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#title(三匹が斬る! 殿様×千石 「流恋情歌 Part1」)
時代劇「参匹がKILL!」より、素浪人の殿様×仙石。
訳あって殿様がオカマちゃん風味。エロなしです。三回に分け...
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
とある大きな宿場の目抜き通り。ぶらぶらと見物がてら歩いて...
何の気無しにさらさらと流れ行く川を見下ろしていると、ふと...
八坂兵四郎は不可解な感傷に浸りながら、陽の光に煌めく川面...
色街をひやかしながら通り過ぎた九慈真之介は、川に面した道...
「おぉい、殿様。どした、そんなところでぼんやりして」
呼びかけると、兵四郎はゆっくりと顔を向けた。
夢見るような顔付きだったが、真之介に気付くやいなや、たち...
その口から飛び出した言葉に、真之介は仰天した。
「……せんさん!会いたかった!」
「せ、せんさん!?」
兵四郎はあだ名の仙石か、時たまは本名で真之介を呼ぶが、今...
目を剥いた真之介に、兵四郎はさらに言葉を投げかけた。
「せんさんったら、今までどこにいたのよ。あたしがあんたを、...
「……ちょ、ちょ、ちょっと待て!殿様、どうしたんだ。冗談にし...
「冗談とは何さ。あんたこそそんな、お侍の出来損ないみたいな...
「で、出来損ない!?」
真之介は憤慨しかけたが、突如しなだれかかってきた兵四郎に...
「せんさん、抱いておくれよ。あたし達、やっと会えたんだから」
「と、殿様、いい加減にしろよ!これじゃあ、とんだ見世物じゃ...
がっきと抱きつかれて困惑した真之介は、もがきながら叫んだ。
その言葉通り、いつの間にか彼らの周りを大勢の野次馬が取り...
男と女ならともかく大柄な男ふたりが、やれ会いたかっただの...
町中に住まう者や、旅の途中の物見高い輩が、おもしろげに眺...
中には浪人姿のふたりに怖じけづくことなく、からかう声を上...
「おいおいご浪人さん、お連れさんがあんなにねだってるじゃな...
「すぐ前は岡場所だってえのに、女には目もくれずあんたを待っ...
「あらまあ、どっちもけっこういい男なのに、もったいないねえ...
「しゅどう?それなぁに、おかみさん……」
野次馬達はやいのやいのと好き勝手なことをまくし立てた。
「……殿様っ、一緒に来い!」
「せんさん、痛い。もっと優しくしておくれな」
好奇の目に耐え兼ねて、真之介は纏わり付く兵四郎の腕をひっ...
目抜き通りの外れにさびれた一膳飯屋を見つけ、ふたりは中に...
腰の曲がった枯れ木のような親父が働いているだけで、他に人...
真之介は兵四郎の腕を放すと、腰に差した刀を外して粗末な椅...
兵四郎も次いで座ると、荒い呼吸のままで真之介をまた呼んだ。
「せ、せんさん……」
「だから!せんさんはよせ」
「だって、せんさんはせんさんだもの」
「殿様ぁ、しつけえぞ!一体なんのつもりだ。俺をからかってん...
「そんなに大きな声、出さないでおくれ。それにからかうだなん...
「お、おいおい、勘弁してくれ!参ったなもう」
しくしくと泣き出してしまった兵四郎に渋面を作り、真之介は...
するとまだ何も注文していないのに、熱燗を一本と猪口を二つ...
無言で徳利と猪口を台に置くと、去り際にぽそりと呟いた。
「……喧嘩は、ようないのう」
よぼよぼとした足取りで板場に戻る親父を見送った真之介は、...
帯に挟んでいた手ぬぐいを掴んで差し出すと、兵四郎は少し笑...
ため息をついた真之介は気を落ち着けようと、酒を注いで一口...
「あのなあ、殿様」
「せんさん。さっきからあたしを、殿様、殿様って呼ぶけど……ど...
「……はあ?」
「まあでも、そんなあだ名なんかよりちゃんと、名前で呼んで欲...
