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#title(黎明の国) [#ff9ca411]
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマ 和介→武智をベースにした明治以後の話。実在人物やオ...
あるカオスっぷりなので、危険を感じられた方は事前避けをお願い...
思ったより長くなってしまったので、途中で一度中断します。
「夏は暑うて食も細なるかもしれませんが、少し無理をしてで...
枕元で諭すように告げられる言葉。それに和介はこの時、すみ...
陽光照りつける南国の夏は暑い。
その中でもここ数日はうだるような熱気が漂い、倒れる者が後...
そしてそれは和介も例外ではなく、朝、立ちくらみを覚えたの...
そして再び目を覚ました時、眼前にいたのはこの若き村医者だ...
「この程度の事で情けない。武智様にこんな事で足を運ばせて...
「この程度という油断が一番危険ながです。無理をすれば人は...
様づけで呼ぶのはやめてもらえませんろうか。何度も言うてま...
年は若いが物怖じせぬ物言い。そして、
「しかし、」
「それに、あなたにそう呼ばれると、私は私の事を言われてい...
反論しかけた言葉にもきっぱりと明るい苦笑を向けてくる。
そんな相手に和介はこの時戸惑いながらも、はいと答えるしか...
「とすればやはり呼び方は、武智先生で。」
おずおずと尋ねれば、それに彼は神妙な顔で頷いてくる。
「自分で言うとおこがましゅうはなりますが、まぁ様よりかは...
その様は少しだけおかしかった。だから、
「しかし、それはそれで思い出してしまいますな。」
笑みを隠す様に口元に手をやりながらぽつりと呟く。その言葉...
視線を上げてきた。
だからそれを見つめ返しながら、和介は告げる。
「あなたのお義父上の事ですよ。」
それは懐かしくも切ない、今は遠い過去の記憶だった。
元号が明治に代わり早幾年。
世が急激に発展していく最中でも、まるで時が止まったかのよ...
この村に小さな診療所が開かれたのは、その年の春の事だった。
東京帰りのお医者様が、とありがたがられ、その腕の確かさか...
その青年医師の名は武智半汰と言い、その出自は、かつてこの...
土イ左僅王党盟主、武智半平汰の死後の養子であった。
世の成り立ちが変わる前、国内で吹き荒れた党弾圧の嵐の後も...
医学の道に進んだ。
和介はそんな彼を支えた者の一人だった。
「誰もが義父の事を偉大だったと言います。」
近年その名誉を回復され、新政府から位階も授けられた。そん...
語る彼の言葉は、学問を東京で学んでいたせいか、土地の者達...
それを横になったまま聞きながら、和介はこの時返事を返して...
「ええ、その通りです。」
きっぱりと言い切る、その迷いの無い響きに彼は瞬間、くすり...
「あなたはいつもその調子だ。でも私はあなただけは他の者達...
「…わしだけですか?」
「あなたは昔、私に義父の事をこう言ったがです。『優しく、...
「……………」
「それを聞いて、私は少しほっとした。義父の人となりを初め...
あなたから義父の話を聞く事が楽しみになった。」
静かに告げられる、その声色は低く穏やかなものだった。
血はまったく繋がっていないのだと言う。
それでもその落ち着いた響きはこの時、和介の記憶を呼び起こ...
だから、
「楽しみなどと。私は武智様の最も華やかな頃を知らぬ身です...
恐縮と寂寥をない交ぜにしたような声でそう告げれば、それに...
返してきた。そして、
「人の真の姿が見えるのは、心弱く追い詰められた時ですろう...
彼は、言った。
「そんな頃の義父の一番近くに、あなたはいた。」
指し示してくる、それは己の過去だった。
「どんな事でもいい。また聞かせてつかぁさい、義父の事を。」
求められる、党員でもなければ一介の志士でもなかった自分が...
それは、自分がかつて彼の人が繋がれた獄の番人であったから...
強い人だと思っていた。
この国では当時、犬猫同然の扱いしか受けなかった下司を束ね...
果ては帝の使いとして江戸に上る栄誉まで賜った者達の盟主。
その華々しい活躍は国元にも届き、皆が憧れと尊敬の念でその...
しかし時の流れは残酷なまでに急だった。
自分のような者に、難しいの政治の事情はわからない。それで...
