぁ!感傍聴缶!感傍聴の台詞がナチュラルにあのボイスで再現されました。
その後、缶は傷付いた心を隠して何でもない顔をしてラムに会いに行ったりするのかなぁと
妄想してしまいました。萌えをありがとうございます、姐さん! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/21(日) 04:32:13 ID:DKXu2efgO<> >>117
うはっ!姐さんGJ!この後がめっちゃ気になります!監房朝刊ねっとりしたエロさw
缶は今までもこんな事が度々…大変だな缶

他の人に抱かれた後でもクールな顔してラムや板に会うのかね…
板なら知ったら嫉妬が凄そう。 <> 1/4<>sage<>2010/02/21(日) 22:21:31 ID:WYqSESx/0<> 服蜜シゲユキの作品「life」(和訳)から
主人公とその仲間。若干仲間→主人公気味

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!



何し…えっ? 何、何してんだろう、僕。ていうか、あれ、駄目だ、なんか分かんないぞ……
「泣くなって、なぁ」
泣く……僕は泣いてるのか。
あ、ほんとだ。すっごい顔濡れてる。
しかもなんか、この人の胸に顔埋めてるぞ……何やってんだ僕は……

そうだ、僕は。あの子が、別に好きだなんて言ってなかったけど、あの子が可愛かったから、多分ちょっと好きで。
たまに聞く話からあの子がそんなに幸せそうな感じじゃないって分かって、それで、だから、僕が幸せにしたいとか思って。
違う…違う……分かってる。
僕は別にそんなに好きだったわけじゃない。ていうか可愛い女の子なら誰でも良かったし、
ただ僕の一番近くに居た子があの子だったから。なんかあの子は僕を裏切らないぞとか、勝手なことばっかり思って……
そりゃそうだよ、迷惑に決まってる。あの態度。あの態度!!

「うっ、うっうっう〜! ぼ、僕は、なんかもう…なんで…」
あそこ辞めたらどうするんだ。僕なんか雇ってくれるところが他にあるはずがない。
一生犬の散歩をしていくなんてまっぴらごめんだ。
一回でいいから女の子のおっぱいを思う存分揉みたい。
あと可愛い子を侍らせて街を歩きたい。でもそれはなんか僕みたいな人が可哀想だからやめよう……
「大丈夫だって、な?」
「すっすいません、ありがとうございます…」 <> 2/4<>sage<>2010/02/21(日) 22:23:12 ID:WYqSESx/0<> …そういえば、僕から押し掛けておいてなんだけど、なんでこの人こんな優しいんだろう?
最初会った時からそうだった。僕が暴れてたのを捕まえたのはこの人なのに、警察にも行かないで、付き合ってくれて。
どうやって声かけていいか分かんないから、毎回変な言い訳つけて、
「コーラ飲みましょう」とか、わけが分からないことを言ってたと思うのに、全然受け入れてくれた。
なんでだ?
顔を上げて見てみるけど、別にそんなに悪い顔じゃないと思う。いい人だし、……あれ? いい人ってだけ、か?
そうだよな、別にこの人は、お金持ちじゃない。職もない。強くもない。
コンビニのバイトだけで毎日過ごしてるんだ。いや僕はバイトもしてないんだけど。
「不安じゃない、んですか?」
ふっと僕を見下ろしてから、困ったように眉尻を下げた。この顔、何度も見たことがある。
やっぱり僕のこと、扱いにくい奴とか思ってるんだろうか。
「何度も言っただろ、不安でしょうがないって」
「じゃ…じゃあなんで、僕なんか慰めるんですか?」
「お前が出てかねーんだろ」
決して嫌悪感や怒りの混じった言葉じゃなかったけど、それは僕の胸にはグサッと刺さった。
ああ、駄目だ。こういうちょっとでも突き放した言葉でふらふらするだけ、やっぱり僕は社会不適合者なんだ……
「すいません、出てきます…」
「え? もう深夜だよ? 電車ないし」
「歩いていきます」
無理だ…僕にそんな根性があると思えない。第一出歩いたらあいつらに出くわすわけで、それだけでも辛い…… <> 3/4<>sage<>2010/02/21(日) 22:24:26 ID:WYqSESx/0<> 胸がチリチリした。またこの人と出会う前みたいに、色んな人に迷惑をかけている自分を想像した。
今度はあいつらに捕まるのか。いや、僕なら倒せるんじゃないか?
……あれ?
最初会った時、僕はどうして、この人を無視して行かなかったんだろう。
今の僕なら、見捨てる、多分……それは僕が強くなったからじゃなくて、優しくなくなったんじゃないか?
あれ? いや? 僕は優しかったのか? それはないだろ……あれだけ暴れてて、優しいとか……
「そっか」
また変な風に思考がずれていた僕に、ふわっとした声が入ってきた。
この人の声は、街のムカつく奴らと違って、音じゃなくてちゃんとした言葉に聞こえる。
「寂しくなるな」
寂しく……なるって。

「……僕、あなたにとって、必要な人ですか」

………ハッ
な、ななな、何を言ったんだ僕は! 必要な人ですかって! 気持ち悪いだろ普通!
なんかもう、面接でも聞かないよそんなこと! ああああ、やばい、顔見れない、に、逃げよう!
「うん」 <> 4/4<>sage<>2010/02/21(日) 22:26:15 ID:WYqSESx/0<> 「………え?」
慌てて背中を向けた僕に、肯定の言葉が聞こえてきた。幻聴、じゃないよな?
「正直、お前と会ってから、めんどくさいことが色々あったけど、結局またこうやってコンビニでバイトしてるし。
 …あの子も、おじさんも、居なくなっちゃってさ。だから俺が手に入れたのは、お前だけだよ」
あっいや手に入れたって図々しい言い回しだけど、と何やら訂正が入ってくる。だけど僕は全然その言葉を聞く気になれない。
だって僕は、全然、仕事とかできないし。家族からもなんか奇異な目でしか見られてないし。女の子とも話せないし。
おっぱいどころか手も繋いだことないし。あったとしても不意打ちだし。
「ぼ、僕は……」
「うん」
「…うっ。う、うっ、うわあ〜ん!」
「あああもう泣くなって、男だろお前」
ぐしゃぐしゃと頭を掻き回された。優しい。どうしよう。
女の子だったら絶対好きになってるとか結構前から思ってたけど、もう普通に好きだ。
人間性とかそういうところが本当に好きだ。ホモじゃないけどこの人は好きだ。
「俺明日もバイトだからさ、ほら、もう寝ようぜ」
駄目だ、僕は……もうなんか、色々と駄目だ……
頼むからこれ以上優しくしないでほしい。あっでも冷たいこと言われるのも嫌だ。とりあえず、なんか……
………バイトでも、探そう。
「おやすみ」
数年振りに聞いた言葉に、僕はまた泣きそうになっていた。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

続き知らないからよく分からないけど、とにかく萌える…
どこかに同志が居ることを期待します。続編楽しみ。 <> 霖雨1/8<>sage<>2010/02/24(水) 01:10:03 ID:LxGg8mwFO<> |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの飛来×武智。気が迷いまくってエロがアル。


痩せた、と思った。
その日、雨は夜になっても降り止まなかった。
帰り仕度をする為に、人気の無くなった道場の引き戸を締めてゆく。
そして振り返った背後の神棚の前に一人座す武智の背中を見留めた時、飛来は思わず胸の内で
同じ言葉を繰り返していた。
痩せた。
見間違えではおそらくない。
もともと背が高いのもあって、けして恰幅良く見える体格の人ではなかったが、それでも
この所の一目見て線細い印象は、もはや誤魔化しが効くものでは無くなってきているように思える。
原因は何か。
思いあたる事は多々あった。
江戸に来航したと言う黒舟。国を開いた幕府。
その弱腰に憤りながらも、どうする事も出来ないこの国の下司の焦燥感。
そんな中でこの人の肩にかかる皆の期待は大きい。
才高く、人望も厚い。
だから信奉し、集ってくる者達の中には、しかし自らの思考を止め、安易にすべてを委ねようとする
輩も少なくない。
そんな者達は撥ねつけてしまえばよいのに、と自分などは思う。
しかしこの人はそのすべてを受け入れ、抱え込もうとするから。
そして人一人ではどうする事も出来ない壁に当たり……追いつめられていく。
「先生、戸締りはわしがしておきますきに。雨も強うなってきましたから、今日は戻られて下さい。」
胸が詰まるような、そんな想いを振り払うようにわざと明るく飛来は声をかける。
けれどそれにも武智が振り返る事はなかった。
「いや、わしはもう少しここにおる。おまんこそ今日はもうええぞ。」
代わり、道場内に通った静かな声。
それに飛来はまたしても思う。 <> 霖雨2/8<>sage<>2010/02/24(水) 01:11:19 ID:LxGg8mwFO<> いつの頃からだろう。この人が家に戻る時間を徐々に遅らせるようになったのは。
そして……いつからだろう。
この人の雰囲気が、今にも切れてしまいそうな糸のように、張りつめたものになったのは。
「先生、いかんちや。戻って休んでください。なんやここんところ顔色が悪い。
なんならわしが家まで送りますきに。」
適当な理由を付け、なんとかここから去らせようと思う。
そしてゆっくりと背後に近付きその手を伸ばせば、しかしそれはこの時、気配を察した武智から
手厳しい反撃を喰らった。
「ええ言うちょるやろっ」
鋭い語調と共に、差し出した手を払われた。
その勢いの強さに飛来が驚く。しかし驚いたのは自分だけではなかったようだった。
「…………っ…」
無言のまま振り仰ぐように向けられた、武智の顔にもこの時、自らの行為に驚いたような
色が浮かんでいた。そして、
「すまん…」
短な謝罪と共に、振り返りざま立ち上がろうとしてくる。
立てられる膝。
しかしその体はこの時不意に、飛来の目の前で落ちるようにその均衡を失った。
<> 霖雨3/8<>sage<>2010/02/24(水) 01:14:52 ID:LxGg8mwFO<> 「武智さん?!」
咄嗟に名が出、腕が出ていた。
斜めに崩れ落ちようとする体を受け止めようとする。が、目眩を起こしたらしいその体はこの時
ひどく重く、それゆえ飛来は腕にした武智ごと自分も床の上に激しく倒れ込んでいた。
ガツッと嫌な音を立てて肘を打ち、それでもその腕の中に巻き込んだその人の頭を庇う。
そのままの体制でしばし痛みに耐え、痺れにも似たそれがようやく治まったと思ったと同時に声が出た。
「大丈夫ですかっ、武智さん!どこか打っちょりませんか?!」
慌てて体を起こし、確認する為にその顔を覗きこもうとする。
道場の中は暗かった。
外は雨。蝋燭の灯りはすでに消されており、体を起こせばその分だけ床に重なる影の闇が濃くなる。
その向こう、この時武智からの返事は無かった。その代わり、
「……いて…くれ、…じろう……」
耳に届いたのはどこか震えるような、掠れた声。
はっきりとは聞き取れず、だからもう一度聞き直そうとする。
しかしそんな飛来に、武智は今度は下からその腕を伸ばしてきた。
「どいてくれっ…周二郎…っ」
白い道着からまっすぐに伸びた手が、迫っていた飛来の肩を押し返そうとしてくる。
突っ張るような力を込めて。しかし驚いた飛来がそれに咄嗟に反応出来ずにいると、その手は
やがて形を拳に変え、強い力で数度自分の肩先を叩いてきた。
「どけっ!」
もはや頼む体裁をも失った口調で叫ばれ、眼下で激しく身動がれる。
それは飛来がこれまで一度として見た事が無いような、武智の取り乱し方だった。
だから呆気に取られると同時に、飛来は思わず反射的にその腕を取り押さえようとしてしまう。
「どういたがですか、武智さん?落ち着いて下さい!」
振り上げられる手首を掴み、なんとか気を静めさせようとする。
けれど暴れる者の力と言うのは片手間に抑えられるようなものではなくて。
「武智さん!」
気付けば叫ぶ激しさと同じ全身の力で、飛来は捕らえた武智の手首を道場の堅い床板に押し付けていた。 <> 霖雨4/8<>sage<>2010/02/24(水) 01:17:11 ID:LxGg8mwFO<> 「しっかりしてつかあさい!」
身を伏せるような姿勢でもう一度大きく訴える。
しかしそんな飛来の懇願も今の武智には届かず、そのままどれくらい同じ体勢で固まっていたのか。
「いや…じゃ……」
不意に聞こえた小さな呟き。
それにハッと飛来が反射的に上半身を起こすと、そんな己の下で武智はこの時、それまでの
極度の緊張からか、ぐったりと力を失ってしまっていたようだった。
そんな様子の中、まるで覆い被さる影から逃れようとでもするかのように反らされた横顔の、その歯の根が
合っていないのがわかる。
痛々しいほどに張りつめていた糸が、完全に切れてしまったかのような姿。
それに飛来は瞬間、早く上からどかなければと思った。
本当にそう思った……なのに体はなぜか、僅かなりとも動こうとはしてくれなかった。
尊敬。憧憬。崇拝に近い思慕。
長年近くにありながらけして手が届かないと思っていた存在の、脆く崩れた姿を目の当たりにした時、
そこに沸き上がったのは物狂おしいような愛しさと……それさえも通り越した先にあった欲望だった。
だから思う心とは真逆に、ゆっくり手首から離された飛来の手はこの時、半ば無意識の動きで眼下にあった
白い道着の襟元にかけられる。
そのまま抗う間を与えず、それを左右に乱暴に肌けると、夜気に晒した首筋に吸い寄せられるように
顔を埋めた。
我を忘れたように夢中で貪る、初めて触れた肌の感触。
「やめ…っ…周二郎、やめいっ…」
体の下から再び弱々しい悲鳴が上げられても、己の中の衝動を止める事が出来ない。どころか、
何をされるのか、この人は知っている。
それに気付けば耳に届く悲痛な叫びは、飛来にとってむしろ激しい煽りとなった。だから、
「……酷うは、しませんきに…」
囁いた、もう止められない自分の欲望。
そして腕を回せば痩せたとはっきりわかる体を強く抱き締めれば、それに武智はこの時、
ただ絶望したような息を呑んだ。
<> 霖雨5/8<>sage<>2010/02/24(水) 01:19:15 ID:LxGg8mwFO<> 男の言葉など当てにはならない。
大切に優しくしたいと思う心が、触れる傍から崩れてゆく。
「あ……ひぁ…っ…ん…」
引き下ろした道着で腕を後ろ手に取られ、抗いもままならない武智の体を、飛来は貫く。
指と舌で丹念に慣らしはした。
それでも長年自分の中に積み重なっていた劣情は、一度堰を切ればもはや止める事が出来なくて、
衝動のまま膨らむ怒脹を性急に受け入れさせれば、狭いそこは途端軋むような震えを帯びた。
きつい強張りに、半ばも行かぬうちにそれ以上進めなくなくなる。だから、
「ゆっくりでええですきに、力を抜いてつかあさい。」
宥めるように告げ、飛来は抱く相手のその頬に片手を寄せた。
しかしそれにも武智はただ荒い息を吐き、応えようとはしない。
その様にはもはや拒絶する力が無いだけで、けして受け入れている訳ではないのだと言わんばかりの
武智の心が伝わってくる。
だからそれに飛来は焦れた。
一つを手に入れれば、次が欲しくなるきりの無い欲。
体の奥底から突き上げてくるそんな暗い感情に煽られるように、飛来はこの時自分の体を起こすと
組み伏す武智の腰の下にその腕を回していた。
力を込めて引き上げ、座した自分の膝の上に抱えあげる。
途端、解かれていなかった繋がりが一気に自重で深くなり、それに武智が声にならない悲鳴を上げる。
仰け反る肌に緊張が走り、本能的に逃れようとその身が捩られる。
けれど飛来はそれを許さなかった。
どころか逆に引き寄せた胸元へ唇を落とすと、そこにあった突起を捕らえる。
一つは舌で。もう一つは這い上がらせた指先で。
舐め、捏ね、転がし、執拗なまでに時間をかけて腕の中の肌の緊張を解こうとすれば、それに武智の唇からは
やがて呻くような声が洩れだした。
<> 霖雨6/8<>sage<>2010/02/24(水) 01:22:09 ID:LxGg8mwFO<> 「…ぅ…くぅ…あっ…」
固く目を閉じ頭が弱々しく打ち振られる。が、そんな拒絶の仕草も飛来が緩やかに下からの突き上げを
再開させれば、徐々にその様相を変えてゆく。
「…あ…やぁ…っ…ぁ…」
小刻みに揺さぶられ、隠せぬ艶が声に滲み出す。
体を支える足にはもはや力が入らないのか、されるがままゆっくりと体を深く開かれていく感覚に
追いつめられた肌が、手の中で火照りを帯びた。
溶けてゆく。
あらためて気付く、それはけして初めてではありえない、快楽を知る体だった。
だが飛来は今、それをどうでもいいと思う。
何があったのか、この人が語らないのならばけして聞くまい。
それでも腕の中にあるこの存在は、今は自分だけの物だった。
気付けば貫く楔を根元まで受け入れ、熱い襞を無意識に絡みつかせてくる武智の腰が、飛来に
同調するように揺れ始めていた。
それを受け止めながら飛来はこの時、武智の後ろ手に纏わりついていた道着をその手首から抜いてやる。
自由になった手が自分にどう向けられるのか。
拒まれるか、縋られるか。
果たしてその指はその時、彷徨い辿りついた肩先に強く爪を立てた。
「あぁ……ぁ…あっ…」
重ねる肌に胸と下腹部の熱を擦られ、あげる喘ぎを懊悩とした啜り泣きに変えてゆく武智に
引きずられる様に堕ちる、重く甘い泥の中を這い回るような快楽。
「武智…さん…っ…」
名を呼び穿つ、その内襞に逆に強く締め付けられ、飛来は刹那堪え切れなかった己の精を
武智の中に放っていた。
奥深くまで注ぎ込まれる、その熱い感触に腕の中の武智の体が跳ねる。
と同時に武市の欲もこの時、短な悲鳴と共に重ねた互いの腹の間で弾けていた。
抱き止めた背筋に走る一瞬の強張りと、その後に襲う脱力感。
崩れる。
そう思った瞬間、飛来は武智の唇が動くのを見た気がした。
微かに開かれた、その隙間から零れ落ちたのは人の名らしきもの。
自分のものではない。ならばそれは誰のものなのか。
この時の飛来に、その答えを知るすべは無かった。 <> 霖雨7/8<>sage<>2010/02/24(水) 01:24:34 ID:LxGg8mwFO<> 引き戸を開ければ、外の雨は尚も強く降り続いていた。
しかし飛来はこの時、そんな雨に濡れるのも構わず庭へ下りると、井戸の蓋を外し、手にしていた桶に水を汲む。
そしてその中に自分の手拭いを浸すと、足早に道場の中へと戻った。
足を踏み入れたその先に、武智はいた。
灯りの無い道場の薄暗い闇の中、起こした上半身に掛けられている白い道着こそひどく着崩れてはいたが、
その背には数刻前と同じ、孤高とした空気が戻っている。
だから飛来はそれに気圧されるように、少し距離を置いた背後に座すと、手の桶を静かに差し出していた。
「…使うてつかあさい。」
懸命に声を絞り出す。
しかしそんな自分に返される彼の声は、この時無かった。
ひどく居た堪れない。
自分がそんな事を思う資格は無いのかもしれないが、それでも落とされる沈黙はまるで針の筵のようで、
飛来はしばし歯を食い縛ると、ついには耐えられぬようにその場から立ち去ろうとする。
「戸締りをしてきますきに。」
だからその間に、と逃げを打つ。
そのずるさが伝わったのだろう。
「…わしは…ええ…」
不意に耳に届いた細い声。それに飛来がハッと顔を上げると、武智はもう一度、しかしけして後ろを
振り向かぬままその言葉を発してきた。
「おまんが…使え…」
「……………」
「きれいな体や、無かったろ。」
汚れたのはむしろそちらの方だろうと、暗に告げられた言葉の語尾に自嘲の色が滲んでいるのがわかる。
だからその響きに飛来は刹那、胸に切り刻まれるような鋭い痛みを覚えていた。
すぐ否定の言葉を告げたかった。ただひたすらに謝りたかった。
しかしそれはこの人を更に深く傷つけるような気がして、ままならぬ想いに手が膝の上、きつく拳を握る。
それでも……このまま黙っている訳にはいかない事もわかっていた。
だから、
<> 霖雨8/8<>sage<>2010/02/24(水) 01:26:37 ID:LxGg8mwFO<> 「武智さん……」
名を呼び、膝立ちに身を起こす。
静かに迫るその背後、起き上がる事は出来てもそれ以上の力は入らず、投げ出されたようになっていた
武智の手の上に、この時飛来は自分のそれをそっと重ね置いていた。
脅えられるのは覚悟の上だった。
実際、触れたその甲には瞬間、隠しきれない震えが走る。
咄嗟に引かれかける。けれど飛来はそれを瞬間握り込む事で逃がさなかった。そして、
「側に……おらせてつかあさい……」
懇願した。
この人が汚れているなどとは思わない。思うはずがない。
だから、多くは望まない。いや、もうこれだけでいい。
近くで声を聞き、目に姿を映し、それを見守る事が許されるのならば、自分は……
重ね、上になった己の手の甲に身を折る様に額を押し付け、飛来は祈る。
「後生ですきに…」
繰り返す。その願いに、それでも武智は初め何も応えなかった。
ただ凍ったように、その姿勢を正し続ける。
頑ななまでに清冽に。けれど、
「………じゃ…」
それがほんの一瞬、揺らぎを見せた。
辺りは外降る雨の音に満ちていた。
強く、単調に、いつまでも。
その音の帳に密かな呟きが滑り落ちる。
「おまんは……阿呆じゃ…」
力無く、そこには怒りも嘲りも無く。
ひっそりと零された武智のそのいっそ幼い声の響きに、飛来はこの時、胸の奥深く誓いを抱く。
許されるのならば、そばにいられるのならば。
自分はこの人の為にどんな事でもしよう。
それが例え……人の道から外れる事であったとしてもだ。
顔は見ず、ただ手だけを重ね、二人静かに身を沈める闇の底。
聞こえる雨の音は、いまだ止む気配を見せなかった。
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/24(水) 01:28:10 ID:LxGg8mwFO<> □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
書き終わってから、同じシュチュでも爽やかに起き上がるのがリョマ。
ガッツリいくのが飛来だと気がついた…
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/24(水) 01:32:53 ID:FDEVVhcn0<> >>132
うおーリアルタイムで初めてみた
姐さんもしかして二作目ですよね……?違ったらごめんなさい
とりあえず801小説で萌えるより泣くとは思わなんだですw
文章上手いなあ。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/24(水) 19:54:06 ID:o1AQ+AofO<> >>124
どうわあああああ!!泣き萌えた!
帰宅して早々素晴らしい作品見せてくれてありがとう姐さん。
テンテーせつないよテンテー。でも萌える。
ガッツリいくんだな飛来w <> 猿とシラミ 1/7<>sage<>2010/02/26(金) 23:29:27 ID:CgKN7Hsz0<>                ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 生 ||             ∧(゚Д゚,,) < 某国が801と八百長を
        //_.再   ||__           (´∀`⊂|  < 勘違いしたのに便乗
        i | |/      ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ〜
         | |      /  , |           (・∀・; )、 < 動物の猿と昆虫のシラミ注意
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!  ※Not擬人化
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
  /    ゙  /  /   /                    ||
 | ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./   /                 /,!\
 |         |   /                   `ー-‐'´
 |         | ./
 |_____レ"                                        
                                        

↓が元ネタ(?)です

1 名前:Koreans[] 投稿日:2010/02/25(木) 21:36:06 ID:xYgtXhR90
Hey Monkey
Do you know that japanese' nickname is a MONKEY
Don't know? Yet? Oh my god
Eat your lice in your hair! wwwwwwwwwwwwwwwwwww                                       <> 猿とシラミ 2/7<>sage<>2010/02/26(金) 23:29:57 ID:CgKN7Hsz0<> プチッ、プチッ。
猿は頭に手をやっては、毛のあいだから器用にシラミの卵をこそげとる。目のまえに
もってきて、白い粒をみつめると、歯と歯でプチンとつぶして食べる。
孵ったシラミをつかまえることもある。そんなときは、虫をつまんだ指を口にあてて、
舌でペロリと舐めてとる。小さなちいさな虫が、舌の表面でうごめく。くすぐったいとさえ
いえない、かすかな刺激が粘膜につたわる。
猿は舌で、クチュリとシラミをおしつぶす。
頭に飽きると、つぎは頬。肩に腕、胸、足。猿の指が毛にもぐる。長い指をのばした先に、
シラミのいないためしはない。
ぴちゃぴちゃシラミを味わいながら、猿はときおり目を細める。まるで秘め事の最中の
ような、ぼんやり霞んだ顔をする。 <> 猿とシラミ 3/7<>sage<>2010/02/26(金) 23:30:29 ID:CgKN7Hsz0<> たまには猿が、シラミを放っておくこともある。満腹だったり、ヒラヒラ舞う蝶にずっと
気をとられたりで、指が仕事を忘れるときがある。
するとちっぽけな虫けらは、罰するように猿を刺す。
しっかと脚が猿をつかむ。シラミの口から、三本の棒が勃ちあがる。濡れた先端を
熱い肌に押しつけて、爪を皮膚にくいこませて、シラミは体を震わせる。
ずるりと、口器が猿の中にさし挿れられる。鋭い針が穴をあけ、えぐって無理やり
おし広げて、ゆっくり猿に入っていく。
穴の縁に血がにじむ。シラミの咽頭が、飢えたように動きはじめる。
皮膚がヒクッと脈打って、体液がこぼれた。猿の放ったものが管をつたい、シラミは
その液をすっかり呑み干した。
それは一度で終わらない。猿の体中を、無数のシラミが蹂躙する。腹をこすりつけ、
体液をしぼりとり、かわりに自分の分泌物を猿の体内に注ぎこむ。集団でくりかえし
猿を犯しては、犯した証の卵を産みつけてゆく。
強烈なかゆみに猿が耐えきれなくなるまで、シラミは猿をさいなみつづける。 <> 猿とシラミ 4/7<>sage<>2010/02/26(金) 23:30:59 ID:CgKN7Hsz0<> 猿の指が役目を思い出す。
白い卵をつまみとり、からかうように逃げまどう虫をとらえては、ぬめった舌にこすり
つける。
プチッ、プチン。
ペロぺロ、クチュリ。
コックン。ゴクン。
シラミだけで、猿の腹がみたされるわけはない。それでも、どんなエサをさがすより
多くの時間を、猿はシラミを食べてすごした。シラミは猿に食べられてすごした。
山の奥の岩の上、木々にかこまれた日だまりのなか、猿とシラミは蜜月のような
時をもっていた。それは猿が歳をとり、もしくはほかの獣の牙にかかって、命をなくす
そのときまで、ゆるやかにつづいてゆく日常のはずだった。 <> 猿とシラミ 5/7<>sage<>2010/02/26(金) 23:31:24 ID:CgKN7Hsz0<> ある日、猿はいやな気配をかんじた。
騒がしさと、雑多な色と、ツンとする火薬の臭い。
ヒトの集団だった。猿はいそいでその場から遠ざかろうとした。
そのとき、脚が燃えた。灼熱とともに、はじけた。
咆哮がほとぼしりでた。
なにが起きたのかわからなくて、猿は本能のまま、いやな気配から逃れようとした。
けれど、ヒトに捕まえられた。暴れようとしたけれど、下半身がうまく動かなかった。
視界がもうろうとしていた。腕に力が入らなくて、相手をひっかくことさえ満足にできなかった。
やがて猿は気を失った。
猿は、鳥を狙った人間に、誤って撃たれたのだった。
猟銃を発射した人間は、罪の意識から猿を家に連れ帰り治療をした。猿は命を
とりとめたけれど、以前のように速く走ることも高く跳ぶことも、身軽に木に登る
ことさえできなくなった。
猿は檻の中で飼われることになった。
猿は、自分になにが起きたのか、まったく理解できなかった。それでもおかれた状況に、
徐々に慣れていった。もっと動きたいとかんじることもあったけれど、軽く跳ねただけで
鈍い痛みがはしる脚では、その気持ちもすぐに萎えた。
人間に飼われ、エサをやられ、親しげに声をかけられる暮らしは、とくにいいものでも、
いやなものでもなかった。 <> 猿とシラミ 6/7<>sage<>2010/02/26(金) 23:31:50 ID:CgKN7Hsz0<> けれどひとつだけ、慣れないことがあった。
人間は、猿を清潔にした。猿を洗い、さまざまな粉をふりかけて、毛を梳いた。
猿が頭に指をやる。さらりとした感触がある。なめらかな毛並みのどこにも、なじんだ
卵の感触はない。おおきな手で全身を叩く。どこからも、白い虫はこぼれてこない。
長いあいだ、わざと寝ころんでいた。以前ならすぐに体のあちこちを襲ったかゆみは、
かけらもおとずれはしない。
シラミはいなくなってしまった。卵の湿り気もまるみも粘りも、しっとりやわらかな虫の体も、
みんなどこかへいってしまった。
猿はとほうに暮れた。檻に体当たりして、エサをぶちまけて、吼えて啼いて乞うたけれど、
なにももどってこなかった。
あの極小の白い虫。
皮膚にぴたりとよりそい、ときにざわざわと這い、ときに猿を咬んだ。猿の体液だけを
すすって生きて、猿の体表が世界のすべてだった。そのシラミは、猿以外の生き物に
寄生できないほど、宿主とひとつになっていた。
猿もそうあれといつも怒っていた、嫉妬ぶかい小さな昆虫。
もういない。
とりもどすすべもない。
いまも猿は、檻のなかにいる。人間にかわいがられ、不自由のない暮らしをしながら、
ぽっかりあいた空洞を胸にかかえている。陽光がその空洞に射しこみ、虚無を癒すことはない。
長い指が頭をかく。頬に肩に腕に胸。腹を腿を膝をたどる。自分で自分の全身にふれていく。
どんなにしつこく、どんなに丹念にまさぐっても――。
その指先が、愛しい相手にたどりつくことは、もはやない。 <> 猿とシラミ 7/7<>sage<>2010/02/26(金) 23:32:25 ID:CgKN7Hsz0<>                ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 止 ||             ∧(゚Д゚,,) < お目汚し失礼しました!
        //, 停   ||__           (´∀`⊂|  < 読んでくださった方は
        i | |,!     ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ〜
         | |      /  , |           (・∀・; )、 < ありがとうございました!!
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
  /    ゙  /  /   /                    ||
 | ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./   /                 /,!\
 |         |   /                   `ー-‐'´
 |         | ./
 |_____レ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/27(土) 00:13:00 ID:Wb4ops0p0<> >>141

ちょwwww姐さん鬼才すぐるwwwwww
ほとばしるエロスに萌えていいのか笑っていいのか分からないよ…!!
濡れ場もないし猿とシラミなのに完全にやおいだ!! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/27(土) 00:22:54 ID:BbTxzMBc0<> >>141
感心した。すごいなあんた。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/27(土) 01:27:20 ID:fRNJLpb40<> なんだろう、天才を目の当たりにした気分だ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/27(土) 11:22:17 ID:lSKQkq4U0<> なんだ、ただのネ申か
<> SJヒトヒメ 1/8<>sage<>2010/02/27(土) 13:48:20 ID:Baugfw6u0<>                     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  真・女神転生SJ、ヒトナリ×ヒメネスだよ
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  ぬるいけどエロあり
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  | <> SJヒトヒメ 2/8<>sage<>2010/02/27(土) 13:50:05 ID:Baugfw6u0<>  仕掛けたのは、俺からだった。
 下手すりゃ一つのセクター攻略に何週間もかかるシュバルツバースで、何の収穫も変化もない日々を積み重ねていれば、当然、ストレスは蓄積されるし、ストレス以外のもんも溜まる。そいつを解消したいと思うのは、自然なことだ。そうだろう?
 従軍中なら女は割かし容易く手に入ったが、地上かどうかさえ危ういシュバルツバースじゃ、そういう訳にもいかない。だからといって艦の女どもに頼み込むのも癪だったし、大体、俺は、この艦にいる女どもとはソリが合わない。
 レッドスプライトに拾われてもう結構な日にちが経つが、未だに女どもは、俺を遠巻きに、泳ぎっぱなしの目で見てくる。そんな女を口説く気になれる男がいる訳ない。いるなら、そいつは、単なる馬鹿だ。生憎、俺はそうじゃなかった。
 だから、発想の転換が利いた。別に女じゃなくたっていい。そう考えたら、あっさり足は、奴の部屋へと向いていた。
 タダノヒトナリ。豊かな国からお出でになられたエリート様。言ってしまえば俺の最も嫌いな人種にある男を、それでも誘う気になったのは、興味半分、面白半分。いかにも遊び慣れてない朴念仁といった雰囲気の、奴に俺みたいな人間の中身を見せてみたかった。
「俺だ。いるか?」
「開いている」
 ドアを叩けば、抑揚のない、だが流暢な英語が返る。スイッチを押してドアを開けると、相変わらず表情のない顔(奴の国では「ノウメン」とか言うらしい)をして、ヒトナリはベッドに腰掛けていた。傍らには銃のパーツが丁寧に並べられている。
「忙しそうだな」
「いや。もう済んだ」
 言葉のとおり、ヒトナリの手は、瞬く間に銃のパーツを元の形に組み上げていく。
 こいつが意外に実戦向きだということは、拾われた日に解った。ブルージェットの墓場まで俺を救出に来たこいつは、ゴアを殺されたことには当然、衝撃と怒りを覚えたようだが、それを即座に飲み込んで、あっという間に悪魔を倒した。
 矢継ぎ早に繰り出されたのは、精密な攻撃と、的確な指示。普段は淡々と、いっそ眠そうな響きさえ含んで喋る声は、大音声のレベルまで上げられ、奴の仲魔を叱咤した。 <> SJヒトヒメ 3/8<>sage<>2010/02/27(土) 13:50:51 ID:Baugfw6u0<>  この男に対する嫌悪は、あのときから崩れ始めた。こいつは根っからの軍人だ。それも戦場に馴染んでいる。あの平和な国でどうして経験を積めたのか知らないが、少なくとも基地に篭もって、ひたすら無線を握り締めてるタイプじゃないのはよく解った。
 おもむろに奴の前まで歩き、間近に至って立ち止まる。天井の照明が背中に当たって、ヒトナリの上に影を作った。
 ゆっくりと、まるで驚いた様子なく上げられた顔を見て、にやりと笑う。腰に手を当てて軽く屈むと、唇に唇を押し当てた。
「しようぜ」
 頭のいい男は、流石に理解が速かった。
「セックスを? お前とか?」
「ああ」
「どうして俺を相手に選んだ」
「日本人のはサイズはアレでも、硬さは半端じゃねえって聞いた。本当かどうか、俺が直々に、確かめてやろうと思ってな」
 股間に手を伸べ、撫でさすっても、ヒトナリはまるで動じなかった。じっと、瞬きの少ない目で、真正面から俺を見つめる。
 ああ、もしかすると、俺はこの、正面切って向けられる視線に飢えていたのかもしれない。
「心配ないぜ、下になるのは俺だし、それなりにリードもできる」
「経験があるということか」
「何なら語って聞かせてやろうか」
 脚の間に跪き、だらりと両腕を持ち上げて、しなだれかかる女のように、ヒトナリの首の後ろに廻した。少しだけ開けた唇の隙間から舌先を覗かせる。
「膏薬くらいは持って来てるぜ。お前はそいつで穴をほぐして、突っ込むだけで終了だ」
「具合は保証できるのか?」
 思わず口笛が出た。
「その手の冗談も言えるんだな」
「冗談で始めて冗談で終わりたいんだろう」
「ご明察」
 ちゅ、と安っぽい音を鳴らして、奴の唇の脇に吸い付く。
「冗談じゃなきゃ、悪い夢でも構わないがね。どうするよ?」
 この一言で、立場は変わる。俺の酔狂が、ここから先は、エリート様の酔狂になる。
 そのことを恐らく完璧に察知し、理解した上で、それでも奴は、ヒトナリは、俺の挑発に乗ってきた。 <> SJヒトヒメ 4/8<>sage<>2010/02/27(土) 13:53:01 ID:Baugfw6u0<> 「おい、……ヒトナリ、もう、」
 唾液で緩んだ膏薬がぐちぐちと鳴っている。日本人ってな繊細な、もとい、細かい人種だと思っちゃいたが、ここまで懇切丁寧にやるとは思っていなかった。
 俯せにされてから二十分。もう二十分も、延々と、後ろばかりを弄られている。組み上げた銃を払い落とし、俺をベッドへ一気に組み敷いた男とは、まるで別人だ。
 まず周りを揉みほぐし、穴に膏薬を塗り込んで、一気に拡げるのかと思えば、指先だけを挿れられた。そこから指が奥に至るまで十分、増やされるまで十分。
 痛みどころか異物感さえほとんど感じないようにして、じわりじわりと拡張される。両利きらしい奴の左手は前も弄ってくれてはいるが、萎えない程度にしているだけで、イかせようという気は感じられない。
「てめえ、いい加減にしろ……ッ」
 はっきり言って、穴なんて、たいして感じるもんじゃない。女はそこに引き込む必要があるから感じて当たり前だが、男の場合は「付いてた場所を無理やり使ってる」訳だから、感じろってのが無理な話だ。
 実際、そろそろ飽きてきた。傷付けないよう気遣ってくれるのは実にありがたい、ありがたくて涙が出るが、慣れてるのは宣言済みだし、少しくらい切れたところでたいした問題じゃない。
 そもそも俺は溜まってるものを抜きに来たんであって、後ろを撫で続けられるためにこいつを訪ねて来たんじゃない。
 大体、こいつはどうなんだ。
 首を捻って見た顔は、いつもどおりの「ノウメン」で、欲情も焦りも感じられない。いや、欲情しろってのは無理かもしれないが、溜まってるのは同じのはずだ。
 ヒトナリは俺と違って女のクルーたちにも人気が高いが、それに胡坐をかいて自由にしているという話はまったく聞かない。むしろ「あいつは性欲ってものがないんじゃないのか」と囁かれるほど、女に対して優しく、平等で、紳士的で、そして、素っ気ない。 <> SJヒトヒメ 5/8<>sage<>2010/02/27(土) 13:54:14 ID:Baugfw6u0<>  それでも男である以上、このシュバルツバースでの生活を経て、溜まらない訳がない。
 だから、挑発さえ成功すれば、こいつは「ノウメン」を脱ぎ捨てて、人間らしい欲を見せるかもしれないと思っていたのだが、こうも延々と続けられると、性欲がないという噂にも信憑性が出てくる気がする。
 もしかしなくても、かなり面倒な男に仕掛けてしまったか。
 萎えそうになるが、やはり丁寧に前を扱く手が、それを許さない。吐き出す息ばかりが熱い状況にうんざりとして、この野郎、蹴り飛ばしてやろうかと身じろいだときに、そいつは聞こえた。
「動くなよ」
 淡々と、小さな声で、しかし仲魔に命じる強さで言われた台詞に、一瞬、凍る。同時に、指の一本が、ごく浅いところを引っ掻いた。
「あ……?」
 じわりと、水に落としたインクが瞬時に溶けて広がるように、そこから全身に染み出したのは、紛れもない快楽だった。
「な、に……ッ」
「ここか」
 ヒトナリが合点したように呟いた。そして同じところを今度は指先で押し、強く捏ねる。
「ひ……ッ」
 途端に全身を刺激が駆け抜け、足が張った。僅かに隆起しているらしいそこをこりこりと弄られるたびに、爽快感には程遠い、しかし確かな快楽が、体の内側から外側へ向かって、脈打つように生まれる。
 ありえない。何だ、こいつは。こんな話が。こいつは。まさか。
 がくがくと震え始めた体を容赦なく押さえ付けられる。何とか拒もうと思っても、丁寧にほぐされ、膏薬と唾液で完全にとろけた後ろの穴は、異物を押し出すどころか、飲み込もうとして蠕動した。
 ぐちゃぐちゃと遠慮のない音を立て始めたヒトナリの指が、ただ一点だけを突き、引っ掻き、押し潰す。 <> SJヒトヒメ 6/8<>sage<>2010/02/27(土) 13:55:07 ID:Baugfw6u0<> 「うぁ、あッ、そこ、や、そこ、やめ……ッ! ひ、あ、ぁあ……ッ!」
 嬌声と呼ぶにはあまりにも色気のない声で喚き散らす。逃げを打とうと暴れても、俺より重さのあるヒトナリの体が乗ってきて、それを許さない。いつしか前を離れていた左手でも押さえ付けられ、俺はもう何もすることができず、ただ腰を振って悦がり乱れた。
「あ、ひ、やぁ、あぁ……ッ!」
 狂う、と思った。おかしくなる。変になる。抱いた女の何人かはそういった台詞を口にしたが、俺は、サービスのよくできた女だとしか思わなかった。
 セックスで気が狂うほど感じることなどありえない。セックスで得られる快楽は、溜まった情欲を解き放つ爽快感の類いであって、頭に血が上るような感覚などは生まれない。そう思っていた。思っていたのに。
「ひ、ぁ、ヒトナリ、ぅあ、ヒト、ナリ……ッ」
 もはや何も考えられず、俺は唯一脳裏に浮かんだ単語を何度も口にした。もう体に圧し掛かる重みまでもが気持ちいい。背中を舐められ、首筋を噛まれて、がくりと頭が仰け反った。ぐちゃぐちゃと鳴り続ける水音が耳に入って痺れを生む。
「ここにいる」
 その痺れの中で、誰かが低く囁いた。
「ここにいる。ヒメネス」
 理解できたのは、自分の名前だけだった。
 ひどく心地いいその声が耳を通って体内に入り、体の芯に至ったところで、俺は射精しないまま達した。 <> SJヒトヒメ 7/8<>sage<>2010/02/27(土) 13:55:42 ID:Baugfw6u0<>  結局、あのあとヒトナリは、達したばかりで痙攣していた俺の体を引っくり返すなり、またしても別人みたいになって、奥まで挿れると、散々に突き上げた。俺はこいつの肩に縋ってこいつの名前を呼びまくり、喘ぎまくり、叫びまくって、ようやく射精を許された。
 ……日本人ってな、みんなこうなのか。それともこいつが格別にアレなのか?
 ともかく、何もする気が起きず、俺は今、ベッドを占領して、ぐったりとくたばっている。ヒトナリはというと、共用のシャワールームに行くからと言って、さっさと着替えを済ませてしまった。
(あー)
 今なら余韻を気にする女の言い分が解る気がする。穴でイかされると、だるい。爽快感とはまるで違った、粘っこい何かが体に残る。これではセックスのあとしばらくは動きたくなくなるだろう。そしてとっとと動き始める男が憎ったらしく感じる。
「冗談でなければ、悪い夢でもいいと言ったな」
「……言ったか?」
「ああ、言った」
 ベッドの脇まで寄ってきたヒトナリを胡乱に見上げてみる。いつでも姿勢の良い男だ。そのせいでひどく顔が遠い。
「どちらだった?」
 微かに笑った珍しい表情が気に食わない。そのくせ何か好感のようなものも生じて落ち着かない。
「どっちでもねえよ」
「なら、いい夢だったか」
「いけしゃあしゃあと言うな、くそったれ……」
 呻くと、頭に散々俺を啼かせた指が触れてきた。疎ましいそれを払いのけて、俺はヒトナリを睨みつける。
「楽になるまでここで寝ていろ。俺はラボにいる」
「当然だ、馬鹿野郎」
 そしてそのまま、靴音を立てて出て行く背中を見送った。 <> SJヒトヒメ 8/8<>sage<>2010/02/27(土) 13:56:16 ID:Baugfw6u0<>  ____________
 | __________  |
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 | |                | |           ∧_∧ ドラマCDが楽しみすぎて生きるのがつらい
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ <> 風と木の名無しさん<><>2010/02/27(土) 20:21:35 ID:uIk60paaO<> >>146
まさかこのスレでSJが読めるとは…!
前立腺開発おいしいです
ご馳走様でしたありがとう <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/27(土) 20:32:40 ID:JkZPuSI90<> >>146
いいもん読ませてもらった
おかげで途中で止まってた続きをやるモチが上がったw <> 風と木の名無しさん<><>2010/02/27(土) 21:20:15 ID:SNmyRxr90<> うあああ不覚にも萌えた <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/27(土) 21:44:04 ID:pm3i5gsA0<> >>146
グローリア!グローリア!

