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#title(ファイナルファンタジー11 「或る青魔道士の記憶」)
某最終幻想オンラインなスレの134さんに触発されて書いてみま...
主要キャラは捏造(原作にはいません)&ダーク・病み・グロ...
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
血が騒ぐという言葉は、あまりにも的確すぎた。
体は知っている、その先には抗いようのない快楽があること...
心は理解している、それが忌避しなければならないものであ...
錆鉄と脂の匂い、言葉になど表現しようもないほど甘美なそ...
わずかな青色をおびた銀の刃に纏わりついた肉片を振り払う。
振り落とされた肉片にも、わずかに飛沫を散らす血にも見向...
まだだ、もっと、もっと、もっと、もっとだ、血はそうざわ...
「ファルシャード?」
自分を呼ぶ声に、急激に意識は悪夢の底から引き摺り上げら...
脂汗は額だけではなかった。
衣服が随分と汗を吸っていて、ひどく不快だった。
いつの間にか眠っていたらしい。
眠りを求める間隔は少しずつ、しかし確実に短くなっていた。
この体も眠りを欲するのだ、などと、忘れかけていたことを...
この期に及んで、この体はずいぶんと人間らしくなっている...
「ファルシャード、大丈夫?」
大丈夫でないことなど分かっているけれど、と、その瞳は暗...
このところ任務のあとは、いつもこうだ。
鉄錆と脂の匂いに血は煽られ、この精神を責めたてる。
それに抗いきれなくなることが、日を追うごとに多くなって...
任務の標的となるものの大半は、殺してもさして問題もない...
けれど、ここ一月ほどの己の行動は常軌を逸している。
不滅隊には得てして、刃を振るうとなると理性の箍が外れた...
けれど自分がそうであったかというと、それは否であり、そ...
自分を覗き込む相棒であり親友―――ベフルーズがどれだけ心配...
ただただ確実に訪れるその時を、ささやかな抵抗を試み―――
…中にはそれすらせずに受け入れる者もいるが、結局は完全な人...
遅かれ早かれ、その身はいつか取り込んだ魔に蝕まれて、心...
漠然とは分かっていたことであり、そうなった同士に引導を...
それが己の身に現実として突きつけられるのは、蝕まれ疲弊し...
「まだ、大丈夫だ。」
ファルシャードはにやりと笑ってみせたが、それでも『まだ...
いつかは大丈夫でなどなくなることは、ベフルーズも知って...
その時はせめてこの手で、などと辛気臭い事を言うのはあま...
にやりと笑うファルシャードとは対照的に、ベフルーズは瞳...
青魔道士ファルシャード、青魔道士ベフルーズ。
親も家もない街角の孤児だった、名前のない二人の渾名のよ...
同じ『幸運』の意味の名を持つ二人は、容貌もよく似ていた。
ベフルーズのほうが僅かに小柄。
陽にあたった時、髪が上等の金糸のような輝きを帯びるファ...
「明日は早いから、もう少し休んでおくといいよ。」
「…ああ。」
非常呼集があったら起こすね、そう言うベフルーズの声を背...
彼の眠りを妨げないようにと、ベフルーズは灯りを点けずに...
明かりがなくとも物が見え、休まずとも不要な食事を摂らず...
無理をすれば身体は疲れる。
疲れた身体は眠りを欲する。
そして空腹を感じる。
すべて普通の人間であればあたりまえのことで、青魔道士と...
忌まわしい兆候とともに戻ってくることがある、というのは初...
青魔道士にとって眠りへの欲求は、身体よりも精神の疲弊に...
兆候によって引き起こされる睡眠も、つまりはそういう事だ。
ふと、味覚を慰める以上の意味での、普通の人間の普通の食...
自分にも、いつか彼のように兆候が訪れ、いずれ変容し、お...
それが彼に訪れるほうが少し早かっただけ、ただそれだけな...
けれど、そう簡単に割り切ることなどできようもない。
何よりも堪えるのは、そのとき傍らには、彼がいないという...
きっと、ただ自分が人ではない何かに成り果てることよりも...
本の中身が頭に入らないのは、暗闇の所為ではなかった。
寝具としての役割を殆どまっとうできない、真鍮製のベッド...
瞼の裏には、爛々とぎらつく瞳で返り血を浴びる親友の姿が...
今日の任務は、任務とは名ばかりのものだった。
へディバ島の魔物の掃討作戦。
元々僻地であり、この地が皇国に与える脅威はさして大きく...
