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#title(KING OF MY HERO) >>16.>>17 すみませんでした。前スレに投下すれば良かった…アドバイスありがとうございます。 そして皆様すみませんでした。気をつけていきます。 >>15の続き 虎&兎 の空折です ・話しの展開の為、オリキャラが出てきます。嫌いな方は注意。 ・擬態ハァハァ!! |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! ルビーに擬態したイワンはヘリに乗り込んで街を見下ろした。 日中のシュテルンビルトは、いくつもの高層ビルに陽の光が反射して輝いている。夜ともなれば灯りが灯り、キラキラと眩いばかりだ。 これから向かうサウスゴールドは、富裕層の暮らす区域で民家が多い。 計画では一旦某企業ビル屋上のヘリポートに降り、体裁を取り繕うためだけに用意されたボディーガード2名とイワンがリムジンに乗り込 んで、自宅へ向かうことになっている。 ヘリが無事にヘリポートへ着くと、風圧と爆音の中アニエスが声を張り上げた。 「折紙サイクロン、無茶だけはすんじゃないわよ」 「はい!」 女性の姿をしたイワンは、ヘリの風で翻るスカートをオロオロと押さえながら、ビルの中へと消えていった。 「はぁ……」 イワンはため息をついて、ソファに深く身をゆだねる。 ボディーガードはあくまでも形だけだったので、すでに裏口から去ってしまった。今はルビーの自宅リビングに一人きりだ。 もし本当に犯行グループがやってきたら、他のヒーローが投入される。 ボディーガードを撤退させたのも、戦闘になったら一般の彼らを守りぬくのが困難かもしれないからというのが理由だった。 デメリットは早々に排除すべきというアニエスの意見は最もだったが、同時にイワンの身を危険に晒す可能性は高まった。 『もう、なるようにしかならないな……』 イワンは自分の手を見つめた。何時もの自分の手と違う、一回り小さく、細く、頼りない女性の手がそこにある。 右手で、左腕を掴んでみる。筋肉の隆起を感じない、しっとりとした肌。ガラスが填められたドアに映る自分の顔は、まったく知らない他 人の顔だった。 三階建ての洒落た豪邸の中には、イワンしかいない。デジタルの時計が点滅するのみで、しんと静寂が続いている。 閉めきった窓のせいで揺らぎすら無い空気に耐えかね、のろのろとリモコンを手にとった。 テレビを付けると午後のワイドショーが映し出され、そこでは昨日のヒーローの活躍が話題に上がっている。 ≪昨日、最高でしたね!ドラゴンキッドの素早い動きがなかったら、きっとバーナビーだって間に合ってなかったですよ!≫ 女性アナウンサーが興奮気味に言うと、男性コメンテーターが咄嗟に返す。 ≪いや、皆さんそう思うでしょう?でもね、ヒーローアカデミー助教授の私としては、バーナビーはあのタイミングを……≫ ≪ワイルドタイガーの安定感も最近良いですよね。安心感があるっていうか≫ 「……安心感……」 ぽつりとイワンが呟いた。言われた事の無い言葉。テレビから垂れ流れるコメントは、自分と全く関係のない世界の話しのように思えた。 ≪でも皆さん、やっぱり……≫ 画面の中で何かを言いかけた女性アナウンサーは、出演者全員と一緒に顔を見合わせて、わざとらしく大きく頷いている。 ≪ですよね!そうですよね、やっぱり大活躍は我らがスカイハイ!ということで、スカイハイの特集を組んじゃいましたー!≫ 盛り上がるスタジオの中。そこにある大型モニタにはスカイハイが映し出される。 イワンの胸がドクンと鳴った。 ≪「みなさんの応援のおかげで、私たちは活動ができるのです。ありがとう!そして、ありがとう!」≫ 膝の上においていた手が、気付かぬうちにスカートをぎゅっと掴んでいた。 「僕は……僕は、あなたがいるから活動ができてるんだ……」 イワンは呆然とテレビを見ながら、切なく語りかけるように呟く。脳裏には幾度となく助けられた記憶が甦った。 