ここでムッツリTDN×ビッチぶってるヒメネスのSSが読めるとは…
アーサーの回線に侵入すれば監視モニターの映像がコピーできるかもしれんな

ちょっと今から南極いてくる <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/27(土) 23:45:19 ID:MPcQI8n60<> >>146
悶え死んだ
地球が滅亡しても今なら悔いは残らない <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/27(土) 23:50:03 ID:F+kIEo3E0<> >>146
死ぬほど萌えて生きるのが辛い
まさに心底読みたかったビッチぶってるヒメネスと淡々ヒトナリだった本当に有り難う
でももっともぉっと読みたいです <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/28(日) 00:09:04 ID:AINtZXfW0<> >>146
ありがとうありがとう!
本当になんかもう理想というか、キャラが好みすぎてもう…!
ありがとう…悶えました! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/28(日) 00:11:52 ID:+ou4qvC60<> >>146
涎が止まりません!ごちそうさまです!!!
キャラがたまらなかった…ウウッ生きるのが辛い <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/28(日) 18:11:28 ID:Vyp++0twO<> >>146
絶妙な距離感の二人に禿萌えました…!!
真Tへのさりげないオマージュとか、何もかもGJです! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/02/28(日) 18:40:20 ID:8WE1fp1B0<> >>146
>>162読んで真1オマージュ?としばらく悩んでやっと気付いた
カオスヒーローの最期の台詞か!
姐さん芸が細かすぎるぜ…! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/01(月) 01:00:32 ID:NV5S7WeH0<> >>146
原作知らないんだがグイグイ引きこまれた
良い作品を見せてくれてありがとう <> シュバルツバースでマターリ 1/8<>sage<>2010/03/02(火) 19:18:15 ID:IQwlwHpG0<>                     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  真・女神転生SJ、ヒメネスとバガブーとヒトナリだよ
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  バガブーの「フレン」発言についてkwsk考えたらこうなった
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ レンゾクトウカ ゴヨウシャネガウ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  | <> シュバルツバースでマターリ 2/8<>sage<>2010/03/02(火) 19:19:40 ID:IQwlwHpG0<>  艦の中では、仲魔の召喚は、基本、禁じられている。
 しかしヒメネスにはその「基本」に従う意思がまったくない。一部の「うるさいの」が声高に騒ぐ悪魔の危険性を、悪魔に限った話ではないと考えているからだ。
 シュバルツバースで出会った奴らは、悪魔といっても見た目や性格は人間と同じくさまざまで、羽根を生やした美少女が、隙あらば脳味噌を吸おうとしたり、どろどろぐちゃぐちゃのスライムが、意外に気のいい奴だったりする。
 話せば解る奴もいるし、話しても解らない奴もいれば、そもそも話をする気なんてまったくない奴もいる。
 つまり、悪魔は人間と、何一つとして変わらないのだ。そう考えれば召喚を禁じるなどと馬鹿げている。いつか犯罪を起こすかもしれないからという理由で、一般人を監禁すれば、その方がよほど犯罪だ。
 悪魔と人間、両者の間に、線を引く理由は一切ない。互いに気が合い、尊重し合えば、悪魔と人間はいい隣人でいられるし、友人にもなれる。少なくともヒメネスは、そう感じたし、そう信じている。
 だから!……と真剣に演説をぶつのも面倒臭いので、ヒメネスは皆から良い印象を持たれていないのをいいことに、好き放題にバガブーを呼び出しては連れ歩いている。
 くだんの「うるさいの」も最近は遠巻きに愚痴るだけになった。勿論、愉快ではないが、耳許まで来てキンキンと騒がれるよりずっといい。
 そういう訳で、今日もヒメネスは、バガブーを連れて艦内を自由に歩き回っている。廊下で擦れ違ったのは機動班のクルーばかりで、ほかのクルーたちよりも悪魔に親しんでいる彼らは、概ねヒメネスの考え方に好意的、且つ、共感的だ。
 よう、バガブー、などと声をかけ、頭を撫でたりもしてくれる。バガブー自身も優しくされるのに満更ではないようで、黒い尻尾を振りながら、心地好さそうに触れられていた。 <> シュバルツバースでマターリ 3/8<>sage<>2010/03/02(火) 19:20:58 ID:IQwlwHpG0<>  そんな「社会見学」という肩書きを付けた艦内散歩も、そろそろ終わりに近付いた頃、ヒメネスは狭い廊下の向こうに、東洋人のクルーを見つけた。
 恐らくミッションログでも確認しながら歩いているのだろう、腕に備えたPCを見ながら、こちらに気が付くこともなく、通り過ぎるところだったので、軽い調子で声をかける。
「よ」
 気付いた男は、ヒトナリだった。持ち上げられた視線がまずはヒメネスの顔に注がれると、次いでバガブーに留まって、僅かな当惑を滲ませる。
「お前、また」
 曇ったところで、能面は、やはり能面だ。
「ゼレーニンに見られたらどうする」
「ごめんなさいとでも言っとくさ」
「何かあったら責任を問われるのはお前だぞ」
「二度としませんも付けておくかな」
「まったく……」
 眉を寄せ、嘆息するが、それ以上は口にしない。だからヒトナリは「うるさいの」の構成員には入らないのだ。そもそもヒトナリはヒメネスの次にバガブーを知る人物であり、バガブーが無害であることは、よく理解してくれている。
「バッガ?」
 自分が話題に上っていることを何となく覚ったのか、バガブーが小さく首を傾げて、ヒトナリの顔を下から覗いた。そして、元気付けるかのように、一声、大きく発する。
「ヒトナリ!」
 いつも変わらない能面を、一瞬、驚きの色が過った。珍しいものを見た嬉しさで、にやつきながら肩に凭れる。
「ブー? ヒト、ナリ?」
「ヒメネス、お前、俺の名前まで教えたのか」
「お前だけが一方的に知ってるってのも不公平だろ。それよりちゃんと応えてやれよ、こいつが不安がってるだろうが」
「ああ、悪かったな。そうだ、バガブー」
「ヒトナリ?」
「そう、ヒトナリだ」
「ブー!」 <> シュバルツバースでマターリ 4/8<>sage<>2010/03/02(火) 19:21:33 ID:IQwlwHpG0<>  間違っていないと解ったらしいバガブーが、尻尾を左右に振る。その仕草に目を細めると、ヒトナリはスーツのポケットから、チャクラドロップを取り出した。見上げるバガブーの目の前で、一つを口に入れ、一つを差し出す。
「バッガ?」
「ドロップだ」
「ドロッ……ブー?」
「一気に不味そうなものになったな……ドロップだ。ドロップ。食べてみろ」
「バー」
 かぱんと開いた口の中に、ヒトナリがドロップを放り込む。噛み合わせの良くない口がしばらくもちゃもちゃと音を鳴らすと、やがて揺れていた羽根が止まり、黒い尻尾が真っ直ぐ伸びた。
「バッガ!」
「美味いか」
「バガッ! ブー! ヒトナリ!」
「甘い、と言う」
「スィ?」
「スイートだ」
「スイッ!」
 どうやら味も言葉の響きも相当気に入ったらしい。あまり品のない音を立てながらドロップを舐めるバガブーは、ヒトナリの周りをうろうろ回り、何度も「スイッ」を繰り返す。
「理解が速いな」
「マスターがいいのさ」
「コミュニケーション能力はマスターより高そうだ」
「言いやがったな、この野郎……」
「あまり汚い言葉を遣わない方がいいんじゃないのか、マスター」
「ファッ? ジャッ?」
「どちらも覚えなくていい」
「スイッ!」
「そうだな、それにしておけ」
 まったく、こいつの悪魔扱いの巧妙さには、頭が下がる。
 「スイッ」に飽きたバガブーは、ドロップに集中したようだ。その場に胡坐で座り込み、くっちゃくっちゃと口を鳴らす。たまに涎を垂らしては手の甲で拭う姿を見ながら、ヒメネスはヒトナリに寄りかかり、なあ、と甘えて囁いた。 <> シュバルツバースでマターリ 5/8<>sage<>2010/03/02(火) 19:22:09 ID:IQwlwHpG0<> 「で?」
「ん?」
「俺にはないのかよ」
「何が悲しくて貴重なチャクラドロップをお前にやらなきゃならない」
「ケチくさいことを言うなよ、ヒトナリ。こちとらフォルマが不作でな、ここんとこアーヴィンに嫌われてるんだ」
「そうか」
 くるりと踵を返したヒトナリを再び反転させる。
「何をする」
「いいだろうが、十個くらい!」
「十個単位で要求するつもりの時点でやる気が失せる」
「心の狭い男だな!」
「広いと言った覚えはない」
「悪魔の依頼は片っ端から請けてるだろうが!」
「報酬あっての話だ」
「お前は仲間に金品を要求する気か!?」
「ヒメネス、いいから落ち着いて自分の胸に手を当てろ」
「フレン!」
 言い争いは蚊帳の外から入った声で中断した。
 視線を下げれば、ドロップを食べ終えたらしいバガブーが、どことなく楽しそうな顔で、再び「フレン」と声を発する。
「フレン! ヒメネス! ヒトナリ!」
「ばッ、おま……!」
 思わず緩んだ手から脱けると、ヒトナリが床に膝を突いた。目線の合ったバガブーが、嬉しい様子で小さく羽ばたく。 <> シュバルツバースでマターリ 6/8<>sage<>2010/03/02(火) 19:22:37 ID:IQwlwHpG0<> 「フレン……フレンドか?」
「バッガ! フレン!」
「ヒメネスはお前に俺をフレンドだと教えてるのか」
「ヒトナリ!」
「そうか」
 立ち上がりながら、にやりと、……多分、この艦にいる誰に言っても信じてはもらえない顔をして、ヒトナリは口の端を持ち上げ、ひどく凄惨な笑みを作った。
「気が変わった。手を出せ、ヒメネス」
 言うが早いか手を引き出され、ドロップを山盛り載せられる。
「フレンドの頼みなら聞き入れるのに吝かじゃない」
「バッガ! ブー!」
「無駄遣いするなよ、フレンド」
「フレン!」
「じゃ、またあとでな、フレンド」
「フレンッ!」
「ところで、フレンド」
「フレ」
「ぃやかましいわあああッ!」
 やはりと言うか、怒号にびくりとしたのは、バガブーだけだった。
 こちらの紅潮した顔をたっぷりと観察した上で、ふっ、と思わせぶりに笑い、ヒトナリはゆっくりと背を向ける。そして、ひらひらと片手を振って、悠然と歩き去っていった。 <> シュバルツバースでマターリ 7/8<>sage<>2010/03/02(火) 19:23:35 ID:IQwlwHpG0<>  治まらないのはヒメネスの羞恥から来る焦りである。確かに、ヒトナリは何者なのかと知りたがっていたバガブーに、適当な答えが見つからず、友人であると教えはしたが、まさか本人を目の前にして暴露されるとは思わなかった。
 まずい。非常にまずい事態だ。あの隠れサディスト、もとい、特に隠れてないサディストは、これから事あるごとにさっきのネタを持ち出してくるだろう。
「あ……ッの、クソ野郎!」
「ヒメネス! ファッ、ノー! ジャッ、ノー! スイッ!」
「誰がスイートかッ! いいか、バガブー! 今後は人前でフレンドもスイートも使用禁止だッ! 特にあいつの前では!」
「ヒトナリ?」
「そうだ、ヒトナリだッ!」
 ヒトナリの名は「仁成」と書き、慈愛の心を持つ者にという意味が込められているらしい。
 残念ながら両親の願いは叶わなかったようだ。あの男は鬼畜である。それも対自分限定の。そんなののどこが「仁成」か。
 まだ熱い頬を押さえながら、首を傾げているバガブーを、強引にデモニカの中へと戻す。
 うっかり艦の最後尾までそぞろ歩いて来てしまったため、ここから、ヒメネスに宛がわれている部屋までは、結構な距離がある。
 そこまで辿り着くのが早いか、顔に上った血が下りるのが早いか、誰かに出くわして顔の赤さを指摘されるのが早いかは、今のところ、アーサーにさえ予測できないことだった。 <> シュバルツバースでまた会いましょう 8/8<>sage<>2010/03/02(火) 19:24:46 ID:IQwlwHpG0<>  ____________
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 | |                | |           ∧_∧ この間にも地球はガンガン滅んでいってるのであった
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追記:
・レスくれた姐さんたちありがとう
・板の中の人たち超乙
・鯖落ち中は異様に筆が進みました <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/02(火) 21:36:59 ID:+U8EXQqa0<> >>172
非常に乙。こういうのが読めるのなら鯖落ちも悪くない、いややっぱ寂しいです。
皆様の辻を思い出してしまったw <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/02(火) 22:04:56 ID:xp5QRwH10<>                     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ilの板缶その5モナ‥‥。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  復旧とともに規制解除北モナ
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ <> 板缶 1/5<>sage<>2010/03/02(火) 22:06:30 ID:xp5QRwH10<> 「あんた、なんで俺みたいなオッサンがいいんだよ?」
物好きな・・・と、呆れたような口調で訊かれるたびに神部は笑って、
「人の好みってそれぞれでしょ。伊民さんは、俺の好みのタイプなんですよ」
そう答えてきた。その言葉に嘘はない。
しかし、それだけというわけでもない。

伊民という男は、これまで神部の周囲にいた連中とはまるで違う、強面の現場要員だった。
神部よりいくつか年上だが、階級はただの巡/査部長だ。昇進試験のための勉強なぞ今さらする気もないとばかり、犯人検挙の手がかりを求めていつも現場を動き回っている。
グルメでも口がうまいわけでもなく、このご時世にまだタバコを吸っていて、特にセックスがいいわけでもない。わりと無趣味な仕事バカ、優しいけれどそれを言葉ではうまく表現できないタイプだ。

ただ彼は、低い、いい声をしていた。すらりと背が高く、のっぽの案山子にスーツを着せたようなその立ち姿は、遠くからでも神部の目についた。でたらめな食生活をしているわりに痩せていたが、
脱がせてみるとガリガリというのではなく無駄な贅肉がついていないだけで、しなやかな筋肉に覆われていた。
長くすんなりと伸びたその腕は、男の神部を抱きしめてもまだ余るくらいだった。

最初はほんとうに、ただ外見が気に入って近づいてみただけだったのだ。
その次には、このワーカホリックなノンケの心がだんだん自分に傾いてくるのを見るのが楽しくて、しかたがなくなった。
そしていまでは、・・・完全に彼にのめり込んでしまっているという自覚が、神部にはあった。
決して口に出しては言わないが。

***

警/察官の非番というものは、休暇ではない。待機時間だ。ましてや捜/査一課の刑事ともなれば、休日といえどもいつ呼び出されるかわかったものではない。
とはいえ、彼らにも私生活というものはあり、その気になれば束の間のプライベートタイムを恋に費やすこともできた。

「・・・なあ、いいだろ・・・?」
耳許で囁く声が、濡れて聞こえた。
返事のかわりに神部は微笑み、タバコとビールのにおいのするキスを受け止めた。 <> 板缶 2/5<>sage<>2010/03/02(火) 22:08:03 ID:xp5QRwH10<> 伊民の部屋にはもう何度か招かれたことがあった。実家住まいの神部と違って、伊民は気楽な一人暮らしだ。
いつものようにリビングのソファでテレビを見ながら軽く飲んだあと、ふわふわと気持ちのいい気分になって寝室へ来た。

狭いベッドにふたりして倒れ込み、ゆるく抱きしめられると、伊民の体温と匂いに包まれるような気がした。耳朶を甘噛みされ、項に口づけが降らされる。
まだスーツの上着を脱いだだけだった神部のほうが、先に着衣を剥がれた。伊民も、プルオーバーの上だけはさっさと脱いで、ベッドの脇へ投げ落とした。
すると、神部の好きな、すらりと引き締まった身体が現れた。薄い皮膚と脂肪の層の下にあるのは、見せびらかすためにジムでつけたようなのではない実用的な筋肉だ。
骨柄の大きい伊民の、肩から二の腕へと連なるおおらかなラインの美しさに目を奪われながら神部は、その腕が鳥かごのように自分の頭を囲い込んでくれるのを見上げていた。
もう一度、キスが降ってくる。最初のように甘く優しいだけではない、深いキス。歯列を割られて舌を引きずり出され、呼吸もままならないほど求められる。
酸素の足りなくなった頭で考えるのは、この人ともっと近くなりたい、ただそれだけだ。
布越しに腿に当たる伊民のものがもう熱を持ち始めている。それが素直に嬉しい神部は手を伸ばして触れようとしたが、すぐにその手を掬いあげられて、伊民の首の後ろに回されてしまった。
「・・・いいから、あんたはしっかり俺につかまってろ」
「ずるい。俺だって触りたいのに」
「そんなことされたら、今すぐ突っ込みたくなっちまう」
痛いの嫌いだろ、と笑いながら伊民は、大きな手のひらで神部の胸や脇腹を愛撫しはじめた。男の身体に触れる手つきにもうためらいはないのに、なかなかその下までは触れてこない。
きっと伊民は急ぎたくないのだ。胸の上に顔を伏せられると、癖のない彼の前髪が鎖骨の上をさらさらとくすぐっていった。
神部はその頭を抱いて片膝を立て、ふーっとゆるく息を吐いた。腰の周りに、痺れるようなぞわぞわとした快感が集まりつつあった。

仕事を離れたこの夜、神部は申し分なく幸せだった。
・・・伊民が今しも脱ぎ捨てようとしていたチノパンのポケットで、携帯が鳴り始めるまでは。

*** <> 板缶 3/5<>sage<>2010/03/02(火) 22:09:06 ID:xp5QRwH10<> 楽しい時間を邪魔したのは、携帯に最初から入っている有名な映画のテーマ曲だった。神部は、伊民がこの音を誰からの着信に割り当てているか知っていた。
出ないでほしい、と言いそうになったが、とても言えなかった。

「・・・伊民」
苦虫を噛みつぶしたような顔をして、それでも当然のごとく伊民は電話に出た。神部の顔のすぐ近くでシンプルなストラップが揺れた。携帯からの声も、すっかり聞こえた。
相手は彼の同僚刑事の芹澤だ。歩きながら話しているのか、ややスタッカートのかかった口調で、事件の発生を告げている。
『先輩、新宿で殺しです。ガイシャは帰宅途中の会社員。強殺みたいです。犯人の目撃証言あり、若い男。ナイフ持って逃げてます。緊配かかりました。あと、神田で男女の変死体。こっちはまだ所轄が現着したとこで、詳細不明です』
「非番にも招集かかってんのか」
『あー・・・まだですけど』
電話の向こうの芹澤は、なんとなく意外そうに言い淀んだ。
『サーセン。でもたぶん、時間の問題だと思うンすけどね・・・?』
「・・・だろうな」
うんざりだと言わぬばかりにため息をついた伊民が、すいっと身体を起こした。
わりぃな、と唇だけで神部に言って、そのままベッドを降りてしまう。伊民はまだ話し続けていたが、芹澤の声は神部には聞こえなくなった。
「おう・・・了解、坂の下まで行っとくわ」
芹澤は、現場へ向かう途中で伊民を拾っていくつもりなのだろう。この時間なら、霞ヶ関の警/視庁からここまで、ゆっくり走っても20分かからないかも知れない。パトランプをつけてぶっ飛ばしたら、もっと早く着けるだろう。
大急ぎで身支度しなければならない伊民がクローゼットから取り出したスーツとワイシャツを持ってリビングへと出て行くのを、神部は黙って見送った。

「おお、持って帰ってる・・・バカ言え、てめえ」
すっかり仕事モードに切り替わった伊民の口調はピリピリと感電するような緊張感をはらみ、つい数分前までの低く豊かな声音とはまるで違っている。
どちらが本当の、というわけではなく、どちらも伊民そのものである、二種類の声。
「・・・担当、誰だ? ・・・チッ、ツイてねえなあ」
その声を、神部は少し遠くに聞きながら、自分も身体を起こしてベッドの上で膝を抱えた。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/02(火) 22:09:08 ID:fYdSKn2H0<> >>172
まさかこんなに早く新しい物が読めるとは思わなかった・・・!
バガブーを交えたやり取りにほのぼの、性格設定といちゃいちゃした感じがたまらん
ファッキンだのジャップだの口が悪いヒメネスにもにやにや スイートには恋人をかけてるのかな?
出来るのであれば172のドライな文体の作品をもっと読みたい・・・

いつかサーチに新着サイトが追加されると信じて待ってます <> 板缶 4/5<>sage<>2010/03/02(火) 22:09:48 ID:xp5QRwH10<> どうせ、特/命係に事件の情報が回ってくるのは明日の朝だ。テレビのニュースで知るほうが早いくらいかも知れない。それまでに犯人が逮捕されてしまえば、あの特殊なムードの職場では朝の軽い話題にしかならないだろう。

「・・・ひでぇな、そりゃ。なんでそれで人着割れねえんだよ」
リビングでごそごそと着替えながら、伊民はまだ話し続けていた。器用なことだ。
それにもまして、かなり「その気」になっていたはずの伊民が、こんなにも素早く出かけようとしていることに、神部は驚かずにいられなかった。たった数分しか経たないのにもうおさまったのだろうか、と。
「わかった、もう出るから切るぞ。ちょっと待たすかも知れねえ」
声が急に近くなった。次の瞬間、もうすっかりスーツを着込んだ伊民がドアの向こうから顔を覗かせて、簡単に言った。
「わりぃ、行くわ」
「はーい」
「鍵、置いとくから。寝てってもいいし、好きにしてくれ」
「帰りますよ」
「そっか」
伊民は一瞬、なんとも言えないような顔をして神部を見たが、それきり何も言わずに出ていった。


玄関のドアが閉まるのを待って、神部はやれやれと息をついた。
どうせ伊民というのはあんな男だろうと思っていたが、ほんとうにそうだった。素っ気ないにもほどがある。
・・・それはいい。しかたがない。
実を言えば、そういうところも好きなのだ。 <> 板缶 5/5<>sage<>2010/03/02(火) 22:11:09 ID:xp5QRwH10<> 神部とて、法学部を出てわざわざ警察官を志した動機は、この手で誰かを助けたいと思ったからだ。世間にはびこる悪人や犯罪者たちを捕らえ、彼らのために不幸になる人間をひとりでも減らしたいと願ったからだ。
伊民は、まっすぐにその道を行っている。若い頃の神部が憧れたとおりの刑事の姿だ。
たとえ相手が武器を持っていようが、どんなに危険な場所であろうが、伊民は真っ先に飛び込んでゆくに決まっている。彼の鋭い目で睨みつけられ、怒声を浴びせられれば、どんな犯罪者も震え上がるだろうと思われた。
肩幅の広いその背中と、向かい風に負けまいと顎を引いた横顔が、神部を惹きつけてやまないのだ。
ある意味では妬ましくもあり、自分の置かれた立場と引き比べていくばくかの寂寥感に襲われることもあったが、それで伊民を責めるような気持ちなどには到底なれなかった。
そんなこと照れくさくて、本人にはとても言えそうになかったが。

***

しばらくしてから服を着てリビングへ出ていき、灯りをつけると、伊民が置いていった鍵がテーブルの上で鈍く光っていた。
神部はそれを取り上げてしげしげと眺め、手のひらに載せて、きゅっと握った。
それから自分の携帯を探して、メールを打った。

『これから知らないふりして現場行ってもいいですか』

思いがけず、すぐに短い返信があった。

『特/命係の出る幕はねえ!』

その最後に怒りマークの絵文字がついているのを見て、神部はふふっと笑った。

『この鍵、俺が持ってていいですか?』

今度は違う絵文字がひとつだけ、返ってきた。
神部は微笑みを深め、鍵と携帯をポケットにしまって、部屋を出た。


<おしまい> <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/02(火) 22:11:42 ID:xp5QRwH10<>  ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )いつも感想嬉しい、つい書いてしまうモナ
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

いつもぬるくて、しかも時系列バラバラですみません。
これからもこっそりと書いていきたいので、もし気づいたら読んでやってください。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/02(火) 22:12:05 ID:fYdSKn2H0<> >>174
リロード忘れてた・・・!!途中で切ってしまって本当にすみません! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/02(火) 22:14:21 ID:xp5QRwH10<> >>182
いえいえこちらこそ!
空気嫁ず、すみませんです・・・。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/02(火) 22:47:17 ID:BCxl2NP20<> >>181
姐さん毎度ごちそうさまです!
ゆったりした非番の描写に禿げました <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/02(火) 22:57:59 ID:nsPRjES+O<> >>181姐さん
今回は傾れ込むのか!とWKTKしましたが、缶が板を好きな理由に俄然説得力が出ました!
板って凄く素敵な人みたい。ニンニク臭くても良いのかな缶は。
芹も好きなのでサーセンもうれしかったです。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/02(火) 23:02:54 ID:8jxp1aPc0<> >>172
GJです!地球乙すぎるw

普通に子持ち夫婦みたいな会話を交わしてるヒトナリさんとヒメネスに萌えた
バガブーも可愛すぎてダメージ床を素足で歩ける勢いだ
ここで姐さんの書く作品に出会えた事に感謝したい <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/02(火) 23:25:40 ID:vTAzAtk/0<> >>181
おお、ついにお喋り以上が!!と思ったらw
そこがたまらない!喋ってるだけで萌える・・・
缶から見た板の描写が本当に魅力的です。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/02(火) 23:38:24 ID:VfAjSgeB0<> >>181
読む度に板缶がますます好きになっていくよ〜!いつも本当にありがとう
匂い立つような色気に萌え転がり最後のメールやり取りで髪の毛無くなったさ
西田感激!のお世話になってきます <> おやすみ(1/7)<>sage<>2010/03/03(水) 11:52:34 ID:+csziAT40<> 懲りずにブソレンよりヴィクバタ前提ヴィク&パピ。
月へ行く直前のころです。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「俺も娘と同じホムンクルスにしてくれ」
 白い核鉄で黒い核鉄の力を相殺したのち、ヴィクターは錬金戦団の亜細亜支部大戦士長、坂口照星にそう申し入れた。
 月へ、地上のすべてのホムンクルスを移住させ、ホムンクルスから再び人間に戻る方法が見つかるまで、月の世界で暮らす、と。
 その申し入れを容れた戦団ではあったが、月への移住準備が整うまでの数週間、ヴィクターのホムンクルス化は控えられた。
 ホムンクルスになれば食人衝動を持つことになる。
 人を喰いたいと思わないのは、現在確認されているなかではただ一人しかいない。
 そして彼と同じように食人衝動を持たないホムンクルス化が、容易に可能であるとは思えない。
 ドクターアレクのクローン技術で、彼らの食糧は確保できるが、だからといってヴィクターがそれを口にする期間は短いほうがいい。
 これからの長い長い生に比べれば、その期間はほんの微々たるものだろうが、それでも気休め程度にはなるだろう。
 その判断をヴィクターも受け容れた。
<> おやすみ(2/7)<>sage<>2010/03/03(水) 11:54:28 ID:+csziAT40<>
「パパがよければ、ちょっとくらいなら旅行してもいいって」
 彼の娘ヴィクトリアがそう言ってきたのは、月への移住日程がおおよそ決まりつつあるときだった。
「どうせすることないでしょ? パパは今のところ普通の人間と同じだし、それに地球にはしばらく戻れないんだし」
 どこか投げやりな口調の娘を見つめ、ヴィクターは少し考え込んだ。
「もちろん監視はつくみたいだけど。パパ、このあいだは空からしか見てないんでしょ?」
 呼吸するように生命体から生命力を吸収すエネルギードレインが起こるかつての彼であれば、人の間に入り混じるというのは到底かなわない話だった。
 人ごみの中にでもあれば、彼の周囲にある人間はとたんにエネルギーを吸い取られ、疲弊する。
 もちろん人以外の、すべての生命にとっても同じこと。
 それが分かっていたヴィクターは、決して多くの生命の集合体に近づこうとはしなかった。
 世界を見て回っている間、ごく一部に被害は出たが、のちの検証で最低限の犠牲だったことが確認されている。
 錬金術に対しての怒りはすさまじかったが、だからといってすべての生命を滅ぼそうなどとは、決してしなかった父親の思案する顔を見上げながら、ヴィクトリアは口を開いた。
「パパだって、未練がないわけじゃないんでしょう?」
 同情するような色を目に浮かべたヴィクトリアを見下ろし、ヴィクターは少し迷ってから小さく頷いた。
「考えてみよう」

<> おやすみ(3/7)<>sage<>2010/03/03(水) 11:54:52 ID:+csziAT40<>
 数日後。
 ヴィクターは銀成市の駅前に立っていた。
 100年前とすっかり様変わりしてしまった街を見まわし、ヴィクターはひとつ息を吐き出した。
 空から見ても充分変化しているが、その中に降り立つと、100年どころか異世界に迷い込んだような心地になる。
 100年前、まだ人間だった蝶野爆爵に連れられてこの街に来た時、3階より高い建物は存在していなかったし、人々の服装もまるで違っていた。
 もうひとつ息をついて、ヴィクターはもらった地図に視線を落とした。
 飛行できなくなった今、与えられた期日では、日本国内か、周辺諸国くらいしか行けない。
 できることなら故郷を見たいが、現代の技術をもってしても1日で日本の瀬戸内海からイギリスの田舎へ往復することは難しいらしい。
 それなら、もうひとつの思い入れのある土地を見ておきたかった。
 すべてに絶望していた日々に、ほんのわずか、苦しみを和らげてくれた彼と住んだかの地を。
 蛍火色の髪と赤銅の肌をしたヴィクターは、たいそう目立ったために、外を出歩くことはほとんどなかった。
 それでもときおり、人の往来がなくなる深夜、彼とともに、銀成の街を散歩した。
 手を伸ばせば触れられそうな見事な満月に、どうしてイギリスとこれほど違うのだろうと思わず呟くと、少し離れて歩いていた彼は楽しげに笑ったものだった。
 今キミは月が美しいと言ったが、イギリス人は月など見ないだろうと返され、そうかもしれないと真剣に考え込むと、彼はその特徴的な口髭を震わせたものだった。
 彼の笑顔や笑声はいつでも、ヴィクターの心をほんのりと温めた。
<> おやすみ(4/7)<>sage<>2010/03/03(水) 11:55:32 ID:+csziAT40<>
「…ここか」
 顔を上げて地図と目の前の場所とを確認する。
 日本語は覚えたが、漢字はなかなかマスターできない。それでも覚えた数少ない中で、確実に覚えている文字が、門柱に書かれている。
 つい、と扉を押すと、案に相違して扉は簡単に開いた。意外さに一瞬呆気にとられてから、ヴィクターは慌てて開いていく扉に手をかけた。そして荒れた邸内に息を呑む。あれほど見事だった敷石は草に覆われ、はびこる雑草に美しい庭の面影はない。
 あまりの変わりように驚いていると、上空から声が降ってきた。
「何をしている」
 見上げると、細身の長身に、背に蝶の翅を生やした男が浮いていた。
 蝶々の仮面をつけたこの男に、ヴィクターは見覚えがあった。月から地上に戻ったとき、武藤カズキ、ヴィクターと同じような存在になってしまった男に、いきなり勝負をしかけた男だ。この男が、武藤カズキの白い核鉄を作ったとも聞いた。
 右腕を切り落とされていたはずだが、治療したのか、綺麗にくっついている。
 名前を聞いているはずだ、とヴィクターはわずかに眉を寄せた。
「キミは……パピヨン、だったか」
「ほう、名を知られていたとはな。光栄だ」
 シニカルな笑い方が、彼にどこか似ている。
「いかにも、オレは蝶人パピヨン。なにをしに来た、ヴィクター・パワード」
 ふわり、とヴィクターの前に降り立つその姿は、確かに蝶のように軽やかだ。
 その姿に、ことさら蝶を愛でていた彼を思い出す。
「ここは…チョウノの家ではないのか」
「ああ、そうだが? なんだ、ひいひいじいさんの遺品でも見に来たのか?」
「ひいひいじいさん…ではキミはバタフライの…」
「玄孫。やしゃごというやつだ」
「ヤシャゴ……」
「a great-great-grandchild。こう言えば分かるか?」
 直系の血族。
 だからこれほど似ているのか。
<> おやすみ(5/7)<>sage<>2010/03/03(水) 11:56:08 ID:+csziAT40<>
 ヴィクターを上から下までじろじろと観察していた男は、ふん、と鼻を鳴らした。
「ホムンクルスにはまだなっていないようだな」
「…」
 なぜ知っているのだろうとの考えが頭をよぎる。
 それを見て取ったのか、男はにやりとした。
「自身もホムンクルスになって、月で再人間化技術の確立を待つとは、ずいぶんとお人好しなことだ」
「…キミも、ホムンクルスだろう?」
「オレは蝶人パピヨンだ。言っておくが、月へなぞ行かん。あんな殺風景な世界のなにが楽しい」
 そんなことは許されない、と言いかけて、パピヨンに食人衝動がないことをヴィクターは思い出した。
 娘が、珍しい事例だと言っていたし、大戦士長もパピヨンは例外だと言っていたはずだ。
 荒れた邸内へ視線をくれてから、ヴィクターはパピヨンに背を向けた。
「ああそうだ。アンタに渡すものがあった」
 タイミングを見計らったかのように、パピヨンが声をかける。
「……なんだ」
 振り返らずに訊ねた。
「ついてくれば分かる」
 短くそれだけを告げて、パピヨンはさっさと屋敷へ上がり込む。
 どうしようかとしばし迷ってから、ヴィクターは踵を返した。
 パピヨンに敵意は感じられないし、万が一でも負けることはないだろう。
 そう思ってからふと、パピヨンが途中から英語で話していたことに気づいた。
 あまりに自然に切り替わっていたから気づかなかったが、パピヨンのそれは綺麗なクイーンズイングリッシュだった。
 かつて度々耳にした、彼の発音に、ひどく似ていた。
 ヴィクターは頭を振った。
 彼の血族だからか、パピヨンを見ていると彼を思い出してならなかった。
<> おやすみ(6/7)<>sage<>2010/03/03(水) 11:57:58 ID:+csziAT40<>  屋敷内にずかずかと上がり込むパピヨンのあとを追うと、廊下の途中でガラス戸を開け放ち庭に降りた。
 どこまで行くのかと問いかけるが答えはない。マスクのために表情は分かりにくい上、今はヴィクターに背を向けている。黙ったまま、大股に歩くパピヨンは、庭を通り抜け、建ち並ぶ蔵の前に立った。破壊のあとが目立つそれらに、ヴィクターは眉を寄せる。
「気にするな。オレと武藤が戦ったあとだ」
 ちらりとヴィクターを見遣ったパピヨンが無感動に告げながら、ひとつだけ無事に残った蔵の扉を開け放った。真昼だというのに、覗き込んだ蔵の中は暗い。
 ふいにヴィクターは、彼が最初にヴィクターを匿った場所であることを思い出した。少なくともいくつかある蔵のひとつであるはずだった。
 ほのかな月明かりの下、着物姿の彼から、エネルギーを吸い取ったことを思い出す。触れれば彼を苦しめると、分かっていたからこそ、それでも近づこうとする彼を、あのときばかりは恐れた。
 たん、と足音も高くパピヨンが中に足を踏み入れる。
 とっさに手を伸ばし、ヴィクターはパピヨンの手首を掴んだ。
「…何だ?」
 見返すパピヨンの視線は冷たい。
 違う。似てはいても根本的に違う。彼は、ヴィクターにだけは、決してこのような目を向けたりはしなかった。常に尊敬と畏怖と、それ以上に言い知れぬ温かな感情を込めた目をしていた。彼だけは信じられるとヴィクターが思うほどに。
「…すまない」
 自身の行動にうろたえ、ヴィクターは慌てて手を離した。
 興味が失せたのか、ヴィクターの手から解放されるとすぐにパピヨンは蔵の奥へと足を向けた。いくつか置かれた箱や棚をがさごそと漁りはじめるパピヨンをしばらく見てから、ヴィクターは自身の手に視線を落とした。
 触れられた、そのことに驚きを感じていた。
「……蝶を触ると」
 独り言のように言葉が口をついて出る。
「蝶は弱るだろう」
 何事かと、パピヨンが視線だけを向ける。
<> おやすみ(7/7)<>sage<>2010/03/03(水) 11:58:32 ID:+csziAT40<>
 構わずヴィクターは語り続ける。
「あれと同じで、俺が彼に触れると、彼は弱った」
「だから、触れたことはない、か」
 面白くもなさそうに呟いて、同時にパピヨンは何かをヴィクターに投げつけた。
「!」
「ひいひいじいさんの日記だ。アンタがフラスコに入ってからのことが書かれてる」
 とっさに受け止めたそれは、分厚い本だった。何百もあるページそれぞれに、彼の流麗で几帳面な文字が記されている。
「英語で書いてあるところを見ると、ほかの人間に見られたくなかったんだな」
 散らかした書籍を片づけながらパピヨンが呟く。日記には、ヴィクターのフラスコの状態が詳細に記されている。その合間に、彼からの、ヴィクターへの思いが綴られていた。
『いつになれば、君を救えるのだろう』
『君は私を信頼してくれた。それに応えねば』
『この命尽きても…』
 気づけば、ぽたりと落ちるものがあった。慌てて手の甲で拭う。
 ふん、と呟いて、パピヨンが蔵を出ていく。
「それは好きにしろ。オレはもう行く。これでも忙しいんでね」
「待ってくれ!」
 スタスタと歩き去ろうとするパピヨンを呼び止める。
「…………ありがとう」
「……ふん」
 ヴィクターの感謝を、パピヨンは背で受け止める。
「用が済んだらさっさと出ていけ。ここは蝶野の敷地、つまりオレのものだ」
 それだけを言い捨てると、パピヨンは黒い翅を広げて飛び立った。
 それを見送って、ヴィクターはもう一度彼の日記に視線を戻した。
「…おやすみ、バタフライ」
 そっと呟き、日記を閉じた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
お粗末さまでしたorz
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/03(水) 18:19:48 ID:wOHUVBFQ0<> >>172
姐さんの書くTDNが好きすぎて生きるのが辛い
スイートになってしまえよヒメネス…! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/03(水) 21:39:04 ID:7Q2Ydx2n0<> >>181
姐さんいつも本当に有り難う!
今回も萌えたよ、萌えまくったよ。
缶のはーい、がもう聞こえるようですた。
次はぜひ本ば ゲホゴホww <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/03(水) 22:00:16 ID:pY/VQbKKO<> >>195
GJでした!好きなのに近づけなかった爺様も、事実を知ったヴィクターも切ない…
玄孫も、爺様はかつての自分とそっくりで苦笑してそうです <> 初めての……【1/6】<>sage<>2010/03/03(水) 23:35:23 ID:zzLu2g+FO<> デ/ジ/モ/ン/セ/イ/バ/ー/ズより
ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ン×マ/サ/ル、最終回後
時/空/の/壁は安定してゲートを一定周期で開いているという設定です


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! <> 初めての……【2/6】<>sage<>2010/03/03(水) 23:37:20 ID:zzLu2g+FO<>  「ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ン!」
 頭上からかけられた声に、反射的に顔を上げると同時に、
崖から飛び降りてくる小さな影が目に入る。
 「マ/サ/ル!」
 慌てて手を差し伸べると、その小さな影……大/門/大を受け止めた。
 「流石ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ン、ナイスキャッチ!」
 差し出された掌に着地すると、やや緑がかった琥珀色の瞳で
無邪気に見上げてくる青年に、思わずため息が零れる。
 「…マ/サ/ル、いくら何でも無謀過ぎるぞ。もし私が受け止め
損ねたらどうするつもりだ? いくらお前でも無事では
済まないだろう?」
 ……いや、マ/サ/ルならこの位の崖から飛び降りても大丈夫
かも知れないが、見ている方としてはたまったものではない。
 只でさえマ/サ/ル(とア/グ/モ/ン)が旅に出ている時や
人間界へ戻っている間、病気や怪我をしていないか、トラブルに
巻き込まれていないか気が気でないのだ……この話を他の
ロ/イ/ヤ/ル/ナ/イ/ツにした所、
『ク/ロ/ンデ/ジ/ゾ/イ/ド並みに頑丈な奴だから心配ないだろう』
『…そもそも、ス/グ/ルやマ/サ/ルは本当に人間なのか?』
等と言われたが。
 「んー…あの位の高さなら大丈夫だと思ったし、ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンなら
絶対に受け止めてくれると思ったからさあ……」
 そんなク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンの想いも知らず、マ/サ/ルは満面の
笑みを浮かべると。
 「ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンの姿を見たら、すぐに傍に行きたくなっちまったんだ」
 「マ/サ/ル……っ」
 だがすぐに心から申し訳なさそうに眉を下げる。
 「けど、ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンに迷惑かけちまったな……悪りぃ」
 「い、いや……今度からはいきなり飛び降りるのは止めて
もらいたいだけだ」 <> 初めての……【3/6】<>sage<>2010/03/03(水) 23:39:58 ID:zzLu2g+FO<>  ……何故だろうか。
 マ/サ/ルがデ/ジ/タ/ル/ワ/ー/ル/ドに来て以来、彼の何気ない
会話や表情に一喜一憂してしまうのは。
 マ/サ/ルの笑顔を見る度に、身体の奥が暖かく、ぎゅっと
締め付けられるような感覚に囚われてしまうのは。
 ロ/イ/ヤ/ル/ナ/イ/ツの一員として誕生してから、一度として
体験した事の無い物ばかりだ……が、思えば、マ/サ/ルとの
最初の出会いからして強烈な体験だった。

 『何がロ/イ/ヤ/ル/ナ/イ/ツだ! 何が神だ! 世界が滅びようって時に、
てめえらの神様は一体何してやがる! 世界を救えもしねえ奴が
神を……神を名乗ってんじゃねええええっっ!!』
 
 シ/ャ/イ/ン/グ/レ/イ/モ/ンへと止めを刺そうとした魔槍ク/ラ/ウ・ソ/ラ/スを
素手で止めたばかりか押し返した。
 それだけでは無い。

 『見せてやる、ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ン! こいつが人間の…
可能性だああああっっ!!』

 ……更にその後の再戦にて、魔楯ア/ヴ/ァ/ロ/ンをも打ち砕いたのだ。

 それらは自らのアイデンティティーを粉々にされる出来事
だったが、同時に“大/門/大”という漢を己の心に深く
刻み込むきっかけになり。
 また、この不可思議な気持ちの始まりだった。
 という事は。
 (……マ/サ/ルのデ/ジ/ソ/ウ/ルの影響なのか?) <> 初めての……【4/6】<>sage<>2010/03/03(水) 23:41:53 ID:zzLu2g+FO<>  以前、イ/グ/ド/ラ/シ/ルが言っていた事を思い出す。
 “デ/ジ/モ/ンは人の感情に強い影響を受ける”

 イ/グ/ド/ラ/シ/ルが挙げた例は、人間の負の感情に
引き込まれたデジモン達の事だったが、人の感情全てが
悪い物ばかりでは無いだろう。
 現に、自分が感じているこの感覚は不快では無い。

 寧ろ……。

 「……モ/ン、ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ン!」
 「っ…!」
 いつの間にか考え事に没頭していたらしい。
 眉を寄せたままのマ/サ/ルと目が合う。
 「やっぱり疲れているんじゃねえか? 任務が無いなら、
今日はもう帰って休めよ」
 「だが、今日はお前と約束が……」
 その言葉に『生真面目過ぎるぞ』と言いながら、改めて
ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンを見上げる。
 「別に出掛けるのは明日でもかまわねえし……それによ、
俺はどこかに行きたいんじゃなくて、ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンと一緒に
いたいだけっつーか……っ、あー、何か変な事言っちまったな、
忘れてくれ」
 「…? ああ……」
 いきなり真っ赤になって己の発言を忘れるよう言っている
マ/サ/ルを不思議に思いながら。 <> 初めての……【5/6】<>sage<>2010/03/03(水) 23:43:31 ID:zzLu2g+FO<>  (明日ス/レ/イ/プ/モ/ンに相談してみるか……)
 人間界で過ごした時間が長く、またデ/ジ/ソ/ウ/ル研究にも
関わっていた盟友なら、この初めての感覚の正体を知っている
かも知れない。

 だが、今はそれよりも。
 掌の上で真っ赤になったまま押し黙ってしまったマ/サ/ルに
どう対応するべきか、その事だけに集中する事にしたのだった。 <> 初めての……【6/6】<>sage<>2010/03/03(水) 23:46:23 ID:zzLu2g+FO<> □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/04(木) 00:04:19 ID:7b/0AcKjO<> >>174-181
今回も動悸が止まらない板缶をありがとう!姐さんの板缶本当に素敵。
まず「なぁ…いいだろ…」に禿た。声に惹かれるてのよくわかる。そしてあの低音ボイスで再生されてドキドキw
ノンケ板がどのように段々缶に惹かれいったかの過程が超読みたいです!寸止めに終わってしまった本番もいつか…

一つ気になるのは勃ったまま板は現場行くのかなwてっきり行く前に缶に口なり手なり抜いてもらうのかとw
いや、1人どっかのトイレで缶を想像して抜くのもおいしいw

規制がなかったら是非また次書いて下さい。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/04(木) 00:16:27 ID:JCiJfo3b0<> >>181
板がオンもオフもすげーセクシーでギュンギュンしました!
そりゃ缶も惚れる・・いい男!
最終回のあと、姐さんの板缶がどうなるのかも楽しみでーす! <> 某生兄弟1/3<>sage<>2010/03/04(木) 06:51:56 ID:0mx5jQOrO<> 某生
非エロだけど兄弟モノ注意。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサグエンガオオクリシマース!


父がしていたバッチが今は弟の胸にある。なんだか不思議な気分だった。
会いたいときに会えなかった父。その父と同じ道を選んだ弟。
顔を合わす度に頼もしさを増している姿が眩しい反面、その大変さは父を見てきたからよくわかってる。

「なんか、ちょっと、寂しいかも。」

さっきまで笑って鍋を囲んでたのに。
互いの近況や思い出を話すうち、なんだか弟が遠くに行ってしまうような…そう感じたら
じわりと涙が滲んで零れていた。

「はは、泣いたか。」

兄の涙もろいのを知っているからか、それとも照れ隠しか。
弟がコートのポケットからハンカチを差し出した。

「うっさい。」

爽やかに笑いながらも鼻の奥がツンと痛む。
寂しいと言ってみたところで状況がどうなることでもないし、どうしたいわけでもない。
そんなのは小さい頃からわかっている。言っても困らせるだけだ。

「寂しいのはお互い様でしょ。」

弟が手のひらで兄の髪をポンポンとして、慰めるようにあやす。
それは子供扱いするような仕草で、兄は照れるようにやや拒否したが、
弟は自分よりも背が高い体をそのままぎゅっと抱きしめていた。 <> 某生兄弟2/3<>sage<>2010/03/04(木) 06:55:01 ID:0mx5jQOrO<> 「俺だって寂しかったよ。おにいが芸能界入ってから。おにいなんて売れないで
帰ってきちゃえばいいんだって思った。」

他人から見ればこんなのはおかしいことだろう。いい年こいた弟が兄貴をこんなに抱きしめているなんて。
でも誰にも理解できないかもしれなくても、兄弟であるという思いと同じくらい、戦友な気がしていた。
何をするのも一緒で、どこへ行くにも連れてってくれた兄。
世間では恵まれてると言われてきた自分たちだけど、ガマンすることも多かったと思う。
パパを困らせちゃだめだよ。ガマンしなきゃだめなんだよ?て。兄に何回言われたかわからない。
そんな兄が、自分に会えなくなったのが寂しいとガマンできずに涙を零している。
弟は少し困惑したが、それ以上に自分を想ってくれていることが嬉しくてしかたがなかった。

兄がそばにいて自分をたくさん守ってくれた。
だから兄の気持ちは自分が一番わかっているつもりだった。
だが、寂しい思いをしてたのは兄の方だったのかもしれない。

誰かに強制されたのでなく、会いたいときに会えない道を選んだ自分。
弟が秘書として父と共に戦っていた裏で、兄はどんなに不安で心配していたか。
あの経験で成長できた。でもできるならもうあんな思いは味わいたくない。
いつか兄がそう言っていたのを思い出した。
やっと父があの戦場から生還してきたと思った矢先、今度は入れ替わるように弟が…
生まれた家がそうだから諦めてる、わかってる。兄はきっとそう言うだろう。
でもやるせない。 <> 某生兄弟3/3<>sage<>2010/03/04(木) 07:01:01 ID:0mx5jQOrO<> 「ごめんな。」

さっきよりきつく抱きしめると、兄が弟の肩へと顔を埋めた。
よく知ってるにおいがする。

「なんで謝る?…なんだ、今度はお前が泣いてんの?」

「もらい泣きしたかも。俺の気持ちわかった?」

自分のとよく似た形の指が涙を払った。
涙もろいのはどちらも父親譲りだから同じなのは仕方ない。
どんなに離れても同じ血がこの体に流れてる。
お互いが愛してやまない、あの父の血が。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
お粗末さまでした。需要ないと思いますが吐き出したかった。
>>2にあるように全てがネタです、許して下さい。
寂しいと言って涙した兄エピと、それに対し、俺も寂しかった。
売れないで帰ってくればいいと思った。あんときの俺の気持ちがわかったか…!
な弟エピ以外は。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/04(木) 13:02:32 ID:IVJ8zxOnO<> >>207
姐さんのおかげで目覚めてもうたがな!GJっす!
今まで兄単体萌え(例の幼馴染みはイマイチ萌えられず)だったんだが、弟イイヨイイヨー。 <> 風と木の名無しさん<><>2010/03/04(木) 14:17:02 ID:6nstpDsjO<> >>174
あったかい気持ちになったよありがとう <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/04(木) 18:45:56 ID:c5KhnB3OO<> >>209
姐さんGJです
全身ツルツルに禿萌えた
なんちゅーエピ隠し持ってるんだ <> シーソー 1/3<>sage<>2010/03/04(木) 21:19:45 ID:nvQ4sDeW0<> 三たび真・女神転生SJ、ヒトナリとヒメネス。
カプ不明。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ミジカイヨ <> シーソー 2/3<>sage<>2010/03/04(木) 21:20:13 ID:nvQ4sDeW0<>  あれは悪魔で、この身は人間。
 行なわれている戦いは、悪魔と人間が一つしかない未来を取り合う、喰らい合い。

「全員、帰還」
 静かに命じて、天帝の剣を低く構える。驚愕した仲魔たちが、一斉に大きな声を上げた。
「正気か、ヒトナリ!?」
「無茶よ! 死ぬ気なの!?」
「お言葉は聞けません! 我らは、」
「黙んな」
 騒ぎの一切を静まらせたのは、目の前にいる、悪魔だった。赤い、黒い、人間が持ち得ない色を纏った、一匹の。
「解るぜ、ヒトナリ。この一戦は、悪魔と人間の争いだ。悪魔の俺を殺すのは、俺の同属じゃなく人間、……つまり、お前でなくちゃならない。そう考えてるんだろ?」
「ああ」
 マスクの下で笑っても、悪魔の目には見えないだろう。だが、あの悪魔は、自分が笑っていることを、きっと、知っている。
「いいぜ。かかってきな、ヒトナリ。だが一つ、教えといてやる」
 悪魔の右手が持ち上がる。その先にある爪が伸び、濡れた色をして、ぞろりと光った。
「この戦いはな、悪魔が人間を縊り殺して、終わるんだよッ!」
 悪魔が床を蹴り、跳び込んでくる。どこかで見たことのある顔が、息の交じり合う近さまで。

 避けることは、しなかった。
 それより、この剣の方が、速い。 <> シーソー 3/3<>sage<>2010/03/04(木) 21:20:37 ID:nvQ4sDeW0<> □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )オソマツサマデシタ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/04(木) 23:46:39 ID:+Gr0usR/0<> >>215
某吸血鬼と神父を彷彿とする殺し愛ktkr
どっちが勝っても、後で残った方が静かに狂ってそうだよなぁ
大変美味しゅうございました <> 風と木の名無しさん<><>2010/03/05(金) 00:46:04 ID:gq6NLROZ0<> >>215
短いのにぞわっとした…
一度もヒメネスとは呼ばないヒトナリが悲しくい
毎回まるで違う作風を見せる姐さんに吃驚させられ通しだ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/05(金) 02:40:02 ID:2RX9m3GE0<> >>207
ちょw
兄萌えだけどそんなエピがあったとは…それも含めて禿萌えたGJ!

<> 騎士と魔術師 1/4<>sage<>2010/03/05(金) 05:10:19 ID:QI7lMWXVQ<> オリジナル 騎士と魔術師 エロ描写一切無し 一応モトネタありだが、掛け離れてるのでオリジナルで

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! <> 騎士と魔術師 2/4<>sage<>2010/03/05(金) 05:11:10 ID:QI7lMWXVQ<> 遠くを見て彼は言う。
「……それでも戦わなくちゃいけない」
一度ボロボロにやられた後回復した彼は、皮肉に笑う。
「多勢に無勢でも、いくら倒されても……」
彼は俺に向き合った。真面目な顔で手に持った盾を腰にぶら下げ、ランスを持つ。
「お前を護るのが……」
綺麗に笑った彼の笑顔が眩しかった。
「俺の使命」
ランスを構えて彼は俺を庇うために術を唱えた。俺は後ろから攻撃魔術を放つ。多勢に無勢……彼の言葉を思い出す。
『無駄な抵抗はするな』
敵の声が聞こえる。だけど、少しでも彼を助けたい、そう思った。彼の背中から声がする。
「無理すんな」
周りがうるさくても、不思議と彼の声だけははっきりと聞き取れた。
「……上手く逃げろよ」
「出来る訳ないだろ……見損なうな」
最初からそうだった。まだレベルの低かった俺に、なぜか彼は剣を捧げて、二人で色々な戦場を渡り歩いた。 <> 騎士と魔術師 3/4<>sage<>2010/03/05(金) 05:15:03 ID:QI7lMWXVO<> 「そうか」
いざとなったら、自分が犠牲になって俺を逃がしてきた彼。
「俺も最後まで戦う」
俺だってレベルも上がって、戦場を渡り歩く一端の傭兵として彼に認められたかった。
「……無理はするなよ」
彼はそれだけを言って口をつぐんだ。攻撃を仕掛けてくる敵に、意識を集中させているのが解る。俺も意識を集中させ、次の魔術に備える。
彼の小さな息遣いまで、なぜか綺麗に俺の耳に届いた。その瞬間集中が切れ、雑念が沸き上がる。
この戦場の仕事が終わったら聞いてみよう。なぜ、俺に剣を捧げたのか、俺を庇ったのか……どんな気持ちを俺に感じているのか。不意に彼が振り返った。
「お前の中に有るのと一緒だよ」
口だけが動いて、少し目に笑いが滲み出た。彼の視線が、俺の上に一瞬留まる。
「集中しろよ」
つい、口から出た言葉に彼は面食らったらしい。切れ長の目が少しだけ大きく開かれた。 <> 騎士と魔術師 4/4<>sage<>2010/03/05(金) 05:16:28 ID:QI7lMWXVO<> そうだな、と言うふうに彼は頷いて前に視線を戻す。
「お前も集中しろ」
……何だろう、少し照れ臭そうにしている彼が見えるような声。声をかけようとしたら周りの敵が動きはじめる。……生き延びられたら、沢山聞こう。気持ちも、なにもかも。
「生き延びような」
彼は俺の言葉に答えなかった。




□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ジョブは違うけど若干、師匠と弟子っぽい。ID変わってますが同一人物が書いてます。 <> 原因と結果 1/4<>sage<>2010/03/05(金) 14:43:13 ID:C1ZXg+T20<>                     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     | 生注意 六角形なクイズ番組煙草銘柄ユニット
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 紫色×水色 既にデキてる前提で
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

ふと目が覚めた。
暗い部屋に目が慣れてくると、うっすらと家具の輪郭が浮かんでくる。
水が飲みたい。
一旦そう思うと、喉の渇きが我慢できない。
隣の寝息を乱さないように、そっと布団から抜け出る。
自分の部屋では無いものの、通い慣れ、泊まり慣れた部屋である。
さしたる迷いも無くドアを向かおうと立ち上がったつもりが、へなへなと床に座り込んでしまった。
「マジかよ……」
体ががくがくして、腰に力が全く入らない。

<> 原因と結果 2/4<>sage<>2010/03/05(金) 14:43:51 ID:C1ZXg+T20<>
何故こんなことになったのか。
原因は分かってる。
今も安らかな寝息を立てているこの部屋の主のせいだ。
新曲の練習が終わった後部屋に来て、風呂から始まりベッドに移動して、何度も何度も愛された。
宝物を扱うかのような優しい指先は、どこまでも甘く追い詰めてきて、半ば失神するように眠りに落ちた。
「あんなに放してくれなかったら、そりゃ腰も立たないよな」
ある種の納得と諦めが混じったため息を一つつき、布団の中から手探りでTシャツとボクサーパンツを引っ張り出して身に着ける。
サイドテーブルに手をかけてなんとか立ち上がって壁伝いに歩き出した時、背後で衣擦れの音と共にスタンドライトの小さな灯りがともった。
「ひろ、み……?」
かすれた声に心臓が跳ねる。
この寝起きの声で名前を呼ばれるのが一番好きだ。
もちろん本人には一生言うつもりは無いけど。

「比呂巳、なんでそんな格好してんの?」
言われて己の姿を確認してみれば、へっぴり腰で壁にすがっていて、まるで老人のようだ。
「誰のせいだと思ってるんですか?まっすぐ立てないんですよ」
「マジで?」
驚いた声に続いて噴出している。
ムッとした瞬間、軽々と抱え上げられた。
「ちょ、ちょっと!なんでお姫様抱っこなんですか!?」
「なんでって俺の姫みたいなもんじゃん」
「俺は男です」
「知ってるよ。で、どこ行こうとしてたんだ?トイレ?」
「違います。喉が渇いて……」
「おっけー。水持ってくる」
ベッドに下ろされ、部屋を出て行く背中を見送る。
<> 原因と結果 3/4<>sage<>2010/03/05(金) 14:44:25 ID:C1ZXg+T20<>
「タフだなー」
こっちは腰が立たないのに、向こうはダメージゼロ。
お姫様抱っこする余裕すらあることが、なんとなく腑に落ちない。
時計に目をやると、3時を回ったところだ。
疲れてくたくたなのに、変な時間に目が覚める事がたまにある。
今日もそんな日なんだろう。
「お待たせ」
ペットボトルを受け取ろうと手を出すと
「俺が飲ませてやるよ」
「大丈夫ですよ」
「いーから、いーから」
「でも……」
水を含んだ唇に反論を封じ込められる。
流し込まれた冷たい水が驚くほど甘いのは、喉が渇いていたせいなのか。流し込む相手のせいなのか。
唇の端から零れた水が首筋を伝うのを丁寧に舐めとられると、それだけで息が弾む。
もう一口、と流し込まれ、水が無くなっても唇は離れない。
絡めた舌で口の中を探られると、体の芯に熱が宿る。
「…ん……だめ、ですよ……今日もしゅう、ろくが」
途切れ途切れの抗議に力があるはずも無く、呆気無く押し倒された……。

<> 原因と結果 4/4<>sage<>2010/03/05(金) 14:45:03 ID:C1ZXg+T20<>
「だから駄目だって言ったじゃないですか」
収録で大失態を演じた俺の前で土下座する人物を睨むのは、この日の夜のお話。



 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ <失敗も美味しく頂きました
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/05(金) 21:33:47 ID:XzschdPfO<> >>223

立てないってどんだけw
優しい指先に追い詰められるって
あたりに盛大に萌えた!

