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#title(権蔵 黒木×佐久間 「禁断の雫」) 今更ですが、再放送でまた再燃してしまったので。 権蔵の9639です。 |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 面白い物を手に入れたぞ───。 96木はにやにやと一人で笑い、ジャケットのポケットに突っこんだ手の中の小瓶をそっと揺らした。 ラベルに書かれている成分はガラナにクコの実、ウイキョウ、ナルコユリ、リュウガン、朝鮮人参、蛇胆、その他にも諸々聞いた事もない怪しいものがたっぷりの、無色透明、無味無臭の液体が硝子の小瓶の中に入っていた。 それは催淫剤───いわゆる、『媚薬』と呼ばれるものだった。 昨日の夜中に、新宿歌舞伎町の裏通りで、しこたまに酔っ払った外国人に強引に売りつけられたのを、こちらも酔っていた勢いでつい好奇心で買ってしまった。 そんなものを買うのも手にするのも初めてだったが、これは試してみるしかないだろう、と96木は思った。 ───もちろん、あいつに。 くく、と96木はもう一度小さく笑い、流れる電車の車窓から景色を眺めた。 動き出したばかりの電車は緩いカーブを曲がっていて、夕方の混雑したビルの街並みがゆっくりと過ぎていく。 時折、線路沿いの桜並木が満開な花を咲かせているのが目に入ったが、96木は悪戯心で頭が一杯になっていたので、そんな光景を最早見てもいない。 楽しい夜になりそうだ。 胸に浮かんだ怪しげな予感に、96木はもう一度笑って小瓶を握り締めた。 「───また来たんですか」 出迎えた39間の第一声がそれだった。 玄関先で不機嫌そうに腕を組み、呆れたように96木を見る。 「お前なあ、俺の顔を見るなり開口一番でそれはないだろう。待ってたんですの一言ぐらいたまには言ってくれてもいいのに、全く可愛げのない奴だな」 「いちいちあなたにつき合ってなんかいられるものですか。大体、どうして日も暮れかかってから人の家にくるんです、あなたは」 「目が覚めたらもうこの時間だったんだ」 「寝汚いにもほどがある」 いくら人畜無害だと解っていても、媚薬なんぞを一服盛るのは可哀相だろうかという気持ちも多少はあったが、39間のその愛想の欠片もない態度で96木は腹の中の悪巧みの決意を新たにした。 「・・・今に泣きを見るぞ、お前」 「は? 何か言いましたか?」 小声で呟いた96木を、39間が怪訝そうに見やる。 「いや、別に。それより、喉が乾いたなあ。コーヒー飲みたい」 「自分で勝手に淹れればいいでしょう」 そう言うと思った、と96木は苦笑した。 「お前も飲むか?」 ふん、と39間は返事もせずに素っ気なく顔を背け、96木が靴を脱ぐのも待たず、さっさと奥へ姿を消した。 96木は勝手知ったるなんとやらで、そのまま部屋を横切り、キッチンへ向かった。 39間は、リビングで読みかけだったらしい本のページをめくっている。 毎度の事ではあったが、一応は客である96木をもてなそうという気は全くないらしい。 96木はケトルで湯を沸かし 39間に気づかれないようにポケットからそっと小瓶を取り出して、蓋を開けてカップの中に中身を振り入れた。 「ありゃ、ちょっと入れ過ぎたかな」 五、六滴ほどで十分だとこれを売りつけた件の外国人から言われたのを、つい焦ってその倍は入れてしまった。 「・・・まあ、いいか。多少多めがいいとか聞くし、これで効果もばっちりだろう」 その分、あいつも───。 カップにコーヒーを淹れながら、これからの事を想像するとつい笑いがこみ上げてくる。 思わず声を上げて笑い出してしまいそうなのを押さえ、96木は小瓶をポケットにしまいこんだ。 「ほら、コーヒー」 そう言ってカップを差し出すと、39間は本から顔を上げた。 39間はカップを受け取ったが、それを口にはせずに、そのままテーブルの上に置いた。 やましい所がある96木は、一瞬何か勘づかれたかと思って心臓をどきりとさせたが、それでも素知らぬ振りでソファーに腰を下ろして、自分のカップを口に運ぶ。 ───早く飲め。 ちらちらと様子を見る96木を余所目に、39間は悠長に本を読んでいる。 こんな時は、時間が経つのがいやに遅く感じられると96木は思った。 「・・・さっきから何をじろじろ見てるんですか」 96木の視線に気づいて、39間が顔を上げた。 「べ、別にいいじゃないか、見るくらい。減るもんじゃなし」 「欝陶しい。どこかよそを向いてて下さい」 「う、欝陶しいって・・・なんて言い草だ、コラ」 全く可愛くない奴・・・! 96木は腹立ち紛れと手持ち無沙汰に、近くにあった新聞を手に取り、広げた。 それを読む振りをしながら、39間の様子を改めてうかがう。 それからややあって、96木のカップが空になった頃、ようやく39間がカップを手に取り、そしてこくりと一口、茶を口にした。 とうとう飲んだな。 さあ、これからどうなるか───。 96木の口許が緩むと、39間がまたちらりと目を上げて、眉をしかめて96木を見た。 「・・・何をニヤニヤしてるんですか。一人で馬鹿みたいだ」 「───お前なあ」 96木は手にしていた新聞をばさりと置いた。 