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#title(三匹が斬る! 殿様×千石 「流恋情歌 Part3」) >>18の続きで、時代劇「参匹がKILL!」より、素浪人の殿様×仙石。 訳あって殿様がオカマちゃん風味。エロなし。 全三回投下の最後です。 |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 「旦那、厚かましくって悪いんだけどさ、もう一つお願いがあるんですよ」 「構わん、俺に出来ることなら引き受けてやる。ただし、金絡みはいかん。俺の懐は大概寒い」 「ふふ、お金はちょっとは必要だけど、それは大丈夫。せんさんのを取っておいたから」 兵四郎は懐から、小判を二枚と懐紙に包んだ千吉の遺髪を取り出し、真之介の膝の前に差し出した。 「あたしのお墓に、せんさんを入れてやって欲しいんです。この一枚はお寺のお坊さんに渡して、ちょっとはましな供養をしてもらって下さいな。 どうせあたしのお墓なんて、ろくでもない出来に決まってるんだから。もう一枚はお礼として、旦那方に。路銀の足しにでもしてやって下さい」 「わかった、確かに引き受けたぜ。金もありがたく貰っておこう」 真之介は金と遺髪を一緒に懐紙に包み直し、懐にしっかりと入れた。 ほっと息をついた兵四郎は、さっぱりと清々しい笑顔になった。 「ああよかった。これで安心して、あの人に会いに行けるわ……ううん、待って。あのね旦那、もう一つだけ、我が儘言っていいかしら」 「いいとも。ただし俺は、金はあまりねえぞ」 からかうように駄目押しする言葉に笑い、兵四郎はじっと真之介を見つめた。 「旦那、あたし達この何日か、隣同士の布団で寝てたわね」 「うん、そうだな。お前は女だが身体は殿様なんだから、何も問題なかろう」 「そうね。でもあたし、いつだかの夜中にふっと目が覚めて……隣に眠ってる旦那の顔を見てる内に、変な気持ちになっちゃったのよ」 「変な気持ちたあ、なんだ」 「そのねえ、旦那の……口をね、吸いたく、なっちゃって」 「……ば、馬鹿!何言ってやがる」 唐突で意外な告白に、真之介は顔を赤く染めてうろたえた。あまりの狼狽ぶりに、兵四郎はくすくすと笑った。 「だってねえ、惚れた男に瓜二つの人が、すぐ側でかわいい顔してすやすや眠ってるんですもの。おかしな気にもなりますよ」 「そ、そりゃあそうかもしれんが、しかし」 「まあ、最後まで聞いて下さいな。あたし旦那の肩に手をかけて、そうっと唇を近付けたんです」 「う、うん……」 「そしたら旦那が、ぼんやりと目を開けてあたしを見つめるもんで、ちょっと慌てちまったんですよ」 「そ、それで?」 「旦那ったら、固まったあたしの顔を見て、それは嬉しそうに笑いなすった。それから『殿様』って呟いて、あたしに抱き着いてきなすったんですよ」 「なんっ……う、う、嘘だっ!」 「こんな嘘ついて、何の得があるもんですかね。抱き着いたまま、また旦那はくうくう寝ちまったんで、あたしもすっかり毒気を抜かれて……あんたの身体を布団に直してから、おとなしくまた寝ましたよ。旦那、覚えてないんだねえ」 いよいよ湯気が上がりそうな顔色になった真之介は、口をぱくぱくさせて兵四郎から目を逸らした。 兵四郎は慈母のように微笑むと、遠くを見つめるようにしてまた口を開いた。 「あたしね、死んでからも……死んだとは気付いてなかったんですけど、あの川のほとりにずっといたんです。せんさんは網元の息子だけど、家業が嫌いな人だったの。でも海は好きだって言ってた。 だからあたし、戻って来ないあの人はひょっとしたら海の側に暮らしていて、この川はそこに繋がっているんじゃないかしらって。