そして先視点が読めて嬉しい!
thnks(゚∀゚) <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/05(金) 21:58:03 ID:lGSm6Pto0<> 亀レスだけど>>189
ヴィクバタ姐さん来てたー!ひゃっほー!
ヴィクバタ!ヴィクパピ!
蝶を触ると蝶は弱って、触った手には跡がずーっと残るよね・・・甘切ない・・・ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/05(金) 22:23:37 ID:x7quUAjDO<> >>223
姐さんゴチです!
コヅ体力ありすぎw <> 原人バンド唄六弦 1/8<>sage<>2010/03/06(土) 00:01:25 ID:HyzNrVmw0<> 生注意 元青心臓、元高低 現原人バンドの唄&六弦の話
時系列は原人バンド結成前。事実も織り交ぜてますが大部分虚実です当然です。

じゃっかん唄×六弦気味

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

ああ、まるで子供みたいだ、と。

真縞は匕口卜のくしゃくしゃに歪んだ顔を見上げながら、ぼんやりと思った。



交互に使っているスタジオ、現れるはずのない時間帯に顔を出した匕口卜。
セッションしよう、と無邪気に彼は言った。
「俺さ、昨日の晩さ、匕°ス卜ルズの『ア十ーキーイソザUK』のドラムコピーしたんだぜー」
だからさ、マーツーギター弾いてよ。そう言う匕口卜があまりにもわくわくと楽しそうで、ドラムセットに座りながら自分を見上げるその目が、あまりにもきらきらと期待に輝いていて。
流されるままに真縞は、ギターを手にとっていた。
愛器を肩に掛け、2、3度試し弾きをすると、待ち構えていたようにヒロトの持つスティックがカウントを始める。

曲の最初のギターコードをつま弾いた後にちらりと背筋を駆け抜けたのは、自分の決意が揺らいでしまいそうな、そんな不安だった。
<> 原人バンド唄六弦 2/8<>sage<>2010/03/06(土) 00:02:29 ID:gA9nQnCi0<> 匕口卜とのセッションは楽しかった。

なるほど、一晩かけて練習してきたというドラムパートはなかなかのもので、そのしっかりとしたリズムに助けられながら、うろ覚えのコードを探るように、聴き馴染みの曲を演奏していく。
どちらともなく歌いだし、自然とボーカルのパートは2人でとる形になった。
真縞がミスをしたり、思いだしあぐねてもたついたりすると、ドラムのリズムも一緒にもたついてくれる。それが楽しくて、嬉しくて、顔を見合わせて笑う。
一度目は本当にボロボロで、泣きの再チャレンジ。
一度目よりはましになったけれど、納得いかなくてさらにもう一度。
そのうちに、他の曲もやってみようという話になり、今度こそ2人そろってうろ覚えもいいところの、かなり酷い演奏を、大笑いしながら繰り返した。
怪しいコード進行のギター。独創的なドラムのリズム。唄の歌詞などまるでデタラメで、半ばヤケのように2人でがなり立てる。
何度か繰り返すうち、自分たちなりに満足いく演奏ができたら、次の曲、そしてまた次の曲。
そうやって、いったい何時間が過ぎたのか。


気づけばスタジオの外は夕暮れていた。


「あー、楽しかったーー」

満足げにドラムスティックを置く匕口卜の顔が、夕日に照らされていた。
そのせいか、またはセッションの高揚感のせいなのだろうか、いつもは青白い匕口卜の顔が紅潮している。
その様子をしばらくの間ぼおっと見つめていた真縞は、ふと我に返ると、慌てて匕口卜から視線を逸らせた。
あーあ、とわざとらしく大儀そうな声を上げ、ギターを肩から外してスタンドに立てかける。
「久しぶりに真面目にギター弾いたら、疲れちゃったよ」
そして、匕口卜に背を向け、腕をぐるぐる回しながらスタジオの隣の休憩室に向かった。
まるで、匕口卜から逃げるように。
後を付いて来てくれるな、と祈りながら。
<> 原人バンド唄六弦 3/8<>sage<>2010/03/06(土) 00:04:57 ID:HyzNrVmw0<> けれど、

「なーなーなー、」
そんな真縞の身勝手な望みなど匕口卜に分かるはずもなく、楽しげに弾んだ声と軽やかな足取りが、すぐに追いついてくるのだった。
「マーツー、楽しかった?」
並んで休憩室に入ると、匕口卜は回り込み、真縞の顔を覗き込んできた。
「うん、楽しかったよ」
そのどこか不安そうな顔に、真縞はかすかに笑ってみせる。
楽しかった。それは偽りのない事実だったから。
匕口卜はニコニコと頷いた。
「やっぱさー、人と演奏するのは楽しいね?」
「……うん、そうだね」
それも、本当だ。
「いやでも、マーツーとだったから、余計楽しかったのかもなぁ…」
「…………」
それも、本当のことだ。少なくとも真縞にとっては。
匕口卜と一緒に演奏するのは、ロックを共にやるということは、掛け値なしに楽しい。最高に。
けれどそれは、今の真縞にとってはひどく苦しく、辛い現実なのだった。

ねえねえ、とまるで近所の気になる子を初めて遊びに誘う子供のような、はにかんだ匕口卜の口調。
どうか、その先は言わないでほしい――――、
そんな真縞の願いが、やはり通じるはずもない。

「またさ……、一緒にやろうよ」

「……………」
何を、と問わなくても、匕口卜の言いたいことは痛いほどよく分かっていた。
数か月前に事実上解散したバンド、終わらせた2人での音楽活動。
その再開を匕口卜は望んでいるのだ。
また一緒にロックをやっていくことを、彼は望んでくれるのだ。こんな自分と――――、
それは何よりも嬉しいことで、同時に何よりも恐れていることでもあった。 <> 原人バンド唄六弦 4/8<>sage<>2010/03/06(土) 00:05:41 ID:gA9nQnCi0<> 真縞は、胸の痛みに耐えるようにそっと目を閉じた。
細く長く、息を吐き出す。これから言う言葉が、匕口卜を落胆させるであろうことを覚悟しながら。
匕口卜をひどく傷つけてしまうかもしれないことを、怖れながら。

「…………ごめん…」

それは無理だ、と真縞の口から出たのは、蚊の泣くような呟き。
とたん、2人の間に重く沈黙が落ちた。
「……………」
「…………………」
もしかして聞き取れなかったのだろうか?
長すぎるその沈黙を不安に思った真縞は、閉じていた目をヒロトに向けた。
そのときだった。

「……やっぱり…」

静かな部屋の中に、低く重く、呻くような声が響く。
ヒロトは俯き、身体をかすかに震わせていた。

「―――――え?」

「やっぱりお前、俺のことがイヤになったんだろ!!?」

「ヒロト……!?」
叫び声。それと共に身体に与えられる衝撃。

突き飛ばされた真縞は大きくよろけ、気づけば休憩室のソファに座り込み、くしゃくしゃに歪んだ、子供の泣き顔のようなヒロトの顔を見上げているのだった。 <> 原人バンド唄六弦 5/8<>sage<>2010/03/06(土) 00:06:27 ID:gA9nQnCi0<> それは、久しぶりに匕口卜が見せた激情だった。

「俺と一緒にいるのがイヤんなったから……、一緒にロックンロールやるのに飽きたから、だからお前、バンド辞めるなんて言い出したんだろ!!?」

やはりそう感じていたのか、と真縞は思う。
突然のバンド休止の申し出の原因が、別のところにあることを。
努めてとった匕口卜との距離の意味するところを。
聡いこの男が気づかないはずがないのだ。
そして、そのことに心を痛めていないはずもない―――。

あの時――、バンドを辞めたいと真縞が突然言い出したときでさえも、匕口卜は穏やかだった。
少し困った顔をしながらも、タイアップが決まりかけていた曲をあっさりと放り出し、「お前がそうしたいんなら、じゃ、休止しよっか?」と軽い調子で言ってくれた、そんなヒロトなのだ。
それが今は、真っ赤にした顔を歪ませて、こんなに感情を昂らせている。
怒っているのではなかった。付き合いの長い真縞には、それがよく分かっていた。

「なあ、俺のこと、そんなに嫌い……? バンド辞めて逃げ出すほど、スタジオ来る時間ずらして、俺と顔合わさないようにしなきゃなんないほど、俺と一緒に居るのがイヤんなっちゃったのか………?」

不安げにゆれる瞳。言葉もなくじっと見返すと、それは今にも泣き出しそうに潤む。
自分のそんな表情を隠したいのか、あるいは真縞をどこにも逃がすまいとでも言うのだろうか、ヒロトは床に座り込み、長い腕をソファに座る真縞の腰に巻きつけ、腹の辺りに顔をうずめた。
まるで、親に捨てられるのを怖れる子供のように。
<> 原人バンド唄六弦 6/8<>sage<>2010/03/06(土) 00:07:12 ID:gA9nQnCi0<> そう、匕口卜が感じているのはきっと、不安だ。
長年一緒に過ごしてきた人間が去っていくという不安。
自分が心を許せる人間を、失うかもしれないという不安。
真縞よりずっと友人知人も多く、大勢の人間に囲まれて朗らかにふるまっているように見える匕口卜だが、その実、人と打ち解けるのがあまり得意ではない。
だから、彼が本当に心を開ける人間はほんのわずかしかいないのだ。そんなところは切ないほど自分と似ていて、真縞は、だからこそ匕口卜の抱いている喪失の不安が、己のことのように実感できた。

匕口卜の問いに、そうだ、と返答できたら。
嫌いだ、と嘘をついてしまえたら、どんなに簡単なことだっただろう。

けれど、真縞は誰よりもよく知っているのだ。
匕口卜が自分の周囲の人間を、心の許せる人間を、どんなに懸命に愛しているのか。
自分が、どんなに匕口卜に大切にされてきたのか。
そして、自分などよりよほど情に厚い、優しいヒロトが、この別れでどんなに心傷つくことだろう――?
そう思うと、心にもない言葉で2人の関係を終わらせることなど、とてもできないのだった。

真縞はしがみつく匕口卜の頭を、愛しげに撫でた。
ちがうよ、そうじゃない、と子供をなだめる親のような口調とともに。

「お前のことがイヤになったんじゃない。……お前が好きだよ、すごく大切に思ってる」

こんな直截なことを匕口卜に言うのは初めてで。
どんなに気恥ずかしいだろうと口に出す前は思っていたが、真縞の耳は自分の言葉を、思いのほか自然な響きだと感じていた。
それはきっと、心からの本音だからだ、と真縞は思う。
けれど、いまの2人にとってはひどく薄っぺらな言葉だ、とも。

一緒にロックをやらない、それは2人にとって決別にも等しいことなのだと、互いによく分かっているのだから。 <> 原人バンド唄六弦 7/8<>sage<>2010/03/06(土) 00:08:03 ID:HyzNrVmw0<> 撫でた手の下で匕口卜の頭は一瞬震え、真縞の腹にぐりぐりと押しつけられる。

「……それなら、」「でも、もう一緒にやることはできない」

最後の希望にすがるようにも聞こえる匕口卜の言葉を、真縞は残酷に遮った。
匕口卜に、そして何より自分に言い聞かせるように、真縞は言葉を並べた。
「これからも、俺が力になれることなら喜んでする。お前がソロやってくんなら裏方やるし。いつだって俺はお前の味方だよ。
 でもさ……、俺たちは長く一緒に居すぎたんだ。少し離れた方がいい」

匕口卜がぶるり、と激しく身体を震わせた。
「……なんでだよ!? なんで、俺たち離れた方がいいんだよ!?
 こんなに楽しいのに……、ロックンロールやって、あんなに最高の気分になれるのに、どうして俺たち一緒にいちゃだめなんだよ!!?」
「匕口卜………」

いっそう強くなる拘束。苦しいほどの締め付けと匕口卜の悲痛な声に、真縞は顔を歪める。

「なあ……俺を見捨てないでくれよ。 やだよ……、お前が俺をここまで引っ張ってきたんだろ…?」
「匕口卜、違う…」
「なにが違うんだよ!!……ダメだ!! 俺は、お前が離れてくなんて絶対許さねぇぞ!!」

不安がる子供のさまから、次第に狂気じみてさえきた匕口卜の自分に対する執着が、次第に真縞を追い詰めていく。 <> 原人バンド唄六弦 8/8<>sage<>2010/03/06(土) 00:08:48 ID:gA9nQnCi0<> 落ち着け、と真縞は大きく深呼吸をした。
「―――、匕口卜、離せ」
「いやだ!! お前がもういちど俺と一緒にやるって言うまで、離してなんてやらねーー!」
「いい加減にしろ、子供みたいなこと言ってんじゃねぇよ」
「うるせぇ!! お前がうんって言わないからいけないんじゃんか!!」
「――――匕口卜!!」

堂々巡りの押し問答、募る苛立ち。

「なんでだよ……!? なんで俺から離れてっちゃうんだよ…、マーツーっっ!!」

そして何よりも、悲痛な匕口卜の声を聞くことの、身を切るような辛さに耐えきれず―――、


「しょーがねーだろ!!?」

しまった、と思ったときには、すでに抑えてきた感情のダムが決壊していた。
真縞は叫んだ。

「だって、もう俺は、からっぽの抜け殻なんだから!!!」

[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!
まだ続きます、申し訳ない。
それから、新バンド結成を持ちかけたのは六弦だそうですが、
きっかけを作ったのは唄の方からだって無理に解釈しちゃってすみません… <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/06(土) 12:04:59 ID:60mQfKfn0<> >>230
続きwktkで待ってます!! <> 風と木の名無しさん<><>2010/03/06(土) 12:42:27 ID:DLbi1JzcO<> >>230
美味だ―
続きハフハフしながら待ってます <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/06(土) 14:15:37 ID:68HGPMBC0<> >>230
この2人の話をどれだけ待っていたことか…!!
いつまでだって待ちますぜ <> 原人バンド唄六弦 1/8<>sage<>2010/03/06(土) 15:13:37 ID:gA9nQnCi0<> >>238>>239>>240さんありがとうございます
>>230-237の続きです

生注意


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

『真縞さんの作る曲が、だんだん匕口卜さんのと区別つかなくなってきてるような気がするんですけど』

そんな指摘で、自覚したのはいつだったか。

最初は愕然として、それから必死で否定して、それでも否定しきれず認めるしかなくて。
そして―――、怖くなったのだ。
自分の世界の大部分が、匕口卜で占められているという事実に。
匕口卜という存在に飲み込まれ、“自分”が段々と無くなっていくような、そんな感覚に。

真縞は、“自分”でいたかった。
匕口卜が時に全てを委ねるような信頼をしてくれる、「自分にとって特別な存在だ」と公言してくれる、それに値するような自分でありたかった。
それなのに、気づいてしまったのだ。

「俺にはもう、なにも無い。―――からっぽだ」

いつの間にか拘束は解かれ、ポカンとした顔が真縞を見上げていた。
情けなく歪んだ顔を見られるのが嫌で、真縞は両手で顔を覆い隠した。 <> 原人バンド唄六弦 2/8<><>2010/03/06(土) 15:14:17 ID:gA9nQnCi0<> 真縞にはもう何も無かった。
音楽を通して表現したいこと、主義主張。
怒りや悔しさ、虚無感、疎外感……、かつて自分の表現の源だと思っていたそれらの感情も、ギタリストとしての矜持すらも。
いまの真縞にあるのは、ただこれだけだった。

「俺はもう、お前とロックをやりたいって、それ以外のことは何一つ残ってないんだ―――」

匕口卜がいればそれだけでいい

そんなことすら思ってしまう自分が心底嫌だった。
そして、これ以上、情けない男になりたくなかった。、
ただ匕口卜にすがることしかできない、何もない男には。
いつか匕口卜にも呆れられるだろう、みじめで空虚な男になり下がるのは、まっぴらご免だ。

だから、逃げるんだ。お前から。
手遅れにならないうちに。
自分の足で逃げ出すことができるうちに。
これ以上お前に溺れてしまう前に。
そうしていつか、お前に見限られてしまう、その前に。

「だから……、もう許してくれよ…。俺をお前から…、解放してくれ……」

顔を覆った手の隙間から、呻くような自分の告白が溢れ流れ出していくのを、真縞はどこか人ごとのように聞いていた。
そして祈っていた。
早く行ってくれ、と。
こんな価値のないガラクタのような俺なんか、いっそもう今すぐ見限って、ここに捨て置いてくれ。
そして、お前は変わらずに歩いていってくれ。ロックンロールの道を、わき目も振らず、ひた向きに。
それが、いまの俺にただ1つ残された誇りなんだ――――、と。 <> 原人バンド唄六弦 3/8<>sage<>2010/03/06(土) 15:15:00 ID:gA9nQnCi0<> そのまま2人黙り込み、どのくらいの時間が経ったのか。
しかしその重苦しい沈黙は、のんびりとした匕口卜の声で破られた。


「いやー……、なんか、嬉しくて死んじゃいそうだなぁ……」


「―――――!?」

匕口卜は笑っていた。
驚き見上げる真縞の前で、照れくさそうに鼻を掻いて、なんだかプロポーズとかされた気分だ、などと言いながら。

「……お前…、茶化すなよ…」
憮然として真縞は、やにさがる目の前の男の顔を睨みつけた。
「茶化してなんかないよ」
けれど、匕口卜から返ってきたのは、思いのほか強い視線だった。

「だって、俺もおんなじだもん」

俺だって、マーツーとロックンロールやりたいーって、それだけだよ。
あっけらかんと匕口卜は言った。

「他のことなんて、ホントどーでもいい。 ハハ…、すごいね、俺たちって両想いじゃん」 <> 原人バンド唄六弦 4/8<>sage<>2010/03/06(土) 15:15:54 ID:gA9nQnCi0<> 茶化すな、とその言葉を否定するには、匕口卜の目は真剣でありすぎた。
だから真縞は、力なくでも、と言い募った。
声が掠れてしまうのは、拭いきれない不安のせいか。
それとも―――、じわじわと湧きあがる喜びのせいなのか。
「でも……、そんなのはダメだろう…?」
お互いさえあればいい、だなんて、何も持っていなかった若いころよりもさらに乱暴で、傍若無人な言い分が、許されるはずもない、と。

「ダメでもいいじゃん」
こともなげに匕口卜は言う。
「ダメでどーしようもなくて、世界中の皆に怒られても、2人一緒ならきっと大丈夫。楽しいよ」
「…………」
「マーツーとロックンロールさえあれば、俺は他になにもいらない」
「………………」

それは、いろいろなものを抱えた今の自分たちには望むべくもない我儘だ。
それでも、きっぱりとそう言いきってしまう匕口卜の瞳の光の強さに、真縞はしばし見惚れた。

ヒロトは言う。

「だからさ、一緒にいよう?」

真縞の手をとり、今までみたことのないほど優しげな、慈しむような表情で真縞を見つめながら。

「2人でロックンロールやって、好きなことばーっかやって、笑いあって、ずっと一緒にいよう?」

今までに聞いたことのない、真摯な口調で。

それはまるで―――――、 <> 原人バンド唄六弦 5/8<>sage<>2010/03/06(土) 15:16:28 ID:gA9nQnCi0<> 「……お前の言ってることの方が、よっぽどプロポーズみたいじゃんか」
思わず真縞は破顔していた。
「ええ? そうかなぁ……?」
少しきまり悪そうに、匕口卜は首をかしげる。
それでも真縞を見つめ、実に嬉しそうに笑うのだ。
「やーーっと笑ったな」
「え……?」
そんなに自分は仏頂面をしていたのだろうか? 真縞が意味を掴みかねて見つめた匕口卜は、拗ねたように口を尖らせた。
「ここんとこずっと、お前の嘘笑いしか見れてなかったからさぁ」
「……………」
今度は真縞がきまり悪い思いで俯く番だった。
聡いこの男にどこまでも見透かされていたのかと思うと、恥ずかしいやら、申し訳ないやら、様子をうかがうように匕口卜を見上げると、予想に反して緊張した顔がこちらを見ていた。

それで?と匕口卜が厳粛な口調で言う。
「で、返事は…?」
「ん?」
「……プロポーズの返事だよっ!!」

「……お前なぁ…」

呆れた視線を投げるも、緊張を通り越して不安げになっている匕口卜の表情にぶつかって、真縞は苦笑する。
――自分の心の中が、この男を愛おしく思う気持ちでいっぱいになっていくのを感じながら。 <> 原人バンド唄六弦 6/8<>sage<>2010/03/06(土) 15:17:25 ID:gA9nQnCi0<> さっきはあんなに自信に溢れて、世界中の人間に怒られても平気だ、と言い放った男が。
自分の返答を不安な気持ちで待っているのだ。
お前に溺れそうで怖い、と先ほど告白したばかりなのに、それでもまだ不安に思っているのだ。

真縞は匕口卜の肩を軽く小突いた。

「イエス、に決まってんだろ」

悔しいけれど、もう自分は1人では上手く歩いていけそうにもない。
ヒロトと肩を組んで、支えあって、馬鹿なことをやって、ロックをやって――、そうやって生きていく他に想像がつかないのだから。
そして、それこそが自分の望んでいることなのだから―――。

「一生、お前と一緒にいるよ」

言ったとたん、真縞の視界は90度回転した。

「………………!!!」
飛びかかるように抱きついてきた匕口卜と共にソファに沈む。
ぎゅうぎゅうと抱きしめられる苦しさに辟易しながらも、真縞は、自分にしがみつく男の背を、子供をあやすように撫でた。
その感触が心地よいのか、くすぐったいのか、耳元で匕口卜が笑う気配。
そして、真縞の耳に押し付けられた柔らかな感触。 <> 原人バンド唄六弦 7/8<>sage<>2010/03/06(土) 15:18:24 ID:gA9nQnCi0<> 「…………」
耳に、頬に、額に、顔中にくり返し押し付けられる匕口卜の唇を、真縞は黙って受け入れる。
なんだか大型犬にでも懐かれた気分だ、と内心で苦笑しながら。
そうして、どこまでも優しいその感触に心地よさすら感じてきた真縞が目を閉じかけた、その時だった。

「――――っっ!!?」
唐突に口を口で塞がれ、驚く間もなくぬるり、と匕口卜の舌が入り込んできて。
「………ちょ、…っ」
さすがに堪りかね、真縞は頭を振って口付けから逃れると、匕口卜の身体を押しのけた。
案外あっさりと離れていった身体は、けれど悪びれた様子もなく、のろのろと起き上がる真縞を楽しげに見守っている。
その顔をしかつめらしく睨み上げながら、真縞は唾液に濡れた口を拭った。

「今のはさすがにちょっとさ………。なんなの?いったい……」
「いやぁ、なんかね、原始的な衝動がね?」
「……ね? じゃないよまったくもう…」

いたずらが成功した子供のように笑う匕口卜にいよいよ呆れて、真縞は大きなため息を吐いた。
と、同時に真縞の脳裏にひらめいたのは、あるインスピレーション。

「……………」
「わー、もうこんな時間かぁ」
すっかり日が落ちた窓の外の景色と壁にかかった時計を交互に見ながら、匕口卜が腹が減ったと騒いでいる。
「マーツー晩メシどうする? 家に帰って食べるつもりじゃなかったら、これから一緒にどっか行かない?」
「……う、ん…、どうしよっかなぁ……」
匕口卜の誘いに気もそぞろな返答をしながら、真縞は逃げていこうとする先ほどの閃きの影を追いかけた。 <> 原人バンド唄六弦 8/8<>sage<>2010/03/06(土) 15:19:02 ID:gA9nQnCi0<> (……原始的、か…)

捕まえてみてもまだはっきりとした形を成さないそれは、しかし心が湧きたつような楽しい色を帯びていた。
真縞は抜け殻だった自分の身体に再び音楽に対する活力がみなぎってくるのを確かに感じ、そしてつくづくと思うのだった。


どうやら匕口卜と共にあることが、今の自分の音楽表現の源らしいと。
やはり、自分は匕口卜がいなければ駄目なのだ、と。


「マーツー? どうかしたの?」
「ん…、なんでもない。 メシ、行こうか」

ソファから立ち上がり、匕口卜と目線を合わせると、ニコリと、無邪気な笑顔が返ってくる。
その安心しきった表情を見ながら、幸福な気持ちであきらめのため息をひとつ。

「俺、カレーが食べたい」
「ええーー、またぁ?」

真縞はいつもと同じように匕口卜と肩を並べ、部屋を後にした。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

この2人なら、恋愛感情すっとばしてうっかり将来を誓い合っちゃったりしてるんじゃないかって
妄想が止まらなくなってついやっちまいました…

長々と失礼しました。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/06(土) 16:07:23 ID:XqSTSfOO0<> >>248
すごく良いものを拝ませていただきました
乙でした! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/06(土) 19:07:03 ID:x3oImHUiO<> >>248
原始人ズには全然詳しくないのに差し出がましいですけど感動しました!!
良いもの読ませていただいてありがとうございました。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/06(土) 21:51:53 ID:M33vPlNyO<> >>248
gj!
もう、すごくいいものを読ませてもらった、としか言えない。
248は萌えよりの使者だ。 <> 原因と結果 4/4<>sage<>2010/03/06(土) 23:34:54 ID:FLHAmES30<> >>248
うわー、すごく素敵なお話を有難うございます!
文体も超好みで萌えました <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/06(土) 23:36:00 ID:FLHAmES30<> すみません!
>>252の名前欄は無視して下さいorz <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/06(土) 23:58:22 ID:QOXrM2bS0<> >>253
あるあるw

どんまい <> 風と木の名無しさん<><>2010/03/07(日) 00:43:12 ID:Si0fW0JfO<> >>248
この二人まってました…!
GJ! <> 夜明け前1/9<>sage<>2010/03/07(日) 01:38:03 ID:QPNE23G90<> |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの武智と伊蔵の9話後あたりの話。この2人はほのぼのっぽいが
本スレからお智恵を拝借して上司2人×武智なんかも少し有り。
そんなにエロは無いですが、痛い描写が少々あるかもなのでご注意下さい。
先生があいかわらずグルグルしてます。


霞む視界に白くくゆる煙が見えた。
日はまだ高く。それでも障子越しに差し込む光はどこか薄暗く。
鼻腔に感じるのは畳の古い井草の匂いと、狭い部屋に満ちる人いきれ。
足を抱え上げる手と肩を押さえつけてくる手は別物だった。
頭上で交わされている声がある。笑っているようにも思える。
しかしその意味までを聞きとる事は出来ない。
一方自分の口からも溢れるものがある。おそらくは無意識の悲鳴。
それは即座に肩から離れた片手が、塞ぐように押さえつけてきた。
口元に感じるその武骨な手の平の感触を、しかしそれならそれで構わないと思う。
自分とてこれ以上こんな姿を、外にいるかもしれない誰かに悟られたいとは思わない。
いずれ変わりゆくだろう己の浅ましい声色を耳にしたいとも思わない。
それくらいなら塞がれ続けている方がましだった。
視界の中で煙が揺れる。
それが組み敷かれている自分の傍ら、置かれている煙草盆の上の煙管からのもの
だと言う事を認識したのはしばらくたった後だった。 <> 夜明け前2/9<>sage<>2010/03/07(日) 01:39:07 ID:QPNE23G90<> 傍若無人に押し開かれ、揺さぶられ、それにもはや抵抗する力も無いと見て取られると、
肩を掴んでいた男の手が不意に離された。
茫洋と開かれた視界の中で、その手が傍らの煙管を取り上げるのを見止める。
ゆっくりと運ばれた、その雁首が自分の上で微かに傾く。
火皿から零れ落ちる灰は赤いのだと知った。
その赤が肌一枚をちりりと焼く、その感覚に悲鳴がまた口をつくが、それは再び
広げられた手の平で強く抑え込まれた。
知覚した痛みに揺り戻された意識が、声を声として初めて拾う。
顔は駄目じゃ、足も土イ左まで戻る事を考えれば不憫ぜよ、ならば、
向けられる残酷な好奇の視線に、たまらずに身が竦む。
その脅えが相手を煽る事はわかっているのに、どうする事も出来ない。
案の定、頭上の声は途端喜色を帯びた。
そして告げられる。
可哀想に。愚かな門弟を持ったばかりに。それでも、
おんしの責めは免れんぞ。
先刻も告げられたその言葉が、呪詛のように深く身の内に染みてゆく。
そしてあらためて思い出す。そうだった。覚悟はしていた、最初から。
だからこの時、諦めと共に目は堅く閉じられ、胸の内には繰り返される言葉があった。
大丈夫、自分は慣れている。こんな事には慣れている。慣れている………


それでも―――心は擦り切れた。 <> 夜明け前3/9<>sage<>2010/03/07(日) 01:40:18 ID:QPNE23G90<> 瞼の裏で火花が爆ぜる。
その赤さに跳ねるように飛び起きれば、そこはまだ夜も明けきらぬ自分の部屋だった。
辺りに満ちる薄闇に、夢かと武智は深い息をつく。
しかしそうしてあらためて周囲を見渡せば、そこには広げられたままの自分の荷物の山があり、
その寒々しい光景にまたしても一つ吐息が洩れた。
昨夜の内に片付けきれなかった、江戸を去り、土イ左へと戻る仕度。
戻る事情は収次郎には話した。もっともそれは下手な嘘ではあったのだけれど。
だから一瞬いぶかしげな光を灯した彼の視線や追求を恐れ、自分は昨夜遅く、藩の中屋敷から
この世話になっていた道場に身を移すと、短い期間ながらそこに間借りをさせてもらっていた
部屋の整理に取りかかり、そしてそのまま床についた。
さすがに昨夜ばかりは藩邸に戻る気になれなかった。
おそらくは殺到するだろう皆の問い掛けに、冷静を装う余裕も気力も無かった。
それでも、逃げてばかりいる訳にはいかない事もわかっている。
日に日に冬へと向かう朝の空気は、今見た夢にうっすらと汗ばんだ肌に冷たく、
武智は布団の上に掛けていた羽織を引き寄せると、それを肩に掛けた。
まだ早い時間だが、もう一度眠る事は出来そうになかった。
だから起き上がり、着替えようとする。その時、
不意に部屋の戸の向こう、続く廊下の奥の方からなにやら騒がしい気配を感じ、武智は
手早く着物を改めると、戸を引き開けた。
騒ぎは聞き間違いではないようだった。
廊下の奥から徐々に近づいてくる乱雑な足音と入り乱れる声。
一方が制止し、一方がそれを振り払うような、そんな気配が角を曲がり現れる。
その瞬間、武智の目に飛び込んできたのはひどく取り乱した様子の伊蔵の姿だった。
<> 夜明け前4/9<>sage<>2010/03/07(日) 01:41:21 ID:QPNE23G90<> 驚き、一瞬声も無かった自分を、見つけた彼の目が大きく見開かれる。
「武智先生!」
刹那、大きな声で叫ばれる。
それに武智は何事かと問う前にその事情を察していた。
あぁ、彼も知ったのか。
だからそんな彼を必死に押し止めようとするこの桃居の道場の門弟に、この時武智は静かに
声をかけていた。
「朝から騒がせてすまんかったな。こやつとはわしが話をするきに。」
おそらくは踏み込んできた伊蔵から自分の眠りを守ろうとしてくれたのだろう、そんな相手に
ねぎらいの言葉を与えれば、その門弟は一度複雑そうな視線を伊蔵に向けながらも塾頭であった
武智に黙って頭を下げた。
そしてその場から立ち去る。
後に残されたのは二人だけとなった。
伊蔵の息はまだ整わないようだった。それでも見上げてくる大きな瞳には苛烈なまでの激情が
浮かんでいる。だから、
「ここで騒いでは先生や先生のご家族にもご迷惑がかかる。」
部屋を間借りしている道場主への配慮を口にし、武智は伊蔵にひそりと告げた。
「外へ出よう、伊蔵。」 <> 夜明け前5/9<>sage<>2010/03/07(日) 01:42:23 ID:QPNE23G90<> 百井道場は二つの川と合流する三十間堀の河岸にあった。
その堀沿い、藩邸の方角には背を向ける形で武智は歩く。
辺りはまだ薄暗く、道には人影も無く、そんな中伊蔵は先程の勢いはどこへやら、ただ黙って
自分の後ろを着いてきていた。
だから武智はこの時、静かに口を開く。
「国元から手紙がきたがじゃ。」
「…………」
「婆様の具合が悪うなっての。先も危ういやもしれん。せやきに、藩に帰国の許しをもろうた。」
考え、繰り返し声にし、ようやく人に告げられるようになった説明。
そして武智は伊蔵にはこうも付け加える。
「じゃが、心配せんでもええ。帰るのはわしだけじゃ。おまんと収次郎についてはそのまま
江戸に留まれるよう話はつけてある。」
元は自分の江戸修行の願い出の時に同行を許してもらった二人だ。
だが彼らは今回の自分の動向とは関係ないのだと、その立場を安心させてやろうとする。
しかしそれに伊蔵はこの時ハッと息をのんだようだった。
「わっ、わしはそんな事を気にしちゅう訳では…っ」
叫ぶ言葉が途中で詰まり、一瞬の惑いの後、地面を蹴る音が背後で聞こえる。
勢いよく自分の前に回り込んでくる、彼は自分を真正面に見据えるとこう叫びの続きを口にした。
「わしも一緒に行きますきに!」
「伊蔵?」
「先生だけを一人で帰す訳にはいかん!」
悲痛な声色でそう告げてくる、そんな伊蔵に武智は一瞬戸惑いを覚える。
が、そんな違和感は胸の内に押し隠し、今は年長者の度量で諭しを口にしようとした。
「何を言うがじゃ。帰るくらいわし一人で大丈夫じゃ。それよりおまんは、残りの滞在期間で更に
剣の腕を磨き、立派な侍に…」
「武智先生!」
ありきたりな説教は無用とばかりに、再度叫ばれる名。
いつもは自分の言う事をいっそ従順なまでに聞く、そんな彼の頑なさにこの時武智は明確に
いぶかしさを覚える。だから、
「どうかしたがか、伊蔵?」
うかがうように問う。するとそれに伊蔵は瞬間泣き出しそに表情を歪めると、クッとその顔を伏せた。
<> 夜明け前6/9<>sage<>2010/03/07(日) 01:43:27 ID:QPNE23G90<> 「……の…せいじゃ…」
「……………」
「わしが…涼真を頼ったきに…先生が……」
ぽつぽつと落とされる、その呟きに武智はハッとする。
彼の言おうとしている事。それは彼が真相を知っているとは思えないが、それでも今回の一連の事の
顛末の本質を少なからず突いていた。
数日前に起きた、自らの門弟が引き起こした不始末。
夜道で拾った商家所有の舶来時計を質屋へ持ち込み、盗品と見抜かれ、奉行所へ訴え出られた。
その処分は上司から自分に任された。そしてそれに自分は切腹を申しつけた。
けれどそれに涼真は抗い、自ら動き、商家に訴えを取り下げさせると自分に情状酌量を願った。
しかし……自分はそれに応えられなかった。
切腹は予告した通り、日の出と共に。
しかしその朝を待たず、その門弟は夜の明ける前、姿を眩ました。
証拠は無い。痕跡も無い。しかしその手引きをしたのが涼真だろう事は自分には察しがついていた。
そしてそれを心のどこかでほっと安堵している自分がいる事も事実だった。
罪を犯したとは言え、自分を慕ってくれた教え子であり仲間でもあった者だ。
許してはやりたかった。助けてもやりたかった。
だが同時に、そう思ってしまう自分自身の弱さが、許せなくもあった。
自分一人だけならば、なりふり構わぬ事も出来たかもしれない。
しかし今の自分には背負う物がありすぎた。
唱えたい主張がある。国の行く末を想う理想もある。それに共鳴してくれる仲間もいる。
しかしそれらの事を成すには、藩内で連綿と続く身分差はあまりに大きな弊害で、それを改めさせようと
思えば、まず取り掛かれる事は下司全体の規律を正し地位向上を図る事くらいだった。
侮られぬよう、隙を作り見下されぬよう、必ず自分達の存在を認めさせる。
そう皆に触れを出した、これはその直後に起こった事件だった。
だから見逃してやる訳にはいかなかった。
彼一人への情と仲間全員に対する責。
それは自分の立場では、秤にかけてもいけない事だった。
なのに……揺れた。自分の弱さ、それは自分だけの罪だった。だから、
「涼真は…関係ないきに。」
後悔の念を口にする伊蔵に静かに語りかける。
しかしそれにも伊蔵は首を激しく横に振った。 <> 夜明け前7/9<>sage<>2010/03/07(日) 01:44:31 ID:QPNE23G90<> 「せやきに、わしが涼真を呼んで、事を大きくして、それで少しでも希望を持たせてしもうたから
あいつは逃げ出すような事しでかして……そのせいで武智先生が…」
訴える主張は、やはり少し的を外している。
けれど今回の事で自分に累が及んだ、それを察しているらしい伊蔵の勘の良さに武智は少しの驚きを抱く。
まだ子供だと思っていた。
素直で、幼く、導いてやらねばならないとばかり思っていた。そんな彼が今、自分の事を慮って
悔恨を口にする。
だがそれを武智はやはり無用だと思った。
あの者が逃げようと逃げまいと、処罰がされようとされまいと、どのみち、自分の責任は
多かれ少なかれ免れはしなかった。だから、
「おまんは、何も気に病まんでええ。」
本心からそう告げる。けれどそれに伊蔵は納得を見せなかった。
「武智先生!」
責めるように縋るように名を呼び、その手を伸ばしてくる。そして掴まれた二の腕。
指が着物越しに強く肌に食い込む。その瞬間、武市は肘の内側に走ったひりつくような痛みに
思わず顔を歪めていた。
「……つっ…」
口の端からも噛み殺せなかった声が洩れる。それに伊蔵は慌てたようにバッとその手を離してきた。
「すっ、すいません!」
自分の手と武智を交互に忙しなく見やり、うろたえる。
それに武智は腕の痛みが治まるのを待って、一度深く息を吐いた。
そしてゆっくり顔を上げる。と、そこには堀沿いに営まれている茶店の、軒先に寄せられた腰掛けが
あるのが目に止まった。
「少し、座るかえ?伊蔵。」
言い、返事を待たずに踵を返す。
そして無意識に肘を庇うように腰を下ろし視線を上げれば、そこにはまだ尚困惑したように
道の真ん中に立ち尽くす伊蔵の姿があった。
途方に暮れたような、そんな頼りなげな様子に思わず苦笑めいた笑みが唇に浮かぶ。
だからそれを開いて、
「来いや。」
もう一度呼び寄せれば、それに伊蔵はようやくおずおずと歩を進めると、指示された武智の横へ
その腰を下ろしてきた。 <> 夜明け前8/9<>sage<>2010/03/07(日) 01:45:36 ID:QPNE23G90<> 身長の差から見下ろす形になる、その肩越しに言葉をかける。
「少し前に痛めての。別におまえのせいやないきに。」
繰り返す、それは今回の事も、腕の痛みも。
思いながらもう一度触れる場所。
着物越しに確かめる。そこにあるのは、癒えきっていない火傷の跡だった。
処罰者の逃亡を許した、その申し開きをする為に訪れた上司の部屋で施された、それは罰と言うよりは
ただの嫌がらせだった。
普段の姿では気付かれる事の無い。しかしわずかでも腕を晒す機会があれば余人に見咎められるだろう
位置につけられた所有の印。
おそらく彼らにとって自分はもともと目障りな存在であったのだろう。
下司の分際でありながら、藩士らが多く通う百井の道場で塾頭に任じられた。
だから今回の騒動は、自分を痛めつける良い材料だったのだ。
身に加えられた私情交じりの制裁。
しかしそれに自分が何を言えるか。
いや、むしろこれは僥倖と捉えるべきであったかもしれない。
本来なら下司全体に及んだかもしれない処断が、目先の欲にかられた彼らによって己一人に向けられたのだから。
それでも、事が済んだ後に告げられた処罰。
江戸を辞しての土イ左戻り。
責の罪状としては軽いものだったのかもしれないと受け止めながらも。
それでも……心はさすがに軋んだ。
知らずため息が漏れてしまいそうになる。しかしそれを意識して殺した武智の隣り、この時
膝に置かれた伊蔵の拳を握った手の甲に落ちる何かがあった。
いぶかしく思い、視線で追う。
うつむいた伊蔵の顔から落ちる、それは彼の涙のようだった。
頑是ない子供のように小刻みに肩を震わせて泣く、その姿に武智はつい先程成長したと思ったのに、と
不意におかしくなる。だから、
「顔を上げや、伊蔵。」
優しく命じて、しかしそれに伊蔵は首を横に振れば、今度は手を伸ばして。
頬を包むようにしてこちらに顔を上げさせれば、そこには止めどなく涙を溢れさせる大きな瞳があった。
触れた彼の、自分の為に流される涙は温かかった。
そしてそれを温かいと感じられる自分が少し不思議だった。 <> 夜明け前9/9<>sage<>2010/03/07(日) 01:46:58 ID:QPNE23G90<> 身に受けた痛みと共に擦り切れると思った。
一輪の花を愛でる事の出来る人ではないかと指摘をされれば、疼き苦しかった。
繰り返され、積み重なっていく苦痛にいっそ無くなってしまえば楽になれるかもしれないとさえ
思った心が、しかし今触れた温かさを飢えたように求めているのがわかる。
それは自分の弱さだった。戒めなければならない。けれど、
「そんなふうに、泣かんでもええ。」
二人以外誰もいないこの場だけは今少しの間、許して欲しかった。
「わしなら大丈夫じゃ。せやきに、おまんはおまんでここで頑張ればええ。剣の腕を磨いて、
見聞を広めて、そして土イ左に戻ったら、その時はわしにまた力を貸してくれ。」
「……………」
「それを誓うてくれる事が、何よりの旅の手向けになるがぜよ。」
教え諭すように。告げたその言葉に伊蔵は頬を取られたままこの時何度も頷きを見せた。
懸命なその稚い所作に、やはり笑みが誘われる。
だから濡れる頬を指の腹で拭ってやれば、それに伊蔵はすいませんと自ら袖でそれを拭く素振りを見せた。
だからゆっくりと手を離し、見下ろす。その肩に武智はこの時、ふらりとその額を寄せていた。
「…武智先生っ?」
驚いたような伊蔵の声が耳に届く。けれどそれにも伏せた顔は動かさなかった。
「おまんの肩の高さはちょうどええ。」
「……は…い…」
「このところ、ちっくと眠りが浅くての。せやきに……」
ほんの少しだけ……
身の重さを少しだけ預ける、その胸に誓う想いがある。
支えを乞うのはこれで最後にする。約束を、するから……
辺りに人影は無く、音も無く、そんな中でただ二人、息をひそめて寄り添う。
夜が明ける前の闇は一際暗い。
それでも彼のこの温もりを覚えてさえいれば、自分は今しばしその中で耐えられる気がした。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
白先生とお花イゾー、書けるうちに書いておく。
本スレ姐さん達、いつも素敵な妄想ありがとうございます。煙管ネタ萌えました。 <> 架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠1/4<>sage<>2010/03/07(日) 02:13:07 ID:jzerBC4SO<> 架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠です。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
延々規制中につき携帯より失礼します。


今日はずっとトロンとした目でボーッとしている。
かと思えばたまに盛大な溜息。
その溜息ですらなんだかいい声だ。
せっせと機材を運び込む俺達を手伝う気配もない。
まぁもうこれで終わりだからいいですけどね。
「ヒラ/サワさん、これで終わりますけど、何か飲みますか?」
声をかければこちらを見るが、返事は無い。
「相当お疲れですね…素敵でした、昨日のライブ。」
あ、また溜息。
こんなヒラ/サワさんは珍しい。
というか、初めて見た。
最近新しいファンがたくさん増えて、昨日最終日を迎えた3日間のライブは全日満員御礼だった。
昨今では平日なんか当日券はあたりまえ、休日でも広い会場では後ろはガラガラだったのに。
ヒラ/サワさん自体は何も変わっていない。
ただ、多くの人が彼を知る機会があっただけだ。
人が多ければお客さんのノリも変わるもので。
人の期待にはできる限り応えてしまう性格のヒラ/サワさんはそのノリに合わせて無茶をして相当疲れたようだ。
「…なんか、恥ずかしい」
お、やっと喋った。恥ずかしい?あら、まぁ…。
「なんか…翻弄されたっていうか…燃え尽きちゃった」
翻弄…?
「MCでもない所で休憩とかしちゃったし。私とした事が。不覚。くそ。」 <> 架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠2/4<>sage<>2010/03/07(日) 02:15:04 ID:jzerBC4SO<> ええ、ええ。
あれはかわいかったですよ。
萌えられてもしょうがないと思います。
「燃え尽きるなんて恥ずかしい…」
また。恥ずかしがるヒラ/サワさんなんて滅多にお目にかかれない。
ちょっとじっくり見たい代物だ。
「私の方が優位に立ってないと、ヤだ。」
ヤだ、ねぇ。
「見下ろしてあすんでいたい。」
はい知ってますよもちろん。
ていうかお客さんは誰も自分があなたより優位に立ってるとは思ってないでしょうけど。

でも…そんな上からのヒラ/サワさんだからこそねじ伏せてみたい、と思ってる人が、何人かは居るだろうな。
少なくとも俺は。
「つまりこういうことですか。」
ぼんやりした目がこちらを向いてからゆっくり話す。
「からかって遊んでたら、逆に襲われて、いっぱい喘がされてイッちゃったみたいな感じですか。」
あ、睨まれた。
「下品。」
「だってなんかそんな感じなんですもん。」
そんな風に睨まれると余計に…くる。
抗いがたい色気があるんだよなぁ。
なんでだろう。あなたの何がそうさせるんだ。俺は男だしあなたはもう50過ぎた中年だ。
なのにその色気と、かわいらしさはなんだ。
耐えがたい魅力がある。そそられるんですよどうしようもなく。
あ、だから溜息やめてください。漏れているのは息だけじゃないんです。
「あいつら。馬の/骨め。くそ。」
あらら。ほんっと珍しい。
まずいなぁ。ほんとに欲情しちゃうな。
きっと喘ぎ声もいい声なんだろうなーとか…想像した事もあるんですよ。
…鳴かせてみたい。 <> 架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠3/4<>sage<>2010/03/07(日) 02:16:26 ID:jzerBC4SO<> これから先も一緒に仕事するんだから変な事なんかできるわけないのに、
こんなかわいらしいヒラ/サワさんを放っておくのは…惜しい。
「ヒラ/サワさんて…」
ああもう、たまらない。
「…Uターン/通勤とかしてるくらいだから、やっぱり腹筋とかすごいんでしょうね。」

突然の話題変換に怪しんだのか、眉間に皺が寄る。
…ごめんなさい。ちょっとだけ。
ヒラ/サワさんの座っている椅子の肘かけを押さえると、ものすごい不機嫌な顔になった。
逃げ場を失ったヒラ/サワさんがギロリと睨みあげてくる。
「…何をする」
「何もしません。」
怒ってるなぁ…ぺろりと黒タートルの裾をめくった。
あ、やっぱり腹筋すごい。
ヒラ/サワさんの手が俺の手を掴む。
「この、変態」
「何もしません。」
「してる!」
もうやめなきゃ。止まらなかったらどうしよう。
なんて、考えてたら。
第三の手が俺の手首を掴んだ。
…そうだ、こいつがいたの忘れてた。一緒に機材搬入してたんだった。
「はい、離す。」
松/村。
いい所だったのに、とは思うが。止めてくれてありがとう。 <> 架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠4/4<>sage<>2010/03/07(日) 02:17:47 ID:jzerBC4SO<> 「…じゃ、ヒラ/サワさん、とりあえず全部奥の部屋に入れちゃいましたんで。俺ら帰ります。」
ヒラ/サワさんの手がゆるゆると伸びる。
その手が弱々しく松/村の服の裾を掴み、少しひっぱった。
あーあー。そうですかそうですか。
松/村はヒラ/サワさんのお気に入りだ。
「なんですか?」
「帰れ帰れ。」
「じゃ、服離してください。」
「一人にしてくれ。」
「だから、」
松/村だったらどこまでOKなのかなぁ。
松/村がふぅと息を吐いた。お前が溜息なんかついてもなんにもエロくないのに。
「おい、俺はもう少し残るからお前は帰れ。」
「ずるくない?」
「お前ヒラ/サワさんに変な事しようとするから駄目。」
お前はしないのかよ。
しないのか。
変な事しない上に機材にめちゃくちゃ詳しいから気に入られてんのか。
はぁ。帰って俺も勉強しよう。

ヒラ/サワさんと松/村を残し、俺はつくば/山頂を後にした。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
前回も感想ありがとうございました。
読んでくださってありがとうございました。 <> 風と木の名無しさん<><>2010/03/07(日) 14:45:39 ID:vN3zxRSSO<> >>248
姐さんネ申です
また、二人のチャイチャイな文章拝見したいですね…!
ありがとうございました! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/07(日) 16:57:15 ID:uwmrI6Io0<> >>265
まさかこんな可愛い師匠をここで見られると思いませんでした
ごちそうさま!その後の二人とか考えると禿げそうだ… <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/07(日) 17:47:39 ID:sZjburi/0<> >>256
姐さん、ありがとう。ほんっとにありがとう
冒頭wktkから一転切なくてたまんないよー(/_;)

あと少しでhi放送。どうしよう平常心で居られない・・・ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/07(日) 19:15:56 ID:ugUMRxCZO<> >>265
スタッフの独白に全力で同意しました!そしてまさかの松/村さんw
暴力()技師といい守りは固そうだけど、スタッフ頑張れ。超頑張れ。
続き楽しみにしてます! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/07(日) 22:31:02 ID:6gfnZKrl0<> >>256
おあああ萌えた!やられました。
なんて効果的に「慣れている」をお使いなさるか。
本編を補いつつスレの萌えをちりばめつつこの完成度。
姐さんは天才! <> ヨン二ハチ 印刷屋×ライター(1/7)<>sage<>2010/03/07(日) 22:54:38 ID:Jiy22rZg0<> サンノベ「シブヤ」の印刷屋×ライター、おまけ程度にバナナ刑事×研究者
バッドエンド埋め記念にやってやった

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 | |                | |
 | | □ START.      | |
 | |                | |           ∧_∧ ヒトリデコソーリミルヨ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