世の流れは、やがてその人を捕らえ、獄へと繋ぐ事となった。
そこで日々執り行われた尋問。
それにもその人は当初屈する様子を見せなかった。
どこまでも毅然と顔を上げ続ける。
その様相が変わったのは、彼自身では無い、仲間の拷問の声を...
あれは地獄だった。
姿は見えず、様子も分からず、ただ叫び声だけを聞かされる。
それが大きなものであれば、耳を塞ぎたくなる衝動にかられ、...
その生死に対する不安を煽られる。
それを毎日毎日……その責め苦に彼の人は徐々に苛まれていった。
だが、それゆえの奇跡でもあったのだろう。
『今朝は、声が聞こえんのぅ……』
ある日、自分が食事を持って行った時にひそりと落とされた言...
それは明確に自分に対して与えられたものではなく、ただ独り...
しかしそれに自分はもう耐えられなかった。だから、返す答え。
それに彼の人が驚いた様に視線を向けてくれば、胸の想いは止...
『何か、お望みの事があったら言うてつかぁさい。わしが…っ』
あの日から、自分と彼の人の密かな交流は始まった。
強い人だった。しかし脆い人でもあった。
それはひとえに情の深さゆえだった。
事態は時が経つ程に苛酷さを極め、それが頂点に達したのはあ...
送り返されてきた時だった。
丘田伊蔵。
他の仲間達と比べ、一際幼さの残る容姿を持つ彼が拷問にかけ...
精神は目に見えて崩れていった。
牢内で制止の叫びを上げる。名を呼び、涙を流す。
それでもまるで同じ苦しみを分け与えられようとでもするかの...
けして己の耳を塞ごうとはしなかった。
上げられるその悲鳴をすべて受け止め、しかしその許容量が過...
『和介……』
夜に密かに呼ばれ、近づいた格子際。あの日、その人はそれに...
投げ出された足のその力の無さに、人の心の限界を見た思いが...
だから、抗う事は出来なかった。もはや自決する力も残されて...
その人の追い詰められた残酷な慈悲から。
自分の方を向かぬまま、発せられる声が聞こえる。
『わしの知り合いの医者に阿片に詳しい者がおる……』
そうして夜の闇に淡々と綴られたのは、恐ろしい毒の効能につ...
その果てに彼の人は一つの呟きを繰り返した。それは、
『伊蔵…伊…蔵……いぞう…っ…』
自覚は無かったのかもしれない。それでも同じ名を唇から紡ぎ...
溢れ伝う涙があった。だから、
『わかりました。せやきに、もうええがですっ…武智様!』
腕を差し入れ、格子越しに抱き寄せる肩。落ち着かせるように...
不敬にあたる事だったかもしれない。それでもそうせずにはい...
あれが自分にとって生涯ただ一度の、彼の人に対する抱擁だっ...
「しかし結局その毒は、使われる事はなかった。」
語りの途中で遮られ、口早く結論を告げられる。それは彼の医...
そんなまだ年若い青年の言葉に、和介はこの時、静かな頷きを...
「丘田殿がその毒で果てる事はありませんでした。だからこそ...
それでも最後、あの方の心が救われる奇跡が起こった。最期は...
それはもう、この目には眩しく痛いほどに。」
諦観とも笑みともつかぬ、そんな感情を口元に湛えながら和介...
するとそれに青年は、やはりどこか複雑な感情を滲ませる笑み...
「何があったかは、やはり教えてはもらえんのでしょうな。」
「申し訳ありません。しかしこれはわしが墓の中まで持って行...
これまで幾度もせがまれ、した話の、しかしその最後を和介が...
古来の武士の作法に則り、意地とばかり見事三文字に腹を切っ...
持っているのは、かつて牢番の任にあった男だけ。
それは因果か、それとも必然であったのだろうか。
おそらくはきっと、永遠に出ないであろう答えを思い、2人の...
しかしその時、
「先生っ、武智先生はここにおられるがでしょうか!」
不意に玄関の方角から聞こえてきた慌ただしい声。それに呼ば...
布団の上に身を起こした瞬間、断りも無く飛び込んできた者の...
