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#title(体操 冨田(←中野)×鹿島) [#zd5da6b4] / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | >>463-470&>>484-490続きモナ。 ____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | __________ |  ̄ ̄ ̄V ̄ ̄| 大層。登美(←那賀野)×貸間&※田 | | | | \ | | |> PLAY. | |  ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ | | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 長すぎるぞゴルァ! | | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ ) | | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___ |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| | | °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || | ※やっぱり舞台はイ/ン/タ/ー/ハ/イです。 途中出てくるエピソードは、架空の創作です。_| ̄|○ ※他ジャンルの姐さん方、ほんまスレ汚しですんません。 ※3※ 「タ/ケ?」 登美多の声から、一瞬遅れて、貸間の顔に笑顔が戻る。 「あぁ、……ごめん。えーと、」 貸間の視線の先には、床の上にあぐらを組んで座り込む那賀野がいる。 「あぁ、こいつは、後輩の……」 「那賀野です!」登美多の言葉を遮り、那賀野は勢いよく立ち上がった。 「楽難高校1年の、那賀野代介です。ハジメマシテ、貸間さん」 言い終わるなり、那賀野は、ばっと手を差し出す。貸間の目が、ちらりと那賀野の肩を見た。 那賀野の上腕筋は、一年とは思えないほど見事に発達している。貸間の顔に、 一瞬、羨望の混じった複雑な表情が浮かぶ。 「那賀野、くん……あぁ、そっか」 差し出された手を握り返しながら、貸間はぎこちなく微笑んだ。周りから見れば 、いつも通りの微笑みに見えるかもしれないが、笑顔に混じる微妙な硬さを、登美多ははっきりと感じた。 「……仲、ええんやな」 静かすぎる声が、登美多の身体を凍てつかせた。背中を冷たい汗が流れ落ちていく。 那賀野は機嫌良く、「そりゃそうですよ」と合いの手を打っている。 那賀野には、貸間の微妙な変化が分からないようだった。 「タ/ケ、」 何か言わなければ。そう思って口を開いた時、遠くで貸間を呼ぶ声がした。 貸間と同じシャツを着た選手が数人、大きく手を振っている。 演技を終えたまま帰ってこないエースに、聖風メンバーが痺れを切らせたようだった。 考えてみれば、競技中に他校の選手……いくら幼なじみとは言え、 最大のライバルと目されている選手と長く話しているのは、誰から見てもおかしい。 貸間はチームメイトに軽く手を挙げて応え、再び登美多へ顔を向けた。 振り向いた貸間の目には、もう、先刻見せた感情の色は残っていない。 さっきのは何だったんだ? 登美多は自分の肩に触れた。 まだ、そこだけが冷たく疼いているように感じる。貸間の手が触れた、そこだけ。 「さっきの事、考えといてな」貸間が小さく呟いた。 「あ、ぁあ……」 さっきの事――大学の件か。と、頭の中で繋がるよりも先に、貸間はきびすを返してチームの元へ走っていく。 去っていく背中の向こうには、今や遅しと手を広げて待っている聖風メンバーがいる。 