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#title(ゴミ捨て場に落ちていた男) [#o0c35985]
レス下さった皆様、ありがとうございました。落ちていた敬語...
ちょっと長いですが、これで終わりです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(´∀` )うりゃ!
深夜になり、一緒に飲んでいた同僚が居酒屋を出てしまって...
家に帰りたくない。反面、あの男の事が気になって、走って...
あの外国人は、まだゴミ箱の間に居るのだろうか。それとも...
歩いて行く体力を取り戻しただろうか。
四人掛けのテーブルには、同僚達が置いて行った千円札数枚...
グラスには、溶けた氷の生温い水。
原田は、ライムサワーの匂いがする水を飲み干すと、思い切...
どうして、まだ居るんだよ。
アパートの廊下で、原田はげんなりと肩を落とした。ゴミ箱...
傘をさしたままの男を発見した途端に、気付いたのだ。本当は...
消えていてくれれば良いと思っていた事に。
だからだろうか、原田は急に沸き起こった怒りに、舌打ちし...
こいつが、どこの何者でも構うものか。さっさと消えてくれ...
保たない。はっきり言って、邪魔なのだ。迷惑なのだ。鬱陶し...
酔いも手伝ってか、急に腹の座った原田は、どかどかと足を...
「おい、あんた。まだ生きてるんだろう?」
言って、男の揃えた足先を蹴る。
「そんな所に居られると、困るんだけど。どっか行ってくれな...
ビニール傘が持ち上がり、男がぼんやりとした視線を向けて...
動揺しなかった。
「日本語が分からないのか? You are an obstacle.Come back...
途中で断念したものの、駅前留学の経験を持つ原田だ。自信...
すると、男は何度か瞬きして、ようやく口を開いた。
「Sono spiacente.」
しかし、その口から出た答えは、原田の予想を斜め上に飛び...
「Ma, non posso ritornare al paese.」
何語だよ!
つい、頭の中で突っ込みを入れてしまい、原田はぽかんと男...
「Non si preoccupi per me.」
「分からねえよ! ここは日本だぞ! 言いたい事があるなら...
「あ……すみません。ごめんなさい」
「何だって?」
聞き返してから、原田ははっとした。今のは、日本語……だよ...
「……なんだ。あんた、日本語喋れるのか」
「はい、日本語、少し分かります。ごめんなさい」
「いや、謝らなくても」
少しじゃない、立派なもんだよ。ちゃんと聞き取れるもんな。
原田は気付いていなかったが、相手がそこそこの日本語を話...
それまでの警戒心はあっさりと失せていた。しかも、ここは自...
自分のテリトリーで、意志の疎通も可能な相手という事実が、...
「で? 飯、食ったのか」
「めし?」
「パンと牛乳だよ。ごはん。ブレックファースト」
「S, capisca.ありがとうございました。全部、食べました」
そう言って男は、少し笑った。口角が上がると、骨張った顔...
やっぱりこいつ、いい顔してるな。そう思いながら、原田は意...
「いただきます? 美味しいかったです。Grazie.」
「それを言うなら、ごちそうさまだろ。ま、いいか」
雑誌の上に、きちんと並べた皿とマグカップを差し出され、...
原田は、唐突に気付く。
で、俺はどうすればいいんだ?
黙って見下ろしていると、男はまた元の沈んだ表情になり、...
いや、もう雨降ってないし。
視線を落として座り込む男と、頭をひねったまま黙り込む原...
沈黙が流れてゆく。
そのまま、数十秒が経過した。ひょっとすると、数分だった...
「うん、じゃ。元気で」
仕方なく、原田は両手で雑誌を抱えたまま、自室へ帰る事に...
食器を片付け、風呂に入っても、原田の胸には、もやもやと...
気にするまいと思えば思うほど、先ほどの男が……汚れた服に無...
終わりのような顔をした彼が……一瞬だけ見せた笑顔に、思考が...
布団に転がり、バスタオル一枚を腹に掛けて天井を眺める。...
英語じゃなかったな。何人だ? 飯も食わずにいたら、餓死す...
トイレとか、どうしてるんだろう。そもそも、何がしたくて、...
「あー、くそ! 苛々させやがって」
声に出して飛び起きると、原田はランニングシャツにトラン...
飛び出した。
ゴミ置き場に着いてみると、男は足を崩してボックスにもた...