そう思って、いつも川を見ていたの」 話題を変えられてほっとした真之介は、無言で頷き先を促した。 「そしたらある日、この八坂の旦那がやって来て、あたしのすぐ隣に立ち止まった。ふたりしてしばらく川を見てたんだけど、あたしなんだか、ずいぶんあったかそうな人だなって思って。 側にいると不思議と、すごく気分が安らいだんです」 「うん。こいつは、そういう男なんだ」 「ええ、本当にそう。それで今度は九慈の旦那がやって来て、八坂の旦那に声をかけたでしょ。この人はそりゃあもう、嬉しそうにあんたを振り返った。 あたしは目の前で笑ってるあんたを見て、てっきりせんさんが帰って来てくれたんだと思って喜んだ。そしたら、ぐいっと引きずられるようにして、この人の中に入っちまったんです」 「そりゃあつまり……どういうこった」 言わんとすることが今一つ掴めない真之介は、胸をぼりぼりと掻きながら尋ねた。 兵四郎は悪戯っぽく、歌うように耳元で囁いた。 「だからね、この人はあんたが好きなんですよ。あたしはその気持ちに、引きずられたんです」 「なっ……馬鹿!ふ、ふざけたことを言うなっ」 「ふざけてなんかいませんよ。あたしが何年、色の道でおまんま食ってきたとお思いだえ。これでもちょっとは、色恋を見る目はあるんだよ」 仰天して目を剥いた真之介を見据え、兵四郎は笑って啖呵を切った。 「八坂の旦那だけじゃないですよ。旦那も、この人を好いてるんでしょ」 「……お絹!」 「駄目だよ旦那、あたしにはわかるんですよ。いつかの夜のことだけじゃなく、あんたはぶっきらぼうな風でいても、いつもこの人のことを気にかけてるもの」 「そ、そりゃあお前が取り憑いて、ややこしいことになってるからだ!殿様だけじゃなく、お前の為でもあるんだ」 「うそうそ。例えばあたしがこの人以外に取り憑いたとしたら、旦那はあそこまで優しかったかしらねえ。ううん、元々優しい人だとは分かるけど、やっぱりこの人だったから、困りながらも旦那はあんなに親切だった。いつも愛しそうな顔をして、この人を見ていたのよ」 「いと、愛しそうって、どんな顔だ!」 「そりゃ、いろんな顔よ。今慌ててる、その顔だってそう。何も照れるこたないわ」 「……照れてねえ!」 真之介は真っ赤な顔で絶叫したが、兵四郎はころころと笑いこけ、実に愉快そうにそれを眺めた。 「まあいいわ、旦那が白を切ったところで見え見えなんだから。ふたりとも本当に、かわいいのねえ」 「……やかましい!おま、お前一体、何が言いたいんだっ」 「何って、あら、なんだったかしら……ああそうそう、お願いがあるんだった。旦那、聞いてくれるんでしたよね」 「う、うん……なんだ、言ってみろ」 あらたまった顔付きで見つめられ、真之介は深呼吸をして乱れた息と弾む胸の鼓動を整えようとした。 兵四郎はついっと右手を伸ばすと、真之介の顎に触れた。幾度も触れられた覚えのある感触が、真之介の胸をまた高鳴らせた。 指は緩やかに這い上がり、半開きの唇をそっとなぞった。 「あたしね、やっぱり触れたいんです。この、唇に……」 「お、お絹……」 「三年待ってたせんさんは、再び触れ合うことが叶わないままで死んじまった。あの人によく似たあんたの温もりを代わりに貰って、あたしはあっちに行きたいんです」 「だが、そりゃあ……千吉が妬きゃあしねえか」 「ふふ、優しい旦那。お世話になった旦那が相手なら、きっとあの人は許してくれますよ」 「し、しかし……」 「中身はあたしだけど、身体は八坂の旦那なんですからさ。惚れ合った仲だし、いいじゃありませんか」 「だっ、誰が惚れ合った仲だ!」 「もう、照れちゃって……それともやっぱり、本当の相手があたしだからいやなのかしら。仕方ないけどねえ、こんな女だし」 「いやっ、そ、そんなこたあねえが……」 からかった後に寂しげに目を伏せた兵四郎の言葉を、真之介は焦って否定した。