それでも、
「吉蔵?」
先に反応を返したのは青年の方だった。
それに和介が誰かと問えば、家の近くに住む子供だと返される...
部屋の入口に戻すと、そこにいたのは、確かにまだ子供と言っ...
した少年だった。
そしてその彼は、部屋の中に半汰の姿を認めた瞬間、その表情...
「良かった!ここにおられた。大変ですきっ、お家の方にまた...
先生に早う戻ってもらうようにと秀さんがっ。」
「秀が?いや、しかしそれより吉蔵…おまん、その手の中にある...
息咳切る少年の言葉を聞き取りながら、しかしこの時青年が指...
「手?」
それに少年も自分の手元に視線を落とす。
胸の前に受けるように重ねられた両手の中、包まれるようにあ...
「ああ、これ!これはここにくるまでの道の途中で、鴉に虐め...
言いながら迫り寄り、2人の前に膝をついて腕を指し伸ばして...
そうしてもう一度よく見た、それはどうやらまだ小さい雀の子...
「先生、こいつも治せんがですか?!」
「こいつもって、わしは動物はよう…」
「あかんがですか?!」
「…………」
涙目で迫られ、青年が絶句する。
そんな光景を目の前で繰り広げられ、この時和介はなんとか我...
かけていた。
「もしよければ、わしが面倒を見ておきましょう。簡単な手当...
それより、家の方で倒れた者が出たのでしょう。そちらに早う...
ここは年の功とばかりに冷静な判断を下す。
するとそれに彼らも、今の状況を思い出したようだった。
「慌ただしゅうして申し訳ないがです。では今日のところはこ...
あなたの事は、私も義母もまだまだ頼りにしちょりますので。」
「もったいない事です。」
立ち上がる青年に微笑みながら返事を返し、和介は今度は少年...
その中に少年はそっと鳥の子を移してきた。
「よろしゅうお願いします。」
「ええ。わかりました。」
まだ涙目になっている。心根の優しい子なのだろう。
そんな少年に優しい声をかけながら、和介は彼らを見送る為、...
しかしそれをこの時、青年は制してきた。
「ええがです、ここで。また様子を見に来ますき。その時は秀...
口にされた、その名は先程も耳にしたものだった。それゆえつ...
青年はその時、明るい笑顔を向けてきた。
「最近、私の手伝いをしてくれちょる者です。同じ医学を志す...
紹介しておきたい。」
そう告げた瞬間、横合いから声が飛んだ。
「先生、わしも!」
幼い訴え。それに青年は笑みを絶やさぬまま、隣りに立つ少年...
「そうだな。今度は落ち着いて、おまんも一緒に来よう。」
彼には、慕ってくる者がいるようだった。
信頼のおける仲間も。
それを知りえた目の前の光景に和助はこの時、ただただ深い安...
「楽しみにしちょります。」
穏やかにそう言い、その場で頭を下げた。
肩が傾く。
それが今この時、ひどく軽くなったと思うのは、おそらく気の...
あれから数日。
まだ夜が明けきらぬ時分に家を出た和介が足を向けたのは、通...
その手には一つの鳥籠がある。
そしてその中に大人しく収まっているのは、先日自分が預かっ...
鴉に襲われたと言う傷は大した事は無く、とりあえずの手当て...
元気を取り戻した。
ならば、また元いた場所に帰してやらねばなるまい。
思いながら歩く道の先。辿りついたその場所は、静かな山の裾...
まだ暗い周囲には人の気配も鳥の鳴く声さえもなく、ただ深い...
そんな静謐とした空気に包まれる地にひっそりと建つ―――
それは武智の墓だった。
手にしていた鳥籠を地面へと起き、和介はこの時墓の前に膝を...
目を閉じ、手を合わせしばし。
そしてやがて一度深く息をつき、再び視線を上げると、和介は...
「お無沙汰して、申し訳ありません。」
まるで今この瞬間、目の前に彼の人がいるかのように。投げ掛...
「この暑気にあたり、ちっくと寝込んでしまいました。情けな...
微かな苦笑を浮かべながら、語る己が近況。
「ですが、半汰様が診て下さいました。ご養子様はご立派なお...
知識とそのお人柄で、村の者達からもよう慕われ、尊敬されち...
