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15-484
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#title(From星座スレ) [#p9421cb9]
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄...
| 某スレにモエを垂...
____________ \ / ̄ ̄ ̄...
| __________ |  ̄ ̄ ̄V ̄ ̄| 殆どオリ...
| | | | ...
| | |> PLAY. | | ...
| | | | ∧...
| | | | ピッ (´...
| | | | ◇⊂ ...
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _...
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(...
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄...
西の空が鮮やかなオレンジから濃い紫に変わり始めていた。...
からは、地平線に形を潜めていく太陽の様が目の当たりに出来...
日没はもうすぐだった。
「お、戻ってきた戻ってきた!」
「どこにっ?」
そんな中、隣で上がった声に山岸は眼鏡の奥の目を限界まで...
た一体の戦闘機を探す作業は、山岸にとって非常に困難なもの...
「ほら、あっちあっち。はは、ふらふらしてる」
ずいと身を乗り出した山岸に、最初に声を発した男――洋は笑...
でも機体を見つけ出すことは出来ない。やがて黒点のようにそ...
狭い滑走路のあちらこちらで声が上がっていた。それは笑いと...
た……が、山岸は周囲の反応とは逆に声を失った。
「……」
すごいことになっている。
それが、徐々に近付いてくる機体を見て抱いた感想である。
山岸が見ている目の前で、ふらふらと辛うじて空にその身を...
崩した。それに目を見張るまもなく、一度は半分海に突っ込ん...
た機体に、周囲で笑いが起こる。当人には聞こえるはずもない...
だが一人、山岸だけは顔面から血の気を失いふらりと地に膝...
「……これだから……これだから、空軍なんて来たくなかったんだ…...
ぽつりと呟いた声は、誰の耳に届くことも無く雲一つ無い空...
非常に危なかしいながらにも何とか滑走路に戦闘機が降り立...
わらわらとその周囲に集った。この機体の帰還方法は実に様々...
落ちてみたり、また広々とした場所ではなくわざわざ狙い澄ま...
果てはぽっかりと海に浮かぶ空軍基地を通り抜けて陸軍本部を...
お陰で彼が戻ってくる時は、その機体が完全に停止するまで誰...
幸い今回は無事着地した戦闘機は、遠目で見ている時よりも...
翼は曲がり、命とも言えるエンジン部分からは嫌な煙が上がっ...
「……」
愕然とその姿を眺めていた山岸の視界の先で何度か鈍い音が...
中から小さな塊が転がり落ちた。空に姿を見せただけで周囲に...
だ。
「おー、ザジ! お疲れ!」
膝を折る山岸の隣で、洋が明るい声を放った。操縦者が転が...
微塵も無い。いつものことだった。洋の声に応えるように、転...
立ち上がる。これもいつものことだ。
山岸は彼の――ザジの酷く負傷した姿を見たことがない。たと...
させようと、その中身として共に在ったはずのザジの傷は何故...
だった。非常に悪運の強い男なのだ。
だからこそ、毎度毎度無茶な飛行をすることが出来るのだろ...
「おう、早いな洋!」
「お前が遅すぎんだよ。日没までにはお家に帰ることってママ...
「あー、教わった気もするけど……守ったことねえわ」
洋との応酬に声を上げて笑いながら、ザジは駆け寄ってきて...
付けている。その足がこちらに向かってきたところで、漸くザ...
「お、どうした山岸ィ。眼鏡でも落としたか?」
「……落としていない」
そんなわけはない、と、ザジ自身も分かっているであろうこ...
山岸の悪い癖だった。案の定ザジはからりと笑い、狭い操縦席...
やはり今回も、怪我をしている様子はどこにも見当たらなか...
擦り傷はあったが、負傷と呼ぶにもおこがましい程ささやかな...
それに密かに安堵しながらも素直に表情に出すことは出来ず...
上がった。
言わなければならないことがあるのだ。例え当人が聞こうと...
ことがあるのだ。
「……ザジ、もう十八回目になるけどな、」
「山岸ィ、カトリーヌは今日も良い女だったぞー。お前は本当...
「……」
口を開くと同時に言葉を被せてきたザジに、山岸は一層眉間...
だが、それに単純に喜ぶ心などとうの昔に枯れ果てていた。
「……良い女だと思うなら、もう少し真摯に接してやれ。毎回毎...
になる日も近」
「女に紳士なのはアルだけで十分だろ。それよりシャワー浴び...
「空いてるだろうけど、水温機ぶっ壊れてっから水しか出ねえ...
「またかよ! ……まあ良いや、行ってこよ」
「シンシ違いだ。大体お前は……て、おい! ザジ!」
話を聞く気がまるでない。ひらりと後ろ手で手を振って去っ...
めて手入れした戦闘機を毎回ボロボロにされ、それなのに小言...
「……だから俺は、空軍なんて来たくなかったんだ」
ここは何と理不尽なところだろう、と。すっかり人気の無く...
+++
一つの作戦を終えると、その翌日は二日酔いになるまで飲み...
そんな規則があるのかと疑いたくなるほど、空軍の人間は作...
者の方が少なく、殆どは度の強い物が揃っていることだけが取...
例外ではなく、薄汚く狭い酒場の中はむさ苦しい男でごった返...
そんな中、カウンタの隅で山岸は力いっぱい派手な音を立て...
「大体! 俺は! そもそも! 何でこんな所にいるんだ! ...
水温機は一週間に五日は「故障中」の札が下げられていて。...
それどころか、軍にとっての要であるはずの倉庫のシャッター...
て手動で上げなければならない。
おまけに、トップの人間からして破天荒な所為か秩序という...
「汚いし! 臭いし! 固いし!」
「汚くて臭いのは拙いけど、硬いのは良いと思うけどな……てい...
弱いくせに、と。
誰にと宛てるでもなく毒づく山岸の隣で、アルは頼まれても...
この恐ろしく堅物な同僚は、一つの作戦が終わるたび……いや、...
ある男が空から帰還するたび、酒場で浴びるように飲んでは癇...
どうしてザジはいつもああなのだ。大将の癖に真っ先に空へ...
のは一体どういうことか。あんな男がトップだから、いつまで...