「じゃ、じゃあ、へ……兵四郎」
滅多に呼ばない名前をやや照れ臭い思いで呼ぶと、兵四郎は顔...
「もう!せんさんたら、ふざけてないで前みたいに、『お絹』っ...
「お、おきぬぅ!?」
完全に様子がおかしい、いやおかしいなんてもんじゃない、こ...
あらためて見れば兵四郎は、腰から大刀も取らず不自由そうに...
姿形は紛れも無い兵四郎だが、斜めに座り妙にしなをつくって...
わけがわからぬまま、真之介は兵四郎が望む名前を呼んだ。
「あの……お絹、さん」
「水くさいねえ。さんはいらないよ」
「そうか。じゃあ、お絹。お前は、確かにお絹なんだな」
「当たり前じゃないか。あんたと言い交わした、梅乃屋の絹です...
「言い……!いやっ、だがなお絹。お前その、自分の、か、顔を」
「顔?顔がなんだって言うんだい」
不思議そうに首を傾げられた真之介は、奥の親父にここに鏡は...
親父が首を横に振るのを見て、兵四郎は笑って言った。
「鏡なら、あたしの部屋にあるわよ。そうだせんさん、うちのお...
「お店ってのは……梅乃屋とやらか」
「そうよ。さ、いらっしゃい。もう、絶対に逃がさないんだから」
さっきとは逆に、兵四郎が真之介の腕を引いて立ち上がった。
店を出ようとすると意外な素早さで追いかけてきた親父が、こ...
「殿様!後で金返せよ」
「いやなせんさん。あたしの名前は、絹ですってば」
歩きながら腕を軽くつねられて、真之介はもうなるようになれ...
普段通りに営業していた梅乃屋に、ちょっとした騒ぎが巻き起...
旅の浪人らしきふたり連れが、女も選ばぬうちに店先から中へ...
慌てたやり手婆が金切り声を上げてふたりを制したが、前を歩...
「ちょ、ちょっと、困りますよお侍さん方!なんだって、勝手に...
「あらお勝さんこそ、なんだって止めるのよ。あたしが自分の部...
「じ、自分の部屋って……何言ってんだい、あんた!おかしな真似...
「まま、待て待て婆さん!役人は困るっ、役人は」
真之介が老婆をなだめている隙に、兵四郎は奥の部屋に入り込...
しかしすぐにまた店先に姿を現すと、おっかなびっくり自分達...
「おかしいわねえ、あたしの荷物が見当たらないのよ。ねえ、お...
「えっ、な、なんであたしの名前を!?」
名前を言い当てられて驚く女を尻目に、兵四郎はねえお夏ちゃ...
「さ、騒がせてすまん!この男は俺の友人なんだが、どういう訳...
老婆を羽交い締めにしながら真之介が説明すると、女達は口々...
「お絹って、あのお絹ちゃん?」
「まさか、だってこの人、どう見たって男よ」
「それにお絹ちゃんは、もう……」
戸惑いさざめく声に苛々とし、真之介は叫んだ。
「お前ら、お絹を知ってるのか。お絹は確かに、この店にいるん...
「せんさん、だからあたしが絹だって言ってるじゃないの。みん...
兵四郎がせんさん、と呼ぶのを聞いて、女達はまじまじと真之...
「な、なんだなんだ!」
「……あんた、せんさん?」
「間違いないよ、この人せんさんだ!お侍みたいな恰好してるけ...
「馬鹿っ!今更帰って来たって、遅いんだよう」
「あんたがもっと早く帰って来てたら、お絹ちゃんは、お絹ちゃ...
「なんだっ、お前らまで一体何の話だ!俺は知らんぞ。第一俺は...
しらばっくれるのかと女達に鼻息荒く詰め寄られ、身に覚えの...
女達に絡まれる真之介のかたわらで、なおも鏡を探して辺りを...