そしてゆっくりと細めた目元。その視線はこの時、懐かしむよ...
「子の成長と言うのは早いものですなぁ。」
脳裏に浮かぶ、武智家に養子にもらわれてきた時の彼は、まだ...
それが今では一人前の医者として一人立ちしている。
「あれから、もうどれくらいの時が経ちましたか。」
しみじみと思い返すこれまでの中で、世は驚くほどの変化を遂...
絶対的権威としてあった幕府は倒れ、その後には新政府が立ち...
この国の名は消え、そこに二百有余年連綿とあり続けた上司と...
虐げられ、人としての尊厳を踏みつけられ、何がどうあっても...
あの絶望のことわりが今はもう跡形も無く。
それはまさしく奇跡のようだった。
そしてその奇跡が成ったのは、今、眼前にある人や、それと同...
志ある者達のおかげで。
それと比し、数ならぬこの身がこれまでに出来た事と言えば、...
ただ、すべてを見届ける事―――
その想いだけを頼りに、これまで生き永らえてきた。しかし…そ...
「奥方様はお元気でございます。」
唇が淡々と言葉を紡いでゆく。
「半汰様にも仲のよろしい、気の置けないお仲間が出来たよう...
そして、
「わしは、」
わしは……
「年を、取りました。」
微かな間の後、淡く倦んだような笑みをその口元に浮かべなが...
「せやきに、ええですろうか…」
それは長年誰にも告げる事無く、心に秘め重ねてきた、
「わしもそろそろ……そちらへ伺うてもええですろうか?武智様...
あの日からずっとこの胸に在り続けた、消える事のない切実な...
祈るような想いの先。そこにはこれまでの間ずっと、何一つ忘...
あれは彼の人の刑が執行される日の前夜。
身を清め、仕度を整え、牢の中一人端坐していた。そんな人の...
あの時どうにも遣り切れない無念さがあった。
どういて……どういてこの方が……
辛かった。苦しかった。悲しかった。
けれどそれを顔に出す事も声に出す事も出来ず、ただ勤めと獄...
そんな自分の耳にあの時、それは届いた。
かそけき小さな声だった。
おそらくは誰に告げたものでもなかったのだろう。
ただ蒼白い月の光が差し込む虚空を見上げながら零された、そ...
「ええか……」
これまで自分が聞いた事の無いどこか幼げな響きで、その心を...
「伊蔵と共に、もうそっちへ行ってもええか…収次郎……」
強く、脆く、志と情に四肢を繋がれ、それに苦しみ続けた人だ...
その人がようやく口に出来た、偽りない剥き出しの心。
それを知ってしまえば、もはや自分に引き留める術は残されて...
だから唇を噛み締め、堅く目を閉じ、あの瞬間心を決めた。
もう、ええ…もう……解き放ってさし上げよう―――
それ以外彼の人にしてあげられる事は、あの時の自分にはもう...
ゆらりと墓の前についていた膝が離される。
そして和介はこの時その場に静かに立ち上がると、脇に置いて...
抱え上げた胸元の位置で迷いなくその戸を引き上げていた。
開かれた籠の中で、小さな鳥が二度三度軽い羽ばたきを起こす。
そしてそれは、和介の放った『行け』と言う言葉に一度だけ鳴...
外の世界へと踊らせた。
飛んでゆく、その小さな後ろ姿を和介は瞬きもせずに見送る。
とその時、視線をやった方角に座す山の稜線に、昇る日の光が...
広がってゆく白々とした一条の光。
あの日以来、自分は朝が嫌いだった。
長くも短い2人だけの夜の終わりを知らせ、あの人を自分の前...
明るい光が憎くさえあった。
一人寝の床でうずくまるように日毎耐え続けた、しかしそれを...
「……長うございました。」
だから微笑みながら告げた、その頬にはこの時、我知らず伝う...
視界を濡らし、その淵から揺れ落ちる。
溢れ、止める事が出来ない。
それを和介は眩しいからだと思った。
光が満ちてゆく世界。
彼の人が残したこの国は今、どこまでも美しかった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
最後の最後まで長くなりましたが、これで頭にあったものをす...
長い間の場所借り、ありがとうございました。
これまで読んで下さった方、感想を下さった方も本当にありが...