傘を横倒しに抱えたまま、こくりこくりとしている。こいつ、...
原田の脳裏で、何かが切れた。
「こら、外人! 起きろ!」
素足で思いきり蹴飛ばすと、男は何事かという顔で跳ね起き...
緑色のボックスにしがみ付いた。真ん丸に開いた両目が、しき...
「立て! いいから立つんだよ!」
原田は、口をぱくぱくさせている男の腕を強引に掴むと、重...
長い間座っていたためか、男は斜めによろめき立つと、すぐに...
「てめぇ、殴られたいのか? 歩けって言ってんだよ」
それからは、蹴ったり引っ張ったりの繰り返しで、なんとか...
階段が相当響いたはずだが、周囲の住人は気付いているのかい...
言って来ない。きっと、関わりあいになるのが嫌なのだろう。...
部屋に放り込むと、原田も息を切らせて畳に転がる。俺だって...
関わりたくなかったよ。
しかし、日本には乗りかかった船という言葉がある。
やってやろうじゃないか。原田は、勢いをつけて起き上がる...
男の靴を脱がせた。思った通り、かなり臭う。首根っこを掴み...
またもや意味の分からない言葉が聞こえた。まったく、なんて...
ようやく、風呂場の前まで男を運ぶと、ドアを開けて中を見...
「おい、外人。とにかく、風呂に入れ」
「ごめんなさい。なにですか」
「風呂だよ、風呂。シャワー。バスルーム。臭いから、洗って...
見りゃ分かるだろ? 自分で洗え。徹底的に洗え」
男は、その灰色の目で、原田とユニットバスを交互に見やる...
合点がいったのか、四つん這いになって風呂場に入った。
「よし。それでいいんだ」
ドアを閉めてから、彼に勝手が分かるだろうか、と心配にな...
世話をしてやるのも癪で、原田は湯沸かし器のスイッチを入れ...
俺は馬鹿か。いや、馬鹿だな。タンスを漁りながら、何度も...
あんな奴を拾って、どうするつもりだ? 素性の知れない外...
なんて、頭がおかしいんじゃないか。あんな男、良くて犯罪者...
下手をすれば、家財道具を持ち逃げされるか……殺されるかも知...
それでも、何故か原田には、そんな目には遭わないという確...
彼は、悪い奴ではない。理由はないが、そう思うのだ。
結構でかかったよな、あいつ。俺の服で間に合うのか?
大きめのトランクスと、のびきったTシャツを揃え、水音の...
視線を投げる。ちゃんと、シャワーカーテンを使っていると良...
朝になって、時計を見てから、今日は休日の土曜日だったと...
道理で、携帯のアラームが鳴らないわけだ。
カーテンを開けると、狭い部屋に朝日が差し込む。今日も、...
窓の外をじっくりと眺めてから、原田はしぶしぶ振り返った。
部屋の隅に、くしゃくしゃの毛布を引っ掛けた外国人が転が...
与えたシャツとトランクスは、やはり彼には小さかった。窮屈...
丸見えの腹から察するに、かなり寝にくい格好だと思うのだが...
様子だ。よほど疲れていたのだろう、畳に顔を押し付けて、死...
起こすのが可哀想になるくらい熟睡している男の姿に、原田...
運のいい奴だな、あんたは。俺みたいに親切な男に拾われて。
原田は、男が自分から起きるまで、そっとしておく事にした...
ままの服を洗濯機に放り込み、代わりに、大きめの服をいくつ...
それから、何時間が経過しただろうか。小さな音でテレビを...
隅で、何やらつぶやく声がした。
「よう。起きたか、外人」
振り向くと、毛布を抱えて辺りを見渡す男と目が合った。
「何か食うなら、飯にするぞ? 水でも飲むか?」
「……Dove questo? ああ……」
「いいから、じっとしてろ。動くな」
原田の命令を理解したのか、こくこくと頷くと、男はまだぼ...
もぞもぞと座り直した。
コップに水を汲んでやると、素直に飲む。冷凍してあったご...
唸る回転皿をじっと見つめる。何を考えているのか分からない...
大人しく座っているので、原田は安心して部屋を動き回った。
ふりかけご飯とレトルトの味噌汁も、男は文句一つ言わずに...