理由は至極単純明快。
不滅隊、つまり青魔道士達の、人目を憚る必要のない『餌場...
存分に獲物を狩り、血を浴び、喰らえ、つまりそういうこと...
本来青魔道士の獲物は、魔物であれば、個人の嗜好を除いて...
最悪の場合は魔物である必要すらない―――
…つまりは人間でも構わないのだが、そこに行き着いてしまう事...
元々皇国の民からは畏怖と忌避の目でみられる国の暗部が、さ...
そこで青魔道士達の飢えをしのがせる為に目をつけられたの...
小隊長の号令と同時に、蒼黒の装束の魔道士達は獲物を求め...
二人も例外ではなく、しかし互いに離れることのないよう暗...
獲物とて馬鹿ではない、ましてこの島に生息するのは、格段...
掃討作戦が所詮形だけの任務とはいえ、掃討すべき対象であ...
定期的な掃討作戦が行われていながら、一向にその生息数を...
ファルシャードはといえば、その足取りも態度も、このとこ...
そう見えてしまったことも、事を悪い方向へと向けてしまう...
食事をするにも気分がのらないと言って、ただ淡々と額面ど...
湾刀を振るい、ザッハークの印を結び、返り血を拭うことも...
あまりの何事もなさに、ベフルーズでさえ気付くことに遅れ...
少しずつ、彼の歩みが速まり、浮き足立っていることに。
口元を覆ったこの装束では、彼の口の端が笑みをつくってい...
ふいにファルシャードの腰のキリジが引き抜かれたのは、鬱...
獲物に気付いたのか、引き抜くが早いかその足は一気に低木...
その方角から、場違いな人間の声が聞こえたような気がした。
ベフルーズは慌てて追いかける。
嫌な予感がする。
気のせいであってくれ。
頼むから、そうであって。
ざわめきの源は木のそよぎか、不安に駆られる心か、騒ぎを...
木立を抜けた先で見たのは、苛烈に湾刀を振るう友の姿。
その対峙した獲物は――――――人間だった。
赤く染まったサーコートの腹部を押さえ、辛うじてファルシ...
ふいの闖入者にパニックを起こす白魔道士の少女と、華美な...
苛烈な剣戟でがら空きの背後を取ろうとしたのは、漆黒の東...
すべて織り込み済みとばかり、ファルシャードは振り向きざ...
山猫の傭兵――中の国の冒険者達は、こちらの事情など知るよ...
考えるより早く、ベフルーズは抜きはなったキリジを友に向...
一瞬こちらを向いた瞳は、血と狂気に飢えた光を帯びている。
にげろ、はやく、冒険者にむけてケフィエのヴェール越しに...
なんなの、これは、とか、不滅隊が、とか、どうしてこんな...
とにかく冷静であろうとする赤魔道士のエルヴァーンが、錯...
少女の唇が、恐怖に途切れながらもなにかの詠唱を紡ぐのが...
白魔法には疎いので何の詠唱かまでは分からないが、仲間の...
はやく唱えきれ、心の中でベフルーズは舌を打つ。
途切れ途切れの詠唱が完了し、転移の魔法は一瞬のうちに発...
冒険者達は淡い光の中に消え、ナイト目掛けて斬り結ばれる...
「なにやってんだ馬鹿!」
そう怒鳴るベフルーズへと、今度はキリジの切っ先が向けら...
まずは動きを封じなければ。
ベフルーズの手がザッハークの印を結ぼうと、ファルシャー...
しかし青魔法はあっさりと中断させられた。
ベフルーズの手から湾刀が零れ落ちる。
ファルシャードの湾刀が口元を覆うヴェールを切り裂く。
返し刃がひたりと首筋で止められた。
がくりと足の力が抜け、膝が地におちる。
「お前、なにしてるのかわかって」
それでもどうにか制止しようと、睨みつけ見上げたファルシ...
ベフルーズの喉がごくり鳴った。
色々と、覚悟しなくてはならないと、状況は否応なくそう告...
ふいにファルシャードが膝をおり、友と同じ高さまで視線を...
「じゃあ、お前が」
ファルシャードは哂った。
狂気、血の匂い、嵐の前の静けさ。
「お前が、どうにかしてくれよ。」
熱っぽさを帯びた声は狂気を隠そうともしない。
そう言うが早いか、ファルシャードは眼前の友の、蒼黒の戦...