貸間はダイビングするように、仲間達の中へ飛び込んだ。登美多の位置からでも、 頭を小突かれたり、肩を叩かれている貸間の表情がよく見えた。 仲間達に囲まれ、嬉しそうに屈託無く笑う貸間が。 (……タ/ケが、こっちを振り向きますように) 幼い頃に、何度も心の中で繰り返した言葉だった。ひとりで練習している時、 大勢の友達に囲まれている貸間を眺めてそう願うと、必ず振り返ってくれた。 「ヒ/ロ、こっちおいでぇや」貸間の笑顔と手招きを受け、一目散に駆け出す……。 登美多は息を吐き、視線を外した。いくら祈っても貸間は振り返らない。当たり前か、とつぶやいてみる。 一度は叶った願いを捨て、別の道を選んだのは、自分の方だったのだから。 「登美多! 次の種/目が始まるぞ。思う存分やってこい」 コーチの声に登美多はゆっくり頷き、貸間に背を向けた。 ※ 不意に、呼ばれた気がして振り返った。 しかし、視線の先に登美多はいない。探すと、通路を歩いて鉄/棒へ向かう後ろ姿を見つけた。 ……呼ばれるわけ、ないか。 貸間は、全体重をベンチに預けた。目を閉じると、登美多が那賀野に向けた笑顔が、鮮明に蘇ってくる。 ピリピリと、神経が逆なでされるような痛みが走った。 思い上がっていた。心のどこかで、登美多には、自分がいないと駄目だと思っていた。 それなのに……、自分以外の者にも、あんな表情を見せるのか。 いきなり突きつけられた現実だった。ひどい寒さを感じ、貸間は自分の肩をきつく抱いた。 鉄/棒の下に立つ登美多を見つめる。両腕を上げ、鉄/棒に飛びつき、 そのまま力強くスイングする。そして、大車輪。離/れ技は……伸/身のト/カ/チェフ。 一瞬、天井の照明と登美多が同化したように思えた。会場内が大きくどよめく。 登美多の演技は、誰の目で見ても、高校生の域を脱していた。 ……置いて行かれるかもしれない。 ふと、頭にそんな考えが過ぎった。掴んでいた肩に、爪がきつく食い込む。 あれが本当に、自分の背中を焦がれるような瞳で見つめていた少年なのだろうか? はじめに心を求めてきたのは登美多の方だった。それなのに。 ……ずるいよ。貸間は手で顔を覆った。自分の心の一角を占拠しておきながら、 手に入れたら離れていくのか? また今度も離れていくのか? 「ターケちゃん、なぁに、思いつめた顔してんの」 突然、真上から声が降って来、貸間は驚いて顔を上げた。 「※田さん!」 観客席の一番下、髪を茶色く染めた※田が、手すりから身を乗り出すようにして、 こちらを覗いている。 他の部員達も、いきなり現れたカリスマOBに慌てふためいている。 ※田が、口の端に笑みを浮かべた。 「ふぅん。ヒ/ロユキの奴、えらい力つけて来てるやん」 「……そうですね」 ※田を見ず、貸間は答えた。そんなことは、誰よりも一番よく分かっていた。 「うーん、このままいくとぉ、優勝はヒ/ロユキかなぁ」 「そう……かも、しれませんね」 「最有力対抗馬のタ/ケちゃんは、腕が弱いしさぁ」 「……」 「今、ちょっとムカついたでしょ?」 「……さすがに」 頭の上から、くっくっと楽しそうな笑い声が聞こえてきた。貸間は目に力を込めて頭上を睨み、……そのまま固まる。 ※田は微塵も笑っていなかった。真剣な眼差しで、貸間を見据えてくる。 「※田さ……」 一瞬、※田の目の中に、ひどく寂しげな光を見たような気がした。 「君らな、やっぱり、一緒にいた方がええわ。大層は孤独な競技やから、 常に切磋琢磨できる相手が近くにいる方がええねん。自分を律せるし……」 ※田は小さく息を吐き、続ける。「オレみたいにならんですむ」 貸間は、※田の茶色く染められた髪を見つめた。 最近耳に入ってくる※田の噂は、決して良いものではなかった。 他人が、どれだけ望んでも手に入れられない素質を持ちながら、彼にはどんな苦悩があるというのだろう。 