見切れることばかりを考え、戦闘そっちのけで夢中になった結果、爆発や落下物に巻き込まれた事は数え切れない。 その度にスカイハイは折紙サイクロンを助け、のちイワンがロックバイソンに怒られていればさりげなくイワンを庇った。 ――スポンサーを目立たせるっていうのは、我々にとって実は大事なことだ。そうだろう?―― 落ち込むイワンの肩ををぽんぽんと叩き、視線を合わせれば歯を見せて笑う。 そんな状況を思い出せば思い出す程、イワンの胸は苦しくなった。 『スポンサーは大切だけど……本当はそれだけじゃだめなのも、スカイハイさんは知ってるのに』 息が詰まりそうになり、思わず胸に手を当てる。だが、そこにあった柔らかさに驚いて咄嗟に手を離した。 『あっ、……うわ……ッ、なんてこと……』 紛れも無い女性の身体に触れてしまい、イワンは思わず顔を赤らめた。 できるだけ意識して触れないようにしてきた、擬態の身体。自分で触れた感触も、熱も、はっきりとわかる。 今のイワンの身体は、依頼者ルビーの身体がそのままコピーされた状態だ。 イワンは息を整えると、自分の顔をパシンと両手で打った。 「だめだめ!」 仕事だ、と自身を一喝して、イワンはテレビの中で未だに続くスカイハイ特集に見入った。 しばらくテレビを見入っていたが、犯人グループからの連絡も、外部の動きも何も無い。 イワンはテレビを消すとカーテンを閉め切った窓に近づき、そっと隙間から外を覗き見た。――静寂――恐ろしい程の静寂。 眉間に皺を寄せる。違和感を感じたその時だった。警告音とともに手首に巻いていたPDAが赤く光る。 『ボンジュール、ヒーロー。ノースゴールドの銀行で爆破予告よ。軍から出動要請があったわ。出動して』 イワンはゴクリと唾を飲み下した。 「あの、アニエスさん!ぼくは……」 『折紙サイクロンはそのまま任務について。同じ犯行グループだから、どちらかがフェイクの可能性もある』 「はい……」 イワンは唇を尖らせ、ため息を吐いてまたソファに身体を沈めた。仲間が戦いに赴くのに、自分がやっていることは正しいのかと自問する。 ピンポーン、という間の抜けたチャイムが鳴った。はっと顔を上げ、視線を廊下に向ける。再度チャイムが鳴った。 全身に沸騰した血液が巡った。五感全てを使って音の方角へ集中する。 『来た……!!』 ピンポーン、ピンポーンと連続してチャイムが鳴った。 イワンは立ち上がりリビングの入り口へ歩み寄ると、身を隠しながら玄関へ視線を固定した。 廊下の奥に見える青い玄関扉から、コンコン、とドアをノックする乾いた音が響く。 『ノック……?これから殺そうとする相手に対して、ノック??』 イワンは手のひらにかいた汗をスカートにこすりつけると、ゆっくりと廊下を進んで玄関の覗き穴をそっと覗き込んだ。 「……っ!どうして」 驚き、一瞬イワンが身を引いた。覗き穴の湾曲したレンズごしに、紛れも無いスカイハイが佇んでいる。 室内からの反応が無い為か、頭をポリポリと掻き、扉からちょっと離れてみたり近寄ってみたり、離れたりを繰り返している。 近寄ったスカイハイがコンコン、とドアをノックした。 イワンは電子ロックを解除してから、鍵を捻る。カチャンという軽い音とともに、扉はゆっくりと内側へ開いた。 隙間から風が吹き込み、同時にはためくマントが視界に入る。やがて目の前には、まるで後光を背負ったかのようなスカイハイが現れた。 陽の光に照らされた銀色のボディは眩いばかりだった。額のランプは空に負けない青さで輝いている。 「君がルビー・サリバンくんかい?私はスカイハイ!君を守りにきたんだ」 ポカンと見上げるルビー(イワン)に対して、一瞬スカイハイは固まり、小さく「あれ?」と呟いた。 「あー……君がルビー・サリバンくんかい?私はスカイハイ!君を」 「すみません、ボーっとして。どうぞ、入ってください」 言って、イワンは視線を逸らすと室内へとスカイハイを誘い、扉を閉めロックをかけた。 擬態をしているイワンから見るスカイハイは、いつも以上に大きく、たくましく見える。 廊下を進むイワンの後ろを、スカイハイが付いて行った。 イワンがソファに座る。 「私もいいかな?」 