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|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマ 和介→武智をベースにした明治以後の話。実在人物やオ...
あるカオスっぷりなので、危険を感じられた方は事前避けをお願い...
思ったより長くなってしまったので、途中で一度中断します。
「夏は暑うて食も細なるかもしれませんが、少し無理をしてで...
枕元で諭すように告げられる言葉。それに和介はこの時、すみ...
陽光照りつける南国の夏は暑い。
その中でもここ数日はうだるような熱気が漂い、倒れる者が後...
そしてそれは和介も例外ではなく、朝、立ちくらみを覚えたの...
そして再び目を覚ました時、眼前にいたのはこの若き村医者だ...
「この程度の事で情けない。武智様にこんな事で足を運ばせて...
「この程度という油断が一番危険ながです。無理をすれば人は...
様づけで呼ぶのはやめてもらえませんろうか。何度も言うてま...
年は若いが物怖じせぬ物言い。そして、
「しかし、」
「それに、あなたにそう呼ばれると、私は私の事を言われてい...
反論しかけた言葉にもきっぱりと明るい苦笑を向けてくる。
そんな相手に和介はこの時戸惑いながらも、はいと答えるしか...
「とすればやはり呼び方は、武智先生で。」
おずおずと尋ねれば、それに彼は神妙な顔で頷いてくる。
「自分で言うとおこがましゅうはなりますが、まぁ様よりかは...
その様は少しだけおかしかった。だから、
「しかし、それはそれで思い出してしまいますな。」
笑みを隠す様に口元に手をやりながらぽつりと呟く。その言葉...
視線を上げてきた。
だからそれを見つめ返しながら、和介は告げる。
「あなたのお義父上の事ですよ。」
それは懐かしくも切ない、今は遠い過去の記憶だった。
元号が明治に代わり早幾年。
世が急激に発展していく最中でも、まるで時が止まったかのよ...
この村に小さな診療所が開かれたのは、その年の春の事だった。
東京帰りのお医者様が、とありがたがられ、その腕の確かさか...
その青年医師の名は武智半汰と言い、その出自は、かつてこの...
土イ左僅王党盟主、武智半平汰の死後の養子であった。
世の成り立ちが変わる前、国内で吹き荒れた党弾圧の嵐の後も...
医学の道に進んだ。
和介はそんな彼を支えた者の一人だった。
「誰もが義父の事を偉大だったと言います。」
近年その名誉を回復され、新政府から位階も授けられた。そん...
語る彼の言葉は、学問を東京で学んでいたせいか、土地の者達...
それを横になったまま聞きながら、和介はこの時返事を返して...
「ええ、その通りです。」
きっぱりと言い切る、その迷いの無い響きに彼は瞬間、くすり...
「あなたはいつもその調子だ。でも私はあなただけは他の者達...
「…わしだけですか?」
「あなたは昔、私に義父の事をこう言ったがです。『優しく、...
「……………」
「それを聞いて、私は少しほっとした。義父の人となりを初め...
あなたから義父の話を聞く事が楽しみになった。」
静かに告げられる、その声色は低く穏やかなものだった。
血はまったく繋がっていないのだと言う。
それでもその落ち着いた響きはこの時、和介の記憶を呼び起こ...
だから、
「楽しみなどと。私は武智様の最も華やかな頃を知らぬ身です...
恐縮と寂寥をない交ぜにしたような声でそう告げれば、それに...
返してきた。そして、
「人の真の姿が見えるのは、心弱く追い詰められた時ですろう...
彼は、言った。
「そんな頃の義父の一番近くに、あなたはいた。」
指し示してくる、それは己の過去だった。
「どんな事でもいい。また聞かせてつかぁさい、義父の事を。」
求められる、党員でもなければ一介の志士でもなかった自分が...
それは、自分がかつて彼の人が繋がれた獄の番人であったから...
強い人だと思っていた。
この国では当時、犬猫同然の扱いしか受けなかった下司を束ね...
果ては帝の使いとして江戸に上る栄誉まで賜った者達の盟主。
その華々しい活躍は国元にも届き、皆が憧れと尊敬の念でその...
しかし時の流れは残酷なまでに急だった。
自分のような者に、難しいの政治の事情はわからない。それで...