兵四郎はにっこりと笑い、顔をぐっと慎之介に近付けた。 「嬉しい。じゃあ旦那……目を」 「う、わ、わかった……」 素直にぎゅっと目を閉じた真之介の肩に手を置くと、兵四郎も目を閉じて顔を傾け、ゆっくりと唇を触れ合わせた。幾秒か押し当ててそっと離すと、ふたりは目を開けた。 困ったように真之介が笑うと兵四郎も微笑み返し、その肩に腕を回して抱き寄せた。真之介も兵四郎の背に両腕を回した。 「ありがと、旦那。八坂の旦那にも、ありがとうって伝えとくれ。ずっと一緒にはいたけど、とうとう話は出来なかったからさ」 「ああ、必ず伝える」 「頼みましたよ。ふたりとも本当に、せんさんに負けないくらい、いい男だったよ……」 甘く耳元に囁くと、兵四郎は真之介の肩に顔を埋めた。 「お絹……?」 抱き着いて押し黙ったままなのを気にかけ、真之介が女の名前を呼ぶと、兵四郎は涙の跡が残る顔を上げた。 「俺だ、仙石」 「殿様……お絹は?」 「向こうへ行った。きっと千吉が迎えに来たんだろうな、嬉しそうにしていたよ」 「そうか、行っちまったか」 身体を離した兵四郎は、慎之介がため息混じりに呟くのを見て笑った。 「寂しいか、仙石。お絹に口を吸われて、満更でもなかったみたいだな」 「馬鹿、そんなんじゃねえ」 「そうか?俺は中で見ててちょっとばかり、妬いていたんだぞ」 「ばっ、馬鹿野郎!ふざけんなっ」 頬に朱を走らせた真之介を、兵四郎は穏やかに見つめた。 「……お絹からの言づてだ。ありがとう、だとよ」 「ああ、聞いてた。お前達の話は、みんな聞こえていた。俺達の仲について、お絹が言っていたこともな」 逸らそうとした話をまた引き戻され、真之介は慌てた。 「あ、あんなのは、女の戯言だっ」 「戯言か……俺はそうは思わんぞ。いや、思いたくない」 「と、殿様……」 「妬いたというのも本当だ。自分でも、狭量だとは思うが。気の毒な女の最後の頼みだからとわかっていても、俺が相手だと、お前はあんなに素直になってはくれんからな」 まあ仕方がないが、と笑う兵四郎を見て、真之介は眉根を寄せた。 この人は旦那が好きなんですよ、というお絹の言葉を思い返してしばらく目をつぶった。 「仙石、どうした?俺の言葉が、気に障ったか」 無言でいるのを気にかける兵四郎の肩を掴むと、真之介は上げた顔を彼の顔近くに寄せて傾けた。 そして兵四郎の唇に、自分のそれを荒っぽく押し当てた。 驚いた兵四郎が目を閉じる間もなく口を離すと、しかめっ面を真っ赤にして突き飛ばすように肩を離した。 「真之介……」 「うるせえ!何も言うなっ」 「しかし真之介、今のは」 「黙れってんだ、殿様!お前が、く、くだらん嫉妬なんぞ、するからだっ」 真顔になりいざり寄ってきた兵四郎から、真之介は喚きながら畳を後ずさりに這って逃げようとした。 兵四郎は腕を掴むと力任せに引き、気まずさと恥ずかしさに火照る身体を胸に抱き寄せた。 「は、離せ、殿様っ」 「真之介、頼む。このままでいてくれ」 「殿様……な、泣いてんのか?」 身じろいだ真之介は、触れ合う兵四郎の頬が濡れているのに気付いた。 「ああ、そうだ」 「なんでだ。何を泣いてんだ」 「何故だろうな。まだお絹の気持ちが、俺の中にあるのかもしれん……いや、違うな。俺は嬉しいんだ。ただただ、嬉しいんだ」 静かに優しく囁くと、兵四郎は真之介を抱いたまま、身体をそっと横たえさせた。 流れ滴る涙を頬に受けた真之介は、覆い被さる背中に腕を回して抱きしめ目を閉じた。 淡い闇と静寂が、抱き合うふたりをひそやかに包み込んだ。 女は川を見ていた。 滔々と流れる水に切なる想いを託し、いつかはきっと海にたどり着くと信じて、ひたすらに川を眺め、祈り続けた。 □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! 