返答を待たずに、スカイハイはその隣に座った。 驚きと不安が同席した表情で、イワンがスカイハイを見た。 「大丈夫だったかい?何事もなかったかい?」 スカイハイはルビー(イワン)を覗き込むように言った。ルビー(イワン)が頷く。 マスクの奥でどんな表情をしてるんだろう、とイワンは思った。そしてそれを想像すると胸が痛くなった。 『スカイハイはシュテルンビルトの市民を守る、優しくて強いキング・オブ・ヒーローの視線で今僕を見ているんだ……』 今まで一度も見られたことのない視点で自身を見つめられていると気付き、途端にイワンの心臓は早く打ち始めた。 スカイハイは、黙り込んで自分を見つめているルビー(イワン)を目の前に、バツが悪そうにきょろきょろする。 そして大きな手で、ぽんぽんとルビー(イワン)の頭を優しくなでた。 「大丈夫だ、心配はいらない。君は私が守る。そして、守る!」 ルビー(イワン)は首から顔までをも真っ赤にして、頷いた。 アナログの壁掛け時計が、かちかちと音を立てて時を刻んでいる。 スカイハイがイワンの下へとやって来てから、既に五時間が経過した。 外は暗くなっているだろうが、カーテンすら閉めきった室内からは外の様子がわからない。 二人はまんじりともせずにソファに座ったまま、殺害予告の時間が過ぎるのを待っていた。 スカイハイはたまに大きく息を吐き、手でパタパタとマスクを仰いでいる。イワンがそれに気付いた。 「スカイハイさん……、暑いんですか?」 「え?あ、ああ。いや……」 言い澱むスカイハイを見て、思わずイワンが噴出した。きょとんとした様子で、スカイハイはルビー(イワン)を見返す。 ルビー(イワン)が微笑んだ。 「暑いなら、マスクを脱いでも大丈夫ですよ」 「いや、いやいやそれはできない。できないよ」 「大丈夫ですよ、ぼく……私は……あなたの素顔を、見たことあるんです」 スカイハイは押し黙った。ハッとし、咄嗟にルビー(イワン)が声を荒げる。 「ち、ちがうんです!あの……アポロンメディアに、見学に行ったときに……あの、なんか……皆さんが……」 ごにょごにょと語尾をごまかすと、スカイハイが天井を見上げて「ああ」と言った。 「あの時かな……でも脱いでなかったと思うのだが……」 「……すごく恰好良かったです」 少々訝しげに首を傾げるスカイハイは、自分を見上げるルビー(イワン)の瞳に押され、はは、と笑った。 「では、私の正体はヒミツにしてもらえるね?」 「はい」 スカイハイがゆっくりとマスクを脱ぐ。汗が顎から滴り落ち、睫にも雫がからんでいる。 濡れたような金髪が現れ、やがてゆっくりと瞳を開いた。青く澄んだ眼差しをルビー(イワン)に投げ掛ける。 イワンは思わずぼんやりと口をあけて見とれた。こんなに近くでキースを凝視し、互いに見詰め合うなどしたことがなかった。 キースが白い歯を見せて笑った。 「はじめまして、私がスカイハイだ」 「やっぱり、恰好いいですね……」 キースは照れ臭そうにハハッと笑う。イワンの胸が締め付けられるように痛んだ。 『僕は、僕じゃない。これは、イワンに向けての笑顔じゃないんだ……』 イワンは自分の変化に戸惑った。呼吸が浅くなり、喉の奥が閉じきったかのような苦しさが込み上げた。 まるで全身が絶望を受けて、血液の流れを止めたようだった。 キースは、突然言葉を失ったルビー(イワン)を少々困った顔で見つめ返した後、 ちいさく「そうか」と呟いて手の平を上に向けるとふんわりと風を起こし、自分とルビー(イワン)を涼ませようとし始めた。 擬態したイワンの髪を、キースが作り出した風が優しくなでていく。 それは頬に触れて汗ばんだ首筋を通り、部屋の中で柔らかな渦を巻いた。 イワンは緊張をほぐしながら前髪を揺らしていく風を受け、瞳を閉じた。思わず笑みがこぼれた。 誰に対しても優しい、優しいヒーロー。 一所懸命で努力家のヒーロー。 でも天然で、だからこそ皆からも愛されるヒーロー。 自分が持っていないものを沢山持っていて、それを惜しみなく人に分け与えるヒーロー。 「大好きです」 ルビー(イワン)が思わず呟いた。