「※田さん」 「お前らとやったら、オレも本気になれるかもしれん」※田は大きく伸びをして、少し微笑んだ。 「そしたら、獲れるかもしれないなぁ。……」 最後の言葉は声に出さず、※田は口だけを動かした。貸間は打たれたように、その場に立ちつくす。 ※田は立ち上がり、胸に差していたサングラスを取りだした。 貸間は呼び止めようと思ったが、上手く言葉が出てこなかった。 ※ 試合が終わった。結果は優勝。隣で那賀野が、「やっぱ、先輩はスゴイっすねえ」と、ぴょんぴょん跳ねている。 「登美多、ちょっと」 コーチの手招きに、登美多はスポーツバッグを肩に掛けて立ち上がった。 「何ですか?」 「うん、あのな」コーチは、少し周りを気にしながら続ける。 「殉大のスカウトがな、お前に会いたいって言ってるらしいわ。 今、殉大の※田選手が伝えてきた。……お前、※田選手とは顔見知りなんやろ?」 無言で頷く。決断の時が迫っていた。コーチは登美多の肩に手を置き、「望む道を行け」と微笑んだ。 コーチから伝えられた通り、待ち合わせ場所……裏出口へ行くと、よく知った後ろ姿があった。 柱に背を預け、たった独りで立っている。 「タ/ケ」 口の中で呟いたはずなのに、貸間は当然のように振り返る。 「優勝、おめでとう」 澄んだ水面のような微笑みだった。 「……うん」 「これで、高校生活最後の大舞台が終わったなぁ」 貸間が目を細め、空を眺めた。隣に立ち、同じように眺める。空は赤く染まり、陽は没しようとしていた。 その時、隣で貸間がいきなり吹き出した。目を丸める登美多に構わず、身体をふたつに折って笑っている。 「ヒ、ヒ/ロ……僕ら、※田さんに騙されてるわ」 「……えっ?」一瞬、間が空いた。 そう言えば、いつまで経っても殉大の人が来る気配は無い。舌を出す※田の顔が、脳裏に浮かんだ。 顔に血が上ってくる。 「……ヒ/ロ」 名前を呼ばれ、振り向く。貸間はもう笑っていなかった。真っ直ぐな視線が、登美多の目を貫く。 「もう一度、一緒に大層、せぇへんか?」 声が出せなかった。登美多の口から出たのはヒュウという、空しい呼吸音だけだった。貸間は構わず続ける。 「僕は、ヒロとやったら、金メダル獲れると思ってる。……※田さんも同じ考えや」 金メダル。どくん、と熱い衝撃が胸を貫いた。 その言葉はまるで、生まれて初めて聞いた単語のように、身体の芯へと響いた。 「一緒に、行こう」 貸間の手が差し伸べられる。そこにある掌は、いくつもマメを潰してきた、間違いなく大層選手の掌だった。 熱い塊がのどの奥へ込み上げてくる。登美多は、これとよく似た手を知っていた。 爪が食い込むまで、ぐっと拳を握りしめる。そうしないと、熱が嗚咽として漏れてしまいそうだった。 よく似た手。それは、毎日飽きるほど眺めてきた、自分自身の掌だった。 自分から、手を離してしまったと思っていた。違う道を選んだと思っていた。 しかし違う。繋がっていた。そう、ずっと繋がっていたのだ。この三年間、ずっと。 「……一緒に、どこへ……?」ようやく絞り出した声は、かすれていた。 ……どこへ? そんなこと、訊くまでもなかった。 鼓動が一気に早くなる。登美多はすがるように、顔を上げた。 貸間の顔は、夕陽の逆光でよく見えない。高度を下げた太陽が目を灼く。鮮烈な光を放つ夕陽。だが……、 思わず、目を見張った。赤い夕陽が、一瞬、昇りかける白い朝日に見えたのだ。 朝日、それは再生と新生の証し。自分達の、そして日本大層界の。 逆光の中で黒い影と化した貸間が、もう一度、手を差し伸べてくる。 「一緒に、オ/リ/ン/ピ/ッ/クへ、行……」貸間が言葉を詰まらせた。 何かに耐えるよう、少し天を仰ぐ。そして、続ける。 「一緒に、世界で、一番高い所へ登ろう」 登美多の耳の奥で、少し鼻にかかった貸間の声が、何度も何度もこだまする。 オ/リ/ン/ピ/ッ/ク。それは、世界最高の舞台。 