シティホテルのエレベーターに乗り込みながら、片/山は何故自分がここにいるのかを思い返した。
今日は土曜日。仕事は休みである。
大手印刷会社の営業ともなれば、週休2日など都市伝説かのような多忙を極めるが、片/山は労働者の権利を放棄したりはしない。
否、自分に忠実に仕事をしていれば休みは勝手に向こうからやってくる。
今日は、午前中にフィットネスクラブで汗を流した後、行き付けの喫茶店で自分の担当する雑誌を眺めながらコーヒーを飲み、
夜はズワイガニとアスパラの冷製パスタとワインで胃を満たす、そういう予定だった。全て秒単位で組み立てられている。
――予想外の人物からの電話さえなければ、彼はシティホテルになど足を踏み入れることもなかった。
指定された14階、1421号室のインターフォンを押す。5秒待ってドアが開かなかったら、元の予定に戻ろう。1、2、3…
きっかり5秒後に扉は開き、中から片/山を呼び出した御/法/川が顔を覗かせた。んっ、と無表情で片/山と目を合わせ、入室を促す。
言いたいことは多々あるが、ここで口論になってはならない。ホテルの廊下は公共の場所。これ、社会の常識。
<> ヨン二ハチ 印刷屋×ライター(2/7)<>sage<>2010/03/07(日) 22:56:11 ID:Jiy22rZg0<> 背後でドアのオートロックが作動する音を聞いて、片/山は口を開いた。
「随分と遅かったな」
開いた口は御/法/川の理不尽な言葉に、真一文字に閉められる。
携帯電話が鳴ったのは、片/山がフィットネスクラブを出た時だった。
通話ボタンを押してみれば、ホテルの名前と部屋番号、そして今すぐ来い、という一方的すぎる要求がまくしたてられ、あっという間もなく切れた。
「君の電話から今まで経過した時間は18分23秒。別段遅いと指摘されるほどではない」
片/山がきっぱりと告げれば、御/法/川が振り返った。にぃ、と満足気な笑みを浮かべている。
「だが、来たことは誉めてやる!」
ビシィ、と片/山を鋭く指差した。指差された方は、呆れるように息を吐く。
「それで、呼び出した理由をどうぞ」
冷静な対応に御/法/川は拍子抜けするも、すぐに気を取り直して、鞄をごそごそと探る。
「これだ、これを飲めっ」
片/山に突き付けられたのは、小さな茶色い瓶だ。中の錠剤が跳ねて、チャッと音を立てた。
「嫌ですね」
即答した。ラベルも何もないのだ。正規の薬とは思えない。
「まぁ、少し話を聞け」
何の説明もしなかったのはそっちだろうにと思いつつ、片/山は一人掛けの椅子に腰を下ろした。もう一つの椅子には荷物をどさりと置いてやった。
御/法/川は自分の席を荷物に占拠されてしばらく逡巡していたが、片/山の正面に位置するため仕方なさそうにダブルベッドに座る。
<> ヨン二ハチ 印刷屋×ライター(3/7)<>sage<>2010/03/07(日) 22:57:56 ID:Jiy22rZg0<> 「これは、とある科学者が作った薬だ。人体に悪影響のある材料は入っていない。だから、飲め」
「嫌です」
またもや即答。
「…が、せめてどのような効果があるのかぐらいは教えて欲しいですね」
御/法/川の言葉に嘘はない。嘘を吐くことのない男だと、片/山も十分に理解していたが故の最大限の譲歩。
「それは教えられん!」
そこまで分かっていても、返答は理解の範疇を超えていた。
「先入観があると、効果のほどに影響があるかもしれないからな」
と言われ、そうですかそれじゃあ飲んでみましょうか、となる人間がどこにいるのだろう。
片/山が立ち上がると、御/法/川は慌てて手首を掴んできた。
「いいか、この薬が完成すれば全世界の10億…いや20億という人間を助けることが出来るんだ」
御/法/川が上目遣いながらも真っ直ぐな視線を両眼に向けてくる。
人の目を見て話す。これ、社会の常識…なのに、それすらも出来ない人間がどれだけいることか。
「俺は御/法/川/実だぞ。俺を信じろ」
先に目線を外したのは、片/山の方だった。悔しいかな、御/法/川は奇抜な男でありながら、信じるに値する男でもあった。
「なら、騙されてみましょうか」
片/山は再び椅子に座り直すと、手のひらを差し出した。
「騙すだなんて人聞きの悪いこと言うなよ。だが安心しろ、何があっても今日のことは記事にはしない。記事にするのは薬が完成してからだ」
御/法/川は冗談まじりの口調で宣言すると、瓶を傾けた。
1回2錠。水なしで噛み砕く。
「まぁ、何かあったらこの俺が責任とってやろう!」
「ええ、約束ですよ?」
当然だ、と御/法/川が力強く頷くのを確認すると、片/山は何の変哲もない白い錠剤を口に含んだ。
<> ヨン二ハチ 印刷屋×ライター(4/7)<>sage<>2010/03/07(日) 22:58:57 ID:Jiy22rZg0<>
「うーむ、見たところ何も変化はない、な」
手帳に効果を如実に記そうとしていた万年筆は、出番がなくて寂しそうだ。
「10分経過。そろそろ何の薬か教えていただけます?」
10分で効いてくる、とウイルス研究の権威は言っていた。
喫茶店に呼び出され、どうしても会社に内緒で薬の効果を試したい、君しか頼める人がいないんだ、と。
「『素直になる薬』だそうだ」
御/法/川は、喫茶店で説明されたそのままを伝えた。
曰く、ウイルスを参考にし、一点の目的を達成するための行動力を増大させる。
ウイルスと違うのは、目的が人間らしく好意を基としたものに特定される。すなわち、
「言いたい、でも言えない。嫌われたらどうしよう…裏腹な乙女心解消薬ってところか」
御/法/川はつぶやき、何の成果も得られそうもないことに憮然としてベッドに寝転んだ。
それから、はたと気付く。
『好意』を忘れていた。大事な要素だったのに。素直になるという効果に興味を持ちすぎてしまっていた。
自分で試してみようと御/法/川は思わなかった。だって自分はいつだって素直だから。
千/晶で試してやろうとしたが、先に素直になる薬と説明してしまったために全力で拒否された。
その時に千/晶から、片/山さんに飲ませてみたらどうですか?という提案が出たのだ。
あの冷静沈着な気に食わない男が素直になる…純粋に見てみたかった。
だが、それも叶わないことだと分かった。好意を持った相手が目の前に居なければ意味がない。
文字通りお手上げだと言わんばかりに御/法/川は両腕を伸ばした。凝った肩にじんわりと痺れが走るのが心地いい。
<> ヨン二ハチ 印刷屋×ライター(5/7)<>sage<>2010/03/07(日) 23:00:53 ID:Jiy22rZg0<> 「ところで」
平板な声が上から降ってきた。同時に、御/法/川に影が下りる。
「責任をとっていただきましょう。約束は守る。これ、社会の常識…以前に、人間の常識」
片/山がベッドに膝をつき、両腕をがっちりと押さえ込んできた。あまりにも突飛な行動に、御/法/川は目を丸くする。
何なんだこれは、まさか薬が効いているとでもいうのか!?
「はぁ!?…いや、待て待て待て待てぇっ!何のつもりだ、これは!?」
っていうか、効いていたとしたら、それはそれで問題なわけで。だって好意が、ほら、ね?
声を荒げつつ、抵抗を試みる。
しかし体力自慢といっても、御/法/川は取材で走り回るだけの不規則な生活をしているのに対し、片/山は週3回のフィットネスクラブ通いを続け、食事もバランスの取れたもの。
結果。びくともしない。
あれよという間に腹に体重を乗せられ、足での抵抗も封じられてしまった。力が入らない。
「何のつもり?この状態で責任をとると行ったら、一つしかないでしょう」
『一つ』の具体的な内容が頭に浮かんで、背中に冷や汗が染みだしてくる。
嫌だ、嘘だ、待て、冗談じゃない、様々な制止を求める言葉が浮かんだが、全て重なってきた片/山の口の中に消えていった。
<> ヨン二ハチ 印刷屋×ライター(6/7)<>sage<>2010/03/07(日) 23:01:33 ID:Jiy22rZg0<>
日曜日。爽やかな朝の8時。
大/沢は自室でそわそわと落ち着きなく、携帯電話を手にしていた。
早く効果が知りたい。あの薬に効き目があったのか知りたい。託した相手は、土曜日に実験するから待っていろ、と言っていた。
日付は変わった。知りたい、早く知りたい。
大/沢はついに待ちきれず、発信ボタンを押した。コール音が鳴る。なかなか出ない。いつもなら3回で出るのに。
『はい』
出たら出たで、明らかに御/法/川ではない人物の声だった。
「えっ、あ、あなたは?」
『人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗る。これ、社会の常識』
いやに失礼な男だなと思うが、大/沢は戸惑いがちに名前を告げた。相手の返答はない。代わりに、
『こらぁ、勝手に人の電話に出るなっ!』
と電話口から離れた場所で持ち主の声がした。ビシィ、と指を差している姿が容易に想像出来る。
『もしもし、大/沢さんか?』
御/法/川の声は掠れており覇気に欠けていた。
「ああ、今の人は…いや、薬はどうだった?」
『あんた、何てもんを作ってくれたんだ!』
覇気が復活した。
『あれのおかげで酷い目に――うわっ!…ちょっと待て、乗るなっ!こっちは電話が――』
がさごそと布擦れの音と御/法/川の悲鳴にも似た声が聞こえたかと思えば、前触れもなく通話が切れた。
大/沢はしばらく呆然と携帯電話を見つめていたが、ため息を吐いて机に置いた。
酷い目にあった、と彼は言っていた。いや、ひょっとしたら今も…大/沢は責任を感じて頭を抱える。
<> ヨン二ハチ 印刷屋×ライター(7/7)<>sage<>2010/03/07(日) 23:03:46 ID:Jiy22rZg0<> 「大/沢さん、朝食が出来ましたよ――おや、どうしました?」
振り返ると、開いた扉のところに梶/原が立っていた。エプロン姿である。
「いや、何でもない」
首を振り、部屋を出ようとすると梶/原がススッと歩を進めた。
「大/沢さん、我々の間に隠し事は無しですよ」
眼前に顔を突き合わせられ、思わず息を飲む。近い、近すぎる。
「今の電話の相手は?薬って何でしょう?」
何とか白を切ろうとしたが、刑事である梶/原には勝てない。大/沢は、洗いざらい喋らされた。
「なんだ、そんなことだったんですか」
「そんなこととは何だ。私にとっては死活問題だぞ」
梶/原のホッとしたような笑顔が癪に障った。そもそも、私は君に感謝の気持ちが伝えたくて――
「大沢さんは、いつだって素直です」
すっ、と梶/原が頬に手を添えてきた。体中の血液が心臓と顔に集まったかのように熱くなる。
「ほら、すぐに顔が赤くなって。そういうところも好きですよ」
梶/原にそう言われ、大/沢はあっさりと好きな人に素直になれる薬(御/法/川命名・裏腹な乙女心解消薬)の開発を中止した。作る必要は始めから無かったようだ。

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ○○吉ストーリーヤッテクル
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ <> 暮句本工事とオレ 1<>sage<>2010/03/08(月) 01:16:11 ID:DZK/sDF7O<> 喜乃下部長と僕の比位済×暮句本のビデオだってさ


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

AM7:00、俺は上機嫌でビルの玄関を跨いだ。
「暮句本の奴、ちゃんと働いてるかな♪っと」

前日の俺と粕賀さんのやりとりによって、倉庫整理の業務を早出で行う事になった暮句本。
昨晩のシミュレーションは完璧だ。

三時間の間に一人であの荒れた倉庫整理は集中も持たないだろう。
途方にくれる奴の前に現れる俺。普段はいけ好かない態度の俺が見せる優しさ。
いわゆるギャップってやつだ。
暮句本の気持を激しく揺さぶる事は確実。一歩前進。

あわよくば、手に触れてもいいかもしれない。
奴のあの細い目がハート型のおめめになるのも時間の問題。

<> 暮句本工事とオレ 2<>sage<>2010/03/08(月) 01:17:01 ID:DZK/sDF7O<> ぶんぶんと鞄を回すようにして歩きながら、完璧な妄想にくふふと笑う。
浮かれ気分で倉庫のあるフロアに着いて、一回深呼吸。

足音をたてないように倉庫に近づくと暮句本と粕賀さんの声が聞こえる。

「―暮句本が倉庫整理が好きだからって言ってたわよ」

って、えええぇぇぇぇ、おいおいおいおい。
そこばらしたら意味ねぇだろ。使えねーぞ粕賀の局!

とりあえず作戦会議だ。便所だ便所。

<> 暮句本工事とオレ 3<>sage<>2010/03/08(月) 01:17:38 ID:DZK/sDF7O<> お便器様に腰を落ち着け、一回深呼吸。
「うーん。このままじゃ悪者だ」
ハート型のおめめどころか、すわっちゃうよ俺を見る目。
カラカラカラ
なんにせよ、悪者のままは避けねばならん。
カラカラカラカラ
「やっぱお前一人じゃ始業に間に合わねーと思って、来てやった」
あいつの掲げた書類を奪い取って、この台詞。うんクール。
カラカラカラ
あぁ、暮句本よ可愛すぎるよ罪な奴
俳句も完成したところでって、「なんだこれは!」
盛大にトイレットペーパーがオンザ膝。
仕方ない、尻でも拭うか。
べ、別に必要だから拭いてるんじゃないんだからね!仕方なくだよ仕方なく!

豪快に大レバー捻って個室を飛び出す。
ちゃんと手も洗おうね。あいつに触れても良いように。

<> 暮句本工事とオレ 4<>sage<>2010/03/08(月) 01:18:57 ID:DZK/sDF7O<> すたすたすたザザー

hey暮句本!
え?
あれはえーっとお岩さん?否違う、お清さんか
なんでお清さんが暮句本の目の前に?

「はい、暮句本くん」
資料の束を渡すお清嬢を見る暮句本の目!なんだあの蕩けるような眼差しは!


ゆ、夢だ
これは夢だ、悪夢だ

こんな早朝から、暮句本の為に出社なんて俺以外にいる筈がない!

<> 暮句本工事とオレ 5<>sage<>2010/03/08(月) 01:20:08 ID:DZK/sDF7O<> ********

話は去年の3月に遡る。
グループ面接。五人対面接官。俺以外の学生はどいつもこいつも腑抜け顔に緊張を張り付かせて面接官の問に答えている。
もっとまともな返しは出来ないのかと、後からどついてやりたくなる。
その中でも飛び抜けて平々凡々な答えしかしないのが、暮句本。奴だった。
お前は面接対策マニュアルか!と、どんな奴かとそいつの方に目をやった。
俺は瞬間、凍りついた。

な、なんたる平均値!

ふにゃりとした顔も、佇まいも、胸に付けた名札に書いてある学校名も、全てが平凡。
マニュアル通りの回答が、全て真実に見える!

瞬間、俺の脳裏を家のPCに保存されていた、妹作であろう俺様×平凡のやまなしおちなしいみなしストーリーがかけめぐった。


きっと奴は、内定式に現れるだろう。
斬新でありながらも、万人に受ける物が必要とされる広告業界。
完璧な平均データのあいつを欲しがらない訳がない。

そして俺は誓った。

俺はこの就職戦線を勝ち抜き、内定式までに立派な俺様になる事を。
妹の俺様×平凡に勝る、萌えキュンストーリーを実践するために。

******** <> 暮句本工事とオレ ラスト<>sage<>2010/03/08(月) 01:22:26 ID:DZK/sDF7O<> 「そいつは!暮句本は!俺様が先に見つけたんだ!誰にもやらないぞ!宣戦布告だお清嬢!」

俺は暮句本と良い雰囲気になってるお清嬢にバシりと言いつけて、その場を駆け出した。
誰かに聞かれたら、恥ずかしいので極々小さな声で!




「やまなしおちなしいみなしストーリーには、当て馬が必要なんだ。当て馬だ、ざまーみろお清嬢。待ってろよ暮句本工事!」


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


比位済が変態ですみません <> オフィス8月 耶麻崎昌良×須加鹿男 1/8<>sage<>2010/03/08(月) 01:55:58 ID:UlBvNCz00<> 方角 オフィス・八月 耶麻崎昌良×須加鹿男(と隙間がちょっと)

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

オフィス・八月には、犬が二匹いる。
犬の大きさは似たようなもので、それなりに大型犬。それぞれにちゃんと飼い主がいるのも同じ。
一匹は飼い主に真っ直ぐに愛情を向けていて、もう一匹は今で言う所のツンデレだけれど。
ボーカリストの癖に煙草が好きでお酒が好きなのも一緒。声質も音域もよく似ている。
オフィス・八月には、犬が二匹いるのだ。
 
今日に限ってという訳でもないけれど、オフィスでは犬が二匹雁首を揃えていた。  
「そーいや小耳に挟んだんやけどさぁ、」
という自分に投げられたらしい昌良の一言に、時田を待っていたO端が振り返った。
昌良はマネージャーのデスクに頬杖を突きながらO端を眺めている。口調に含む所もなく、ただの
世間話でもするような調子で続けた。
「この前の打ち上げで、鹿男ちゃんにちゅーしたってホンマ?」
酒が入った時のO端の変身ぶりは昌良も知っている。故に聞いた時に、百パーセント事実だろうと
思ったのだけれど、一応確認を取っておかねばならない。対鹿男対策のカードの一枚に加えるには、
事実確認が必須なのだ。
「あぁ、したような覚えもちらっと。」
誤魔化さねばならないような疚しい気持ちはこれっぽっちもないO端は、酒の所為で途切れた
記憶の糸を辿りながら答える。
昌良は律儀にも真面目に思い出そうとしてくれるO端が微笑ましくて笑いながら問うた。
「怒られた?」
「呆れられました。怒ったのはどっちかっていうと、」
ちらっと背後を気にするようにO端が視線で指す。その先には後姿のアフロがいるものだから、
昌良は納得した。時田とO端の関係は飼い主と犬だが、どちらかというと犬が飼い主を
振り回している関係だ。
自分達とは、そこが決定的に違う。 <> オフィス8月 耶麻崎昌良×須加鹿男 2/8<>sage<>2010/03/08(月) 01:56:34 ID:UlBvNCz00<> 「なる程なぁ。悋気強い相方持つと大変やのぉ。」
「まぁ、ガチで無視しますけどね。」
「新太も大変やな。両方大変でお似合いっちゅーか。」
「いやいや、耶麻さんには負けますよ。」
「やかましいわ。でも、えぇネタ仕込んだわ。ふははは、待っとれや、鹿男ちゃん! 
これネタにして、めっちゃ絡んだるからなっ。」
これで確証は取れたと昌良は思わず高笑いをして握り拳を掲げた。
そのテンションの上がり具合にO端は付いていけずに、本人曰く『象っぽいつぶらな』瞳を
ぱちくりと見開いている。
「耶麻の凄い所は、」
嫌でも耳に入ってくる馬鹿男二人の会話を聞くとはなしに聞いていた今日子が、呆れたように言った。
「鹿男君へのそのテンションを、十年年近く維持している所よね。継続は力ってよく言ったもんだわ。」
「だって好きやねんもん。」
「はいはい。」
「すでに姫も相手にしてくれへん。」
ソファーによよと泣き崩れる真似をする昌良を放置して、今日子は差し入れで貰った菓子をO端に
進めながら苦笑する。
「琢也も、耶麻のこのテンションは見習わない方がいいよ。」
「それは新太に言って下さい。」
「それもそうね。」
耶麻先ほどテンション高くは語らないものの、愛情垂れ流し具合は似たようなものな時田が、
噂されているとは知らずに大きなくしゃみをした。


ふらりと立ち寄っただけの昌良の部屋。
ドアを閉めた昌良が呟いた『飛んで火に入る夏の虫』の故事を問いただす暇もなく、鹿男は
リビングに連行されていた。
一応おもてなしに珈琲は振舞われていたが、いつもなら自分は構わず缶ビールでも開ける昌良が、
今日は鹿男に付き合ってか珈琲をすすっている。正直言って不気味な状況だ。 <> オフィス8月 耶麻崎昌良×須加鹿男 3/8<>sage<>2010/03/08(月) 01:57:10 ID:UlBvNCz00<> それでもお互いの近況なんかを語らいながら、マグカップ一杯分を飲み干すだけの時間が流れると、
醸し出されるいつもの空気に鹿男は昌良の言葉を忘れかけていた。
その隙を狙って、ふと思い出すように昌良が言った。
「あぁ、そうや。」
「ん、」
「ちょぉ、ごめんな。」
言うが早いか昌良は鹿男のサングラスのテンブルに手をかけると、さっと引き抜いた。
いきなりの早業に鹿男は対応出来ない。 
昌良はうっかり壊さないようにと、鹿男から手の届かない離れたテーブルにサングラスを
置いてしまった。
直で見てしまった蛍光灯が眩しくて、鹿男は二三度瞬きを繰り返す。自然と目が眇められて
睨む様な形になる。
「と、言う訳でして。」
「どういう訳だよ。」
「琢也にちゅーされたん?」
突然の先制攻撃に続いて、またも効果的に昌良は己のペースに鹿男を巻き込んだ。
一瞬何を言われているのか分からないで、鹿男はきょとんと昌良を見返したけれど、
先日の打ち上げの席での出来事を指しているのだと思い当たる。
隠す理由も無いけれど、どこかなんとなく後ろめたいような気持ちになるのはどうしてか。
鹿男は小さな声で返した。
「……されました。」
「上手かった?」
「上手いもなんも、一瞬だったし。新太が羽交い絞めして引き離したから。」
何の言い訳だこれは、と鹿男は冷静に考える。責めるでもなく昌良は鹿男の前に座って、
五センチ程高い背を丸めるようにして器用に作った上目遣いで見上げてくる。
分かりやすくむくれて昌良が言った。
「やっぱしたんや。鹿男ちゃんは俺のやのにぃ。」
「そんな事言いつつも、お前もあんま怒ってないじゃん。」
映画二本ドラマ一本その他いくつかをこなした筈の演技を簡単に見抜いて、冷めた目付きの鹿男は
何言ってんだかと言いたげに反論する。 <> オフィス8月 耶麻崎昌良×須加鹿男 4/8<>sage<>2010/03/08(月) 01:57:46 ID:UlBvNCz00<> 「うーん、アイツも飼い主決まっとるからなぁ。今ひとつ怒る気になれんわな。」
酔っ払ったO端の悪癖には昌良をはじめとして幾人も被害にあっている。
しかもニュータイプなO端にはコミュニケーションの一環らしく、ケロっとしたものなので
怒りも出来ない。どれだけ酔っても時田にだけはしないというのがO端らしくて、
怒れない原因の一つであったりもした。
分かり易い昌良と、分かり難いO端。ベクトルは正反対だけれど、地球をぐるりと回せば
ブラジル辺りでぶつかるのであろう、二人のご主人様への感情の表し方。
やっぱりこの犬達は似ている。
鹿男は素直にそう思ったけれど、同意するにはひっかかる点が無きにしも非ずだ。
「アイツ『も』って、なんだよ、『も』って。」
「琢也の飼い主は新太。俺のリード握ってんのは鹿男ちゃん。」
「知らねぇよ。お前なんか、半野良の時々餌貰いに来る猫みたいなもんじゃん。何年か前なんか、
ぽーんとニューヨーク行ったっきりで長らく帰ってこなかったし!」
「でも俺は犬やで。鹿男ちゃん、犬顔好きなんやろ?」
突かれると痛い後半はスルーした昌良の小ずるい手法に気付かず、鹿男はまんまと律儀な
つっこみを入れてしまう。
「俺が好きなのは犬顔のオ・ン・ナ、だっつーに。」
「俺は?」
「…………。」
「なぁ、俺はぁ?」
しくこく食い下がる昌良に、鹿男は溜息をついて目を眇めた。奪われたサングラスは
昌良の身体の向こうで取り返せそうにない。表情を晒すのに慣れてはいない鹿男には、
今の状況はひどく居心地が悪かった。昌良との間に嘘を置こうとは思わないけれど、
はぐらかしも出来ない。本能的にそれを知っているからこそ、こんな話になる前に昌良は
サングラスを抜き取ってしまったのだろう。野生の勘って怖ぇえな、と鹿男は現実逃避的に思った。
口に出して言わなければ昌良は納得しないだろうけれど、シラフで目の前の男に愛を囁ける程
鹿男も根性が座っては居ない。
しょうがないと、鹿男は昌良の膝に手を突いて軽く伸び上がった。
触れ合わせた唇からは、微かに煙草の味がした。
<> オフィス8月 耶麻崎昌良×須加鹿男 5/8<>sage<>2010/03/08(月) 01:58:20 ID:UlBvNCz00<> 「嫌いでこんな事出来る程、俺は酔狂な性格してないよ。」
すぐに離れた薄い唇が吐いたのは、ひどく遠回りな愛の言葉。昌良に届かない筈はなかったけれど、
素直に受け取ってはくれないらしい。一言で言い返されてしまう。
「琢也ともしたやん。」
「そこに戻んのかよっ」
「戻るの。なぁなぁ、これってひょっとしてヤキモチ?」
「どっちかってーと、縄張り争いに見えるんだけど。」
「なーんや、人生初ヤキモチかと思ったのに。」
つまらんと呟きながらこれまでの人生で嫉妬という感情を覚えた事がないという昌良は唇を尖らせた。
その子供じみた表情がやけに可愛くて、鹿男の口元が無意識に緩む。
「あれは『された』であって、俺からはしてないの。」
「んー、それはそうかぁ。よし、おいで。」
どこでどう納得したのか、昌良はからりと笑って両手を広げて鹿男を呼ぶ。
「はぁ?」
「だっこさせてぇや。最近スキンシップ少なかってんし。」
「やだよ。」
「じゃぁ、さっきの蒸し返す。んでめっちゃグレる。盗んだバイクで走り出すで」
「脅してんの、それ。」
「うん。」
しつこく両手を広げたままの昌良に折れて、鹿男はやれやれと口の中で呟きながら結局こうなるのかよと
傍に膝立ちでにじり寄った。
昌良は鹿男の腰に腕を回すと、ひょいっと持ち上げて自分の膝に乗せてしまう。
まさかそこまでされるとは思ってもおらず鹿男は面食らった。
「耶麻崎、」
「んー、何ぃ?」
「流石にこれはないんじゃないの?」
「えぇやん。誰が見てるでもなし。」
対面で向き合うのは誰かに見られていなくとも照れくさかった。でも昌良のにっこにっこした笑顔を
向けられると、文句も言えなくなる。 <> オフィス8月 耶麻崎昌良×須加鹿男 6/8<>sage<>2010/03/08(月) 01:59:33 ID:UlBvNCz00<> 「鹿男ちゃんは俺のやーって、時々言いたくなる。」
ちょこっと小首を傾げて昌良が鹿男を覗き込む。声のトーンに微妙に滲んだ色合いの真面目さに、
鹿男は視線を逸らさずに昌良を見つめ返した。
続きを促すでもなく、ただ待つ。
「俺らも、増えたやん。」
大きくなった事務所を指しているのだと、すぐにわかった。
「嬉しいけど、鹿男ちゃんとの距離が離れるんは嫌や。」
ずっと付かず離れずよりも少しだけ近い距離でいたから、ここまで直球の駄々をぶつけられた経験は
なかった。
意外に長い睫毛が伏せられる。泣くのではないかと思ったけれど、昌良は泣きはしないだろう、絶対に。
鹿男は黙ったまま昌良の癖のある髪を抱いてやる。
肩口に預けられた頭の重み。ゆっくりと撫ぜてやると、昌良の肩から力が抜けるのがわかった。
「馬鹿だなぁ。」
ようやく出た声は、自分でも驚く程甘かった。
そーゆーとこもいとおしいと告げたら、耶麻はどうするだろう。ちらりと考える。
「わしもそう思います。」
苦笑いの混じった声が返って、それを渡す機会を逸してしまう。
心を軽くしてやる事ならば、多少は出来るのかも知れない。昌良が望んでくれるのならば。
以前はある事は知っていても眼前に晒しては貰えなかった弱みの片鱗を、
今ようやく見せられているのだと、妙な感慨が浮かんだけれど押し殺す。
声が震えない様にとブレスを一つ挟んでから、鹿男は笑みを作った。
「今日子さん挟んでさ、俺とお前が両翼固めないでどうすんの。しっかりしてよ、長男。」
「へいへい、僕は長男ですからねぇ。」
コロコロと一人称を変えながらも昌良顔を上げようとはしなかった。だから鹿男も手を止めたりはしない。
その掌に励まされるように、小さな声が続けられる。 <> オフィス8月 耶麻崎昌良×須加鹿男 7/8<>sage<>2010/03/08(月) 02:00:09 ID:UlBvNCz00<> 「歌って、自分の中で生まれて、声に出して、んでただ消えていくもんやと思っててんわ。
一人で発信して、一人で終息するみたいに。……でも、ここに辿り着いて、姫と鹿男ちゃんと
ユニットになったりして一緒に歌って、その人数が増えてアイツらが入って沢山になって。
共鳴して、響いて、広がって、空気に溶けてしまうんは一緒でも、何かこう、誰かの心とか身体に
入り込んで、残って、淡い星の光みたいにチカチカ輝き続ける……みたいなもんかも知れへんなぁ、って。
そう思うようになってんよ。」
「お前がそこまで思えたら、上等なんじゃない?」
人当たりが良い癖に、人付き合いの苦手な耶麻先昌良。
ちょっとずつそれが改善されるのを見ても寂しい気持ちにならないのは、昌良の言葉が
星の光のように鹿男の中に残り続けているからだ。日常の何気ない一言や、酔っ払いの戯言。
そんなものが二人の間には沢山沢山降り積もっている。
「どこにも行かないよ、俺は。ふらってどっか行ちゃうのは耶麻の方じゃん。」
「ちゃんと鹿男ちゃんトコに帰って来てるやん。」
「港のオンナかよ、俺は。」
「いんや、飼い主。」
「じゃぁ鳴け。」
「わんっ。」
ようやく顔を上げた昌良が、冗談に乗って一声鳴いてみせる。嬉しそうに。
「やっぱ馬鹿だねぇ。」
軽く額を合わせて鹿男も笑うと、昌良の目尻の皺が一層深まる。笑顔が連鎖していく。多分、昌良が
先刻恥かしげもなく言っていたのは、こういう事だ。
響き合って、広がっていく。
お互いにしか影響を与えないのではなく、色んな人に投げられて、受け取って、それでいいのだ。
世界に二人だけしかいないなんて、勿体無い。少なくとも鹿男の愛している昌良の声や歌が、
自分だけのものだなんて贅沢は許せない。
不意に、言い訳ではなかったけれど、問題のキスに対する回答が浮かんだ。
「琢也にキスされても嫌じゃないのはね、お前に似てるからだよ。」
「……はぁ?」 <> オフィス8月 耶麻崎昌良×須加鹿男 8/8<>sage<>2010/03/08(月) 02:01:13 ID:UlBvNCz00<> 「その、非常に犬な所を含めてさ。だから、仕方ねぇなって思っちゃうの。」
「……わん。」
思い当たる節があるのか、今度はとても複雑そうに昌良は鳴いた。
鹿男はそれを見てケラケラと笑い声を上げる。一本取返したような気分になった。
でも、それを口にしたのは、そんな高揚感からじゃない。
例えば、声に出しても消えてしまうだけのものでも、昌良の心の中に残ってほのかに光る星に
なってくれればいい。そんな明かりが、時と共に瞬きを増やして星空のようになればいい。
昌良が鹿男の中に描いてくれる星座のように。
「ほら、耶麻先」
「あい?」
「好きだよ。」
言って貰えるとは思ってもみなかった言葉に目をまんまるにしてぽかんと口を開いた昌良の鼻先に、
鹿男は笑って口づけた。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

耶麻が結婚したばかりなのに申し訳ない。
でも一瞬本気で「え、鹿男と?」と思った。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/08(月) 08:36:26 ID:8KX3sfET0<> >>281-286
まさか喜乃下部長のSSが読めるとは。しかも一番好きなカプだし…。
比位済の空回りっぷりが良い。道は険しそうだけど頑張れ!
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/08(月) 13:00:24 ID:Cevqot3L0<> >>274
>>281
好きなのが二連発!
ありがとう・・・ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/08(月) 20:18:53 ID:nZgtQK3p0<> >>274
乙です!
片ミノも刑事所長も大好きなんでニヤニヤさせていただきましたw
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/09(火) 01:14:28 ID:XkACYRzKO<> >>265

読んでてすっごくドキドキしました…。
最初にこの2人のお話が投下された頃からずっと好きです。続き楽しみにしてます。

…この後松/村くんがどうしたのか気になるw <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/09(火) 20:38:50 ID:3Iuj8avS0<> >>34-59
遅まきながらGJ!
ネタがあったらホワイトデー編が読みたいです。他の話でも…! <> 俺俺、VIPPERだよ! 1/4<>sage<>2010/03/11(木) 07:10:13 ID:d/+7n5/xO<> 去年2/23にチラ裏投稿したオレオレ詐欺ネタ・オリジナル男子高校生。
一年経過してるけどSS風に仕立て直してみたものを発掘したので投下。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 高校三年の二月。サクラサク、の知らせをもって俺の受験生活動は終了した。
 俺の頭の中にギッチリ詰まってた練り消しが綺麗さっぱり取れたような爽快感は最高にhigh!って奴だッ!
 てなわけで浮かれてはしゃいで卒業旅行の計画立てたり、塾やら模試やらで遠ざかっていた彼女といちゃいちゃチュッチュするのが正しい勝ち組の姿勢だろう。
 しかし俺は大衆に迎合しない。
 塾に行かなくていい土曜はネサフと2ch三昧が、通のたしなみだろ?
 べっ、別に、彼女はモニタから出て来なくて、旅行に行く金もないから負け惜しんでるわけじゃねーよ!
 三次女はウゼーし、俺は知的なインドア派ってだけなんだよ!
 ……モニタが滲んで見えるのはなぜだろうな。
 虚しいひとり芝居をしていたら、ベッドの上にほったらかしてた携帯が鳴った。
 メールじゃなくてわざわざ電話してくるっつったら、俺とご同類な佐東か、浪人決定の上泉か。
 ギャルゲークリア報告でしたら、ぶち殺してさしあげますよ。
 フリーザ様気取りで開いた液晶画面には、見慣れない11ケタの番号が浮いていた。
 誰だ?
 セールスだったら嫌だな、と思いながら、通話ボタンを押した途端。
『もしもし、俺だけど!俺、おまえのこと好きだ!』
 見事にテンパってひっくり返りきった男の声が鼓膜にクリーンヒットした。 <> 俺俺、VIPPERだよ! 2/4<>sage<>2010/03/11(木) 07:11:31 ID:d/+7n5/xO<>  インターネッツの海を華麗に泳ぐダディのように明敏な俺は、瞬時に状況を理解する。
 おいおーいw間違い電話ktkrww
 わかるゥ、わかるぜェー、こいつからはモテない男のニオイがプンプンしてきやがるぜェー!
 勇気を振り絞って告白したんだろうに、幸先が悪いね兄ちゃん。
 しかし紳士たる者、不運な過ちを犯した者に寛大であらねばならん。
 俺はおもむろに通話録音のスイッチを入れ、洋画劇場風の渋い声を作り、落ち着いて応じた。
「失礼ですが、どなたかとお間違いではありませんか?俺は男でs」
『そんなのわかってる!』
 必死な叫びが、俺のダンディ演技を遮った。
 男なのをわかってる……だと……!
『でも好きなんだ!心で誰よりも傍にいたい!体で、キスとか、触ったりとか、性的な意味でもいろいろしたい!』
 ちょ、阿部さんでねらーかよwオワトルw
 俺は心の中をプギャーAAで埋め尽くしつつ、録音が続いていることを確認した。
 こいつはうpしてやらねばなるまい。
『いきなりこんな事言われて、気持ち悪いかもしれない、けど……』
 告り野郎のテンションが落ちた。アッー!の人は大変だな。
 しかし俺は801板にも突撃した男。ひるみはせぬ。
『俺は、本当に、お前の事好きで、だから……知ってほしくて』
 絞り出すような声は、本気でいっぱいいっぱいになっているようだ。 <> 俺俺、VIPPERだよ! 3/4<>sage<>2010/03/11(木) 07:12:44 ID:d/+7n5/xO<>  もしかして、受話器を握る手も震えてたりするのか。
 さすがに気の毒になってきて、録音停止ボタンに指をのばす。相手がねらーでも、真剣な気持ちを笑い物にしたらいかんよな。
「あのぅ、番号、確かめた方がいっすよ」
『ちゃんと確かめた!安価指定なんて軽蔑するかもしれないけど、こんなきっかけでもなきゃ、言えなくて!』
 指を引っ込めた。
 ちょw安価かよwスレどこだwww
「ちょっと待ってくださーい」
 笑いをこらえつつ、子機を握りしめて板を開く。
『あ、俺ほんとに、本気で…』
 告り野郎に生返事をしつつ、スレ一覧を素早くチェック。
 これか?『同じ塾の男好きになった 2』。
 最新の安価が「電話で告白」、1のレス「電話する」で止まってるな。
 前スレの全て読む、で最初から素早く辿る。
 1が好きになった奴はヒョロくてチャラいけど、オタっぽい奴らとニコ動の話で盛り上がってたから多分ねらー。
 自分には縁遠いDQNだと思ってたのに、雨の日に傘貸してくれて、「俺、予備あっから」って嬉しそうに広げたのが某蛙軍曹の傘。
 ……これなんて俺?
 傘男(仮)が気になり出した1が、どんどん彼に惹かれていった話を続けていくにつれ、TDNコピペや阿部さんAAが減っていく。
 顔を合わせれば挨拶する程度の仲になって。他の奴らのおまけみたいに誘われて一緒にゲーセン行って、音ゲーの鬼ステージをクリアした1に「おまえすげーマジすげー!」と興奮した傘男(仮)の笑顔に、はっきり恋を自覚するくだりは、甘ずっぺえ青春じゃねーかチクショウ。
 誕生日なのを当日に知って、コンビニで蛙軍曹のキーホルダー買って渡したらすごい喜ばれて泣きそうになったとか。
 スレの伸びはあまり良くないけど、純情すぎる1の気持ちが、俺の胸をギュッとさせやがる。
 受験が終わって、塾って接点がなくなって、大学も違うとこで……もう会えないって焦って、でも何かする勇気が出なくて、安価指定か。がんばれ1!と、追い付いた時には応援したい気持ちでいっぱいになってた。
 しかし、この、既視感っていうのか?傘男(仮)の行動はことごとく身に覚えがあるものだ。
 ゲーセンは覚えてないけど、蛙軍曹のキーホルダーくれたのは、確か……
「えーと……おまえもしかして、内藤?」
 おそるおそる聞いてみる。 <> 俺俺、VIPPERだよ! 4/4<>sage<>2010/03/11(木) 07:16:43 ID:d/+7n5/xO<> 『あ!そ、そう!携帯番号、同じ高校のやつに聞いて、ややっぱきもいよなごめぁえk◇#§ふじこ※●』
 内藤……知的で落ち着いた男だと思っていたおまえがこんなキャラだったとは。
「落ち着けよ。混乱するのは俺のほうだろ常識で考えて」
「すぁ、ああぅ」
 そうだな、って言いたかったんだな内藤。ほんと落ち着け。しかし、何故だろう。
 俺のためにこうなったかと思うと悪い気はしていない。
 スレをリロードすると、沈黙したままの1を案じる皆のレスが現れた。当事者が言うのもなんだが、俺も内藤を応援したい……今すぐ受け入れるとかは無理だけど。
「じゃあ、次の安価は450な」
『え』
「いーから」
<1:>>450
 新着を確認し、息を深く吸う。俺クラスのvipperだと安価ゲット余裕でした^^なわけだが、流石に焦って震える指を叱咤し、書き込みボタンを押す。
<450:1に告られた男
同じ塾の知り合いとしか思ってなかったから、正直なにも考えられない。
だけど、なんで俺なのか知りたい。
1は俺をデートに誘え。
誘えないなら、釣り宣言しろ。>
 電話の向こう、息を飲む気配に、俺まで胸苦しくなった。
 内藤。どうなんだ。
『……デート、してください』
 蚊の鳴くような震え声をpgrすることはできなかった。
 いいぜ、とcoolに答えたつもりの俺の声も、つられてかっこ悪く裏返ってたから。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/11(木) 09:35:42 ID:tcOWYYRw0<> >>300
GJ!
可愛いですー!
最初おいおいびっぱーか?と思ったけど、ホント可愛い!!
続きあるようだったら期待します! <> 酔いの黒ネコ 1/2<>sage<>2010/03/11(木) 17:06:00 ID:LNOXdOFYO<> |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
ドラマilのカンサシカンさんと正式ilさんの話。
昨日の最糸冬回がスゴすぎて勢いのみで書いた。



背後でオートロックの扉が閉まる音がした。
戻ったホテルの部屋には、出る時確かに消したはずの明かりがついている。
それにわずかに眉をしかめ、足を奥へと進めると、そこには置かれたベッドの上に
くったりと目を閉じて横になっている神部の姿があった。
かろうじてシャワーは浴びれたのか、髪は濡れバスローブに着替えてはいるが、
それで力尽きたのか、脱いだ服の一式は無惨に床のいたる所に散らばっている。
皺になるぞ。そう思い、近づきながらそれらを拾い上げる。
するとその気配に気がついたのか、ベッドの上で神部が微かに身じろいだようだった。
「……あれぇ……どこ行ってたんですかぁ…大小内さん?」
話しかけてくる口調が危うい。完全な泥酔状態。
こいつがここまで飲んだのは珍しい。
そう思いながら、大小内は手にした服をそのままに、神部の頭がある側近くの
ベッドの端に腰を下ろしていた。
「無様なものだな。」
冷たく言い放つが、それにも神部はふふっと笑う。
「口が悪いなぁ。」
ゆっくりと目を細め、にんまりと口角を上げて。
濡れている髪と合わせ、それに大小内はこいつは黒猫だなと思う。
しなやかで、気まぐれで、プライドが高くて、それでいて甘え上手。
だからか、こうして自分が構ってしまうのは。
「で、そんな無様な僕を置いて、どこ行ってたんですか?」
見下ろす視線の先で、神部がもう一度繰り返してくる。
それに話は終わっていなかったのかと思いながら、大小内は口を開いた。
<> 酔いの黒ネコ 2/2<>sage<>2010/03/11(木) 17:07:34 ID:LNOXdOFYO<> 「ちょっとした野暮用だ。」
「やぼ?」
「無鉄砲に飛び出して家への帰り道を忘れた飼い猫が、外でも生きていけるよう
鞭撻を願いにな。」
「……なんですか?それは。」
さすがに声に怪訝な色が滲む。
そんな神部にこの時大小内は初めて、その口元に微かな笑みを浮かべると
その手を伸ばした。
「明日になればわかる。」
言いながら、その髪をクシャリと撫でてやる。
するとそれに神部はただ、ふうんと答え、再び目を閉じてしまった。
もう何かを考える事も面倒なくらい、酔いで思考が止まっているのかもしれない。
そしてこれまでほとんど見た事が無いようなそんな無警戒な姿は、やはり心の重荷が
取れたからか、とも思う。
髪を撫でているうちにやがて聞こえ出した寝息。
葛藤はそれなりにあるだろうが、それでも穏やかに満足げな。
そんな心のままに生きる事を彼に選ばせた相手の事をふと思い浮かべれば、
少し寂しいと……そんな言葉を思いつく自分も、きっとまだ酔いが残っているはずだった。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
おかんなカンサシカンさんは帰る時、服をハンガーにかけ、
目覚まし時計のタイマーもちゃんとセットしていけばいいと思う。
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/11(木) 18:55:39 ID:r/j8M8CDO<> うおおお!!!おかんなカンサシカンに禿げた
昨日は神部が総モテ過ぎて動揺したよ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/11(木) 20:25:55 ID:FHjO+mET0<> >>305
GJJJJJJJJJJJ!!!!!!!!!!
カンサシカンの缶への愛は海より深いねえ!
昨日はハッスルしすぎて眠れなかった
ああもう今から次が気になって気になって… <> Gガンダム キョウジ×ドモン 0/9<>sage<>2010/03/11(木) 21:51:59 ID:o4AD5Suh0<> ガンダムスレの今の流れに萌え滾って勢いだけで書いてみた
ちゅーってしかもべろちゅーかよ!
ご都合主義により最終回後なのに兄さんが生きてますが勘弁してください
ドモンの家出当時の事や頭なでなでするのはムック本に入ってた漫画からです。

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | |>PLAY.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ヒトリデコソーリミルヨ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ <> Gガンダム キョウジ×ドモン 1/9<>sage<>2010/03/11(木) 21:52:23 ID:o4AD5Suh0<> やあやあ皆さん、お久しぶりですねえ。
え、誰?ですって?
ひどいご冗談だ。この顔をお忘れですか?いくら15年振りとは言え。
そうです、わたくしです。いやはや、ご無沙汰しておりました。
さて!今日のカードはこの二人、ネオドイツはシュバルツ・ブルーダー!
対する相手はキング・オブ・ハート、ドモン・カッシュ!
宿命の兄弟対決でございます。
はてさてどんなファイトが待ち受けているのでしょうか!
それでは皆さん!ガンダムファイ――
と。……ああ、ファイトはもう終わったんでしたねぇ。
いやはや、こうなってみると寂しいものですな。
仕方ありません。今回は恒例のアレはお預けと言う事で、
それでは少しだけ、カーテンコールのおまけでもご覧頂きましょうか……

―――

ガンダムファイト終了後、世界がすぐさま平和に戻ったかと言えばそうではなかった。
確かに巨大な悪は倒れたが、あの戦いはコロニーや地球全土に深い爪あとを残し
その復旧作業や難民の救済などが大きな課題として残っている。
また、ネオジャパンの――つまり今後4年間世界の覇権を握る国の――実権を握っていた
ウルベが倒れたと言う事もあり、その隙を狙って様々な暗躍を遂げようとする者もいた。
そのため、世界の秩序を保つ役目を持つシャッフル同盟や
彼らに賛同するガンダムファイターたちはその実力と知名度を生かし、
各国で様々な任務をこなし、復旧の音頭をとりながら忙しく過ごしていた。
本来ならばシャッフル同盟はこういった表舞台に立つ組織ではないのだが、
例の一件でその存在が世界中に知れ渡ってしまったという事と
そのリーダーがガンダムファイト優勝者のドモン・カッシュともなれば
今更隠匿するわけにも行かず、
結局現状で「シャッフル同盟」は「英雄」と同義の言葉として扱われている。
5人揃ってセレモニーなどに招待される事もしばしばだった。 <> Gガンダム キョウジ×ドモン 2/9<>sage<>2010/03/11(木) 21:52:58 ID:o4AD5Suh0<> ……とまあ、そんな前置きはおいて。
宴会の話である。
式典などで久々に集った仲間たちが、
その後身内だけで酒を酌み交わすことは珍しくなかった。
今日はネオジャパン側が用意したそこそこの格式の料亭で、
みなが膳を囲み車座になって、宴もたけなわ、久々の旧交を楽しんでいた。
シャッフル同盟5人だけでなく、彼らにごく近い仲間だった
ネオスウェーデン代表やネオネパール代表の姿もある。

既にほとんどの皿は空き、2合徳利が何本もごろごろと転がっていた。
顔を赤くしていない者のほうが珍しく、
宴会芸と称してスウェーデン代表が梁の上で新体操を披露したり、
フランス代表が刺身の薄切りで得意げに薔薇を作ってみせたり、
アメリカ代表がピエロの幻覚を見て泣きながら座敷の隅でうずくまっていたり、
ロシア代表は平然としているように見えて、
手首に巻きついているのが味付け海苔の二枚重ねだったりする。
彼らのファンにはとても見せられない光景だった。
リーダーであるはずの我らがドモン・カッシュも、
いつも身に着けている鉢巻きを中国代表に奪われ
その中国代表は鉢巻きをリボン代わりに自らの髪をお団子に結っている。

「……ドモン」

そのどんちゃん騒ぎを眺めながら
自分も強かに酔って壁際にもたれていたドモンの元に、にじりよる者があった。
ドモンとは違う母親ゆずりの栗色の髪の毛、
堅苦しいトレンチコートの上に乗った顔は珍しく素肌を晒しており、
こちらは兄弟でよく似ている黒い瞳を酒のためにうるうると滲ませていた。

「に、にいさん?」 <> Gガンダム キョウジ×ドモン 3/9<>sage<>2010/03/11(木) 21:53:21 ID:o4AD5Suh0<> ドモンは少しだけうろたえた。
いくら酔っているとは言え、膝だけでこちらにずりずりと近寄り
畳に両手を付いたままぺたんを座り込んでいる様子はあまりにも普段の兄と違っていたのだ。
ほんの80cmほどの距離で、彼は口を開いた。

「俺はなあ、ドモン。お前がいなくなってから凄く探したんだぞ。
 それはもう必死だった。警察にも行ったし、探偵も雇った。
 書置きは見たけど……10歳足らずの子供が突然いなくなったんだ、
 誘拐とか、事件に巻き込まれた可能性もあるじゃないか。
 心配で心配でしょうがなかった」
 
少しだけ視線を伏せてとうとうと語り始めた彼に、
ドモンはかける言葉を見つけられなかった。

「だってそうだろう。単なる家出なら、すぐに見つからなきゃおかしいんだ。
 まさか『下』に行ってたなんて……
 ああ、そっちを調べなかったのは俺のミスだった。
 生きてるのか死んでるのかも分からないのに、帰りを信じて待つのは辛かったよ」
 
伏せていた顔を上げて、更に彼はぐいとドモンに近づく。
 
「いいんだ、言ってくれ、ドモン。
 将来を決められてたのが嫌だったのか?
 俺にいつもからかわれてたのが嫌だったのか?
 悪かった、許してくれ」
「……っ兄さん」
「お前が可愛かったし、だから父さんと二人で
 お前のためになるようなことをしてやりたかった。
 でもその反面でからかったりもした。あの時は俺も子供だったんだ……」 <> Gガンダム キョウジ×ドモン 4/9<>sage<>2010/03/11(木) 21:54:08 ID:o4AD5Suh0<> 常ではありえない饒舌さで謝罪の言葉を述べる彼に、
ドモンは胸が震える思いがした。
戦いを通じて、兄とはもう十分に分かり合えた気がしていた。
昔のような屈折した反発とも違って、素直な尊敬を感謝を持つことも出来た。
しかしまだそれが全てではなかったのだ。
無鉄砲に飛び出した家で、そんな風に想われていたとは考えもしなかった。
互いにすれ違ったままだった過去の時間が、きちんと重なり合っていく音がする。

「……もういいんだ、兄さん。謝らなきゃいけないのは俺の方だ。
 俺は、何でもできる兄さんがずっとうらやましくて……」

酒の力か、ドモンの口からも自らが驚くほどにすらすらと言葉が出た。

「いつも頭をなでてくれてたけど、俺はその度に
 兄さんを追い越したいと思ってたんだ。
 でも、そのためにはあそこにはいられないと思って……
 だって、あんなに優しい兄さんがいたんじゃどうしても甘えたくなるから……
 甘えてしまったら、兄さんよりは強くなれないだろう。
 だからほとんど勢いに任せて飛び出したんだった」
 
鉢巻きがないためか、いつもより幾分幼く見える顔を赤くしながらドモンはそんな風に語った。

彼らの話の途中から、いつしか宴会場の中は静まり返って
誰もがその会話に聞き入っていた。
感動的な兄弟の和解のシーンに、スウェーデン代表などは胸の前で指を組んで
その大きな瞳を潤ませている。

「……俺たち、馬鹿みたいな遠回りをしたんだなあ」

言葉そのものは過去を悔やむものでありながら、どこか安堵したような響きの声で
彼は身体の中からこぼれ出てくるような笑みを顔に浮かべた。
それにつられるようにして、ドモンもまた照れくさそうに微笑む。 <> Gガンダム キョウジ×ドモン 5/9<>sage<>2010/03/11(木) 21:55:20 ID:o4AD5Suh0<> 「ドモン」
「?」
「頭をなでさせてくれないか?……昔みたいに」

兄がそうしたいと言うのなら、拒む理由はドモンにはなかった。
こんな衆人環視の中、常ならばとても了承できたものではないのだが
二人はごく近い距離の中で話をしているせいか、
周りから注目を浴びている事には露ほども気が付いていない。
小さくこくりと頷く。
すると彼の兄はいっそう笑みを深くして、すぐ傍にある弟の頭へと腕を伸ばした。
記憶よりもずいぶんと大きくなった頭を撫でながら
あまり手入れがされている感じでもない髪の毛を指で梳いてやる。

「少しくせっ毛なのは、変わってないんだなあ……」
「そ、その。あんまりじろじろ見ないでくれ、兄さん」
「どうしてだ?」
「恥ずかしいだろ……」
「恥ずかしいことがあるものか。こんなに可愛い顔なのに」

少し伸びた前髪を梳いていた指が、そのまま下へ降りて頬をとった。
誰もが、あ、と思う間もなく。

「「「!!!!!」」」

ドモンの少し薄い唇を彼が奪っていた。

ほんの数秒合わせられていただけだったそれは、次第に動きが大胆になり
舌がドモンの唇を舐めたかと思ったら、そのまま割り入って
驚いて逃げる事も忘れている相手のそれを絡めとった。
舌先で根元をくすぐり、吸い上げる。 <> Gガンダム キョウジ×ドモン 6/9<>sage<>2010/03/11(木) 21:56:15 ID:o4AD5Suh0<> 「ふぅッン……!」

上あごのドームを、触れるか触れないかといった弱さで舐め上げられたとき
ドモンの肩がびくりと跳ね上がった。

「っん、んぅ……ふ、んんっ……」

そのまま歯列をなぞられ、口腔の隅から隅までを蹂躙されながら
いつの間にかドモンの瞼は陶然となったように閉じられており、
指は無意識に兄の腕へすがり付いていた。

「ん……」
「…………ふぁ……?」

長い長い時間をかけて、二人の唇はやっと離された。

経験したことのない大人のキスに、ドモンが茫然自失の状態になっているのをいいことに
彼は行動を止めずドモンの唇からこぼれそうになっていた唾液を舐めとり、
そのままちゅっちゅっと頬だの額だのに際限なくキスしまくっている。

そして、あまりの勢いに二人ともがどさっと畳の上に倒れこんだ時点で
周囲はやっと我を取り戻した。

「な、なにをやっているんです!」
「離れろこのドイツ仮面!!」
「いや、引き剥がせ!!」

やにわに会場内の温度が上がった。
今にも飛び掛ってこようとする彼らを、ネオドイツ代表はめんどくさそうに一瞥し、
次の瞬間にはドモンを抱えたまま窓際まで跳躍していた。
その素早さに誰もが瞠目する。 <> Gガンダム キョウジ×ドモン 7/9<>sage<>2010/03/11(木) 21:56:53 ID:o4AD5Suh0<> 「そうかお前たち、うらやましいのか?うらやましいんだろう?そら」

ちゅううぅ。
言うが早いか、ゲルマン忍者は再び腕の中のドモンの唇を吸った。
ドモンはまだ硬直したまま我を失っている。

「ははは、しかしこれは私のだからな!
 お前たちにくれてやるわけにはゆかん!」
 
すっかり「キョウジ・カッシュ」ではなく
「シュバルツ・ブルーダー」に戻ってしまっている様子で、彼は高らかに笑う。

「ええい、あんな酔っ払いごときに遅れをとるシャッフル同盟ではありませんよ!」
「応!」
「アニキを返せこのやろー!」

同じく酔っ払いであるはずの3人も、思い思いにゲルマン忍者に躍りかかっていった。
実はメンタル面で弱いアメリカ代表だけは、小さく「おーまいがっ……」と呟いたきり絶句してしまっている。

「甘いッ!」

フランス代表がとっさに拾って投げつけた塗り箸は、
カカカッ!と小気味よい音を立ててお膳の底に突き立った。
ロシア代表の重い拳を、ドモンを肩に担いだままでひらりひらりとかわしながら
中国代表の拳法と組み合う。
しかし拳が合わさったと思った次の瞬間、彼の長い髪がぱらりとほどけていた。

「!?」

バックステップで素早く身をかわした忍者の手には
リボン代わりにされていた鉢巻きが握られている。
一瞬の間に髪をほどいてそれを取り戻したのだ。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/11(木) 22:00:04 ID:cgDzdsv7O<> 支援 <> Gガンダム キョウジ×ドモン 8/9<>sage<>2010/03/11(木) 22:00:17 ID:o4AD5Suh0<> 「お兄さんだからって、容赦しないん……だからねッ!」

しかし間髪入れず、飛び退ったその場所へ
スウェーデン代表が鋭い飛び蹴りを叩き込んだが、
シュバルツがいたはずのその場所はいつの間にか座布団の簀巻きに変わっており
細いかかとの飛び蹴りはその簀巻きの中へぐっさりと決まった。

「ふふふ……お前たち、そんな様子ではシャッフルの紋章が泣くぞ?」

不敵な笑い声は大窓の外から響いてきた。
4人が慌てて窓際へ駆け寄ると、この料亭の母屋である隣の瓦屋根の上に
ひとつの影が優雅に佇んでいた。完全に気を失ってしまったのか、
ぐったりとしたドモンを抱いたまま大きな満月を背負うその姿は
正義のヒーローにも悪魔の使いにも見える。

「では、さらばだ諸君!また会おう!」

高らかな声を残して、影は消えた。

「ガッデム!あの酔っ払いめ!」

やっと自分を取り戻したアメリカ代表が悪態をついた。

「そりゃおいらたちも酔っ払ってたけどさぁ、なんなんだよあの動き〜」
「アジアお得意の酔拳と言うものじゃないのか」
「いえ、それではあのキレは説明が付きませんよ……」
「ん……?」

はた、とアメリカ代表が何かに気づいた顔をした。 <> Gガンダム キョウジ×ドモン 9/9<>sage<>2010/03/11(木) 22:00:54 ID:o4AD5Suh0<> 「ああああ!!あのジャガイモ野郎、元からアンドロイドじゃねーか!!」
「あっ!!」
「そっか、酔っ払うはずがないんだ!?」
「まさかずっと素面で……?」
「酔った振りしてジャパニーズをたぶらかしやがったんだ!あの妖怪め!」

悔しがるような遠吠えだけが、しばらく月夜に響いていた……

―――

……おやおや。
なんとも予想外の展開ですが、各国の代表がこんな調子では
世界平和はまだまだ先の話かもしれませんねえ。
それでは皆さん、また――来週ではないですね、
次にお会いできるのは一体いつになるのでしょう。
しかしわたくしは不滅ですよ。
ガンダムファイトを愛する人がこの世に一人でもいる限り!
今一度申し上げましょう、
それではみなさん、また会う日まで! <> Gガンダム キョウジ×ドモン おわり<>sage<>2010/03/11(木) 22:01:19 ID:o4AD5Suh0<>  ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ お粗末さまでした
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

べろんべろんに酔う兄さんが可愛い!と思って書き始めたのに
結局酔ってないことになっちゃってすみません。
スレでネタ提供&萌えるレスの皆様方、ありがとうございました。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/11(木) 23:24:44 ID:xdanpJIq0<> >>305
やったあああーーー!!
嬉しい嬉しい!!保護者カンサシカンいいです!! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/12(金) 00:31:35 ID:veAL7e0J0<> >>310
超GJでした!萌えました!
まさかここでGガンが読めるなんて・・・
兄弟ラブなので本当に嬉しかったです!
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/12(金) 03:25:44 ID:iRXDB8cCO<> >>305
ああGJです姐さん!
大事な娘を嫁に出すみたいなおとんでおかんなラムネに最終回も姐さんのSSにも禿たw

黒猫缶(*´д`*)ハァハァ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/12(金) 03:38:27 ID:SNep5Alr0<> >>310
キャラ達が皆すげーGガンっぽくて笑いつつ萌えた。
そしてやっぱりGガンにはストーカーの仕切りがなくちゃなw GJ! <> 801+52 鴨←舌打ち眼鏡 1/3<>sage<>2010/03/12(金) 05:10:04 ID:ACN8enZvO<> 最終回の鴨←舌打ち眼鏡。
携帯からは初投稿なので不備があったらごめんなさい。

|>PLAY ピッ◇⊂(・∀・ )…ウマクイクカナ?