世の流れは、やがてその人を捕らえ、獄へと繋ぐ事となった。
そこで日々執り行われた尋問。
それにもその人は当初屈する様子を見せなかった。
どこまでも毅然と顔を上げ続ける。
その様相が変わったのは、彼自身では無い、仲間の拷問の声を...
あれは地獄だった。
姿は見えず、様子も分からず、ただ叫び声だけを聞かされる。
それが大きなものであれば、耳を塞ぎたくなる衝動にかられ、...
その生死に対する不安を煽られる。
それを毎日毎日……その責め苦に彼の人は徐々に苛まれていった。
だが、それゆえの奇跡でもあったのだろう。
『今朝は、声が聞こえんのぅ……』
ある日、自分が食事を持って行った時にひそりと落とされた言...
それは明確に自分に対して与えられたものではなく、ただ独り...
しかしそれに自分はもう耐えられなかった。だから、返す答え。
それに彼の人が驚いた様に視線を向けてくれば、胸の想いは止...
『何か、お望みの事があったら言うてつかぁさい。わしが…っ』
あの日から、自分と彼の人の密かな交流は始まった。
強い人だった。しかし脆い人でもあった。
それはひとえに情の深さゆえだった。
事態は時が経つ程に苛酷さを極め、それが頂点に達したのはあ...
送り返されてきた時だった。
丘田伊蔵。
他の仲間達と比べ、一際幼さの残る容姿を持つ彼が拷問にかけ...
精神は目に見えて崩れていった。
牢内で制止の叫びを上げる。名を呼び、涙を流す。
それでもまるで同じ苦しみを分け与えられようとでもするかの...
けして己の耳を塞ごうとはしなかった。
上げられるその悲鳴をすべて受け止め、しかしその許容量が過...
『和介……』
夜に密かに呼ばれ、近づいた格子際。あの日、その人はそれに...
投げ出された足のその力の無さに、人の心の限界を見た思いが...
だから、抗う事は出来なかった。もはや自決する力も残されて...
その人の追い詰められた残酷な慈悲から。
自分の方を向かぬまま、発せられる声が聞こえる。
『わしの知り合いの医者に阿片に詳しい者がおる……』
そうして夜の闇に淡々と綴られたのは、恐ろしい毒の効能につ...
その果てに彼の人は一つの呟きを繰り返した。それは、
『伊蔵…伊…蔵……いぞう…っ…』
自覚は無かったのかもしれない。それでも同じ名を唇から紡ぎ...
溢れ伝う涙があった。だから、
『わかりました。せやきに、もうええがですっ…武智様!』
腕を差し入れ、格子越しに抱き寄せる肩。落ち着かせるように...
不敬にあたる事だったかもしれない。それでもそうせずにはい...
あれが自分にとって生涯ただ一度の、彼の人に対する抱擁だっ...
「しかし結局その毒は、使われる事はなかった。」
語りの途中で遮られ、口早く結論を告げられる。それは彼の医...
そんなまだ年若い青年の言葉に、和介はこの時、静かな頷きを...
「丘田殿がその毒で果てる事はありませんでした。だからこそ...
それでも最後、あの方の心が救われる奇跡が起こった。最期は...
それはもう、この目には眩しく痛いほどに。」
諦観とも笑みともつかぬ、そんな感情を口元に湛えながら和介...
するとそれに青年は、やはりどこか複雑な感情を滲ませる笑み...
「何があったかは、やはり教えてはもらえんのでしょうな。」
「申し訳ありません。しかしこれはわしが墓の中まで持って行...
これまで幾度もせがまれ、した話の、しかしその最後を和介が...
古来の武士の作法に則り、意地とばかり見事三文字に腹を切っ...
持っているのは、かつて牢番の任にあった男だけ。
それは因果か、それとも必然であったのだろうか。
おそらくはきっと、永遠に出ないであろう答えを思い、2人の...
しかしその時、
「先生っ、武智先生はここにおられるがでしょうか!」
不意に玄関の方角から聞こえてきた慌ただしい声。それに呼ば...
布団の上に身を起こした瞬間、断りも無く飛び込んできた者の...