差し出された手に、登美多は、ためらいながら指を触れた。細かな振動が伝わってくる。貸間の手は震えていた。 登美多は、小刻みに震える手を握りしめた。 貸間が、一瞬、びくりと肩を震わせる。記憶よりも、少し大きく感じる手。 きっと自分の手も、同じだけ大きくなっているのだろう。 ……熱い。 どこか遠くから、歓声が聞こえたような気がした。海のさざめきのように、徐々に大きくなっていく。 凄まじい熱気の中、歓喜に震える絶叫が、勢いよく流れ込んできた。 『栄/光/へ/の/架/け/橋だぁっ……!』 世界が反転し、光が弾けた。足の裏から伝わる、確かなマットの感触。 訳も分からず、両の拳を突き上げていた。腹の底から沸き起こってくる歓びに、声にならない叫び声を上げる。 途端に、白い輝きが、ざぁっと視界を覆う。あまりの眩しさに目を閉じた。 真っ白な光の中で、貸間が微笑んでいる。額には、葉で作った冠が載っている。 声は聞こえないが、繋いだ手の熱さから、喜びが直に伝わってきた。 辺りを見回すと、大観衆の中、表彰台へ登っている自分がいる。 側には、笑顔の※田や、顔をクシャクシャにした那賀野もいる。 みんなの胸には、黄金に輝くメダルが下がっていた。自分の首にも、心地よい重さを感じる。 ずしりと重い、金色のメダル。 横にいる貸間が、笑顔で上を示した。 見上げると、大歓声とフラッシュの嵐が続く中、高々と日の丸が昇っていく。 ……一番高い位置に、日の丸が。 「……ヒ/ロ?」 貸間の声に、はっと我に返る。白い光は散り、視界には、何の変哲もない体育館の風景が戻ってくる。 よろけた足に、スポーツバッグが当たった。すぐ目に前には、少し不安そうな貸間がいる。 一瞬、何かがフラッシュバックのように横切った。 「今のは……」 白昼夢? 途切れていく夢の記憶をたぐり寄せようとしたが、上手くいかない。覚えているのは、とても暖かい夢だったということと、側に※田が、那賀野が、そして貸間がいたということ。 貸間が指を伸ばし、登美多の頬に触れた。親指の腹で、柔らかく頬を拭う。 「どしたん」 「……?」何のことか解らず、登美多は首を少し傾けた。 「涙」 微笑みながら、貸間が指を開いて見せた。そこには透明な滴が光っている。 登美多は一筋だけ流れた涙を手の甲で拭い、貸間に笑い返した。そして、空を見上げる。 太陽は最後の煌めきを雲間に残し、ビルの影へと身を落としていく。 登美多は胸に手を当て、薄れていく暖かさに別れを告げた。 身体の奥深い部分に、微かな切なさを残して、白昼夢の記憶は消え去っていく。 ……また、いつか。 いつの日か、必ず会える光景だと知っていた。何故、と問われても解らない。ただ、確信は胸にあった。 登美多は貸間に向き直った。 貸間の突き出した拳に、自分の拳を合わせる。 「タ/ケ、一緒に行こう」 訪れるべき未来のために。 そう、世界で一番高い場所へ登るために。 <了> ____________ | __________ | | | | | | | □ STOP. | | | | | | ∧_∧ クソ長いっちゅーねん | | | | ピッ (・∀・ ) | | | | ◇⊂ ) __ |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| | | °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 色々すいませんでした_| ̄|○ #comment
