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#title(平安) [#wbcc6c5f]
この流れの中申し訳ないが、誕生日だけは祝いたいので強引に...
流石兄弟 リバ 平安8
※地雷注意!過去の従兄者×兄者について言及あり
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・)ジサクジエンガオオクリシマ~ス!
真昼の熱気は既に失せたが、夕暮れの寂莫が迫っている。
ただし闇が全てを鎖すにはまだ間がある。
兄者はこの時の空を眺めるのが好きだ。
まだ弟は帰らない。だから簀子(すのこ)にいざり出て、高欄...
弟者は外を眺める彼を見かけると不安がる。出かける自由を...
――出たいんじゃないのだがな
ただ、少しずつ暮れゆく空が好きなだけだ。
権門の子弟である。父は内大臣の位にあり、母は皇太后付き...
自らも右近衛府の少将にして蔵人の職を兼ねている。
けれど彼には秘め事があった。
この時代、忌むべき存在である双つ子の弟がいる。その彼と...
今ではそれまでの弟の立場でこの東北の対で暮らしている。
そして、その弟と情を通じている。他の家族や正室には持ち...
夕闇を背に部屋に戻った。
燭台や吊燈籠の灯を点しに来た雑仕に軽くうなづき、唐櫃(か...
それを読みながら弟を待った。
渡殿を通る足音が苛ついているように聞こえる。それでも待...
立ち上がって彼を迎えた。
暗い顔で入ってきた弟者は、その兄を強く抱きしめた。
明日も彼が部屋に籠ることを見越して、唇ではなくうなじに痕...
されるがままにそれを受け入れていた兄は、弟者の指先が単...
初めてそれを止めた。
「何かあったのか?」
指先に自分の指を絡ませる。人の温もり。
陰のある微笑いをどうにか浮かべ、その指をつかむ。
「いや、大したことじゃない。今度の観月の宴だが、舞も組...
「ほう。おまえが踊るのか」
「ああ……青海波(せいがいは)だ」
「二人舞だな。相手は?」
弟者は苦虫を噛み潰すように答えた。
「………アイツだ」
その表情で兄者は悟る。従兄弟者と踊ることになったらしい。
「最初は頭中将の予定だったが主上がな」
似た顔の方が面白い、とそう決めた。
「やはり、嫌か」
「当たり前だろ!あんなやつ、むしろ亀羽目波でもぶつけて...
「それは何だ」
「知らないのか。古くからある伝承で、甲羅を背負った仙人...
弟者は両手で形を作った。
「こうか」
兄者も真似をしてみる。
「そう。で、叫ぶ」
二人してしばらく練習するが、ふと我に返る。
「…むしろ、舞の練習をした方が良くはないか」
「まあな」
しかしその気にはなれないらしく、円座に腰を下ろして考え...
その宴は舞よりも管弦の遊びが主体となる。
大半の楽器は雅楽寮(うたづかさ)で楽人たちが管理している...
一部の御物は校書殿にしまわれてある。
プログラムを作り終えた頃、上司にそこに行かされた。舞手...
塗籠(ぬりごめ)の中は昼なお暗く、灯を点しても薄ぼんやり...
そこに、世の中で最も嫌いな人物の人をくったような嘲笑いが...
「……楽器といえば、オマエの兄貴もいい声出したな」
体がこわばる。微かに黴臭い塗籠の空気が凍る。
「お前が仕込んだのか?すがりついてイく時が特によかった...
自分の表情を意地悪く観察している。反応したら負けだと思...
相手はニヤニヤとこちらの動揺を楽しんでいる。
この男と兄者には過去がある。それが、自分を思い過ぎての...
トラウマになりつつある。
それなのに、躯は疼く。
「勃ってるんじゃないのか」
指貫(さしぬき)の上はゆるやかな袍で覆われているため、わ...
それでも図星を指され、そっぽを向いた。
紺地錦に包まれた漆塗りの七弦琴を取り上げ、中身を確認し...
唐渡りの琵琶を抱えた従兄弟者は、灯を吹き消す前に「アイツ...
