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#title(亡国のイージス 渥美と瀬戸) [#v94741e1]
42でつ。再びお借りします。オサーン同士ですいません。
「内調からいつものメールを承っておりますが…」
控えめに告げる女性秘書の口元は笑っている。
「市ヶ谷の君へ。暫く逢っていないがその美貌に翳りは…」
「読み上げなくて宜しい。」
それ以上真面目に返事をするのも億劫で目線で捨てろと応える...
四十も半ばを越えた次期局長の唯一の人間臭さとなれば関心が...
己がからかわれているという事以上に奴の思惑に嵌るというの...
しかしそれだけで無視をするほど私は大人気ない人間では無い。
奴から送られてくるメールには返信する必要など一切無いのだ。
何故ならば……ああ、そろそろか。扉付近の掛け時計の長針を見...
「やあ、市ヶ谷の君。久しぶりだな。」
「内調に篭っている間にあんたも錆付いたか?その呼び方は止...
「怒るなよ、次期局長。」
「人事は重要機密事項だ。」
実際は十近く離れていたと思うが内閣調査室という中枢で働く...
だがこんな時、他愛ない言い合いで脂下がっているのを見る度...
市ヶ谷の狸でさえ顔負けのいやらしいオヤジの顔をしている。
「それじゃあ大輔。」
「名前も止めろ。」
「……我侭だな。」
どっちが我侭だと言いかけて馬鹿馬鹿しくなり開いた口を閉じ...
わざわざメールで先制攻撃をしてから陣中見舞いまでして来る...
仕事を放ってくる事は勿論、決済を残してくるような事も有り...
そしてこちらが本当に忙しい時も来ない。
手が空かないと嘘を吐いてまで追い返すほど彼との付き合いは...
この馬鹿馬鹿しくも正確な情報分析能力が今日の日本を支えて...
「直接来るならメールは要らんだろう。送って来るな。」
「いいじゃないか。最近パソコン覚えたから送ってみたいんだ...
「私のメールアドレスはホットライン扱いだ。私用で使うな。」
「それなら携帯のメルアド教えてくれよ。」
「持ってない。」
秘書が退出前に入れてくれた珈琲の湯気越しに窓を見る。
気温が下がり植物の色が少なくなって冬に覆われるこの季節は...
いつの間にか彼も勝手に横に陣取って同じように眺めていた。
「……で、何しに来たんだ?」
戯れに話の先を向けてやるとぱっと表情が明るくなるのが解っ...
先ほど心中でオヤジと毒づいて何だがこんな時の顔は少年のよ...
メールの報告をするたびに顔を綻ばせているあの秘書を始め密...
「ああ、うん。実は……」
「逢いたくなったなんて寒い事を言ったら叩き出すぞ。
セキュリティゾーンに許可書を持って入ってきたんだから相応...
勿論内調トップのパスなら顔見知りに逢うくらいの理由は裁量...
いつも手玉に取られていてはどうも収まりが悪い。
五十を過ぎて尚、まだ精悍と言うに相応しい目がゆっくりと弧...
カップをテーブルに戻した後の敬礼は妙に芝居がかっていた。
「勿論だ、副局長。是非貴方に渡さねばならない物を運搬して...
新しい言い訳だと少し驚く。
いつもはここでへらへらなあなあと笑って誤魔化すのが彼の手...
尤もそれはいつも誤魔化される私にも問題があるのだが……。
そんな此方の様子など気にする事も無く彼は内ポケットを探っ...
内ポケットに入るなら新型記憶媒体か、それとも原始的に指令...
「馬鹿か。それこそメールで送ればいい。」
「いや、これは直接では無いと……あっ!」
言葉と手の動きが止まりぱっと視線が下がる。
何だ、何を落としたのだと思わず同じ所に視線を向けると不意...
ああ、またやられた。そう思う間もなく少し煙草の味がする唇...
「……で、何を持ってきたんだって?」
張り倒したくなったがそれをすればその反応を喜びそうなので...
「聞くなよ、野暮。もう渡しただろう。」
こいつは馬鹿だ。オヤジの癖に乙女な大馬鹿だ。
「こんなつまらん物は返品したいんだがな……」
眉間の皺で不機嫌バロメーターの針の振り切れ具合を示した積...
「今日は大胆だな、副局長。貴方から……」
馬鹿めと言うより先にまた同じ物が重なった。ああ、また丸め...
ところで彼の口惚けが頗る巧いのと口が巧いのは何か関係があ...
他愛ない思考を他所に年季の入った空調機がゴウゴウと音を立...