思ったが、原田は、男がスプーンを駆使して食事を終えるまで...
「えーと、そんじゃ、あれだ。名前から聞こうか。俺は、原田...
「はだらだ、さん」
「違う。原田、はーらーだ」
「はらだ、さん」
「そうだよ。で、あんたの名前は?」
「私は、ニコーラ・バルダッチー二、です」
「……また、ややこしい名前だな。にこーら?」
「S, cos.ニコーラ」
「そうか。で、ニコーラは何人だ。どこから来たんだ?」
「私は、イタリアから来ました」
「イタリア人か。そうか、そうか……あんな所で、イタリア人の...
たんだ? 日本のゴミ箱でも研究しに来たのか?」
「Vacanza……バカンス、ですか? 休暇です」
「返事になってねぇよ。あんたが、俺のアパートで、何をして...
男……バルダッチーニの話は、辛抱強く聞き出す原田によって...
それによると、バルダッチーニは犯罪者でも不法入国者でも...
日本へやって来ただけの、立派な会社員であるらしい。聞き慣...
作る工場に勤め、きちんとパスポートとビザを所持している。
そんな彼が、わざわざ日本くんだりまでやって来たのは、恋...
つっかえながらの彼の言葉を並べれば、こうなる。
恋人とは、インターネットで知り合った。山田某というその...
メールのやり取りを行い、住所や電話番号も教えてもらった。...
電話をしたのだが、それ以来、連絡がつかない。
メールはアカウント不明で送り返され、電話も繋がらず、不...
いられなくなった彼は、名前と住所だけを頼りに、飛行機へ乗...
あんた、それ、騙されてたんじゃないのか? 恋人なんて、...
だけだろう? 原田は、そう言ってやりたい気持ちを、どうに...
バルダッチーニの表情が、それを思い止まらせたのだ。話が...
表情は深刻そのものに変わり、ついには、視線が茶わんとスプ...
「その、住所って、どこなんだ?」
「紙が……服の……Tasca……袋? ポケットですか?」
「おい! そんな大事なもの、ポケットに入れておくなよ。洗...
黒いシャツから出て来たのは、折り畳んだプリント用紙だっ...
住所を読んで、原田は自分の予測が正しかった事を知る。
逆から書かれた、ローマ字表記のそれは、町名まで、確かに...
「つーか、五丁目なんて、無いし」
馬鹿だな。この男は。
きっと、この住所も、適当にでっち上げたか、地図で拾った...
大体、山田なんて名前からして、偽名もいいとこだ。携帯の...
変えられるし、自分からかけなければ、地球の裏側からの電話...
あしらえる。今頃、その山田とか言う女は、腹を抱えて笑って...
相手が外国人で、それもイタリアなんて遠い所に居るから、...
会いたいなどと言われて、急に気が変わったか……最初から、そ...
海を越えて、会った事もない恋人の無事を確かめる為に、日...
こんな所まで来てしまって、存在しない住所を探して。本当に...
原田が、どう切り出したものかと迷っていると、バルダッチ...
「写真も、あります。そこに、入っています、ですか?」
「いや、写真なんて、無いけど」
言って、シャツのポケットを開いて見せると、バルダッチー...
肩を落とした。今にも泣きそうな声で、小さく呟く。
「大事に、していました。でも、なくしてしまいました」
この、間抜けの、馬鹿野郎が。写真なんて、本物の筈がない...
喉元まで出た言葉は、結局、言い出せないままになった。
日曜日の朝まで、バルダッチーニは、原田の部屋に居た。
歩き疲れて、ゴミ箱の間に座り込んでいた外国人は、原田に...
都心にあるホテルへと引き返して行った。
すっかり濡れて、嫌な臭いのする皮財布が、ゴミ箱の側で見...
後には、何も無かった。住所と、写真と、財布。それだけが、...
きっと、恋人の存在すら、残っていないだろう。
残らない方が、幸せなのだ。そう、原田は思った。
それで、奇妙な外国人との関係は終わった。
……筈だった。
「……えーと、何だっけ。ニコーラ?」
「はい、ニコーラです。原田さん、お久しぶりです」
「つーか、何で? まだ日本に居たのか?」
原田は、混乱する頭を振って、目の前の男を凝視した。
まだ、冬の気配が残る三月。花見の酒にいい気分で帰宅した...