2ヶ月前はあんなに疎ましい存在だったのに。
たった2ヶ月だっていうのに。
一体俺はどうしちまったんだ。
一体俺は何をしているんだ。
鼻先3cmにある『疎ましい筈の規格外』なんかに!

「あ、あのぉ〜…真縞クン?」
困惑を織り交ぜたおどけ口調に、俺は我に返った……つもりだった。が。
「とりあえずは…この手の力、緩めて欲しいなー…って」
鴨さんの胸倉を掴んだ手は、その革ジャンに食い込んだままだった。
しかも廊下の壁に鴨さんを押し付けたままで。
以前、俺がそうされたように、今は俺が鴨さんを押さえつけている。
ここは署内の廊下だ。背後を行き来する警官達の視線を感じて耳が赤くなった。
何しているんだよ、俺はっ。班のあの部屋で『お別れ』は済んだ筈だろうっ。
なのに、ガキみたいに周りを気にして、ケータイでメールうつフリして部屋を出て、
飄々と去り行く背中に追いついた途端、腕が勝手に動いた。
<> 801+52 鴨←舌打ち眼鏡 2/3<>sage<>2010/03/12(金) 05:11:52 ID:ACN8enZvO<> 「電車の時間が…そろそろ…ねっ?」
最後は溜息混じりになっていた。
その微かな息が手の甲に触れると、意思に反して拳の力が更に強まってしまった。
俺は何がしたかったんだろう。
わざわざ鴨さんを捕まえて、もっとちゃんとしたお別れの言葉でも言いたかったんだろうか。
いや、それは無理だ。
<…一日ぐらい……いいじゃないですか……>
床を見つめながらのあの言葉。あれが俺の精一杯だ。本人直視でちゃんとした言葉だなんて絶対に言えやしない。
ならば、言葉は要らない昭和オヤジに相応しいような厚い信頼の握手でもしたかったんだろうか。
いやいや、それはもっと無理だ。
第一どんなカオして鴨さんに向き合えと?
苛立たしさと恥ずかしさと情けなさと残念さと、何より目の前の男に対してのなんかもうよく分からない感情とが濁流となって押し寄せる。
もう自分で自分が分からなくなっていた。

「あのさ…。…お前のあんな表情、初めて見たよ」
ボソッと零れた低い声に、やっと手の力が弛んだ。
「さっきの。別れ際の、さ。…お前でもあんな表情するんだな」
あんなってどんなだ? 俺はどんなカオをしていたんだ?
「この2ヶ月、何かと迷惑かけてすまなかったな」
手がずるずると革ジャンから滑り落ちていく。そんな神妙なカオしないでくれ。違う、そんな言葉が聞きたいんじゃない。
「11から聞いたよ。お前、係長に言ってくれたんだってな。俺を信じたいって」
途端に顔が火照った。係長どころか銃器の奴等もいる中で言い切ったあの言葉。係長をも驚かせた俺の本心。
でも、あれは、鴨さんがいなかったから言えたんだ。
色々言い繕いたかったけれど、喉の奥が引きつるばかりで声が出なかった。代わりに目頭に熱が集まっていくのを感じる。
「ああ、またその表情だ」
柔らかい声。『大人』の苦笑い。鴨さんの鴨さんたる眼差し。
それらが今の俺のカオを教えてくれた。
もうどうしていいのか分からない。ただ唇を引き締めて、溢れ出そうな感情を押さえ込むことしかできない。 <> 801+52 鴨←舌打ち眼鏡 3/3<>sage<>2010/03/12(金) 05:15:08 ID:ACN8enZvO<> 「ごめんな」
小さく呟いて、鴨さんが壁から身を離した。
ああ、そうだ、いつまでもこうしていられる訳がない。
分かっているんだ、俺だって、それぐらいは。
だから。……だから。

───必ずここに帰ってきて下さい───

最後にどうしてもそう言いたかった。
しっかりと鴨さんの目を見て。
でも、熱い目頭は限界で、唇の端も言う事を聞いてくれなかった。
そうこうしている内に、一歩、また一歩、鴨さんの背中が離れていく。ここから去っていく。
無意味に空回りしただけの自分が悔しくて、自然と舌打ちが出た。
「そーそー。そっちの方がお前らしいぞ!」
振り向く事はなかったけれど、その声は楽しそうだった。聞こえてないと思ったのに。
ああもういいや。鴨さんにはどうせお見通しなんだ。全部。
だから。

照れ隠しと、言えなかった言葉と、ありったけの感情を引っ括めて。
俺はその背中にわざとらしいぐらい盛大な舌打ちを贈った。

□STOP ピッ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

この後、係長とのラブイベになります。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/12(金) 07:42:34 ID:yvsDv5VSO<> >>310
本スレにも書いたけどこっちにもお礼を。
ちらっと書き込んだネタを拾ってもらって本当にありがとうございます。
萌えながら嬉しすぎて転がりまくりましたw
素敵な作品にしてくださって本当にありがとうございました! <> 風と木の名無しさん<><>2010/03/12(金) 15:24:39 ID:fi9rWj3D0<> >>325
GJ!!
ぜひとも係長とのラブイベもお願いします!! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/12(金) 18:10:48 ID:+CWYYzlD0<> >>325
hageたー!
舌打ちツンデレかわいい! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/12(金) 22:28:56 ID:l1UKg4DlO<> >>300
GJ!!禿萌えた!!!
是非続編を読んでみたいです!! <> スメル 0/4<>sage<>2010/03/12(金) 23:35:55 ID:vgl1fCVf0<>                     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ナマモノ盤越え・葡萄の蔓唄×三本角の恐竜唄です。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  超ドマイナーカプでごめんなさい
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  | <> スメル 1/4<>sage<>2010/03/12(金) 23:36:58 ID:vgl1fCVf0<> 何があったわけでもないのに、二人で集まって飲んだことがあった。
どちらが誘ったかは憶えていない。彼の家だったと思う。
彼のことを思い出すときは、小さな斑の犬のにおいが思い出される。
あの二匹。確かに、その日の記憶からはあのにおいがした。

きっと、近況報告のようなものをした。
はじめは、お互いを懐かしむため、いや、ただの社会人間として生きるときの常識なのか、
彼の言う所の最近の俺を報告し合った。多分。
義務を果たしたおれたちは、冗談を交わした。もちろん、猥談もした。いや、正直猥談がメインだった。
彼と会うときは、ビールを飲むことが多い。
しかしながら、その日はイベントで偶然会ったわけでもなかったので、遠慮なく彼の家にあった日本酒を戴いた。
日本酒を飲んだ舌で煙草を吸うと、ひりひりと痛むような、また、喉が震えるような、強烈な衝撃を感じた。
とっても体に悪いことをしていたらしい。
「喉が射精しすぎたあとみたいだよ。」そんな色気もなにもない比喩を口に出すと、
彼は、いつもの、母上を思い出させるような笑い方をした。

アルコールも適度に回り、気持ちよくなってきた頃。
こういうときはどうしても、音楽の話になってしまう。悲しきミュージシャンの性。
どういう話をしたのか、具体的には憶えていない。
憶えていたのは、彼が笑う度に口元に寄せる、その右手の、指環の形状ぐらいだ。

「なんか、CD聴きたくなっちゃった。かけてもいい?」

ふいに彼が立ち上がり、整頓されていないスチールラックから、CDを取り出した。
おれはてっきり、彼の好きな、あの王様の曲でもかけるんだろうと思った。 <> スメル 2/4<>sage<>2010/03/12(金) 23:37:57 ID:vgl1fCVf0<> だけど、彼が取り出したものは、フランス語のタイトル。
の、おれのバンドの、アルバム。

「なんで持ってんねん」
「買ったんだよ。えらいでしょ?おれのも買ってよね」

冗談か本気か分からない口調で彼は言う。
屈託のない笑み。つい、少年のようだ、と思ってしまった。
どういうセンスしてるのだろうか。同じミュージシャンとして恥ずかしいぐらいのセンスのなさだ。
回る円盤。大きなスピーカーから、おれの音が流れる。何百回も聴いた気がする。
煙草の歌が始まる。

「止めろや。恥ずいやろ」

と言いながらも、こう聴いてみるとなかなかいい曲だと思う。
さっきの考えは撤回しておこう。同じミュージシャンとして誇りだよ。

ああ、酔ってるな。今日は呑まれる日かもしれない。

「なんでー。好きだよ、これ」

どきりとした。文字通り、どきりと。
自分のアルバムが褒められたからではない、この昂揚。
きっと、酔ってる。二年ほど前の対バンのときも、飲みすぎていた。
結構、恥ずかしいことをMCで言った気がする。もっと恥ずかしいことを、MCで言われた気もする。

「そー。ありがとう」

目の前の彼は未だに笑っている。 <> スメル 3/4<>sage<>2010/03/12(金) 23:39:01 ID:vgl1fCVf0<> 彼はいつの間にか、歌詞カードを取り出してじっと見詰めていた。
今度は、犬のようだ、と思った。
「なにしてんねん」と突っ込むと、彼は視線を動かさずに言う。

「おれってほら、あんまり頭がいい歌詞が書けないわけ。だからね、憧れるんだよ」

一瞬、誰のことを言っているのか分からなかった。
少し、恥ずかしくなって、嬉しかった。それも、とてつもなく。

「ええやん。おれの偏屈な歌詞より、輪打っちの歌詞のがええと思うけど」

これは、謙遜しているわけでもなく、紛れも無い本心だった。
だけど、この言葉を素直に受け取ってはくれないだろうことも、分かっていた。
彼は少し顔をあげて、「なんかすいません」と笑いながら言う。うっすら憂いを帯びている。
少し、色っぽいなんて思ってしまったり。

「多分、酔ってる。ちょっと横になってもいい?」

ソファに寝転がる彼。
彼も、酔っている。
息を吐きながら目を瞑る彼は、やっぱり色っぽくて。目元を隠す右腕がむしょうに愛おしくてならない。
おれも、酔っていた。
煙草が吸いたい。それは、流れている音楽の所為ではなく、目の前の彼の所為だ。 <> スメル 4/4<>sage<>2010/03/12(金) 23:40:01 ID:vgl1fCVf0<> 「レコーディング、順調?」
「まあまあ。そっちは?」
「まあまあって言われたら、まあまあとしか返せへんよ」

うっすらと笑う彼。ダメだ。触れてしまいそうだ。
おれは彼の寝転がるソファに近付いた。彼は目を瞑ったままだった。
触れてしまいそう、が、触れようとしている、に変わってしまう。
左手には、まだ光が残っていた。とても大切な、きっと彼は持っていない光。
そんなことは知っていた。でも、それでも、いいのかもしれないと思った。
右手を、指先を、彼の唇へ近づける。

「なんかさあ」

突然。彼が言った。触れる前だった。
手にかいていた汗を、ジーンズで拭った。
そして、同時に、助かった、と思った。

「もしかしたらおれ、棚可くんとセックスしたいと思ってるかもしれない」

拭ったはずの汗がまたじわり。
鼓動が、早くなる。
彼の唇が、最低だ、と動いた。
もっと最低なのは、おれかもしれない。

左手には、まだ光があった。 <> スメル おわり<>sage<>2010/03/12(金) 23:41:38 ID:vgl1fCVf0<>  ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |                捏造ばっかりです。
 | |                | |           ∧_∧ お粗末様でした。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/13(土) 00:07:35 ID:LmWcD932O<> うあああああ!!!
目 覚 め た!!!
姉さんありがとう!ちょっとアルバム聴いてきます!! <> il缶とウキョ1/3<>sage<>2010/03/13(土) 00:58:19 ID:B2Q9zH8iO<> il 缶×ウキョ ウキョ独白です。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


キミが庁/内Sではないかという事は、最初からわかっていましたよ。
最も、目的はわかりませんでしたけどね。
概ね、僕のお目付け役といった所だろうという程度に考えていました。
そんなキミとは毛頭、打ち解けるつもりなどありませんでした。
僕は普通にしていれば、だいたいの方はすぐに居なくなりますから。
…例外が一人、居ましたけど。
彼とキミはまるで違うタイプでしたから、その心配も無いだろうと思っていたんですがねぇ。
ブツブツと悪態をつきながらも、必ずついてきましたね。非常に鬱陶しかったです。
しかしキミは仕事熱心で、勉強熱心で、負けず嫌いな所もあって、
正しい行いをするよう僕を咎める事もありました。
キミはキミで、自分の仕事をまじめに必死にやり遂げようとしているのだと途中で気付きました。
組織に従って一生懸命働いているだけなのだと。
たとえそれが僕の観察だとしてもね。
それがわかってからは、僕はキミに隠し事はしませんでしたよ。
キミは仕事上、僕に隠し事ばかりでしたけどね。
そう、確かキミの昔の恋人が現れた時でしたか、
キミは警察官として事件を解決したいという気持ちを僕に打ち明けてくれましたね。
初めてキミの等身大の姿を見た気がしました。
隙を見せまい、本性を知られまいとしていたキミも、徐々に素直な部分を覗かせるようになりました。
事件解決のためにもたくさん働いてくれました。
それでも自分の仕事に誇りを持って、毅然としていましたね。
キミの本当仕事が僕の観察である以上、いつまでもこのままで居られるわけはないと思っていましたよ。
いつかこんな日が来ると、最初からわかっていた事です。
キミには隠し事をするつもりはありませんでしたが、
こうなる事がわかっていた僕は、やはりどこか心を隠していたのかもしれません。 <> il缶とウキョ2/3<>sage<>2010/03/13(土) 01:00:12 ID:B2Q9zH8iO<> 最近、キミの様子がおかしい事には気づいていました。

Sの事、これまでの事、全てを話してくれましたね。
僕は、嬉しかったです。ええ。嬉しかったですよ。
それと同時に、とうとうこの日が来たのだな、と思いました。
やっと打ち解けあえたような気もしたんですけどねぇ。
すみませんねぇ。
僕は少し、彼の事を…
亀山君の事を思い出していました。
お恥ずかしい話ですけれど、僕はあの時ばかりは少し、参ってしまいましてね。
それでも僕は、もう二度とあんな思いはしたくない、などとは思わない人間だと、思っていたんですがねぇ。
自分で思っているより僕はずっと弱かったようです。

自分の道を歩むようにと、そう言ったのに。
キミはまた、僕の目の前に現れました。
「自分の意志で」
そう言いました。
正直、僕は怖かったんです。
もう二度とあんな思いはしたくないと。
だから心に入らないで欲しいと。
嬉しい反面、僕は怖かったんです。

昨夜の僕は玉木さんにご心配をかけてしまうほど、態度に出てしまっていたようです。

僕はもともと一人でしたから、それでもやっていけます。
そう、元に戻るだけ。
だから何も変わらない。
いつも通り、僕は僕の正義を貫くだけだと、
そう言い聞かせていました。 <> il缶とウキョ3/3<>sage<>2010/03/13(土) 01:01:03 ID:B2Q9zH8iO<> なのに、意外な方にキミの選択した道を伝えられました。
そればかりか、キミの事をよろしく、と頼まれてしまいました。

イバラの道ですが、僕は歓迎します。

僕は今日、少し早く出勤してしまったようです。
隣りにかかった名札を見て、また亀山君を思い出しました。
彼は今日もまた、遠い地で自分の正義を貫いている事でしょう。

ここに来ると決めたキミへ。

ようこそ、匿名係へ。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/13(土) 01:59:10 ID:0IKun4p70<> >>339
GJGJ!!
本当によいil
帰る場所出来て良かった <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/13(土) 06:10:06 ID:ZZj+A9q1O<> >>332
ここで彼らに遭遇できるとは!しかもそのアルバム好きなんで嬉しい
壊れる手前の、というところかなGJGJ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/13(土) 06:26:53 ID:T+fjzydfO<> >>339

朝から泣いちゃったじゃないかどうしてくれるw <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/13(土) 06:44:11 ID:WaSEn1kN0<> >>339
GJすぎて涙出てきた……!
朝から良いもん読んで萌え転がった。ありがとう! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/14(日) 01:36:01 ID:oUDbNU1UO<> >>339
泣いたよ
素敵な作品をありがとう <> 江戸御菓子噺 0/7<>sage<>2010/03/14(日) 15:26:52 ID:b5fM5CE+0<> |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの武智と伊蔵。江戸修行時代のほのぼの。
本スレからまた色々とネタをお借りして、たまには明るいモノを目指してみた。 <> 江戸御菓子噺 1/7<>sage<>2010/03/14(日) 15:27:56 ID:b5fM5CE+0<> 目の前に茶色く丸い物体があった。
皿の上に一つ置かれた、それに視線を落としながら口が開く。
「今川焼……」
「好きじゃろ?」
呟いた瞬間後ろから声を掛けられ、伊蔵は座したままハッと背後を振り返る。
するとそれには、湯呑みと急須の乗った盆を手に、部屋の戸口に立つ武智の姿があった。
慌てて立ち上がり、手のものを受け取ろうとする。
しかしそれに武智は、ええからと伊蔵と制すると、その前に回り込み自らも膝を折った。
置いた盆の上で茶の入り具合を確かめ、すべらかな手つきで湯呑みに注ぎ入れ出す。
その間、もう一度座り直した伊蔵は、なんとも所在なく目を周囲にさ迷わす事くらいしか
出来なかった。
稽古後に招かれた、そこは武智の百井道場での私室だった。
入門し早々に道場主に認められ、塾頭を任されるのと同時に与えられた。
自分達の居住する藩の中屋敷は、さして遠くにある訳では無かったが、それでも
通うよりは住み込んだ方が塾頭を務めるには何かと楽だろうと、熱心な薦めを受け
居を移したそこは、確かに藩邸の部屋よりは一回りほど大きく、作りも綺麗だった。
机の上に整然と積まれた本の山や棚の上を飾る活けられた花。
居心地が良さそうなその空間に、しかし伊蔵の胸には逆に複雑な想いがこみ上げる。
それはなんとも、まるでこちらに武智を取られてしまったような。
そしてそんな感情を後押しするように、黙る伊蔵の脳裏にはこの時、昨日の出来事が蘇っていた。
あれも稽古後の事だった。
裏の井戸で汗を拭っていた自分を、不意に取り囲んできた百井の門弟達。
江戸の三大道場の中で格の百井と謳われながらも、自分達が入門した時にはひどく素行が荒れ、
品行も悪かった門弟達は、当初規律厳しくそれらに叱責を飛ばした武智に反感を抱いたようだった。
土イ左の田舎の新入りのくせにと、あからさまに逆らい、言う事にも耳を傾けず。
しかしそうして彼らがその生活を乱れさせている間にも、武智は一人自らの身を律し続けた。
朝稽古には誰より早く入り、雑事にも率先して取り組み、終われば寄り道の一つもせず
まっすぐに藩屋敷へと戻ると、夜も時折行われる他藩有志との会合に顔を出す以外は、
遊びに出掛ける事も無い。 <> 江戸御菓子噺 2/7<>sage<>2010/03/14(日) 15:28:57 ID:b5fM5CE+0<> 酒も女も賭博もやらぬ。
他人に厳しいが自分にも厳しい。それをここまで徹底されれば、人間何かしら自分の中の
後ろめたさが刺激されるのだろう。
気がつけば日が経つごとに徐々に徐々に、百井の門弟達の素行の悪さは治まっていった。
いや、治まっただけではない。それ以上に、
「おいっ。」
背の低い自分をわざと見下ろすように掛けてくる高圧的な声。
それにムッと伊蔵がその大きな瞳の眼差しをきつくすれば、数人いた彼らは一瞬ひるみかけた
ようだったが、それでもそれをなんとか取り繕うと、続けざまにこう言葉を発してきた。
「聞きたい事があるんだが、」
到底人に物を尋ねる態度とは思えぬ口調で、しかし彼らが次に口にした事は伊蔵を驚かせるに
十分足りるものだった。
「塾頭が下戸で甘党と言うのは本当か?」
「……はぁっ?」
いきなり何なのだと思った。しかしそうして伊蔵が返事を返せずにいると、彼らはやがて
焦れたように口々に問いを発してきた。
「甘党ならば何が好きだ?饅頭か?団子か?」
「それとも羊羹や心太の方がいいか?」
「今川焼などは食されるか?」
たぶん……全部食べると思う。
けれどそう答えてやるのはやはり何故か癪で、それゆえ尚も押し黙っていると、彼らはその問いを
更に過熱させていった。
「ならば花は好きか?先日、百井先生の部屋の花を活けられているのを見たが。」
「本がお好きなようだが、どのようなものを読まれる?気に入りの作者とかはおられるか?」
いったいなんなんだ、と思った。
だから一言、知らん!と言い捨て彼らに背を向ければ、途端背後に激しく罵声を浴びせられる。
それにも伊蔵はチッと思う。あやつら、つい先日まで武智先生の悪口ばかり言うておったくせに。
恥知らずな。
しかしそんな彼らの行動力は、苛立った自分の想像の更に上を行くもののようだった。 <> 江戸御菓子噺 3/7<>sage<>2010/03/14(日) 15:29:59 ID:b5fM5CE+0<> 「今川焼…」
もう一度、なんだか昨日耳にしたような気がする物の名を呟いてみる。
するとそれに武智は煎れ終わった茶を伊蔵に差し出しながら、ん?と顔を上げてきた。
「あぁ、これならいただき物じゃ。百井先生が門弟の一人に買うてくるよう頼んだらしゅうての。
なんでも江戸で有名な店のもんらしい。が、なんちゃあ数を間違うて多めに買うてきてしまった
とかで、良ければっちゅう事でわしにも数個届けて下さった。」
「……はぁ。」
「もう少し数があれば藩の皆にも配ってやれたんじゃが、どうにも足らんかったでの。
せやきにこれは内緒じゃぞ。」
わずかに声を潜め、武智が伊蔵に悪戯めいた表情を見せてくる。
ひどく砕けたそんな珍しい武智の様子に、伊蔵はこの時しばし見惚れた。
そして今更ながらに、他の誰でもない、菓子を分け与えてくれる相手に武智が自分を選んでくれた
幸せを噛み締める。
例えそれが子供扱いだったとしてもだ。
「いただきます。」
行儀良く手を合わせた後、その手を伸ばす。
するとそれにならうように武智も菓子を手に取った。
2人ほぼ同時に口に運び、味わう。
「思ったより甘さ控えめな、上品な味じゃのう。」
食べながら武智がそんな批評を口にする。しかし伊蔵にすると、そんなものか?と言う感想しか
出てこなかった。
ただそんな繊細な味がわかるなんてやはり武智先生はすごいなぁとは思う。その上で、
「でもおいしいですき。」
感謝の想いも込めてそう告げれば、それに武智は少し驚いた様に伊蔵に向けて顔を上げ、
そして破顔した。
「そうか。」
穏やかに優しく笑まれる。
それに伊蔵は、あぁまただと思った。 <> 江戸御菓子噺 4/7<>sage<>2010/03/14(日) 15:31:04 ID:b5fM5CE+0<> 江戸に着いてから、そして更に言えばここに移って以来、武智はよく笑うようになった。
素行の悪い門弟達を相手に檄を飛ばす事も多かったが、それでもその声の響きには、
土イ左にいた時のような張りつめた厳しさは無かった。
ただ力強く、ただ凛と。
だからやはり思ってしまう。
「武智先生…」
無意識に、手にしていた菓子を食べかけのまま皿の上に置いて。
「先生は、わしらと一緒におるより、ここにおった方がええろうか…」
小さくぽつりとそう呟けば、それに武智はえっ?とその動きを止めたようだった。
「伊蔵?」
うかがうように名を呼ばれる。その声がまた柔らかいものだったから、伊蔵の中のもやもやした
感情は更に頭をもたげてしまった。
だからつい言ってはならないはずだった事を口にしてしまう。
「収次郎さんには怒られたけんど、」
つい先日言葉を交わした、共に江戸まで来た同郷の年輩者の名を出す。
するとそれに武智は鸚鵡返しに尋ねてきた。
「収次郎が?何を?」
「藩屋敷におるより、ここにおった方が武智先生にとってはええがじゃと。理由は教えて
もらえんかったけんど、でも……」
事実ならば……それは自分にはひどく寂しい。
子供扱いをされている最中なのに、更に子供じみた事を考えてしまう。
それが情けない事だという事はわかっていても、どうしても顔を重く伏せてしまう。
そうして沈黙した伊蔵に、武智はしばしの間の後、静かに声を掛けてきた。
「伊蔵。」
教え、諭すように名を呼んでくる。そして、
「何を心配しちゅうかはようわからんが、これだけは確かな事を言うておく。わしにとって、
一番大事なもんは、土イ左じゃ。」
「…………」
「こん国の為、皆の為、土イ左をどこよりも強い藩にしたい。その為にわしは江戸に来た。
ここには便宜上おらせてもろうちょるが、それで藩の事を疎かにしたつもりはない。」
毅然と言い切られる。その響きの真摯さに、思わず伊蔵が顔を上げれば、そこにはこちらを
まっすぐに見つめてくる武智の瞳があった。 <> 江戸御菓子噺 5/7<>sage<>2010/03/14(日) 15:32:08 ID:b5fM5CE+0<> 迷いなく、揺らぎ無い。
その信念の強さと対峙して、伊蔵はあらためて今しがた自分が口にした事の小ささを知る。
だから、
「すいません!」
慌ててもう一度頭を下げ、その心中に懐疑を抱いた事をわびる。
するとそれに武智は小さく息を吐いたようだったが、それでも次に発せられた声は
また先刻の優しげなものに戻っていた。
「誤解が解けたんならそれでええ。それより菓子がまだ半分残っちゅうぞ。」
手元に置かれた皿の上に促す視線を落とされて、それに伊蔵は慌てて手を伸ばす。
そして勢いのまま食べかけだった今川焼にかぶりつけば、それを見ていた武智の顔には
この時、はっきりとした笑みが浮かび上がった。
「そんなに急いで口に放り込まんでも。餡がはみ出しちゅう。」
言いながら、その指先で自らの口元を指し示してくる。
それにえっ?と思い、伊蔵が口の端を拭おうとするが、その所作にも武智の笑みは更に深まった。
そして、
「こっちじゃ。」
言いながら伸ばされた武智の手。
指先で拭った方と逆の口の端をなぞられ、ついていた餡の欠片を取られ、そしてそれを、
「――――っ!」
少しの逡巡の後、そのまま自分の口に運んだ武智を見た瞬間、伊蔵の背がビシリと固まる。
が、それとほぼ同時に、伊蔵は何かが落ちた音をその背後に聞いていた。
「誰じゃ!」
それゆえ反射的に振り返りながら、脇に置いていた刀の束に手を掛ければ、しかしそんな殺気立った
自分に対し、この時伊蔵の目に飛び込んできたのは部屋の戸口、呆けたように開いた腕から
その足元に何やら花のついた枝を取り落としている、一人の門弟の姿だった。
「あの…庭の剪定をして切った花があったので……塾頭にと…」
視線をこちらに固めたまま、呆然とした口調で告げてくる。
それに部屋の奥から武智の声が飛んだ。
「それはわざわざすまんかったのう。」
言いながら受け取る為に立ち上がろうとする。
しかしそんな武智を、この時伊蔵は止めた。 <> 江戸御菓子噺 6/7<>sage<>2010/03/14(日) 15:33:12 ID:b5fM5CE+0<> 「待ってつかあさい、武智先生。」
「伊蔵?どういたがじゃ。」
理由は、廊下の方から感じた幾つかの気配にあった。
ドタドタと足音荒く近づいてくる、それらは戸口に立つ門弟の背後、群れをなして現れ、止まった。
「塾頭!たまたまうちで饅頭が余りまして!」
「たまたま実家から羊羹が!」
「貸本屋を通りがかったら、たまたま先生の探しておられた本を見つけて!」
「…………そんなたまたまがあるがかぁ!」
口々に叫ぶ門弟達相手に声を張り上げて、伊蔵がその場に仁王立ちになる。
するとそれに彼らも対抗して声を荒げてきた。
「なんだとぉ!!」
「おんしら下心が見え見えなんじゃ!そんな汚い性根で武智先生に近づくのは許さんぜよ!」
「おまえ、同じ国元だからって調子に乗るなよ!それでなくても一人部屋の中に入れてもらって。
俺らなんてなぁ、いつもいつもここで帰されるんだぞ!」
「そうながか?……やのうて、いつもいつもっておんしら何しちゅう!!」
「おまんら……」
喧々諤々と飛び交う怒号の中に、この時一言ひんやりとした声が混じる。
それにその場にいた全員がビクッと固まり、そして恐る恐ると視線を部屋の中へ向ければ、
そこには畳の上、静かに端坐し、手にした茶を飲み干すとそれをゆっくりと置く武智の姿があった。 <> 江戸御菓子噺 7/7<>sage<>2010/03/14(日) 15:34:14 ID:b5fM5CE+0<> 思わず皆の息が止まる中、その唇が再び動く。
「そんなに元気が余っちゅうなら、道場で素振り百回。出来るな?」
否定を許さぬ肯定的疑問を投げ掛けながら顔を上げ、にこりと微笑んでくる。
それには伊蔵の口からはたまらず、泣き事めいた悲鳴が上がっていた。
「武智先生っ、それは無いですきにっ」
「行きや、伊蔵。」
「……はい…」
しかし武智にそう繰り返されれば、自分に逆らう術は無かった。だから、
「おらっ、おんしらも行くぞ!」
「えーっ!」
「えーっ、やない!いったい誰のせいでこんな事になったと思っちゅう!」
戸口に集まっている者達をほとんど蹴り倒すような勢いで元来た道に押し返し、伊蔵が部屋を
出ていく。
そしてそれらを見届け、声も完全に聞こえなくなった時、
「まっこと、仲が良すぎるのも考えもんじゃのう。」
皿や湯呑みを片付けながら、やれやれとばかりに零された武智の言葉。
それを聞かずにおれた事は、伊蔵達にとっておそらくは幸いだった。




□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
江戸修行時代の家族の肖像、出来ればもう少し長く見たかった。
土イ左弁がエセなのはあらためて許してつかあさい。
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/14(日) 21:24:36 ID:Uvx2uuqN0<> >>337
まさかこの二人が読めるとは!
ありがとう!幸せです。 <> 項垂れる曇り空1/5<>sage<>2010/03/14(日) 21:31:25 ID:1v36SWCw0<> お借りします。
?・邦楽、一角獣の双子コンビ(notカプ)
・年下組が仲良くしてるのが好きな人推奨。



|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! <> 項垂れる曇り空2/5<>sage<>2010/03/14(日) 21:32:58 ID:1v36SWCw0<> 暖かくなってきたし遊ぼうや、と連絡をしてきたのは亜辺だ。
前に会ってからたいして間も空いていないのに、二つ返事で朝から車を走らせた。
いつもなら車に必ず積むゴルフセットに一瞬手を伸ばし、すぐに引っ込めた。
玄関から一歩外に出ると、青空とはほど遠い色をしている空が視界に飛び込む。

連絡をしてきたのは自分だというのに、わざわざ呼び寄せて置いて亜辺は何も考えていなかったらしい。
すっかり馴染みになったカフェに連れ出され、二人して今にも雨が降り出しそうな曇り空を見上げて
同時にため息を吐く。
「昨日夕焼け綺麗だったから、絶対晴れると思ったんだけどなー」
「夜の天気予報で雨降るって言うとったぞ」
「そっかー……」
「何じゃ、何の考えも無しに電話してきたん?」
「うん。ちょっと迷ったけどね」
今忙しいでしょ、皆。呟いた言葉は湿っぽい空気にじわりと解けて広がる。

怒濤の2年間を終えようやく各々が自分のペースで動き始め、
飽きるほど顔を合わせることはなくなった。
かといって、打ち合わせやちょっとした秘密の集まりは不定期にやっているし、
それ以外でも誰かと誰かがこそこそやってるのも知っている。
別に会いたければ連絡でも何でもすればいい。昔のように変に勘ぐられることもないし、
むしろ会いやすい環境になったと思う。 <> 項垂れる曇り空3/5<>sage<>2010/03/14(日) 21:34:00 ID:1v36SWCw0<> 「何かさあ、ぎゅっと凝縮され過ぎちゃった感じしない?」
平気な顔をして自分たちは一人に慣れていたつもりだったのに、
実は全然そうじゃなかった、と気付いてしまった。
5人でいるときの独特の空気感や、バカなことをしてギャーギャー笑ってしまいには笑い疲れる、
そういう時間の居心地の良さを思い出し、その中に自分の居場所があることはとてつもない安心感があった。
「馬鹿騒ぎし過ぎたっちゅー見方もあるけどな」
「いいじゃん、そういうのがうちらっぽいじゃん。でも、失敗したかなあって思うこともあるけどね」
「何をよ」
「……現場行ってあの甲高い笑い声が聞こえないとさ、『あーそっか、今日は一人なんだー』って思っちゃって。
ま、俺の仕事だから当たり前なんだけど」
結局そこにいくんかい、とツッコミを心の中だけで入れ、頬杖をつく亜辺の横顔をぼうっと見つめる。
(……あー、あいつ今ツアーで飛び回ってんだっけか)
同じくツアー中の最年長と地元で仲良くやっていたことを思い出し、
灰が落ちかけていた吸い殻を灰皿に力一杯押しつける。
あのブログを見たことも知られたくないし、ちょっとだけイラッとしたことは
もっと知られたくない。プライドに賭けて。

「連絡すりゃーええじゃん」
「でもさ、『ごめんね、忙しいから〜』とか言われたら心折れちゃうっしょ」
「中学生か、おまえ」
40過ぎて恋だの何だのの話題をこいつとすることになるなんて思わなかった、と冷めかけたコーヒーを啜る。
それこそ、再結成前の自分が亜辺にまで隠していたことと同じようなもので、
要はおおっぴらに言うか言わないかの違いだけだ。
ただ、隠していたつもりだったはずのその辺りのことは亜辺どころか周辺の人間にはバレバレだったらしく、
あの鈍感な海老にまで指摘されたのは未だに心外だ。
『多三男は隠せてたつもりかもしんないけど、だだ漏れだったよねえ?』
自慢げに胸を張る海老を睨みつける多三男、の図に呆れたように笑う彼もまた同じような状況の中にいて、
自由奔放に振る舞い続ける相手に振り回されるお互いを見ては苦笑いをするしかないのだ。今も。 <> 項垂れる曇り空4/5<>sage<>2010/03/14(日) 21:34:56 ID:1v36SWCw0<> 「お土産買ってきてくれるんだって」
「海老が?」
「ん。買ってくから楽しみにしててね、とか言われちゃったらさー……待つじゃん、
俺そういうとこ素直だし」
「で、その連絡が来ないと。で、耐えられんから俺を呼び出したと。そういうこと?」
うん、と子供のように頷いた一つ年下の友人の頭を思いっきりはたきたいのを堪え、次の言葉を待つ。
「広島でその話、河弐っさんにしたら『成る程、んじゃ俺も買ってこ』って
言ってたらしいけど、連絡ないの?」
「……おっさん、絶賛合宿中だから。明後日帰ってくるけど」
「なら、そろそろ連絡来るんじゃね?」
「……だといいけどな」
相手のことだったらこんなにも親身に考えられるのに、俺たちは自分のことになると途端に素直じゃない。
お互いに一向に鳴る気配のない携帯をちらちら気にしながら次の煙草に火を点け、
違う相手のことを思い浮かべながら長く、それでいて甘ったるい雰囲気を漂わせるため息を吐いた。

本当に、恋なんてもんは厄介で仕方ない。
でも、そんな厄介な感情に振り回されてる自分たちは案外嫌いではない。 <> 項垂れる曇り空5/5<>sage<>2010/03/14(日) 21:35:34 ID:1v36SWCw0<>


□STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
何言いたいのかよくわからなくなったけど、この2人の阿吽の呼吸以外の何物でもない会話が好きだ。
何だかんだでこの人らは事ある毎にこそこそキャッキャしてると思う。 <> 江戸御菓子噺 其の弐 1/3<>sage<>2010/03/14(日) 22:27:31 ID:b5fM5CE+0<> |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの武智と飛来。>>347の続きで別ver。
ほぼ連投ですみませんが、あと数レスお借りします。


「なんですか?これは。」
「もらい物の菓子じゃ。今度は配れる数があっての。」
「今度は?」
「なんちゃぁない。」
武智が身支度を整えるのを待ちながら、通された部屋で収次郎は目の前に置かれた
風呂敷包みに視線を落としていた。
稽古が終わり、帰ろうとしていたところで呼び止められ、部屋で待つように言われた。
何事かと思えば、久しぶりに武智も藩の中屋敷へ顔を出すので共に行こうとの事。
そして汗を落とし着物を着替えた武智は、刀架から刀を取り上げると、それを腰に差しながら
この時、背後の収次郎にこう告げてきた。
「そう言えばおまん、伊蔵に何を言うた?」
「はい?」
唐突にそんな事を言われ、意味が把握できず間の抜けた声で聞き返す。
するとそんな自分に武智は微かに視線を後ろに流しながら、続きの言葉を口にしてきた。
「なんちゃあ嘆かれたぞ。わしは藩の屋敷におるよりも百井に世話になっておる方が
ええんやと、収次郎に怒られたと。」
「……っ、伊蔵っ、あいつ!」
「伊蔵を叱るなよ、収次郎。」
秘密裏に話した事を当人にばらされて、思わず声を荒げた収次郎に、しかし武智は穏やかな
戒めを告げてくる。そして、
「そんなに、わしに気を使うてくれんでもええぞ。」
まるでこちらの胸中を何もかもを見透かしたかのようにそう静かに諭してくる。
が、しかしそれに収次郎の憂いが取り払われる事は無かった。 <> 江戸御菓子噺 其の弐 2/3<>sage<>2010/03/14(日) 22:28:37 ID:b5fM5CE+0<> いくら本人がどう言おうと、藩の屋敷にあればこの人は必然的に土イ左の下司全体の
まとめ役のような立場に立たされる。
それは言い代えれば、上司との交渉事において常に矢面に立たされると言う事と同義だった。
この人と上司との関係。
何を言われた訳でも、知った訳でもない。
あくまで邪推の域を出ない、しかしそれでも自分はこの人に必要以外に上司連中を近づけるのは
嫌だった。
それゆえに返事が出来ずに沈黙する。
そんな収次郎に武智はこの時、微かな苦笑を洩らしたようだった。
「おまんは、心配性じゃのう。」
柔らかな声の響き。それに収次郎がはっと顔を上げれば、そこには踵を返し、こちらに向け
優しい視線を落としてくる武智の姿があった。
「さて、行くがか。」
仕度が整った事を告げられ、収次郎は慌てて目の前の包みを手に取ると、立ち上がる。
しかしその間にも、目の中には先程見た武智の穏やかな表情が張り付いていた。
だから、
「…抱きたい…のぉ…」
無意識に自分の中に沸き上がった感情。
想うと同時に、目の前の武智の目が驚いた様に見開かれる。
その反応に収次郎はこの時初めて、自分が内心の想いを実際の声にしてしまっていた事に気付いた。
「あっ…いやっ、これはそのっ、そう言う意味やのうて…っ」
急ぎ取り繕ろうと言葉を発するが、それはなかなか意味あるものになってくれない。あげく、
「ただなんちゅうか、こう…柔らかそうや思うたら、触れとうなったっちゅうか、突つきとう
なったっちゅうか…っ…」
意味的には同じと言うか、むしろ変質的に更にまずいと言うか……
混乱してしどろもどろになる。そんな収次郎を武智はしばし無言で見遣っていたようだった。
だからその視線に居た堪れなさを感じて、収次郎はたまらず堅く目を閉じる。
が、そんな自分の胸元、不意にふわりと入り込んできた気配があった。 <> 江戸御菓子噺 其の弐 3/3<>sage<>2010/03/14(日) 22:30:20 ID:b5fM5CE+0<> えっ?と思い、反射的に目を開ける。と、そこにあったのはひどく近くにある武智の姿だった。
「たっ、武智先生?!」
我知らず上擦った声が口をつく。
するとそれに武智は、やはりしばらくの間沈黙を守っていたが、それでもやがてこう呟いた。
「体は……別になんちゃあ変哲のない堅いもんじゃぞ。」
ひそりと落とされた、その言葉の真意を測りかねた収次郎が、思わずその顔を覗き込もうとする。
しかし武智はそれを許さなかった。その代わり、
「……それを、こんだけでええがか?」
重ねられた言葉。
許されているのかと理解をすれば、それは同時にそれだけと言われると少々困ると言う
欲深なものになった。
けれど、
「……はい…」
今は、目の前の僥倖を享受する事にだけ目を向ける事にする。
手にした包みごと、腕をその背に回す。
初めは触れるか触れないか程に恐る恐る。
しかしそれにも武智が逃げない事がわかれば、腕の力はたまらず強いものになった。
深く胸の中に引き寄せ、抱き締める。
強く、誇り高く、それゆえに脆く、心のどこかで己を厭うている人だった。
そんな人が抱き締められた腕の中で少しだけ可笑しそうに呟く。
「おまんも伊蔵も……阿呆じゃ。」
慕う自分達をそんなふうに言って笑う。
そんな武智が、今の収次郎にはひどく寂しく、そして愛しかった。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
先生を幸せにしてやりたかった。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/14(日) 23:07:54 ID:/DiVn1R60<> >>356
ありがとう恋バナな双子じれったくて可愛過ぎる。
お土産が無事届きますようにww <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/14(日) 23:34:19 ID:7snfPTlp0<> >>347
>>361
タイガー姐さん待ってました!!
笑顔のイゾとテンテーが嬉しい!でも幸せそうな様子がかえって切ないのは何故なんだろう
そして待ってました漢シュージロ・・・おまえさん漢だよ。ホント。テンテ支えてやってくれ
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/15(月) 12:08:12 ID:a2Fo0JeZ0<> >>325
亀だけど萌えたよ!!ありがとう! <> 板缶1/3<>sage<>2010/03/15(月) 23:48:58 ID:VpLON/4V0<> il 板缶です。最終回に触発されて初捏造します。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!




 ふっと目を覚ました瞬間。
 見やった時計は、まだ夜明けが遠い。暖房の消えて久しい室内は冷え切っていて、布団の中、腕に包んだ温もりがことさら温かく感じる。
 いつもなら満足げに目を閉じて、猫のように背中を丸めているはずの温もり。
 その綺麗な顔が、苦悶に歪んでいたから、慌てて背中をさすった。
「おい。おい、神部!」
 額に浮かんだ油汗。何かに耐えるように、口は堅く引き結ばれている。
 いやいやをするように首を振って、何事かうめく。その頬を軽くはたくと、ん、と小さく身じろいだ後、ようやくまぶたが持ち上げられた。
「あー……おはよう、ございます」
「おはよう。じゃねぇよ、うなされてたぜ」
「そうですか?」
 額に手をやって、深くため息をつく。少し前までいた夢の世界の記憶を振り払うように、軽く頭を振った。
 その仕草の慣れた様子も気がかりだったが、それ以上に驚いたのは、こいつの瞳の色だ。
 伏せられた瞳に浮かんだ、ぞっとするほどに暗い光。こんな目をしているこいつは、知らない。
「すみません。起こしてしまいましたよね」
 ふっと寄せられた唇。頬をかすめた感触は乾いている。
「余計なこと心配してんじゃねぇよ」
 肩をひきよせて布団をかける。抱きしめるように腕につつみこんでやると、ふっと笑ったような息遣いが聞こえた。
「さっさと寝ろ。お前さんと違って俺は明日も忙しいんだ」
「……はーい」
 優しい言葉なんてかけられない。甘い言葉も慰めも、俺の辞書にはないから。
 それでも、こいつはちゃんと、憎たらしいほどそのことを分かっている。
 
<> 板缶2/3<>sage<>2010/03/15(月) 23:51:08 ID:VpLON/4V0<>  肩に触れる息が、規則正しいものになっていく。やがてその息遣いが穏やかなものになって、体の力が抜けていったのを確認して、ようやく訪れた眠気に身を任せることにした。

 これが初めてというわけではない。夜中にうなされて、はっと飛び起きることなんて、本当に日常茶飯事だった。
 どうしてなのか、気にならないわけではない。それでも理由は聞けなかった。
 俺たちは、知らないことが多すぎる。元々、一足飛びにいろいろなものを飛び越えて結んだ関係だ。
 俺もこいつに話していないことなんて山ほどあるし、こいつもきっとそうだろう。

 それでもいいと思った。
 刹那の関係だから、なんて思っているわけじゃないけれど。
 今こいつがここにいる、そのことだけで、俺には十分すぎる。

「(話したくなったら自分から話すだろ、俺がつっかかったところで、お前さんはどうせ、笑って流すだけだろうさ……)」
 温もりを引き寄せて、遠い夜明けに思いをはせながら、ようやく目を閉じた。

 今日はあまり、眠れなそうな気がした。


******

 夢が、近くなっているという自覚はあった。
「……おい。…おい、神部!」
 まぶたを強引にこじ開けたのは、あの人の力強い声。
 背中に感じた大きな手の感触に、目を開く力をもらう。
<> 板缶3/3<>sage<>2010/03/15(月) 23:54:12 ID:VpLON/4V0<> 「あー……」
 目を覚ましたとき、愛しい人が近くにいる。素肌で触れ合って、存在を確かめる。そんなことで安心できるなんて、俺も相当、重症だ。
 おはようございます。なんてボケた呟きにも、律儀に返事が返ってくる。
 彼の低い声は、うなされていたことを告げても、決してその理由は聞いてこない。そうされるたびにいつも、まるで針でちくちくと刺されているような気持ちになる。
 優しい、けれど。その優しさに答えられない自分が、嫌で仕方なくなる瞬間だ。
「さっさと寝ろ。お前さんと違って俺は明日も忙しいんだ」
 肩を抱く腕に、力がこもる。その腕の温かさに、ふっと体の力が抜けていく。
 ここにいるだけで、安心できる。この不器用で無骨な人の、大雑把な優しさは、俺にとっては心地いい。

 俺の帰る場所は、ここにある。
 いつかきっと、彼が俺のすべてを知る日が来る。そのとき彼が、今と同じように俺を迎えてくれるかなんて、分からないけれど。
 それでも。せめて今だけは、この温もりに溺れていてもいいでしょう?