蛇足・お絹さんのイメージは在りし日のタイチキワコさんだったり。 最後までお読み下さり誠にありがとうございました。 あと処々にてお言葉を下さった姐様方、身にあまる喜びでした。ありがとうございました。 - この二人のシリーズはほんとに好きです!伏線も展開もお上手ですね。今回は特にほろりときました。次回作に期待です☆ -- [[ユナ]] &new{2011-01-21 (金) 07:40:06}; - 泣きました!あなたは神か…(∀`。)次回作に期待しています! -- &new{2011-02-23 (水) 00:19:50}; - もう大好きです!素晴らしいお話ありがとうございました‥! -- &new{2016-05-19 (木) 23:29:08}; - もう大好きです!素晴らしいお話ありがとうございました‥! -- &new{2016-05-19 (木) 23:29:09}; - すみません、誤って連投になりました。失礼しました! -- &new{2016-05-19 (木) 23:33:17}; #comment
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#title(三匹が斬る! 殿様×千石 「流恋情歌 Part3」) >>18の続きで、時代劇「参匹がKILL!」より、素浪人の殿様×仙石。 訳あって殿様がオカマちゃん風味。エロなし。 全三回投下の最後です。 |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 「旦那、厚かましくって悪いんだけどさ、もう一つお願いがあるんですよ」 「構わん、俺に出来ることなら引き受けてやる。ただし、金絡みはいかん。俺の懐は大概寒い」 「ふふ、お金はちょっとは必要だけど、それは大丈夫。せんさんのを取っておいたから」 兵四郎は懐から、小判を二枚と懐紙に包んだ千吉の遺髪を取り出し、真之介の膝の前に差し出した。 「あたしのお墓に、せんさんを入れてやって欲しいんです。この一枚はお寺のお坊さんに渡して、ちょっとはましな供養をしてもらって下さいな。 どうせあたしのお墓なんて、ろくでもない出来に決まってるんだから。もう一枚はお礼として、旦那方に。路銀の足しにでもしてやって下さい」 「わかった、確かに引き受けたぜ。金もありがたく貰っておこう」 真之介は金と遺髪を一緒に懐紙に包み直し、懐にしっかりと入れた。 ほっと息をついた兵四郎は、さっぱりと清々しい笑顔になった。 「ああよかった。これで安心して、あの人に会いに行けるわ……ううん、待って。あのね旦那、もう一つだけ、我が儘言っていいかしら」 「いいとも。ただし俺は、金はあまりねえぞ」 からかうように駄目押しする言葉に笑い、兵四郎はじっと真之介を見つめた。 「旦那、あたし達この何日か、隣同士の布団で寝てたわね」 「うん、そうだな。お前は女だが身体は殿様なんだから、何も問題なかろう」 「そうね。でもあたし、いつだかの夜中にふっと目が覚めて……隣に眠ってる旦那の顔を見てる内に、変な気持ちになっちゃったのよ」 「変な気持ちたあ、なんだ」 「そのねえ、旦那の……口をね、吸いたく、なっちゃって」 「……ば、馬鹿!何言ってやがる」 唐突で意外な告白に、真之介は顔を赤く染めてうろたえた。あまりの狼狽ぶりに、兵四郎はくすくすと笑った。 「だってねえ、惚れた男に瓜二つの人が、すぐ側でかわいい顔してすやすや眠ってるんですもの。おかしな気にもなりますよ」 「そ、そりゃあそうかもしれんが、しかし」 「まあ、最後まで聞いて下さいな。あたし旦那の肩に手をかけて、そうっと唇を近付けたんです」 「う、うん……」 「そしたら旦那が、ぼんやりと目を開けてあたしを見つめるもんで、ちょっと慌てちまったんですよ」 「そ、それで?」 