と馬鹿にしたように言った。
身体が灼け焦げそうなほどのジェラシー。
怒りと悲しみ、それに蔦のように絡みつく昏い感情。
そしてその深淵に潜む淫靡な影。
傷は自分を蝕み、新たな贄を欲しがる。
――彼を傷つけたい
闇から生まれる自虐と同じ色の加虐心。
――泣かせたい。傷つけたい。そして……癒してやりたい
自分の言葉や行動で生まれる涙をこの手でぬぐい、それを唇...
抱きしめて、全ての願いを聞いてやりたい。
その想いは棘として心の奥に沈む。
けれど横にいる彼はそれを溶かすような笑顔だ。
「少し遅いから心配だった」
弟者は不思議そうに見返す。
「最近は治安もそう悪くない」
「違う。誰かに『おまえは宮中の柱になれ』とか『俺がオマ...
1/3ほどくどかれてるんじゃないかと」
「ねーよw」
気分が軽くなる。肩に手をやり引き寄せる。先ほど口づけた...
くすぐったそうにしている様子が年より幼く見えた。
そのくせ腕の中に閉じ込めようとすると薄く微笑い、逆に床に...
下から見上げていると今度は大人の表情で、唇を近づけてく...
目を閉じると触れられた部分が熱い。
日中は夏の名残りを留めるこの季節、日が落ちてからは急に...
冷えた空気の中、躯だけが熱を帯びていく。
「舞のほかは何を奏するのか」
「オレは竜笛と催馬楽(さいばら)だ」
「子育てに忙しそうな人?」
「いや。歌の方だ。四、五人で歌うのだが合唱パートが合わ...
遅く取った夕食の後、厚畳に転がっている。
「へえ……まさか主上も歌うのか」
「そのせいもあるがな」
歌うこと自体はお好きでいらっしゃるようではあるが、なか...
「持っていけ 最後に笑っちゃうのは吾のはず 衣冠束帯だ...
笏(しゃく)投げは揃うが」
「声は悪くもないのに、何故あのような歌になるのだろうか」
「さあ」
「おまえのソロパートは」
「君のくれた阿弥陀信仰 億千万っ 億千万っ、のとこ」
「あそこか。聞かせ所だな」
「ああ」
ちょっと得意そうな弟者は床に目をやり、投げ出されたまま...
軽い問いかけの視線に兄者が答える。
「――愛のたゆたい 多武峯(とうのみね)少将の真実――メロド...
原典の『多武峯少将物語』は、文武に優れ将来を嘱望された...
突然の出家をとげたことについての話である。
「兼家の異母兄弟だよな」
「うむ。彼はテンプレ攻めで、さっき『おれが全てを忘れさ...
「はあ?」
「えーと、長男の伊尹(これまさ)が紳士攻めで、次男の兼通(...
三男兼家が今言ったやつで実弟の為光がヘタレ攻めだ。ちなみ...
「総受けものか」
「その体裁だが分類マニアものって感じだ。実妹がいいんだ...
『しょせんお兄様は私の足元にひざまづくしかないのよ』と輝...
そういえばこいつ妹萌えだった、と幾分むくれながら思う。
「そいつが本命か」
「いや」
体を半分起こし、弟の耳もとに唇を近づける。
「最後は素直クールなもう一人の実弟のもとで出家」
「坊主なのか、それ」
「ああ。お山のな。南無阿弥陀 南無阿弥陀 それが坊主の...
「比叡(ひえい)山はそんなことを言わない」
「天罰!天罰!天罰!天罰!」
楽しそうに歌いながら、弟に片目をつぶって見せた。
自邸に戻るとすぐに気持ちは鎮められるのに、九重(ここのえ...
舞や催馬楽の練習のせいで、何かと苦手な相手との接触が多...
しかも、隙さえあれば感情を揺らすその男の人の悪さに、弟者...
蔵人になったとき彼はもう一人前で、自分で何でも出来ると...
泣いたり、笑ったり、怒ったり。世の中のことはほとんど知っ...
でも本当は家族や社会に守られているただの若人だった。
本当の怒りや悲しみはそんな日常の中にはない。
それを知ったのは、あの過去の一日で未だに弟者はその日に縛...