「この96木様に向かって、馬鹿みたいだのなんだの雑言を言う奴は、お前ぐらいなもんだぞ」 「馬鹿みたいなものは馬鹿みたいなんだから仕方がないだろう」 39間は鼻先で嗤い、言ってろよお前、と96木はむくれた顔をして黙りこんだ。 そんな憎まれ口を叩いているのも、今のうちだからな。 内心でそう思いながらも、とは言うもののどれくらいでクスリが効いてくるんだろう、と96木は考えた。 液体だから吸収は早いとは思うが、何しろそんな代物を使うのは初めてだったので、どういう展開になるのかが今一つ読めない。 いくら『媚薬』だからと言って、その気になった39間が自ら迫ってくる事はまずないだろうし、一体どんな反応を示すのだろうと興味津々で39間を観察していると、39間はコーヒーを飲み干し、また本に目を戻した。 「・・・ああ、もうすっかり日が暮れましたね」 さらに待つ事数分か、しばらくしてから、39間がそう言って立ち上がろうとした。 その足が、かくり、と突然折れて、39間は思わず床に膝をつく。 「───え?」 39間は驚いたように目を見開いた。 きたか、と96木も目を見張った。 さすがは濃縮エキスなだけはあって、やはりその効き目も即効性がある様子だった。 「おいおい、どうしたんだ」 96木は白々しくもそう訊いた。 「・・・変だ、身体が・・・力が入らない・・・」 39間は怪訝そうな顔でもう一度立ち上がろうとするが、すぐにふらりと身体を揺らす。 「・・・貧血・・・? いや、違う、何か変だ・・・」 大丈夫か、などと言いつつ96木は傍に近寄って、39間を支えた。 その身体が熱い。 「なんだか息苦しい・・・。暑い・・・」 おぼつかない足下に、とりあえずソファーい座り直した39間は大きく息を吐いた。 その白い頬はうっすらと紅潮し、明らかに体温と血圧が上がっている事がわかる。 心なしか瞳も潤んで、唇もその色合いを朱く増している。 へええ、こんな効果があるのか。 96木はそんな39間の様子を見ながらそう思った。 発情と言う言葉がぴったりとくる風情だと内心で妙な感想を抱きながらも、そろそろ頃合か、と思った。 「喉が変に乾くな。水・・・」 そう言いながらまた立ち上がりかけた39間の手首をつかみ、床の上に引き倒して、96木は39間の首筋に顔を埋める。 首の根元で感じる脈が早かった。 いつもはひんやりとしている肌も、少し汗ばんでいる。 「ば、馬鹿ッ、いきなり何をするんですか! 今、それどころじゃ・・・!」 脈打つ場所を唇で探り、そこをきつく吸うと、39間が怒って96木の身体を両腕で押し戻そうとした。 「でも、もう固いぞ」 96木はそう言って、シャツの裾から差し入れていた片手の親指の腹で、39間の固さを増した胸の飾りを押し潰した。 「・・・ッ!」 39間がぶるりと身体を震わせる。 「や、やめて下さい・・・!」 抗いながらも、39間は本当に身体に力が入らないらしく、その抵抗の力は弱かった。 もがく39間の上にのしかかると、39間がそれでも腕を突っ張って96木を押し退けようとする。 96木はそんな抵抗をものともせずに、39間のシャツの襟を大きく肌蹴させた。 そうして剥き出しになった胸に顔を寄せると、上気した肌からふわりと甘い匂いがした。 そのまま、既に固く尖っている胸の飾りを口に含み、舌先で転がす。 右手は下肢に伸ばし、チノパンのファスナーを一気に引き下ろしてて、膝で足を閉じられないようにしながらその中に手を入れて中心を握りこむと、39間が短く息を吸いこんで96木の肩を両手でつかんだ。 「や、96木さん・・・!」 そうしてやがて39間の中心を直接手のひらで捕らえ、まだ緩いとは言え、明らかにいつもより早く熱を持った中心をこねるように刺激すると、それはたちまち敏感に反応して、96木の手の中ではっきりした形に変わっていった。 先端を指先で撫でると、すぐに溢れ出た透明な潤みが96木の指をたっぷりと濡らして、39間の身体が確かに普段にも増して一層敏感になっている事を証明していた。 「な、なんで、こんな・・・」 自分の身体の反応のあからさまな様子に、39間も自分自身でそれが信じられない様子で、動揺した瞳を揺らす。 この状態ならそんな心配もなかったが、それでも逃げ出さないように39間を身体の下に組み敷いて、96木は本格的に39間を抱き寄せた。 39間の肌は本当に滑らかで、女でもこれほどにきめが細かい肌にはそうはお目にかかれない。 その肌を手のひらで軽く撫でただけで、39間はぞくぞくと肌を粟だたせて息を吸った。 96木は39間の中心をじっくりと苛いながら、首筋から鎖骨、胸と、あちらこちらに唇で濡れた赤い跡をつけて、薄く汗ばんだ肌の甘い匂いを楽しんだ。 それから、39間の中心を弄っていた手を滑らせて、もっと奥まった所にある背後の窪みに指先で触れる。 39間はびくりと身体を揺らし、身を固くしたが、96木はそれには構わず、そのまま、一番長い指をゆっくりとそこに潜らせた。 「・・・あ、やッ・・・!」 39間は思わず目を閉じて身を固くした。 「───お前、すごく熱いぞ。それに、相変わらずきつい」 指の一本だけでもこれほどにきついのに、この先本当に自分のものが入るのかと、96木はこんな時いつも訝ってしまう。 でも、実際ちゃんと入るんだよなあ、これが・・・などとおかしな感心をしつつも、幾度かその指を往復させて、少しずつ39間を慣れさせていく。 