「え」と言うと、一瞬キースの表情が変わる。 キースの目の前に座る女性は、瞳を閉じたまま微笑んでいた。 イワンは穏やかな胸の内を、誰に対しても恥ずかしくない気持ちだと自信を持って思えた。 そんなやましい事だと思っていた事がまるで馬鹿馬鹿しい事のようだ。 皆が愛するヒーローだから、自分だって大好きでいる事に誰が異を唱えようか。 「スカイハイさんが好きです。大好きです」 気持ちが抑えられず、言葉が溢れた。薄く口紅をひいた、自分のものでない唇で、声で、愛を呟く。 「あなたの強いところも、真面目なところも、一所懸命なところも、時々ドジなところも、全部」 その言葉の最後が不安定に揺れた。 「好きなんです」 不意に、イワンは自分の瞳からボロボロと涙がこぼれている事に気付いた。キースの顔を見られない。 キングオブヒーローが、どんな表情で自分を見ているのかを考えると恐ろしかった。 きっと、“ヒーローに助けに来てもらったファンの興奮している姿”程度の醜態をさらしているのだろう。 涙は腹の底から上がってきて、大粒で落ちていく。 目を閉じて押さえようとしても、柔らかな睫の間をぬって、意地でも膝を濡らそうと涙が出てくる。 嗚咽を漏らしながら、腕でゴシゴシと涙を拭いた。 「大丈夫だ。大丈夫だよ」 キースの穏やかな言葉が、イワンの耳に届く。 「君は私の友人に似ている。彼は真面目で、一所懸命だ。そして真面目だ」 スカイハイのグローブがイワンの髪に触れる。柔らかな綿毛のようなその髪を、そっとなでた。 「自分をヒーローに向いてないと言ったり、拗ねたり、私は放ってはおけなくてね」 優しく響く朗々とした語り口を聞きながら、まだ止まらない涙をイワンは必死で拭った。キースの顔を見上げる勇気は、一向に出てこない。 キースは言葉を続けた。 「前に、一人で潜入を申し出たことがあってね。それは恐ろしかっただろう。でもその能力も、勇気も彼にしかないものだった」 「ご、ごめんなさ……」 思わずイワンが謝る。キースは、紫色の瞳から延々と零れ落ちる涙をグローブの親指で拭った。 「君が謝る必要はない。なにもない。私はそんな、強くて勇気のある彼を大事に思っているんだ」 スカイハイの親指に、イワンの涙が絡む。今度は人差し指でその頬を拭った。 「それがどんな気持ちなのかは、まだ解らないけれど……彼を泣かせたくはないよ」 イワンがそっと目を開ける。目の前には、いつもの白い歯を見せて笑顔で笑うキースがいた。 「ほら、笑ってごらん」 言われて、イワンは嗚咽を漏らしながら笑った。照れ臭そうに笑うその頬を、スカイハイのグローブがぐいっと挟み込む。 拍子抜けして、潤んだ瞳をぱちくりさせるイワンを見つめて、キースは声を上げて笑った。 「やっぱり君は笑顔の方が似合う。とても似合うよ」 言うと、ゆっくりと顔を寄せてイワンの額にキスをした。 結局――。ノースゴールドの爆破予告は本当の事だったものの、設置してあった時限爆弾をタイガー&バーナビーが解除し 犯人グループはドラゴンキッドの雷に打たれて一網打尽、逃げようとした車両もロックバイソンに投擲され、確保された。 なぜか登場しなかったキングオブヒーローに対しての住民からの苦情はすさまじく、HERO TVに残る地味な汚点となったが、 そんなことは、緊張が切れてソファで頭を寄せて眠る二人には関係のない事だった。 □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! あぁぁ最後計算ミスで予定より1レス多くなってしまいました。すみません。 明日の放映がどうなるのか不安だったので、間に合うように投下しました。 ありがとうございました。 - いい!!ありがとう、そしてありがとう! -- &new{2011-08-21 (日) 05:16:21}; #comment