宴の当日だ。
まだ日も暮れぬうちから弟者は支度に忙しい。
楽人や舞人を適切に配置したり、計画を状況にあわせて微調...
正式な行事なので殿上人が主体だが、主上の御もとの幾人か...
御簾の内から手練れの女房に楽の音を添わせたりする。
その楽器の弦を整えるためにもやたらに呼ばれる。
付き合いのある相手は無碍にも出来ない。
あの男も同じように忙しいので、構われない事だけが救いだ。
やがて満月が昇り始める。
敷かれた白砂がその光を受けて、銀の珠かと見まごうばかり...
篝火はわざと控えめにさせた。今宵の主役の月の面輪をかす...
抜かりなく全ての確認をしているとき、ふと見慣れぬ舞人を...
面でその貌を覆っている。人数とプログラムを脳裏で確かめ...
「舞の補いの者らしいですよ。楽人の人長が念のために連れ...
その頃には確信していた。兄者だ。間違いない。
何とか声をかけたいが、一足ごとに呼ばれて近づけない。
謎の舞人は一人そこに佇んで、弟者を見ていた。
その肩を叩く者がある。
よりにもよって従兄弟者が彼をふり向かせる。
――そいつに触れるな!
全てを蹴散らして走り寄ろうとした瞬間、なんと主上からの...
用を果たして駆け戻ったが、既に舞人の姿は消えていた。
妙なる調べがあたりに響く。
それにそつなく笛の音を合わせているが、胸のうちは嵐と変...
いつのまにかに戻ったあの男は、こちらを見てにやり、と笑...
瞋恚の焔。限界まで高ぶる悋気。
隈なく冴え渡る望月のもとにありながら、心は闇に満ちてい...
笛を置いてその場を下がり、舞装束に改める。
盤渉調(ばんしきちょう)の曲が流れる。
清涼殿の東庭に設えた舞台に二人が上がる。
使徒の一体ぐらい倒せそうに同調して、二人の袂が翻る。
弟者は挑むように、試楽のときとはわずかに違えたタイミン...
従兄弟者は少しも外さない。
むしろその緊張感が舞を引き締め、恐ろしいまでの美が生み...
「鬼神にでもさらわれるのではないかと不安になるほどでし...
終了した後、女房たちの下馬評が耳に入った。弟者は微かに...
――オレ自身が鬼神だと気づいていないのか
舞の最中、心をよぎった一つの思念。
――問題は兄者だ
どんな甘言に惑わされたのか知らないが、アイツについて行...
再び心は毒に占められる。
――どうすれば彼を傷つけられる?
答えはすぐに返る。
――オレを汚せば彼は傷つく。
そのくらいの自信はある。
――それに最も効果的なのは……
催馬楽の用意が整い、呼ばれた。目の前をその男が大股に歩...
月は西に傾きつつあるが、それでも有明と呼ぶにはまだ早い。
宴はいまだ果てなく続く。けれども弟者はそれに背を向け、い...
秋の夜の月の冴えは、春の朧のゆかしさとは違う。
渡殿に落ちる影はその際さえ鋭く見える。
弟者は荒くそこを踏み渡って、音を立てて妻戸を開いた。
灯火は消えている。深い闇がそこに広がる。
――いないのか
目を慣らして見渡すと、部屋の柱のもとに人影がある。座り...
灯りを一つだけ点してみると、舞人の姿のまま面さえ外して...
紐を解いてやり、面を取ろうとすると片手で押さえたまま首...
それでもその手を捕らえ、無理に外すと水に似たものが滴っ...
火影に涙が水晶のように光る。
「アイツに何かされたのか!」
勢い込んで尋ねると、再び否定のしぐさをする。
「………違う」
両肩をつかむと顔を伏せ、小さな声で答えた。
「妬いている」
驚いて見つめると涙ぐんだまま赤くなった。
憎しみで人が殺せたら。そんな思いで踊りきったのに、端か...
こちらも夕暮れのことを尋ねてみる。
「肩を叩かれていただろう」
「目立たず見えやすい場所を教えてくれただけだ」
体の力が抜け、目眩がする。自分の一人芝居があまりに馬鹿...