「や、96木さん・・・!」 この後に及んで、まだ39間は96木を押し退けようとしていた。 「抵抗されればされるほど、襲う方は余計に燃えるんだぞ、佐久間」 「勝手な事を言うな・・・!」 「特にお前みたいな奴には、普段素っ気なくされてるだけに、こんな時ぐらいは好きなようにさせてもらわないとな」 「だから、勝手な理屈を言うなと言っているのに・・・!」 96木は一旦引き抜いた中指に人差し指を添えて、もう一度39間の内部に捻りこむようにして差し入れた。 揃えた二本の指を曲げたり伸ばしたりしながら出し入れすると、39間が左右に首を振りながら頭を反らす。 「・・・んッ・・・!」 根元まで含ませて、中を引っ掻くようにして指を回すと、押さえつけた身体の下で39間は声を詰まらせて身悶えた。 「・・・やめてくれ、96木さん、やめろッ・・・!」 「何を言ってるんだ、これからだろ。まだ指しか入れてない」 39間は余ほどのものを感じているのか、含みこんだ96木の指を強く締めつけてくる。 そうやって後ろを淫らがましくいじっただけで、96木の左手の中にある39間の中心はしとどに濡れて弧を描いて反り返り、大きく張り詰めてそのまますぐにも達してしまいそうだったし、クスリの効果はテキメンだなと96木は思った。 「なあ、ここがいいんだろ?」 96木は39間の耳元で囁いて、39間の内部の敏感な場所を曲げた指先で引っ掻いたり、つつくようにしたりして刺激した。 「・・・ん、うッ、や、あッ・・・!」 39間は身体をびくりと跳ね上げ、腰を浮かせた下肢を攀じるように悶えさせて、息を飲んできつく目を閉じ、顔を歪ませた。 96木の手の中の中心の先端からじわりと新たな滴が溢れて零れ、そのまま次々と溢れるままに茎を伝い落ちる。 39間の目尻にも、生理的に浮かんだ涙が滲んでいた。 96木は39間の両膝を大きく左右に開かせて、その間に腰で割って入って身を重ね、片手で自分のズボンのファスナーを引き下ろした。 96木の中心は39間の乱れる姿を見ただけで十分過ぎるほど勢いづいて硬くなっていたし、本当はもう少し39間を焦らしてみようかとも思っていたが、こんな39間のあられもない煽情的な様子を見ていたら、96木の方が39間が欲しくて、これ以上の我慢ができなくなっていた。 「39間、力を抜いてろよ」 そう言って、指を引き抜いたばかりの39間の窪みに、今度は熱を孕んで硬直した自身の中心の先端を押し当てる。 「やだ、や・・・96木さんッ・・・!」 96木しか知らぬその密やかな窪みに軽く切っ先を潜らせると、すぐに39間のきつい肉の抵抗にあった。 女の秘所の造りとは違って、本来男を受け入れるようにはできていないそこは、中も外も狭いために入れにくい。 毎回が生娘相手のようなものだと96木は思い、それは39間の方も、その身に生じる貫通の痛みは破瓜の時のそれと同じなのではあろうが、こればかりは仕方がないと小声で39間に詫びる。 それから96木は39間の両足を腕に抱えこみ、体重をかけるようにして39間の抵抗を半ば無理やり押し開いて、一気に身を進めた。 「・・・んッ、う、んッ───!」 圧倒的な存在感のある強張りが身の内の奥深くまで強引に入りこんできて、39間はこれ以上はないほどに身体を固くして背中を反らし、その侵入の瞬間に96木の肩に爪を立てた。 気の強い39間は、こんな時にもはっきりした声を上げたり、痛いなどとは決して言わないが、39間が反射的につかんだ96木の腕や肩のシャツ越しにぎりぎりと食いこんでくる爪先が、身を二つに引き裂かれるような強烈な痛みを代弁している。 それでも取り敢えず根元までを深々と含み込ませて、完全に39間と一つになってから、96木はせめてとばかり39間の中心を捕らえ、最初の痛みが去るまでの間ゆっくりとそれを撫でさすった。 「・・・さ、触るなッ・・・!」 39間が肩をすくませて96木のその手をつかんだ。 96木を包みこんでいる39間の肉壁が、心臓が脈を打つのと同じ早さで96木を繰り返し締めつけてくる。 それでも取り敢えず根元までを深々と含み込ませて、完全に39間と一つになってから、96木はせめてとばかり39間の中心を捕らえ、最初の痛みが去るまでの間ゆっくりとそれを撫でさすった。 「・・・さ、触るなッ・・・!」 39間が肩をすくませて96木のその手をつかんだ。 96木を包みこんでいる39間の肉壁が、心臓が脈を打つのと同じ早さで96木を繰り返し締めつけてくる。 びくびくとした痙攣が96木の中心に伝わって、96木はこのまま動かずにいるのももう限界だと思った。 「・・・少し我慢してろよ」 96木はそろそろと腰を引いて、またそれをゆっくりと39間の中に戻した。 39間は唇を噛み締め、竦ませたままの自分の肩に横顔を押しつける。 ───本当にきつい。 96木は感じる快感に眉を寄せた。 あれだけ指で押し広げるようにしても、慣れるという事を知らない。 39間の狭い内部を屹立が往復する度、密着した肉と肉が直接擦れ合う刺激に、次第に96木は我慢がきかなくなり、徐々に手加減を忘れていった。 39間を、自分のものにしている。 そんな思いが96木を一層昂ぶらせて、たまらなくさせる。 「・・・あッ、あ───!」 96木が39間を強く突き上げると、その律動の衝撃に、39間が小さく喘いだ。 