「旦那ったら、固まったあたしの顔を見て、それは嬉しそうに笑いなすった。それから『殿様』って呟いて、あたしに抱き着いてきなすったんですよ」 「なんっ……う、う、嘘だっ!」 「こんな嘘ついて、何の得があるもんですかね。抱き着いたまま、また旦那はくうくう寝ちまったんで、あたしもすっかり毒気を抜かれて……あんたの身体を布団に直してから、おとなしくまた寝ましたよ。旦那、覚えてないんだねえ」 いよいよ湯気が上がりそうな顔色になった真之介は、口をぱくぱくさせて兵四郎から目を逸らした。 兵四郎は慈母のように微笑むと、遠くを見つめるようにしてまた口を開いた。 「あたしね、死んでからも……死んだとは気付いてなかったんですけど、あの川のほとりにずっといたんです。せんさんは網元の息子だけど、家業が嫌いな人だったの。でも海は好きだって言ってた。 だからあたし、戻って来ないあの人はひょっとしたら海の側に暮らしていて、この川はそこに繋がっているんじゃないかしらって。そう思って、いつも川を見ていたの」 話題を変えられてほっとした真之介は、無言で頷き先を促した。 「そしたらある日、この八坂の旦那がやって来て、あたしのすぐ隣に立ち止まった。ふたりしてしばらく川を見てたんだけど、あたしなんだか、ずいぶんあったかそうな人だなって思って。 側にいると不思議と、すごく気分が安らいだんです」 「うん。こいつは、そういう男なんだ」 「ええ、本当にそう。それで今度は九慈の旦那がやって来て、八坂の旦那に声をかけたでしょ。この人はそりゃあもう、嬉しそうにあんたを振り返った。 あたしは目の前で笑ってるあんたを見て、てっきりせんさんが帰って来てくれたんだと思って喜んだ。そしたら、ぐいっと引きずられるようにして、この人の中に入っちまったんです」 「そりゃあつまり……どういうこった」 言わんとすることが今一つ掴めない真之介は、胸をぼりぼりと掻きながら尋ねた。 兵四郎は悪戯っぽく、歌うように耳元で囁いた。 「だからね、この人はあんたが好きなんですよ。あたしはその気持ちに、引きずられたんです」 「なっ……馬鹿!ふ、ふざけたことを言うなっ」 「ふざけてなんかいませんよ。あたしが何年、色の道でおまんま食ってきたとお思いだえ。これでもちょっとは、色恋を見る目はあるんだよ」 仰天して目を剥いた真之介を見据え、兵四郎は笑って啖呵を切った。 「八坂の旦那だけじゃないですよ。旦那も、この人を好いてるんでしょ」 「……お絹!」 「駄目だよ旦那、あたしにはわかるんですよ。いつかの夜のことだけじゃなく、あんたはぶっきらぼうな風でいても、いつもこの人のことを気にかけてるもの」 「そ、そりゃあお前が取り憑いて、ややこしいことになってるからだ!殿様だけじゃなく、お前の為でもあるんだ」 「うそうそ。例えばあたしがこの人以外に取り憑いたとしたら、旦那はあそこまで優しかったかしらねえ。ううん、元々優しい人だとは分かるけど、やっぱりこの人だったから、困りながらも旦那はあんなに親切だった。いつも愛しそうな顔をして、この人を見ていたのよ」 「いと、愛しそうって、どんな顔だ!」 「そりゃ、いろんな顔よ。今慌ててる、その顔だってそう。何も照れるこたないわ」 「……照れてねえ!」 真之介は真っ赤な顔で絶叫したが、兵四郎はころころと笑いこけ、実に愉快そうにそれを眺めた。 「まあいいわ、旦那が白を切ったところで見え見えなんだから。ふたりとも本当に、かわいいのねえ」 「……やかましい!おま、お前一体、何が言いたいんだっ」 「何って、あら、なんだったかしら……ああそうそう、お願いがあるんだった。旦那、聞いてくれるんでしたよね」 「う、うん……なんだ、言ってみろ」 あらたまった顔付きで見つめられ、真之介は深呼吸をして乱れた息と弾む胸の鼓動を整えようとした。 