などと言われ続けるのだ。
そもそも己は、こんな所に来たくはなかったのだ、と。
総じて見ると同じ事を繰り返しているだけの愚痴は毎度明け...
この世の終わりのような顔をしながらエースパイロットが限界...
かる。いつものことだった。
「……アル」
きっと今日も同じだろう。
そう判断して曖昧な相槌を返しながら自身の酒量を調整して...
上げた。見ると、ジョッキを抱え込むようにしてカウンタに身...
その目は、既に虚ろだ。
「ん?」
「……俺、辞表を出そうと思う」
ぽつりと呟かれたその言葉に、アルは内心ぎょっとしながら...
表に出さずとも驚いていることに変わりは無い。軍自体や大将...
てきたが、辞表という言葉が彼の口から飛び出したのは初めて...
「また急にどうしたんだ」
極力冷静にと自身に課しながら、アルはなんでもないことの...
ゆるりと目を閉じた。火照った身体を冷やすように、抱え込ん...
「別に急じゃない。本当はずっと……もうずっと前から考えてい...
「……」
「元々俺は、空軍じゃなくて海軍に入りたかったんだ。でも泳...
本当ならそのときに、大人しく田舎に帰っていれば良かったん...
ながら日々を平穏に暮らす……俺にはきっと、その方が似合って...
「……そうかな? オレは、お前は畑よりも戦闘機の方が似合う...
「そんなわけない」
ぽつりぽつりと零される山岸の言葉の隙に挟んだ相槌は、思...
相変わらずだったが、その奥に見えるちらりとした光は素面そ...
山岸はアルを睨んだが、だがその力はまたすぐに光を失った。
「そんなわけない……アイツも、ザジもきっとそう思ってる。だ...
毎度ボロボロになって帰ってくるんだろう」
お前はここには相応しくないと。だから、さっさと故郷に帰...
それを知らしめるために、あの男は一切の抗議を受け入れる...
だろう、と。
「きっと裏で賭けでもしてるんだ。俺がいつ辞めるか、て」
「それはまた、随分突飛な発想だな」
「何が突飛なものか。乱痴気騒ぎと悪乗りをさせれば、ここら...
「……」
至極真面目に言い放った山岸の言葉に、アルは思わず苦笑し...
否定することが出来ないのもまた事実だった。
大将であるザジを筆頭に、空軍の連中には「軍に身を置いて...
居ない。翌日に作戦が控えていなければ夜通し飲み、街へ繰り...
眠る。
そんな連中を目の当たりにして、和と秩序と仲間意識に重き...
たわけがない。そしてまた、認められないのも。
「……それは、もう決めたことなのか?」
にやついていては、真面目な同僚は気を悪くするだろう。そ...
ながら短く問うた。
「ああ」
うすぼんやりとした表情をしながらもしっかりと頷く反応は...
「ザジはこの中で……いや、多分この世の中で誰よりも一番、お...
「そんなわけない。俺が居なくなればきっと、清々したと思う...
「頑なだな」
「事実を言っているだけだ」
堪えきれずにふと笑みを漏らしたアルに、やはり山岸は僅か...
はみ出しものの吹き溜まりと言われる空軍の中で、アルは周...
否定するわけではないが、それに混じって同じように騒ぐこと...
声をかけるようになり、いつしか酒の場で愚痴を零すようにな...
アルは、空軍という集団に馴染むことの出来ない山岸にとっ...
それなのに、真面目に話しているのに、何故笑ったりするの...
「悪い。別にお前を馬鹿にしているわけじゃない」
「……そうは思えない」
謝罪してくる割に、その目は未だ笑みを刷いている。山岸は...
カウンタに突っ伏した。
目を閉じると、つい今しがた見たアルの微笑が瞼の奥で破天...
あんな風に無邪気に笑う目の奥に、無邪気だからこその残酷...
張ってきたが、アルに、愚痴ではなく弱音を吐いたことによっ...
きっともう、向けられてくる笑顔を挑むような心持で見つめ...
「……結構、重症みたいだな」
「既に末期だ」
ぽつりと呟かれたアルの言葉に、山岸は顔を上げぬまままた...
+++
鮮やかな水色の中に、白い塊がいくつか浮かんでいる。その...
だった。
前回の作戦から、一ヶ月と少し。今日で漸く、この軍であり...
出来る、と。窓から差し込む光に目を細め、山岸は小さな溜息...
前回の作戦のあった夜、田舎へ帰ると告げた山岸にアルが言...
ではなかった。
ただ、次の作戦まで待て、と。
その真意は山岸には理解できないものだったが、それでも曖...
ここへ来て出来た唯一の友人だ。その彼の言葉に首を振り、半...
出来ない。
たった一月程度の時間を耐えるだけで今後も友人としてやっ...
「さて……」
ぽつりと吐き、山岸は一つ伸びをした。たとえ今日の夜には...
さぼるわけにはいかない。
パイロットの使用する戦闘機の最終チェックを――特にあの男...
おかなければならない。そうでなければ、襤褸雑巾のようにな...
「今日のデートは……」
一人呟いて、山岸ははっとして己の口許を掌で覆った。自身...
戦闘機に女の名前を付け、作戦をデートと呼ぶ。
それはあの男の常套句だ。いつもはそんな言い方は止めろと...
ように呟いてしまうとは。
「……気が緩んでるな」
拳をこめかみに押し付けて自身を叱咤すると、山岸は唇を引...
「……あれ?」
扉を開く体勢のまま、山岸はふと頭を捻った。鍵が掛かって...
いる。だのに、扉が開かないのだ。
何度かノブを捻り直し、体重をかけて押してみたところでぴ...
音が部屋の中に響き、山岸は再度頭を捻った。
「何で開かないんだ」
先刻、ルームメイトが出て行くときは普通に開いていたはず...
今ここには無い。
大体、鍵は部屋の内側に取り付けられているのだから、その...
道理的におかしい。普通ならば、開かぬわけがないのだ。
「……おい、誰か居るのか?」
軽く扉を叩き、山岸は外へ向けて問いかけた。
鍵が内側に取り付けられた部屋で、内側から扉を開けないと...