少しかすれた、いつもより高い声。 「39間・・・」 名前を呼びながら髪を梳かしあげ、紅潮した頬を撫でると、39間が唇を開いて96木の親指を咬んだ。 その仕草に、96木はぞくりと背を震わせた。 39間の中はますます熱く、燃えるような熱を96木に伝える。 「・・・ああ、駄目だ。俺の方がもう持たない」 96木はそう呟いた。 こんなにも呆気なく達してしまうのははなはだ不本意ではあったが、取り敢えず一度済ませてからでないとおさまらない。 「39間、イイならお前もイけよ」 96木は39間の中心を手のひらで包みこみ、擦り上げるのに併せて39間を犯す腰の動きを早めた。 「・・・いッ、いい訳がないだろ、馬鹿ッ・・・!」 最奥まで96木に貫かれながらも、39間はまだ身を捩るようにして96木から逃れようとした。 「強情だなあ。お前だってもう限界だろう?」 96木は、39間の腹の方に押しつけるようにして、39間の中心を手中に握りこんで弄う指に力をこめた。 「ほら、イけよ。意地張らずにイっちまえ」 「・・・ッ!」 瞬間、固く目を閉じた39間が、きり、と唇を噛みこみ、喉の奥で短い声を上げる。 堪え切れずに39間の放ったものが96木の指を濡らし、それとほとんど同時に、96木も39間の中に白濁した欲望の証しを解き放っていた。 ああ、これだ、この感じだ───。 快感が背筋を走り抜け、96木は39間をきつく抱き締めた。 クスリのせいでまだ力が入らないせいもあって、39間は荒い息を吐きながら達した余韻でぐったりと96木の腕に身を任せていて、そのしどけない姿に、96木は今放ったばかりだというのに、もうまたしても39間が欲しくなっていた。 「これからもっとよくしてやる」 96木は閉じたままの39間の瞼に口づけして、目尻に滲んでいる涙を舌先で拭った。 ───正直、女を抱いても、さしてイイと思った事がなかった。 こんなものかと思うだけで、かといって男が好きな訳でもないだろうと96木自身は思うが、39間とこうなるより前に感じていた情事に対するそんな醒めた感覚も、こうして39間を抱いていると信じられないほどに興奮を呼ぶ。 「・・・39間、お前の中、絡みついて」 96木は感じる悦楽に眉を寄せて低く呻いた。 「お前って、本当にイイ・・・」 激しく突けば突くほど、その分に応じて締めつけてくる。 最奥まで突き上げても、まだその先を望むかのように吸いついて、蠢く。 「もう少し力を抜けよ。じゃないと、俺も動きにくい・・・」 96木は39間の両脚を肩に抱え直して、その身体を二つに折り曲げるようにして深く腰を沈めた。 「・・・あッ・・・う、んッ、ん・・・・!」 最初は声を上げる事を意地で拒もうとしていた39間も、達して埒をあけるたびごとに余裕の出てきた96木の念入りで執拗な愛撫に耐え兼ねて、どうしても押さえ切れない声を乱れた呼吸の合間に微かに上げていた。 それでなくても感じやすい39間の身体が、今はクスリのせいでただならぬほどに高ぶっているのだから、いくら強情な39間でもそうそういつまでも我慢はできなかった。 「もっと大声出したっていいんだぞ」 96木は39間の中心の先端からくびれにかけて、指で摘んで揉みこむように刺激した。 立てた人差し指の先で、透明な涙をとめどもなく溢れさせている先端の中心にある窪みを穿るように弄う。 その刺激がまた新しい涙を次々に零れさせる。 「───やッ・・・!」 39間が首を振り立てて、喘ぎながら頭を大きく反らした。 身体を波打たせてくねるように悶え、96木にすがりつこうと腕を伸ばして、ここまで39間が乱れる姿などそう滅多に見られるものではない。 96木は思う様39間の身体を開かせ、折り曲げて、39間を貫き続けた。 ゆっくりと引き伸ばしたり、じりじりと焦らしたり、強弱も緩急もつけて、ありとあらゆる快感を39間に与え、また39間から奪おうとした。 一旦ぎりぎりまで屹立を引き抜いてから、しばらく39間の内部に通じる入り口の辺りで腰を回し、今度は不意に最奥まで一気に押し入ってそこを激しく突き上げて存分に責め立てる。 「・・・は、あ・・・ん、んッ───」 39間は眉間を寄せて目を固く閉じたまま、不規則に乱れ切った呼吸の合間に、切れ切れな押さえ切れない喘ぎをこれは逆に閉じる事を忘れた唇から漏らす。 白い歯の奥に、濡れた赤い舌が踊っていた。 たまらない声と顔つきだと96木は思った。 もう幾度、そしてどれだけの時間、こうして39間とくながり合っている事だろう。 96木が動く度に、二人が深く繋がった場所で、96木がそこに何度も放ったものが濡れた淫靡な音を立てる。 そのせいで滑りはかなりよくなっていたが、擦れ合った部分が熱で溶けそうだった。 「・・・お前の身体は、どこもかしこもいやらしい。卑猥で、理性なんかどっかへ吹き飛んで、どうしようもなくそそられちまう」 96木はそう言って、39間の一番深い部分を思う様うがち、言葉の通りに本能のまま39間を貪った。 それ独特の律動で身体を揺さぶられ、96木の屹立の固く張り出した部分で泣き所を的確に擦り上げられて刺激され、内臓を直接責め立てられている39間は、もう息も絶え絶えになっている。 「・・・も、やめ・・・お、かしく・・・なる・・・」 39間は荒波のような官能の悦楽に絶え間なく苛まれ続けて、思考がすっかり混乱した状態でそう苦しげに訴えた。 