兵四郎はついっと右手を伸ばすと、真之介の顎に触れた。幾度も触れられた覚えのある感触が、真之介の胸をまた高鳴らせた。 指は緩やかに這い上がり、半開きの唇をそっとなぞった。 「あたしね、やっぱり触れたいんです。この、唇に……」 「お、お絹……」 「三年待ってたせんさんは、再び触れ合うことが叶わないままで死んじまった。あの人によく似たあんたの温もりを代わりに貰って、あたしはあっちに行きたいんです」 「だが、そりゃあ……千吉が妬きゃあしねえか」 「ふふ、優しい旦那。お世話になった旦那が相手なら、きっとあの人は許してくれますよ」 「し、しかし……」 「中身はあたしだけど、身体は八坂の旦那なんですからさ。惚れ合った仲だし、いいじゃありませんか」 「だっ、誰が惚れ合った仲だ!」 「もう、照れちゃって……それともやっぱり、本当の相手があたしだからいやなのかしら。仕方ないけどねえ、こんな女だし」 「いやっ、そ、そんなこたあねえが……」 からかった後に寂しげに目を伏せた兵四郎の言葉を、真之介は焦って否定した。兵四郎はにっこりと笑い、顔をぐっと慎之介に近付けた。 「嬉しい。じゃあ旦那……目を」 「う、わ、わかった……」 素直にぎゅっと目を閉じた真之介の肩に手を置くと、兵四郎も目を閉じて顔を傾け、ゆっくりと唇を触れ合わせた。幾秒か押し当ててそっと離すと、ふたりは目を開けた。 困ったように真之介が笑うと兵四郎も微笑み返し、その肩に腕を回して抱き寄せた。真之介も兵四郎の背に両腕を回した。 「ありがと、旦那。八坂の旦那にも、ありがとうって伝えとくれ。ずっと一緒にはいたけど、とうとう話は出来なかったからさ」 「ああ、必ず伝える」 「頼みましたよ。ふたりとも本当に、せんさんに負けないくらい、いい男だったよ……」 甘く耳元に囁くと、兵四郎は真之介の肩に顔を埋めた。 「お絹……?」 抱き着いて押し黙ったままなのを気にかけ、真之介が女の名前を呼ぶと、兵四郎は涙の跡が残る顔を上げた。 「俺だ、仙石」 「殿様……お絹は?」 「向こうへ行った。きっと千吉が迎えに来たんだろうな、嬉しそうにしていたよ」 「そうか、行っちまったか」 身体を離した兵四郎は、慎之介がため息混じりに呟くのを見て笑った。 「寂しいか、仙石。お絹に口を吸われて、満更でもなかったみたいだな」 「馬鹿、そんなんじゃねえ」 「そうか?俺は中で見ててちょっとばかり、妬いていたんだぞ」 「ばっ、馬鹿野郎!ふざけんなっ」 頬に朱を走らせた真之介を、兵四郎は穏やかに見つめた。 「……お絹からの言づてだ。ありがとう、だとよ」 「ああ、聞いてた。お前達の話は、みんな聞こえていた。俺達の仲について、お絹が言っていたこともな」 逸らそうとした話をまた引き戻され、真之介は慌てた。 「あ、あんなのは、女の戯言だっ」 「戯言か……俺はそうは思わんぞ。いや、思いたくない」 「と、殿様……」 「妬いたというのも本当だ。自分でも、狭量だとは思うが。気の毒な女の最後の頼みだからとわかっていても、俺が相手だと、お前はあんなに素直になってはくれんからな」 まあ仕方がないが、と笑う兵四郎を見て、真之介は眉根を寄せた。 この人は旦那が好きなんですよ、というお絹の言葉を思い返してしばらく目をつぶった。 「仙石、どうした?俺の言葉が、気に障ったか」 無言でいるのを気にかける兵四郎の肩を掴むと、真之介は上げた顔を彼の顔近くに寄せて傾けた。 そして兵四郎の唇に、自分のそれを荒っぽく押し当てた。 驚いた兵四郎が目を閉じる間もなく口を離すと、しかめっ面を真っ赤にして突き飛ばすように肩を離した。 「真之介……」 「うるせえ!何も言うなっ」 「しかし真之介、今のは」 「黙れってんだ、殿様!