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#title(君達と僕) [#dab588ed]
昨年度結成二十周年を迎えた大所帯須加グループの皆様
Dr×Tr風味。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
春の訪れに少しぼんやりしてしまうのは、飛び交う花粉の所為...
ライブのリハーサルを行なっているのスタジオの中は、当日ま...
穏やかだ。
今日は音合わせよりも取材の方がメインだったから、手の空い...
勝手な行動を行なっている。楽器を弾いている者もいれば、雑...
闘っている者、それぞれだ。九人もメンバーがいれば統率など...
音楽を前にすると自然と一丸となれるから必要もない。
その中に、喧騒を物ともせずにソファーに沈んでいる人間が一...
普段はかけている黒縁の眼鏡もそのままな状態で、持木は静か...
春になるとぼんやりする。昨夜は上手く眠れなかった。
桜の蕾が綻び出すと、思い出すのはもう遠い春。この世で一番...
大切な人と永遠に別れた春。美しい歌声は空気に溶けたきり、...
理解も出来ずに、ただぼんやりとしていたあの春。
だから持木は春になると、少しだけぼんやりしてしまう。
目覚めると同時に忘れてしまう淡い夢の中をたゆたっていた意...
優しい気配が触れた気がしたからだ。
「あれれ、琴ちゃん寝ちゃってるの?」
ギターを爪弾いていた筈の加糖の声が聞こえたけれど、持木は...
眠くて、眠くて、どうしようもない。一応起きてるよ、加糖君...
「寝ちゃってるねぇ。風邪ひかないかな」
少し押さえた様に聞こえる名ー古の声はすぐ傍にあった。続い...
少し硬い生地は、多分名ー古のPコートだ。大丈夫だよ、名ー...
「このうるさい状況でよく眠れるよな」
「琴ちゃんだから」
感心し切っている我耗に、理由らしい理由ではないのに妙な説...
近付く足音はきっと二人のもので、丁寧にまた身体の上にコー...
「毛布でもあればいいんだけど」
「あ、じゃぁ俺も革ジャン掛けるわ!」
「加糖の革ジャン、防寒性あるのかよ」
「失礼な。ちゃんとあるよー」
「へぇー、そりゃ喜多ちゃん存じ上げませんでしたわっ」
「喜多ちゃんはうるせぇよ。そんな大声出したら琴ちゃん起き...
「だったらついでのアタシのも掛けといて」
「あいよ」
ぱさ、ぱさっとさらに二着分のコートが掛けられる。一応肩か...
いるらしく、一箇所に集中しないから重くはない。微かに香る...
喫煙チームに分かれているけれど、服についた匂いまでは取り...
なかった。それどころか妙に落ち着く。掛けてもらっているコ...
心に安堵をもたらした。
「眼鏡、歪まないのかな」
「寝返りうったらやばいかも」
「名ー古、とったげたら? ついでに俺のも掛けあげてくれて...
「大守さんは面白がってるだけでしょ」
「面白がってるけど、風邪引かせたくないのも本当だよ?」
「はいはい、カワイ子ぶった言い方しないの。名ー古さん、コ...
「いいよ」
ばさりと音がして加糖がコートを投げたのが分かった。ふわり...
言いたかったけれど、やっぱり口は動かない。
暖かい指先が頬に触れる。眼鏡を外されるのは、聞こえている...
持木は驚かなかった。眼鏡を引き抜く名ー古の手はひどく慎重...
という気遣いが伝わってくる。この指があんなに器用にトラン...
持木はなんだか妙な感慨を抱く。
「ついでにさぁ、八中さんと河神さんのも掛けとけば?」
「あー、それいいかも」
「完璧な風邪対策だな」
「……本当にそう思ってんっすか」
「暖かそうではあるよね」
「重そうだろ」
交わされる会話は完全な悪ノリだったけれど、そこにはちゃん...
琴ちゃんが風邪をひたら大変だという共通の空気。寝ているの...
同じ事をしただろうし、その時は持木も同じ行動を取っただろ...