が置かれているか故意に誰かが押さえているとしか思えない。...
など思いつかなかった山岸は、外で誰かが悪戯をしているのだ...
「おい、開けろよ。悪ふざけしている場合じゃないだろ」
この場合、あからさまに動揺した姿を見せてしまっては、悪...
山岸は極力平穏さを失わぬよう再び外に声をかけた。だが外か...
「おい、こう見えても結構忙しいんだ。開けろ」
今度は少し強く扉を叩いてみたが、それでも外からの反応は...
しんと静まり返った部屋の中で、いるかどうかも分からない...
山岸は誰も居ないと分かっていながらも周囲を気にしながらま...
しかし、山岸が周囲を気にしていられる時間もあまり長くは...
押しても引いても開かぬ扉と格闘し、目に見えぬ悪戯者に屈...
限界があった。最終チェックをする時間はとうに過ぎ、既にミ...
差し掛かっている。抑え込んでいたフラストレーションはピー...
「大体、何だって誰も呼びに来ないんだ!」
憎憎しげに吐き捨て、山岸は舌を打った。
いつもならば真っ先に倉庫に顔を出し、せっせと戦闘機の整...
ば……普通ならば誰か一人でも変だと思うのではないか。どうし...
その中でもせめて一人くらいは呼びに行ってみようと言い出す...
それなのに、パイロットが空へと飛び出して行こうという時...
「……俺は居ても居なくても一緒、てことなんだな……?」
酷く自虐的な言葉を零した瞬間、脳の奥で何かが切れる音が...
途端に山岸は眦を吊り上げ、叩くというよりは殴りつけるよ...
「ふざけるな畜生! 子供じみた悪戯なんかするな! そんな...
口汚く罵る言葉が、一体誰に向けて吐き出されているものな...
鼻の奥が痛い。涙が出そうだった。
「わざわざ嫌がらせなんてしなくても、今日限り出て行ってや...
一際強く拳を叩きつける音が、静かな部屋の中に響いた。
それと同時に、かちゃりと、小さな音を立てて扉が開かれた...
もしなかった扉が、まるで山岸のその言葉を待っていたとでも...
漸く言ったか。その言葉をどれだけ待ち侘びたと思っている...
お前など要らない。
「辞めるなよ」
だが、開いた扉の向こうからかけられてきた言葉は、山岸の...
「……洋?」
姿を現した男に、山岸は一瞬思考を固まらせ、それでもぽつ...
をしながらも、一度山岸を睨み、それからすぐに視線を逸らし...
塞いでいた道具だろう。
「お前さあ、悩み事とかあるんなら言えよ。ちゃんとさ」
口に出してもらわなければ気付けないんだから、と。
洋は一度逸らした視線を戻しながら、そう山岸を叱った。つ...
付けられる。それらを受け止めながら、だが山岸は未だ言葉を...
想像もしていなかった男が扉の前にいて、また想像もしてい...
それを視覚が、聴覚が理解していても、頭が理解しきれてい...
「ああもう、ほら。いくぞ!」
間の抜けた顔で固まる山岸に痺れを切らし、洋は山岸の腕を...
足が踏み出す。洋に山岸の反応を待つ気はないらしく、自然と...
た。
「おい、ちょ……行くってどこに!」
漸く我を取り戻した山岸が洋に問いかけた時には、既に二人...
「どこって、外に決まってんだろ! 俺だって出撃しねーとい...
「なら何でわざわざ嫌がらせに来たりするんだよ!」
怒鳴られたのにむっとして反射的に怒鳴り返すと、洋は一瞬...
視線を逸らした。
「知らねーよ。優秀なエンジニア逃がしたくなかったら、暫く...
「誰にっ?」
「アルに!」
「!」
洋の口から飛び出した名前に、山岸は目を瞠った。また想像...
「アルが……何で」
「知らねーよ! 分かるのは、お前が辞めるとか何とか言い出...
ことくらいだ! てめ、今は時間がないから仕方ないけどな……...
じろりと睨みつけてくる洋の視線に、山岸は思わず瞬いた。...
怯えるよりも先に驚いた。
それが自分が辞めると聞いたから、使いっ走りにさせられた...
兎に角彼が本気で怒った姿を見たのは初めてのことだったのだ。
二人揃って外に飛び出すと、既に半分ほどのパイロットが空...
残っている人数は少なかった。その中からアルの姿を見つけ出...
「アル! てめーも覚えてろよ! 今夜の飲み代はお前らの奢...
そう吐き捨てると、洋は掴んでいた山岸の腕をアルに押し付...
駆け抜けて行った。尾を引く捨て台詞に、アルが肩を震わせて...
ているのか分からなかった。
「アル、これは一体何事なんだ……?」
控えていたメンテナンスからゴーグルを受け取り戦闘機に乗...
呆然とアルに問うた。
何故今日に限って、こんなわけの分からないことを起こすの...
山岸の問いかけに、アルは再び微笑し軽く頭を振った。
「まあ黙って待って……ああ、意外と早かったな」
「?」
言葉の後半は、自分に向けられたものではない。呟き笑うア...
だが、アルが指差した方角に顔を向け、瞠目した。
「何だ……?」
戦闘機が一機、こちらに向かって飛んできている。皆が海に...
向けて近付いてきている。その不自然さに驚かずにはいられな...
飛び出してきたパイロットに、山岸は再度目を瞠った。
「……ザジ」
「無理! 無理無理無理無理無理! 何か気持ちわりー!」
山岸が呆然と見守る前で、ザジはゴーグルをひったくるよう...
いつもと変わらず真っ先に空へと飛び出して行ったはずだ。そ...
戻ってこない。それが、何故。
「もう整備終わって無くても良いから、メアリで行くわ。山岸...
近付いてきたメンテナンスに問いかけるザジに、山岸はぎょ...
アルは、優雅にというよりはどこか妖艶に微笑んで片目を瞑っ...
「ザジに言ったんだ。腹下して便所の住人になっている山岸か...
マドンナも整備が終わっていないので、今日は別の機体で行っ...
ました、て」
「は?」
アルの言葉にまた驚いて滑走路に目を向けると、確かにザジ...
