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#title(バレンタインナイト・パニック) [#tf7bf7a9]
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. // 生 || ...
//_.再 ||__ (...
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|_____レ"
「…よし、あと10枚!」
「まだ10枚もあるんすか!?」
午前に起きた事件は何とか無事に解決を見、他の班員たちが帰...
デスクワークも刑事の大事な仕事だ。大事ではあるが、如何せ...
今日のものはこれまたひとまず置いておき、まずはこれまでに...
幸か不幸か今夜は素田と二人で当直にあたっている。
もののついでと言っては何だが、出来れば今夜中に在庫を全て...
「別にいいだろー、今晩中には終わるよ多分」
「夜中に何にもなけりゃ、の話ですけどね」
「ま、ね」
その返事に小さく肩をすくめ、黒樹はまたデスクに向き直ろう...
「もう昨日のことみたいですよね」
「ん?」
「バレンタイン…事件」
場所柄、“事件”を軽く強調してみせる。
「ああ」
素田が思い出したように小さく笑った。
「桜衣も災難だったよなあ」
「邑鮫さんのあの顔!俺、うわー自分じゃなくてよかったーっ...
「うーん、…うん、実は俺も。そう思った」
「………」
「………」
何故か不思議な間が空いて、自然と顔を見合わせて、その間が...
「っははは、ははっ」
「ふふ、ふっ」
まるで小さなこどもが拗ねるかのような、不機嫌を隠さないあ...
普段はすこぶる冷静な先輩刑事のあんな顔など滅多に見られな...
そんな直属の上司にひたすらびくびくしていた後輩刑事の顔が...
申し訳ないと思いつつも思い出しただけでまだ笑いが込み上げ...
お互いひとしきり笑った後。
よっぽど笑いのツボを刺激されたのか素田が目尻を指でごしご...
「そういえば俺たちの頃ってどんなだったかなあ、バレンタイ...
由希子は、今の時代チョコレートは特定の一人の相手に渡すも...
尤も去年は覚えがないので、今年はたまたま今日この部屋にい...
それほどに忙しない今の職業に就いてから、各シーズンイベン...
せいぜい、この時期が近づくと街全体が目に痛いくらいの赤色...
バレンタインデーに関するイメージなど今やその程度のもので...
しかし自分の学生時代は「女子が好きな男子にチョコを渡し告...
少なくともそこら全体にチョコレートをばら撒くような日では...
告白する側の女子だけでなく、今日という日が近づくと貰うあ...
時間としてはそんなに経過していない心地がするのに、この日...
素田の頃は果たしてどうだったのだろう。ぼんやりとした疑問...
「素田さんチョコレートとか貰ってましたか?」
素田はその問いに、言葉よりもまず顔の前の手をひらひらと横...
「俺はほんとそういうのさっぱりだったってば。お前は?モテ...
「…そうでもないっすよ」
「嘘つけえ」
「いやいやほんとですって!ていうかほら、手止まってますよ...
疑いの眼差しを向けてくる素田を苦笑いでごまかしながらやり...
何故だろう。
甘い菓子と一緒に甘い言葉を貰った体験が過去にないわけでは...
むしろ一般的に見ると少しばかり経験が多い方かもしれない。
だけれど、何故だか。
それを素田にはあまり知られたくないと思った。
「…よし、あと1枚!」
「えっ、黒樹速くない!?」
「俺は素田さんと違って走るのも報告書書くのも速いですから」
にやにやしながらそう言ってやると。
「何だよそれー」
はははっと素田が笑う。悪意の全くない軽口と承知してくれて...
仮にも警察という厳格な組織の上司と部下で有り得ない、と感...
それでも素田と自分にとってはこれが自然な日常なのだ。まる...
この関係と距離感が、心底たまらなく心地いい。
安曇班自体がそういう人々の集まりであることは間違いないが...
この人に出会えてよかった、と思う。
左の手首にちらと視線をやって腕時計を確認する。
あっという間に数時間が経過し、あと少しで今日という日が終...
この報告書を書き終わったら少し仮眠を取ろうか。そう思った。
「あー、でも」
書類から目を離したついでに両腕を揃えて指を組み頭上に伸ば...