「これさぁ、琴ちゃんには大きなお世話じゃないの?」
「こんなにコート掛けるなら、毛布の一枚でも捜してくる方が...
そんな事を言いながらも、身体の上の重みがまた増える。煙草...
八中と河神のものだろう。多分河神のものであるコートのフー...
顎を擽った。二人は取材を受けていて、別室からまだ帰って来...
結局残りメンバー全員分のコートが茂木の上にある事になる。...
嬉しかった。
あの春を乗り越えられたのは、この人達がいたからだ。似たタ...
失った須加派等と、二人残ったバンドのボーカルを亡くした持...
引き合ったと思われたくなくてサポートメンバーとして参加し...
代わる代わる「正式メンバーになりなよ」と誘ってくれた。
ひたすらにポジティブで、パワフルで、前に進む事に恐れも衒...
サポートという立場ではなく共に進みたいと思った。須加派等...
だから「メンバーにして下さい」と素直に言えた。あの時貰っ...
あの時に感じた感謝の気持ちは今でもちゃんと心の中にある。
須加派等の中に居場所を見つけられた事が、どれだけ持木を救...
辿り着いたのがこの場所で、本当に良かった。
確かに八枚分のコートは重かったけれど持木は幸せだった。
「取材終わったら、リハやってる風景撮るって言ってたっけ?」
「だったら起こした方がいいのかな」
「んー、もうちょっと寝かせてあげてもいいんじゃない?」
「そうだね、よく寝てるし」
優しいトーンの声と共にくしゃっと髪が撫ぜられる。名ー古さ...
スタジオの外は多分春の風が吹いていて、持木の中の少し寂し...
けれどそれでいいのだと思う。誰の胸にも、そんな感情はある...
ちゃんと目が覚めたら、まずコートのお礼を言おう。起きるま...
眼鏡を取ってくれてありがとう、というのも忘れずに。そうし...
とか「起きないかと思った」とか色々口々に言ってくれる筈だ。
結局取材を終えた八中達に起こされるまで、八人分のコートに...
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
初っ端に分数間違えて申し訳ありませんでした。
色々あった20年でしたが、この先の20年間もどうか彼らの...
いい風が吹きますように。
#comment
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#title(君達と僕) [#dab588ed]
昨年度結成二十周年を迎えた大所帯須加グループの皆様
Dr×Tr風味。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
春の訪れに少しぼんやりしてしまうのは、飛び交う花粉の所為...
ライブのリハーサルを行なっているのスタジオの中は、当日ま...
穏やかだ。
今日は音合わせよりも取材の方がメインだったから、手の空い...
勝手な行動を行なっている。楽器を弾いている者もいれば、雑...
闘っている者、それぞれだ。九人もメンバーがいれば統率など...
音楽を前にすると自然と一丸となれるから必要もない。
その中に、喧騒を物ともせずにソファーに沈んでいる人間が一...
普段はかけている黒縁の眼鏡もそのままな状態で、持木は静か...
春になるとぼんやりする。昨夜は上手く眠れなかった。
桜の蕾が綻び出すと、思い出すのはもう遠い春。この世で一番...
大切な人と永遠に別れた春。美しい歌声は空気に溶けたきり、...
理解も出来ずに、ただぼんやりとしていたあの春。
だから持木は春になると、少しだけぼんやりしてしまう。
目覚めると同時に忘れてしまう淡い夢の中をたゆたっていた意...
優しい気配が触れた気がしたからだ。
「あれれ、琴ちゃん寝ちゃってるの?」
ギターを爪弾いていた筈の加糖の声が聞こえたけれど、持木は...
眠くて、眠くて、どうしようもない。一応起きてるよ、加糖君...
「寝ちゃってるねぇ。風邪ひかないかな」
少し押さえた様に聞こえる名ー古の声はすぐ傍にあった。続い...
少し硬い生地は、多分名ー古のPコートだ。大丈夫だよ、名ー...
「このうるさい状況でよく眠れるよな」
「琴ちゃんだから」
感心し切っている我耗に、理由らしい理由ではないのに妙な説...
近付く足音はきっと二人のもので、丁寧にまた身体の上にコー...