#comment
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#title(亡国のイージス 渥美と瀬戸) [#v94741e1]
42でつ。再びお借りします。オサーン同士ですいません。
「内調からいつものメールを承っておりますが…」
控えめに告げる女性秘書の口元は笑っている。
「市ヶ谷の君へ。暫く逢っていないがその美貌に翳りは…」
「読み上げなくて宜しい。」
それ以上真面目に返事をするのも億劫で目線で捨てろと応える...
四十も半ばを越えた次期局長の唯一の人間臭さとなれば関心が...
己がからかわれているという事以上に奴の思惑に嵌るというの...
しかしそれだけで無視をするほど私は大人気ない人間では無い。
奴から送られてくるメールには返信する必要など一切無いのだ。
何故ならば……ああ、そろそろか。扉付近の掛け時計の長針を見...
「やあ、市ヶ谷の君。久しぶりだな。」
「内調に篭っている間にあんたも錆付いたか?その呼び方は止...
「怒るなよ、次期局長。」
「人事は重要機密事項だ。」
実際は十近く離れていたと思うが内閣調査室という中枢で働く...
だがこんな時、他愛ない言い合いで脂下がっているのを見る度...
市ヶ谷の狸でさえ顔負けのいやらしいオヤジの顔をしている。
「それじゃあ大輔。」
「名前も止めろ。」
「……我侭だな。」
どっちが我侭だと言いかけて馬鹿馬鹿しくなり開いた口を閉じ...
わざわざメールで先制攻撃をしてから陣中見舞いまでして来る...
仕事を放ってくる事は勿論、決済を残してくるような事も有り...
そしてこちらが本当に忙しい時も来ない。
手が空かないと嘘を吐いてまで追い返すほど彼との付き合いは...
この馬鹿馬鹿しくも正確な情報分析能力が今日の日本を支えて...
「直接来るならメールは要らんだろう。送って来るな。」
「いいじゃないか。最近パソコン覚えたから送ってみたいんだ...
「私のメールアドレスはホットライン扱いだ。私用で使うな。」
「それなら携帯のメルアド教えてくれよ。」
「持ってない。」
秘書が退出前に入れてくれた珈琲の湯気越しに窓を見る。
気温が下がり植物の色が少なくなって冬に覆われるこの季節は...
いつの間にか彼も勝手に横に陣取って同じように眺めていた。
「……で、何しに来たんだ?」
戯れに話の先を向けてやるとぱっと表情が明るくなるのが解っ...
先ほど心中でオヤジと毒づいて何だがこんな時の顔は少年のよ...
メールの報告をするたびに顔を綻ばせているあの秘書を始め密...
「ああ、うん。実は……」
「逢いたくなったなんて寒い事を言ったら叩き出すぞ。
セキュリティゾーンに許可書を持って入ってきたんだから相応...
勿論内調トップのパスなら顔見知りに逢うくらいの理由は裁量...
いつも手玉に取られていてはどうも収まりが悪い。
五十を過ぎて尚、まだ精悍と言うに相応しい目がゆっくりと弧...
カップをテーブルに戻した後の敬礼は妙に芝居がかっていた。
「勿論だ、副局長。是非貴方に渡さねばならない物を運搬して...
新しい言い訳だと少し驚く。
いつもはここでへらへらなあなあと笑って誤魔化すのが彼の手...
尤もそれはいつも誤魔化される私にも問題があるのだが……。
そんな此方の様子など気にする事も無く彼は内ポケットを探っ...
内ポケットに入るなら新型記憶媒体か、それとも原始的に指令...
「馬鹿か。それこそメールで送ればいい。」
「いや、これは直接では無いと……あっ!」
言葉と手の動きが止まりぱっと視線が下がる。
何だ、何を落としたのだと思わず同じ所に視線を向けると不意...
ああ、またやられた。そう思う間もなく少し煙草の味がする唇...
「……で、何を持ってきたんだって?」
張り倒したくなったがそれをすればその反応を喜びそうなので...
「聞くなよ、野暮。もう渡しただろう。」
こいつは馬鹿だ。オヤジの癖に乙女な大馬鹿だ。
「こんなつまらん物は返品したいんだがな……」
眉間の皺で不機嫌バロメーターの針の振り切れ具合を示した積...
「今日は大胆だな、副局長。貴方から……」
馬鹿めと言うより先にまた同じ物が重なった。ああ、また丸め...
ところで彼の口惚けが頗る巧いのと口が巧いのは何か関係があ...
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