「やっぱ疲れますね、書類書きは」
「だな」
「外で犯人追いかけて走ってる方がある意味楽っす」
「そうかあ?」
「そうですよ」
「ま、脳みそ使うと糖分消費するからな。腹減るよな」
そのいかにも素田らしい物言いに思わずくすりと笑ってしまう。
「そうそう、そうですよ。今なんかまさにその状態で」
「あ、じゃあさあ黒樹」
「はい?」
素田が緩慢な動きでごそごそと机の引き出しを探った。
「あったあった」
出てきたのは、よくコンビニで見かけるような一袋百円均一で...
素田は既に開封済みのその袋の中から二、三粒を無造作に取り...
「はい、糖分補給」
「あ、ありがとうございます」
「それ食べてラストスパートがんばれよ」
そう言って素田は引き出しを閉め、自分の目の前に先程の菓子...
「あっ、素田さんも食べるんですか!?」
「え、食べちゃダメなの!?」
「こんな時間に食べたらまた太りますよー?」
「いいじゃん、お前も食べるんだから!それとも要らない?要...
「いや貰いますけど!せめて袋はやめといて下さいってば」
言いながら素田のデスクに置かれた袋を取り上げ、中から数粒...
「あ」
「これは今夜一晩預かっときますからね」
「えー…」
未練がましく手元の袋を見やる素田に「ダメです」ともう一度...
「はいはい、わかったよ」
潔く諦めたらしい素田が机上の報告書に向き直る。その手がご...
「………」
やれやれと黒樹はこっそり苦笑する。だけれどそんなところも...
むしろ微笑ましく、好ましくあるとさえ思った。
「…いただきまっす」
「うん、どうぞ」
両端で軽くねじられた簡素な包装を両手でつまんで引っ張り、...
役目を終えかけた薄いプラスチック製のそれが微かな音を立て...
ふわりと鼻腔をくすぐる甘い匂いと同時に生身の姿を現した茶...
見た目の色濃さと口の中に広がる甘ったるい味からしてどうや...
「…あ、美味し」
あまりにも素直な感想がその唇から零れ落ちた。
「美味しいだろ?やっぱこういう時には糖分が一番だよなあ」
にこにこと満足げに微笑んだ素田が早々と二粒目に手を伸ばす。
「……はい」
正直、少し驚いた。
昼間に由希子から差し入れられたブランド物のチョコレートと...
今口にした安物の一粒の方がずっとずっと甘くて、ずっとずっ...
(…ん?)
そもそも何故チョコレートなんて物を差し入れられたのだった...
再びペンを右手に持ちつつ、左の指で頭を掻き掻きたっぷり数...
「――――――――あ。」
カチッ。
妙に大きな音を立てて、耳元で長針が動いた。
慌てて見ると時計の文字盤に表示された日付はつい今しがた、2...
この数年間、意識もしなかった昨日という日が終わりを告げた...
(これって)
空になった包み紙を見やる。薄く透明なそれの内側には僅かに...
「どした?」
怪訝そうな声が隣から聞こえた。その声にふっと我に返る。
「え…や、何でもありません」
「ほら、手ぇ止まってるぞー」
先刻自分が言われた台詞をこちらへ投げ返して素田がにやにや...
何故かその顔を直視するに忍びなくて、無言で最後の報告書に...
殺人犯を前にしたところで最早滅多に動揺することもなくなっ...
(…俺、今、何考えた)
「黒樹?」
打って変わって少しばかり心配そうな声がした。
「何か顔赤いけど大丈夫か?暖房効きすぎ?」
「だっ、大丈夫、です!」
「…おっ、あ、ああ、そう……?」
「あっ」
思ったよりも大きな声が出てしまったようで、隣へ目をやると...
驚かせるつもりじゃなかったのに、と内心で軽く舌打ちをする。
「…すいません、素田さん」
「ん?んん、ああ大丈夫大丈夫。ちょっとびっくりしたけど」
ぱっと穏やかな笑みを浮かべ直して素田はぽんぽんと黒樹の背...
すぐ傍で優しい声がする。
「まあ疲れてるだろうけどもうちょっとがんばろう。な、黒樹」
「…はいっ、がんばりましょう」
自分に言い聞かせるように返事をして頬を両手ではたく。
言われた通り、その頬は微かに熱かった。
叩かれた背も、熱かった。
やはり暖房が効きすぎているのだろう。経費削減のためにはも...
(考えすぎ、だよな)
疲れているからうっかり変なことを考えてしまうのだ。それだ...
心の中でそうも言い聞かせるようにして黒樹はペンを握った。
真横ではまたぞろ包みを開く微かな音とともに緩慢に身じろぐ...