それでも39間の内部はもっともっととばかり96木を誘って、まるでそこだけが違う生き物のようにすら感じられた。 96木が39間の中心を捏ねるように揉みしだき、丸めた指の内側で上下に茎を擦り上げると、その刺激で内部が一際すぼまり、壁がひくつく。 そうしながら、96木は身体ごと強く打ちつけるようにして、大きな動きで激しく39間の内側を責め上げた。 「・・・あ、や・・・やッ、く、96木さ、んッ・・・!」 96木の手の中で、39間の中心が弾けた。 耐え切れずに後ろと前で同時に絶頂に達して、とうとう愉悦の限界を迎えた39間が、短い悲鳴を上げて身体をこれ以上はないほどにがくつかせて硬直させる。 その瞬間、39間の内部が一層きつく96木を締めつけて、96木もまた39間の中に熱いものを迸らせた。 39間は半分気を遠のかせながら身体を震わせていて、もう何度目かも知れない絶頂感に、96木も39間の身体の上にそのまま突っ伏した。 薄い皮膚の下で、39間の心臓がどきどきと激しく脈を打ちつけているのがわかる。 ずっと39間を攻めて動き通しだったせいで、96木の心臓も同じように弾んでいて、96木は大きく息を吸うと、ゆっくりと目を閉じた。 「こんなに何度も欲しいと思うのは、お前だけだ・・・」 96木の囁くような言葉は、その時にはただもうぐったりと目を閉じて意識すら手放しかけていた39間には届いたのだろうか───。 96木が目を覚ました時は、すっかり昼を過ぎていた。 取り敢えず裸のままではなかったが、朝方まで39間と睦んでいたせいでさすがに疲れ切って、いつの間にか泥のように眠っていたらしい。 いくらなんでも、あれだけ立て続けにやれば当然か───。 そう思って寝返りを打つと同時に、 「・・・やっとお目覚めか」 と、すぐ近くで抑揚のない声がして、見れば39間が腕組みをして近くのソファーに座って96木を見下ろしていた。 「やあ、おはよう、39間」 96木が呑気な口調でそう言うと、39間が組んでいた腕をゆっくりと解いて、すうっと96木の目の前に手を差し出した。 「───96木さん、これはなんです」 39間が手にしていたものは、例の小瓶だった。 「・・・えッ、いや、そ、それはその・・・!」 96木は息を飲んだ。 「ガラナにクコの実、ウイキョウ、蛇胆・・・精力剤というより、見事なまでの媚薬ですね」 39間は96木の目を真っ直ぐに見据えている。 「───あんた、僕に、一服盛ったな」 ぞっとするほどに低い声で威すように言われて、戦くくらいに兇悪な目つきで射竦められて、違うとも誤解だとも言えず、96木は返す言葉も顔色も一気に失った。 誤魔化しようがなかった。 39間に情の欠片もないこわい目で刺すように睨まれたまま、96木はその視線を逸らす事もできなかった。 「い、いつ・・・気づいたんだ・・・」 あたふたとしながら身を起こして、そう尋ねた96木の声は引き攣っていた。 「・・・夕べ。最中にですよ」 「───」 「急にあんなふうになるのは、どう考えてもおかしいとは思っていたんだ。それで朝、あんたが寝ている間にまさかと思ってあんたの服を確かめたら、これが出てきた。・・・よりにもよって、こんな代物を使ってくれるとはな」 顔も無表情なら、39間の口調もまた恐ろしいほどに静かだった。 「───信じられないケダモノだ、あんたは」 39間は目を細めた。 「けッ、ケダモノってお前・・・! お、お前だって気持ちよがってたじゃないか・・・」 「僕の本意じゃない。クスリであんな風にしといて、散々いいようにするなんて最低だ。卑怯にもほどがある」 「そ、それは単なる好奇心ってやつで・・・!」 「単なる好奇心で、僕に人体実験したとでも?」 「ち、違う、人体実験なんかじゃない。本当にただの好奇心だよ、出来心ってやつじゃないか・・・!」 「出来心にしちゃ度が過ぎてる。自分勝手に好き放題して何度も僕を犯しといて、出来心じゃ済まされませんよ」 「お、犯した、って・・・」 96木は一瞬言葉を飲んだ。 「人を性犯罪者みたいに言うなよ。俺は刑事なんだぞ!」 情けない口調でそう呟いたが、 「同意の上じゃないんだから、犯した、だろうが」 と、39間はとりつくしまもない。 これは本気で心底から怒っている───。 96木はそう思った。 口調が静かな分、余計にそれがひしひしと骨の髄まで伝わってくる。 96木は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。 ほんの思いつきの好奇心と一方的な欲望で、39間を本心から怒らせる事をしでかしてしまったのだと思うと、血の気が引いて手足がすううっと冷えていく感じがした。 ぬきさしならない切迫した事態だと96木は悟った。 「ふん。『禁じられた雫』か。禁じられているものを僕に使ったのか、あんた」 39間は96木の目の前に『Forbidden Drop』とラベルに書かれた小瓶を投げた。 「───さ、39間・・・!」 96木はたまらず、あわてて正座して居住まいを正し、すがるように39間を呼んだ。 「なんですか」 「・・・お、俺が悪かったッ・・・!」 96木はへりくだって床にこすりつけるように頭を下げ、それに対して、ふん、と39間はまた唇を歪めて冷たく嗤う。 