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登美多は自分の肩に触れた。 まだ、そこだけが冷たく疼いているように感じる。貸間の手が触れた、そこだけ。 「さっきの事、考えといてな」貸間が小さく呟いた。 「あ、ぁあ……」 さっきの事――大学の件か。と、頭の中で繋がるよりも先に、貸間はきびすを返してチームの元へ走っていく。 去っていく背中の向こうには、今や遅しと手を広げて待っている聖風メンバーがいる。 貸間はダイビングするように、仲間達の中へ飛び込んだ。登美多の位置からでも、 頭を小突かれたり、肩を叩かれている貸間の表情がよく見えた。 仲間達に囲まれ、嬉しそうに屈託無く笑う貸間が。 (……タ/ケが、こっちを振り向きますように) 幼い頃に、何度も心の中で繰り返した言葉だった。ひとりで練習している時、 大勢の友達に囲まれている貸間を眺めてそう願うと、必ず振り返ってくれた。 「ヒ/ロ、こっちおいでぇや」貸間の笑顔と手招きを受け、一目散に駆け出す……。 登美多は息を吐き、視線を外した。いくら祈っても貸間は振り返らない。当たり前か、とつぶやいてみる。 一度は叶った願いを捨て、別の道を選んだのは、自分の方だったのだから。 「登美多! 次の種/目が始まるぞ。思う存分やってこい」 コーチの声に登美多はゆっくり頷き、貸間に背を向けた。 ※ 不意に、呼ばれた気がして振り返った。 しかし、視線の先に登美多はいない。探すと、通路を歩いて鉄/棒へ向かう後ろ姿を見つけた。 ……呼ばれるわけ、ないか。 貸間は、全体重をベンチに預けた。目を閉じると、登美多が那賀野に向けた笑顔が、鮮明に蘇ってくる。 ピリピリと、神経が逆なでされるような痛みが走った。 思い上がっていた。心のどこかで、登美多には、自分がいないと駄目だと思っていた。 それなのに……、自分以外の者にも、あんな表情を見せるのか。 いきなり突きつけられた現実だった。ひどい寒さを感じ、貸間は自分の肩をきつく抱いた。 鉄/棒の下に立つ登美多を見つめる。両腕を上げ、鉄/棒に飛びつき、 そのまま力強くスイングする。そして、大車輪。離/れ技は……伸/身のト/カ/チェフ。 一瞬、天井の照明と登美多が同化したように思えた。会場内が大きくどよめく。 登美多の演技は、誰の目で見ても、高校生の域を脱していた。 ……置いて行かれるかもしれない。 ふと、頭にそんな考えが過ぎった。掴んでいた肩に、爪がきつく食い込む。 あれが本当に、自分の背中を焦がれるような瞳で見つめていた少年なのだろうか? はじめに心を求めてきたのは登美多の方だった。それなのに。 ……ずるいよ。貸間は手で顔を覆った。自分の心の一角を占拠しておきながら、 手に入れたら離れていくのか? また今度も離れていくのか? 「ターケちゃん、なぁに、思いつめた顔してんの」 突然、真上から声が降って来、貸間は驚いて顔を上げた。 「※田さん!」 観客席の一番下、髪を茶色く染めた※田が、手すりから身を乗り出すようにして、 こちらを覗いている。 他の部員達も、いきなり現れたカリスマOBに慌てふためいている。 ※田が、口の端に笑みを浮かべた。 「ふぅん。ヒ/ロユキの奴、えらい力つけて来てるやん」 「……そうですね」 ※田を見ず、貸間は答えた。そんなことは、誰よりも一番よく分かっていた。 「うーん、このままいくとぉ、優勝はヒ/ロユキかなぁ」 「そう……かも、しれませんね」 「最有力対抗馬のタ/ケちゃんは、腕が弱いしさぁ」 「……」 「今、ちょっとムカついたでしょ?」 「……さすがに」 頭の上から、くっくっと楽しそうな笑い声が聞こえてきた。貸間は目に力を込めて頭上を睨み、……そのまま固まる。 ※田は微塵も笑っていなかった。真剣な眼差しで、貸間を見据えてくる。 「※田さ……」 一瞬、※田の目の中に、ひどく寂しげな光を見たような気がした。 「君らな、やっぱり、一緒にいた方がええわ。大層は孤独な競技やから、 常に切磋琢磨できる相手が近くにいる方がええねん。自分を律せるし……」 ※田は小さく息を吐き、続ける。「オレみたいにならんですむ」 貸間は、※田の茶色く染められた髪を見つめた。 最近耳に入ってくる※田の噂は、決して良いものではなかった。 