 筋肉に覆われた硬い腕に指先を這わせて、まぶたを閉じる。

 今度は、さっきより少しだけ、いい夢が見られそうな気がした。




□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
文章難しいです。いつも投下してらっしゃるネ申お姉さま方を尊敬します。
お付き合いありがとうございました。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/16(火) 00:36:16 ID:B2yCiS6RO<> >>356
各々の恋に悩む双子たちがめっちゃ可愛かったです!
(連絡が来たらまた報告しあうのかな?秘密かなw)
いい萌えをありがとうございました <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/16(火) 02:16:44 ID:Bm8GvWAZO<> >>367
板缶待ってました!いつもの姐さんとは違う方なんですね。色んな方の板缶ウェルカムです!
板の不器用な優しさが萌えた!缶がうなされる夢、その過去が大変気になります…居場所できて良かったね缶(´Д⊂
こっちの板缶もシリーズで読めたら嬉しいです。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/16(火) 06:11:39 ID:xXP1c9SQ0<> >>367
おおおおお!
板缶はやっぱりいいなあ
萌えをありがとう! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/16(火) 07:01:31 ID:Gz9rC7fNO<> >>367
あああ、ありがとうございます!やっと板缶が読めた!
心底ウェルカムです!板缶和むな〜 <> il缶ウキョ 1/3<>sage<>2010/03/16(火) 19:40:14 ID:XPoJxzSiO<> il缶×ウキョ 缶独白です
il続いてしまって申し訳ありません。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

最初はなんでこんな仕事、と思いましたよ。
僕にはやらなきゃいけない事がたくさん残っていたし
今するべき仕事なのか?ってね。
だけど必要な事だと言われればそういうものだと疑う事もしなかった。
こちらの方が必要な仕事で、FRSは部下が引き継いでくれている。
この仕事が終われば、僕もまたFRSの開発に戻るんだろうと思っていたしね。
庁/内Sを派遣されるような人物にも興味あったし?
ま、さっさと終わらせて早く元の部署に戻ろうと考えていたけど。
ところがあなたは最初から警戒心剥きだし、意地悪そうな顔してるし、
細かいし冷たいしすぐにどっか行っちゃうし僕の事無視するし
僕ほんとなんでこんな人の観察しないといけないんだろうってかなりいらついちゃいました。
でもあなたの観察が僕の仕事ですから?一生懸命やりましたけどね僕なりに。
もうほんと違法捜査ばっかりだしでっちあげとか考えられないですよ僕ら警察ですよ?
なのにえ?そんな所見てんの?みたいな。え?そんな事も知ってんの?みたいな。
誰もがあなたみたいに博識だと思わないでくださいね。
あなたみたいな人についていくのがどれだけ大変だったか。
だって僕だって負けてられないじゃないですか。
ミイラ取りがミイラに飲み込まれるわけにはいかないんですよ。
次の日に行く所がわかってたら一夜漬けで勉強しましたよええそれこそ朝方までね。
そのへんの苦労、今度たっぷり時間をかけてお話したいと思ってます。あなたの好きな鼻の里ででも。
あ、でも今度僕のいきつけのお店にでも連れてっちゃおうかな?
あなたが知らなそうなとこ、いっぱい知ってますからンフ
僕だってね、いつもいつも感心させられてばかりじゃ悔しいですから。
あなたのその鼻っ柱をへし折ってやりたくもなるんですよ。 <> il缶ウキョ 2/3<>sage<>2010/03/16(火) 19:41:36 ID:XPoJxzSiO<> ああ、我ながらなんでこんな道選んじゃったんだろー。
たくさん飲んじゃったな〜。大高知さんどこ行ったんだろ。
未練?そりゃありますよ。あるって言ったらまたなんかうるさそうだから言わなかったけどね。
だってFRSの開発はそれこそ僕は企画から携わってきたんだから。
僕がこの仕事に就いて…一番力を入れていた、いわば…「夢」だったんです。
これで日本が変わるんだって。これでたくさんの犯罪が減るんだって。
そう信じてたのにな…。
良かれと思っていても、正しいと思っていても、結果がうまくいくとは限らない…か。
もちろん、うまくいかないとも限らない。
絶対にそんな事はあり得ないって思っているけど僕だっていざあのシステムを目の前にしたらもしかして…。
祝いさんだって打手さんだって、僕と同じ信念を持ってあの開発に携わっていたんだから。

だけど、あの杉舌警部をその主任捜査官に選んだのはすごいよねぇ…
そうじゃなかったら僕はあの人と会う事はなかったんだ。
こんな狭い世界で、一生会わなかった。
…ああ…なんで僕はこんなに…
いつからだろう。この半年間。たった半年、でも、十分な月日だった。
あなたのイメージは、孤独で異端で人と関わる事を嫌うような、いわゆる「厄介者」だった。
ところが実際のあなたは誰よりも人が好きで、他人の事に一生懸命で、できる事なら全ての人を守ろうと思っていた。
きっと、僕の事も。
僕が庁/内Sだなんてそれこそ会った瞬間にもう気づいてたんだろうなぁ。
それなのに。「ついてこなくていいですよ」、の次には「どうぞお好きに」がついてくる。
だから僕は好きにした。
出世だとか、僕の長年の夢だとか、その全てを捨てても構わない。
むしろどうしてもそうしたい。
この半年間、あなたを見てきた僕の答えです。 <> il缶ウキョ 3/3<>sage<>2010/03/16(火) 19:42:36 ID:XPoJxzSiO<> 僕は…きっと言葉にできないほどあなたに惹かれているんだ。
憧れなのかな。僕はあなたのような警察官になりたい。
あなたの近くでずっとあなたを見ていたい。
もっとあなたの事を知りたい。
あなたの事を知れば知るほどのめり込んでいく自分を感じるんです。
こんな気持ちは初めてだな。

未練なんかタラタラだよ。
これからいや〜な目にいっぱい会うんだろうし。あーあやだやだ。
でもなんでだろ。清々しい。
それになんだか嬉しい。
だってどんな事が起きても、彼は僕を裏切らない。
絶対に裏切らない。
そして…僕も彼を絶対に裏切らない。
こういう関係をなんて言うんだろう。
こういう関係を、なんて……


「寝てるのか
…まったく。これからの自分の立場を分かっているんだろうな?
…だがあの人なら………。
俺も、信じてみる事にした。
お前がそこまでして信じた…「相棒」ってやつを、な。」


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/16(火) 19:47:49 ID:mrEvzFAQO<> >>374

GJ!
憧れの存在っていいなあ(´ω`) <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/16(火) 20:05:44 ID:+lPWTIRc0<> >>367
板缶嬉しい!!
ああ、もっと板缶読みたいです!! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/16(火) 21:12:06 ID:Tyr9/ybS0<> >>374
相思相愛缶ウキョいいなあ
GJすぎて正直泣きそうだ
未練たらたらでも、アイボウもできたしラムネもいるし、帰る場所がちゃんとできてよかったね缶(ToT) <> 速安 speed drunker<>sage<>2010/03/16(火) 22:46:54 ID:wRiWhudS0<>
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ハンチョウの速安ダヨ‥‥。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  原作よりで匂わせてるだけだモナ……。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「お疲れ。今上がりか?」
署から出ようとしたところで、安積は速水とばったりはち合わせた。
「俺も上がりなんだ。乗ってかないか。たまには俺とドライブしようぜ」
ちょうど事件が一つ片づいたところで少し疲れていた。
速水の運転というのが少々気になるが、帰宅のラッシュに揉まれるよりはいいかもしれない。
「お前が上品に運転してくれるのなら考えないでもない」
ナンパのような誘いに、安積は勿体ぶって答えた。
「わかったわかった、どこかのお姫様でも乗せてるみたいに運転してやるよ」
速水は見事なウインクを残し、本人曰く「法の許す限りにおいてばりばりにチューンナップ」された愛車を取りに行った。 <> 速安 speed drunker<>sage<>2010/03/16(火) 22:47:55 ID:wRiWhudS0<> 台場はがらんとした街だ。
大きなビルが建ち並んではいるが、ごちゃごちゃとしていないせいで、逆にだだっ広さを感じさせる。
それを過ぎて橋を渡る。暮れなずみ、灯りが点り始めた一番美しい時間。
風景が車の窓ガラスをなめらかに流れてゆく。仕事の気分がだんだん薄れていくのを安積は感じた。
速水はすっかりリラックスしてハンドルを握っている。
気の置けない友と二人きりの車内は、エンジンの音だけが穏やかに響いていた。
金色が一瞬、水平線のふちに最後の光芒を煌かせて消えていく。
安積は夕日を背負った飛ばし屋の少年を思い出した。
殺人事件の参考人となった彼が速水に仕掛けた公道でのレース。
乗り合わせてしまった安積は、絶叫マシン顔負けのスリルを速水の運転でたっぷり味わわされたことがある。
命がけのバトルで、速水は伝説と呼ばれたその少年を一度抜いた。
その時見た全身から気迫が吹き出しているような速水の姿。
いつも飄々とした旧友の初めて見る一面に、不可思議な高揚が背筋を駆け抜けたのを思い出し、
安積は前方を見つめる横顔に「今日は大人しいんだな」と話しかけた。
「そりゃあ、大事な大事なお姫様を乗せてるからな」
速水はにやりと笑いながら安積に向かって恭しく点頭した。
「誰がお姫様だ」
「じゃあ、飛ばしてやろうか」
不適な笑みを閃かせた速水は、返事を待たずにアクセルを踏み込んだ。
やめろと言っても聞く男ではない。
安積は呆れ顔を少しひきつらせ、Gで押しつけられたシートにしっかりと掴まった。
車線移動を駆使して、速水は次々に車を追い抜いていく。
これくらいのスピードはなんてことないのだろう、鼻歌交じりだ。 <> 速安 speed drunker<>sage<>2010/03/16(火) 22:49:16 ID:wRiWhudS0<> しばらくすると、安積もスピードに慣れてきた。
余裕が出てくれば、恐怖は簡単に爽快感へととって変わる。
追いかけ、追いついて、追い抜く。スィングするジャズのようなリズムがその走りにはあった。
バスドラムのように低く響くエンジン音。鋭く鳴るシンバルのような鮮やかな方向転換。
速水の奏でる旋律に魅せられ、安積の心も浮き上がっていく。
陳腐な台詞だが、男は少年の頃からなにも変わっちゃいない。
ミニカーを手で押して遊びながら、自分より遙かに大きい鉄の塊を自在に操る夢を見ている。
スピードの快感に酔える生き物だ。
だが今俺が感じているのはそれだけじゃないようだ、と安積は思った。
自分で運転するときは次にどう進むのか分かっているから体が身構えられる。
誰かに運転を任せたとしても大体予想がつく。
しかし速水の助手席では、全く予測できずにただ振り回されてしまう。
今感じているのは、無防備なまま強く大きいものに翻弄される快感だ。
やや被虐的な悦びも混じっている。
そういうのも自分は嫌いじゃないらしい、と安積はまた思う。
「気持ちいいだろ、安積」
見透かしたように速水が言った。
「あぁ。……少し、癖になるな」
陶然とした声で答えると、速水が含み笑いをして目を細めた。
混みあった部分を抜き去り、前を走る車はほとんどいなくなっていた。
スピードは落とされたが、見通しがいいという一事だけで十分に気持ちがいい。
乗せられているだけでこうなのだから、運転している速水はさぞかしいい気分だろう。 <> 速安 speed drunker<>sage<>2010/03/16(火) 22:50:09 ID:wRiWhudS0<> 「なあ、飛ばすのってどんな気分なんだ?」
「それは仕事のことか? それともプライベートの話か?」
「お前にその区別があるようには見えないがな」
「ひどいなぁ。ありますよ、もちろん」
速水は指をハンドルの上で軽やかに踊らせ、タタンタタンとリズムを刻んだ。
「じゃあ聞くが、刑事が犯人を追い詰めるときの気分はどんな感じだ?」
「質問返しか?」
言い返しながら、安積の手は口元に自然と伸びた。薄い唇を親指で弄るのは考えるときの癖だ。
「刑事は猟犬みたいなものだ。俺たちは捜査の間、犯人のことばかり考えている。
追い詰めたときやワッパを掛ける瞬間は、高揚感も確かにある。
だが俺たちの仕事では被害者が必ずいるんだ。
だから……楽しいとか嬉しいとか思ったことはないな。
そういう感覚は持ってはいけないんだろうと俺は思ってる」
「同じだ」
速水はあっさりと言った。
いつものように真面目過ぎるとからかわれるかもしれないと思ったから少し意外な気がした。
「じゃあ、プライベートのときはどうなんだ?」
「そりゃもう、いい気分だ」
すっかり暗くなった窓から、安積は速水の方へと目を移した。
レースの快感を体の内に蘇らせているのか、速水の表情が次第に精悍さを増してゆく。
「一人で飛ばすのもいいが、強い相手がいたほうがもっといい。
そいつのことしか見えなくなる。飛ばして、追いついて、ねじ伏せたくなる」
速水は口元に緩い笑みを浮かべた。精悍さに、凶暴な衝動の匂いが加わる。
「一旦抜いて頭を押さえたのに、またすり抜けられるのも悪くないな。
手が届きそうで届かない、そういう獲物ほど燃えて、体が疼く」
速水がちらりと安積の方を向いた。 <> 速安 speed drunker<>sage<>2010/03/16(火) 22:52:48 ID:wRiWhudS0<> 「肉食獣みたいだな。ライオンとかそういう、猫科の」
目が合ってはじめて見とれていた自分に気づき、安積は照れ隠しに言った。
「……そうかもしれない」
速水はうっそりと笑い、唇をぺろりと舐めた。
「猫は獲物を弄ぶって言うからな。本気を出せば手に入れられることは分かってる。
だが、俺はずっと駆け引きを楽しんでるんだ」
意味ありげに安積を見た速水の瞳が、街灯の光を反射して光った。
その瞬間、ぞくりとした快感が背筋を駆け抜けた。
「……っ……!」
安積は息を詰まらせ、両腕で己の体を抱きしめた。
得体の知れない感覚が体の中で膨れ上がっている。
何かが疼くような、苦しいのに、どこか甘いような――。
「どーしたの、安積くん? 車酔いか?」
さっきまでとは一転して呑気な声で速水が訊いた。
何にも知りませんとばかりに惚けた顔をしている。何が肉食獣だ。こいつは絶対、分かってやっているんだ。
「さっきの話……なんか含み持たせただろ」
むかっ腹が立った安積は、じとりと速水を睨んだが。
「考えすぎでしょ?」
はげるよ、安積ちゃん、といつものように軽く言い、
速水は「お前のマンションまで送ってやるよ」と読めない瞳で笑ってみせた。
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 初投下なんでナンバリングし忘れた、スミマセン。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ <> キューカンバーの猫 1/5<>sage<>2010/03/17(水) 09:14:18 ID:KY+WLi9f0<>
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  リリで801スレの>>399からの流れを
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  遅ればせ&超自己解釈ながら書いてみるよ
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
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スーパードッグリリ/エン/タールのねこと虎の話
ねこ独白でヤマなしオチなしイミなしエロなしです
ソフトに喰う喰われる系の話なので、一応ご注意を
<> キューカンバーの猫 2/5<>sage<>2010/03/17(水) 09:17:14 ID:KY+WLi9f0<>
シュバ/インさんにきゅうりを頂いた。瑞々しく歯ごたえの良い、美味しいきゅうり。
シュバ/インさんは、私の成り行き上の飼い主:アキラの上司で、とある組織の管理職に就いている。オールバックのなかなか良い男で、仕事もできる、申し分のない大人だ。茶髪のヒラ組員で、銃が無ければ仕事ができないアキラは、今この部屋には居ない。
薄暗い部屋には、私と、煙草を嗜むシュバインさんだけ。
あぁ、壁面の水槽で泳いでいるアロワナも居ましたね。アキラは、私がネコなのに魚を食べたがらないことを不思議がっていたなぁ。
スーパーうちゅうねこの私が魚ではなくきゅうりを主食とするのは至極当たり前のことだから、アキラやその他の人間が勝手に考えた理屈を当てはめないで欲しいと思うのだけれど。
そういえば、私と同じ時に生まれた、あの方は……

「きゅうりは美味くなかったか、ネコさん?」

――あぁ、ぼんやりとしていてきゅうりを食べるのを忘れていました。シュバ/インさんに要らぬ気遣いをさせてしまいましたね。

『いいえ、少し考え事を。きゅうりはとても美味しいですよ』
「そうか」

ボリボリ ボリボリ
再びきゅうりを咀嚼し始める。薄いけれど固い皮、真ん中と周りで微妙に食感の異なる中身、甘くも酸っぱくもない味。
以前シュバ/インさんが「きゅうりは最も栄養の無い野菜だそうだ」と教えてくれたけれど、恐らくRD-1の不思議な力で、私はきゅうりからエネルギーを得られているのでしょう。
ほとんどの生物はたんぱく質等を摂らなければ生きていけない、というのが世の常識であるから、そういうエネルギーサイクルを持つ自分が特異なのは分かります。

そう考えると、あの方の好物は至極道理に適ったものだったなぁ。
思い返すのは、同じ日に存在を始め、自分より早く消え失せてしまった「血も/涙も/ない虎」のこと。彼は、私を食べるために生まれ、私を食べることにのみ執着した、私にもっとも近い存在だった。
<> キューカンバーの猫 2/5<>sage<>2010/03/17(水) 09:18:07 ID:KY+WLi9f0<>
アキラに初めて出会った、生まれたばかりの頃は、ただ漠然と「存在」しているだけで、何をすべきか分からなかった。今なら分かるが、食欲などの基本的欲求も感じず、思考能力は低く言葉も持たなかった。
だが、目の前に彼が現れてからは、「自分は狙われている」「逃げるべき」「飛べる」「姿を消せる」といった情報が一気に流れ込んできて、誕生からほんの数時間で私の知識量と能力はぐんと上がった。
同じように彼も、「猫を食べる」「飛べる」といった情報をぐんぐんと吸収したのだろう、追い付け追い越せのスピードで成長していった。危うく、アキラごと食べられてしまうところだった。

最後には、見えない何かによってその存在は消されてしまったけれど。

ボリ ボリ ボリ ゴクン
咀嚼し嚥下したきゅうりが、食道を通って胃に落ちたような感覚。
血も/涙も/ない虎さん。あなたがもし私を捕えていたのなら、私はきゅうりのように噛み砕かれて、あなたのお腹に納まっていたのでしょうね。
RD-1の力によって生み出された私たちの体がどうなっているか分からないけれど、飲み込まれてから消化されるまでの間、私はあなたの中で、何を考えるでしょうか。
<> キューカンバーの猫 4/5<>sage<>2010/03/17(水) 09:20:30 ID:KY+WLi9f0<>
正直なところ、私、あの時あなたに食べられていても良かったかな、なんて思ってるんです。だってあなたは私と同じですから。
得体の知れないモノから生まれた得体の知れない自分は、なんだかフワフワしていて、不安になる時があるんです。
同じ存在のあなたに取り込まれて内側から観察できたら、自分のことが少しは分かるんじゃないか、なんて思ったりしてるんですよ。
……そんなことを考えたって、あなたは居なくなってしまったのだから、埒の無い話ですけどね。

「失礼します!シュバ/インさん、聞いて下さいボンボン組の奴らが…」

おや、アキラがやってきました。考え込んでいたから、気配にも足音にも気付きませんでした。なんだか興奮している様子です。おやすみビームでも出してあげましょうか。

アキラやシュバインさんと過ごす毎日は、穏やかだけど刺激的で、日々自分の何かが成長していくのを感じます。それは、フワフワした自分が、安定した形に作り上げられていくような感覚です。
虎さん、いつか、自分の存在を不安定に感じなくなった時、すぐに消えてしまったあなたのことも理解できるようになるのでしょうか。そうだとしたら、私は、とても楽しみだ。
<> キューカンバーの猫 5/5<>sage<>2010/03/17(水) 09:21:16 ID:KY+WLi9f0<>  ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ものすごい今更感
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
自分で言っといてシリアスでも何でもない……
ナンバリングミスったしよくわからん話でごめんなさい <> 架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠 1/3<>sage<>2010/03/17(水) 21:38:31 ID:BgtTiecXO<> 架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠です。
感想、続きリクエストありがとうございました。
架空のスタッフについては模索中でして、実は全作品別人のつもりで書いておりました。
今回これを機に前作と同一のスタッフとして前作のその後を作りました。
師匠が出てこない会話だけのお話ですが、読んでいただければ幸いです。
一覧:13-489 48-11 55-156 56-265
延々規制中につき携帯より失礼します。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


松/村はヒラ/サワの背後に回ると、耳元で囁いた。
「あいつに何されたんですか?」
「…変なこと。」
「お腹見られてましたね。」
「うん。」
「脱いだらすごいのばれちゃいましたね。」
スルリと服の中に手が差し入れられ、腹部をなぞる。
ヒラ/サワがくすぐったさにのけぞると、その首筋を松/村の舌が這う。
指はそのまま上へと向かい、突起をかすめた。
「…っ」
「今日は抵抗しないんですね。」
「ん…っ」
「それに、いつもより感度がいい。」
松/村はまるでメンテナンスをするかのようにヒラ/サワの体を解いてゆく。
「俺にしか聞けないいい声…聞かせてください。」
ヒラ/サワは唇を噛みしめ、松
「おい」 <> 架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠 2/3<>sage<>2010/03/17(水) 21:39:53 ID:BgtTiecXO<> 「はっ!」
しまった。世界に入ってた。
仕事の合間の待ち時間、ちょっと暇を持て余した俺はノートブックに落書きをしていた。
それを、背後から見られてしまったようだ。
松/村に。
「お前なぁ…」
「なんだよ。勝手に見るなよ。」
「俺出しといてよく言うわ」
「お前じゃねーよこの松/村は別の松/村だよ。……なぁ、あの後どうなったんだよ」
「…壊れたヒラ/サワさんをメンテナンスした。」
「まじで?!詳しく聞かせろよ。」
「変な想像すんじゃねーよ。」
「嘘だ、あんな状態のヒラ/サワさんを前に何もしない男なんか居るか」
「お前なぁ…」
「たまらなかったよな。あのダラーッとしたヒラ/サワさん。」
「…。」
「いつもはキビキビ動いてて隙が無いじゃん」
「…いや、隙は結構あるだろあの人。」
「いっつもなんか睨まれてるような気がするし下手な事言えないし」
「お前が変な目で見てるから警戒してるんだろ。」
「それがあんな風にフニャフニャになってトロンとした目で溜息つかれたら…ヤバイだろ」
「別に。全然。」
「俺だけじゃないと思うよ?」
「お前だけだよ。」
「もうなんかだって…ストレートに言うとさぁ…。喘いでる声が聞きたいんだよ。」
「…はぁ?!」
「で、「やめて」って言いながら感じてる顔が見たくてしょうがない。」
「おま…」
「嫌がるヒラ/サワさんをこう、こう…」 <> 架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠 3/3<>sage<>2010/03/17(水) 21:40:52 ID:BgtTiecXO<> 「この、変態。」
「え?何モノマネ?似てないし!…お前は?そういうの無いの?」
「無い。………好きなの?」
「え?」
「恋してんの?」
「…いや?」
「違うの?」
「なんか、とにかく気持ちよがってる所が見たいってだけなんだけど。」
「ただの変態じゃん」
「でも酷い事がしたいわけじゃないんだよ。」
「酷いだろ充分」
「違う。気持ちよくさせたいっていうか…逆に喜ばれたい。」
「喜ぶわけねーだろ」
「そうなんだけど〜」
「……。」
「……想像しちゃった?」
「いや、」
「しちゃっただろ?」
松/村は数秒黙った後、頭上を払うような振りをした。
やっぱり想像しちゃったんだ。
「見たくない?」
「ない。」
「嘘だ。自分の手で、こう、」
「なーい。」
そうなのかなぁ…。
ああ、今日も妄想が止まらない。
これじゃ、まるで、恋だ。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! <> il 板+缶 1/2<>sage<>2010/03/17(水) 22:47:21 ID:OHrlzyvk0<> il 板+缶 ほのぼのというかなんというか。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

久し振りに訪れたちょっといい居酒屋で、ほろ酔いのいい気分で、何故だか俺は眉間を撫でられている。

「もーそんな無駄に怖い顔だから余計に怖がられるんですよー
 ほら、特にここ、眉間、皺になっちゃってるじゃないですかー」
細い指が、眉間の皺を伸ばすようにぐいぐいと押し当てられる。
「だからー、そんなに怖い顔してると、ここもっと皺が深くなっちゃいますよー?」
皮肉気なうすら笑いを常に貼り付けているような男が、何が楽しいのか、子供のような喜色を目に浮かべて眉間を執拗に撫でてくる。
からかいというよりじゃれあいと言うべき行動に意表を突かれ、呆れてうんざりした挙げ句に忌々しいと振り切っていただろう。普段なら。
そうしなかったのは酔っていたからだ。多分。
じゃれ合いにつき合ってやろうと思ったのも酔っていたからだ。間違いなく。
「警部補殿はもうちょっと皺があった方が貫禄出るんじゃないですかね!」
お返しと言わんばかりに、俺は目の前のつるりとした顔を両手でぎゅうと挟みこんだ。
虚を突かれたように目が見開かれたのは一瞬で、またすぐ糸のように細くなる。
頬を挟まれたままタコのように口を尖らせて、なにするんですかー、とでも言っているのかくぐもった声を出す。目に笑いを浮かべたまま。
両手で挟んだ頬が熱い。顔に出ないだけで酔っているのかこの男は。
そもそも、若干の感謝と、過去に関わった事件の話を聞いてやるつもりもあってこの店を選んだのに、何がどうしていい年をした男二人が子供のようなふざけ合いをしているのか。
思い至って気が抜けて、白い頬から手を離す。 <> il 板+缶 2/2<>sage<>2010/03/17(水) 22:49:29 ID:OHrlzyvk0<> 自分より酔っ払った人間が居ると酔いが醒めるの法則で、途端にじゃれ返した自分が大いに恥ずかしくなってくる。何をやっているんだ一体。大して親しい間柄でもないくせに。
酔った男はますます笑みを深くして、なおもこちらの眉間に手を伸ばしてくる。
本気で怒るのも馬鹿馬鹿しく、適当に手を振って白い指先をかわすと今度は手を標的にじゃれてくる。子供から猫か。どっちも相手をするのは苦手だ。
今ここから酔っていいものかどうか、ぬるくなっていく酒を片手に逡巡する俺をよそに、両の目元と口元を三日月にした酔っ払いは、上機嫌の猫のようにあくびをした。

たっぷりと朝の日差しが差し込む玄関フロアの中を、二日酔いの欠伸をかみ殺しながら歩いていると、視線の先にすらりと背の高い黒スーツの男がかすめた。

「……あー、昨日は…」
「あ、昨日はごちそうさまでしたー」
ひょいと礼をして上げられた顔にはいつも通りの薄い笑みが張り付いて、昨夜の子供染みた気配は欠片も見当たらない。
「い・い・え。おそまつさまでした」
反射的に憎々しげな口調で返す。
大方昨夜のあれはこれやは酔って記憶にないのだろう。それならこちらも大いに助かる。
足取り軽く立ち去るその背中を、いつも通りの顰めた面で、恐らくきっと二日酔いの不機嫌さで見送って、

そして、何故だか俺は自分で自分の眉間を撫でた。

「僕、貫禄足りませんかね」
「はいー?」
「いえなんでもないです」
「何かありましたか?」
「いえほんと、なんでもないです」

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/17(水) 23:03:36 ID:cXyJh/mf0<> >>393
か、可愛ええー!!なんて可愛い板缶なんだ!
やっぱり板缶嬉しいなあ。どうもありがとう!! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/17(水) 23:22:06 ID:4U1SkM1+O<> >>393
覚えるのか缶w
子供で猫でじゃれてくる酔っ払い缶可愛いです!板缶はやっぱりいいなぁ。姐さんありがとう! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/17(水) 23:54:21 ID:tJSjN0mX0<> >>390
待ってました!!あなたの作品大好きです!変態スタッフがんばれww <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/18(木) 00:19:20 ID:QOZ9C5Ep0<> >>393
手玉にとられる板イイヨー
やっぱり缶は猫なんだ・・・かわいすぎる
素敵な萌えをありがとう <> 歩くような速さで 1/6<>sage<>2010/03/18(木) 17:39:29 ID:/sBn5cNt0<>                     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  愛某、缶と彼
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  テラ捏造だよ
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ >>393サンキューサ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  | <> 歩くような速さで 2/6<>sage<>2010/03/18(木) 17:40:03 ID:/sBn5cNt0<>  その場に駆けつけたときには既に、目的の半分は果たされていた。
 遠くに、先ほど聞いた悲鳴の主と思われる女性の姿、近くに、よろめき駆けてくる、フルフェイスのヘルメット。
 そして、そのちょうど中間に、倒れたバイクと、バッグを抱えて転がった、男の姿があった。
「ちょ、お兄さん、そいつ止めて! 引ったくり! 引ったくり!」
「言われなくても、見りゃ判るっての」
 男の叫びに呟きながら、両手をいっぱいまで広げ、フルフェイスの進路を塞ぐ。
 狭い路地である。相手は一瞬、こちらを避けるか迷ったようだが、すぐに方針を強行突破に切り換え、一気に速度を上げた。
 恐らく自分が、見た目に甘い、優男だからでもあったろう。しかし生憎、神部健は、そういう理由で軽視されるのが、何より嫌いな男であった。
「はいはい、ストーップ。さもないと、」
 続きを待たずに殴りかかってきた腕を躱して、引っ掴む。そのまま、突進の勢いを逆手にとって反転すると、神部はアスファルトを踏みしめて、一気に相手を背負い投げた。
 ずだん!と大きな音をさせ、フルフェイスが地面に落ちる。したたか背中を打った体が、呻きを漏らして、痙攣した。
「……こういうことになっちゃうよ、と」
 もう遅いけど。と付け足しながら、男の体を引っくり返し、背中を膝で押さえつける。更に両腕を捻り上げると、流石に男も観念したのか、ヘルメットの頭を落として、くたびれた声で毒づいた。
「だいじょぶ? 怪我ない? あ、落ち着いたら、中、調べてね。盗られたもんない?」
 転がっていた男にも、どうやら大事はないようだ。バッグを女性に渡しながら、気遣う言葉をかけている。
 間もなく、事態に気が付いた誰かが通報したのだろう、サイレンを鳴らして近づいてくるパトカーが傍に停まるまで、神部は引ったくりの両腕を固定しながら、待っていた。 <> 歩くような速さで 3/6<>sage<>2010/03/18(木) 17:40:32 ID:/sBn5cNt0<>  そして、加害者と被害者を、それぞれに合った対応で預かってくれる人間の手に、よろしく頼んで渡したところで。
「ありがとうございましたっ!」
 と、たいそう大きな仕草で頭を下げると、今回の功労者の一人は、まるで子供のように笑った。
「お兄さんが来てくれなかったら、危うく逃がしちゃうところだったよ。バイクを倒すまでは上手くやったんだけど、歳かねえ」
「たいしたもんですよ。走ってるバイクに横から突進したんでしょ?」
「やー、丈夫だけが取り柄だから」
 開けっぴろげな男らしい。
 見た目は、神部と同年輩か、もう少し上というところだろう。カーキのフライトジャケットを着て、髪は短く刈り込まれている。赤銅色と言ってもいいほどよく陽に焼けた肌をして、くるくると動く表情は、いかにも健康的だった。
「しっかし、お兄さん、強いねえ! いや、止めてーとは言ったものの、……あ、気を悪くしないでね? 正直、吹っ飛ばされちゃうんじゃ、って」
「慣れてるんです」
「と、言うと」
「本職なんで」
「……やくざ屋さん?」
 その発想はなかった。
「刑事さん」
「ああ!」
 一気に合点がいった様子で、男は、ぽんと手を打った。
「いや、その、ごめんね、言っちゃ何だけど、」
「ホストか何かと思ってましたか」
「よく言われますか」
「よく言われます」
 しかも本日は非番である。普段からさほど堅苦しい格好はしない神部だが、オフともなれば、オンよりまして、カジュアルな服装をする。
「やー、最近の警察は、イケメン揃えてんだなあ」
 腕を組み、うんうんと頷く男は、フォローしているつもりらしい。鼻で笑うべきところだが、不思議と、そういう気にならないのは、まるであくどさを感じさせない、男の笑顔のせいだろうか。 <> 歩くような速さで 4/6<>sage<>2010/03/18(木) 17:40:58 ID:/sBn5cNt0<> 「ともかく、ありがと。イケメンの上に腕っ節も強いなんて、警察の、いや、日本の、もとい、世界の未来は明るいなー!」
 ばしりと平手で打たれた背中は、それ相応に痛んだが、やはり文句を言ってやるという気持ちは、不思議と起こらない。むしろ何となく浮かれた気分になって、神部は微かに笑った。それを見とめたらしい男が、自身も目尻に皺を作る。
「実はさ、俺も、」
「いた! 馨ちゃん!」
 口を開いた男の言葉は、しかし女性の、辺りに凛と響いた声に阻まれた。見れば、男と同年輩の、颯爽とした女性が一人、低めのヒールを鳴らしながら、早足でこちらに近づいてくる。
「よ」
「よ、じゃない! ちょっと目を離すと、すぐどっか行っちゃうんだから! 一時帰国って言ったって、とんぼ返りなんだから、そんなに余裕はないんだよ!」
「あ、これ、三輪子。俺の、コレね。コレ」
「誰がどれか! さっさと来たまえ! 挨拶に行かなきゃならないとこ、まだまだいっぱいあるんでしょ!」
「わーかってるって、行きます、行きます! じゃ、元気でね、お兄さん」
「お世話さまでした!」
「はあ。こちらこそ」
 嵐のような二人である。
 何が何だか解らないまま、見送る形になった神部に、恋人に腕を引かれて、というより、引きずられながら歩く男は、首だけ捻って振り向くと、大きな声で、こう言った。
「あと、よろしくね!」
 何の「あと」だか、やはり、さっぱり解らない。ただ、何となく右手を上げると、神部は軽く、左右に振った。男が、笑顔で応じるように、ぶんぶんと大きく腕を振る。
「前向け前ー!」
「いて、痛えって、お前! 解った、前向く! 前見ます!」
 騒ぐ男も、その恋人も、以降は、一度も振り向かなかった。二人の背中が角を曲がって、完全に視界から消えるまで、神部はしばらくその場に立って、綻んだ口許を掻いていた。 <> 歩くような速さで 5/6<>sage<>2010/03/18(木) 17:41:20 ID:/sBn5cNt0<>  そして、翌日。
「ご機嫌ですね、椙下さん」
「そう見えますか」
 職場に着くと、名札を返し、神部はボトルの蓋を開けた。
「実は昨日、友人と、久方ぶりに会いましてね」
「ご友人」
「意外そうですね。僕に友人は似合いませんか」
「いぃえぇ?」
「そう言う君の方こそ、ご機嫌のように見えますが」
「ご機嫌、というか、……いや、昨日、変な男に会いまして」
「ほう」
「何ですかね、こう、無理やり気分を、上に引っ張っちゃうような」
「いますね、そういう人」
「いますよねえ」
「僕は嫌いじゃないですが」
 穏やかな笑みを浮かべた口に、椙下がカップを押し当てる。
「僕も嫌いじゃないですよ」
 その様子を眺めながら、神部も、炭酸水を含んだ。 <> 歩くような速さで 6/6<>sage<>2010/03/18(木) 17:41:55 ID:/sBn5cNt0<>  ____________
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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ (公式で)やられる前にやれ!と思った
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ <> 風と木の名無しさん<><>2010/03/18(木) 18:00:05 ID:v7RXXs8j0<> >>399
目から汁が出た
有り難う有り難う愛してる <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/18(木) 19:22:32 ID:LAsp7EUPO<> >>399
有り難う!
缶と彼のやり取りが、映像で再生されました
ぽかぽかする読後感に浸って、良い気持ちです
本当に有り難う <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/18(木) 20:58:41 ID:YijyazHvO<> >>399
私にはあの二人が出会ったらウキョさん争奪戦くらいしか思い付かなかった。
なんという暖かいお話。
ほんとそうだ、瓶ってそういう男だ。缶ってそういう男だ。
ウキョさんも幸せそうですごく嬉しい。
なんだか読んでて幸せな気持ちでいっぱいになりました。
どうもありがとうございました。 <> 板缶1/3<>sage<>2010/03/18(木) 22:58:32 ID:481GIjeN0<> il 板缶です。il続いてしまってすみません。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


 彼と庁内ですれ違うことは、よくあることだ。職場が同じなのだから当たり前だけれど。
 いつもは、軽く会釈をしながらすれ違うだけ。そうしようと決めたわけではないけれど、そういうものだろう。
 だから、少なからず驚いた。
 すれ違いざま、誰もいない廊下。俺の手をむんずと掴んだ彼の空いた手が、非常階段への扉を開けた。

「ちょっと、伊民さん?」
 広い背中をからかうように声をかけても、彼は何も言わなかった。かんかん、と非常階段を上がる高い靴音。諦めて、腕を引かれるままにした。どうせ暇なんだ、俺の仕事は。
 階段を上った先には、喫煙スペースにもなっている場所がある。昼を少しまわったところで、人影はなかった。
 晴れていたけれど、コートを着ていない体には三月の空気は少しだけ寒くて、襟をかきあわせた。
「どうしたんです?」
 俺の問いに、伊民さんは無言で煙草に火をつけた。深く吐き出された息とともに、紫煙が立ちのぼる。この気だるそうな顔が、俺はけっこう好きだったりする。
「昨日、どこ行ってた?」
 今朝、二日酔いの頭痛で目を覚ましたとき、携帯の電源を落としたままだったことを思い出した。
 たったひとりの部屋。昨晩の記憶ははっきりと残っていた。それこそ、痛みのためではなく頭を抱えたくなるほどに。
「あー、古い知人と飲んでました。すみません、携帯切ったままだったのすっかり忘れていて」
「そうか」
 ふう、と息をつく。ならいい、と肩をすくめた仕草に、唐突に気づく。
<> 板缶2/3<>sage<>2010/03/18(木) 23:00:09 ID:481GIjeN0<> 「伊民さん、ひょっとして昨日、家に帰ってないでしょ?」
 ぴく、と肩がゆれる。その背中を包んでいる背広もネクタイも、昨日と同じものだ。
 近寄り、襟に触れる。伊民さんはなにもせずに、ただされるがままだ。
「シャツは違いますよね?」
「長丁場になることもあるからな。それくらいはロッカーにあるさ」
 小さいため息のあと、俺の腕を包んだ手があった。
 かさついているけれど、大きくて温かい手。ぐっと引きよせられた瞬間、体を包み込む体温を、ずっと近くに感じた。
 背中に回された手。躊躇うようにかすかに触れた唇に、噛み付くようにして応えてやる。
「……どうしたんです?」
 広い胸板に染み付いた、煙草の香り。その中に確かに感じる彼のにおいに、ふっと目を閉じて触れる。
 答えが返ってくるとは思っていなかった。それでも、よかった。
「心配だった」
 だから、頭の上でぼそっと彼が呟いた言葉を聞いたときは、本当に驚いた。
「え?」
「お前さんが、」
 背中を抱く腕に力がこもる。表情は見えないし、その声もいつもと変わらないけれど。
 確かに、感じる。いつもと違う、彼の思いを。
「帰る場所がない、なんて言うから」
 そうだ、彼は聞いていたのだ。あの取調べ室での騒ぎを。
「……うれしかったですよ。あの時飛び込んできてくれたのが、あなたで」
 思わず、口元に笑みが浮かんだのが自分でも分かる。そのことが分かったのか、背中に回されていた腕が離れ、肩を掴まれた。
 瞳を覗き込まれる。キスをするわけでもないのに、こんなに近くで見つめ合うことなんてあまりない。
 その瞳の色に、目を奪われる。
<> 板缶3/3<>sage<>2010/03/18(木) 23:03:36 ID:481GIjeN0<> 「……本当に、そんな風に思ってたのかよ」
 真剣で、真摯で。心を刺されるような、まっすぐな瞳だ。
 引力に支配されたように無意識に、その頬に触れる。指先に伝わる体温に、目の奥がツンと痛んだ。
「いいえ。そんなこと、思ってませんよ」
 その唇に、今度は俺から、触れるだけのキスを。
「もしかして、探してくれたんですね?俺のこと」
 電話に出ない恋人を、心配する姿なんて想像したこともなかった。
 不器用なこの人のことだ、夜通しやきもきするだけでなく、街に探しにでるようなこともしたかもしれない。それこそ、家に帰るのも忘れるくらい。
「もう大丈夫なのか?」
 再び背中に回された手。ぶっきらぼうな言葉だけれど、その手から、隠そうともしていない思いが伝わってくる。
「ええ」
 煙草の香り。彼のにおい。体を包む温もり。
 すべてが愛しく、すべてが誇らしい。
 ようやく、実感した。
「……おかえり」
「ただいま、」
 やっと、帰ってきた。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ありがちですが、書きたかったので書いてしまいました。
お目汚し失礼いたしました。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/18(木) 23:39:26 ID:D59JE1/V0<> |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )デラコネタ!ナマ!

1.誘導

「紅茶って10回言ってみ?」
「?紅茶紅茶紅茶こうty・・・・・・こうちゃ!」
「俺は?」
「こういち」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「もしかして光ちゃんってゆうて欲しかったんか?」
「うん」


2.予想外

「つよしって10回言ってみ?」
「つよしちゅよ・・・あっ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「絶対噛むとおもっとったけど、いくらなんでも2回目に噛むとは思わんかったわ」
「噛んでない」
「いやほんまお前は予想外でおもろい」
「だから噛んでない!」


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )キホンテキニショウガクセイダンシ! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/18(木) 23:46:40 ID:vhyUSCWm0<> >>411
デラカワスユwGj!
じゃれ合ってる二人が目に浮かぶよw <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/19(金) 00:52:42 ID:bmzenNrl0<> >>408
伊民テラかっこよす!
あのシーンの伊民はマジ神だった

>>411
かわええええええ
めっちゃ想像つくw本番前の楽屋あたりかなー <> それを魔法と呼ぶのなら 7/0<>sage<>2010/03/19(金) 00:58:08 ID:/X7sEInF0<>                     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ナマ盤越え葡萄唄×恐竜唄「スメル」の続き
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  ぬるいエロ・露骨な不倫及び浮気表現注意
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  | <> そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 1/7<>sage<>2010/03/19(金) 00:59:21 ID:/X7sEInF0<> はじめに触れたのは、指先だった。
ゆっくりと包む。彼の右手がおれの汗で濡れた。
手はそのままに、おれはソファへのぼる。
無理矢理にのぼったので、馬乗りの状態になってしまった。もう後戻りはできない。
自分の足が震えていた。それすら疎ましくてならなかった。

正面から彼の顔を見ながら、放り出された左手をおれの右手で掴む。
この手から彼の音が産まれてくるのだと思うと、涙が出そうなぐらいに恋しかった。
そのまま、彼の首元に顔を埋める。あのにおいはしなかった。その代わりに、人間の肌のにおいがした。
彼のにおいを嗅いでいるようで、優越感しか感じなかった。

「恋人同士みたいやな」

恋人にするように言った。耳元で、彼にしか聞こえないぐらい小さな声で。
はにかむ声が聞こえて、おれも笑った。

「それ、言われたことあるから」

「そうだったっけ」ととぼけると、彼の指が動く。
掴むように握っていたお互いの手が、所謂"恋人繋ぎ"に変わる。
恥ずかしかった。そう考える余裕が、そのときにはあった。
目を伏せる彼を見て、彼も恥ずかしいのかな、なんて思う。
やっぱり、おれの目には麗しく見えた。

それから、彼の首元に唇を寄せた。触るように口付けた。
感触を楽しむように。何度も、同じ箇所に触れた。

顔をあげて、今度は唇に近付いた。触れた瞬間に、糸が切れたように、貪り合った。
体温を感じて、心地に触れて、唾液を飲んだ。閉じても見えるような厭らしさに脳が沸騰しそう。
息の仕方も忘れるぐらいに、互いの舌を食し合った。 <> そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 2/7<>sage<>2010/03/19(金) 01:00:28 ID:/X7sEInF0<> 離れると、目の前の現実に眩暈がした。
下にいる彼の口から、液体が零れていた。
掴んでいた彼の左手がおれから離れて、その手が液体を拭ってから、やっと、目が合った。
そこで感じる、罪悪と背徳。前者の方が強かった。
彼も感じているのかと思うと、ゾクゾクした。
まだ握ったままだった彼の右手を開放して、彼の頭に手を回す。栗色の髪が、指に絡みつく。
なんども触れたことがある。今後も触れるであろう。
けれども、その感触を忘れないように、何度も手を差し込んだ。
彼がはにかんだもんだから、おれもにやにやしてしまう。伝染。

しばらく見つめあった後、もう一度口付けると、今度は丁寧に感じるように触れ合った。
歯型をなぞり、舌の裏から、上顎まで、拭うように追いかけた。
彼の声が溢れる。それからおれの頭に回される手。体温が上がった。
おれのやったように、彼も舌を動かす。上顎を舐められたときは声が出そうなぐらい震えた。
最後に唇を舐めてから離れる。たかがこれだけの行為なのに、体の熱は十分すぎるほど発育していた。

「やらしいね」
「それはおまえや。あと、ちゃんと髭剃れ」

気が抜けるような笑い声。これだけでも充分に気が狂いそうだった。

首筋を見て、噛み付きたくなる衝動を感じた。
とりあえず、そこに口付けるだけ口付ける。ふと問う。

「なあ、痕つけてもええ?」
「うん。お好きなように」
「だって、お前、彼女おるんやろ」

彼の肌から体温が引くような気配がした。
そして、確かに沈黙は流れた。
傷ついているわけではなかった。それはお互いに。だけど、訊かなければよかったと思った。 <> そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 3/7<>sage<>2010/03/19(金) 01:01:41 ID:/X7sEInF0<> 「なんで知ってるの?囃子から聞いた?」
「見てれば分かるわ」

だって、おれと同じ顔をしていたから。
「お互い様やろ」と言ってから、首筋に噛み付く。
苦痛に耐える声がした。もしかしたら違う意味だったかもしれない。
でも、聞こえなかった振りをした。目の奥が痛んだ。眠い。
首筋から離れると、決して白くも無い肌に浮かぶ朱。
これさえも綺麗だと思えてしまうのは、罪なのか。罰なのか。

「おれにも付けてーな」

そう言ってから、もう一度そこを舐めた。唾液が糸を引く。まだ綺麗だ。

しばらく二人で黙り込み、見詰め合う。そして、やっとあのCDが掛けっぱなしだったことに気付く。
なんだか自分自身に視姦されているみたいで不愉快だった。
ただ、その音を止める程の余裕も持ち合わせていなかった。
彼のスラックスに手を掛ける。それは、彼の欲で熱く膨らんでいた。
静止の声が聞こえるだろうと思ったけれど、聞こえたのはおれの音だけだった。
ちらと彼の顔を伺うと、とろりとした目と合う。
急に迫る罪悪感。それは、前に感じた「自分への」とは違う、左手の疎ましさとは別の罪悪だった。
それが、余計に、おれを加速させた。

膝あたりまで彼のスラックスを下ろすと、その中心部へ手を這わす。
形をなぞるように布の上から触れると、溜め息のような喘ぎが聞こえる。
予想以上に自分が興奮していることに気が付いた。
耐え切れなくなって、ボクサーパンツとスラックスを一気に脱がす。
彼の体が震える。寒さからか、快楽からか。
直に触れると、その熱さがさらに興奮を呼ぶ。
扱くことで増す、彼の喘ぎ。その声が息が耳にかかると、今度はおれの方が熱くなって。
彼が感じるように、先端に親指を這わす。 <> そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 4/7<>sage<>2010/03/19(金) 01:02:26 ID:/X7sEInF0<> 「んあぁッ、ちょっ、やばっ、…」

はっきりとしたその声に、つい頬が緩む。更に手の動きを加速させると、また大きくなる声。
裏筋を強く擦ると、言葉にならないような声が聞こえた。

「あっ、うぁ、イく…から…!」

今まで抵抗を見せなかった彼が、扱いていた右腕を掴む。
おれは動きを止めて、ゆっくりと彼を見る。
目が合うと、彼がゆっくり首を横に振った。
はじめての抵抗。そこで理解。
彼は、最後まで為すつもりだ。

右手を離すと、粘液が手の平に。それを見詰めて、また彼の顔に視線を落とす。
顔が赤かった。その瞳が、おれを脅迫するようでも、懇願するようでもあった。

「ええの?」

今のおれは、ひどく情けない顔をしているだろう。
色々な言葉が浮かんだ。すべて、この行為を正当化するための言い訳にしかならないものだった。
アナルセックスは経験がある。男との経験も、ないことはなかった。
後戻りできないことは、重々承知している。
それなのに、今更、おれは、なにを恐れているのか。それさえ見失っていた。
このまま一緒に落ちれば、それだけでいいのに。 <> そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 5/7<>sage<>2010/03/19(金) 01:03:13 ID:/X7sEInF0<> 「もう、それしかしょうがないんじゃない?」

それでも、彼はひどく明るい。

後孔に指を這わせると、息を飲む声が聞こえる。
彼のものから出た粘液を指に絡ませ、そのままゆっくり挿し込む。

「あ、あ、うあぁ、」

耳には彼の声。彼の眉間が苦しみを物語る。そこを左手で撫でる。
耐えていたのであろう息が長く吐かれる。おれは閉じられた瞼ばかり見詰めていた。
二本目の指が入りきる頃には、喉仏に汗が浮かんでいた。
決して気持ちよさそうな表情には見えない彼。
なんでそうしたのか分からないが、彼の耳たぶを噛んだ。
身を捩る彼、おれはそのまま耳に舌を入れる。

「全然、気持ちよくなさそうやん」
「だって、苦しっ、」

また、深く息を吐く彼。耳に当たっておれの方が声が出そう。
どうにかして、彼の性感帯に辿り着きたかった。
ある種の使命のような焦りと、彼の渋い顔からの罪悪で押し潰されそうだった。
もしかしたら、ただぶち込みたいだけだったのかもしれない。
それでも、ふりだしに戻ろうなんて非道な事は吐けなかったし、今でさえ、考えることも許されていない。 <> そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 6/7<>sage<>2010/03/19(金) 01:03:39 ID:/X7sEInF0<> 「あっ、あっ、そこっ、んっ」

彼がやっと甘い声を出す。思わず指を引いたが、またその場所を目指して動かした。

「はぁ、あっ、やめっ」
「気持ちよおなってきた?」

髪を振り乱しながら頷く彼が、妖艶で仕方がない。
さっきまで力を失くしていた彼自身も、また硬くなっていた。
おれは指を抜いてそのまま、自分のベルトに手を掛ける。
自分で脱ぐのが恥ずかしいぐらいに、おれのそこは熱くなっていた。
ソファの上、無理矢理にジーンズとトランクスを脱ぎ、今度は彼の脚の間に収まる。
彼の膝の裏に手を入れて、脚を持ち上げる。
そして、彼の孔にそのまま押し込む。

「あ、んあ…!」
「はあ、ん、まだきつかった。すまん」

そこは息が止まるぐらいに狭くて、かつ深かった。
彼のものを扱くと、だんだんと孔が広がる。

「ひぁ、そ、れ、ムリだっ、んああ!」

右手で扱きながら奥深くまで入れると、彼が大きな声をあげる。それも、悲鳴のような。
何度か腰を動かしてみると、それは次第に快を帯びてくる。
性感帯に当たったのか。それとも、慣れただけなのか。 <> そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 7/7<>sage<>2010/03/19(金) 01:05:16 ID:/X7sEInF0<> 「あん、はぁ、んっ、ちょっ、と、もうイ、くっ・・!」

彼が、おれの首筋に噛み付く。痛くて痛くて、それでも止められなかった。

「反則やろ…」

そして、彼自身から液体。べとべとと、気持ちよくない。
おれは、彼から自分のものを抜き、彼の精液が付いたままの手で扱いた。
激昂。吐き出す。気持ちがいい。
彼のTシャツにかけた。おれが彼に興奮し、セックスをした証拠。

「なんか、俺だけ気持ちいい気がする」
「せやな。おれそんな気持ちようなかったわ」

汚い右手で彼の左手を握る。冷たいのか、温かいのか分からない。知らなくてもいい。

もう、落ちるところまで落ちた。あとは、後悔することだけしか残されていない。
反省なんてできる身分ではなかった。
それでも、世の中に転がる排他的な行為よりか幾分マシだ。
目の前で深呼吸を繰り返す彼に、ただ恋をしていただけなんだ。

こんなに苦しいのに、いくらでも繰り返せる。死ぬまで。今だけならそう言える。
それを <> そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら おわり<>sage<>2010/03/19(金) 01:05:59 ID:/X7sEInF0<>  ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |               色々失敗した…
 | |                | |           ∧_∧ お粗末様です…
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   | <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/19(金) 01:08:37 ID:7Trdwab10<> >>408
姐さんの板民に惚れたよ
裏#9?素敵なもの読ませてもらって感謝です! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/19(金) 01:23:49 ID:ZMcVDi1BO<> >>408
あの発言聞いた板の板缶キター
私も色々と妄想してましたが姐さんの板缶素敵すぎます
板の不器用な心配、「おかえり」、缶の帰る場所がここにもあったんですね <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/19(金) 08:25:49 ID:5al9tbDwO<> >>408
素敵な板缶!姐さんありがとう!!
やっぱり板缶いいなあ。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/19(金) 22:17:37 ID:sOiPf1o2O<> >>408
あの発言に対して、いたみんが怒ってくれて良かった
缶を抱きしめてくれて良かった!姐さんありがとう!