玄関で突っ立っている、あの外国人を発見したのだ。
バルダッチーニは、やはり黒くて大きかった。黒いオーバー...
黒と灰色の毛糸が混じった小さなニット帽の頭は、玄関ドアよ...
しかし、その顔に無精髭が無く、血色の良い頬は、少し丸く...
半年以上も経過したのだから、当然とも言えるが、原田は、す...
様子のバルダッチーニに、深い安堵を覚えた。
どうやら俺は、思ったよりも、こいつの事を心配していたら...
「あんた、イタリアに帰ったんだろ?」
「はい、帰りました。でも、原田さんに会いたくなったので、...
「あ……そう。そうか」
言っている事は分かるが、意味が掴めない。
「じゃ……立ち話も何だし、入るか?」
ドアを開けると、バルダッチーニは満面の笑顔で付いて来た...
こいつは。
しかし、せっかく来たのだから、と思い直すと、原田はこた...
お茶の支度をした。イタリア人って、緑茶でも平気なのだろう...
イタリア人全般はともかく、バルダッチーニは、緑茶を美味...
買いだめしてあったポテトチップをつまみながら、原田は、何...
「それにしても、暇なんだな。イタリアの会社って、そんなに...
「いいえ、会社は辞めました」
「は?」
愕然として顔を上げると、灰色の瞳が笑みを浮かべて見返し...
そうだ。忘れていたが、こいつの目は灰色なんだった。原田...
困惑して、視線を逸らす。しかも、男前なんだった。馬鹿だけ...
「そ……そうか。辞めたのか」
「はい。それで、今回は長期のビザを取得してあるので、日本...
仕事を探そうと思っています」
「ふーん。そりゃ、良かった」
そこまで聞いて、原田はふと気が付いた。
「日本語、上手くなってるじゃないか」
「分かりますか? 私、原田さんのために、沢山勉強しました」
「……何だそりゃ」
ぎょっとして目を上げるが、バルダッチーニは笑顔で見返す...
「変なこと言うなよ。仕事のためだろ」
「そうですね。仕事をしないと、日本に居る事が出来ません。...
すぐ、就労ビザに切り替える予定です」
「へえ、大変だな。まあ、頑張れよ」
「ありがとうございます。頑張りますので、よろしくお願いし...
「はいはい……はい?」
こいつは一体、何を喋っているんだ?
「え? なに、あんた……ずっと日本に居るのか?」
「はい。そのつもりで、引っ越して来ました」
「……ど、どこに」
「原田さんの、隣になります。どうか、よろしくお願いします」
繰り返された言葉に、原田は気が遠くなる。隣って、まさか。
唐突な展開に、原田の思考が追い付かない間も、バルダッチ...
話し続けている。
「……で、今度、一緒に食事をしませんか? 私が、イタリアの...
「あ……うん」
俺、今……何かを安請け合いしたような。
「今日は、会えて良かったです。原田さんは、明日もお仕事で...
「いや、日曜日だし」
「では、一緒に出掛けましょう。買いたいものがあるのですが...
よく分からないのです。案内をしてくれますか?」
「まあ、いいけど」
ちょっと待て、いいのか?
「ありがとうございます。明日、迎えに来ます」
「ああ、そう。じゃ」
ま、いいか。
バルダッチーニが、本当に隣の部屋へ入って行くのを確認し...
していた。何もかもが突然の出来事で、まるで夢でも見ている...
そうか。あいつが、また来たのか。
どうにか、その事実だけに納得すると、原田は寝る支度をす...
頭から追い出した。急ぐ事はないだろう。今日はもう遅いし、...
いいのだ。
そして、次の日。
原田は、すっかり忘れていた約束通りにドアを叩いたバルダ...
再度驚かされる羽目になる。
原田は、まだ知らなかった。
台風と共に現れたような男が、その豪雨と強風の中で無くし...
そこには、原田に似た年格好の、男性が笑っていたのだった。
□ STOP ピッ ◇⊂(´∀` )長いのに、チューも無しかよ!
敬語というより、丁寧片言日本語になってしまいました。
ヘタリア男がんばれ超がんばれ。てな訳で、おしまいです。読んで...
(途中で文字化けに苦しめられ、フォントをいじったらヘタレア語...
適当にスルーして頂けると嬉しいです。これがマカーの業とい...