お前が、く、くだらん嫉妬なんぞ、するからだっ」 真顔になりいざり寄ってきた兵四郎から、真之介は喚きながら畳を後ずさりに這って逃げようとした。 兵四郎は腕を掴むと力任せに引き、気まずさと恥ずかしさに火照る身体を胸に抱き寄せた。 「は、離せ、殿様っ」 「真之介、頼む。このままでいてくれ」 「殿様……な、泣いてんのか?」 身じろいだ真之介は、触れ合う兵四郎の頬が濡れているのに気付いた。 「ああ、そうだ」 「なんでだ。何を泣いてんだ」 「何故だろうな。まだお絹の気持ちが、俺の中にあるのかもしれん……いや、違うな。俺は嬉しいんだ。ただただ、嬉しいんだ」 静かに優しく囁くと、兵四郎は真之介を抱いたまま、身体をそっと横たえさせた。 流れ滴る涙を頬に受けた真之介は、覆い被さる背中に腕を回して抱きしめ目を閉じた。 淡い闇と静寂が、抱き合うふたりをひそやかに包み込んだ。 女は川を見ていた。 滔々と流れる水に切なる想いを託し、いつかはきっと海にたどり着くと信じて、ひたすらに川を眺め、祈り続けた。 □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! 蛇足・お絹さんのイメージは在りし日のタイチキワコさんだったり。 最後までお読み下さり誠にありがとうございました。 あと処々にてお言葉を下さった姐様方、身にあまる喜びでした。ありがとうございました。 - この二人のシリーズはほんとに好きです!伏線も展開もお上手ですね。今回は特にほろりときました。次回作に期待です☆ -- [[ユナ]] &new{2011-01-21 (金) 07:40:06}; - 泣きました!あなたは神か…(∀`。)次回作に期待しています! -- &new{2011-02-23 (水) 00:19:50}; - もう大好きです!素晴らしいお話ありがとうございました‥! -- &new{2016-05-19 (木) 23:29:08}; - もう大好きです!素晴らしいお話ありがとうございました‥! -- &new{2016-05-19 (木) 23:29:09}; - すみません、誤って連投になりました。失礼しました! -- &new{2016-05-19 (木) 23:33:17}; #comment
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作品一覧
シリーズものインデックス3
シリーズものインデックス2
シリーズものインデックス
第71巻
第70巻
第69巻
第68巻
第67巻
第66巻
第65巻
第64巻
第63巻
第62巻
第61巻
第60巻
第59巻
第58巻
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第56巻
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第53巻
第52巻
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第49巻
第48巻
第47巻
第46巻
第45巻
第44巻
第43巻
第42巻
第41巻
第40巻
第39巻
第38巻
第37巻
第36巻
第35巻
第34巻
第33巻
第32巻
第31巻
第30巻
第29巻
第28巻
第27巻
第26巻
第25巻
第24巻
第23巻
第22巻
第21巻
第20巻
第19巻
第18巻
第17巻
第16巻
第15巻
第14巻
第13巻
第12巻
第11巻
第10巻
第9巻
第8巻
第7巻
第6巻
第5巻
第4巻
第3.1巻
第3巻
第2巻
第1巻
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