「あのこれ、お絹ちゃんの鏡だけど……」
「あらありがとう、おきみちゃん。どこにあったの?」
「あたしが貰ったんだよ、お絹ちゃんの形見分けに」
「形見分け?何言って……」
おきみから受け取った手鏡を、兵四郎は笑いながら覗き込んだ...
「何これ……誰よ、この顔!お、男じゃないの!」
「だから、さっきから言ってるだろうが!お前は兵四郎だよ、八...
「お絹ちゃんは、亡くなったんだよ。つい、五日程前にね……」
真之介の吠える声と女の悲しげな声を耳にして、青ざめた顔の...
「……あたし、死んだの?」
呟いてからふらつき倒れそうになるのを、真之介は慌てて抱き...
「おい、殿様!しっかりしろよっ」
肩を揺さぶると、目を閉じてうなだれていた兵四郎は、すぐに...
「仙石?どうしたんだ」
「と、殿様!俺がわかるのか」
「当たり前じゃないか……おいおい仙石、お前、金も無い癖にこん...
「ば、ばっ……馬鹿野郎!」
飄々としたいつもの調子に安堵しつつも、誰のせいでこんなと...
怒り心頭の老婆に客じゃないなら出て行けと男衆をけしかけら...
あまり時間は取れないからと前置きし、女は船着き場までふた...
「あんた、本当にせんさんかい?」
「だから、違う!俺は九慈真之介ってえ名で、あだ名は確かに仙...
「そうだろうね。みんなはああ言ってたけど、あたしはお絹ちゃ...
おきみは、頷く真之介から兵四郎に目線を移した。
「それで、こっちの人だけど……最初はからかってるのかと思った...
「そうなのか?殿様、お前、自分が女だって言い張ってたんだぞ...
「……うん、言われてみれば、うっすらと覚えているな。確かに俺...
真之介とおきみの会話を聞いていた兵四郎は、目を閉じて胸に...
「多分、お絹という女はまだ、俺の中にいるのだ。よくわからん...
「おい殿様……そいつは、まさか」
「お絹ちゃん、この人に取り憑いちまったんだねえ……」
目を丸くしたふたりに見つめられて、兵四郎は少し困ったよう...
遊女のお絹には、千吉という馴染みの客がいた。元はいずこか...
ふと訪れた梅乃屋で千吉はお絹に岡惚れし、足しげく通ううち...
お絹を身請けするために、まとまった金を作って帰ってくるか...
それが三年前のことで、お絹は毎日のように船着き場に立って...
しかし三年の間何の音沙汰もなく、待ち疲れたお絹はひいた風...
苦界に身を沈めた女のありふれた悲劇ではあるが、話を聞いた...
仔細を語ったおきみは、まだお絹と話をしたいから、明日もま...
兵四郎と真之介は再び飯屋に舞い戻り、酒を酌み交わした。
「このところの寒さにもめげず、川を眺めていたんだな。弱った...
「ふん、色を売る女が客の戯言なんぞを、真に受けるからだ。ま...
「そう言ってやるな、仙石。きっと本気で惚れていたんだ」
自分に棲みついた女に同調しているのか、兵四郎はやけにしん...
真之介は口では罵ったが、心中では女を哀れに思い、騙した男...
「しかしその、どうする殿様。お祓いでも頼んでみるか」
「うーん、お祓いかあ。ちょっと可哀相な気もするな」
「呑気なこと言ってる場合か。取り憑かれたまんま、旅するわけ...
「乗っ取るなんてしませんよ。いやねえ、人聞きの悪い」
「わかるもんか。女郎なんてのはな、一癖も二癖もある……な、な...
うっかり聞き流しかけた真之介は、飲みかけた猪口を台に置き...
兵四郎は台に両の肘を乗せて頬杖を付き、にこやかに真之介を...
「せんさん」
「……違う!」
「そうねえ、こうしてよく見ると、違ったわね。あたしのせんさ...
「や、やかましい!お前、お絹だなっ」
「そうですよ、旦那。九慈様って言ったかしら。おかしなことに...
「……なに?お願いたあ、どういう意味だ」
「あたししばらく、この旦那の身体にいさせてもらいますからさ...
