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#title(天地人 上杉景虎×上杉景勝)
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄...
| 日曜8時の時代...
____________ \ / ̄ ̄ ̄...
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| トラカツと...
| | | | ...
| | |> PLAY. | | ...
| | | | ∧...
| | | | ピッ (´...
| | | | ◇⊂ ...
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _...
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(...
蔭寅に嫡子が生まれた。
幸いにして母子ともに健やかに三月を迎えたので、蔭勝は鐘継...
が。
「しかし、めでたいことだが殿のほうはいかが相成っておるの...
「まことに。我らが殿と蔭寅様はひとつ違い。殿の嫁御の話も...
「いや、それは御美城様の深いお考えが」
「なんだ、それは」
↑田衆が一同に集まると姦しい。那珂城の一郭で座り込んでは酒...
「なんぞ、良い話でも聞き及んだか」
「いや、わしの考えじゃがの」
「ほおー。ただの絵空事か」
始めはそれでも声を潜めていたのだが、心安い仲間内に次第に...
「じゃが、もはや猶予もなるまい。殿には明日にでも家中から...
「いや、そこは肝心の殿はどうなんじゃ」
「おお、それよ。おい鐘継、お前、なんぞ知らんか」
「いや、わたしはその、何も…」
「なんじゃ。余禄も知らんのか。やはり殿はおなごとはご縁が...
「よもや、いまだ女の味を知らぬというのではあるまいな」
「おい、いい加減にせぬか」
少々下世話に傾いた話の行方に、謹厳実直な雅吉が止めに入る。
「殿の御身を手前勝手な噂話で語るな。不敬だぞ」
「怒るな怒るな。雅吉とて気になるであろう。殿はまことは誰...
しかし酔いも絡んだ男たちの戯言は簡単にやむものではない。...
「いやいや、殿は戦はともかくおなごにはとんと疎いからのう...
「確かに。この粕画山で殿に強引に迫る者など、有り得んわ」
どっと笑い声があがったのと、めきり、と不自然に背後の床板...
一同はなんの身構えもなしに笑いながら振り返った。と、弛ん...
「と、殿」
ひきつった声音は誰のものか。
だが呼ばれた側もひどくぎこちない。片足を踏みしめ過ぎたせ...
「いや。――いや、すまぬ。邪魔をした」
常よりもさらに動きの鈍い口でそれだけをようやく言うと、蔭...
否。立ち去ろうと、した。
がたたん、とまたもや音を立ててつんのめったかと思うと、↑田...
「殿!」
あきらかに動揺している姿に何か声をかけねばと一同、焦るが...
影継が呆然と呟く。
「まさか。……図星であったか」
「何がだ」
だが空気を読まない比佐英の突っ込みは、雅吉と鐘継によって...
珍しく花が同万丸に付き添ってやすんでしまったので、蔭寅は...
ひとり沈思することには慣れている。だが決して心地よいもの...
ただひとりほの暗い部屋に座っていると、馴染んだ孤独が身を...
心を呑みこもうとする暗い感情から逃れるために、蔭寅は先に...
しかし思い浮かぶのは、妹に抱かれた甥を覗き込んでいる姿で...
たった一度、戯れに触れた。
それはひどく他愛のないもので、心の通い合いなどはない様々...
なのにそのひとときを蔭寅は忘れずにいる。そしてそれは、恐...
おかしなことだ、と蔭寅は笑った。
自分には花という最愛の妻がいる。嫡男はわが分身だ。
蔭勝はと言えば、生真面目な武骨者で周囲をひたりと忠義者た...
けれど、だからこそ彼の者に無体な真似を仕掛けたのはおのれ...
なんの因果か、このような思いに囚われたまま今に至っている。
自嘲しながら、今一度彼の者が目の前に差し出されたならば手...
愚かしい衝動が身を灼くのを感じ、半ばそのような機会が二度...