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#title(KING OF MY HERO) >>16.>>17 すみませんでした。前スレに投下すれば良かった…アドバイスありがとうございます。 そして皆様すみませんでした。気をつけていきます。 >>15の続き 虎&兎 の空折です ・話しの展開の為、オリキャラが出てきます。嫌いな方は注意。 ・擬態ハァハァ!! |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! ルビーに擬態したイワンはヘリに乗り込んで街を見下ろした。 日中のシュテルンビルトは、いくつもの高層ビルに陽の光が反射して輝いている。夜ともなれば灯りが灯り、キラキラと眩いばかりだ。 これから向かうサウスゴールドは、富裕層の暮らす区域で民家が多い。 計画では一旦某企業ビル屋上のヘリポートに降り、体裁を取り繕うためだけに用意されたボディーガード2名とイワンがリムジンに乗り込 んで、自宅へ向かうことになっている。 ヘリが無事にヘリポートへ着くと、風圧と爆音の中アニエスが声を張り上げた。 「折紙サイクロン、無茶だけはすんじゃないわよ」 「はい!」 女性の姿をしたイワンは、ヘリの風で翻るスカートをオロオロと押さえながら、ビルの中へと消えていった。 「はぁ……」 イワンはため息をついて、ソファに深く身をゆだねる。 ボディーガードはあくまでも形だけだったので、すでに裏口から去ってしまった。今はルビーの自宅リビングに一人きりだ。 もし本当に犯行グループがやってきたら、他のヒーローが投入される。 ボディーガードを撤退させたのも、戦闘になったら一般の彼らを守りぬくのが困難かもしれないからというのが理由だった。 デメリットは早々に排除すべきというアニエスの意見は最もだったが、同時にイワンの身を危険に晒す可能性は高まった。 『もう、なるようにしかならないな……』 イワンは自分の手を見つめた。何時もの自分の手と違う、一回り小さく、細く、頼りない女性の手がそこにある。 右手で、左腕を掴んでみる。筋肉の隆起を感じない、しっとりとした肌。ガラスが填められたドアに映る自分の顔は、まったく知らない他 人の顔だった。 三階建ての洒落た豪邸の中には、イワンしかいない。デジタルの時計が点滅するのみで、しんと静寂が続いている。 閉めきった窓のせいで揺らぎすら無い空気に耐えかね、のろのろとリモコンを手にとった。 テレビを付けると午後のワイドショーが映し出され、そこでは昨日のヒーローの活躍が話題に上がっている。 ≪昨日、最高でしたね!ドラゴンキッドの素早い動きがなかったら、きっとバーナビーだって間に合ってなかったですよ!≫ 女性アナウンサーが興奮気味に言うと、男性コメンテーターが咄嗟に返す。 ≪いや、皆さんそう思うでしょう?でもね、ヒーローアカデミー助教授の私としては、バーナビーはあのタイミングを……≫ ≪ワイルドタイガーの安定感も最近良いですよね。安心感があるっていうか≫ 「……安心感……」 ぽつりとイワンが呟いた。言われた事の無い言葉。テレビから垂れ流れるコメントは、自分と全く関係のない世界の話しのように思えた。 ≪でも皆さん、やっぱり……≫ 画面の中で何かを言いかけた女性アナウンサーは、出演者全員と一緒に顔を見合わせて、わざとらしく大きく頷いている。 ≪ですよね!そうですよね、やっぱり大活躍は我らがスカイハイ!ということで、スカイハイの特集を組んじゃいましたー!≫ 盛り上がるスタジオの中。そこにある大型モニタにはスカイハイが映し出される。 イワンの胸がドクンと鳴った。 ≪「みなさんの応援のおかげで、私たちは活動ができるのです。ありがとう!そして、ありがとう!」≫ 膝の上においていた手が、気付かぬうちにスカートをぎゅっと掴んでいた。 「僕は……僕は、あなたがいるから活動ができてるんだ……」 イワンは呆然とテレビを見ながら、切なく語りかけるように呟く。脳裏には幾度となく助けられた記憶が甦った。 見切れることばかりを考え、戦闘そっちのけで夢中になった結果、爆発や落下物に巻き込まれた事は数え切れない。 その度にスカイハイは折紙サイクロンを助け、のちイワンがロックバイソンに怒られていればさりげなくイワンを庇った。 ――スポンサーを目立たせるっていうのは、我々にとって実は大事なことだ。