自分のかわりに、文字通り絹を引き裂くその音が悲鳴のかわ...
身体を地に押さえつけられた頭に、箍のはずれた友の笑う声...
何が起きているのか、何をされているのかは至ってシンプル...
つまり、暴力と同義の性行為。
けれど、犯され揺さぶられる身体と、悲鳴とも呻きともつか...
自分を犯すファルシャードがどんな顔をしていたのかも、五...
抵抗すらも、どうでもいいとばかりに切り捨てていた。
ただただ、されるがままに犯される。
暴力の矛先にされた体が悲鳴をあげるのとは裏腹に、ひどく...
これはファルシャード自身にすらもう御することのできない...
決して思考だけが冴えていたわけでもない、ぼんやりとした...
身体の奥に熱いものが注ぎ込まれ、程なく荒い息だけをのこ...
ああ、終わったんだなと、それすらもどうでもいいように、...
緩慢に、ずるりと性器を引き抜いたファルシャードは、友を...
ベフルーズも、身じろぎひとつも、ぼんやりと何をみている...
時がとまったような空間が、ゆっくりと、再び動きはじめた。
焦点の定まらないベフルーズの顔に、通り雨のように振った...
涙。
焦点を失った瞳は、くしゃくしゃと顔を歪ませた涙の主を視...
認識したのは正気を取り戻した友の顔。
涙と嗚咽を垂れ流す友の唇が、何事かを発するようにかすか...
「……め…」
崩れるように、ベフルーズの胸に蹲る彼。
ベフルーズ、ごめん。
彼の言葉が、何度も、何度も、何度も、何度も、繰り返され...
散々に暴れた魔は、満足しきったようになりを潜めていた。
気付くとその手は、彼の金糸のような髪にそっと触れていた。
何かを言おうと思った訳ではないけれど、彼の暴力も陵辱も...
「よかった。」
よかった、元にもどってくれて。
よかった、人まで手にかけてしまうことがなくて。
目尻を細めようとしたけれど、唇に笑みをうかべようとした...
果たして、上手く笑えているだろうか。
これだけで済んだ。
この身体ひとつで、これだけで済むなら、いくらだって差し...
だから、いいんだ。
強張る体を動かして、子供をあやすようにファルシャードの...
これだけで、少しでも彼の正気を繋ぎ止めることができたの...
ねえ、泣かないで。
俺はファルシャードが戻ってこない方がずっと辛いんだから。
温度も表情もない声色だったけれど、ベフルーズの唇は淡々...
それからというもの、ファルシャードを度々煽る魔のかたち...
見境なく獲物を求め、追い回し、切り刻む真似をしなくなっ...
もっと正確に言うならば、彼らは暴力と陵辱というかたちで...
そして、表向き身体の主であるファルシャードの側には、そ...
普通の人間よりはずっと強く、回復力も生命力もある同族。
任務のあと――つまり、ほぼ毎日のように行われる暴力と陵辱...
最初はただ乱暴で一方的だっただけの行為が、日増しに暴力...
それどころか、それでいいんだと、正気に返っては泣き詫び...
ただ、そんな日々の中で、ベフルーズは少しずつ、感情と表...
首に巻きつくように浮かぶ鬱血の跡。
食い千切らんばかりに残された、項の歯型。
瞳以外のほぼ全身を覆うメガス装束と、文字通り人間離れし...
尤も、同族である同士達には、暴力も陵辱も全て見抜かれて...
彼らだって、内側から己を蝕む魔に抗しきる手段などないの...
これを止められることも、止める事も望んでなどいなかった。
この身体を供しているうちは、彼に踏みとどめることのでき...
彼を失わずに済む。
物心ついてからの人生をずっと共にしてきた、己の半身のよ...
魔物と成り果てた彼を見ずに済む。
内から蝕む狂気に振り回され、疲れきって眠るファルシャー...
簡素な真鍮細工の施された窓枠の向こうの月は、細く鋭く、...
いくら人間よりは脆くない体といっても、手酷い暴力と陵辱...
やっと動かせるようになった身体を引き摺り、浴室に向かう。
身体に残る痣が、以前よりも消えにくくなった。
内に飼う魔物の力だって無限ではない。
求められる『食事』の、回数も量もずっと増えた。
だから、任務の合間にワジャームの奥地に向かい、プークや...