「なんだ、ずいぶんと殊勝じゃないか。何が悪かったって?」 「な、何がって・・・! いや、だから、悪かったよ! 俺が悪かった! 人体実験みたいな真似して、無理やり・・・」 「無理やり?」 「・・・無理やりやって悪かった! 俺が全部悪い! 本当に反省してる、反省してるから、だから・・・!」 「だからなんだと?」 96木はそれ以上何も言えずに言葉を失った。 「───そんなに僕が欲しかったのか、あんた」 96木は俯いたたまま、小さく頷いた。 本当の事だから仕方がないと呟く。 「クスリを使ってでも、お前の事が欲しかったんだ・・・」 「呆れて愛想が尽きる!」 39間は眉間をしかめて、きつい口調でびしりとそう言い放った。 返す言葉もなく96木が黙りこむと、39間は96木から顔を背け、それきり険悪な沈黙が部屋に満ちた。 39間と96木との間に時折起こるどんな諍いも。 言い争いも行き違いも、そんな時はいつも、96木を叱り倒し、罵りあげた揚げ句にだんまりを決めこむ事になるのが39間の常だった。 そしてそうした場合、原因はどうであれ先に折れてくるのは決まって96木の方からで、そっぽを向いて口をきこうとしない39間の機嫌を、96木はあの手この手で取ろうする。 96木は39間には心底から甘かったし、39間もまた、96木がそうしてそろそろと声をかけてくる頃には、内心ではこのまま突っぱねているのも大人げないという事を認めているので、それで片がついてしまうのだ。 けれど、今回ばかりはさすがの39間も一服盛られた事に本気で激怒していたので、96木には声のかけようも機嫌の取りようもなかった。 96木は39間に詫びる事すらも拒まれてどうする事もできなくて、嘘や冗談でなく愛想を尽かし切った態度で96木から目を逸らした39間の前で正座したきり、ひたすら押し黙って視線を落としてうなだれていた。 が、突然、先刻39間が放り投げたまま床の上に転がっていた小瓶をいきなり手に取ると、蓋を開けて中身を一気に飲み干した。 「───ばッ・・・、馬鹿、何やってるんだッ!」 39間は96木を正面から見ていた訳ではなかったが、それまでみじろぎもしなかった96木がいきなり大きく動いた姿が横目に入って、思わずふと視線をやってその突拍子もない行動に気づき、あわてて96木の手から小瓶を奪うように取り上げた。 だが、その時にはもう既に小瓶の中の透明な液体は全部96木の胃の中に流れこんでしまっていた。 「何をしてるんだ、あんたはッ! 何を考えてそんな真似を・・・!」 39間は96木の唐突な所業に驚愕しながら、勢いに任せてきつく叱責したが、96木は叱られていじけた子供みたいな顔をしていた。 「お前をイヤな目に遭わせた責任を取ろうと思ったんだ。これを買ってきたのは俺だから、俺が始末する」 「始末するなら捨てればいい事だろうが!」 39間は、何をどう考えて思いついたらそんな突拍子もない行動に出る結果に行きつくのか、まるで理解できない96木の思考回路と精神構造に目を見開いていた。 「お前と同じ目に・・・いや、それ以上に酷い目に遭って、反省する」 「いくらなんでも、一本全部飲むなんて、死ぬぞ、あんた!」 「死にはしないだろ。人畜無害だって言ってたし」 「馬鹿ッ! そんなに飲んで無害な訳がないでしょう! 僕にだって十二分に有害だったのに! とにかく吐け! 今すぐに全部吐け!」 39間は96木の腕をつかんで強引にキッチンへ引っ張って行くと、半ば無理やりに大量の水を飲ませてから、吐くだけは目一杯に何度も繰り返して吐かせた。 「うう、ぐえぇ、く、苦しいぃ・・・」 96木が喉元を手で押さえ、身体を折るようにして涙目で喘ぐように唸った。 「苦しくもなるだろうが! あんなものを丸ごと飲めば!」 39間は眉をしかめて怒鳴った。 「クスリのせいで苦しいのか、無理に吐かされて苦しいのか、わっかんねえ・・・」 96木はもうこれ以上は何も吐くものはないとばかりにふらふらとリビングに戻って、床の上にごろりと転がった。 「ああ、なんだか暑くなってきたぞ・・・」 96木は呻いて身を丸くした。 身体が火照ってきて、息苦しさを覚える。 心臓はどきどきと音を立てて脈を打ち始めた。 「体温と血圧の急激な上昇、呼吸数と脈拍の著しい増加・・・。んむう、昨日のお前の気分がだんだんわかってきた・・・」 「全く、一体何を考えているんです、あなたって人は・・・!」 39間が目を吊り上げて96木に怒鳴り散らした。 「だから、この身をもって責任を取ろうと思って・・・」 「そんな責任の取り方をしろと誰が言った! 馬鹿が!」 「自分の気の済むようにしたかったのだ」 96木はそう言ったが、喉が競り上がってきていて上手く喋る事ができない様子だった。 声は掠れているし、息遣いは荒い。 「───ううん、暑くて息苦しいな・・・」 96木は大きく息を吸って、吐き出した。 鼻からの呼吸では追いつかず、何度も深呼吸を繰り返して、乾いた唇を舌で潤す。 「ああ、媚薬だって触れこみは嘘じゃなかったな・・・」 体温の上昇に連れて浮かんだ汗が肌の上を伝って流れ落ちる感触にすら、身をよじりそうになる。 「昨日、あんたがどれだけの量を僕に盛ったのかは知らないが、僕の様子を見て知っているなら、大量に飲めばどうなるかぐらいわかるだろうに!」 「・・・頭の中がぐるぐるぐるぐる回っているう・・・。