愛しくて、憎くて、傷つけたくて。
催馬楽を歌っているときに、横の従兄弟者に薄く視線を流し...
総毛立つほどの不快。しかし泣きそうな兄者の顔を思うと別...
どん底の関係性が、別の軸を加えてそこからみるといやに誘惑...
もっと気を惹こうとした自分を止めたのは、彼のいつもの笑...
舌をそっと当てると、涙は塩の味がする。
なのに、甘美い。
それは蜜のように弟者を絡めとる。
自分しか持たない感情ではなく、彼の心にもあると知るだけ...
秋は己のみのものではない。
月の光と琴の音が、体のどこかに残っている。
それを相手に分け与えるように口づけて、彼の躯も月に蕩か...
比翼の鳥にも連理の枝にもなりたくない。
このままの自分で、そのままの姿で愛しあいたい。
舞装束を脱がし、自分の衣を脱ぎ捨てて二人だけの海に沈む。
ゆっくりと、深く。
戸の外から、虫の声が聞こえる。
泳ぎ疲れて、身を寄せ合って、それを聞く。
そういえば生まれ月だったと思い出して、腕の力を強くする。
何も恨まない。そして望まない。抱きあうこの、相手以外は。
暁の気配が忍び寄る。
二人は黙って互いを見つめ合った。
...
途中から後夜祭になってしまった。
8/13後半はもちろんネタです。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
- これは良い双子 -- &new{2011-05-31 (火) 17:15:32};
- 面白いよー -- &new{2011-06-16 (木) 21:42:25};
#comment
終了行:
#title(平安) [#wbcc6c5f]
この流れの中申し訳ないが、誕生日だけは祝いたいので強引に...
流石兄弟 リバ 平安8
※地雷注意!過去の従兄者×兄者について言及あり
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・)ジサクジエンガオオクリシマ~ス!
真昼の熱気は既に失せたが、夕暮れの寂莫が迫っている。
ただし闇が全てを鎖すにはまだ間がある。
兄者はこの時の空を眺めるのが好きだ。
まだ弟は帰らない。だから簀子(すのこ)にいざり出て、高欄...
弟者は外を眺める彼を見かけると不安がる。出かける自由を...
――出たいんじゃないのだがな
ただ、少しずつ暮れゆく空が好きなだけだ。
権門の子弟である。父は内大臣の位にあり、母は皇太后付き...
自らも右近衛府の少将にして蔵人の職を兼ねている。
けれど彼には秘め事があった。
この時代、忌むべき存在である双つ子の弟がいる。その彼と...
今ではそれまでの弟の立場でこの東北の対で暮らしている。
そして、その弟と情を通じている。他の家族や正室には持ち...
夕闇を背に部屋に戻った。
燭台や吊燈籠の灯を点しに来た雑仕に軽くうなづき、唐櫃(か...
それを読みながら弟を待った。
渡殿を通る足音が苛ついているように聞こえる。それでも待...
立ち上がって彼を迎えた。
暗い顔で入ってきた弟者は、その兄を強く抱きしめた。
明日も彼が部屋に籠ることを見越して、唇ではなくうなじに痕...
されるがままにそれを受け入れていた兄は、弟者の指先が単...
初めてそれを止めた。
「何かあったのか?」
指先に自分の指を絡ませる。人の温もり。
陰のある微笑いをどうにか浮かべ、その指をつかむ。
「いや、大したことじゃない。今度の観月の宴だが、舞も組...
「ほう。おまえが踊るのか」
「ああ……青海波(せいがいは)だ」
「二人舞だな。相手は?」
弟者は苦虫を噛み潰すように答えた。
「………アイツだ」
その表情で兄者は悟る。従兄弟者と踊ることになったらしい。
「最初は頭中将の予定だったが主上がな」
似た顔の方が面白い、とそう決めた。
「やはり、嫌か」
「当たり前だろ!あんなやつ、むしろ亀羽目波でもぶつけて...
「それは何だ」
「知らないのか。古くからある伝承で、甲羅を背負った仙人...