あまりに血を含みすぎた装束を、いくつも処分した。
使い途のない俸給だけは手元にいくらでもあったから、黄金...
力のない瞳で、ファルシャードの背に刻まれた双頭の蛇を見...
それは自分にも、他の青魔道士にもおなじように在る、逃れ...
ベフルーズは気付いていない。
彼の背を見やる己の瞳には、自己犠牲とも諦観とも違う別の...
その正体が、狂気や愉悦の類であるということにも、気付い...
いとおしげにファルシャードの双頭蛇にふれる唇の端が、そ...
押し付けられる衝動と狂気が日常と成り果てた頃。
切っ掛けがなんだったのかは、わからない。
けれど、その時は訪れた。
牢獄に収監したはずの海猫党員が逃亡を図り、捜索命令が下...
捜査網は海猫党の根城とされる暗礁域を含んだアラパゴ全域...
ほぼ常時、曇天と濃霧に覆われたアラパゴの土地を忌む人間...
ある種の瘴気に覆われているといっても過言ではないその土...
―――中には安住の地とすら言う程に好む青魔道士も居るのだが...
抗う者にも、受け入れた者にも、―――抗っているつもりの者に...
少しだけ、嫌な予感がした。
けれどその理由はわからない。
いつも以上に濃い妖霧の所為だったのかもしれないし、ファ...
あるいは、今日身に着けた装束が仕立屋から届けられたばか...
理由らしい理由など幾らでもあるようにも、まったく無いよ...
いつもどおりの筈のファルシャードの足取りが、あの日のよ...
逃亡者の捜索中、彼らを敵と見做した暗礁域の住人、つまり...
衝動的にラミアを駆逐した廃船の隅で、強引に手を引いたフ...
舐りつくすようなくちづけを交わしながら、腐食しかけた甲...
ふと、暴力と区別のつかぬ行為を強いられる日々のなかで、...
そこから先はいつもどおり。
暴力とともに犯される、ただそれだけ、の、筈だった。
綻んだままで張り詰めていた糸が、前触れもなく、ぷつりと...
起きた事を理解しきれないファルシャードは目を見開いた。
ごぼごぼと、彼の喉に何かが溢れかえる音。
その音に混じって、ベフルーズの名を呼ぶ彼の、口の端から...
その胸には、己の半身とも言える相手だった、繰り返し呼ぶ...
ファルシャードは何かを言おうと、唇を動かす。
けれど、ごぼごぼと血を吐くばかりで言葉にはならない。
キリジを突き立て、柄を握り締めたまま、ベフルーズはじっ...
ファルシャードの眼が光と焦点を失い、その身体がゆっくり...
「…………ふ、……ふふ」
ふふふ、ふふふふふふふ、ふふ、ふはは、はははははは、あ...
胃の腑の引き攣りをそのまま声にしたような、不安定な、怖...
何とひきかえにしても失いたくないと、そう思っていた人の...
半生をともにした同士の血を浴びて、ベフルーズは笑ってい...
その声は、蝕まれた精神を魔に明け渡した者の声。
虚ろに眼をひらいたまま動かない友の傍らで、ひたすらに笑...
肩をふるわせ、いまだに零れる笑い声を隠しもしないまま、...
「……綺麗な剣だね、ファルシャード。」
瞳にうつるのは、彼の腰に佩かれたままの湾刀。
官給品のキリジではない、鮮やかに染め上げたようなコバル...
別に、その剣に何かを感じたわけでもない。
魅入られたとか、羨んだとか、そんな単純なものでもない。
ただ、視界に映ったその冴える蒼を、綺麗だと、そう感じた...
彼の、彼としての記憶は、そこで途絶える。
『報告書:
逃亡した海猫党員の捜索は打ち切られ、現地の隊は即時、...
対象、不滅隊士ベフルーズの変容現場と思われる場所には...
隊士ベフルーズの手によるものと思しき殺害の形跡を確認。
隊士ファルシャードの所有していた武器は幼体に強奪され...
(直後の第一発見者の証言により、同一品と思われるアダ...
不滅隊士ファルシャードを殺害した経緯については不明。
変容をきたした隊士ベフルーズへの処置の失敗という可能...
幼体は変容最初期段階の為、形状は人型を維持。
遺骸は皇国軍の研究所へと収容。
遺骸は青魔道士の変容と、その対処に関する研究用として...
検死した錬金術師の証言によると、身体には完治しきれて...