>>414
神曲で続きキター!!!
粘着質なのにどこか爽やかなのが、すごく「らしい」のでドキドキします。ありがとう姐さん! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/20(土) 22:44:44 ID:A1G9soEp0<> >>390
新作待ってました!
変態スタッフに滅茶苦茶同意しながら読んでますw
フ/ル/ヘ以上のものを聞きたいですねw
動揺してる松/村も妄想の中の師匠も可愛いです。
ありがとうございました! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/21(日) 07:59:21 ID:SxkPZhrk0<> >>399
駄目だ。声上げて目から汗が出て止まらない。
>>405じゃあないけど、本当に有難う。
姐さん愛してる。 <> ピンポン 呪縛 1/7<>sage<>2010/03/21(日) 21:39:09 ID:lSgeDiwU0<> ピンポン  原作以前を捏造
風間が風間たる所以
この後ドラゴン×チャイナにもつれ込む予定
需要がなくても自家発電!

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

海王学園高校一年生の風間竜一は、試合前に男子便所の個室に篭るのが常だ。
二・三年生からは生意気だと言う声が上がっていたが、面と向かって風間に言う勇気のある者はいなかった。
夏の男子卓球インターハイ予選の、開会式直後。
風間は薄暗い男子便所の一番奥の個室にいた。
手の中でラケットを握りしめる。
肩が落ち、首が項垂れる。
胃が縮む。胸の中の重い塊。足の力は抜け、走れないかもしれないと思う。
なにもかも恐い。扉の向こうから漏れ聞こえる喚声に怯える。
力のない嘆息が唇から洩れる。
少しずつ高まる緊張が限界に達する。
ラケットを握る手を見る------血豆が幾度も破れて握りダコの出来た指。緊張で力がうまく入らない。
風間は目を閉じた。
後頭部を壁に軽くぶつけ、意識して息を吐く。

試合はもうすぐだ。 <> ピンポン 呪縛 2/7<>sage<>2010/03/21(日) 21:40:42 ID:lSgeDiwU0<> 5歳の風間竜一が、初めて卓球に触れたのは、家庭教師のバッグの外ポケットにあったラケットとボールをいたずらした時だった。
バッグから落ちた小さな白い球が、カツカツと音を立てて軽く弾む。
自由な軌道を描いて飛び跳ねる白い球に魅せられた。
「竜一君、やってみますか?」
家庭教師が、趣味でやっているのだけど…と言った。
「教えてあげますよ。楽しいですから」
無論卓球台などはなかったので、裏の物置から使っていないテーブルを庭師に出してもらい、芝の上で打った。
夢中になった。
なんて楽しいのだろう!
「素質がありますね」
見様見まねで球を打つ竜一を見て、普段笑わない家庭教師の目が、銀縁の眼鏡の奥でにこにこしている。
締めていたネクタイはとうに外され、白いシャツの袖もまくり上げられている。
「もっとおしえてちょうだい」
「いいですとも。お勉強がすんだら、明日も教えて上げますよ」
「ありがとう」
竜一は息を弾ませながら、丁寧に礼を述べた。
次の日、撞球室に全て新品の台とラケット、球が用意されていた。午前中に業者が運んできたものだ。
家庭教師は面食らったようだが口には出さなかった。
「おじいさまが、こちらをつかうようにって」
「そうですか。ラケットが各種ある。球もいいものだ。すごいですね」
「そう?」
昨日は祖父はいなかった。
夜も帰ってきてはいない様子だったのに、どうして僕が卓球したことをお祖父様はおわかりになったんだろうと思う。
いつものことながら、竜一はそれが不思議だ。 <> ピンポン 呪縛 3/7<>sage<>2010/03/21(日) 21:42:08 ID:lSgeDiwU0<> 家庭教師はまず、球を持つところから教えてくれた。
「初めが肝心ですから。形が伴わないものに上達も楽しみもありません」
ラケットの持ち方とフォームを簡単に教えてもらうと、竜一の飲み込みは早かった。
軽い球は信じられないスピードで飛ぶ。
打ちあううちに、スマッシュがヒットした。
もちろん家庭教師は竜一に手心を加えていただろう。しかし竜一は興奮した。
白い球を追って、無心に走る。
おもしろい。楽しい。なんて楽しいんだろう。
勝ちたい。
上手くなりたい。
竜一の心に、貪欲な勝利への欲求が生まれた。

幼稚園から帰ってきて、家庭教師と「お勉強」をし、撞球室で卓球を教わるようになってから、一週間が過ぎた。
「竜一君はきっといい選手になりますね」
一汗かいて、ふたりでおやつに出されたジュースで咽喉の渇きを癒していると、家庭教師はうれしそうに呟いた。
「上手だし、勘所もいいですね」
「すごく、たのしいです」
「うん、楽しいという気持ちは大事ですね。竜一君はとても楽しそうに走っている。一緒に打っていて、私も楽しいですよ」
「もっとじょうずになれますか?」
「上手になれるし、強くなりますよ」
「まけたくないです」
「負けるのも大事なんですよ。負けた経験がなければ、勝てません」
「でも、まけるのはいやだなあ」
「その気持ちは大事です。負けるのがいやだと思えば、たくさん練習するでしょう? 練習して、強くなって、負けたり、勝ったり、そこが勝負のおもしろさですよ」
「…よく、わからないです」
「竜一君にはまだ難しかったかな」
「うん。でも、せんせいがおしえてくれるでしょう?」
「約束しますよ。もちろん、お勉強してからね」
二人で顔を見合わせてにっこり笑うと、「ではまた明日」と、家庭教師が言った。 <> ピンポン 呪縛 4/7<>sage<>2010/03/21(日) 21:43:10 ID:lSgeDiwU0<> 銀縁眼鏡の家庭教師が突然来なくなり、かわりの家庭教師が来、撞球室から卓球台が新しく作られた床張りの運動室に移され、ジャージを着た卓球の「コーチ」が竜一に付いたのは、一カ月後のことである。
その日の朝、祖父と両親と共に朝食をとった竜一に、祖父が言った。
「竜一。何かをやるのならば頂点を目指せ」
その日から、卓球は楽しい遊びではなく、竜一が背負う、一つの枷になった。
まえのかていきょうしのせんせいはどうしたのですか、と聞くことも許されなかった。

竜一の家は、江戸時代から代々続く家業を生業としている。
明治の時代になっていちじるしく身代が傾いた。
息も絶え絶えの家業を、日本有数のと言う冠が付くまでに再興させたのは、竜一の祖父である。
代々続く自分の血統への誇りと、一代にして家を興し直したその矜持が、祖父を形作っている。
風間家の芯そのものであったし、風間の家そのものであったと言ってもいい。
祖父の期待は父以上に竜一に向けられた。
そしてまた、竜一は祖父に似ていた。竜一は祖父の期待に応えるべくして応えた。幼い竜一にはそれは当然のことであったし、応えられることがまた嬉しくもあった。
竜一は、コーチについてめきめきと腕をあげた。
祖父の、竜一に対する期待はとどまるところを知らなかった。
小学校に上がる頃には、小学生に交じってほとんどの大会で優勝していた。
ある大会で、体調が悪くあと一歩というところで優勝を逃した。
準優勝のトロフィーを持って祖父へ報告に行った竜一に、祖父は一瞥をくれると「勝たねば意味はない」と言った。
「わかるか竜一。負けるということは、すなわち今まで積み重ねてきたものを一瞬で全て失うということだ。やり直しは効かない。勝負というものは恐ろしいものだ。勝て。この祖父のために」
「…はい」
その時初めて、竜一は泣いた。
そうして竜一はただ勝つために、ラケットを振り続けた。 <> ピンポン 呪縛 5/7<>sage<>2010/03/21(日) 21:44:06 ID:lSgeDiwU0<> 祖父が亡くなったのは、竜一が小学校五年の時だった。
その頃の記憶は曖昧で、余りはっきりしない。
病に倒れ、何カ月か寝込んだ祖父は、少しずつ命が削られていくように痩せていった。
病院の特別室は、特別室であるにもかかわらず、よどんだ臭いがした。
それは病そのものが吐き出す臭いであったかもしれない。
祖父は時々、昔と記憶が混同するようになっていた。意識もおぼつかないことがある。
竜一を誰か知らない名前で呼んだり、天井を凝視しながら、竜一には見せたことのない笑顔で誰かに話しかけたりする。
竜一が一人で病院に見舞いに行くことなどありえないから、父か母か、誰か大人と行ったのであろうが、その日はなぜか、祖父の病室に竜一一人だった。
付添の看護婦が必ずいるはずだったが、点滴の交換にでも出た時だったろう。
その日は肌寒い日で、病室には暖房が入っていたが、祖父は暑い暑いと上掛けをはねのけた。
その日に限って、祖父はひどく暑がった。 <> ピンポン 呪縛 6/7<>sage<>2010/03/21(日) 21:45:06 ID:lSgeDiwU0<> 「お祖父様、僕は昨日県大会で優勝しました」
祖父はずいぶんと痩せ衰えて、しかし眼光だけは鋭かった。
起きようとする様子に、竜一は背を支えて上半身を起こした。
自分をちゃんと支えられない祖父の頭がゆらゆら揺れる。すぐに後に倒れ、慌てた竜一は手を伸ばした。
祖父が、その手を取り、竜一を凝視した。
見つめられて、竜一はぞっとした。
祖父の目は竜一の顔を見ていたが、視線は、竜一を通り越したその後を見ていた。
竜一は自分の後に誰かいるのかと振り向いたが、誰もいなかった。
ふと祖父の目に力が戻った。
祖父が口を開く。
「竜一か」
「はい」
「いいか。敗北は腕を切り落とすに等しい。勝利のみを強く望め。お前は勝つ。お前はこれから父のために、日本のために戦え。よいか。わかったか」
「はい」
「よし」
祖父は力尽きたように身体を横たえた。そして目を閉じ、肩で息をしながら寝息を立てはじめた。
竜一は固まったように動けなかった。

その日の夜遅く、祖父は息を引き取った。
たかだか11歳の竜一の人生に、重すぎる枷が加えられた。祖父の最期の言葉が、風間竜一の、呪縛となった。 <> ピンポン 呪縛 7/7<>sage<>2010/03/21(日) 21:46:27 ID:lSgeDiwU0<> 竜一に卓球を教えたあの銀縁眼鏡の家庭教師に似た少年を初めて見たのは、中学最後の県大会だった。
似ているのは顔だけで、フォームもスタイルも違っていた。
しかし、風間はその少年から目が離せなかった。
風間竜一の、月本誠に対する執着の始まりであった。

風間は男子便所の個室の奥で、閉じていた目を開いた。
怒りに似た闘志が沸き上がる。
風間は勝つだろう。負けることなど許されない。
そうやって戦ってきた。これからもそうやって戦うだろう。
それが風間の卓球であり、生き方であった。

風間はドアを開け、戦いの場へと足を踏み出した。

ざんぎり頭のヒーローが、風間竜一の呪縛を解くまで-----あと2年。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

風間ってあれで18歳なんだぜ! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/21(日) 21:49:55 ID:+N2gL+md0<> >>429
元ネタ知らないんだけど面白かった!
引き込まれたよ。
今から原作求めて旅に出る。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/22(月) 12:04:53 ID:DuYUF3+F0<> >>429
雑誌連載時から燃え&萌えだった自分が来ましたよ
ドラ→笑顔いいなあ…
このあとドラゴン×チャイナなんて美味しすぐる
PINGPONGはどいつもこいつもいい男ばかりで目移りするくらいだから
>>436の旅が良いものになるよう祈ってる <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/22(月) 12:53:47 ID:D3gmd2zhO<> >>429
棚でドラが見れるとは!
続き楽しみにしてます <> Ich liebe Berlin!(1/8)<>sage<>2010/03/22(月) 15:49:02 ID:Kq0wDqo/0<> 半ナマ
ミュージ力ル「デ.ィ.ー.ト.リ.ッ.ヒ」よりデザイナーと映画監督(とスタッフ)
人物捏造ありマス


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「Nein! 使えない!! お前ら何なんだ!!」
 1929年ベルリン郊外のとある映画スタジオ。
 場末のバーをイメージして作られたセットをちらりと振り返り、衣裳デザイナーのト.ラ.ヴ.ィ.ス・バ.ン.ト.ンは溜め息をついた。
「またですよ、あの石頭」
 地元の若いスタッフが訳知り顔で話しかけてくる。
 スタッフの顔合わせでそれぞれ自己紹介はしたはずだが、ト.ラ.ヴ.ィ.スには名前が思い出せない。
 それを表情には出さないようにしながら曖昧に頷いた。
「ホント、完璧主義者ね、ス.タ.ン.バ.ー.グ監督」
「まったくですよ。これで6人目です。なにが気に食わないのか」
 男が肩をすくめる。
 主人公は早々に決まったというのに、肝心のヒロインの女優がいまだに決まらない。
 自分の思い通りの演技をしない女優たちに怒鳴り散らす監督の怒声は、衣裳を準備するト.ラ.ヴ.ィ.スを毎回びくりとさせる。
 もともとオーストリア出身のス.タ.ン.バ.ー.グは、ト.ラ.ヴ.ィ.スと同じくドイツ側の要求でアメリカのパ.ラ.マ.ウ.ン.ト映画から派遣されてきている。
 ドイツ女優をヒロインにした新作映画が期待されているが、肝心の女優選びに難航しているらしい。
 高校教師を誘惑し、堕落させ、最後には悲哀の底に落とす、妖艶で退廃的な酒場の歌姫。
 監督のイメージに合う女優がなかなか見つからない。
 早く女優が決まらないと、ト.ラ.ヴ.ィ.スの仕事も進まない上、あの怒鳴り声を四六時中聞かなければならない。
<> Ich liebe Berlin!(2/8)<>sage<>2010/03/22(月) 15:50:10 ID:Kq0wDqo/0<>

「もういい! 今日は終わりだ!」
「監督、まってください、彼女はドイツ一人気なんですよ!? これ以上誰を連れて来いって言うんです!」
「私の『嘆きの天使』は完璧な女優にしかできん! あいつらは何人やっても同じだ! おいト.ラ.ヴ.ィ.ス!」
「はい監督!」
 急にス.タ.ン.バ.ー.グの怒りの矛先がト.ラ.ヴ.ィ.スに向かった。
 びく、として直立したト.ラ.ヴ.ィ.スが監督を振り返る。
 ト.ラ.ヴ.ィ.スは、この同い年のユダヤ人監督がどうも苦手だった。
 作る映画は素晴らしいと思う。
 社会派の作品を世に出すためにチャップリンにアタックした発想力と粘り強さもすごいと思う。
 が、一緒に仕事をするにはいささか気詰まりなことの多い人物なのも事実だ。
 なにより声が大きいのがいただけない。
 あんな声で怒られたら、恫喝されているようで、それだけですくみあがってしまう。
 それでもト.ラ.ヴ.ィ.スはぎこちない愛想笑いを顔に貼り付けて、ス.タ.ン.バ.ー.グを振り返った。
「な…なんでしょう?」
「あのデザイン画はなんだ。まったく駄目だ、やり直せ!」
「はい監督っ、すぐやり直します…!」
 言うだけ言うとさっさと行ってしまう。
 背を見やって、ト.ラ.ヴ.ィ.スは息をついた。
 この数日怒られてばかりいる。
 一応天下のパ.ラ.マ.ウ.ン.ト映画のチーフデザイナーであるト.ラ.ヴ.ィ.スは、いわばデザイナーのトップにいるといっても過言ではないのだが、ス.タ.ン.バ.ー.グにはそんな地位など関係ないらしい。
 少しくらいは尊重して欲しいとは思うが、それを口にする勇気はト.ラ.ヴ.ィ.スにはない。
 女優選びが難航していてイライラする気持ちもわかるが、あたり散らさないで欲しい。
 だいたい、誰が着るかが決まらなければ、衣裳だってイメージが固まるわけではないのだから、そうせっつかないで欲しい。
<> Ich liebe Berlin!(3/8)<>sage<>2010/03/22(月) 15:50:57 ID:Kq0wDqo/0<>
「あー怖かった。ダメ出し、これで3回目よ…」
「何様のつもりだ、ス.タ.ン.バ.ー.グめ」
 忌々しげにスタッフが呟く。
「ホント。完璧主義者で…でも理想主義者って素敵」
 同意しかけたところでス.タ.ン.バ.ー.グが振り返り、ト.ラ.ヴ.ィ.スは慌てて言葉を繕った。
 胸に手を当て、笑顔を作るト.ラ.ヴ.ィ.スを、監督はいぶかしげに見遣る。
 ヒゲも生やした立派な成人男性のくせに、女性的な振る舞いが妙に似合うト.ラ.ヴ.ィ.スを、胡散臭く見る者も多い。
 自分がそういう人間であることをト.ラ.ヴ.ィ.スは充分すぎるほど理解しているが、慣れたとはいえ少しつらい。
「あんなユダヤ野郎の言うことなんか気にすることないですよ。それより今夜飲みません? いい店あるんですよ」
 スタッフが慰めるように肩を叩く。
 自分よりいささか若い彼を見遣り、ト.ラ.ヴ.ィ.スはうなずいた。
 こういうなにをやってもうまくいかないときは、酒でも飲んで忘れるのが一番だ。
 それに、ワイマール憲法下の、自由で開放的なベルリンの街は大好きだ。
 自分のような者さえ丸ごと受け入れられている感じがする。
 先の大戦を終えてヨーロッパじゅうから芸術家たちが集まり、そこここで様々な議論を繰り広げている。
 本来の仕事場のハリウッドも開放的だが、あそことは違う心地よさがある。
<> Ich liebe Berlin!(4/8)<>sage<>2010/03/22(月) 15:52:27 ID:Kq0wDqo/0<>  連れて行かれたのは、ベルリン市内のマールスドルフと呼ばれる地区だった。
 一見するとごく当たり前の民家だが、生垣に隠れるように地下への階段があり、そこにMerak Ritze(ムラック・リッツェ)の看板が出ていた。
「こんなところバーがあるの?」
「バーというよりも、アメリカ人のあなたからするとキャバレーでしょうけどね」
「あら、あたしキャバレーも好きよ」
 急な階段を下りていくと、重厚な扉の奥から、蓄音器のワルツが聞こえてきた。
「いらっしゃい、まぁゲオルク、ずいぶんと久しぶりね」
 扉の向こうのカウンターの中で、女性の服を着た男性がにこやかに迎える。
 ああそういえば連れの名前はゲオルクだった、と思い出しながら、ト.ラ.ヴ.ィ.スは曖昧に微笑んだ。
「あら新しい彼氏?」
「違うって、ムッター。今の仕事仲間。衣装デザイナーのト.ラ.ヴ.ィ.ス」
「はじめまして、ト.ラ.ヴ.ィ.スです」
「ムラック・リッツェへようこそ。アメリカ人?」
 ト.ラ.ヴ.ィ.スのドイツ語にアメリカ訛りを聞きとったのか、彼女(彼?)はゲオルクに顔を向けた。
「アメリカで有名なデザインーなんだ」
「まぁ素敵」
 微笑む彼女(?)にぎこちなく笑んで見せてから、ト.ラ.ヴ.ィ.スは勧められるままにカウンターに腰かけた。
 いつもの癖で膝を揃えて座るト.ラ.ヴ.ィ.スをエスコートしてから、ゲオルクも隣に座った。
 カウンターの奥には蝋管式の古風な蓄音器が、古いワルツを奏でている。
 ゆったりした音楽に合わせて、店内ではいく組かのカップルが踊っている。
 が、よく見れば男女のペアは少なく、ほとんどが男同士、もしくは女同士だった。
「ふぅん」
 差し出されたシェリー酒のグラスの縁を舐めながら、ト.ラ.ヴ.ィ.スは感心したように息を吐いた。
「あなた、こういうところは初めて?」
 ムッター(ママ)と呼ばれた彼女がカウンターの向こうから語りかける。
 一見すればあきらかに男性なのだが、身のこなしは洗練された女性のもので、ト.ラ.ヴ.ィ.スは強い親近感を抱いた。
<> Ich liebe Berlin!(5/8)<>sage<>2010/03/22(月) 15:53:06 ID:Kq0wDqo/0<>  ト.ラ.ヴ.ィ.スも、外見だけならごく普通の成人男性だから異性装者ではないが、言動は女性のそれだ。
 もっとも本人は、男女にこだわっているわけではなく、自然な自分であろうとすればそういうふうになってしまうだけだと思っている。
「こんな店、ニューヨークでも見たことないわ」
「自由の国なのに?」
「同性愛者は自由を享受しちゃいけないらしいわよ、あの国じゃ」
 皮肉めいた笑みを浮かべて肩をすくめる。性に関しては、パリやベルリンのほうが開放的だ。
「私はシャーロッテ。あなた運がいいわ。ベルリンがこんなにおおらかなのは歴史上類がないもの。…ちょっとゲオルク、この店に入るなら、その鉤十字のバッジ、はずしなさいよ」
「なんだよ、ムッター」
 ビールを受け取ったゲオルクが顔をしかめる。
 その彼の胸元には、地の上の白円の中に黒のハーケンクロイツが描かれたバッジがある。
「この店はホモは差別しないでナ.チは差別すんの?」
「あんた知らないの? ナ.チはユダヤ人だけじゃなく、ホモも毛嫌いしてんのよ」
 ぴん、とシャーロッテが指先でゲオルクの額を弾く。痛、と眉を寄せたが、彼女に睨まれてゲオルクは渋々とバッジを外した。ト.ラ.ヴ.ィ.スはまたふぅん、と呟いた。
 寛容なベルリンに見えるが、深いところではいろいろとあるのかもしれない。
 と、さきほどまで踊っていたペアの一組が、奥のドアに消えていくのが見えた。
「…気になります?」
 ト.ラ.ヴ.ィ.スが見ているものに気づいて、ゲオルクが耳元に口を寄せて囁いた。
「あっちに、特別ルームがあるんです」
「特別ルーム?」
「いくつかのソファやベッドが置いてあって…わかるでしょう?」
 するり、とゲオルクの手がト.ラ.ヴ.ィ.スの肩を撫でた。
 性的な意味合いを多分に含む指先に、ト.ラ.ヴ.ィ.スは背筋を震わせる。
 そういえば、ベルリンに来てからはとんと御無沙汰だった。
 いやもっと言えば、2年前にチーフデザイナーに就任した時から、忙しすぎて恋をする時間がなかった。
 そう自覚したとたん、急にアルコールが身体中を駆け巡ったような気がした。
 古風な蓄音器が官能的なメロディを奏でている。
「僕たちも、行きません?」
 かすれた声に囁かれ、ト.ラ.ヴ.ィ.スは気づけば小さく頷いていた。 <> Ich liebe Berlin!(6/8)<>sage<>2010/03/22(月) 16:04:47 ID:OtXI08mHO<> 「だぁかぁらぁ、ト.ラ.ヴ.ィ.ス、ト.ラ.ヴ.ィ.ス・バ.ン.ト.ンだってばぁ。ハントじゃないわよぉ」
 ホテルのロビーで夕刊の劇評を読んでいたス.タ.ン.バ.ー.グは、聞き覚えのある声にフロントのほうを振り返った。
 植木の陰でよく見えないが、聞こえてきた名前は間違いようがない。
 黒髪の華奢な後姿が目に入り、やれやれと立ち上がった。
「何してる、ト.ラ.ヴ.ィ.ス」
「あーら監督ぅ、グーテン・アーベン、ごきげんよぅ」
「…呂律が回ってないぞ」
 フロントにもたれかかっていたト.ラ.ヴ.ィ.スが、ス.タ.ン.バ.ー.グの顔を見ると満面に笑みを浮かべて手を振った。
 頬は紅潮し、服装もいくらか乱れている。
 酔っ払いの醜態に眉を寄せながら、支えようと肩を貸してやる。
「あたしねぇ、今すっごいご機嫌なのぉ」
「わかった、それはわかったから、とにかく部屋に…」
「もう歩けなぁい、連れてってぇ」
 くたん、としなだれかかってこられ、慌てて受け止める。
 仕方なくフロントのボーイから鍵を受け取り、エレベーターへト.ラ.ヴ.ィ.スを引きずった。
「お前、一人でこんな飲んだのか」
 足元が危うくなるくらいの酔いように、怒鳴りつけたい気持ちを抑えて歩かせる。
「一人じゃないわよぉ、ゲオルクとよぉ」
「ゲオルク……ああ、あいつか」
 そういえばト.ラ.ヴ.ィ.スと仲良くしている進行係がいた、と脳裏に顔を思い浮かべる。
 なんとかエレベーターに押し込み、階数ボタンを押す。
 動き出した箱にやれやれと息をつく。
 せっかくいい女優を見つけて上機嫌だったのに、いい気分がブチ壊されてしまった。
 酔っ払いに怒鳴ってもしょうがないが、部屋についたら説教の一つもしてやりたい。 <> Ich liebe Berlin!(7/8)<>sage<>2010/03/22(月) 16:05:56 ID:OtXI08mHO<> 「……おいト.ラ.ヴ.ィ.ス、着いたぞ。自分で歩け」
「…んー、監督ぅ……運んでぇ…」
「無理言うな」
 いくら華奢に見えても、平均よりは身長のあるト.ラ.ヴ.ィ.スを運べる自信はない。
 それに運ぶなら、今夜偶然入った劇場で見つけたあの女優のような、綺麗な足の女がいい。
「監督、冷たい…」
「うるさい。歩け」
 ぐすん、と鼻をすすりながらも、よたよたと不安定な足取りで歩く。
 なんとか鍵を開けて中へ運び入れ、ベッドへ投げ出す。
 ついでに靴を脱がせ、ネクタイを緩めてやる。
「ねぇ、監督ぅ…あたし、ベルリン好きよぉ」
 唐突に、ト.ラ.ヴ.ィ.スが口を開いた。
「なんだ、いきなり」
「だって、とってもすごしやすいんですもの。居心地いいわぁ」
「…そりゃあ」
 お前ならそうだろうな、と思いながらどうやって部屋を出ようかとうろうろとあたりを見回す。
 と、机の上に散らばるデザイン画が目にとまった。
「けどねぇ、来年、選挙あるでしょぉ? あれで、ナ.チってとこが勝ったら、あたしたち、もうベルリンにいられなくなるんですって…」
「…達、ってなんだそれ」
「だから、あたしとあなたよぉ」
 机に散らばるデザイン画を見ながら、聞くとはなしに耳を傾けていると、しゃくりあげる声にぎょっとした。
 見れば、ベッドの上に横になったト.ラ.ヴ.ィ.スが涙を流している。
<> Ich liebe Berlin!(8/8)<>sage<>2010/03/22(月) 16:07:01 ID:OtXI08mHO<> 「…なに泣いてるんだ」
「だって、だってぇ…ゲオルクってば……げおるく…ナ.チなんて嫌いよぉ…」
 ぽろぽろと零れる涙がシーツを濡らす。
 何があったのかは知らないが、おおかた、連れと喧嘩でもしたのだろう。
 ひとつ溜め息をついて、ス.タ.ン.バ.ー.グはデザイン画を一枚手にし、ベッドに歩み寄った。
「明日、カメラテストをする」
「…へ?」
「いい女優を見つけた。このイメージで、新しいデザイン画を描いてこい」
 ひらり、とト.ラ.ヴ.ィ.スの前に投げ落とす。
 がば、と起き上がり、ト.ラ.ヴ.ィ.スは自身のデザイン画を見つめる。
「……やっぱり、あなたって素敵。好きよぉ」
 ほやん、と微笑むト.ラ.ヴ.ィ.スに肩をすくめて見せる。
「明日も早い。さっさと寝ろ」
「はぁい。おやすみなさぁい」
 ぽふん、とベッドに沈む。
 にっこりした笑顔に一瞬動悸が高まった気がしたが、息を吐くことで誤魔化し、ス.タ.ン.バ.ー.グは背を向けた。
 『好きよぉ』
 声が耳の中で蘇ったが、わざと大きく扉を閉めて、それを打ち消した。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

デザイナーの可愛さが上手く出ない…orz
マイナーすぎてごめんなさい <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/24(水) 02:37:45 ID:nqBlyxiAO<> >>439
この雰囲気好きです
ありがとう! <> ピンポン はじまりのかたち 1/6<>sage<>2010/03/24(水) 21:49:27 ID:UC9etkqa0<> ピンポン ドラ×チャイ
原作最終巻のインハイ予選終了後から1年半経過した頃
チャイのビジュアルは映画版推奨

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

人垣の真ん中に、星野と月本が何か話をしているのが見える。
星野が渡欧するという今日、風間は空港に見送りに来ていた。
少し離れたところに、孔が柱にもたれて立っているのに気がついた。
風間は歩くスピードを緩めて、孔に近づいた。
「やあ」
「風間」
「久しぶりだな」
孔と肩を並べる。
星野は周りの人間に頭をぐしゃぐしゃ撫でられたり、肩を叩かれたりしていた。
月本がこちらに目を向けた。二人に気がついたのだろう、星野に顔を寄せて何か話しかけた。
星野が嬉しそうに人垣をかき分けてこちらに歩いてくる。
「ドラゴン! チャイナ! 来てくれたんか」
「壮行会には行けなくてすまなかった」
「んん、見送り来てくれただけで十分よ」
「星野、気をつけて、行け」
「ありがとチャイナ」
月本が二人に頭を下げた。
「お久しぶりです、風間さん。孔も」
「ああ」
「飛行機初めてだからさぁ、オイラぶるっちゃうぜ」
星野の向こうに、佐久間の顔が見えた。目礼をよこす佐久間に、頷く。
いったい佐久間と顔を合わせるのはいつぶりになるのか、インターハイ予選会場の便所で声を掛けられた、あの時以来かもしれない。
いや、あれは扉越しに話をしただけで、顔を合わせてはいない。
恒星の引力のように、星野の周りに一度はバラバラになった人間が集まっている。
彼がいなくなれば、重力を失ってまた散り散りになるのだ。 <> ピンポン はじまりのかたち 2/6<>sage<>2010/03/24(水) 21:50:21 ID:UC9etkqa0<> 搭乗を告げるアナウンスが流れると、月本が星野を促した。
「…ペコ。行ってらっしゃい」
「ん」
佐久間と田村が星野に声を掛け、それに向って星野は笑うと、荷物を肩に、ゲートの中へ入った。
振り向いて大きく手を振り、
「ちいっと行ってくるかんねー!」
と叫び、後ろ向きに歩いてゆく。
星野は最後まで手を振りながら後ろ向きのまま歩いていたが、人の背中に紛れて消えた。

飛行機が豆粒よりも小さくなって、空に吸い込まれていく。
月本に目をやると、フェンスに寄りかかり、見えなくなった飛行機を探しているように空を凝視していた。
「行ったな」
風間の呟きに、ふと我に返ったように月本が振り向き、「そうですね」と小さく笑った。
風間は、いつも見送られる側だった。
見送る側と言うのはなかなかセンチメンタルなものだ。
佐久間が「ムー子、知らねえガキに構うな。オババ、…スマイル、そろそろ」と声をかけ、「風間さん、…ご無沙汰していました。今日は電車で?」と聞いてきた。
「いや、車だ」
「俺達も車です。こいつら乗せてきたんですが、初心者マークにはちょい試練でした。星野はぎゃあぎゃあうるせえし。ワンボックスなんで楽は楽でしたが、やっぱり成田は遠い」
「そうだな。まあたまには気分転換になっておもしろい。免許取り立てで首都高走ったのなら度胸がついただろう」
佐久間が星野と月本を乗せて、か。風間は海王での佐久間しか知らない。幼馴染みというのはそう言うものなのか。幼くから世代を共にする人間との密な関係と言うものに縁がない風間にとっては、想像の範疇外だ。
ふと思いついて、風間は孔に振った。
「孔は?」
「わたし、でんしゃで来たよ」
「乗っていくか」
「いいのか」
「帰りは誰かが一緒の方が退屈せんだろう。眠くなっても困る」
話がまとまりそうだと見たのか、佐久間が「それじゃ」と頭を下げた。 <> ピンポン はじまりのかたち 3/6<>sage<>2010/03/24(水) 21:51:47 ID:UC9etkqa0<> ハンドルを握ると、孔が顔をのぞき込んで、不思議そうな表情をした。
「なんだ?」
「さっきから、気になてた。風間、なにか、かお、ちがう?」
「顔? …ああ、これか、眉か?」
「ああ! そか。まゆげかぁ」
いかにも得心がいったという様子の孔に、つられて笑みが浮かぶ。
海王学園を卒業後、風間は大学へ進学した。
卒業と同時に寮を出、一人暮らしを始めたのだが、それをきっかけに眉を剃ることだけはやめた。
自分の中で、海王からの卒業が一区切りであったことは間違いない。
「風間、まゆげあるの、いい」
「そうか」
「かみのけは?」
「髪は、まだなんとなくな。伸ばせないままだ」
「まゆある、顔、ぜんぜんちがう」
「そうだな。時々うっかり剃ってしまいそうになる」
「あたま剃るとき?」
「そうだ」
孔が声をたてて笑った。
「かみのけ、のばすといい。見てみたい」
ギアをローに入れ、ゆっくりと発進する。
「途中でどこか寄りたいところはあるか?」
「ない。あ、でも、おなかすいたな」
「それでは適当なところで食事を取ろう。道中は長いぞ」
窓の外では、まるで突然地上から生えたかのように飛行機が上昇してゆく。
風間はしばらく無言で車を走らせた。
孔は助手席で窓の外を眺めていた。
「…おもしろい、ね。なにもないところに、おおきいたてもの、ある」
「そうだな」
「おなじ空港、でも、上海とずいぶん、ちがう」
「思い出すか?」
「んー」
孔は少し考えるそぶりを見せ、「なつかしい、ね」と言った。 <> ピンポン はじまりのかたち 4/6<>sage<>2010/03/24(水) 21:54:05 ID:UC9etkqa0<> 車が首都高に入ると、孔はくねる道に沿って迫ってくる壁に、「哦!」と声をあげた。
首都高は、ビルの合間を縫って作られているので、高速道路にあるまじきカーブをそこら中に配置している。
スピードを故意に落とせば、後続車を巻き込んだ事故になりかねない。
運転に緊張を強いられるところであり、それを偏愛しているドライバーがいるのも確かだ。
それでも風間の走る湾岸線は、都内を走るよりも細かいカーブがないだけ楽だ。
「風間、かべ、ぶつかるっ」楽しそうな声が風間に向けられた。
「ぶつからん」
「ゴーカート、みたい」
「遊園地ではないぞ」
自然と風間の声にも笑いが混じる。
食事は成田から東京へ向う高速道路途中のサービスエリアで、軽くすませていた。
成田を出る頃は青かった空が、既に夕暮れに染まっていた。
薄い膜のような雲が、流れるように空を覆っていた。
孔の座る助手席側の窓には、星が光りはじめている。夜と夕方が混在している。美しい光景だ。
風間は黙り込んでしまった孔に視線を投げた。
孔は惚けるように空を見ていた。細い鼻梁と、頬がオレンジ色に染まっている。きれいな顔をしているな、と思う。
夕暮れの中のドライブは、まるでデートをしているようだ。
「くも、すごいね」
「美しいな」
「うん」
「…ートのようだな」
「え、なに?」
「いや、なんでもない」
無表情を装って、風間は運転に専念した。孔はそれ以上聞いてこなかった。 <> ピンポン はじまりのかたち 5/6<>sage<>2010/03/24(水) 21:55:16 ID:UC9etkqa0<> 高速を降りて一般道に入ると、時刻は既に宵を回っていた。
赤信号で車を停め、無口になった孔をそっと目の端で見る。眠っているのだろうか。
孔が身じろぎして、顔をこちらに向けた。
「寝ていなかったのか」
「…おもいだしてた。いろいろ。ひこうき見て」
「ほう」
信号が青になる。
「私の国の、おとうさん、おかあさん…コーチ…それから、風間」
「私をか?」
「風間に、私、まけた」
前の車のストップランプが消えた。風間もギアをローに入れ、クラッチをゆっくり戻す。車が動き出す。
「あのとき、卓球、やめよう、おもた。ユースやめるときより、ショック、ショック、だたよ。コーチ、いったね。『文革、きみのじんせい、はじまたばかり』 …わからなかたよ。わたしのじんせい、もうおわた、おもたよ」
孔の言葉は独り言のように、ぽつりぽつりと続く。
「しばらく、かんがえた。わからない。わからない。でも、辻堂、残る、きめた。わたし、かえらない」
正面を向いてハンドルを握りながら、風間の耳と心は孔を向いていた。
「つぎのとし、わたし、星野にまけた。あなたと試合、できなかたね。でも、あなた、星野と、いい試合、した」
「ああ」
「私も、あなたと、いい試合、したい、おもたよ。だから」
信号が赤になった。車はゆっくりと停車する。
風間は助手席の孔を見た。
孔の目が、車の中に差し込む白い街灯の光で鈍く光っている。風間の目をひたと見つめてくる。
「わたし、やめなくてよかた、おもた。…それを、おもいだしてた」
「いつか、また手合わせ願おう」
「…うん」
孔が微笑んだ。
「うん」 <> ピンポン はじまりのかたち 6/6<>sage<>2010/03/24(水) 21:56:37 ID:UC9etkqa0<> その時風間の中に生まれたものに、風間はまだ気がつかない。
それは時を経て、風間の中で少しずつ育ってゆく。風間がその存在に気がつくまで、心の奥に封印されて、眠る。

車が孔のアパートの前に着いた。
「ありがと、遠かたね。つかれたね? あがて、おちゃ、のむ」
「いや、遠慮しておこう。路上駐車が出来る道ではなさそうだ」
「そう…またね。ありがとう」
「ああ、また」
孔がドアを閉め、身をかがめて窓をのぞき込み、手を振った。
風間は名残惜しい気持ちを抱えながら、アクセルを踏んだ。
「また」
孔がフロントミラーの中で小さくなってゆく。風間は言葉に出来ない思いを少しばかり持て余して、アクセルを踏んだ。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/24(水) 22:16:25 ID:1QosxOxq0<> >>448
わあっ!もう次が読めるなんて……。
ありがとう。
自分>>436です。
あれから早速原作読んで燃えたし萌えた!
でも映画はまだ見てないorz
明日借りてくるよ。
>心の奥に封印されて、眠る。
ここでゾクッとした。

>>437
良い旅になったよw <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/25(木) 01:24:16 ID:nJeug9QR0<> >>448
GJ
前回も何かレスしたかったんだがどう讃えていいやら言葉が出なかったので
万感の思いを込めてGJとだけ言わせてもらう
GJ……!! <> ピンポン 幕間/儀式 1/2<>sage<>2010/03/25(木) 10:08:40 ID:BRatYyEJ0<> ピンポン ドラチャイ 風間単品 連投申し訳ない
GJレス下さった方ありがとう 映画版も燃えて萌えるのでぜひ。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

寮の窓に掛かっているカーテンを開けると、薄暗い明け方の空が見えた。

道具を持って洗面所に入る。

まだ誰も起きてくる気配がない。週番が起きてくるのさえ、もう少し後だ。

毎朝の儀式。無人の洗面所で身支度をする。

鏡を見る。

夜を経て、朧げに存在を主張する眉と頭髪。

見慣れた、見慣れぬ貌。

石鹸を泡立て、顔と頭に塗る。

髭を剃る。

頭髪を剃る。

眉を剃るのは一番最後だ。

剃刀の刃を換えて、眉を剃る。

熱い湯で搾ったタオルで顔と頭部を拭く。

再び、見慣れた見慣れぬ貌が顕れる。 <> ピンポン 幕間/儀式 2/2<>sage<>2010/03/25(木) 10:10:29 ID:BRatYyEJ0<> 眉を剃るのは、鎧を纏うのと同じだ。

海王の卓球部員の中で、眉を剃るのは唯一彼だけである。

相貌の中の、有るべきパーツを削ぎ落とすことで、彼は異形のものへと変貌を遂げる。

竜という異形。

この世のものではない、架空の生き物。

戦うということ、勝利を掴むということ、それは総て等しく孤独との闘いだ。

その孤独と闘うために、彼は眉を剃る。

儀式を終え、部屋へと戻る。


風間竜一の一日が、また、始まる。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! <> 無題 1/4<>sage<>2010/03/25(木) 10:44:31 ID:9I9JBUN+0<> オリジナル、某スレのお題からいただいた妄想

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

高層ビルと高層マンションの間に、その家はあった。瀟洒な洋館のはずが、近隣での通称はお化け屋敷である。
かつては綺麗に手入れされていた庭も、持ち主が変わった後は一切構われなくなり、壁には蔦が這っている。
「……いつ見てもすごいな」
今の持ち主はほとんど屋敷の外に出ない。持ち主以外にも何人か住んでいるらしいが、彼は見た事がなかったから、半信半疑である。
「……さて、行くか」
そう呟いて彼は荒れ放題の庭に足を踏み入れた。落ち葉が降り積もった庭は、歩くだけで乾いた音がする。
「ちょっとは手入れしろよな」
彼は一人呟いてから、思い直す。
「ま、これくらいの方があいつらしいか」 <> 無題 2/4<>sage<>2010/03/25(木) 10:46:16 ID:L8rso3MdQ<> カサカサと草を踏み分ける音で、彼が来たことが解った。使用人達に下がるように伝え、彼を迎える準備をする。
……と言っても、座布団一枚出すことくらいしかしないが。
「いるか?」
彼の声に振り返る。窓から室内を覗いている彼に、クスリと笑いかけ曖昧に頷く。
「早くこっちにおいでよ」
「おう、今行く」
窓から普通に侵入してくる彼を見て、私は呆れたように笑った。
「……んだよ」
「ん?……別に」
玄関遠いし……と言い訳する彼を横目に、私は出来た物を確認する。……これを彼に渡せば……。
「…………出来たんだな、ついに」
彼の優しい声に少しだけ泣きそうになる。
「……うん」
「そうか……」 <> 無題 3/4<>sage<>2010/03/25(木) 10:48:25 ID:L8rso3MdQ<> 私から手渡されたものを彼は確認する。一応念を押した。
「これで……いいんだな?」
私はコクリと頷いて微笑んだ。
「うん……もう、大丈夫」
「解った」
彼は、私が恋した相手の姿で……私を抱きしめた。彼の口から小さな歌が聞こえる。それを耳にしながら、私はゆっくりと身体の芯から溶かされていく。
歌が途切れた。私の唇に彼の唇が重なる。そこからも、私が溶かされていく。
彼が背中を撫で、耳元で何かを囁いた。私は彼に返事をする。
「……私も……」
…………返事はそこで途切れた。 <> 無題 4/4<>sage<>2010/03/25(木) 10:51:24 ID:L8rso3MdQ<> 後日、彼は目の前に広がる瓦礫の山を、ぼんやりと見上げる。
近隣では有名なお化け屋敷が崩れたのは、彼が私と名乗る地縛霊を成仏させた翌日の事だった。
「そんな力があるなら……俺を拒む事も出来たのにな」
私は彼に頼んだのだ。これを書き上げるまで待ってほしい、書き上がったら好きにして構わない、と。彼は待つことを選択した。
「ああ、そうだ」
彼はポケットから文庫を出して、瓦礫にもたれ掛かった。
「本になったぜ、アンタの原稿」
一人呟いて彼は笑う。浄霊したので、ここにはいないはずなのに、風に混じって「ありがとう」と聞こえた気がした。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
お題は「廃墟でものを書き続ける男(フェイク済み)」で最後はこんな終わり方を妄想。元スレで書くのは憚られたのでこちらで。 <> 水影 1/10<>sage<>2010/03/25(木) 21:32:37 ID:eqndtsjY0<> |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの武智→涼真。あいかわらず上司×武智も有り。しかも掛け値なく
ゴーカンなのでダメな人は避けてください。
本スレ姐さん達のネタをいっぱい拝借しながら少年〜青年期を捏造。ネタ、アリガトウゴザイマス。
暗いです。本編に引きずられてひたすら暗いです!先に謝ります。
しかも思いの他長くなったので一度中断します。スイマセン…



それを見るようになったのはいつの頃からだったか。
夏の逢魔ヶ刻。
皆と遊ぶ通りの先に立っていたその子供は、逆光のせいか全身が黒く見えた。
黒い着物、黒い履物、そして光の無い黒い瞳。
見覚えがあるような無いような、不思議な感覚。
それでも、もし一緒に遊びたいのならと声を掛けようとした瞬間、
「武智さん!」
不意に腰元に抱きつかれ驚いて振り返れば、そこにいたのは半べそをかいた涼真だった。
「どういたがじゃ?」
「収次郎達が仲間はずれにしゆう。」
わいわいと騒ぐ集団から弾き出されてしまったらしい、この6つ年下の遠縁の幼馴染の幼さに
思わず笑みが誘われる。だから、
「しょうのない奴らじゃ。ほら、わしが一緒に行っちゃるきに。」
手を差し出し、小さなそれとしっかりと繋ぐ。
そしてその時、そう言えば彼もともう一度振り返った。しかしその先、
「……………」
「武智さん?」
朱い夕焼けが西の空へと追いやられ、薄闇が染み出すその境。
先程の黒い影は道の上、もうどこにも無かった。
<> 水影 2/10<>sage<>2010/03/25(木) 21:33:42 ID:eqndtsjY0<> 障子の開けられた窓の外から、うるさいほどの蝉の声が聞こえていた。
差し込む陽光は色褪せた畳の上に朱く落ち、今が夕暮れ時だと言う事を知らせている。
しかしこの時間になっても風の入らぬ二階の小部屋は蒸し暑く、薄い布団に横になっているだけで
首筋にじっとりとした汗が滲む。
全身が気怠い。
それでも、耳に届く外の喧騒。
大通りから一本奥に入ったこの場所にまで届くそれらの声は、彼らの家路に着く気配を伝えてきて、
自分も戻らねばと気力を振り絞り、ゆっくりと上半身を起こす。
するとその背後でこの時、数度繰り返される咳があった。
思わずびくりと背筋を強張らせ、固まる。
そんな武智の掛けられた声。それは窓のある方角から聞こえてきた。
「目、覚めたか。」
嫌な笑みを含んだような響きだった。それにざわざわと肌を這い上がるような不快感を覚えたが、
武智は懸命に絶え、声を絞り出す。
「もう…戻りますきに。」
言いながら、着崩れ、肩から滑り落ちていた着物を元に戻そうとする。
しかしそんな自分の意向を、背後の男はまるで汲もうとはしなかった。
「まだええろう、時間ならもうちっくとある。」
「……帰してつかあさい。」
「そんなに帰りたいなら帰ればええが、今出るとおんしの方がまずいがやないか。」
「……?」
「大通りに今おる奴ら、よう見かけるおんしの仲間じゃろ。」
言われ、思わず反射的に振り返る。と、そこには窓の張り出しに行儀悪く腰を掛け、大通りの方角に
視線を落としている男の姿があった。
自分より一回りほど体つきの大きなその年上の男は、ようやくに向きを変えた自分の姿を認めると、
その口元に更なる笑みを浮かべた。
「平気やったら、今からここに呼び寄せちゅうか?ここからなら声も届くじゃろ。」
告げると同時に窓に巡らされた柵越しに身を乗り出し、口元に手を当てる素振りを見せられる。
それにはたまらず、悲鳴のような声が口をついた。
「やめてつかあさい!」
<> 水影 3/10<>sage<>2010/03/25(木) 21:34:47 ID:eqndtsjY0<> 叫ぶと同時に、男を止める為に腕が伸びる。
体は重く、動きは鈍く、立ち上がりかけた足は萎え、それ故まるで前のめりにまろぶように
縋りついた男の足元、その着物をきつく握りしめる。
みっともない姿だと自覚する余裕も無かった。その上で、
「お願いですきにっ、やめてつかあさい!」
懸命に繰り返す。
するとそれに男は頭上、瞬間大きな笑い声を発してきた。そして、
「嘘じゃ。」
一言、短く言い切られた言葉。
それには意味を理解するより先に、体から力が抜けた。
思わずその場に崩れかける。それを男は見逃さなかった。
肩を掴まれ、そこに力を込め、突き飛ばす勢いで後ろに押されれば、支えの無い体は
いとも容易く畳の上に倒れ込んだ。
その上にのし掛かってくる影。
有無を言わさず手首を掴み、首筋に顔を寄せて、男が囁いてくる。
「おんしはまっこと弱味だらけじゃのう。」
追いつめた鼠を無邪気に甚振る猫のような、笑みを含んだ揶揄。
その残酷な響きには喉の奥、声が凍った。それでも、
「やめて…つかあさい…」
再び組み敷かれ、着物の襟を力任せに引き下ろされてゆきながらも、訴える事を止められない。
「もう…許いてつかあさい…っ…」
それは最後、ほとんど泣き声のような懇願になった。
けれど、そんな意地を張る矜持さえ失った自分に、この時与えられた男の声はどこまでも
無慈悲なものだった。
「さっさと終わらせて欲しかったら、大人しゅうちょけ。」
蝉の声が消えた。外の喧騒も。
うだるような暑さの籠もる狭い部屋の中、後に残るのは忙しない男の息と時折零される咳。
そして割られた足から滑り落ちる衣擦れの音だけだった。 <> 水影 4/10<>sage<>2010/03/25(木) 21:35:51 ID:eqndtsjY0<> 辺りに薄闇の帳が降りる頃、微かに引きずるようにして歩く足が向かったのは、町外れの
川のほとりだった。
土手を降り、辿りついたそこは、大きな岩が周囲からの死角を作る自分の秘密の場所。
幼い頃から一人になりたい時にこっそりと訪れていた、その水際に武智はこの時うずくまるように
座り込んでいた。
気をつけてはみたものの、ここに来るまでの間、着物の合わせは崩れ、よれていた。
髪は乱れ、落ちるほつれが酷い。
汗ばんだ肌は気持ち悪く、せめて手拭いで拭いたいと、懐からそれを探り出し、目の前の
川の水につけようとする。
着物も着直そう。
髪も整えなければ。
でなければ家の者達がどうしたのかと心配する。
わかっている。わかっているのに……