「毛布でもあればいいんだけど」
「あ、じゃぁ俺も革ジャン掛けるわ!」
「加糖の革ジャン、防寒性あるのかよ」
「失礼な。ちゃんとあるよー」
「へぇー、そりゃ喜多ちゃん存じ上げませんでしたわっ」
「喜多ちゃんはうるせぇよ。そんな大声出したら琴ちゃん起き...
「だったらついでのアタシのも掛けといて」
「あいよ」
ぱさ、ぱさっとさらに二着分のコートが掛けられる。一応肩か...
いるらしく、一箇所に集中しないから重くはない。微かに香る...
喫煙チームに分かれているけれど、服についた匂いまでは取り...
なかった。それどころか妙に落ち着く。掛けてもらっているコ...
心に安堵をもたらした。
「眼鏡、歪まないのかな」
「寝返りうったらやばいかも」
「名ー古、とったげたら? ついでに俺のも掛けあげてくれて...
「大守さんは面白がってるだけでしょ」
「面白がってるけど、風邪引かせたくないのも本当だよ?」
「はいはい、カワイ子ぶった言い方しないの。名ー古さん、コ...
「いいよ」
ばさりと音がして加糖がコートを投げたのが分かった。ふわり...
言いたかったけれど、やっぱり口は動かない。
暖かい指先が頬に触れる。眼鏡を外されるのは、聞こえている...
持木は驚かなかった。眼鏡を引き抜く名ー古の手はひどく慎重...
という気遣いが伝わってくる。この指があんなに器用にトラン...
持木はなんだか妙な感慨を抱く。
「ついでにさぁ、八中さんと河神さんのも掛けとけば?」
「あー、それいいかも」
「完璧な風邪対策だな」
「……本当にそう思ってんっすか」
「暖かそうではあるよね」
「重そうだろ」
交わされる会話は完全な悪ノリだったけれど、そこにはちゃん...
琴ちゃんが風邪をひたら大変だという共通の空気。寝ているの...
同じ事をしただろうし、その時は持木も同じ行動を取っただろ...
「これさぁ、琴ちゃんには大きなお世話じゃないの?」
「こんなにコート掛けるなら、毛布の一枚でも捜してくる方が...
そんな事を言いながらも、身体の上の重みがまた増える。煙草...
八中と河神のものだろう。多分河神のものであるコートのフー...
顎を擽った。二人は取材を受けていて、別室からまだ帰って来...
結局残りメンバー全員分のコートが茂木の上にある事になる。...
嬉しかった。
あの春を乗り越えられたのは、この人達がいたからだ。似たタ...
失った須加派等と、二人残ったバンドのボーカルを亡くした持...
引き合ったと思われたくなくてサポートメンバーとして参加し...
代わる代わる「正式メンバーになりなよ」と誘ってくれた。
ひたすらにポジティブで、パワフルで、前に進む事に恐れも衒...
サポートという立場ではなく共に進みたいと思った。須加派等...
だから「メンバーにして下さい」と素直に言えた。あの時貰っ...
あの時に感じた感謝の気持ちは今でもちゃんと心の中にある。
須加派等の中に居場所を見つけられた事が、どれだけ持木を救...
辿り着いたのがこの場所で、本当に良かった。
確かに八枚分のコートは重かったけれど持木は幸せだった。
「取材終わったら、リハやってる風景撮るって言ってたっけ?」
「だったら起こした方がいいのかな」
「んー、もうちょっと寝かせてあげてもいいんじゃない?」
「そうだね、よく寝てるし」
優しいトーンの声と共にくしゃっと髪が撫ぜられる。名ー古さ...
スタジオの外は多分春の風が吹いていて、持木の中の少し寂し...
けれどそれでいいのだと思う。誰の胸にも、そんな感情はある...
ちゃんと目が覚めたら、まずコートのお礼を言おう。起きるま...
眼鏡を取ってくれてありがとう、というのも忘れずに。そうし...
とか「起きないかと思った」とか色々口々に言ってくれる筈だ。
結局取材を終えた八中達に起こされるまで、八人分のコートに...
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
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