意外な偶然が再び訪れたきっかけは、戦のさなかだった。
美城様が出兵を決めて植過軍が打ち揃って越中に向うという時。
こうるさい↑田衆の子犬が初陣を飾るという話は聞かずとも耳に...
そうして敵と小競り合いをした際、子犬は無様な失態を演じた...
これはその被害を蒙った故の家臣の口から直接聞いたものだ。...
そのはずだった。
だが不徳の限りというべきか。日頃の↑田衆への蔑みの感情がお...
陣中で不祥事が起こった。
蔭寅の家臣と↑田衆の出水沢と鐘継が刃傷沙汰を起こしたのだ。
思わぬ不測の事態に、蔭寅は呆然とした。
諍いの元を辿れば、蔭寅の家臣、評語が野犬に蔭勝の幼名をつ...
遂には口論となり、抜刀した鐘継が評語に切りかかったのだ。
訳を知ってしまえば素知らぬふりはできなかった。
相も変らぬ、主君を大事に囲みながらその実、当人たちの気持...
懸念はすぐさま現実となった。
評定の場でも蔭勝は常と変わりなく平静だった。諍いの元と顔...
蔭寅は苛立った。蔭勝の陣へ赴いてでもなんとか二人で会いた...
いたずらに日数は過ぎ、ついに弁明の弁明の機会は失われた。
刃傷沙汰を起こした↑田衆の二人が押し込めとなり、事は美城様...
おのれにできるのは何もない。
それでも軍議の折りに蔭勝を捉まえて声をかけた。
だが。
「人の家臣の心配など無用じゃ」
差し出した手は掴まれることなく振り払われた。
意外な思いを隠せず蔭勝を見直したが、続く言葉に頬が熱くな...
「今は小事に捉われず、次なる戦にむけて一丸となるべき時。...
おのが好意を無碍にされたことより、家臣同士の諍いという小...
蔭寅はおのれを恥じた。
見誤った。
蔭勝は一家臣の去就に心をかける男ではなかったのだ。
居心地の悪い思いを隠し、逃げるようにその場を後にする。蔭...
闇に沈む廊下を歩みながら、蔭寅は先刻の言葉をただ悔いてい...
結果として、刀を抜いた↑田の二人に美城様の沙汰が下り彼らは...
そうして、また決して触れ合わない距離を保ったよそよそしい...
だが。
陣屋で遇う蔭勝は相変わらず無表情で何を考えているかもわか...
落ち着いたたたずまい。戦に向ける関心も高く判断も的確なの...
原因はこれまで傍に傅いていた子犬の不在。
鐘継がいない。
それだけで意識せぬまま、荒れてひどく尖った心を剥き出しに...
やはり。あれを気にしているのではないか。
蔭寅は先のわだかまりが溶けると同時に、ひそかなさざ波が胸...
謹慎して引き離された火口鐘継という郎党一人のせいで、蔭勝...
そんな落ち着かない野の獣のようなさまに、心が動いた。
雪深い奈々尾の陣中。
蔭勝がこのところ近習さえもそばに寄せずにいることは聞き知...
ほら、このように。
いとも容易く蔭勝の陣へ導かれ、目当ての者の姿を見つけた蔭...
静やかに歩み寄ると、ようやく目の前に射した影に人の気配を...
「かげ、寅殿」
こちらを向いた面は、不意を突かれてか無防備に頼りなくみえ...
「このようなところへ…。何か、火急の変事でも?」
問いかけて、ならば子飼いの郎党が先に告げるはずと思い直し...
ふっ、と蔭寅が笑んだのを見て蔭勝は首をかしげた。既に最前...
「蔭寅殿?いかがした」
「何を、惑うておられる」
笑んだまま、低く問う。瞬時に蔭勝の頬が強ばった。
「――っ。何も」
「傍に子犬がおらぬが、それほど不安か」
言下に否定するのに重ねて切り込むと、眦を吊り上げて睨み据...