弟者は両手で形を作った。
「こうか」
兄者も真似をしてみる。
「そう。で、叫ぶ」
二人してしばらく練習するが、ふと我に返る。
「…むしろ、舞の練習をした方が良くはないか」
「まあな」
しかしその気にはなれないらしく、円座に腰を下ろして考え...
その宴は舞よりも管弦の遊びが主体となる。
大半の楽器は雅楽寮(うたづかさ)で楽人たちが管理している...
一部の御物は校書殿にしまわれてある。
プログラムを作り終えた頃、上司にそこに行かされた。舞手...
塗籠(ぬりごめ)の中は昼なお暗く、灯を点しても薄ぼんやり...
そこに、世の中で最も嫌いな人物の人をくったような嘲笑いが...
「……楽器といえば、オマエの兄貴もいい声出したな」
体がこわばる。微かに黴臭い塗籠の空気が凍る。
「お前が仕込んだのか?すがりついてイく時が特によかった...
自分の表情を意地悪く観察している。反応したら負けだと思...
相手はニヤニヤとこちらの動揺を楽しんでいる。
この男と兄者には過去がある。それが、自分を思い過ぎての...
トラウマになりつつある。
それなのに、躯は疼く。
「勃ってるんじゃないのか」
指貫(さしぬき)の上はゆるやかな袍で覆われているため、わ...
それでも図星を指され、そっぽを向いた。
紺地錦に包まれた漆塗りの七弦琴を取り上げ、中身を確認し...
唐渡りの琵琶を抱えた従兄弟者は、灯を吹き消す前に「アイツ...
と馬鹿にしたように言った。
身体が灼け焦げそうなほどのジェラシー。
怒りと悲しみ、それに蔦のように絡みつく昏い感情。
そしてその深淵に潜む淫靡な影。
傷は自分を蝕み、新たな贄を欲しがる。
――彼を傷つけたい
闇から生まれる自虐と同じ色の加虐心。
――泣かせたい。傷つけたい。そして……癒してやりたい
自分の言葉や行動で生まれる涙をこの手でぬぐい、それを唇...
抱きしめて、全ての願いを聞いてやりたい。
その想いは棘として心の奥に沈む。
けれど横にいる彼はそれを溶かすような笑顔だ。
「少し遅いから心配だった」
弟者は不思議そうに見返す。
「最近は治安もそう悪くない」
「違う。誰かに『おまえは宮中の柱になれ』とか『俺がオマ...
1/3ほどくどかれてるんじゃないかと」
「ねーよw」
気分が軽くなる。肩に手をやり引き寄せる。先ほど口づけた...
くすぐったそうにしている様子が年より幼く見えた。
そのくせ腕の中に閉じ込めようとすると薄く微笑い、逆に床に...
下から見上げていると今度は大人の表情で、唇を近づけてく...
目を閉じると触れられた部分が熱い。
日中は夏の名残りを留めるこの季節、日が落ちてからは急に...
冷えた空気の中、躯だけが熱を帯びていく。
「舞のほかは何を奏するのか」
「オレは竜笛と催馬楽(さいばら)だ」
「子育てに忙しそうな人?」
「いや。歌の方だ。四、五人で歌うのだが合唱パートが合わ...
遅く取った夕食の後、厚畳に転がっている。
「へえ……まさか主上も歌うのか」
「そのせいもあるがな」
歌うこと自体はお好きでいらっしゃるようではあるが、なか...
「持っていけ 最後に笑っちゃうのは吾のはず 衣冠束帯だ...
笏(しゃく)投げは揃うが」
「声は悪くもないのに、何故あのような歌になるのだろうか」
「さあ」
「おまえのソロパートは」
「君のくれた阿弥陀信仰 億千万っ 億千万っ、のとこ」
「あそこか。聞かせ所だな」
「ああ」
ちょっと得意そうな弟者は床に目をやり、投げ出されたまま...
軽い問いかけの視線に兄者が答える。
「――愛のたゆたい 多武峯(とうのみね)少将の真実――メロド...
原典の『多武峯少将物語』は、文武に優れ将来を嘱望された...