それでも、
「吉蔵?」
先に反応を返したのは青年の方だった。
それに和介が誰かと問えば、家の近くに住む子供だと返される...
部屋の入口に戻すと、そこにいたのは、確かにまだ子供と言っ...
した少年だった。
そしてその彼は、部屋の中に半汰の姿を認めた瞬間、その表情...
「良かった!ここにおられた。大変ですきっ、お家の方にまた...
先生に早う戻ってもらうようにと秀さんがっ。」
「秀が?いや、しかしそれより吉蔵…おまん、その手の中にある...
息咳切る少年の言葉を聞き取りながら、しかしこの時青年が指...
「手?」
それに少年も自分の手元に視線を落とす。
胸の前に受けるように重ねられた両手の中、包まれるようにあ...
「ああ、これ!これはここにくるまでの道の途中で、鴉に虐め...
言いながら迫り寄り、2人の前に膝をついて腕を指し伸ばして...
そうしてもう一度よく見た、それはどうやらまだ小さい雀の子...
「先生、こいつも治せんがですか?!」
「こいつもって、わしは動物はよう…」
「あかんがですか?!」
「…………」
涙目で迫られ、青年が絶句する。
そんな光景を目の前で繰り広げられ、この時和介はなんとか我...
かけていた。
「もしよければ、わしが面倒を見ておきましょう。簡単な手当...
それより、家の方で倒れた者が出たのでしょう。そちらに早う...
ここは年の功とばかりに冷静な判断を下す。
するとそれに彼らも、今の状況を思い出したようだった。
「慌ただしゅうして申し訳ないがです。では今日のところはこ...
あなたの事は、私も義母もまだまだ頼りにしちょりますので。」
「もったいない事です。」
立ち上がる青年に微笑みながら返事を返し、和介は今度は少年...
その中に少年はそっと鳥の子を移してきた。
「よろしゅうお願いします。」
「ええ。わかりました。」
まだ涙目になっている。心根の優しい子なのだろう。
そんな少年に優しい声をかけながら、和介は彼らを見送る為、...
しかしそれをこの時、青年は制してきた。
「ええがです、ここで。また様子を見に来ますき。その時は秀...
口にされた、その名は先程も耳にしたものだった。それゆえつ...
青年はその時、明るい笑顔を向けてきた。
「最近、私の手伝いをしてくれちょる者です。同じ医学を志す...
紹介しておきたい。」
そう告げた瞬間、横合いから声が飛んだ。
「先生、わしも!」
幼い訴え。それに青年は笑みを絶やさぬまま、隣りに立つ少年...
「そうだな。今度は落ち着いて、おまんも一緒に来よう。」
彼には、慕ってくる者がいるようだった。
信頼のおける仲間も。
それを知りえた目の前の光景に和助はこの時、ただただ深い安...
「楽しみにしちょります。」
穏やかにそう言い、その場で頭を下げた。
肩が傾く。
それが今この時、ひどく軽くなったと思うのは、おそらく気の...
あれから数日。
まだ夜が明けきらぬ時分に家を出た和介が足を向けたのは、通...
その手には一つの鳥籠がある。
そしてその中に大人しく収まっているのは、先日自分が預かっ...
鴉に襲われたと言う傷は大した事は無く、とりあえずの手当て...
元気を取り戻した。
ならば、また元いた場所に帰してやらねばなるまい。
思いながら歩く道の先。辿りついたその場所は、静かな山の裾...
まだ暗い周囲には人の気配も鳥の鳴く声さえもなく、ただ深い...
そんな静謐とした空気に包まれる地にひっそりと建つ―――
それは武智の墓だった。
手にしていた鳥籠を地面へと起き、和介はこの時墓の前に膝を...
目を閉じ、手を合わせしばし。
そしてやがて一度深く息をつき、再び視線を上げると、和介は...
「お無沙汰して、申し訳ありません。」
まるで今この瞬間、目の前に彼の人がいるかのように。投げ掛...
「この暑気にあたり、ちっくと寝込んでしまいました。情けな...
微かな苦笑を浮かべながら、語る己が近況。
「ですが、半汰様が診て下さいました。ご養子様はご立派なお...
知識とそのお人柄で、村の者達からもよう慕われ、尊敬されち...