「なんだと!?ば、馬鹿抜かせっ」
ぺこりと下げた頭の上から、真之介は怒鳴り付けた。
兵四郎は唇を尖らせて、拗ねたようにまた語りかけた。
「だってねえ、あたし死んじゃったんだもの。でもせんさんにま...
「だ、だからって、そいつにくっついていられちゃあ、迷惑だ!」
「まあねえ、あたしも本当は男の人の中にいるなんていやなんだ...
そしたらいつか、せんさんに巡り逢えるかもしれない。もう添...
「な……なんて女だ」
あれほど驚いていた自分の死をあっさり受け入れ、取り憑いた...
己れの身一つで生き抜いてきた女の逞しさが、そこにはあった。
「せんさんに似てる旦那に会えたのも、何かのご縁かも。だから...
「……本当に、そいつを乗っ取ったりしないな?」
「しませんったら。なんなら指切りげんまんで、お約束しましょ...
手を合わせた後小指を差し出した兵四郎に、真之介は苦笑した。
「馬鹿、男と指切りなんぞ出来るか。もういい、わかった。殿様...
「ああ、俺は構わんよ。女の気分も味わえて、なんだかちょっと...
「ほらな、こういう奴……と、殿様!?」
「うん。仙石、まあそんな訳で一つ、よろしく頼む」
屈託なく笑うと、兵四郎は親父に酒の追加を頼んだ。
しばらく俺はこれに付き合わされるのか、そしてしばらくって...
[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!
続きはまた後日に。
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#title(三匹が斬る! 殿様×千石 「流恋情歌 Part1」)
時代劇「参匹がKILL!」より、素浪人の殿様×仙石。
訳あって殿様がオカマちゃん風味。エロなしです。三回に分け...
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
とある大きな宿場の目抜き通り。ぶらぶらと見物がてら歩いて...
何の気無しにさらさらと流れ行く川を見下ろしていると、ふと...
八坂兵四郎は不可解な感傷に浸りながら、陽の光に煌めく川面...
色街をひやかしながら通り過ぎた九慈真之介は、川に面した道...
「おぉい、殿様。どした、そんなところでぼんやりして」
呼びかけると、兵四郎はゆっくりと顔を向けた。
夢見るような顔付きだったが、真之介に気付くやいなや、たち...
その口から飛び出した言葉に、真之介は仰天した。
「……せんさん!会いたかった!」
「せ、せんさん!?」
兵四郎はあだ名の仙石か、時たまは本名で真之介を呼ぶが、今...
目を剥いた真之介に、兵四郎はさらに言葉を投げかけた。
「せんさんったら、今までどこにいたのよ。あたしがあんたを、...
「……ちょ、ちょ、ちょっと待て!殿様、どうしたんだ。冗談にし...
「冗談とは何さ。あんたこそそんな、お侍の出来損ないみたいな...
「で、出来損ない!?」
真之介は憤慨しかけたが、突如しなだれかかってきた兵四郎に...
「せんさん、抱いておくれよ。あたし達、やっと会えたんだから」
「と、殿様、いい加減にしろよ!これじゃあ、とんだ見世物じゃ...
がっきと抱きつかれて困惑した真之介は、もがきながら叫んだ。
その言葉通り、いつの間にか彼らの周りを大勢の野次馬が取り...
男と女ならともかく大柄な男ふたりが、やれ会いたかっただの...
町中に住まう者や、旅の途中の物見高い輩が、おもしろげに眺...
中には浪人姿のふたりに怖じけづくことなく、からかう声を上...
「おいおいご浪人さん、お連れさんがあんなにねだってるじゃな...
「すぐ前は岡場所だってえのに、女には目もくれずあんたを待っ...
「あらまあ、どっちもけっこういい男なのに、もったいないねえ...
「しゅどう?それなぁに、おかみさん……」
野次馬達はやいのやいのと好き勝手なことをまくし立てた。
「……殿様っ、一緒に来い!」
「せんさん、痛い。もっと優しくしておくれな」
好奇の目に耐え兼ねて、真之介は纏わり付く兵四郎の腕をひっ...