#comment
終了行:
#title(ゴミ捨て場に落ちていた男) [#o0c35985]
レス下さった皆様、ありがとうございました。落ちていた敬語...
ちょっと長いですが、これで終わりです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(´∀` )うりゃ!
深夜になり、一緒に飲んでいた同僚が居酒屋を出てしまって...
家に帰りたくない。反面、あの男の事が気になって、走って...
あの外国人は、まだゴミ箱の間に居るのだろうか。それとも...
歩いて行く体力を取り戻しただろうか。
四人掛けのテーブルには、同僚達が置いて行った千円札数枚...
グラスには、溶けた氷の生温い水。
原田は、ライムサワーの匂いがする水を飲み干すと、思い切...
どうして、まだ居るんだよ。
アパートの廊下で、原田はげんなりと肩を落とした。ゴミ箱...
傘をさしたままの男を発見した途端に、気付いたのだ。本当は...
消えていてくれれば良いと思っていた事に。
だからだろうか、原田は急に沸き起こった怒りに、舌打ちし...
こいつが、どこの何者でも構うものか。さっさと消えてくれ...
保たない。はっきり言って、邪魔なのだ。迷惑なのだ。鬱陶し...
酔いも手伝ってか、急に腹の座った原田は、どかどかと足を...
「おい、あんた。まだ生きてるんだろう?」
言って、男の揃えた足先を蹴る。
「そんな所に居られると、困るんだけど。どっか行ってくれな...
ビニール傘が持ち上がり、男がぼんやりとした視線を向けて...
動揺しなかった。
「日本語が分からないのか? You are an obstacle.Come back...
途中で断念したものの、駅前留学の経験を持つ原田だ。自信...
すると、男は何度か瞬きして、ようやく口を開いた。
「Sono spiacente.」
しかし、その口から出た答えは、原田の予想を斜め上に飛び...
「Ma, non posso ritornare al paese.」
何語だよ!
つい、頭の中で突っ込みを入れてしまい、原田はぽかんと男...
「Non si preoccupi per me.」
「分からねえよ! ここは日本だぞ! 言いたい事があるなら...
「あ……すみません。ごめんなさい」
「何だって?」
聞き返してから、原田ははっとした。今のは、日本語……だよ...
「……なんだ。あんた、日本語喋れるのか」
「はい、日本語、少し分かります。ごめんなさい」
「いや、謝らなくても」
少しじゃない、立派なもんだよ。ちゃんと聞き取れるもんな。
原田は気付いていなかったが、相手がそこそこの日本語を話...
それまでの警戒心はあっさりと失せていた。しかも、ここは自...
自分のテリトリーで、意志の疎通も可能な相手という事実が、...
「で? 飯、食ったのか」
「めし?」
「パンと牛乳だよ。ごはん。ブレックファースト」
「S, capisca.ありがとうございました。全部、食べました」
そう言って男は、少し笑った。口角が上がると、骨張った顔...
やっぱりこいつ、いい顔してるな。そう思いながら、原田は意...
「いただきます? 美味しいかったです。Grazie.」
「それを言うなら、ごちそうさまだろ。ま、いいか」
雑誌の上に、きちんと並べた皿とマグカップを差し出され、...
原田は、唐突に気付く。
で、俺はどうすればいいんだ?
黙って見下ろしていると、男はまた元の沈んだ表情になり、...
いや、もう雨降ってないし。
視線を落として座り込む男と、頭をひねったまま黙り込む原...
沈黙が流れてゆく。
そのまま、数十秒が経過した。ひょっとすると、数分だった...
「うん、じゃ。元気で」
仕方なく、原田は両手で雑誌を抱えたまま、自室へ帰る事に...
食器を片付け、風呂に入っても、原田の胸には、もやもやと...
気にするまいと思えば思うほど、先ほどの男が……汚れた服に無...
終わりのような顔をした彼が……一瞬だけ見せた笑顔に、思考が...
布団に転がり、バスタオル一枚を腹に掛けて天井を眺める。...
英語じゃなかったな。何人だ? 飯も食わずにいたら、餓死す...
トイレとか、どうしてるんだろう。そもそも、何がしたくて、...
「あー、くそ! 苛々させやがって」
声に出して飛び起きると、原田はランニングシャツにトラン...