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
#comment
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#title(ファイナルファンタジー11 「或る青魔道士の記憶」)
某最終幻想オンラインなスレの134さんに触発されて書いてみま...
主要キャラは捏造(原作にはいません)&ダーク・病み・グロ...
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
血が騒ぐという言葉は、あまりにも的確すぎた。
体は知っている、その先には抗いようのない快楽があること...
心は理解している、それが忌避しなければならないものであ...
錆鉄と脂の匂い、言葉になど表現しようもないほど甘美なそ...
わずかな青色をおびた銀の刃に纏わりついた肉片を振り払う。
振り落とされた肉片にも、わずかに飛沫を散らす血にも見向...
まだだ、もっと、もっと、もっと、もっとだ、血はそうざわ...
「ファルシャード?」
自分を呼ぶ声に、急激に意識は悪夢の底から引き摺り上げら...
脂汗は額だけではなかった。
衣服が随分と汗を吸っていて、ひどく不快だった。
いつの間にか眠っていたらしい。
眠りを求める間隔は少しずつ、しかし確実に短くなっていた。
この体も眠りを欲するのだ、などと、忘れかけていたことを...
この期に及んで、この体はずいぶんと人間らしくなっている...
「ファルシャード、大丈夫?」
大丈夫でないことなど分かっているけれど、と、その瞳は暗...
このところ任務のあとは、いつもこうだ。
鉄錆と脂の匂いに血は煽られ、この精神を責めたてる。
それに抗いきれなくなることが、日を追うごとに多くなって...
任務の標的となるものの大半は、殺してもさして問題もない...
けれど、ここ一月ほどの己の行動は常軌を逸している。
不滅隊には得てして、刃を振るうとなると理性の箍が外れた...
けれど自分がそうであったかというと、それは否であり、そ...
自分を覗き込む相棒であり親友―――ベフルーズがどれだけ心配...
ただただ確実に訪れるその時を、ささやかな抵抗を試み―――
…中にはそれすらせずに受け入れる者もいるが、結局は完全な人...
遅かれ早かれ、その身はいつか取り込んだ魔に蝕まれて、心...
漠然とは分かっていたことであり、そうなった同士に引導を...
それが己の身に現実として突きつけられるのは、蝕まれ疲弊し...
「まだ、大丈夫だ。」
ファルシャードはにやりと笑ってみせたが、それでも『まだ...
いつかは大丈夫でなどなくなることは、ベフルーズも知って...
その時はせめてこの手で、などと辛気臭い事を言うのはあま...
にやりと笑うファルシャードとは対照的に、ベフルーズは瞳...
青魔道士ファルシャード、青魔道士ベフルーズ。
親も家もない街角の孤児だった、名前のない二人の渾名のよ...
同じ『幸運』の意味の名を持つ二人は、容貌もよく似ていた。
ベフルーズのほうが僅かに小柄。
陽にあたった時、髪が上等の金糸のような輝きを帯びるファ...
「明日は早いから、もう少し休んでおくといいよ。」
「…ああ。」
非常呼集があったら起こすね、そう言うベフルーズの声を背...
彼の眠りを妨げないようにと、ベフルーズは灯りを点けずに...
明かりがなくとも物が見え、休まずとも不要な食事を摂らず...
無理をすれば身体は疲れる。
疲れた身体は眠りを欲する。
そして空腹を感じる。
すべて普通の人間であればあたりまえのことで、青魔道士と...
忌まわしい兆候とともに戻ってくることがある、というのは初...
青魔道士にとって眠りへの欲求は、身体よりも精神の疲弊に...
兆候によって引き起こされる睡眠も、つまりはそういう事だ。
ふと、味覚を慰める以上の意味での、普通の人間の普通の食...
自分にも、いつか彼のように兆候が訪れ、いずれ変容し、お...
それが彼に訪れるほうが少し早かっただけ、ただそれだけな...
けれど、そう簡単に割り切ることなどできようもない。
何よりも堪えるのは、そのとき傍らには、彼がいないという...
きっと、ただ自分が人ではない何かに成り果てることよりも...
本の中身が頭に入らないのは、暗闇の所為ではなかった。
寝具としての役割を殆どまっとうできない、真鍮製のベッド...
瞼の裏には、爛々とぎらつく瞳で返り血を浴びる親友の姿が...
今日の任務は、任務とは名ばかりのものだった。
へディバ島の魔物の掃討作戦。
元々僻地であり、この地が皇国に与える脅威はさして大きく...