目抜き通りの外れにさびれた一膳飯屋を見つけ、ふたりは中に...
腰の曲がった枯れ木のような親父が働いているだけで、他に人...
真之介は兵四郎の腕を放すと、腰に差した刀を外して粗末な椅...
兵四郎も次いで座ると、荒い呼吸のままで真之介をまた呼んだ。
「せ、せんさん……」
「だから!せんさんはよせ」
「だって、せんさんはせんさんだもの」
「殿様ぁ、しつけえぞ!一体なんのつもりだ。俺をからかってん...
「そんなに大きな声、出さないでおくれ。それにからかうだなん...
「お、おいおい、勘弁してくれ!参ったなもう」
しくしくと泣き出してしまった兵四郎に渋面を作り、真之介は...
するとまだ何も注文していないのに、熱燗を一本と猪口を二つ...
無言で徳利と猪口を台に置くと、去り際にぽそりと呟いた。
「……喧嘩は、ようないのう」
よぼよぼとした足取りで板場に戻る親父を見送った真之介は、...
帯に挟んでいた手ぬぐいを掴んで差し出すと、兵四郎は少し笑...
ため息をついた真之介は気を落ち着けようと、酒を注いで一口...
「あのなあ、殿様」
「せんさん。さっきからあたしを、殿様、殿様って呼ぶけど……ど...
「……はあ?」
「まあでも、そんなあだ名なんかよりちゃんと、名前で呼んで欲...
「じゃ、じゃあ、へ……兵四郎」
滅多に呼ばない名前をやや照れ臭い思いで呼ぶと、兵四郎は顔...
「もう!せんさんたら、ふざけてないで前みたいに、『お絹』っ...
「お、おきぬぅ!?」
完全に様子がおかしい、いやおかしいなんてもんじゃない、こ...
あらためて見れば兵四郎は、腰から大刀も取らず不自由そうに...
姿形は紛れも無い兵四郎だが、斜めに座り妙にしなをつくって...
わけがわからぬまま、真之介は兵四郎が望む名前を呼んだ。
「あの……お絹、さん」
「水くさいねえ。さんはいらないよ」
「そうか。じゃあ、お絹。お前は、確かにお絹なんだな」
「当たり前じゃないか。あんたと言い交わした、梅乃屋の絹です...
「言い……!いやっ、だがなお絹。お前その、自分の、か、顔を」
「顔?顔がなんだって言うんだい」
不思議そうに首を傾げられた真之介は、奥の親父にここに鏡は...
親父が首を横に振るのを見て、兵四郎は笑って言った。
「鏡なら、あたしの部屋にあるわよ。そうだせんさん、うちのお...
「お店ってのは……梅乃屋とやらか」
「そうよ。さ、いらっしゃい。もう、絶対に逃がさないんだから」
さっきとは逆に、兵四郎が真之介の腕を引いて立ち上がった。
店を出ようとすると意外な素早さで追いかけてきた親父が、こ...
「殿様!後で金返せよ」
「いやなせんさん。あたしの名前は、絹ですってば」
歩きながら腕を軽くつねられて、真之介はもうなるようになれ...
普段通りに営業していた梅乃屋に、ちょっとした騒ぎが巻き起...
旅の浪人らしきふたり連れが、女も選ばぬうちに店先から中へ...
慌てたやり手婆が金切り声を上げてふたりを制したが、前を歩...
「ちょ、ちょっと、困りますよお侍さん方!なんだって、勝手に...
「あらお勝さんこそ、なんだって止めるのよ。あたしが自分の部...
「じ、自分の部屋って……何言ってんだい、あんた!おかしな真似...
「まま、待て待て婆さん!役人は困るっ、役人は」
真之介が老婆をなだめている隙に、兵四郎は奥の部屋に入り込...
しかしすぐにまた店先に姿を現すと、おっかなびっくり自分達...
「おかしいわねえ、あたしの荷物が見当たらないのよ。ねえ、お...