そうだろう?―― 落ち込むイワンの肩ををぽんぽんと叩き、視線を合わせれば歯を見せて笑う。 そんな状況を思い出せば思い出す程、イワンの胸は苦しくなった。 『スポンサーは大切だけど……本当はそれだけじゃだめなのも、スカイハイさんは知ってるのに』 息が詰まりそうになり、思わず胸に手を当てる。だが、そこにあった柔らかさに驚いて咄嗟に手を離した。 『あっ、……うわ……ッ、なんてこと……』 紛れも無い女性の身体に触れてしまい、イワンは思わず顔を赤らめた。 できるだけ意識して触れないようにしてきた、擬態の身体。自分で触れた感触も、熱も、はっきりとわかる。 今のイワンの身体は、依頼者ルビーの身体がそのままコピーされた状態だ。 イワンは息を整えると、自分の顔をパシンと両手で打った。 「だめだめ!」 仕事だ、と自身を一喝して、イワンはテレビの中で未だに続くスカイハイ特集に見入った。 しばらくテレビを見入っていたが、犯人グループからの連絡も、外部の動きも何も無い。 イワンはテレビを消すとカーテンを閉め切った窓に近づき、そっと隙間から外を覗き見た。――静寂――恐ろしい程の静寂。 眉間に皺を寄せる。違和感を感じたその時だった。警告音とともに手首に巻いていたPDAが赤く光る。 『ボンジュール、ヒーロー。ノースゴールドの銀行で爆破予告よ。軍から出動要請があったわ。出動して』 イワンはゴクリと唾を飲み下した。 「あの、アニエスさん!ぼくは……」 『折紙サイクロンはそのまま任務について。同じ犯行グループだから、どちらかがフェイクの可能性もある』 「はい……」 イワンは唇を尖らせ、ため息を吐いてまたソファに身体を沈めた。仲間が戦いに赴くのに、自分がやっていることは正しいのかと自問する。 ピンポーン、という間の抜けたチャイムが鳴った。はっと顔を上げ、視線を廊下に向ける。再度チャイムが鳴った。 全身に沸騰した血液が巡った。五感全てを使って音の方角へ集中する。 『来た……!!』 ピンポーン、ピンポーンと連続してチャイムが鳴った。 イワンは立ち上がりリビングの入り口へ歩み寄ると、身を隠しながら玄関へ視線を固定した。 廊下の奥に見える青い玄関扉から、コンコン、とドアをノックする乾いた音が響く。 『ノック……?これから殺そうとする相手に対して、ノック??』 イワンは手のひらにかいた汗をスカートにこすりつけると、ゆっくりと廊下を進んで玄関の覗き穴をそっと覗き込んだ。 「……っ!どうして」 驚き、一瞬イワンが身を引いた。覗き穴の湾曲したレンズごしに、紛れも無いスカイハイが佇んでいる。 室内からの反応が無い為か、頭をポリポリと掻き、扉からちょっと離れてみたり近寄ってみたり、離れたりを繰り返している。 近寄ったスカイハイがコンコン、とドアをノックした。 イワンは電子ロックを解除してから、鍵を捻る。カチャンという軽い音とともに、扉はゆっくりと内側へ開いた。 隙間から風が吹き込み、同時にはためくマントが視界に入る。やがて目の前には、まるで後光を背負ったかのようなスカイハイが現れた。 陽の光に照らされた銀色のボディは眩いばかりだった。額のランプは空に負けない青さで輝いている。 「君がルビー・サリバンくんかい?私はスカイハイ!君を守りにきたんだ」 ポカンと見上げるルビー(イワン)に対して、一瞬スカイハイは固まり、小さく「あれ?」と呟いた。 「あー……君がルビー・サリバンくんかい?私はスカイハイ!君を」 「すみません、ボーっとして。どうぞ、入ってください」 言って、イワンは視線を逸らすと室内へとスカイハイを誘い、扉を閉めロックをかけた。 擬態をしているイワンから見るスカイハイは、いつも以上に大きく、たくましく見える。 廊下を進むイワンの後ろを、スカイハイが付いて行った。 イワンがソファに座る。 「私もいいかな?」 返答を待たずに、スカイハイはその隣に座った。 驚きと不安が同席した表情で、イワンがスカイハイを見た。 「大丈夫だったかい?何事もなかったかい?」 スカイハイはルビー(イワン)を覗き込むように言った。ルビー(イワン)が頷く。 