飛び出した。
ゴミ置き場に着いてみると、男は足を崩してボックスにもた...
傘を横倒しに抱えたまま、こくりこくりとしている。こいつ、...
原田の脳裏で、何かが切れた。
「こら、外人! 起きろ!」
素足で思いきり蹴飛ばすと、男は何事かという顔で跳ね起き...
緑色のボックスにしがみ付いた。真ん丸に開いた両目が、しき...
「立て! いいから立つんだよ!」
原田は、口をぱくぱくさせている男の腕を強引に掴むと、重...
長い間座っていたためか、男は斜めによろめき立つと、すぐに...
「てめぇ、殴られたいのか? 歩けって言ってんだよ」
それからは、蹴ったり引っ張ったりの繰り返しで、なんとか...
階段が相当響いたはずだが、周囲の住人は気付いているのかい...
言って来ない。きっと、関わりあいになるのが嫌なのだろう。...
部屋に放り込むと、原田も息を切らせて畳に転がる。俺だって...
関わりたくなかったよ。
しかし、日本には乗りかかった船という言葉がある。
やってやろうじゃないか。原田は、勢いをつけて起き上がる...
男の靴を脱がせた。思った通り、かなり臭う。首根っこを掴み...
またもや意味の分からない言葉が聞こえた。まったく、なんて...
ようやく、風呂場の前まで男を運ぶと、ドアを開けて中を見...
「おい、外人。とにかく、風呂に入れ」
「ごめんなさい。なにですか」
「風呂だよ、風呂。シャワー。バスルーム。臭いから、洗って...
見りゃ分かるだろ? 自分で洗え。徹底的に洗え」
男は、その灰色の目で、原田とユニットバスを交互に見やる...
合点がいったのか、四つん這いになって風呂場に入った。
「よし。それでいいんだ」
ドアを閉めてから、彼に勝手が分かるだろうか、と心配にな...
世話をしてやるのも癪で、原田は湯沸かし器のスイッチを入れ...
俺は馬鹿か。いや、馬鹿だな。タンスを漁りながら、何度も...
あんな奴を拾って、どうするつもりだ? 素性の知れない外...
なんて、頭がおかしいんじゃないか。あんな男、良くて犯罪者...
下手をすれば、家財道具を持ち逃げされるか……殺されるかも知...
それでも、何故か原田には、そんな目には遭わないという確...
彼は、悪い奴ではない。理由はないが、そう思うのだ。
結構でかかったよな、あいつ。俺の服で間に合うのか?
大きめのトランクスと、のびきったTシャツを揃え、水音の...
視線を投げる。ちゃんと、シャワーカーテンを使っていると良...
朝になって、時計を見てから、今日は休日の土曜日だったと...
道理で、携帯のアラームが鳴らないわけだ。
カーテンを開けると、狭い部屋に朝日が差し込む。今日も、...
窓の外をじっくりと眺めてから、原田はしぶしぶ振り返った。
部屋の隅に、くしゃくしゃの毛布を引っ掛けた外国人が転が...
与えたシャツとトランクスは、やはり彼には小さかった。窮屈...
丸見えの腹から察するに、かなり寝にくい格好だと思うのだが...
様子だ。よほど疲れていたのだろう、畳に顔を押し付けて、死...
起こすのが可哀想になるくらい熟睡している男の姿に、原田...
運のいい奴だな、あんたは。俺みたいに親切な男に拾われて。
原田は、男が自分から起きるまで、そっとしておく事にした...
ままの服を洗濯機に放り込み、代わりに、大きめの服をいくつ...
それから、何時間が経過しただろうか。小さな音でテレビを...
隅で、何やらつぶやく声がした。
「よう。起きたか、外人」
振り向くと、毛布を抱えて辺りを見渡す男と目が合った。
「何か食うなら、飯にするぞ? 水でも飲むか?」
「……Dove questo? ああ……」
「いいから、じっとしてろ。動くな」
原田の命令を理解したのか、こくこくと頷くと、男はまだぼ...
もぞもぞと座り直した。
コップに水を汲んでやると、素直に飲む。冷凍してあったご...
唸る回転皿をじっと見つめる。何を考えているのか分からない...
大人しく座っているので、原田は安心して部屋を動き回った。
ふりかけご飯とレトルトの味噌汁も、男は文句一つ言わずに...