理由は至極単純明快。
不滅隊、つまり青魔道士達の、人目を憚る必要のない『餌場...
存分に獲物を狩り、血を浴び、喰らえ、つまりそういうこと...
本来青魔道士の獲物は、魔物であれば、個人の嗜好を除いて...
最悪の場合は魔物である必要すらない―――
…つまりは人間でも構わないのだが、そこに行き着いてしまう事...
元々皇国の民からは畏怖と忌避の目でみられる国の暗部が、さ...
そこで青魔道士達の飢えをしのがせる為に目をつけられたの...
小隊長の号令と同時に、蒼黒の装束の魔道士達は獲物を求め...
二人も例外ではなく、しかし互いに離れることのないよう暗...
獲物とて馬鹿ではない、ましてこの島に生息するのは、格段...
掃討作戦が所詮形だけの任務とはいえ、掃討すべき対象であ...
定期的な掃討作戦が行われていながら、一向にその生息数を...
ファルシャードはといえば、その足取りも態度も、このとこ...
そう見えてしまったことも、事を悪い方向へと向けてしまう...
食事をするにも気分がのらないと言って、ただ淡々と額面ど...
湾刀を振るい、ザッハークの印を結び、返り血を拭うことも...
あまりの何事もなさに、ベフルーズでさえ気付くことに遅れ...
少しずつ、彼の歩みが速まり、浮き足立っていることに。
口元を覆ったこの装束では、彼の口の端が笑みをつくってい...
ふいにファルシャードの腰のキリジが引き抜かれたのは、鬱...
獲物に気付いたのか、引き抜くが早いかその足は一気に低木...
その方角から、場違いな人間の声が聞こえたような気がした。
ベフルーズは慌てて追いかける。
嫌な予感がする。
気のせいであってくれ。
頼むから、そうであって。
ざわめきの源は木のそよぎか、不安に駆られる心か、騒ぎを...
木立を抜けた先で見たのは、苛烈に湾刀を振るう友の姿。
その対峙した獲物は――――――人間だった。
赤く染まったサーコートの腹部を押さえ、辛うじてファルシ...
ふいの闖入者にパニックを起こす白魔道士の少女と、華美な...
苛烈な剣戟でがら空きの背後を取ろうとしたのは、漆黒の東...
すべて織り込み済みとばかり、ファルシャードは振り向きざ...
山猫の傭兵――中の国の冒険者達は、こちらの事情など知るよ...
考えるより早く、ベフルーズは抜きはなったキリジを友に向...
一瞬こちらを向いた瞳は、血と狂気に飢えた光を帯びている。
にげろ、はやく、冒険者にむけてケフィエのヴェール越しに...
なんなの、これは、とか、不滅隊が、とか、どうしてこんな...
とにかく冷静であろうとする赤魔道士のエルヴァーンが、錯...
少女の唇が、恐怖に途切れながらもなにかの詠唱を紡ぐのが...
白魔法には疎いので何の詠唱かまでは分からないが、仲間の...
はやく唱えきれ、心の中でベフルーズは舌を打つ。
途切れ途切れの詠唱が完了し、転移の魔法は一瞬のうちに発...
冒険者達は淡い光の中に消え、ナイト目掛けて斬り結ばれる...
「なにやってんだ馬鹿!」
そう怒鳴るベフルーズへと、今度はキリジの切っ先が向けら...
まずは動きを封じなければ。
ベフルーズの手がザッハークの印を結ぼうと、ファルシャー...
しかし青魔法はあっさりと中断させられた。
ベフルーズの手から湾刀が零れ落ちる。
ファルシャードの湾刀が口元を覆うヴェールを切り裂く。
返し刃がひたりと首筋で止められた。
がくりと足の力が抜け、膝が地におちる。
「お前、なにしてるのかわかって」
それでもどうにか制止しようと、睨みつけ見上げたファルシ...
ベフルーズの喉がごくり鳴った。
色々と、覚悟しなくてはならないと、状況は否応なくそう告...
ふいにファルシャードが膝をおり、友と同じ高さまで視線を...
「じゃあ、お前が」
ファルシャードは哂った。
狂気、血の匂い、嵐の前の静けさ。
「お前が、どうにかしてくれよ。」
熱っぽさを帯びた声は狂気を隠そうともしない。
そう言うが早いか、ファルシャードは眼前の友の、蒼黒の戦...