仕事で疲労の溜まった脳を、労わるように、もうひとつ。
…甘いチョコレートを、手に取った。
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// .|| ...
. // 止 || ...
//, 停 ||__ (...
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「まだ10枚もあるんすか!?」
午前に起きた事件は何とか無事に解決を見、他の班員たちが帰...
デスクワークも刑事の大事な仕事だ。大事ではあるが、如何せ...
今日のものはこれまたひとまず置いておき、まずはこれまでに...
幸か不幸か今夜は素田と二人で当直にあたっている。
もののついでと言っては何だが、出来れば今夜中に在庫を全て...
「別にいいだろー、今晩中には終わるよ多分」
「夜中に何にもなけりゃ、の話ですけどね」
「ま、ね」
その返事に小さく肩をすくめ、黒樹はまたデスクに向き直ろう...
「もう昨日のことみたいですよね」
「ん?」
「バレンタイン…事件」
場所柄、“事件”を軽く強調してみせる。
「ああ」
素田が思い出したように小さく笑った。
「桜衣も災難だったよなあ」
「邑鮫さんのあの顔!俺、うわー自分じゃなくてよかったーっ...
「うーん、…うん、実は俺も。そう思った」
「………」
「………」
何故か不思議な間が空いて、自然と顔を見合わせて、その間が...
「っははは、ははっ」
「ふふ、ふっ」
まるで小さなこどもが拗ねるかのような、不機嫌を隠さないあ...
普段はすこぶる冷静な先輩刑事のあんな顔など滅多に見られな...
そんな直属の上司にひたすらびくびくしていた後輩刑事の顔が...
申し訳ないと思いつつも思い出しただけでまだ笑いが込み上げ...
お互いひとしきり笑った後。
よっぽど笑いのツボを刺激されたのか素田が目尻を指でごしご...
「そういえば俺たちの頃ってどんなだったかなあ、バレンタイ...
由希子は、今の時代チョコレートは特定の一人の相手に渡すも...
尤も去年は覚えがないので、今年はたまたま今日この部屋にい...
それほどに忙しない今の職業に就いてから、各シーズンイベン...
せいぜい、この時期が近づくと街全体が目に痛いくらいの赤色...
バレンタインデーに関するイメージなど今やその程度のもので...
しかし自分の学生時代は「女子が好きな男子にチョコを渡し告...
少なくともそこら全体にチョコレートをばら撒くような日では...
告白する側の女子だけでなく、今日という日が近づくと貰うあ...
時間としてはそんなに経過していない心地がするのに、この日...
素田の頃は果たしてどうだったのだろう。ぼんやりとした疑問...
「素田さんチョコレートとか貰ってましたか?」
素田はその問いに、言葉よりもまず顔の前の手をひらひらと横...
「俺はほんとそういうのさっぱりだったってば。お前は?モテ...
「…そうでもないっすよ」
「嘘つけえ」
「いやいやほんとですって!ていうかほら、手止まってますよ...
疑いの眼差しを向けてくる素田を苦笑いでごまかしながらやり...
何故だろう。
甘い菓子と一緒に甘い言葉を貰った体験が過去にないわけでは...
むしろ一般的に見ると少しばかり経験が多い方かもしれない。
だけれど、何故だか。
それを素田にはあまり知られたくないと思った。
「…よし、あと1枚!」
「えっ、黒樹速くない!?」
「俺は素田さんと違って走るのも報告書書くのも速いですから」
にやにやしながらそう言ってやると。
「何だよそれー」
はははっと素田が笑う。悪意の全くない軽口と承知してくれて...
仮にも警察という厳格な組織の上司と部下で有り得ない、と感...
それでも素田と自分にとってはこれが自然な日常なのだ。まる...
この関係と距離感が、心底たまらなく心地いい。
安曇班自体がそういう人々の集まりであることは間違いないが...
この人に出会えてよかった、と思う。
左の手首にちらと視線をやって腕時計を確認する。
あっという間に数時間が経過し、あと少しで今日という日が終...
この報告書を書き終わったら少し仮眠を取ろうか。そう思った。
「あー、でも」
書類から目を離したついでに両腕を揃えて指を組み頭上に伸ば...