三体のいずれでもなかった。一度で起こす損傷が激しいため、...
使いまわしているのだ。しかし。
「……俺、あんな機体、触ったこともないぞ」
呆然と呟き、山岸は滑走路に止まる戦闘機に瞬きを繰り返し...
のは容易いことではなく、一度取り掛かると中々終わらない。...
整備士のような状態になっており、他の戦闘機には殆どまとも...
だから、精魂込めて整備しておきました、と告げたアルの言...
「そう、おかしいよな」
途切れ途切れに疑問を口にした山岸に、アルは笑って頷いた。
「オレは、代わりに山岸が別の機体を整備しておいた、とも言...
と信じて乗り込んで行ったんだ」
「……」
「それなのに、こんなに早く戻ってきた……この意味、分かるか...
含み笑いの問いかけに、分かる、と即答することは出来なか...
未だ脳内は混乱し、巧く考えを纏めることが出来ないのだ。
アルはわざわざ己を部屋に閉じ込め時間稼ぎをし、己が整備...
空に送り込んだ。だが男は、一時間も待たずに帰還した。
恐らく、気付いたのだ。
滑走路の片隅では、こちらに気付く様子もないザジが数人の...
シャッターを持ち上げている。彼の専用機の一体である、メア...
ではない機体だったため、わざわざ昨夜のうちにシャッターの...
そのことを思い出し、山岸ははっとして飛び上がった。
「ザジ! 違う! 今日はメアリじゃない、マドンナだ!」
慌てて駆け出した山岸の背中を、アルの笑う声が追った。
それに何かしらの言葉をかけようにも巧い言葉が思いつかず…...
と走った。
「おう山岸! 腹の具合は治まったのか?」
「え、あ、まあ……」
この意味が分かるか、と。
そう訊ねてきたアルの言葉の意味は、既にもう分かっている...
身体中の血液が眉間に集まってくるような感覚に、山岸は眩暈...
「メアリはまだ整備が終わっていない。連れて行くなら、マド...
「え、マドンナもまだだって聞いたけど……」
山岸の指示に、ザジは小首を傾げて見せた。そんな反応に、...
「……伝達ミスだ。マドンナはもう終わってる」
成り行きとはいえ、アルの吐いた嘘に便乗することに抵抗が...
だがそのお陰で心の奥を覆っていた霧が晴れつつあることも事...
一概に否定することも出来ない嘘に、山岸は戸惑いを隠すよ...
「大体俺が、お前のデートの日に、女を用意し損ねるとでも?」
問いかけた山岸の言葉に、ザジは目を丸くさせた。山岸がこ...
だが驚いたもの一瞬らしく、ザジはすぐに口角を持ち上げ不...
「流石は床上手。言うことが違うねえ」
「ふん。馬鹿言ってないで、さっさと行け」
「はーい」
短く命じた山岸の言葉に、ザジはまたにこりと笑って駆け出...
落とした。
恐らく今日も、彼は今にも海に落ちそうになりながら戻って...
それが、己に対しての嫌がらせで無いことは分かった。ザジ...
いるのだ。そしてそれを必要としているらしいことも理解した...
ことの無い男が、戻ってきたのだ。この事実に揺るぎは無い。...
「……だったら、もう少し丁寧に扱ってくれても良いんじゃない...
「だから、それは逆だ」
独り言のつもりで呟いた言葉に返答があり、山岸は驚いて背...
近付いていたアルがひっそりと笑っていた。
「アイツは、お前が整備したと分かっているから、あれだけ無...
「そんな馬鹿な」
「馬鹿だからわざわざ戻ってきたんだろう? さっきの機体じ...
「……」
無茶をするために、お前の手の入った機体に好んで乗り込む...
そう告げたアルに、山岸は渋面を作った。その理屈では、い...
ではないか。
そんな山岸の心中に気付いたのか、アルは軽く肩を竦めて見...
「まあ、それが運命かもな。けど……まだ辞めるとか言わないよ...
「?」
「一度、軍事会議の後で、お前の話が出たことがあったらしい...
何度も入隊試験を受けていた男が居た、て」
アルの言葉に、山岸は「あ」と小さく呟いた。身に覚えがな...
一桁では足りず、最後の方では「また来たのか」と試験官に呆...
「変わってるよな、泳げないのに海に出たいなんて。とか、そ...
捻っていたらしいぞ」
「……どうして」
「海軍は山岸の何が気に入らないんだろうな。オレだって、空...
それにそもそも、泳げる泳げないは関係なく、アイツの乗る船...
「!」
「この意味、分かるな?」
ゆったりと微笑むアルに、山岸はやはり言葉を返すことが出...
しまいたくなるほど、アルの告げた言葉は甘かった。泳げぬ劣...
叩き潰すように、雲間から差し込む一筋の光のように。
甘い言葉に脳が蕩けそうになり、山岸は片掌で顔面を覆った...
る感覚というのは、こんなにも心地好いのかと。
「山岸ィ!」
遠くから名を呼んでくる声に、山岸とアルは同時に顔を上げ...
出してこちらに手を振っている。それに手を振り返すべきかど...
そして、振られていたその手はそのまま真っ直ぐアルの胸へと...
「アル! てめーは今夜お仕置きな! 伝達ミスの罪は重い。...
よろしくねん」
恐らくそう言って笑ったのだろう。言葉尻で分かるザジの表...
洋にせよザジにせよ、何故彼らはああもあっけらかんと「夜...
無事に戻ってこられるという保障などどこにもないというの...
戻ってこられると信じているようだ。
もしそんな確信の一端を自分が担えているとするならば……辞...
ないか。
「じゃあ、いってきまーす!」
そう告げてひょこりと操縦席に姿を消したザジに、山岸は反...
「気をつけて!」
それに対する応えは、差し出された手が後ろ手に振られるこ...
澄み渡る空に消えていく機体を眺めながら、山岸は少しだけ...
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧...
| | | | ピッ (...
| | | | ◇⊂ ...
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| ...
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) ...
いざ落としてみると本当に長かった。ごめんなさい。
でも楽しかった。ありがとう。
#comment
終了行:
#title(From星座スレ) [#p9421cb9]
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄...
| 某スレにモエを垂...