そしてゆっくりと細めた目元。その視線はこの時、懐かしむよ...
「子の成長と言うのは早いものですなぁ。」
脳裏に浮かぶ、武智家に養子にもらわれてきた時の彼は、まだ...
それが今では一人前の医者として一人立ちしている。
「あれから、もうどれくらいの時が経ちましたか。」
しみじみと思い返すこれまでの中で、世は驚くほどの変化を遂...
絶対的権威としてあった幕府は倒れ、その後には新政府が立ち...
この国の名は消え、そこに二百有余年連綿とあり続けた上司と...
虐げられ、人としての尊厳を踏みつけられ、何がどうあっても...
あの絶望のことわりが今はもう跡形も無く。
それはまさしく奇跡のようだった。
そしてその奇跡が成ったのは、今、眼前にある人や、それと同...
志ある者達のおかげで。
それと比し、数ならぬこの身がこれまでに出来た事と言えば、...
ただ、すべてを見届ける事―――
その想いだけを頼りに、これまで生き永らえてきた。しかし…そ...
「奥方様はお元気でございます。」
唇が淡々と言葉を紡いでゆく。
「半汰様にも仲のよろしい、気の置けないお仲間が出来たよう...
そして、
「わしは、」
わしは……
「年を、取りました。」
微かな間の後、淡く倦んだような笑みをその口元に浮かべなが...
「せやきに、ええですろうか…」
それは長年誰にも告げる事無く、心に秘め重ねてきた、
「わしもそろそろ……そちらへ伺うてもええですろうか?武智様...
あの日からずっとこの胸に在り続けた、消える事のない切実な...
祈るような想いの先。そこにはこれまでの間ずっと、何一つ忘...
あれは彼の人の刑が執行される日の前夜。
身を清め、仕度を整え、牢の中一人端坐していた。そんな人の...
あの時どうにも遣り切れない無念さがあった。
どういて……どういてこの方が……
辛かった。苦しかった。悲しかった。
けれどそれを顔に出す事も声に出す事も出来ず、ただ勤めと獄...
そんな自分の耳にあの時、それは届いた。
かそけき小さな声だった。
おそらくは誰に告げたものでもなかったのだろう。
ただ蒼白い月の光が差し込む虚空を見上げながら零された、そ...
「ええか……」
これまで自分が聞いた事の無いどこか幼げな響きで、その心を...
「伊蔵と共に、もうそっちへ行ってもええか…収次郎……」
強く、脆く、志と情に四肢を繋がれ、それに苦しみ続けた人だ...
その人がようやく口に出来た、偽りない剥き出しの心。
それを知ってしまえば、もはや自分に引き留める術は残されて...
だから唇を噛み締め、堅く目を閉じ、あの瞬間心を決めた。
もう、ええ…もう……解き放ってさし上げよう―――
それ以外彼の人にしてあげられる事は、あの時の自分にはもう...
ゆらりと墓の前についていた膝が離される。
そして和介はこの時その場に静かに立ち上がると、脇に置いて...
抱え上げた胸元の位置で迷いなくその戸を引き上げていた。
開かれた籠の中で、小さな鳥が二度三度軽い羽ばたきを起こす。
そしてそれは、和介の放った『行け』と言う言葉に一度だけ鳴...
外の世界へと踊らせた。
飛んでゆく、その小さな後ろ姿を和介は瞬きもせずに見送る。
とその時、視線をやった方角に座す山の稜線に、昇る日の光が...
広がってゆく白々とした一条の光。
あの日以来、自分は朝が嫌いだった。
長くも短い2人だけの夜の終わりを知らせ、あの人を自分の前...
明るい光が憎くさえあった。
一人寝の床でうずくまるように日毎耐え続けた、しかしそれを...
「……長うございました。」
だから微笑みながら告げた、その頬にはこの時、我知らず伝う...
視界を濡らし、その淵から揺れ落ちる。
溢れ、止める事が出来ない。
それを和介は眩しいからだと思った。
光が満ちてゆく世界。
彼の人が残したこの国は今、どこまでも美しかった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
最後の最後まで長くなりましたが、これで頭にあったものをす...
長い間の場所借り、ありがとうございました。
これまで読んで下さった方、感想を下さった方も本当にありが...
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