「やっぱ疲れますね、書類書きは」
「だな」
「外で犯人追いかけて走ってる方がある意味楽っす」
「そうかあ?」
「そうですよ」
「ま、脳みそ使うと糖分消費するからな。腹減るよな」
そのいかにも素田らしい物言いに思わずくすりと笑ってしまう。
「そうそう、そうですよ。今なんかまさにその状態で」
「あ、じゃあさあ黒樹」
「はい?」
素田が緩慢な動きでごそごそと机の引き出しを探った。
「あったあった」
出てきたのは、よくコンビニで見かけるような一袋百円均一で...
素田は既に開封済みのその袋の中から二、三粒を無造作に取り...
「はい、糖分補給」
「あ、ありがとうございます」
「それ食べてラストスパートがんばれよ」
そう言って素田は引き出しを閉め、自分の目の前に先程の菓子...
「あっ、素田さんも食べるんですか!?」
「え、食べちゃダメなの!?」
「こんな時間に食べたらまた太りますよー?」
「いいじゃん、お前も食べるんだから!それとも要らない?要...
「いや貰いますけど!せめて袋はやめといて下さいってば」
言いながら素田のデスクに置かれた袋を取り上げ、中から数粒...
「あ」
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「えー…」
未練がましく手元の袋を見やる素田に「ダメです」ともう一度...
「はいはい、わかったよ」
潔く諦めたらしい素田が机上の報告書に向き直る。その手がご...
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やれやれと黒樹はこっそり苦笑する。だけれどそんなところも...
むしろ微笑ましく、好ましくあるとさえ思った。
「…いただきまっす」
「うん、どうぞ」
両端で軽くねじられた簡素な包装を両手でつまんで引っ張り、...
役目を終えかけた薄いプラスチック製のそれが微かな音を立て...
ふわりと鼻腔をくすぐる甘い匂いと同時に生身の姿を現した茶...
見た目の色濃さと口の中に広がる甘ったるい味からしてどうや...
「…あ、美味し」
あまりにも素直な感想がその唇から零れ落ちた。
「美味しいだろ?やっぱこういう時には糖分が一番だよなあ」
にこにこと満足げに微笑んだ素田が早々と二粒目に手を伸ばす。
「……はい」
正直、少し驚いた。
昼間に由希子から差し入れられたブランド物のチョコレートと...
今口にした安物の一粒の方がずっとずっと甘くて、ずっとずっ...
(…ん?)
そもそも何故チョコレートなんて物を差し入れられたのだった...
再びペンを右手に持ちつつ、左の指で頭を掻き掻きたっぷり数...
「――――――――あ。」
カチッ。
妙に大きな音を立てて、耳元で長針が動いた。
慌てて見ると時計の文字盤に表示された日付はつい今しがた、2...
この数年間、意識もしなかった昨日という日が終わりを告げた...
(これって)
空になった包み紙を見やる。薄く透明なそれの内側には僅かに...
「どした?」
怪訝そうな声が隣から聞こえた。その声にふっと我に返る。
「え…や、何でもありません」
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先刻自分が言われた台詞をこちらへ投げ返して素田がにやにや...
何故かその顔を直視するに忍びなくて、無言で最後の報告書に...
殺人犯を前にしたところで最早滅多に動揺することもなくなっ...
(…俺、今、何考えた)
「黒樹?」
打って変わって少しばかり心配そうな声がした。
「何か顔赤いけど大丈夫か?暖房効きすぎ?」
「だっ、大丈夫、です!」
「…おっ、あ、ああ、そう……?」
「あっ」
思ったよりも大きな声が出てしまったようで、隣へ目をやると...
驚かせるつもりじゃなかったのに、と内心で軽く舌打ちをする。
「…すいません、素田さん」
「ん?んん、ああ大丈夫大丈夫。ちょっとびっくりしたけど」
ぱっと穏やかな笑みを浮かべ直して素田はぽんぽんと黒樹の背...
すぐ傍で優しい声がする。
「まあ疲れてるだろうけどもうちょっとがんばろう。な、黒樹」
「…はいっ、がんばりましょう」
自分に言い聞かせるように返事をして頬を両手ではたく。
言われた通り、その頬は微かに熱かった。
叩かれた背も、熱かった。
やはり暖房が効きすぎているのだろう。経費削減のためにはも...
(考えすぎ、だよな)
疲れているからうっかり変なことを考えてしまうのだ。それだ...
心の中でそうも言い聞かせるようにして黒樹はペンを握った。
真横ではまたぞろ包みを開く微かな音とともに緩慢に身じろぐ...
仕事で疲労の溜まった脳を、労わるように、もうひとつ。
…甘いチョコレートを、手に取った。
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