____________ \ / ̄ ̄ ̄...
| __________ |  ̄ ̄ ̄V ̄ ̄| 殆どオリ...
| | | | ...
| | |> PLAY. | | ...
| | | | ∧...
| | | | ピッ (´...
| | | | ◇⊂ ...
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _...
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(...
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄...
西の空が鮮やかなオレンジから濃い紫に変わり始めていた。...
からは、地平線に形を潜めていく太陽の様が目の当たりに出来...
日没はもうすぐだった。
「お、戻ってきた戻ってきた!」
「どこにっ?」
そんな中、隣で上がった声に山岸は眼鏡の奥の目を限界まで...
た一体の戦闘機を探す作業は、山岸にとって非常に困難なもの...
「ほら、あっちあっち。はは、ふらふらしてる」
ずいと身を乗り出した山岸に、最初に声を発した男――洋は笑...
でも機体を見つけ出すことは出来ない。やがて黒点のようにそ...
狭い滑走路のあちらこちらで声が上がっていた。それは笑いと...
た……が、山岸は周囲の反応とは逆に声を失った。
「……」
すごいことになっている。
それが、徐々に近付いてくる機体を見て抱いた感想である。
山岸が見ている目の前で、ふらふらと辛うじて空にその身を...
崩した。それに目を見張るまもなく、一度は半分海に突っ込ん...
た機体に、周囲で笑いが起こる。当人には聞こえるはずもない...
だが一人、山岸だけは顔面から血の気を失いふらりと地に膝...
「……これだから……これだから、空軍なんて来たくなかったんだ…...
ぽつりと呟いた声は、誰の耳に届くことも無く雲一つ無い空...
非常に危なかしいながらにも何とか滑走路に戦闘機が降り立...
わらわらとその周囲に集った。この機体の帰還方法は実に様々...
落ちてみたり、また広々とした場所ではなくわざわざ狙い澄ま...
果てはぽっかりと海に浮かぶ空軍基地を通り抜けて陸軍本部を...
お陰で彼が戻ってくる時は、その機体が完全に停止するまで誰...
幸い今回は無事着地した戦闘機は、遠目で見ている時よりも...
翼は曲がり、命とも言えるエンジン部分からは嫌な煙が上がっ...
「……」
愕然とその姿を眺めていた山岸の視界の先で何度か鈍い音が...
中から小さな塊が転がり落ちた。空に姿を見せただけで周囲に...
だ。
「おー、ザジ! お疲れ!」
膝を折る山岸の隣で、洋が明るい声を放った。操縦者が転が...
微塵も無い。いつものことだった。洋の声に応えるように、転...
立ち上がる。これもいつものことだ。
山岸は彼の――ザジの酷く負傷した姿を見たことがない。たと...
させようと、その中身として共に在ったはずのザジの傷は何故...
だった。非常に悪運の強い男なのだ。
だからこそ、毎度毎度無茶な飛行をすることが出来るのだろ...
「おう、早いな洋!」
「お前が遅すぎんだよ。日没までにはお家に帰ることってママ...
「あー、教わった気もするけど……守ったことねえわ」
洋との応酬に声を上げて笑いながら、ザジは駆け寄ってきて...
付けている。その足がこちらに向かってきたところで、漸くザ...
「お、どうした山岸ィ。眼鏡でも落としたか?」
「……落としていない」
そんなわけはない、と、ザジ自身も分かっているであろうこ...
山岸の悪い癖だった。案の定ザジはからりと笑い、狭い操縦席...
やはり今回も、怪我をしている様子はどこにも見当たらなか...
擦り傷はあったが、負傷と呼ぶにもおこがましい程ささやかな...
それに密かに安堵しながらも素直に表情に出すことは出来ず...
上がった。
言わなければならないことがあるのだ。例え当人が聞こうと...
ことがあるのだ。
「……ザジ、もう十八回目になるけどな、」
「山岸ィ、カトリーヌは今日も良い女だったぞー。お前は本当...
「……」
口を開くと同時に言葉を被せてきたザジに、山岸は一層眉間...
だが、それに単純に喜ぶ心などとうの昔に枯れ果てていた。
「……良い女だと思うなら、もう少し真摯に接してやれ。毎回毎...
になる日も近」
「女に紳士なのはアルだけで十分だろ。それよりシャワー浴び...
「空いてるだろうけど、水温機ぶっ壊れてっから水しか出ねえ...
「またかよ! ……まあ良いや、行ってこよ」
「シンシ違いだ。大体お前は……て、おい! ザジ!」
話を聞く気がまるでない。ひらりと後ろ手で手を振って去っ...
めて手入れした戦闘機を毎回ボロボロにされ、それなのに小言...
「……だから俺は、空軍なんて来たくなかったんだ」
ここは何と理不尽なところだろう、と。すっかり人気の無く...
+++
一つの作戦を終えると、その翌日は二日酔いになるまで飲み...
そんな規則があるのかと疑いたくなるほど、空軍の人間は作...
者の方が少なく、殆どは度の強い物が揃っていることだけが取...
例外ではなく、薄汚く狭い酒場の中はむさ苦しい男でごった返...
そんな中、カウンタの隅で山岸は力いっぱい派手な音を立て...
「大体! 俺は! そもそも! 何でこんな所にいるんだ! ...
水温機は一週間に五日は「故障中」の札が下げられていて。...
それどころか、軍にとっての要であるはずの倉庫のシャッター...
て手動で上げなければならない。
おまけに、トップの人間からして破天荒な所為か秩序という...
「汚いし! 臭いし! 固いし!」
「汚くて臭いのは拙いけど、硬いのは良いと思うけどな……てい...
弱いくせに、と。
誰にと宛てるでもなく毒づく山岸の隣で、アルは頼まれても...
この恐ろしく堅物な同僚は、一つの作戦が終わるたび……いや、...
ある男が空から帰還するたび、酒場で浴びるように飲んでは癇...
どうしてザジはいつもああなのだ。大将の癖に真っ先に空へ...
のは一体どういうことか。あんな男がトップだから、いつまで...