マスクの奥でどんな表情をしてるんだろう、とイワンは思った。そしてそれを想像すると胸が痛くなった。 『スカイハイはシュテルンビルトの市民を守る、優しくて強いキング・オブ・ヒーローの視線で今僕を見ているんだ……』 今まで一度も見られたことのない視点で自身を見つめられていると気付き、途端にイワンの心臓は早く打ち始めた。 スカイハイは、黙り込んで自分を見つめているルビー(イワン)を目の前に、バツが悪そうにきょろきょろする。 そして大きな手で、ぽんぽんとルビー(イワン)の頭を優しくなでた。 「大丈夫だ、心配はいらない。君は私が守る。そして、守る!」 ルビー(イワン)は首から顔までをも真っ赤にして、頷いた。 アナログの壁掛け時計が、かちかちと音を立てて時を刻んでいる。 スカイハイがイワンの下へとやって来てから、既に五時間が経過した。 外は暗くなっているだろうが、カーテンすら閉めきった室内からは外の様子がわからない。 二人はまんじりともせずにソファに座ったまま、殺害予告の時間が過ぎるのを待っていた。 スカイハイはたまに大きく息を吐き、手でパタパタとマスクを仰いでいる。イワンがそれに気付いた。 「スカイハイさん……、暑いんですか?」 「え?あ、ああ。いや……」 言い澱むスカイハイを見て、思わずイワンが噴出した。きょとんとした様子で、スカイハイはルビー(イワン)を見返す。 ルビー(イワン)が微笑んだ。 「暑いなら、マスクを脱いでも大丈夫ですよ」 「いや、いやいやそれはできない。できないよ」 「大丈夫ですよ、ぼく……私は……あなたの素顔を、見たことあるんです」 スカイハイは押し黙った。ハッとし、咄嗟にルビー(イワン)が声を荒げる。 「ち、ちがうんです!あの……アポロンメディアに、見学に行ったときに……あの、なんか……皆さんが……」 ごにょごにょと語尾をごまかすと、スカイハイが天井を見上げて「ああ」と言った。 「あの時かな……でも脱いでなかったと思うのだが……」 「……すごく恰好良かったです」 少々訝しげに首を傾げるスカイハイは、自分を見上げるルビー(イワン)の瞳に押され、はは、と笑った。 「では、私の正体はヒミツにしてもらえるね?」 「はい」 スカイハイがゆっくりとマスクを脱ぐ。汗が顎から滴り落ち、睫にも雫がからんでいる。 濡れたような金髪が現れ、やがてゆっくりと瞳を開いた。青く澄んだ眼差しをルビー(イワン)に投げ掛ける。 イワンは思わずぼんやりと口をあけて見とれた。こんなに近くでキースを凝視し、互いに見詰め合うなどしたことがなかった。 キースが白い歯を見せて笑った。 「はじめまして、私がスカイハイだ」 「やっぱり、恰好いいですね……」 キースは照れ臭そうにハハッと笑う。イワンの胸が締め付けられるように痛んだ。 『僕は、僕じゃない。これは、イワンに向けての笑顔じゃないんだ……』 イワンは自分の変化に戸惑った。呼吸が浅くなり、喉の奥が閉じきったかのような苦しさが込み上げた。 まるで全身が絶望を受けて、血液の流れを止めたようだった。 キースは、突然言葉を失ったルビー(イワン)を少々困った顔で見つめ返した後、 ちいさく「そうか」と呟いて手の平を上に向けるとふんわりと風を起こし、自分とルビー(イワン)を涼ませようとし始めた。 擬態したイワンの髪を、キースが作り出した風が優しくなでていく。 それは頬に触れて汗ばんだ首筋を通り、部屋の中で柔らかな渦を巻いた。 イワンは緊張をほぐしながら前髪を揺らしていく風を受け、瞳を閉じた。思わず笑みがこぼれた。 誰に対しても優しい、優しいヒーロー。 一所懸命で努力家のヒーロー。 でも天然で、だからこそ皆からも愛されるヒーロー。 自分が持っていないものを沢山持っていて、それを惜しみなく人に分け与えるヒーロー。 「大好きです」 ルビー(イワン)が思わず呟いた。「え」と言うと、一瞬キースの表情が変わる。 キースの目の前に座る女性は、瞳を閉じたまま微笑んでいた。 イワンは穏やかな胸の内を、誰に対しても恥ずかしくない気持ちだと自信を持って思えた。 そんなやましい事だと思っていた事がまるで馬鹿馬鹿しい事のようだ。 