他人が、どれだけ望んでも手に入れられない素質を持ちながら、彼にはどんな苦悩があるというのだろう。 「※田さん」 「お前らとやったら、オレも本気になれるかもしれん」※田は大きく伸びをして、少し微笑んだ。 「そしたら、獲れるかもしれないなぁ。……」 最後の言葉は声に出さず、※田は口だけを動かした。貸間は打たれたように、その場に立ちつくす。 ※田は立ち上がり、胸に差していたサングラスを取りだした。 貸間は呼び止めようと思ったが、上手く言葉が出てこなかった。 ※ 試合が終わった。結果は優勝。隣で那賀野が、「やっぱ、先輩はスゴイっすねえ」と、ぴょんぴょん跳ねている。 「登美多、ちょっと」 コーチの手招きに、登美多はスポーツバッグを肩に掛けて立ち上がった。 「何ですか?」 「うん、あのな」コーチは、少し周りを気にしながら続ける。 「殉大のスカウトがな、お前に会いたいって言ってるらしいわ。 今、殉大の※田選手が伝えてきた。……お前、※田選手とは顔見知りなんやろ?」 無言で頷く。決断の時が迫っていた。コーチは登美多の肩に手を置き、「望む道を行け」と微笑んだ。 コーチから伝えられた通り、待ち合わせ場所……裏出口へ行くと、よく知った後ろ姿があった。 柱に背を預け、たった独りで立っている。 「タ/ケ」 口の中で呟いたはずなのに、貸間は当然のように振り返る。 「優勝、おめでとう」 澄んだ水面のような微笑みだった。 「……うん」 「これで、高校生活最後の大舞台が終わったなぁ」 貸間が目を細め、空を眺めた。隣に立ち、同じように眺める。空は赤く染まり、陽は没しようとしていた。 その時、隣で貸間がいきなり吹き出した。目を丸める登美多に構わず、身体をふたつに折って笑っている。 「ヒ、ヒ/ロ……僕ら、※田さんに騙されてるわ」 「……えっ?」一瞬、間が空いた。 そう言えば、いつまで経っても殉大の人が来る気配は無い。舌を出す※田の顔が、脳裏に浮かんだ。 顔に血が上ってくる。 「……ヒ/ロ」 名前を呼ばれ、振り向く。貸間はもう笑っていなかった。真っ直ぐな視線が、登美多の目を貫く。 「もう一度、一緒に大層、せぇへんか?」 声が出せなかった。登美多の口から出たのはヒュウという、空しい呼吸音だけだった。貸間は構わず続ける。 「僕は、ヒロとやったら、金メダル獲れると思ってる。……※田さんも同じ考えや」 金メダル。どくん、と熱い衝撃が胸を貫いた。 その言葉はまるで、生まれて初めて聞いた単語のように、身体の芯へと響いた。 「一緒に、行こう」 貸間の手が差し伸べられる。そこにある掌は、いくつもマメを潰してきた、間違いなく大層選手の掌だった。 熱い塊がのどの奥へ込み上げてくる。登美多は、これとよく似た手を知っていた。 爪が食い込むまで、ぐっと拳を握りしめる。そうしないと、熱が嗚咽として漏れてしまいそうだった。 よく似た手。それは、毎日飽きるほど眺めてきた、自分自身の掌だった。 自分から、手を離してしまったと思っていた。違う道を選んだと思っていた。 しかし違う。繋がっていた。そう、ずっと繋がっていたのだ。この三年間、ずっと。 「……一緒に、どこへ……?」ようやく絞り出した声は、かすれていた。 ……どこへ? そんなこと、訊くまでもなかった。 鼓動が一気に早くなる。登美多はすがるように、顔を上げた。 貸間の顔は、夕陽の逆光でよく見えない。高度を下げた太陽が目を灼く。鮮烈な光を放つ夕陽。だが……、 思わず、目を見張った。赤い夕陽が、一瞬、昇りかける白い朝日に見えたのだ。 朝日、それは再生と新生の証し。自分達の、そして日本大層界の。 逆光の中で黒い影と化した貸間が、もう一度、手を差し伸べてくる。 「一緒に、オ/リ/ン/ピ/ッ/クへ、行……」貸間が言葉を詰まらせた。 何かに耐えるよう、少し天を仰ぐ。そして、続ける。 「一緒に、世界で、一番高い所へ登ろう」 登美多の耳の奥で、少し鼻にかかった貸間の声が、何度も何度もこだまする。 