自分のかわりに、文字通り絹を引き裂くその音が悲鳴のかわ...
身体を地に押さえつけられた頭に、箍のはずれた友の笑う声...
何が起きているのか、何をされているのかは至ってシンプル...
つまり、暴力と同義の性行為。
けれど、犯され揺さぶられる身体と、悲鳴とも呻きともつか...
自分を犯すファルシャードがどんな顔をしていたのかも、五...
抵抗すらも、どうでもいいとばかりに切り捨てていた。
ただただ、されるがままに犯される。
暴力の矛先にされた体が悲鳴をあげるのとは裏腹に、ひどく...
これはファルシャード自身にすらもう御することのできない...
決して思考だけが冴えていたわけでもない、ぼんやりとした...
身体の奥に熱いものが注ぎ込まれ、程なく荒い息だけをのこ...
ああ、終わったんだなと、それすらもどうでもいいように、...
緩慢に、ずるりと性器を引き抜いたファルシャードは、友を...
ベフルーズも、身じろぎひとつも、ぼんやりと何をみている...
時がとまったような空間が、ゆっくりと、再び動きはじめた。
焦点の定まらないベフルーズの顔に、通り雨のように振った...
涙。
焦点を失った瞳は、くしゃくしゃと顔を歪ませた涙の主を視...
認識したのは正気を取り戻した友の顔。
涙と嗚咽を垂れ流す友の唇が、何事かを発するようにかすか...
「……め…」
崩れるように、ベフルーズの胸に蹲る彼。
ベフルーズ、ごめん。
彼の言葉が、何度も、何度も、何度も、何度も、繰り返され...
散々に暴れた魔は、満足しきったようになりを潜めていた。
気付くとその手は、彼の金糸のような髪にそっと触れていた。
何かを言おうと思った訳ではないけれど、彼の暴力も陵辱も...
「よかった。」
よかった、元にもどってくれて。
よかった、人まで手にかけてしまうことがなくて。
目尻を細めようとしたけれど、唇に笑みをうかべようとした...
果たして、上手く笑えているだろうか。
これだけで済んだ。
この身体ひとつで、これだけで済むなら、いくらだって差し...
だから、いいんだ。
強張る体を動かして、子供をあやすようにファルシャードの...
これだけで、少しでも彼の正気を繋ぎ止めることができたの...
ねえ、泣かないで。
俺はファルシャードが戻ってこない方がずっと辛いんだから。
温度も表情もない声色だったけれど、ベフルーズの唇は淡々...
それからというもの、ファルシャードを度々煽る魔のかたち...
見境なく獲物を求め、追い回し、切り刻む真似をしなくなっ...
もっと正確に言うならば、彼らは暴力と陵辱というかたちで...
そして、表向き身体の主であるファルシャードの側には、そ...
普通の人間よりはずっと強く、回復力も生命力もある同族。
任務のあと――つまり、ほぼ毎日のように行われる暴力と陵辱...
最初はただ乱暴で一方的だっただけの行為が、日増しに暴力...
それどころか、それでいいんだと、正気に返っては泣き詫び...
ただ、そんな日々の中で、ベフルーズは少しずつ、感情と表...
首に巻きつくように浮かぶ鬱血の跡。
食い千切らんばかりに残された、項の歯型。
瞳以外のほぼ全身を覆うメガス装束と、文字通り人間離れし...
尤も、同族である同士達には、暴力も陵辱も全て見抜かれて...
彼らだって、内側から己を蝕む魔に抗しきる手段などないの...
これを止められることも、止める事も望んでなどいなかった。
この身体を供しているうちは、彼に踏みとどめることのでき...
彼を失わずに済む。
物心ついてからの人生をずっと共にしてきた、己の半身のよ...
魔物と成り果てた彼を見ずに済む。
内から蝕む狂気に振り回され、疲れきって眠るファルシャー...
簡素な真鍮細工の施された窓枠の向こうの月は、細く鋭く、...
いくら人間よりは脆くない体といっても、手酷い暴力と陵辱...
やっと動かせるようになった身体を引き摺り、浴室に向かう。
身体に残る痣が、以前よりも消えにくくなった。
内に飼う魔物の力だって無限ではない。
求められる『食事』の、回数も量もずっと増えた。
だから、任務の合間にワジャームの奥地に向かい、プークや...