「えっ、な、なんであたしの名前を!?」
名前を言い当てられて驚く女を尻目に、兵四郎はねえお夏ちゃ...
「さ、騒がせてすまん!この男は俺の友人なんだが、どういう訳...
老婆を羽交い締めにしながら真之介が説明すると、女達は口々...
「お絹って、あのお絹ちゃん?」
「まさか、だってこの人、どう見たって男よ」
「それにお絹ちゃんは、もう……」
戸惑いさざめく声に苛々とし、真之介は叫んだ。
「お前ら、お絹を知ってるのか。お絹は確かに、この店にいるん...
「せんさん、だからあたしが絹だって言ってるじゃないの。みん...
兵四郎がせんさん、と呼ぶのを聞いて、女達はまじまじと真之...
「な、なんだなんだ!」
「……あんた、せんさん?」
「間違いないよ、この人せんさんだ!お侍みたいな恰好してるけ...
「馬鹿っ!今更帰って来たって、遅いんだよう」
「あんたがもっと早く帰って来てたら、お絹ちゃんは、お絹ちゃ...
「なんだっ、お前らまで一体何の話だ!俺は知らんぞ。第一俺は...
しらばっくれるのかと女達に鼻息荒く詰め寄られ、身に覚えの...
女達に絡まれる真之介のかたわらで、なおも鏡を探して辺りを...
「あのこれ、お絹ちゃんの鏡だけど……」
「あらありがとう、おきみちゃん。どこにあったの?」
「あたしが貰ったんだよ、お絹ちゃんの形見分けに」
「形見分け?何言って……」
おきみから受け取った手鏡を、兵四郎は笑いながら覗き込んだ...
「何これ……誰よ、この顔!お、男じゃないの!」
「だから、さっきから言ってるだろうが!お前は兵四郎だよ、八...
「お絹ちゃんは、亡くなったんだよ。つい、五日程前にね……」
真之介の吠える声と女の悲しげな声を耳にして、青ざめた顔の...
「……あたし、死んだの?」
呟いてからふらつき倒れそうになるのを、真之介は慌てて抱き...
「おい、殿様!しっかりしろよっ」
肩を揺さぶると、目を閉じてうなだれていた兵四郎は、すぐに...
「仙石?どうしたんだ」
「と、殿様!俺がわかるのか」
「当たり前じゃないか……おいおい仙石、お前、金も無い癖にこん...
「ば、ばっ……馬鹿野郎!」
飄々としたいつもの調子に安堵しつつも、誰のせいでこんなと...
怒り心頭の老婆に客じゃないなら出て行けと男衆をけしかけら...
あまり時間は取れないからと前置きし、女は船着き場までふた...
「あんた、本当にせんさんかい?」
「だから、違う!俺は九慈真之介ってえ名で、あだ名は確かに仙...
「そうだろうね。みんなはああ言ってたけど、あたしはお絹ちゃ...
おきみは、頷く真之介から兵四郎に目線を移した。
「それで、こっちの人だけど……最初はからかってるのかと思った...
「そうなのか?殿様、お前、自分が女だって言い張ってたんだぞ...
「……うん、言われてみれば、うっすらと覚えているな。確かに俺...
真之介とおきみの会話を聞いていた兵四郎は、目を閉じて胸に...
「多分、お絹という女はまだ、俺の中にいるのだ。よくわからん...
「おい殿様……そいつは、まさか」
「お絹ちゃん、この人に取り憑いちまったんだねえ……」
目を丸くしたふたりに見つめられて、兵四郎は少し困ったよう...
遊女のお絹には、千吉という馴染みの客がいた。元はいずこか...
ふと訪れた梅乃屋で千吉はお絹に岡惚れし、足しげく通ううち...
お絹を身請けするために、まとまった金を作って帰ってくるか...
それが三年前のことで、お絹は毎日のように船着き場に立って...
しかし三年の間何の音沙汰もなく、待ち疲れたお絹はひいた風...
苦界に身を沈めた女のありふれた悲劇ではあるが、話を聞いた...