「埒もない」
短く吐き捨てて踵を返そうとする。それを蔭寅は腕を掴むこと...
「離せっ」
力任せに振りほどくのをさらに引き寄せ、耳元に囁く。
「そうして。常になく声を荒げているのをご存じか。いつもよ...
びくり、と体が竦むのを捕えた腕で感じる。蔭勝がおのが言葉...
滅多に見られぬ蔭勝の感情の起伏は、この場にいない鐘継が齎...
今ここで対峙しているおのれは、何なのだ。
苛立ちは衝動となって蔭寅を突き動かす。掴んだ腕を離さぬま...
「何を――っ」
あげかけた言葉を唇をふさぐことでとどめ、今一度言を継ぐ。
「たかが一家臣。死んだわけでもあるまいし、そのように心に...
「ふざけるなっ」
「ふざけているのはそなただ。目の前にいるのはわしだ。今、...
その言葉におのれの状態を自覚してか蔭勝が慌てたように身じ...
「いかに心安い者とて、ただの郎党ではないか。それとも。深...
「――!馬鹿なことを」
虚を突かれたかのような呟きに蔭寅は満足した。身を起こし蔭...
間近で息をつく蔭勝は目元を赤く染めていたが、それでもこち...
「なにゆえ、このような真似を。そなたには――」
短く吐いて先を言えず唇を引き結ぶ。
あとに続くはずの言葉をたがわず察して、蔭寅は笑った。
「花も同万も愛おしい。わしにとっては大事だ」
だが、と唇を歪める。
「そなたを見ていると、身に衝動が起こる。近侍の↑田衆に囲ま...
恐らく、それは自身が持ち得ぬものゆえ。わかっていながらも...
「それだけで腕を伸ばすのはおかしいか。世の理に反していよ...
詰るように問うて、その言葉の虚しさに自嘲する。
ふいに訪れた心の隙間を埋めるように誰かを求めたことなど。...
未だ女の影も見当たらない。その上、幼くして実父を失い、嫁...
彼を守り慕う者どもが常につき従うゆえに。たとえ蔭勝が寂し...
「そのようなもの、感じたことはない。わしは御美城様の目指...
蔭寅の思いがけなく激しい口調にとまどいを見せたものの、蔭...
「その援けとなるのが我が郎党。鐘継は大事な一人だ」
予想どおりの蔭勝の答え。
傍から見たならば妻子のある蔭寅は蔭勝よりはるかに前途のあ...
そうして、不可思議な孤独にさいなまれた時に脳裏を過ぎるの...
だが蔭寅の屈折した心が通じることはない。特に、今の蔭勝に...
それでも、と望むことはできなかった。
蔭寅の手から力が抜ける。蔭勝がすっと離れ、手にしたはずの...
それをどこか遠くに感じつつ、ふいに思う。
おのれは、なんと欲深なことか。↑杉のすべてが欲しいのか。そ...
蔭勝を手にしたなら、おのれは永遠の安らぎを得られるのだろ...
手痛い拒絶にあっても尚、浅ましく考えるおのれに自嘲する。
それでも。
傍らにあるべき者と離されて、珍しく悲愴な空気を身にまとい...
欲が深いだけでなく非道な真似をするのは、いかにも憚られる。
大事な家臣が手元に帰ったおりにでも。
まだ、時はあるだろう。
御美城様が亡くなった。
蔭寅にとって、その事実を認めるのは容易ではなかった。
↑杉の跡目は蔭勝と決まった。そのことに何ら疑義はないはずだ...
ざわめくのは我が心だけではない。家中は、早くも我を跡目に...
見えない対立が高まる中、恐ろしいほどの孤独が我が身を苛む。
ほんの少し前までは何もかもを手にして満たされていたはずな...
御美城様の慈愛も戦闘院様の慈しみも花の細やかな愛情も、同...