思ったが、原田は、男がスプーンを駆使して食事を終えるまで...
「えーと、そんじゃ、あれだ。名前から聞こうか。俺は、原田...
「はだらだ、さん」
「違う。原田、はーらーだ」
「はらだ、さん」
「そうだよ。で、あんたの名前は?」
「私は、ニコーラ・バルダッチー二、です」
「……また、ややこしい名前だな。にこーら?」
「S, cos.ニコーラ」
「そうか。で、ニコーラは何人だ。どこから来たんだ?」
「私は、イタリアから来ました」
「イタリア人か。そうか、そうか……あんな所で、イタリア人の...
たんだ? 日本のゴミ箱でも研究しに来たのか?」
「Vacanza……バカンス、ですか? 休暇です」
「返事になってねぇよ。あんたが、俺のアパートで、何をして...
男……バルダッチーニの話は、辛抱強く聞き出す原田によって...
それによると、バルダッチーニは犯罪者でも不法入国者でも...
日本へやって来ただけの、立派な会社員であるらしい。聞き慣...
作る工場に勤め、きちんとパスポートとビザを所持している。
そんな彼が、わざわざ日本くんだりまでやって来たのは、恋...
つっかえながらの彼の言葉を並べれば、こうなる。
恋人とは、インターネットで知り合った。山田某というその...
メールのやり取りを行い、住所や電話番号も教えてもらった。...
電話をしたのだが、それ以来、連絡がつかない。
メールはアカウント不明で送り返され、電話も繋がらず、不...
いられなくなった彼は、名前と住所だけを頼りに、飛行機へ乗...
あんた、それ、騙されてたんじゃないのか? 恋人なんて、...
だけだろう? 原田は、そう言ってやりたい気持ちを、どうに...
バルダッチーニの表情が、それを思い止まらせたのだ。話が...
表情は深刻そのものに変わり、ついには、視線が茶わんとスプ...
「その、住所って、どこなんだ?」
「紙が……服の……Tasca……袋? ポケットですか?」
「おい! そんな大事なもの、ポケットに入れておくなよ。洗...
黒いシャツから出て来たのは、折り畳んだプリント用紙だっ...
住所を読んで、原田は自分の予測が正しかった事を知る。
逆から書かれた、ローマ字表記のそれは、町名まで、確かに...
「つーか、五丁目なんて、無いし」
馬鹿だな。この男は。
きっと、この住所も、適当にでっち上げたか、地図で拾った...
大体、山田なんて名前からして、偽名もいいとこだ。携帯の...
変えられるし、自分からかけなければ、地球の裏側からの電話...
あしらえる。今頃、その山田とか言う女は、腹を抱えて笑って...
相手が外国人で、それもイタリアなんて遠い所に居るから、...
会いたいなどと言われて、急に気が変わったか……最初から、そ...
海を越えて、会った事もない恋人の無事を確かめる為に、日...
こんな所まで来てしまって、存在しない住所を探して。本当に...
原田が、どう切り出したものかと迷っていると、バルダッチ...
「写真も、あります。そこに、入っています、ですか?」
「いや、写真なんて、無いけど」
言って、シャツのポケットを開いて見せると、バルダッチー...
肩を落とした。今にも泣きそうな声で、小さく呟く。
「大事に、していました。でも、なくしてしまいました」
この、間抜けの、馬鹿野郎が。写真なんて、本物の筈がない...
喉元まで出た言葉は、結局、言い出せないままになった。
日曜日の朝まで、バルダッチーニは、原田の部屋に居た。
歩き疲れて、ゴミ箱の間に座り込んでいた外国人は、原田に...
都心にあるホテルへと引き返して行った。
すっかり濡れて、嫌な臭いのする皮財布が、ゴミ箱の側で見...
後には、何も無かった。住所と、写真と、財布。それだけが、...
きっと、恋人の存在すら、残っていないだろう。
残らない方が、幸せなのだ。そう、原田は思った。
それで、奇妙な外国人との関係は終わった。
……筈だった。
「……えーと、何だっけ。ニコーラ?」
「はい、ニコーラです。原田さん、お久しぶりです」
「つーか、何で? まだ日本に居たのか?」
原田は、混乱する頭を振って、目の前の男を凝視した。
まだ、冬の気配が残る三月。花見の酒にいい気分で帰宅した...