仔細を語ったおきみは、まだお絹と話をしたいから、明日もま...
兵四郎と真之介は再び飯屋に舞い戻り、酒を酌み交わした。
「このところの寒さにもめげず、川を眺めていたんだな。弱った...
「ふん、色を売る女が客の戯言なんぞを、真に受けるからだ。ま...
「そう言ってやるな、仙石。きっと本気で惚れていたんだ」
自分に棲みついた女に同調しているのか、兵四郎はやけにしん...
真之介は口では罵ったが、心中では女を哀れに思い、騙した男...
「しかしその、どうする殿様。お祓いでも頼んでみるか」
「うーん、お祓いかあ。ちょっと可哀相な気もするな」
「呑気なこと言ってる場合か。取り憑かれたまんま、旅するわけ...
「乗っ取るなんてしませんよ。いやねえ、人聞きの悪い」
「わかるもんか。女郎なんてのはな、一癖も二癖もある……な、な...
うっかり聞き流しかけた真之介は、飲みかけた猪口を台に置き...
兵四郎は台に両の肘を乗せて頬杖を付き、にこやかに真之介を...
「せんさん」
「……違う!」
「そうねえ、こうしてよく見ると、違ったわね。あたしのせんさ...
「や、やかましい!お前、お絹だなっ」
「そうですよ、旦那。九慈様って言ったかしら。おかしなことに...
「……なに?お願いたあ、どういう意味だ」
「あたししばらく、この旦那の身体にいさせてもらいますからさ...
「なんだと!?ば、馬鹿抜かせっ」
ぺこりと下げた頭の上から、真之介は怒鳴り付けた。
兵四郎は唇を尖らせて、拗ねたようにまた語りかけた。
「だってねえ、あたし死んじゃったんだもの。でもせんさんにま...
「だ、だからって、そいつにくっついていられちゃあ、迷惑だ!」
「まあねえ、あたしも本当は男の人の中にいるなんていやなんだ...
そしたらいつか、せんさんに巡り逢えるかもしれない。もう添...
「な……なんて女だ」
あれほど驚いていた自分の死をあっさり受け入れ、取り憑いた...
己れの身一つで生き抜いてきた女の逞しさが、そこにはあった。
「せんさんに似てる旦那に会えたのも、何かのご縁かも。だから...
「……本当に、そいつを乗っ取ったりしないな?」
「しませんったら。なんなら指切りげんまんで、お約束しましょ...
手を合わせた後小指を差し出した兵四郎に、真之介は苦笑した。
「馬鹿、男と指切りなんぞ出来るか。もういい、わかった。殿様...
「ああ、俺は構わんよ。女の気分も味わえて、なんだかちょっと...
「ほらな、こういう奴……と、殿様!?」
「うん。仙石、まあそんな訳で一つ、よろしく頼む」
屈託なく笑うと、兵四郎は親父に酒の追加を頼んだ。
しばらく俺はこれに付き合わされるのか、そしてしばらくって...
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作品一覧
シリーズものインデックス3
シリーズものインデックス2
シリーズものインデックス
第71巻
第70巻
第69巻
第68巻
第67巻
第66巻
第65巻
第64巻
第63巻
第62巻
第61巻
第60巻
第59巻
第58巻
第57巻
第56巻
第55巻
第54巻
第53巻
第52巻
第51巻
第50巻
第49巻
第48巻
第47巻
第46巻
第45巻
第44巻
第43巻
第42巻
第41巻
第40巻
第39巻
第38巻
第37巻
第36巻
第35巻
第34巻
第33巻
第32巻
第31巻
第30巻
第29巻
第28巻
第27巻
第26巻
第25巻
第24巻
第23巻
第22巻
第21巻
第20巻
第19巻
第18巻
第17巻
第16巻
第15巻
第14巻
第13巻
第12巻
第11巻
第10巻
第9巻
第8巻
第7巻
第6巻
第5巻
第4巻
第3.1巻
第3巻
第2巻
第1巻
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