ただ、蔭勝が我よりも上に立つというだけで。いや、上に立つ...
それと同時に足元がぐずぐずと崩れて定まらぬ。心が冷えて、...
身内の裏切りと孤独の不安の中にあったおのれに、敬愛する父...
そのうちにあってただ一人離れた位置にあった存在。
あれをも強引に捉えることを、欲が深すぎると戒め、為さなか...
それは誤りであったのか。
ただひとつ、蔭勝の心を無理やりに拓くことを抑えた。そのこ...
そしておのれは、再び孤独と鬱屈の闇に沈まねばならぬ。
そなたとは、御屋形様に共にお仕えすることを至上としている...
かつて直接に蔭勝の口から引き出した言葉。
それを信じたは浅はかであったのか。
い、や。
戦闘院様は美城様のご遺言を継ぎ、蔭勝を跡目と立てていこう...
なんということはないではないか。
そうして今ある事態をひとつひとつ確かめて。
愕然とする。
これはいったい何の為だ?
このように考えることがそも、疑心に揺れているのではないか。
欲深であるのに、愚かだ。
度し難い。
度し難いほど愚かだった。
――夏季埼が蔭勝の館に夜討ちを仕掛けたのは、その夜のことで...
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧...
| | | | ピッ (...
| | | | ◇⊂ ...
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| ...
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) ...
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
カツ様サイドは無しで進行してますがそれはわざとだと思うと幸せ...
13話本編と被っているエピが一部ありましたが、その辺はスルー推...
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#title(天地人 上杉景虎×上杉景勝)
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄...
| 日曜8時の時代...
____________ \ / ̄ ̄ ̄...
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| トラカツと...
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|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _...
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(...
蔭寅に嫡子が生まれた。
幸いにして母子ともに健やかに三月を迎えたので、蔭勝は鐘継...
が。
「しかし、めでたいことだが殿のほうはいかが相成っておるの...
「まことに。我らが殿と蔭寅様はひとつ違い。殿の嫁御の話も...
「いや、それは御美城様の深いお考えが」
「なんだ、それは」
↑田衆が一同に集まると姦しい。那珂城の一郭で座り込んでは酒...
「なんぞ、良い話でも聞き及んだか」
「いや、わしの考えじゃがの」
「ほおー。ただの絵空事か」
始めはそれでも声を潜めていたのだが、心安い仲間内に次第に...
「じゃが、もはや猶予もなるまい。殿には明日にでも家中から...
「いや、そこは肝心の殿はどうなんじゃ」
「おお、それよ。おい鐘継、お前、なんぞ知らんか」
「いや、わたしはその、何も…」
「なんじゃ。余禄も知らんのか。やはり殿はおなごとはご縁が...
「よもや、いまだ女の味を知らぬというのではあるまいな」
「おい、いい加減にせぬか」
少々下世話に傾いた話の行方に、謹厳実直な雅吉が止めに入る。
「殿の御身を手前勝手な噂話で語るな。不敬だぞ」
「怒るな怒るな。雅吉とて気になるであろう。殿はまことは誰...
しかし酔いも絡んだ男たちの戯言は簡単にやむものではない。...
「いやいや、殿は戦はともかくおなごにはとんと疎いからのう...
「確かに。この粕画山で殿に強引に迫る者など、有り得んわ」
どっと笑い声があがったのと、めきり、と不自然に背後の床板...
一同はなんの身構えもなしに笑いながら振り返った。と、弛ん...
「と、殿」
ひきつった声音は誰のものか。
だが呼ばれた側もひどくぎこちない。片足を踏みしめ過ぎたせ...
「いや。――いや、すまぬ。邪魔をした」
常よりもさらに動きの鈍い口でそれだけをようやく言うと、蔭...
否。立ち去ろうと、した。
がたたん、とまたもや音を立ててつんのめったかと思うと、↑田...