などと言われ続けるのだ。
そもそも己は、こんな所に来たくはなかったのだ、と。
総じて見ると同じ事を繰り返しているだけの愚痴は毎度明け...
この世の終わりのような顔をしながらエースパイロットが限界...
かる。いつものことだった。
「……アル」
きっと今日も同じだろう。
そう判断して曖昧な相槌を返しながら自身の酒量を調整して...
上げた。見ると、ジョッキを抱え込むようにしてカウンタに身...
その目は、既に虚ろだ。
「ん?」
「……俺、辞表を出そうと思う」
ぽつりと呟かれたその言葉に、アルは内心ぎょっとしながら...
表に出さずとも驚いていることに変わりは無い。軍自体や大将...
てきたが、辞表という言葉が彼の口から飛び出したのは初めて...
「また急にどうしたんだ」
極力冷静にと自身に課しながら、アルはなんでもないことの...
ゆるりと目を閉じた。火照った身体を冷やすように、抱え込ん...
「別に急じゃない。本当はずっと……もうずっと前から考えてい...
「……」
「元々俺は、空軍じゃなくて海軍に入りたかったんだ。でも泳...
本当ならそのときに、大人しく田舎に帰っていれば良かったん...
ながら日々を平穏に暮らす……俺にはきっと、その方が似合って...
「……そうかな? オレは、お前は畑よりも戦闘機の方が似合う...
「そんなわけない」
ぽつりぽつりと零される山岸の言葉の隙に挟んだ相槌は、思...
相変わらずだったが、その奥に見えるちらりとした光は素面そ...
山岸はアルを睨んだが、だがその力はまたすぐに光を失った。
「そんなわけない……アイツも、ザジもきっとそう思ってる。だ...
毎度ボロボロになって帰ってくるんだろう」
お前はここには相応しくないと。だから、さっさと故郷に帰...
それを知らしめるために、あの男は一切の抗議を受け入れる...
だろう、と。
「きっと裏で賭けでもしてるんだ。俺がいつ辞めるか、て」
「それはまた、随分突飛な発想だな」
「何が突飛なものか。乱痴気騒ぎと悪乗りをさせれば、ここら...
「……」
至極真面目に言い放った山岸の言葉に、アルは思わず苦笑し...
否定することが出来ないのもまた事実だった。
大将であるザジを筆頭に、空軍の連中には「軍に身を置いて...
居ない。翌日に作戦が控えていなければ夜通し飲み、街へ繰り...
眠る。
そんな連中を目の当たりにして、和と秩序と仲間意識に重き...
たわけがない。そしてまた、認められないのも。
「……それは、もう決めたことなのか?」
にやついていては、真面目な同僚は気を悪くするだろう。そ...
ながら短く問うた。
「ああ」
うすぼんやりとした表情をしながらもしっかりと頷く反応は...
「ザジはこの中で……いや、多分この世の中で誰よりも一番、お...
「そんなわけない。俺が居なくなればきっと、清々したと思う...
「頑なだな」
「事実を言っているだけだ」
堪えきれずにふと笑みを漏らしたアルに、やはり山岸は僅か...
はみ出しものの吹き溜まりと言われる空軍の中で、アルは周...
否定するわけではないが、それに混じって同じように騒ぐこと...
声をかけるようになり、いつしか酒の場で愚痴を零すようにな...
アルは、空軍という集団に馴染むことの出来ない山岸にとっ...
それなのに、真面目に話しているのに、何故笑ったりするの...
「悪い。別にお前を馬鹿にしているわけじゃない」
「……そうは思えない」
謝罪してくる割に、その目は未だ笑みを刷いている。山岸は...
カウンタに突っ伏した。
目を閉じると、つい今しがた見たアルの微笑が瞼の奥で破天...
あんな風に無邪気に笑う目の奥に、無邪気だからこその残酷...
張ってきたが、アルに、愚痴ではなく弱音を吐いたことによっ...
きっともう、向けられてくる笑顔を挑むような心持で見つめ...
「……結構、重症みたいだな」
「既に末期だ」
ぽつりと呟かれたアルの言葉に、山岸は顔を上げぬまままた...
+++
鮮やかな水色の中に、白い塊がいくつか浮かんでいる。その...
だった。
前回の作戦から、一ヶ月と少し。今日で漸く、この軍であり...
出来る、と。窓から差し込む光に目を細め、山岸は小さな溜息...
前回の作戦のあった夜、田舎へ帰ると告げた山岸にアルが言...
ではなかった。
ただ、次の作戦まで待て、と。
その真意は山岸には理解できないものだったが、それでも曖...
ここへ来て出来た唯一の友人だ。その彼の言葉に首を振り、半...
出来ない。
たった一月程度の時間を耐えるだけで今後も友人としてやっ...
「さて……」
ぽつりと吐き、山岸は一つ伸びをした。たとえ今日の夜には...
さぼるわけにはいかない。
パイロットの使用する戦闘機の最終チェックを――特にあの男...
おかなければならない。そうでなければ、襤褸雑巾のようにな...
「今日のデートは……」
一人呟いて、山岸ははっとして己の口許を掌で覆った。自身...
戦闘機に女の名前を付け、作戦をデートと呼ぶ。
それはあの男の常套句だ。いつもはそんな言い方は止めろと...
ように呟いてしまうとは。
「……気が緩んでるな」
拳をこめかみに押し付けて自身を叱咤すると、山岸は唇を引...
「……あれ?」
扉を開く体勢のまま、山岸はふと頭を捻った。鍵が掛かって...
いる。だのに、扉が開かないのだ。
何度かノブを捻り直し、体重をかけて押してみたところでぴ...
音が部屋の中に響き、山岸は再度頭を捻った。
「何で開かないんだ」
先刻、ルームメイトが出て行くときは普通に開いていたはず...
今ここには無い。
大体、鍵は部屋の内側に取り付けられているのだから、その...
道理的におかしい。普通ならば、開かぬわけがないのだ。
「……おい、誰か居るのか?」
軽く扉を叩き、山岸は外へ向けて問いかけた。
鍵が内側に取り付けられた部屋で、内側から扉を開けないと...