突然の出家をとげたことについての話である。
「兼家の異母兄弟だよな」
「うむ。彼はテンプレ攻めで、さっき『おれが全てを忘れさ...
「はあ?」
「えーと、長男の伊尹(これまさ)が紳士攻めで、次男の兼通(...
三男兼家が今言ったやつで実弟の為光がヘタレ攻めだ。ちなみ...
「総受けものか」
「その体裁だが分類マニアものって感じだ。実妹がいいんだ...
『しょせんお兄様は私の足元にひざまづくしかないのよ』と輝...
そういえばこいつ妹萌えだった、と幾分むくれながら思う。
「そいつが本命か」
「いや」
体を半分起こし、弟の耳もとに唇を近づける。
「最後は素直クールなもう一人の実弟のもとで出家」
「坊主なのか、それ」
「ああ。お山のな。南無阿弥陀 南無阿弥陀 それが坊主の...
「比叡(ひえい)山はそんなことを言わない」
「天罰!天罰!天罰!天罰!」
楽しそうに歌いながら、弟に片目をつぶって見せた。
自邸に戻るとすぐに気持ちは鎮められるのに、九重(ここのえ...
舞や催馬楽の練習のせいで、何かと苦手な相手との接触が多...
しかも、隙さえあれば感情を揺らすその男の人の悪さに、弟者...
蔵人になったとき彼はもう一人前で、自分で何でも出来ると...
泣いたり、笑ったり、怒ったり。世の中のことはほとんど知っ...
でも本当は家族や社会に守られているただの若人だった。
本当の怒りや悲しみはそんな日常の中にはない。
それを知ったのは、あの過去の一日で未だに弟者はその日に縛...
宴の当日だ。
まだ日も暮れぬうちから弟者は支度に忙しい。
楽人や舞人を適切に配置したり、計画を状況にあわせて微調...
正式な行事なので殿上人が主体だが、主上の御もとの幾人か...
御簾の内から手練れの女房に楽の音を添わせたりする。
その楽器の弦を整えるためにもやたらに呼ばれる。
付き合いのある相手は無碍にも出来ない。
あの男も同じように忙しいので、構われない事だけが救いだ。
やがて満月が昇り始める。
敷かれた白砂がその光を受けて、銀の珠かと見まごうばかり...
篝火はわざと控えめにさせた。今宵の主役の月の面輪をかす...
抜かりなく全ての確認をしているとき、ふと見慣れぬ舞人を...
面でその貌を覆っている。人数とプログラムを脳裏で確かめ...
「舞の補いの者らしいですよ。楽人の人長が念のために連れ...
その頃には確信していた。兄者だ。間違いない。
何とか声をかけたいが、一足ごとに呼ばれて近づけない。
謎の舞人は一人そこに佇んで、弟者を見ていた。
その肩を叩く者がある。
よりにもよって従兄弟者が彼をふり向かせる。
――そいつに触れるな!
全てを蹴散らして走り寄ろうとした瞬間、なんと主上からの...
用を果たして駆け戻ったが、既に舞人の姿は消えていた。
妙なる調べがあたりに響く。
それにそつなく笛の音を合わせているが、胸のうちは嵐と変...
いつのまにかに戻ったあの男は、こちらを見てにやり、と笑...
瞋恚の焔。限界まで高ぶる悋気。
隈なく冴え渡る望月のもとにありながら、心は闇に満ちてい...
笛を置いてその場を下がり、舞装束に改める。
盤渉調(ばんしきちょう)の曲が流れる。
清涼殿の東庭に設えた舞台に二人が上がる。
使徒の一体ぐらい倒せそうに同調して、二人の袂が翻る。
弟者は挑むように、試楽のときとはわずかに違えたタイミン...
従兄弟者は少しも外さない。
むしろその緊張感が舞を引き締め、恐ろしいまでの美が生み...
「鬼神にでもさらわれるのではないかと不安になるほどでし...
終了した後、女房たちの下馬評が耳に入った。弟者は微かに...
――オレ自身が鬼神だと気づいていないのか
舞の最中、心をよぎった一つの思念。
――問題は兄者だ
どんな甘言に惑わされたのか知らないが、アイツについて行...