「殿!」
あきらかに動揺している姿に何か声をかけねばと一同、焦るが...
影継が呆然と呟く。
「まさか。……図星であったか」
「何がだ」
だが空気を読まない比佐英の突っ込みは、雅吉と鐘継によって...
珍しく花が同万丸に付き添ってやすんでしまったので、蔭寅は...
ひとり沈思することには慣れている。だが決して心地よいもの...
ただひとりほの暗い部屋に座っていると、馴染んだ孤独が身を...
心を呑みこもうとする暗い感情から逃れるために、蔭寅は先に...
しかし思い浮かぶのは、妹に抱かれた甥を覗き込んでいる姿で...
たった一度、戯れに触れた。
それはひどく他愛のないもので、心の通い合いなどはない様々...
なのにそのひとときを蔭寅は忘れずにいる。そしてそれは、恐...
おかしなことだ、と蔭寅は笑った。
自分には花という最愛の妻がいる。嫡男はわが分身だ。
蔭勝はと言えば、生真面目な武骨者で周囲をひたりと忠義者た...
けれど、だからこそ彼の者に無体な真似を仕掛けたのはおのれ...
なんの因果か、このような思いに囚われたまま今に至っている。
自嘲しながら、今一度彼の者が目の前に差し出されたならば手...
愚かしい衝動が身を灼くのを感じ、半ばそのような機会が二度...
意外な偶然が再び訪れたきっかけは、戦のさなかだった。
美城様が出兵を決めて植過軍が打ち揃って越中に向うという時。
こうるさい↑田衆の子犬が初陣を飾るという話は聞かずとも耳に...
そうして敵と小競り合いをした際、子犬は無様な失態を演じた...
これはその被害を蒙った故の家臣の口から直接聞いたものだ。...
そのはずだった。
だが不徳の限りというべきか。日頃の↑田衆への蔑みの感情がお...
陣中で不祥事が起こった。
蔭寅の家臣と↑田衆の出水沢と鐘継が刃傷沙汰を起こしたのだ。
思わぬ不測の事態に、蔭寅は呆然とした。
諍いの元を辿れば、蔭寅の家臣、評語が野犬に蔭勝の幼名をつ...
遂には口論となり、抜刀した鐘継が評語に切りかかったのだ。
訳を知ってしまえば素知らぬふりはできなかった。
相も変らぬ、主君を大事に囲みながらその実、当人たちの気持...
懸念はすぐさま現実となった。
評定の場でも蔭勝は常と変わりなく平静だった。諍いの元と顔...
蔭寅は苛立った。蔭勝の陣へ赴いてでもなんとか二人で会いた...
いたずらに日数は過ぎ、ついに弁明の弁明の機会は失われた。
刃傷沙汰を起こした↑田衆の二人が押し込めとなり、事は美城様...
おのれにできるのは何もない。
それでも軍議の折りに蔭勝を捉まえて声をかけた。
だが。
「人の家臣の心配など無用じゃ」
差し出した手は掴まれることなく振り払われた。
意外な思いを隠せず蔭勝を見直したが、続く言葉に頬が熱くな...
「今は小事に捉われず、次なる戦にむけて一丸となるべき時。...
おのが好意を無碍にされたことより、家臣同士の諍いという小...
蔭寅はおのれを恥じた。
見誤った。
蔭勝は一家臣の去就に心をかける男ではなかったのだ。
居心地の悪い思いを隠し、逃げるようにその場を後にする。蔭...
闇に沈む廊下を歩みながら、蔭寅は先刻の言葉をただ悔いてい...
結果として、刀を抜いた↑田の二人に美城様の沙汰が下り彼らは...
そうして、また決して触れ合わない距離を保ったよそよそしい...
だが。
陣屋で遇う蔭勝は相変わらず無表情で何を考えているかもわか...
落ち着いたたたずまい。戦に向ける関心も高く判断も的確なの...