が置かれているか故意に誰かが押さえているとしか思えない。...
など思いつかなかった山岸は、外で誰かが悪戯をしているのだ...
「おい、開けろよ。悪ふざけしている場合じゃないだろ」
この場合、あからさまに動揺した姿を見せてしまっては、悪...
山岸は極力平穏さを失わぬよう再び外に声をかけた。だが外か...
「おい、こう見えても結構忙しいんだ。開けろ」
今度は少し強く扉を叩いてみたが、それでも外からの反応は...
しんと静まり返った部屋の中で、いるかどうかも分からない...
山岸は誰も居ないと分かっていながらも周囲を気にしながらま...
しかし、山岸が周囲を気にしていられる時間もあまり長くは...
押しても引いても開かぬ扉と格闘し、目に見えぬ悪戯者に屈...
限界があった。最終チェックをする時間はとうに過ぎ、既にミ...
差し掛かっている。抑え込んでいたフラストレーションはピー...
「大体、何だって誰も呼びに来ないんだ!」
憎憎しげに吐き捨て、山岸は舌を打った。
いつもならば真っ先に倉庫に顔を出し、せっせと戦闘機の整...
ば……普通ならば誰か一人でも変だと思うのではないか。どうし...
その中でもせめて一人くらいは呼びに行ってみようと言い出す...
それなのに、パイロットが空へと飛び出して行こうという時...
「……俺は居ても居なくても一緒、てことなんだな……?」
酷く自虐的な言葉を零した瞬間、脳の奥で何かが切れる音が...
途端に山岸は眦を吊り上げ、叩くというよりは殴りつけるよ...
「ふざけるな畜生! 子供じみた悪戯なんかするな! そんな...
口汚く罵る言葉が、一体誰に向けて吐き出されているものな...
鼻の奥が痛い。涙が出そうだった。
「わざわざ嫌がらせなんてしなくても、今日限り出て行ってや...
一際強く拳を叩きつける音が、静かな部屋の中に響いた。
それと同時に、かちゃりと、小さな音を立てて扉が開かれた...
もしなかった扉が、まるで山岸のその言葉を待っていたとでも...
漸く言ったか。その言葉をどれだけ待ち侘びたと思っている...
お前など要らない。
「辞めるなよ」
だが、開いた扉の向こうからかけられてきた言葉は、山岸の...
「……洋?」
姿を現した男に、山岸は一瞬思考を固まらせ、それでもぽつ...
をしながらも、一度山岸を睨み、それからすぐに視線を逸らし...
塞いでいた道具だろう。
「お前さあ、悩み事とかあるんなら言えよ。ちゃんとさ」
口に出してもらわなければ気付けないんだから、と。
洋は一度逸らした視線を戻しながら、そう山岸を叱った。つ...
付けられる。それらを受け止めながら、だが山岸は未だ言葉を...
想像もしていなかった男が扉の前にいて、また想像もしてい...
それを視覚が、聴覚が理解していても、頭が理解しきれてい...
「ああもう、ほら。いくぞ!」
間の抜けた顔で固まる山岸に痺れを切らし、洋は山岸の腕を...
足が踏み出す。洋に山岸の反応を待つ気はないらしく、自然と...
た。
「おい、ちょ……行くってどこに!」
漸く我を取り戻した山岸が洋に問いかけた時には、既に二人...
「どこって、外に決まってんだろ! 俺だって出撃しねーとい...
「なら何でわざわざ嫌がらせに来たりするんだよ!」
怒鳴られたのにむっとして反射的に怒鳴り返すと、洋は一瞬...
視線を逸らした。
「知らねーよ。優秀なエンジニア逃がしたくなかったら、暫く...
「誰にっ?」
「アルに!」
「!」
洋の口から飛び出した名前に、山岸は目を瞠った。また想像...
「アルが……何で」
「知らねーよ! 分かるのは、お前が辞めるとか何とか言い出...
ことくらいだ! てめ、今は時間がないから仕方ないけどな……...
じろりと睨みつけてくる洋の視線に、山岸は思わず瞬いた。...
怯えるよりも先に驚いた。
それが自分が辞めると聞いたから、使いっ走りにさせられた...
兎に角彼が本気で怒った姿を見たのは初めてのことだったのだ。
二人揃って外に飛び出すと、既に半分ほどのパイロットが空...
残っている人数は少なかった。その中からアルの姿を見つけ出...
「アル! てめーも覚えてろよ! 今夜の飲み代はお前らの奢...
そう吐き捨てると、洋は掴んでいた山岸の腕をアルに押し付...
駆け抜けて行った。尾を引く捨て台詞に、アルが肩を震わせて...
ているのか分からなかった。
「アル、これは一体何事なんだ……?」
控えていたメンテナンスからゴーグルを受け取り戦闘機に乗...
呆然とアルに問うた。
何故今日に限って、こんなわけの分からないことを起こすの...
山岸の問いかけに、アルは再び微笑し軽く頭を振った。
「まあ黙って待って……ああ、意外と早かったな」
「?」
言葉の後半は、自分に向けられたものではない。呟き笑うア...
だが、アルが指差した方角に顔を向け、瞠目した。
「何だ……?」
戦闘機が一機、こちらに向かって飛んできている。皆が海に...
向けて近付いてきている。その不自然さに驚かずにはいられな...
飛び出してきたパイロットに、山岸は再度目を瞠った。
「……ザジ」
「無理! 無理無理無理無理無理! 何か気持ちわりー!」
山岸が呆然と見守る前で、ザジはゴーグルをひったくるよう...
いつもと変わらず真っ先に空へと飛び出して行ったはずだ。そ...
戻ってこない。それが、何故。
「もう整備終わって無くても良いから、メアリで行くわ。山岸...
近付いてきたメンテナンスに問いかけるザジに、山岸はぎょ...
アルは、優雅にというよりはどこか妖艶に微笑んで片目を瞑っ...
「ザジに言ったんだ。腹下して便所の住人になっている山岸か...
マドンナも整備が終わっていないので、今日は別の機体で行っ...
ました、て」
「は?」
アルの言葉にまた驚いて滑走路に目を向けると、確かにザジ...