再び心は毒に占められる。
――どうすれば彼を傷つけられる?
答えはすぐに返る。
――オレを汚せば彼は傷つく。
そのくらいの自信はある。
――それに最も効果的なのは……
催馬楽の用意が整い、呼ばれた。目の前をその男が大股に歩...
月は西に傾きつつあるが、それでも有明と呼ぶにはまだ早い。
宴はいまだ果てなく続く。けれども弟者はそれに背を向け、い...
秋の夜の月の冴えは、春の朧のゆかしさとは違う。
渡殿に落ちる影はその際さえ鋭く見える。
弟者は荒くそこを踏み渡って、音を立てて妻戸を開いた。
灯火は消えている。深い闇がそこに広がる。
――いないのか
目を慣らして見渡すと、部屋の柱のもとに人影がある。座り...
灯りを一つだけ点してみると、舞人の姿のまま面さえ外して...
紐を解いてやり、面を取ろうとすると片手で押さえたまま首...
それでもその手を捕らえ、無理に外すと水に似たものが滴っ...
火影に涙が水晶のように光る。
「アイツに何かされたのか!」
勢い込んで尋ねると、再び否定のしぐさをする。
「………違う」
両肩をつかむと顔を伏せ、小さな声で答えた。
「妬いている」
驚いて見つめると涙ぐんだまま赤くなった。
憎しみで人が殺せたら。そんな思いで踊りきったのに、端か...
こちらも夕暮れのことを尋ねてみる。
「肩を叩かれていただろう」
「目立たず見えやすい場所を教えてくれただけだ」
体の力が抜け、目眩がする。自分の一人芝居があまりに馬鹿...
愛しくて、憎くて、傷つけたくて。
催馬楽を歌っているときに、横の従兄弟者に薄く視線を流し...
総毛立つほどの不快。しかし泣きそうな兄者の顔を思うと別...
どん底の関係性が、別の軸を加えてそこからみるといやに誘惑...
もっと気を惹こうとした自分を止めたのは、彼のいつもの笑...
舌をそっと当てると、涙は塩の味がする。
なのに、甘美い。
それは蜜のように弟者を絡めとる。
自分しか持たない感情ではなく、彼の心にもあると知るだけ...
秋は己のみのものではない。
月の光と琴の音が、体のどこかに残っている。
それを相手に分け与えるように口づけて、彼の躯も月に蕩か...
比翼の鳥にも連理の枝にもなりたくない。
このままの自分で、そのままの姿で愛しあいたい。
舞装束を脱がし、自分の衣を脱ぎ捨てて二人だけの海に沈む。
ゆっくりと、深く。
戸の外から、虫の声が聞こえる。
泳ぎ疲れて、身を寄せ合って、それを聞く。
そういえば生まれ月だったと思い出して、腕の力を強くする。
何も恨まない。そして望まない。抱きあうこの、相手以外は。
暁の気配が忍び寄る。
二人は黙って互いを見つめ合った。
...
途中から後夜祭になってしまった。
8/13後半はもちろんネタです。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
- これは良い双子 -- &new{2011-05-31 (火) 17:15:32};
- 面白いよー -- &new{2011-06-16 (木) 21:42:25};
#comment
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作品一覧
シリーズものインデックス3
シリーズものインデックス2
シリーズものインデックス
第71巻
第70巻
第69巻
第68巻
第67巻
第66巻
第65巻
第64巻
第63巻
第62巻
第61巻
第60巻
第59巻
第58巻
第57巻
第56巻
第55巻
第54巻
第53巻
第52巻
第51巻
第50巻
第49巻
第48巻
第47巻
第46巻
第45巻
第44巻
第43巻
第42巻
第41巻
第40巻
第39巻
第38巻
第37巻
第36巻
第35巻
第34巻
第33巻
第32巻
第31巻
第30巻
第29巻
第28巻
第27巻
第26巻
第25巻
第24巻
第23巻
第22巻
第21巻
第20巻
第19巻
第18巻
第17巻
第16巻
第15巻
第14巻
第13巻
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