原因はこれまで傍に傅いていた子犬の不在。
鐘継がいない。
それだけで意識せぬまま、荒れてひどく尖った心を剥き出しに...
やはり。あれを気にしているのではないか。
蔭寅は先のわだかまりが溶けると同時に、ひそかなさざ波が胸...
謹慎して引き離された火口鐘継という郎党一人のせいで、蔭勝...
そんな落ち着かない野の獣のようなさまに、心が動いた。
雪深い奈々尾の陣中。
蔭勝がこのところ近習さえもそばに寄せずにいることは聞き知...
ほら、このように。
いとも容易く蔭勝の陣へ導かれ、目当ての者の姿を見つけた蔭...
静やかに歩み寄ると、ようやく目の前に射した影に人の気配を...
「かげ、寅殿」
こちらを向いた面は、不意を突かれてか無防備に頼りなくみえ...
「このようなところへ…。何か、火急の変事でも?」
問いかけて、ならば子飼いの郎党が先に告げるはずと思い直し...
ふっ、と蔭寅が笑んだのを見て蔭勝は首をかしげた。既に最前...
「蔭寅殿?いかがした」
「何を、惑うておられる」
笑んだまま、低く問う。瞬時に蔭勝の頬が強ばった。
「――っ。何も」
「傍に子犬がおらぬが、それほど不安か」
言下に否定するのに重ねて切り込むと、眦を吊り上げて睨み据...
「埒もない」
短く吐き捨てて踵を返そうとする。それを蔭寅は腕を掴むこと...
「離せっ」
力任せに振りほどくのをさらに引き寄せ、耳元に囁く。
「そうして。常になく声を荒げているのをご存じか。いつもよ...
びくり、と体が竦むのを捕えた腕で感じる。蔭勝がおのが言葉...
滅多に見られぬ蔭勝の感情の起伏は、この場にいない鐘継が齎...
今ここで対峙しているおのれは、何なのだ。
苛立ちは衝動となって蔭寅を突き動かす。掴んだ腕を離さぬま...
「何を――っ」
あげかけた言葉を唇をふさぐことでとどめ、今一度言を継ぐ。
「たかが一家臣。死んだわけでもあるまいし、そのように心に...
「ふざけるなっ」
「ふざけているのはそなただ。目の前にいるのはわしだ。今、...
その言葉におのれの状態を自覚してか蔭勝が慌てたように身じ...
「いかに心安い者とて、ただの郎党ではないか。それとも。深...
「――!馬鹿なことを」
虚を突かれたかのような呟きに蔭寅は満足した。身を起こし蔭...
間近で息をつく蔭勝は目元を赤く染めていたが、それでもこち...
「なにゆえ、このような真似を。そなたには――」
短く吐いて先を言えず唇を引き結ぶ。
あとに続くはずの言葉をたがわず察して、蔭寅は笑った。
「花も同万も愛おしい。わしにとっては大事だ」
だが、と唇を歪める。
「そなたを見ていると、身に衝動が起こる。近侍の↑田衆に囲ま...
恐らく、それは自身が持ち得ぬものゆえ。わかっていながらも...
「それだけで腕を伸ばすのはおかしいか。世の理に反していよ...
詰るように問うて、その言葉の虚しさに自嘲する。
ふいに訪れた心の隙間を埋めるように誰かを求めたことなど。...
未だ女の影も見当たらない。その上、幼くして実父を失い、嫁...
彼を守り慕う者どもが常につき従うゆえに。たとえ蔭勝が寂し...
「そのようなもの、感じたことはない。わしは御美城様の目指...
蔭寅の思いがけなく激しい口調にとまどいを見せたものの、蔭...
「その援けとなるのが我が郎党。鐘継は大事な一人だ」
予想どおりの蔭勝の答え。
傍から見たならば妻子のある蔭寅は蔭勝よりはるかに前途のあ...