三体のいずれでもなかった。一度で起こす損傷が激しいため、...
使いまわしているのだ。しかし。
「……俺、あんな機体、触ったこともないぞ」
呆然と呟き、山岸は滑走路に止まる戦闘機に瞬きを繰り返し...
のは容易いことではなく、一度取り掛かると中々終わらない。...
整備士のような状態になっており、他の戦闘機には殆どまとも...
だから、精魂込めて整備しておきました、と告げたアルの言...
「そう、おかしいよな」
途切れ途切れに疑問を口にした山岸に、アルは笑って頷いた。
「オレは、代わりに山岸が別の機体を整備しておいた、とも言...
と信じて乗り込んで行ったんだ」
「……」
「それなのに、こんなに早く戻ってきた……この意味、分かるか...
含み笑いの問いかけに、分かる、と即答することは出来なか...
未だ脳内は混乱し、巧く考えを纏めることが出来ないのだ。
アルはわざわざ己を部屋に閉じ込め時間稼ぎをし、己が整備...
空に送り込んだ。だが男は、一時間も待たずに帰還した。
恐らく、気付いたのだ。
滑走路の片隅では、こちらに気付く様子もないザジが数人の...
シャッターを持ち上げている。彼の専用機の一体である、メア...
ではない機体だったため、わざわざ昨夜のうちにシャッターの...
そのことを思い出し、山岸ははっとして飛び上がった。
「ザジ! 違う! 今日はメアリじゃない、マドンナだ!」
慌てて駆け出した山岸の背中を、アルの笑う声が追った。
それに何かしらの言葉をかけようにも巧い言葉が思いつかず…...
と走った。
「おう山岸! 腹の具合は治まったのか?」
「え、あ、まあ……」
この意味が分かるか、と。
そう訊ねてきたアルの言葉の意味は、既にもう分かっている...
身体中の血液が眉間に集まってくるような感覚に、山岸は眩暈...
「メアリはまだ整備が終わっていない。連れて行くなら、マド...
「え、マドンナもまだだって聞いたけど……」
山岸の指示に、ザジは小首を傾げて見せた。そんな反応に、...
「……伝達ミスだ。マドンナはもう終わってる」
成り行きとはいえ、アルの吐いた嘘に便乗することに抵抗が...
だがそのお陰で心の奥を覆っていた霧が晴れつつあることも事...
一概に否定することも出来ない嘘に、山岸は戸惑いを隠すよ...
「大体俺が、お前のデートの日に、女を用意し損ねるとでも?」
問いかけた山岸の言葉に、ザジは目を丸くさせた。山岸がこ...
だが驚いたもの一瞬らしく、ザジはすぐに口角を持ち上げ不...
「流石は床上手。言うことが違うねえ」
「ふん。馬鹿言ってないで、さっさと行け」
「はーい」
短く命じた山岸の言葉に、ザジはまたにこりと笑って駆け出...
落とした。
恐らく今日も、彼は今にも海に落ちそうになりながら戻って...
それが、己に対しての嫌がらせで無いことは分かった。ザジ...
いるのだ。そしてそれを必要としているらしいことも理解した...
ことの無い男が、戻ってきたのだ。この事実に揺るぎは無い。...
「……だったら、もう少し丁寧に扱ってくれても良いんじゃない...
「だから、それは逆だ」
独り言のつもりで呟いた言葉に返答があり、山岸は驚いて背...
近付いていたアルがひっそりと笑っていた。
「アイツは、お前が整備したと分かっているから、あれだけ無...
「そんな馬鹿な」
「馬鹿だからわざわざ戻ってきたんだろう? さっきの機体じ...
「……」
無茶をするために、お前の手の入った機体に好んで乗り込む...
そう告げたアルに、山岸は渋面を作った。その理屈では、い...
ではないか。
そんな山岸の心中に気付いたのか、アルは軽く肩を竦めて見...
「まあ、それが運命かもな。けど……まだ辞めるとか言わないよ...
「?」
「一度、軍事会議の後で、お前の話が出たことがあったらしい...
何度も入隊試験を受けていた男が居た、て」
アルの言葉に、山岸は「あ」と小さく呟いた。身に覚えがな...
一桁では足りず、最後の方では「また来たのか」と試験官に呆...
「変わってるよな、泳げないのに海に出たいなんて。とか、そ...
捻っていたらしいぞ」
「……どうして」
「海軍は山岸の何が気に入らないんだろうな。オレだって、空...
それにそもそも、泳げる泳げないは関係なく、アイツの乗る船...
「!」
「この意味、分かるな?」
ゆったりと微笑むアルに、山岸はやはり言葉を返すことが出...
しまいたくなるほど、アルの告げた言葉は甘かった。泳げぬ劣...
叩き潰すように、雲間から差し込む一筋の光のように。
甘い言葉に脳が蕩けそうになり、山岸は片掌で顔面を覆った...
る感覚というのは、こんなにも心地好いのかと。
「山岸ィ!」
遠くから名を呼んでくる声に、山岸とアルは同時に顔を上げ...
出してこちらに手を振っている。それに手を振り返すべきかど...
そして、振られていたその手はそのまま真っ直ぐアルの胸へと...
「アル! てめーは今夜お仕置きな! 伝達ミスの罪は重い。...
よろしくねん」
恐らくそう言って笑ったのだろう。言葉尻で分かるザジの表...
洋にせよザジにせよ、何故彼らはああもあっけらかんと「夜...
無事に戻ってこられるという保障などどこにもないというの...
戻ってこられると信じているようだ。
もしそんな確信の一端を自分が担えているとするならば……辞...
ないか。
「じゃあ、いってきまーす!」
そう告げてひょこりと操縦席に姿を消したザジに、山岸は反...
「気をつけて!」
それに対する応えは、差し出された手が後ろ手に振られるこ...
澄み渡る空に消えていく機体を眺めながら、山岸は少しだけ...
____________
| __________ |
| | | |
| | □ STOP. | |
| | | | ∧...
| | | | ピッ (...
| | | | ◇⊂ ...
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| ...
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) ...
いざ落としてみると本当に長かった。ごめんなさい。
でも楽しかった。ありがとう。
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