玄関で突っ立っている、あの外国人を発見したのだ。
バルダッチーニは、やはり黒くて大きかった。黒いオーバー...
黒と灰色の毛糸が混じった小さなニット帽の頭は、玄関ドアよ...
しかし、その顔に無精髭が無く、血色の良い頬は、少し丸く...
半年以上も経過したのだから、当然とも言えるが、原田は、す...
様子のバルダッチーニに、深い安堵を覚えた。
どうやら俺は、思ったよりも、こいつの事を心配していたら...
「あんた、イタリアに帰ったんだろ?」
「はい、帰りました。でも、原田さんに会いたくなったので、...
「あ……そう。そうか」
言っている事は分かるが、意味が掴めない。
「じゃ……立ち話も何だし、入るか?」
ドアを開けると、バルダッチーニは満面の笑顔で付いて来た...
こいつは。
しかし、せっかく来たのだから、と思い直すと、原田はこた...
お茶の支度をした。イタリア人って、緑茶でも平気なのだろう...
イタリア人全般はともかく、バルダッチーニは、緑茶を美味...
買いだめしてあったポテトチップをつまみながら、原田は、何...
「それにしても、暇なんだな。イタリアの会社って、そんなに...
「いいえ、会社は辞めました」
「は?」
愕然として顔を上げると、灰色の瞳が笑みを浮かべて見返し...
そうだ。忘れていたが、こいつの目は灰色なんだった。原田...
困惑して、視線を逸らす。しかも、男前なんだった。馬鹿だけ...
「そ……そうか。辞めたのか」
「はい。それで、今回は長期のビザを取得してあるので、日本...
仕事を探そうと思っています」
「ふーん。そりゃ、良かった」
そこまで聞いて、原田はふと気が付いた。
「日本語、上手くなってるじゃないか」
「分かりますか? 私、原田さんのために、沢山勉強しました」
「……何だそりゃ」
ぎょっとして目を上げるが、バルダッチーニは笑顔で見返す...
「変なこと言うなよ。仕事のためだろ」
「そうですね。仕事をしないと、日本に居る事が出来ません。...
すぐ、就労ビザに切り替える予定です」
「へえ、大変だな。まあ、頑張れよ」
「ありがとうございます。頑張りますので、よろしくお願いし...
「はいはい……はい?」
こいつは一体、何を喋っているんだ?
「え? なに、あんた……ずっと日本に居るのか?」
「はい。そのつもりで、引っ越して来ました」
「……ど、どこに」
「原田さんの、隣になります。どうか、よろしくお願いします」
繰り返された言葉に、原田は気が遠くなる。隣って、まさか。
唐突な展開に、原田の思考が追い付かない間も、バルダッチ...
話し続けている。
「……で、今度、一緒に食事をしませんか? 私が、イタリアの...
「あ……うん」
俺、今……何かを安請け合いしたような。
「今日は、会えて良かったです。原田さんは、明日もお仕事で...
「いや、日曜日だし」
「では、一緒に出掛けましょう。買いたいものがあるのですが...
よく分からないのです。案内をしてくれますか?」
「まあ、いいけど」
ちょっと待て、いいのか?
「ありがとうございます。明日、迎えに来ます」
「ああ、そう。じゃ」
ま、いいか。
バルダッチーニが、本当に隣の部屋へ入って行くのを確認し...
していた。何もかもが突然の出来事で、まるで夢でも見ている...
そうか。あいつが、また来たのか。
どうにか、その事実だけに納得すると、原田は寝る支度をす...
頭から追い出した。急ぐ事はないだろう。今日はもう遅いし、...
いいのだ。
そして、次の日。
原田は、すっかり忘れていた約束通りにドアを叩いたバルダ...
再度驚かされる羽目になる。
原田は、まだ知らなかった。
台風と共に現れたような男が、その豪雨と強風の中で無くし...
そこには、原田に似た年格好の、男性が笑っていたのだった。
□ STOP ピッ ◇⊂(´∀` )長いのに、チューも無しかよ!
敬語というより、丁寧片言日本語になってしまいました。
ヘタリア男がんばれ超がんばれ。てな訳で、おしまいです。読んで...
(途中で文字化けに苦しめられ、フォントをいじったらヘタレア語...
適当にスルーして頂けると嬉しいです。これがマカーの業とい...
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