そうして、不可思議な孤独にさいなまれた時に脳裏を過ぎるの...
だが蔭寅の屈折した心が通じることはない。特に、今の蔭勝に...
それでも、と望むことはできなかった。
蔭寅の手から力が抜ける。蔭勝がすっと離れ、手にしたはずの...
それをどこか遠くに感じつつ、ふいに思う。
おのれは、なんと欲深なことか。↑杉のすべてが欲しいのか。そ...
蔭勝を手にしたなら、おのれは永遠の安らぎを得られるのだろ...
手痛い拒絶にあっても尚、浅ましく考えるおのれに自嘲する。
それでも。
傍らにあるべき者と離されて、珍しく悲愴な空気を身にまとい...
欲が深いだけでなく非道な真似をするのは、いかにも憚られる。
大事な家臣が手元に帰ったおりにでも。
まだ、時はあるだろう。
御美城様が亡くなった。
蔭寅にとって、その事実を認めるのは容易ではなかった。
↑杉の跡目は蔭勝と決まった。そのことに何ら疑義はないはずだ...
ざわめくのは我が心だけではない。家中は、早くも我を跡目に...
見えない対立が高まる中、恐ろしいほどの孤独が我が身を苛む。
ほんの少し前までは何もかもを手にして満たされていたはずな...
御美城様の慈愛も戦闘院様の慈しみも花の細やかな愛情も、同...
ただ、蔭勝が我よりも上に立つというだけで。いや、上に立つ...
それと同時に足元がぐずぐずと崩れて定まらぬ。心が冷えて、...
身内の裏切りと孤独の不安の中にあったおのれに、敬愛する父...
そのうちにあってただ一人離れた位置にあった存在。
あれをも強引に捉えることを、欲が深すぎると戒め、為さなか...
それは誤りであったのか。
ただひとつ、蔭勝の心を無理やりに拓くことを抑えた。そのこ...
そしておのれは、再び孤独と鬱屈の闇に沈まねばならぬ。
そなたとは、御屋形様に共にお仕えすることを至上としている...
かつて直接に蔭勝の口から引き出した言葉。
それを信じたは浅はかであったのか。
い、や。
戦闘院様は美城様のご遺言を継ぎ、蔭勝を跡目と立てていこう...
なんということはないではないか。
そうして今ある事態をひとつひとつ確かめて。
愕然とする。
これはいったい何の為だ?
このように考えることがそも、疑心に揺れているのではないか。
欲深であるのに、愚かだ。
度し難い。
度し難いほど愚かだった。
――夏季埼が蔭勝の館に夜討ちを仕掛けたのは、その夜のことで...
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| | □ STOP. | |
| | | | ∧...
| | | | ピッ (...
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|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| ...
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) ...
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
カツ様サイドは無しで進行してますがそれはわざとだと思うと幸せ...
13話本編と被っているエピが一部ありましたが、その辺はスルー推...
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作品一覧
シリーズものインデックス3
シリーズものインデックス2
シリーズものインデックス
第71巻
第70巻
第69巻
第68巻
第67巻
第66巻
第65巻
第64巻
第63巻
第62巻
第61巻
第60巻
第59巻
第58巻
第57巻
第56巻
第55巻
第54巻
第53巻
第52巻
第51巻
第50巻
第49巻
第48巻
第47巻
第46巻
第45巻
第44巻
第43巻
第42巻
第41巻
第40巻
第39巻
第38巻
第37巻
第36巻
第35巻
第34巻
第33巻
第32巻
第31巻
第30巻
第29巻
第28巻
第27巻
第26巻
第25巻
第24巻
第23巻
第22巻
第21巻
第20巻
第19巻
第18巻
第17巻
第16巻
第15巻
第14巻
第13巻
第12巻
第11巻
第10巻
第9巻
第8巻
第7巻
第6巻
第5巻
第4巻
第3.1巻
第3巻
第2巻
第1巻
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