もう、疲れた―――

無意識に胸の内で呟いた言葉。
それに武智は暗い瞳を目の前の水面に落としていた。
通う道場の稽古後に自分を町の連込宿に引きずり込んだ男は、同じ道場の先輩格にあたる上司だった。
あんな事をこれまで何度繰り返されたかは、もう覚えていない。
それでもその初まりはさすがに忘れようがなかった。
土イ左の城下でも有名な剣術道場に自分が入門して、早半年ほどの月日が立つ。
そこへ通う者達の大半は上司の子弟ではあったけれど、それでも例外的に入門を許されれば
稽古の間は下司の自分でも対等に扱われ、そんな中で剣の腕を磨ける事はとてもありがたかった。
けれど、そう出来た事には事情があった。
それを自分に告げたのが、件の男だった。
『おんしの父親は先生に金を渡したがじゃ』
自主的に居残った稽古を終え、一人道場の後片付けをしていた自分の所に乗り込んできたその男は、
あの時そう言って父を罵った。
この国に下司として生まれ、幼いながらにも耐える事柄の多さは身を持って知っていたけれど、
それでも自分の事ならばいざ知らず、父を侮辱される事は耐え難かった。 <> 水影 5/10<>sage<>2010/03/25(木) 21:36:54 ID:eqndtsjY0<> だからあの時自分は初めて、相手に歯向かった。
『父上がそのような事をしゆうはずが無い!』
身分が下で、年も下な、そんな自分が口でとは言え逆らってくるとは思いもしなかったのだろう。
瞬間、男はさっとその顔色を変えた。
『生意気じゃ』と怒鳴られ、手を振り上げられた。
剣術においてならば、あの頃すでに腕は自分の方が上だった。
しかし体格に任せた力では到底かなうはずも無い。
頬を張られ、その勢いで道場の床板の上に倒れ込んだ。
その上に男は乗り上げてきた。
暴れる腕と言葉の応酬。
初めはただの喧嘩のはずだった。それがおかしな意味合いをもったきっかけは何だったのか。
手首を頭上で一纏めに取られ、押さえ込まれ、胴着や袴を乱される段になって気付いても
それはもう遅かった。
人気の無い道場で上げる悲鳴さえ塞がれて、自分はその男に力づくで犯された。
体と自尊心をぼろぼろにされるのにこれ以上の仕打ちはなかった。
そして現実はそんな自分に更なる追い打ちをかけた。
男の言った事は本当だった。
父は確かに道場主に付届けをしていた。
しかしそれを責める事は自分には出来なかった。
親とて必死だったのだろう。それは子を思うがゆえの過ちだったはずだった。
だから……自分はもう誰にも何も言えなくなった。
ただ一つ誤算があったとすれば、それは男の自分に対する執着だった。
一時の激情の流されただけかと思っていた行為を、男はその後も自分に執拗に迫ってきた。
それは道場の片隅や、そして人目を避けた場末の宿で。
今日とてつい先程まで繰り返された行為を不意に思い出し、武智は無意識に自分の体を
自分で抱き締める。
親の不正、汚された現実。それをもって男は自分を弱味だらけだと言った。
悔しいけれどそれは事実だった。
それらの事がある限り、自分はあの男に逆らう事が出来ない。
それは今までも、これからも……
<> 水影 6/10<>sage<>2010/03/25(木) 21:37:57 ID:eqndtsjY0<> 辿りついた思考に、着物の裾を掴む指の力が強くなる。
冷たい程に醒めた結論がある一方、どうしても抑えが利かず、沸き上がってくる想いもある。
嫌だ…もう嫌だ……
どうしたらいいのだろう。どうしたら…こんな状況から抜け出せる?
いくら考えても答えは見つからず、誰かに頼る訳にもいかず、瞳に暗い翳だけが落ちる。
うつむき見る静かな川の流れ。
その日、頭上には白い月が昇っていた。
地上に落ちる清冽な光は、その分だけ色濃い影をその水面に映す。
見つめる、ゆらゆらと揺れる己の輪郭。
そんな武智の耳に、この時不意に聞こえた声があった。
それはどこからとも誰のものかも判然としない、低く囁くようなかそけきもの。
それを武智は茫洋と聞く。
―――ノドヲツブシテシマエバイイ
それは稽古の間にも。立ち合いで、竹刀で、喉を目掛け…
しかしそれだけでは伝える手段は他にもある。
―――ナラバ、メヲツブセバイイ
字も書けなくなれば事の経緯の説明などもうつけられまい。
しかし、しかし、しかし……
―――デハ、イッソ、コロ……
刹那、振り上げた手が激しく水面の己を打っていた。
信じられないものを見るように目が大きく開き、唇が震える。
これは、今、自分は、何を――――
慄く想いに、一刻も早く影から遠ざかろうと立ち上がりかける。
けれど萎えた足は自分の意思を裏切り、数歩川から背を向けた所で、武智は側らにある岩に
凭れかかるようにずるずるとその身を崩れ落ちさせていた。
背後が怖く、振り返る事が出来ない。
かと言って、ここ以外行ける場所も他には無い。
「……す…けて…くれ…」
どうしたらいいのかわからない。それで心は救いを求めるのに、誰の名を呼んでいいのか
今の武智にはわからなかった。

[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン! <> 水影 7/10<>sage<>2010/03/25(木) 22:09:39 ID:eqndtsjY0<> |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
続けてみます。


それでも月日だけは無常に過ぎていく。
盛夏を越え、残暑を見送り、秋も深まり出したその頃、道場に一つの知らせが舞い込んだ。
門弟の一人が長引かせていた風邪をこじらせて死んだ。
まだ若いのに。可哀想に。口々に語る者達の中でその者の名を聞いた時、自分は手にしていた
竹刀を取り落としていた。
それをしばらく拾い上げる事が出来ぬほど動揺し、集まる人の輪から背を向ける。
そしてそのまま逃げるように道場を飛び出そうとすれば、その背に投げつけられる声が幾多もあった。
『なんじゃあ、あいつは。』
『仲間が死んだとゆうに薄情な奴め。』
『放っておけ、所詮は下司じゃ。人の情など解さんのじゃろう。』
口々に罵倒される。しかしそれらの半分も、武智の耳が捕らえる事は無かった。
ただ脳裏に繰り返されるのは、
死んだ…あの男が…死んだ……
飛び出した通り、日はまだ頭上に高かった。


それからどこを彷徨い、どうやって時間をやり過ごしたのか。
気付けば天は月にその主座を譲り、辺りには夜の闇が降りていた。
本来の帰宅の時間はとうに過ぎていた。
それでもこの日ばかりはどう取り繕うと家人に合わせる顔を作る事が出来ず、ふらふらと足が向いた先、
そこはやはりあの流れる川のほとりだった。
本当に、ここにしか居場所がない。
そんな自分が哀しくも、少しだけおかしくなる。
今はもう遠い昔にさえ思えるようなあの夏の日。
耳に届いた声に怯え後にしたこの場所に、自分はしばらくの間近づけなかった。
ただ単純に怖かった。
けれど今は、それを凌駕する恐れが自分の内にある。 <> 水影 8/10<>sage<>2010/03/25(木) 22:10:43 ID:eqndtsjY0<> 死んだ。一人の男が。
なのに自分はその事に何の憐れみも感じない。
どころか……解放されたのか、と。
その上で今更に、死んだ男にこれまで蹂躙され続けた事が、前後の感覚を失くした心でひたすらに
おぞましいと。
触れてきた手や、注ぎ込まれた欲の記憶が頭の中で急激に熱を失い、それに犯されたこの身がひとえに
汚らわしいと。
思う心に、確かに人としての情は欠片も無かった。
自分はいったい、いつからこんなに醜くなったのだろう。
それとも元々の性根がこうだったのか。
だから……あんなものが見えるのか―――
自嘲気味に上げる視線の先に、その影はあった。
静かに流れる川の上、ぼんやりと浮かぶそれは人の形をしていた。
自分と同じ姿をしていた。
黒い着物、黒い履物、光の無い黒い瞳。
その口角が引き上がり、静かに笑っているのがわかった。
自分も今、あんな表情をしているのだろうか。
ゆらりと影の手が、差し伸べられるのように持ち上がる。
自分の醜さも汚さも知っているあれのその手を取れば、自分は少しは楽になれるのだろうか。
思えば足がざっと引きずるように地面の上を滑っていた。
ゆっくりと踏み出す。
その歩みは河原の石を弾き、陸と川との境界を越え、袴の裾を濡らすようになっても止まる事は無かった。
川の中央に立つ影の元へ。
ゆけば、ゆければ自分は……
手が前方に伸びる。もう少しで届く。
しかしそう思った瞬間、
「……ち…さんっ!」
背後から強引に引き止められる衝撃があった。 <> 水影 9/10<>sage<>2010/03/25(木) 22:12:20 ID:eqndtsjY0<> えっと思う間もなく2本の腕が前に回り、後ろに強く引かれ抱き締められる。
「…………ッ」
それはとっさに温かいと、人の体温を感じられる腕だった。
だから、半ば呆然と後ろを仰ぎ見、そして、
「……涼真…」
唇から意識無く零れ落ちた名前。
それは自分の、年下の幼馴染のものだった。
それきり声が出なくなる。そんな武智に、涼真はこの時縋りつくように抱き留めた腕の、その力を
更に強くしてきた。
「…武智さん…っ…」
もう一度大きく名を呼び、肩越しに額を強く押し当て、そして彼は次の瞬間その腕を離すと
武智の体を自分の方へと回し、もう一度……今度は正面から強く抱き締めてきた。
「何しちゅうがですか!こんな…こんな…っ…」
想いが逸るのか、上手く先の言葉を紡げないでいる。
そんな涼真にようやく武智の唇から呟きが洩れた。
「……どういて…」
こんな所に。いや、どうしてここを……
掠れる小さな問い掛けに、涼真はこの時腕の力を緩めぬまま答えを返してくる。
「武智さんの家の人がうちにも来やったがです。武智さんがこんな時間になっても帰ってこんと。
だから皆総出で探して。で、わしは、」
「…………」
「昔から武智さんは、一人になりたい時ここに来ちょったなと。」
おってくれてまっこと良かったと、この時涼真はようやく安堵の息をついたようだった。
しかしそんな涼真に、武智はこの時腕の中で微かに驚く。
昔から。一人に。彼はここを知っていたのかと。
思う感情は瞳に現れ、わずかに抱き締めを解くよう武智が体を起こせば、それに涼真は瞬間
照れくさそうな顔を見せた。
「昔のわしは泣き虫で、武智さんの後ばかり付いて歩いちょりましたから。せやきに、ここも偶然
知ったがやけど、でも声は掛けられんかった。」
「…………」
「背中を見ちょる事しか出来んかった。でも今日やっと、声掛けれたぜよ。」
<> 水影 10/10<>sage<>2010/03/25(木) 22:14:00 ID:eqndtsjY0<> 夜の川へ入る、そんな自分の異常な行為にはこの時まるで触れず、涼真はそう言うと明るく笑ってみせた。
それは人への思いやりに溢れた笑顔だった。
昔は本当に泣いてばかりだったのに。何かあればすぐに自分の腰に纏わりついてくるような
そんな小さな子供だったのに。
今の彼は、背も、肩幅も気付けば自分よりも大きくなっていた。
だから、屈託なく、力強い、そんな笑顔に引き寄せられるように、この時武智の手が無意識に伸ばされる。
先程影に触れようとしていた手が光を求める。そして、
「…涼真…」
二つの腕を彼の首の後ろに回しながら、武智はこの時目の前の体を己へと引き寄せていた。
「涼真…涼…真……りょう…っ…」
自分でも訳がわからないほど名を呼び、年下の彼に意地も自尊心もかなぐり捨てて縋りつく。
助けて欲しかった。
気付けばすぐにも闇にのみ込まれてしまいそうになる脆弱な自分を。
記憶を辿る。
彼といれば、あの影は自分の前から姿を消した。
それはきっと今も……
恐ろしさに振り返る事も出来ない背後に、この時涼真の少し驚いたような、しかしそれでもどこまでも
まっすぐな腕が回されたのを感じる。
「…武智さん?…大丈夫なが?武智さん。」
頭上から降り注いでくる声と共に、心配げに抱き返される。
その優しさを武智はこの瞬間、飢えるように求めた。
川の中、2人濡れる事も構わず。
それでも……
懸命に縋りつきどれだけきつく目を閉じても、自分は知っている気がした。
天には月。降り注ぐのは光。
それが作り出す影は形を変え、今も自分の足元、ゆらゆらと消えて無くなる事はなかった。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
黒タケチがファンタジーと言うよりホラーになった。
場所借り、ありがとうございました。
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/25(木) 22:40:35 ID:xMxpjJ0T0<> >>462
大作読ませて頂きました!ありがとうございました
タチケさん切なすぎて(T_T)言葉が出てこない・・・ <> 君達と僕1/3<>sage<>2010/03/25(木) 23:09:37 ID:uM0BU7HG0<> 昨年度結成二十周年を迎えた大所帯須加グループの皆様
Dr×Tr風味。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

春の訪れに少しぼんやりしてしまうのは、飛び交う花粉の所為ばかりではなかった。
ライブのリハーサルを行なっているのスタジオの中は、当日までまだ日にちがある所為もあり
穏やかだ。
今日は音合わせよりも取材の方がメインだったから、手の空いているメンバーはそれぞれ
勝手な行動を行なっている。楽器を弾いている者もいれば、雑談に興じている者、トランプで
闘っている者、それぞれだ。九人もメンバーがいれば統率など取れるものではないし、いざ
音楽を前にすると自然と一丸となれるから必要もない。
その中に、喧騒を物ともせずにソファーに沈んでいる人間が一人。
普段はかけている黒縁の眼鏡もそのままな状態で、持木は静かに寝息をたてていた。
春になるとぼんやりする。昨夜は上手く眠れなかった。
桜の蕾が綻び出すと、思い出すのはもう遠い春。この世で一番大切な宝物だと思っていた
大切な人と永遠に別れた春。美しい歌声は空気に溶けたきり、もう二度と響かないという事を
理解も出来ずに、ただぼんやりとしていたあの春。
だから持木は春になると、少しだけぼんやりしてしまう。
目覚めると同時に忘れてしまう淡い夢の中をたゆたっていた意識が不意に浮かび上がったのは
優しい気配が触れた気がしたからだ。
「あれれ、琴ちゃん寝ちゃってるの?」
ギターを爪弾いていた筈の加糖の声が聞こえたけれど、持木は瞼を持ち上げられない。
眠くて、眠くて、どうしようもない。一応起きてるよ、加糖君。声にならずに心の中だけで返事をした。
「寝ちゃってるねぇ。風邪ひかないかな」 <> 君達と僕2/4<>sage<>2010/03/25(木) 23:10:39 ID:uM0BU7HG0<> 少し押さえた様に聞こえる名ー古の声はすぐ傍にあった。続いて身体の上に何かが掛けられる。
少し硬い生地は、多分名ー古のPコートだ。大丈夫だよ、名ー古さん。すぐ起きるから。
「このうるさい状況でよく眠れるよな」
「琴ちゃんだから」
感心し切っている我耗に、理由らしい理由ではないのに妙な説得力を持って短く言い切った隠岐。
近付く足音はきっと二人のもので、丁寧にまた身体の上にコートらしきものが掛けられる。
「毛布でもあればいいんだけど」
「あ、じゃぁ俺も革ジャン掛けるわ!」
「加糖の革ジャン、防寒性あるのかよ」
「失礼な。ちゃんとあるよー」
「へぇー、そりゃ喜多ちゃん存じ上げませんでしたわっ」
「喜多ちゃんはうるせぇよ。そんな大声出したら琴ちゃん起きちゃうだろ」
「だったらついでのアタシのも掛けといて」
「あいよ」
ぱさ、ぱさっとさらに二着分のコートが掛けられる。一応肩から太腿の辺りまでを網羅してくれて
いるらしく、一箇所に集中しないから重くはない。微かに香る煙草の匂い。大所帯は禁煙チームと
喫煙チームに分かれているけれど、服についた匂いまでは取りきれない。けれど持木には不快では
なかった。それどころか妙に落ち着く。掛けてもらっているコートは暖かくて僅かに不安定だった
心に安堵をもたらした。
「眼鏡、歪まないのかな」
「寝返りうったらやばいかも」
「名ー古、とったげたら? ついでに俺のも掛けあげてくれていいよ」
「大守さんは面白がってるだけでしょ」
「面白がってるけど、風邪引かせたくないのも本当だよ?」 <> 君達と僕3/4<>sage<>2010/03/25(木) 23:11:20 ID:uM0BU7HG0<> 「はいはい、カワイ子ぶった言い方しないの。名ー古さん、コート投げるよ」
「いいよ」
ばさりと音がして加糖がコートを投げたのが分かった。ふわりと重さが増えて、ありがとうと
言いたかったけれど、やっぱり口は動かない。
暖かい指先が頬に触れる。眼鏡を外されるのは、聞こえている会話から分かっていたので
持木は驚かなかった。眼鏡を引き抜く名ー古の手はひどく慎重で優しい。起こさない様に、
という気遣いが伝わってくる。この指があんなに器用にトランペットを操るんだなぁと
持木はなんだか妙な感慨を抱く。
「ついでにさぁ、八中さんと河神さんのも掛けとけば?」
「あー、それいいかも」
「完璧な風邪対策だな」
「……本当にそう思ってんっすか」
「暖かそうではあるよね」
「重そうだろ」
交わされる会話は完全な悪ノリだったけれど、そこにはちゃんと持木への愛情もある。
琴ちゃんが風邪をひたら大変だという共通の空気。寝ているのが持木じゃなくてもメンバーは
同じ事をしただろうし、その時は持木も同じ行動を取っただろう。
「これさぁ、琴ちゃんには大きなお世話じゃないの?」
「こんなにコート掛けるなら、毛布の一枚でも捜してくる方が親切だよな」
そんな事を言いながらも、身体の上の重みがまた増える。煙草の匂いがまだ香ったから、これは
八中と河神のものだろう。多分河神のものであるコートのフードについているファーが、持木の
顎を擽った。二人は取材を受けていて、別室からまだ帰って来ていない。
結局残りメンバー全員分のコートが茂木の上にある事になる。それは多少重かったけれど、
嬉しかった。
あの春を乗り越えられたのは、この人達がいたからだ。似たタイミングで要だったドラムを
失った須加派等と、二人残ったバンドのボーカルを亡くした持木。ネガティブの気持ちで
引き合ったと思われたくなくてサポートメンバーとして参加していた持木を、メンバー全員が
代わる代わる「正式メンバーになりなよ」と誘ってくれた。 <> 君達と僕4/4<>sage<>2010/03/25(木) 23:12:04 ID:uM0BU7HG0<> ひたすらにポジティブで、パワフルで、前に進む事に恐れも衒いもないこの人達と過ごす中で、
サポートという立場ではなく共に進みたいと思った。須加派等の皆を大好きになった。
だから「メンバーにして下さい」と素直に言えた。あの時貰った拍手の暖かさや、
あの時に感じた感謝の気持ちは今でもちゃんと心の中にある。
須加派等の中に居場所を見つけられた事が、どれだけ持木を救っただろう。
辿り着いたのがこの場所で、本当に良かった。
確かに八枚分のコートは重かったけれど持木は幸せだった。
「取材終わったら、リハやってる風景撮るって言ってたっけ?」
「だったら起こした方がいいのかな」
「んー、もうちょっと寝かせてあげてもいいんじゃない?」
「そうだね、よく寝てるし」
優しいトーンの声と共にくしゃっと髪が撫ぜられる。名ー古さんだな、と持木は少し微笑んだ。
スタジオの外は多分春の風が吹いていて、持木の中の少し寂しい気持ちはきっと一生潰えない。
けれどそれでいいのだと思う。誰の胸にも、そんな感情はあるのだから。
ちゃんと目が覚めたら、まずコートのお礼を言おう。起きるまで傍にいてくれそうな名ー古さんに
眼鏡を取ってくれてありがとう、というのも忘れずに。そうしたらきっと皆笑って「良く寝てたな」
とか「起きないかと思った」とか色々口々に言ってくれる筈だ。
結局取材を終えた八中達に起こされるまで、八人分のコートに守れた持木はとろとろとまどろんでいた。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

初っ端に分数間違えて申し訳ありませんでした。

色々あった20年でしたが、この先の20年間もどうか彼らの旅路に
いい風が吹きますように。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/25(木) 23:31:19 ID:4Rd+/eg/0<> まとめサイトって初めて行ったんだけどものっそい充実してて凄いw
そして収録の早さに驚き。
一人の姐さんがやっていてくれるのかな、ありがとうございます。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/25(木) 23:38:34 ID:XpCtLBYR0<> >>473
あーなんか泣きそう
ありがとう <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/25(木) 23:39:26 ID:4Rd+/eg/0<> ああごめんなさい、まとめサイトに関することはスレ違いですね。
以後気をつけます。

>>462
いつもありがとうございます。姐さんの文章雰囲気あって好きです。
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/25(木) 23:39:31 ID:lMhKpruW0<> >>458
うわああいい!
萌えたよ、乙! <> 殿様と作業員<>sage<>2010/03/26(金) 00:10:03 ID:lBzWu2Ul0<> 某 to京gasCM 甲冑姿の殿×黒ぶち眼鏡作業員

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

お久しぶりー。うん、そうそう、ついこの間戻って来たところ。
2年くらい前は、クローゼットに繋がったタイムマシンで、少年のような男のところに遊びにきてたけど、今はちょっと口の悪い、白髪の着物のご夫人の家にいんの。
今日、老婦人の家に、何かの点検作業員が来てた。
薄いグレーのつなぎの作業着に、太い黒ぶちの眼鏡。
ちょっと気弱そうな、一生懸命な作業員。
「アタシ、あの人嫌いでねえ」
と言うご夫人の声が聞こえた。
「そう言えば、最近信長見ないですね」
話題を探すみたいに黒ぶち眼鏡が言うと、
「ウチにいるからね」
と、そっけないご夫人。
あーあ、ご夫人ったら、気に入った人にはほんとに冷たい。
愛情の裏返し、って言うの?
つい、「あれ? お客さん?」って出て行ったら、
自分の顔を見て、黒ぶち眼鏡がぽかんとした顔をした。
どっかで会ったような顔だなーって思ったから、
「どっかで会った?」
って聞いたら、
傷ついたみたいにかぶりを振って、一瞬、ぎゅって膝に置いていた手を握りしめてた。
それを見たら、もう、ぞくぞくぞくーって、背中に電流が流れたね。
いやー、ご夫人じゃないけど、あんな顔見ちゃったら、泣かせたくなっちゃう。
久しぶりに、嗜虐心って言うのかね、火がついちゃった。
彼、また来るかなあ。
今度会ったら、どうしてやろうかなあ。楽しみだなあ。
あー、未来に戻ってきてよかった!

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ぎゅって握りしめる手に萌えるんだよ! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 00:59:55 ID:/DULzBfR0<> 現在473kb
もう少ししたら次スレかしら? <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 01:09:16 ID:oFZX88cU0<> >>462
あうあう萌えた
テンテーとリョマの組み合わせが好きなので嬉しい限りです <> 春ぞめぐりて 0/8<>sage<>2010/03/26(金) 02:32:22 ID:YYhZPAG30<>               ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 生 ||             ∧(゚Д゚,,) < 半ナマ・ドラマ半町から邑鮫さんと桜衣くん中心で
        //_.再   ||__           (´∀`⊂|  < 邑視点シリアスめ・カプ色は薄いけどほとんど邑桜の2人だけだよ
        i | |/      ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ〜
         | |      /  , |           (・∀・; )、< ドラマ設定ベースにちょっとばかし早い安曇班+αの花見話
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
  /    ゙  /  /   /                    ||
 | ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./   /                 /,!\
 |         |   /                   `ー-‐'´
 |         | ./
 |_____レ"

<> 春ぞめぐりて 1/8<>sage<>2010/03/26(金) 02:39:19 ID:YYhZPAG30<> 沈みゆく陽の光と控え目な外灯にライトアップされた薄紅色。
暦の上ではもう春とはいえ、日の落ちる時分はまだほんの少し肌寒い。
頭上に季節を感じながらもそちらを見るのはまだ早いとばかりに、邑鮫明彦は人を探して視線を僅かに下へ落としながら歩いていた。
美しい景色を肴に早々と宴に興じようとする人々でごった返す中、探していたその姿が視界に入るより先に。
明るい声が、聞こえた。
「あ、邑鮫さん!こっちです!」
見ると一本の桜の木の下で直属の部下が立ってこちらに手を振っていた。
少し離れ、反対側に視線を彷徨わせていた上司に声をかける。
「半町、いました」
「お、そっちか!」
大袈裟に声を上げて安曇が身体ごと自分の方を向いた。
この、今の上司の安曇剛士という男は刑事としても人間としても非常に優れた人物だ。
少なくとも自分はそう信じているし下の者たちにも遍く慕われていて、
口には出すことは少ないが邑鮫自身、心から安曇を尊敬している。
先刻まで署で傷害事件の容疑者を取り調べていた彼は今の温和な笑顔からは想像もつかないほど厳しい顔をしていた。
職場からこの場所へと直行してきたその姿も、未だに堅苦しい背広を着込んだままだ。
けれども今、この場でこうしていると傍目にはおそらく普通の会社員とそこまで変わりはないのではないか。
安曇に「はい」と返事を返しながら邑鮫は漠然とそんなことを考える。
かく言う自分も安曇と同じような服装をしている。大して珍しくもない手頃なスーツだ。大方、どんな職業の誰もが着ているような。
そう、手帳のひとつも出さない限り自分たちの仕事はきっとわからないはずだ。中身がどれだけ根っからの刑事だったとしても。
…それとも身に染み付いた特有の空気というのは例えば私的な服を着ていたところで否応なく滲み出てしまうものなのだろうか。
フィクションの世界では時折目にする表現だが、
実際のところ赤の他人の職業を雰囲気のみで察することなど限りなく不可能に違いない。
もちろん実にわかりやすい制服などを着ている場合はまた別だろうと思う。
例えば、用もないのによく強行犯係に顔を出す交通課のあの男のように。 <> 春ぞめぐりて 2/8<>sage<>2010/03/26(金) 02:40:19 ID:YYhZPAG30<> 我ながら面白みのない考え方だな、と邑鮫は思った。少なからず自分が現実主義者の類だという自覚はある。
そこまで考えて、肝心の現実に意識を戻したリアリストは再び若い部下の方を見やった。
青年はこちらが気づいたことに気づいてもまだ大きく手を振っていた。その姿を見て、何故だか小さな違和感を感じた。
「桜衣」
安曇と二人でそちらへ歩きながら声をかけると、
部下―――桜衣太市朗はまるでよく訓練された警察犬が尻尾を振るようにまっすぐ駆け寄ってきた。
「お待ちしてました」
そう言って桜衣は軽く頭を下げた。安曇が労いの言葉をかける。
「桜衣、非番なのに悪かったな。場所取ってもらって」
「いえっ、半町こそお仕事お疲れ様でした!邑鮫さんも…今日は早く上がれたんですね」
「ああ、何とかな。お前の頑張りが無駄にならなくてよかったよ」
安曇がそう言って笑うと桜衣も思わずつられたのか、照れたように小さく笑った。
―――ああ、そうか。
邑鮫の脳がやっと違和感の正体を理解する。
先ほど安曇が口にしたように自分の部下は今日は非番のはずで、なのに目の前の彼は自分たちと同じ背広姿で。
普段見慣れている姿と言ってしまえばその通りだから別段不思議に思うことではないのかもしれないが、妙にその一点が気にかかった。
「あっ、いたいた!」
邑鮫の思考を遮るように背後から耳慣れた声がした。
振り返ると、瑞野麻穂、素田三朗、黒樹一也の三人がそれぞれ白い大きなビニール袋を両手に提げて立っていた。
「いやあ、半町と邑鮫さん並んでると人混みでもわかりやすいっすねー」
大股で近寄ってきた黒樹が笑いながら冗談めかしてそう言った。
確かにチームの中でも一、二を争う長身の自分たちが並んで立てば嫌でもそうなるだろう、と邑鮫は思った。
尤も、当の黒樹もあまり他人のことは言えない背格好をしているわけだが。
そんなことを考えるうちに意識は逸れ、部下の装いへの僅かな疑問は既に頭から消えていた。
「あ、皆さんお疲れ様です」
正面の桜衣がいち早く反応を返し、会釈した。先ほど自分と安曇にもそうしたように。
「うん、桜衣こそ場所取りお疲れさん」
素田がのんびりと緩慢な動きで手を挙げ、桜衣の挨拶に応えた。 <> 春ぞめぐりて 3/8<>sage<>2010/03/26(金) 02:44:26 ID:YYhZPAG30<> 「半町、本当に適当に買い込んできちゃいましたけどこんなものでいいですか?」
瑞野が両手のビニール袋を挙げて安積に示す。
彼女が手にした袋の中には大量のつまみの類やら何やらが容量のほぼ限界まで詰め込まれていた。
同じく素田の袋の中には食料、黒樹の袋の中にはビールを始めとしたアルコール飲料の缶が山のように、といった具合である。
「ん、それでいい、いい。ありがとう」
安曇が頷き、勢揃いした班員たちをぐるりと見回して告げた。
「よし、じゃあ始めるか!」



事の発端は数日前。東京近郊にぽつぽつと桜が咲き始めた頃、誰かが花見をしたいと言い出した。
あれは一体誰だっただろうか、少なくとも自分ではなかったと邑鮫は手の中に収まった盃を傾けながら思い返す。
宴に興じていたところで呼び出しがあれば即座に出動しなければならないのが常の職場ではあるが、
その合間にも班員全員で飲みに行くというのは折に触れてあることだし、端から到底無理だとは誰も口にしなかった。
ただ、問題は場所の確保だった。仕事終わりに飲み屋で軽く一杯、というのとはわけが違う。
揃って身体の空く定休日があるわけでもなく、必然的に昼間の花見ではなく夜桜見物ということになる。
しかし全員がぎりぎりまで署に詰めていたのではこのシーズン、当然その見物スペースを確保することなどは不可能だ。
かといって良い場所の取れる時間帯にそんなのんきなことへ人員を割いていられるほど、
陣楠署刑事課の強行犯係に余裕がないというのもまた事実だった。
結局、天気の予報や諸々の事情を考慮に入れて選ばれた今日という候補日にたまたま非番だった最年少の桜衣が、
あらかじめ場所を取って皆を待つことになったのである。
もちろん花見が無事開催されるという保証や確証はどこにもなかった。
この仕事に定時というものはあってないようなものだからだ。
安曇が危惧していたように、桜衣が場所をきちんと押さえられたところで全てが無駄になる可能性も高かった。
それでも全員がこの場に顔を揃えられたというのは皆の普段の行いの賜物だろうかと、らしくない考えを巡らせる。
上を見上げると大きな桜の木が目に入った。まだ満開には早く、八分咲きといったところだ。
それでも眺めは見事で、周りのものと比べてもこちらの方が一際素晴らしい。 <> 春ぞめぐりて 4/8<>sage<>2010/03/26(金) 02:47:23 ID:YYhZPAG30<> きっと桜衣が朝から張り切って最高の場所取りに励んだのだろうと邑鮫は思った。
おそらく、せっかくの休日をほぼ丸一日費やしても無駄になるかもしれないなどとはこれっぽっちも思わずに。
その様子が目に浮かぶようだと、思った。
「邑鮫さん、何笑ってるんですか?」
「……―――」
横を見ると日本酒の瓶を両腕で抱えた桜衣がいた。その口を軽く持ち上げる仕草に、条件反射で持っていた猪口を差し出す。
桜衣の身体が僅かに傾いで、なみなみと上等な酒が注がれた。
この酒は素田たちの買い出しとは別に安曇が持参したものだ。
曰く、とっておきの上物だそうで、口にしてみれば成る程その文句に違わぬ美味い酒だった。
一番若輩の桜衣は先ほどからそこらを忙しなく移動していた。どうやらたった今も、安曇に酌をしてきたところのようだ。
無言で盃に口をつけようとしたその手を邑鮫は止めた。
「…笑ってたか?」
「え?」
「さっき」
「え、ああ…はい。何だか、妙に嬉しそうっていうか、そんな感じで…何かいいことでもあったのかなって。思ったんです」
唐突な質問に先ほどの状況を思い出そうとしてか、少しばかり上方に視線を彷徨わせながら桜衣はそう答えた。
「…そうか」
短く答えて今度こそ、盃の中身を飲み干した。
再び酌をしようとする部下を小さく制して、その目の前にすいと猪口を突き出す。
「お前も飲むか?」
桜衣が驚いた顔をした。
彼がどちらかといえばビールの類を好んで飲むことは知っていたし、せっかくの無礼講なのだから好きなものを飲めばいいとは思ったが、
それでも今はこの酒を勧めたいと強く感じた。
少し間を置いて桜衣は「いただきます」と微笑んだ。
盃を拝して上司の注ぐ酒を受けようという表情は普段よりも更に数段、ひょっとしたらそれ以上に神妙な面持ちで。
そんな風に見えるのは、仄かに美しく光る夜桜が生み出すこの不思議な空気のせいなのかもしれない。
彼が注がれた酒を一気に呷った。唇を猪口から離してほうっと息をつく。その両の頬と目元には既に薄く、酔いの兆候が見え始めていた。
ふと、すっかり忘れていた疑問が邑鮫の胸に思い出された。 <> 春ぞめぐりて 5/8<>sage<>2010/03/26(金) 02:49:49 ID:YYhZPAG30<> 深く考えることではないのかもしれない。
真面目な彼にしてみれば、単に仕事の一環と捉えているからそうなっただけなのかもしれない。
それでも再び浮かんだ問いはどうにもこうにも消しがたかった。この際だからとそれをそのままストレートに口に出してみる。
「そういえば桜衣。どうしてスーツなんだ?」
「え?」
桜衣が目を瞬かせて不思議そうな声を上げる。まさかそんなことを訊かれるとは思いもしなかった。そんな顔だった。
口にしてから、我ながら何を気にしているのだろうかと邑鮫は思った。
同じ状況だったなら自分もそうしていた可能性はむしろ高いだろうとも思った。
けれど一旦口をついて出た問いは元には戻せなかった。今夜はもう酔い始めているのだろうと、言い訳のように心の中で呟いた。
「いや…非番だったんだろう、今日は」
「……」
ようやく意を解したらしい桜衣が「ああ」と小さく頷いた。彼は少々考え込む素振りを見せ、口を開いた。
「えっと、なんて言うんですか、こういうの…そうですね。制服、みたいな感じなんですよね」
「制服?」
予想外の回答に少し驚く。
「ええ、安曇班の制服です」
今度はそう言い切って桜衣が笑った。
咄嗟に意味が理解出来なかった。邑鮫自身はこの装いに特別な意味を見出したことなどなかったからだ。
こんなスーツの類など世の中に嫌ほど溢れているのに。
そう、例えば。傍目に見て刑事と一般のサラリーマンとの区別があまりつかない程度には。
余程怪訝そうな顔をしていたのだろう、こちらをちらりと見やった部下は「気分的なものですから」と苦笑した。
彼はその視線をすっと下に落とした。何か言いたいのを迷っているように見えた。
「邑鮫さん、俺」
そのままぽつりぽつりと桜衣は呟き始めた。
「今、すごく毎日が楽しいんです」
「……」
話がどう繋がっているのかわからなかった。ただ、その独白を黙って聞くことにした。
「皆と一緒にいられて」
そりゃもちろん仕事なんですけどと付け足して桜衣は目を細める。 <> 春ぞめぐりて 6/8<>sage<>2010/03/26(金) 02:53:30 ID:YYhZPAG30<> 「朝、待ってる時間が楽しいんです」
朝は誰よりも早く、が彼の信条だということは班の皆が承知している。
新人だからという以上のものが確かにそこにあることも。
「素田さん、黒樹さん、瑞野さんに半町に…邑鮫さんが来るのを、待ってる時間が」
「桜衣」
その声が微かに震えているような気がして声をかけた。
桜衣が顔を上げる。酔いの見える目元の朱が、先ほどよりも色濃く感じられた。
「…大丈夫か」
短い問いに桜衣は「大丈夫です」と短く答えた。
「……」
「……」
暫しの沈黙が流れた。先に口を開いたのは桜衣の方だった。
「本当は今でもちょっと怖いですけど」
「……」
「皆が帰って来なかったらどうしようって」
「……―――」
言ってすぐ、桜衣はしまったという顔をして「すみませんこんな話」と続けた。
続きは言われずとも察しがついた。
その持ち前の明るさにともすれば忘れそうになる、というか普段はあまり意識したこともないが、
彼が子供の頃に両親を亡くしたという話を以前に聞いたことがある。
彼の父親と母親はある日彼と彼の祖母とを置いて出かけ、そのまま帰って来なかったのだと。
その祖母さえ彼が大学に上がった頃に亡くなってしまったのだという話も。
辛くないわけがないとあらためて思った。
黙り込んだ自分を見て桜衣が焦ったような顔を浮かべた。
「あっ、えっと、あの、でも」
顔の前で手を振りながら次の台詞を探しているようだった。そうしているうちに言葉を見つけたのか、ふとその手が下がった。
「…それよりもやっぱり待つ時間が楽しいんです。嬉しいんです」
そう言って桜衣はもう一度微笑む。
「寮に帰ったら帰ったでそこにも素田さんと黒樹さんがいて、ああ一人じゃないんだって思えたりして」
「……」
「俺、刑事になって最初に配属されたのが安曇班で本当に良かったって思うんです、だから」 <> 春ぞめぐりて 7/8<>sage<>2010/03/26(金) 02:56:20 ID:YYhZPAG30<> ああ、と邑鮫はやっと気づく。
社会人になってほんの数年の彼にとっては、その装いでいることが即ち安曇班の一員であることの確たる証明なのかもしれないと。
それは傍から見たところで何の変哲もないのだけれど、それでも。
彼にとっては特別なことに違いない。この顔ぶれで今ここにいられることと同じように。
自然に身体が動いた。くしゃり、と大きな手が黒く柔らかい髪を撫でた。
我ながら珍しいことだと。触れてから思った。
「…邑鮫さん」
夜桜の幻想的な光に照らされて、桜衣が今にも泣き出しそうな顔で笑った。
強い笑顔だと、思った。


出会ったばかりの頃はまだまだ頼りない幼さを残していた。
これから開くかどうかもわからない小さなつぼみのように。
失敗しながらも経験を積んでいくことで、そこに淡い色がつき始めていくのが手に取るようにわかった。
肌寒さを残しながらも穏やかでふわりと暖かい、そんな陽気にいざなわれ開き始めた花びらのように。
彼がその名に戴く花のように。
まだ八分咲きにも満たないけれど、これからいくつもの春を重ねて、少しずつ、少しずつ咲いていくのだろうと邑鮫は思った。

いつか満開の時を迎えるその日まで。
叶うことなら、もう暫く。
彼の傍でそれを見ていたいと思った。




<> 春ぞめぐりて 8/8<>sage<>2010/03/26(金) 02:57:40 ID:YYhZPAG30<> 「おっ、やってるねえ」
突然耳に飛び込んできた陽気な声に桜衣と二人、安曇たちが座っている方を見やった。
いつもの制服を脱いだ男がにかにかと笑いながらそこに立っていた。
「早見お前、何でここにいるんだ」
安曇が目を丸くして問うと早見直毅はちっちっちっ、と唇で音を立て、ついでに指も立てながら答えた。
「何って安曇くん、ここにいてやることはひとつでしょ。交通課も揃って今夜が花見の宴なんだよ」
大袈裟に身振り手振りを交えて説明する早見に安曇が顔をしかめる。
「まさかそのまま運転して帰るつもりじゃないだろうな」
「冗談きついぜ、今日は徒歩に決まってるだろうが。何だ、久しぶりに一緒に帰るか?」
「それこそ冗談きついな。とりあえずまず大人しく自分の縄張りに帰ってくれ」
安曇がにやにやと笑いながら早見の来ただろう方向を顎で指し示すと、早見は盛大に肩を竦めた。
「相変わらずつれないねえ、お前は」
無論、そう言いながら特に気にした様子もない。刑事部屋から場所を移しただけであとは普段のやり取りと変わらないからだ。
上を向いた早見はそのまま頭上の桜花を仰いだ。
「しかしあれだな、こっちの方が断然いい眺めじゃないか。羨ましいったらないね」
それを聞いて、思わず桜衣と顔を見合わせる。
「ほら素田さん、眺めいいんですって!食ってばっかいないで桜見ましょうよ桜!」
「見てるよ!お前こそ飲みすぎじゃないの?」
右手にビールの缶を持ち長い左腕を素田の肩に回して絡む黒樹と、
両手に食べ物を持ったまま絡まれる素田を横目で見ながら瑞野がばさりと切り捨てる。
「素田くんが花より団子なのは事実でしょ」
「あっ、ひどいな瑞野」
「そうそう、麻穂さんそうなんですよ!大体素田さんはほんとにね、いっつもいっつもねえ」
「いつも何だよ、黒樹、こら」
その賑やかで取り留めのない掛け合いを眺め、横に座る桜衣が声を立てて笑った。
視線をやらずともその表情が目に見えるかのようだった。

咲き誇る桜の木々の下。
この面々でこうしていられることへの万感を込め口の端を少し持ち上げて、邑鮫はまた一口、盃の中の美酒を飲み干した。
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 02:59:42 ID:YYhZPAG30<>

             ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 止 ||             ∧(゚Д゚,,) < シーズン3放送ケテーイおめでとうおめでとう!再会の日が楽しみすぎる
        //, 停   ||__           (´∀`⊂|  < 因みに半町が持って来た酒は例の酒造のものですw
        i | |,!     ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ〜
         | |      /  , |           (・∀・; )、< 前回コメ下さった方と今回お読み下さった方ありがとうございました!
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
  /    ゙  /  /   /                    ||
 | ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./   /                 /,!\
 |         |   /                   `ー-‐'´
 |         | ./
 |_____レ



そして480KB超えたのでスレ立て挑戦してきます。
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 03:11:06 ID:YYhZPAG30<> だめでした…
スレタイと1のテンプレ置いていきますのでどなたかお願い致します


モララーのビデオ棚in801板57
<> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 03:11:46 ID:YYhZPAG30<>    ___ ___  ___
  (_  _)(___)(___)      / ̄ ̄ヽ
  (_  _)(__  l (__  | ( ̄ ̄ ̄) | lフ ハ  }
     |__)    ノ_,ノ__ ノ_,ノ  ̄ ̄ ̄ ヽ_ノ,⊥∠、_
         l⌒LOO (  ★★) _l⌒L ┌'^┐l ロ | ロ |
   ∧_∧| __)( ̄ ̄ ̄ )(_,   _)フ 「 | ロ | ロ |
  ( ・∀・)、__)  ̄フ 厂  (_,ィ |  </LトJ_几l_几! in 801板
                  ̄       ̄
        ◎ Morara's Movie Shelf. ◎

モララーの秘蔵している映像を鑑賞する場です。
なにしろモララーのコレクションなので何でもありに決まっています。

   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_||  |      | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ]_||
   |__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | ̄ ̄ ̄|   すごいのが入ったんだけど‥‥みる?
   |[][][]._\______   ____________
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_|| / |/    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |[]_||
    |[][][][][][][]//||  | ̄∧_∧     |[][][][][][][][].||  |  ̄
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ( ・∀・ ) _ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |
   |[][][][][][][][]_|| / (    つ|8l|.|[][][][]_[][][]_.|| /
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    | | |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    (__)_)
前スレ
モララーのビデオ棚in801板56
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/801/1265871268/

ローカルルールの説明、およびテンプレは>>2-9のあたり

保管サイト(携帯可/お絵描き掲示板・うpろだ有)
http://morara.kazeki.net/ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 03:15:54 ID:A993PilQ0<> チャレンジしてきます <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 03:17:08 ID:A993PilQ0<> すみません。駄目でした。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 05:05:04 ID:8zgrrQqe0<> スレ立て行ってくるー <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 05:10:22 ID:8zgrrQqe0<> 規制されてたorz
次スレ立てて下さる姐さんへ
>>2>>3が入れ替わっているので修正お願いします <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 06:08:21 ID:uW729sCA0<> 行ってみるー。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 06:29:44 ID:uW729sCA0<> 立てられました。
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/801/1269551387/
見事に規制に引っ掛かってモタモタして申し訳ない。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 08:37:44 ID:yXFU3Y2s0<> >>501
乙でした〜 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 08:46:17 ID:na7TyftS0<> >>493
GJ!!素敵な光景でした

>>501
スレ立て乙です <> 1/3 ※ナマモノ銀盤<>sage<>2010/03/26(金) 13:00:55 ID:muONQrzLO<> スレ立て乙です。
携帯からすみませんが、本スレの書き物置場が機能していないので、場所をお借りします。
生モノ、銀盤某選手2人の2009年、とあるエピを大幅捏造。
名前は完全に伏せました。
細かい部分は銀行からのニワカなのでご容赦を…。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「ねぇ、ちょっと遊ぼうか?」
『きっかけ』は、悪戯っぽい笑顔の添えられたそんな一言。
いい加減飽き飽きしていた『待ち時間』を潰すにはちょうどよかったし、何より氷の上で冷えそうになる体を暖めたかった。
「いいよ、でも遊ぶって何をして?」
彼の母国語と仏語、両方で二回ほど尋ねた僕をサラリと無視した彼は、踊るようにリンクを横切り、先刻までの場所の反対側の人がいないところで、滑らかに僕へと振り向いた。
「君はペアの経験は?」
傍らに並んだ僕に掛けられたのは流暢な仏語。
「遊びとショーで少しだけ」
そして返す僕は英語。
そのまま交わされる簡単な会話は、端で聞いていたら奇妙だったに違いない。 <> 2/3<>sage<>2010/03/26(金) 13:02:26 ID:muONQrzLO<> なんだかちぐはぐな感じが可笑しくて、気にする様子もない彼も相俟って思わず僕は吹き出した。
「……そんな笑うような話はしてないだろ」
明らかにムッとして、ルージュでも引いてるような赤い唇を尖らす彼。
同性だとわかっているのにも関わらず、時折ドキッとさせられる事が多々ある。
こうして並び立てば、体格も身長も僕とはそう変わらないし、耳に響く柔らかなイントネーションの声だって男のそれなのに。
「そうじゃなくて、僕達の言葉がちぐはぐだなって思っただけ、ごめん」
慌てて言い訳した後の『ごめん』の部分だけは、彼に合わせて仏語に変えた僕に、彼はその瞳を大きく一度見開いて、拗ねて尖らせた唇に美しい笑みを浮かべた。
そして、それはすぐに彼の得意な皮肉を交えた笑みに変わった。 <> 3/3<>sage<>2010/03/26(金) 13:04:56 ID:muONQrzLO<> 「通じてるなら、どっちだっていいじゃないか。何なら露語にする?」
「いえ、それはご勘弁を、ディーバ」
芝居がかって器用にも英語のイントネーションに露語を混ぜた彼に、僕も同様に芝居がかった台詞に膝まで折って答えると、ようやく彼のご機嫌は直ったようだった。
スッ、とバレエダンサーのように差し出される彼の右手を恭しく取り上げると、彼の笑みが深くなった。
「それじゃあ始めよう、名付けて…そうだな、ゼブラとディーバのペア」
「ちょっ!……OK、仰せのままに」
彼らしい軽口へのツッコミは、僕は彼の腰へと手を添えて引き寄せる事で押し止めた。
彼の腰に置いた手に伝わる暖かさに、じわり、と、奇妙な安堵を覚えながら、僕達は真っ白な氷へと踊り出た。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
801でも何でもないですが、2人の画像や動画を漁ってて萌えたぎってやりました。
後悔はしてないが、反省はしてます。 <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 13:23:00 ID:auCQlRk/0<> >>504
GJ!お相手は例の赤猫だよね?
2人の世界ってかんじでいいなー <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 18:09:22 ID:KXjEC6i50<> >>484
乙!
情景が目に浮かんできたw
頭撫でてもらってる桜が可愛すぎる <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 21:46:31 ID:7LqgtYen0<> >>484
GJGJ!
桜が頭なでられて桜の木の下でほほを桜色に染める様がありありうかんできたw
可愛い話をありがとう! <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/26(金) 22:42:42 ID:A0VwX1st0<> >>484
邑鮫さんの人柄が伝わってくるような、丁寧でキレイな文面に萌えました。
姐さんの半町話大好きです!ありがとうございます。
それにしても、花見の席で呑む例の酒は旨そうだw <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/27(土) 09:09:23 ID:cD0hrqnk0<> >>481
GJ!
自分、前シリーズラストのプリクラ「やるよ」で泣きそうになったから
すげー嬉しい

殿も作業員 もかわいいw <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/27(土) 09:11:14 ID:+nx7CWjG0<> >481
GJ!
鬼畜な殿を待ってますw <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/27(土) 11:29:23 ID:++Aky15N0<>     /\___/\
   /''''''     ''''''::\
   |(●),    、(●)、.|  >>1さん
   |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .:|
   |   `-=ニ=- '  .:::::|
   \  `ニニ´  ._/
   (`ー‐--‐‐―/  ).|´
    |       |  ヽ|
    ゝ ノ     ヽ  ノ
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    /\___/\
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   |(へ),    、(へ)、.|  ふふ、呼んでみただけ埋め♪
   |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .:|
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   \  `ニニ´  ._/
   (`ー‐--‐‐―/  ).|´
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    ゝ ノ     ヽ  ノ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/27(土) 17:56:28 ID:0nIyhEwx0<>   ,......,___
  {  r-}"'';                     (,- ,_'',;
__ノYv"-ァ'=;}                   ,_、 Y' リ''ー
  ヽー-ハ '、                 / キ}、 {"ー {⌒
  ト ハ  }      ,. -ー─-、__/_,.へノ`{  {    こ、これは>>1乙じゃなくて
 ! ! !__! ,-、_    ,,( ,          ̄    .ヽ'ー;ー'"   四つん這いなんだからね!
 |___|! !ー-ニー、;、;'""ノ';{  i__   _   /ニ=),..- '"  変な勘違いしないでよね!梅
 K \ヽ !`ーニ'-、{  (e 人  |    ̄ ̄/ /  /   /⌒
  \ヽ !、ヽ, "")ー-'"| !  |     /  /    .{,、  /  /   
    \"'ヽ'ー-"  _! ||  }   /  /      |\  /
ニ=ー- `!!!'     ''''ー'"{  |   |  {         j  ヽ /    
ーーーー'        _ | ./    ',  `ー――‐"  ノ !
             三`'/.      ` ----------‐´'"" <> 風と木の名無しさん<>sage<>2010/03/27(土) 19:00:48 ID:YqXsYws60<> 大阪府大「受験祈願には、梅が枝餅@大宰府」
京大「梅が枝餅、ボクは賛成!」※寒い標準語で
大阪府大(やばい、えぷろんが、えぷろんが・・・・。キッチンに立っとる所を後ろから犯したいわ)

立命「あーあ、またこんなとこで地域限定のネタを」
東大「しかも、微妙に時季外してますしね」 <>