いや、回っているのは目かあ? 地球が俺を中心にすごい勢いで回っているう・・・」 96木の声は震えていた。 身体にもおこりのような震えがきていた。 「回りもするだろうが!」 「・・・も、猛烈に暑いのに、妙にぞくぞくもする。ああ、もやもやともしてきてものすごく変な気分だ・・・。なんだか頭も身体も何もかも全てが大暴走している・・・」 96木が飲んだクスリの量は明らかに一回に摂取していい服用分を大幅に越えていて、血圧が上がって血流がよくなっているのなら紅潮するはずの顔色は逆に真っ青で、96木は意識さえも混濁しかけている様子だった。 神経に賦活作用を起こす興奮剤の類の成分ばかり入った代物だったので、恐らく今の96木の心臓は不整脈の上に激しい頻脈まで起こし、脳にはすさまじい勢いで血が巡り回って発奮しているのだろう。 「・・・ううん、ああ、自分の身体が今まさに、男としてもんのすごい元気で大変にお盛んな事態になっているのも・・・あからさまにわかるぞ・・・」 その言葉通りに、96木の下半身の中心は、厚手の生地のズボンを履いた布地越しにもそうとわかるほどに興奮しきった状態になっていた。 「僕は相手しないぞ! 昨日の今日で冗談じゃない! あんたのせいで腰が酷く痛いんだ!」 39間は怒りをこめてすかさずそう答えた。 「・・・い、いや、俺も、今はとても・・・そんな事はできそうもない・・・。身動きしたら心臓が破裂するか、脳の血管がぶち切れてしまいそうだ・・・。うう、うええ、き、気持ちが悪いい・・・」 「自業自得だ!」 「・・・うん、そうだ・・・全部俺が悪い・・・」 ぞわぞわとする悪心にがくがく震えながら脂汗を浮かべてただひたすら身体を丸めている96木の姿に、39間はほとほと呆れ返って大きくため息を吐き、キッチンから氷を沢山入れたコップとミネラルウォーターのペットボトルを持ってきた。 「とにかくもう身体が吸収してしまったものは仕方がない。水を飲めるだけ飲んで、クスリの血中濃度を薄めた方がいい。喉も乾くだろう?」 「・・・うん、んん・・・」 96木は朦朧としたような返事を返して、39間がつっけんどんに差し出したコップをぼんやりとしたまま震える手で受け取って、水を何杯か立て続けに飲み干す。 「救急車を呼びますか? いや、病院へ行った方がいいかも知れない」 「・・・ううん、いや、大丈夫だ・・・。多分・・・」 「───もう、あんたって人は本当に」 驚いたり呆れたりするどころの騒ぎじゃない。 39間は、強壮作用のある催淫薬の濃縮エキスを瓶から一息に一滴残さず飲むという信じ難い暴挙を起こした96木に対して、今まで胸に渦巻いていた憤りや怒りや憤懣の矛先をどこに向けたらいいのかがわからなくなった。 そうした感情のやり所のないやるせなさに複雑な顔をして、興奮剤の限度を越えた大量摂取のせいで苦しげに身悶える96木を見る。 「頭が絶対にどうにかしてるぞ、あんた」 そう言うと、96木は、ううん、うん、と唸り声で答えた。 それから丸二日、96木は瀕死の体で寝こんでしまい、そのまま39間の家に泊まりこんでいた。 媚薬の濃縮エキスを原液のまま一気飲みするという無謀もはなはだしい行為の後、口を利けたうちはまだマシな方で、96木はしばらくすると激しい頭痛に襲われ始め、ひっきりなしの嘔吐を繰り返し、腰も抜けた状態になり果てて、満足に起き上がる事も歩く事もできなくなった。 39間も、そうなった原因は全て96木自身にあるものの、そんな有り様で高熱に浮かされて、前後不覚に酩酊しているかのように苦しんでのたうっている96木を無下に追い帰す訳にもいかず、仕方がなく寝こんだ96木の看病をしていた。 「一体なんだって僕が、一服盛られた上にこんな面倒まで見なければいけないんだ、全く!」 三日目になって96木がようやく調子を戻して半身を起こした時に、96木の寝ついているベッドまで重湯を運んできた39間は、極めつけに不愉快そうな顔で96木に向かって一気にそう毒づいた。 「お陰で僕はこの三日、あなたの世話に懸かりきりで夜もろくに眠れやしなかったじゃないか! こんな下らない事で休みまで取って! 大体、そもそもの被害者はこの僕の方だと言うのに!」 病気ではないが、病気も同ような状態であったので、枕元で病人を責める真似をしなかっただけで、心の中ではずっと文句や鬱屈の十や二十や三十を悪しようにぶちまけたいのを我慢していたらしい。 「いや、本当にすまなかった。俺ももうすっかりつくづく懲りた。クスリはよくない。うん、よくないぞ、あんなものは。だから、本当にお前には悪かったと心底から思う。散々苦しんで嘘偽りなく実感した」 96木は見るからにやつれきった表情で真剣にそう返して、本当に俺が悪かったと39間に真顔で何度も詫びた。 「あんなものがなくたって、俺は十分にお前を愛してるし、お前もいつものお前のままでいい」 39間は眉間を酷くしかめたまま、深々とため息を吐いた。 怒りはまだ消えてはいないし、文句も山ほど言ってやりたいが、これ以上96木を突っぱねていたら、詫びだと言って次はまた何をしでかすかわからない。 仕様のない人間だ。 生まれついて根本的に性質がよくない。 そんな性分の人間相手には、こんな時は不承不承にでも退くしかない。 「───今度僕に妙な真似をしたら、殴りますよ」 39間には、そうとしか言えなかった。 