オ/リ/ン/ピ/ッ/ク。それは、世界最高の舞台。 差し出された手に、登美多は、ためらいながら指を触れた。細かな振動が伝わってくる。貸間の手は震えていた。 登美多は、小刻みに震える手を握りしめた。 貸間が、一瞬、びくりと肩を震わせる。記憶よりも、少し大きく感じる手。 きっと自分の手も、同じだけ大きくなっているのだろう。 ……熱い。 どこか遠くから、歓声が聞こえたような気がした。海のさざめきのように、徐々に大きくなっていく。 凄まじい熱気の中、歓喜に震える絶叫が、勢いよく流れ込んできた。 『栄/光/へ/の/架/け/橋だぁっ……!』 世界が反転し、光が弾けた。足の裏から伝わる、確かなマットの感触。 訳も分からず、両の拳を突き上げていた。腹の底から沸き起こってくる歓びに、声にならない叫び声を上げる。 途端に、白い輝きが、ざぁっと視界を覆う。あまりの眩しさに目を閉じた。 真っ白な光の中で、貸間が微笑んでいる。額には、葉で作った冠が載っている。 声は聞こえないが、繋いだ手の熱さから、喜びが直に伝わってきた。 辺りを見回すと、大観衆の中、表彰台へ登っている自分がいる。 側には、笑顔の※田や、顔をクシャクシャにした那賀野もいる。 みんなの胸には、黄金に輝くメダルが下がっていた。自分の首にも、心地よい重さを感じる。 ずしりと重い、金色のメダル。 横にいる貸間が、笑顔で上を示した。 見上げると、大歓声とフラッシュの嵐が続く中、高々と日の丸が昇っていく。 ……一番高い位置に、日の丸が。 「……ヒ/ロ?」 貸間の声に、はっと我に返る。白い光は散り、視界には、何の変哲もない体育館の風景が戻ってくる。 よろけた足に、スポーツバッグが当たった。すぐ目に前には、少し不安そうな貸間がいる。 一瞬、何かがフラッシュバックのように横切った。 「今のは……」 白昼夢? 途切れていく夢の記憶をたぐり寄せようとしたが、上手くいかない。覚えているのは、とても暖かい夢だったということと、側に※田が、那賀野が、そして貸間がいたということ。 貸間が指を伸ばし、登美多の頬に触れた。親指の腹で、柔らかく頬を拭う。 「どしたん」 「……?」何のことか解らず、登美多は首を少し傾けた。 「涙」 微笑みながら、貸間が指を開いて見せた。そこには透明な滴が光っている。 登美多は一筋だけ流れた涙を手の甲で拭い、貸間に笑い返した。そして、空を見上げる。 太陽は最後の煌めきを雲間に残し、ビルの影へと身を落としていく。 登美多は胸に手を当て、薄れていく暖かさに別れを告げた。 身体の奥深い部分に、微かな切なさを残して、白昼夢の記憶は消え去っていく。 ……また、いつか。 いつの日か、必ず会える光景だと知っていた。何故、と問われても解らない。ただ、確信は胸にあった。 登美多は貸間に向き直った。 貸間の突き出した拳に、自分の拳を合わせる。 「タ/ケ、一緒に行こう」 訪れるべき未来のために。 そう、世界で一番高い場所へ登るために。 <了> ____________ | __________ | | | | | | | □ STOP. | | | | | | ∧_∧ クソ長いっちゅーねん | | | | ピッ (・∀・ ) | | | | ◇⊂ ) __ |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _)_|| | | °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__) || |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 色々すいませんでした_| ̄|○ #comment
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