あまりに血を含みすぎた装束を、いくつも処分した。
使い途のない俸給だけは手元にいくらでもあったから、黄金...
力のない瞳で、ファルシャードの背に刻まれた双頭の蛇を見...
それは自分にも、他の青魔道士にもおなじように在る、逃れ...
ベフルーズは気付いていない。
彼の背を見やる己の瞳には、自己犠牲とも諦観とも違う別の...
その正体が、狂気や愉悦の類であるということにも、気付い...
いとおしげにファルシャードの双頭蛇にふれる唇の端が、そ...
押し付けられる衝動と狂気が日常と成り果てた頃。
切っ掛けがなんだったのかは、わからない。
けれど、その時は訪れた。
牢獄に収監したはずの海猫党員が逃亡を図り、捜索命令が下...
捜査網は海猫党の根城とされる暗礁域を含んだアラパゴ全域...
ほぼ常時、曇天と濃霧に覆われたアラパゴの土地を忌む人間...
ある種の瘴気に覆われているといっても過言ではないその土...
―――中には安住の地とすら言う程に好む青魔道士も居るのだが...
抗う者にも、受け入れた者にも、―――抗っているつもりの者に...
少しだけ、嫌な予感がした。
けれどその理由はわからない。
いつも以上に濃い妖霧の所為だったのかもしれないし、ファ...
あるいは、今日身に着けた装束が仕立屋から届けられたばか...
理由らしい理由など幾らでもあるようにも、まったく無いよ...
いつもどおりの筈のファルシャードの足取りが、あの日のよ...
逃亡者の捜索中、彼らを敵と見做した暗礁域の住人、つまり...
衝動的にラミアを駆逐した廃船の隅で、強引に手を引いたフ...
舐りつくすようなくちづけを交わしながら、腐食しかけた甲...
ふと、暴力と区別のつかぬ行為を強いられる日々のなかで、...
そこから先はいつもどおり。
暴力とともに犯される、ただそれだけ、の、筈だった。
綻んだままで張り詰めていた糸が、前触れもなく、ぷつりと...
起きた事を理解しきれないファルシャードは目を見開いた。
ごぼごぼと、彼の喉に何かが溢れかえる音。
その音に混じって、ベフルーズの名を呼ぶ彼の、口の端から...
その胸には、己の半身とも言える相手だった、繰り返し呼ぶ...
ファルシャードは何かを言おうと、唇を動かす。
けれど、ごぼごぼと血を吐くばかりで言葉にはならない。
キリジを突き立て、柄を握り締めたまま、ベフルーズはじっ...
ファルシャードの眼が光と焦点を失い、その身体がゆっくり...
「…………ふ、……ふふ」
ふふふ、ふふふふふふふ、ふふ、ふはは、はははははは、あ...
胃の腑の引き攣りをそのまま声にしたような、不安定な、怖...
何とひきかえにしても失いたくないと、そう思っていた人の...
半生をともにした同士の血を浴びて、ベフルーズは笑ってい...
その声は、蝕まれた精神を魔に明け渡した者の声。
虚ろに眼をひらいたまま動かない友の傍らで、ひたすらに笑...
肩をふるわせ、いまだに零れる笑い声を隠しもしないまま、...
「……綺麗な剣だね、ファルシャード。」
瞳にうつるのは、彼の腰に佩かれたままの湾刀。
官給品のキリジではない、鮮やかに染め上げたようなコバル...
別に、その剣に何かを感じたわけでもない。
魅入られたとか、羨んだとか、そんな単純なものでもない。
ただ、視界に映ったその冴える蒼を、綺麗だと、そう感じた...
彼の、彼としての記憶は、そこで途絶える。
『報告書:
逃亡した海猫党員の捜索は打ち切られ、現地の隊は即時、...
対象、不滅隊士ベフルーズの変容現場と思われる場所には...
隊士ベフルーズの手によるものと思しき殺害の形跡を確認。
隊士ファルシャードの所有していた武器は幼体に強奪され...
(直後の第一発見者の証言により、同一品と思われるアダ...
不滅隊士ファルシャードを殺害した経緯については不明。
変容をきたした隊士ベフルーズへの処置の失敗という可能...
幼体は変容最初期段階の為、形状は人型を維持。
遺骸は皇国軍の研究所へと収容。
遺骸は青魔道士の変容と、その対処に関する研究用として...
検死した錬金術師の証言によると、身体には完治しきれて...
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
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