皆が愛するヒーローだから、自分だって大好きでいる事に誰が異を唱えようか。 「スカイハイさんが好きです。大好きです」 気持ちが抑えられず、言葉が溢れた。薄く口紅をひいた、自分のものでない唇で、声で、愛を呟く。 「あなたの強いところも、真面目なところも、一所懸命なところも、時々ドジなところも、全部」 その言葉の最後が不安定に揺れた。 「好きなんです」 不意に、イワンは自分の瞳からボロボロと涙がこぼれている事に気付いた。キースの顔を見られない。 キングオブヒーローが、どんな表情で自分を見ているのかを考えると恐ろしかった。 きっと、“ヒーローに助けに来てもらったファンの興奮している姿”程度の醜態をさらしているのだろう。 涙は腹の底から上がってきて、大粒で落ちていく。 目を閉じて押さえようとしても、柔らかな睫の間をぬって、意地でも膝を濡らそうと涙が出てくる。 嗚咽を漏らしながら、腕でゴシゴシと涙を拭いた。 「大丈夫だ。大丈夫だよ」 キースの穏やかな言葉が、イワンの耳に届く。 「君は私の友人に似ている。彼は真面目で、一所懸命だ。そして真面目だ」 スカイハイのグローブがイワンの髪に触れる。柔らかな綿毛のようなその髪を、そっとなでた。 「自分をヒーローに向いてないと言ったり、拗ねたり、私は放ってはおけなくてね」 優しく響く朗々とした語り口を聞きながら、まだ止まらない涙をイワンは必死で拭った。キースの顔を見上げる勇気は、一向に出てこない。 キースは言葉を続けた。 「前に、一人で潜入を申し出たことがあってね。それは恐ろしかっただろう。でもその能力も、勇気も彼にしかないものだった」 「ご、ごめんなさ……」 思わずイワンが謝る。キースは、紫色の瞳から延々と零れ落ちる涙をグローブの親指で拭った。 「君が謝る必要はない。なにもない。私はそんな、強くて勇気のある彼を大事に思っているんだ」 スカイハイの親指に、イワンの涙が絡む。今度は人差し指でその頬を拭った。 「それがどんな気持ちなのかは、まだ解らないけれど……彼を泣かせたくはないよ」 イワンがそっと目を開ける。目の前には、いつもの白い歯を見せて笑顔で笑うキースがいた。 「ほら、笑ってごらん」 言われて、イワンは嗚咽を漏らしながら笑った。照れ臭そうに笑うその頬を、スカイハイのグローブがぐいっと挟み込む。 拍子抜けして、潤んだ瞳をぱちくりさせるイワンを見つめて、キースは声を上げて笑った。 「やっぱり君は笑顔の方が似合う。とても似合うよ」 言うと、ゆっくりと顔を寄せてイワンの額にキスをした。 結局――。ノースゴールドの爆破予告は本当の事だったものの、設置してあった時限爆弾をタイガー&バーナビーが解除し 犯人グループはドラゴンキッドの雷に打たれて一網打尽、逃げようとした車両もロックバイソンに投擲され、確保された。 なぜか登場しなかったキングオブヒーローに対しての住民からの苦情はすさまじく、HERO TVに残る地味な汚点となったが、 そんなことは、緊張が切れてソファで頭を寄せて眠る二人には関係のない事だった。 □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! あぁぁ最後計算ミスで予定より1レス多くなってしまいました。すみません。 明日の放映がどうなるのか不安だったので、間に合うように投下しました。 ありがとうございました。 - いい!!ありがとう、そしてありがとう! -- &new{2011-08-21 (日) 05:16:21}; #comment
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作品一覧
シリーズものインデックス3
シリーズものインデックス2
シリーズものインデックス
第71巻
第70巻
第69巻
第68巻
第67巻
第66巻
第65巻
第64巻
第63巻
第62巻
第61巻
第60巻
第59巻
第58巻
第57巻
第56巻
第55巻
第54巻
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