「もうしない。絶対しない」 ドスの利いた39間の低い声に、96木は頭を左右に勢いよくぶんぶんと振った。 「禁じられているものは使わないに越した事はない。例え雫一滴でも」 96木のその言葉に、39間はもうそれが癖にでもなっているかのようにまたしてもため息を吐いた。 「禁じられているものには、そうされるだけの理由があるものだ」 39間がそう答えると、96木は、ううんと意味不明に唸った。 「───ああ。でも、そうだ、39間」 それからしばらくしてから、96木が思いついたように顔を上げる。 「同じ雫でも、禁断じゃなければいいと思わないか?」 「・・・どういう意味だ」 39間は嫌な予感に眉を寄せた。 96木がそんなふうに何かを思いつくのは、大概がろくな事ではない。 「今、ふと思ったんだが、イランイランなんかはどうだ。あれを使えばお前もアノ時にずいぶん楽だと思うぞ」 「───」 ぴくりと39間の片頬が小さく攣る。 「イランイランはすごくエロい匂いがして、昔から催淫効果があるって評判の香油だろ。あれは別名を『愛の雫』と言って、入れる時にあの部分にたっぷり垂らすと、精油だからぬるぬるして俺も入れや・・・」 言葉の途中で、96木は容赦の全くない力加減で、地獄の悪鬼が憎悪の余りに殺意を抱いたような顔をした39間から往復で顔面を思い切り目一杯に張り倒されていた。 □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! 長々と場汚しすみませんでした。 ありがとうございました。 #comment
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#title(権蔵 黒木×佐久間 「禁断の雫」) 今更ですが、再放送でまた再燃してしまったので。 権蔵の9639です。 |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 面白い物を手に入れたぞ───。 96木はにやにやと一人で笑い、ジャケットのポケットに突っこんだ手の中の小瓶をそっと揺らした。 ラベルに書かれている成分はガラナにクコの実、ウイキョウ、ナルコユリ、リュウガン、朝鮮人参、蛇胆、その他にも諸々聞いた事もない怪しいものがたっぷりの、無色透明、無味無臭の液体が硝子の小瓶の中に入っていた。 それは催淫剤───いわゆる、『媚薬』と呼ばれるものだった。 昨日の夜中に、新宿歌舞伎町の裏通りで、しこたまに酔っ払った外国人に強引に売りつけられたのを、こちらも酔っていた勢いでつい好奇心で買ってしまった。 そんなものを買うのも手にするのも初めてだったが、これは試してみるしかないだろう、と96木は思った。 ───もちろん、あいつに。 くく、と96木はもう一度小さく笑い、流れる電車の車窓から景色を眺めた。 動き出したばかりの電車は緩いカーブを曲がっていて、夕方の混雑したビルの街並みがゆっくりと過ぎていく。 時折、線路沿いの桜並木が満開な花を咲かせているのが目に入ったが、96木は悪戯心で頭が一杯になっていたので、そんな光景を最早見てもいない。 楽しい夜になりそうだ。 胸に浮かんだ怪しげな予感に、96木はもう一度笑って小瓶を握り締めた。 「───また来たんですか」 出迎えた39間の第一声がそれだった。 玄関先で不機嫌そうに腕を組み、呆れたように96木を見る。 「お前なあ、俺の顔を見るなり開口一番でそれはないだろう。待ってたんですの一言ぐらいたまには言ってくれてもいいのに、全く可愛げのない奴だな」 「いちいちあなたにつき合ってなんかいられるものですか。大体、どうして日も暮れかかってから人の家にくるんです、あなたは」 「目が覚めたらもうこの時間だったんだ」 「寝汚いにもほどがある」 いくら人畜無害だと解っていても、媚薬なんぞを一服盛るのは可哀相だろうかという気持ちも多少はあったが、39間のその愛想の欠片もない態度で96木は腹の中の悪巧みの決意を新たにした。 「・・・今に泣きを見るぞ、お前」 「は? 何か言いましたか?」 小声で呟いた96木を、39間が怪訝そうに見やる。 「いや、別に。それより、喉が乾いたなあ。コーヒー飲みたい」 「自分で勝手に淹れればいいでしょう」 そう言うと思った、と96木は苦笑した。 「お前も飲むか?」 ふん、と39間は返事もせずに素っ気なく顔を背け、96木が靴を脱ぐのも待たず、さっさと奥へ姿を消した。 96木は勝手知ったるなんとやらで、そのまま部屋を横切り、キッチンへ向かった。 39間は、リビングで読みかけだったらしい本のページをめくっている。 毎度の事ではあったが、一応は客である96木をもてなそうという気は全くないらしい。 96木はケトルで湯を沸かし 39間に気づかれないようにポケットからそっと小瓶を取り出して、蓋を開けてカップの中に中身を振り入れた。 「ありゃ、ちょっと入れ過ぎたかな」 五、六滴ほどで十分だとこれを売りつけた件の外国人から言われたのを、つい焦ってその倍は入れてしまった。 「・・・まあ、いいか。多少多めがいいとか聞くし、これで効果もばっちりだろう」 その分、あいつも───。 カップにコーヒーを淹れながら、これからの事を想像するとつい笑いがこみ上げてくる。 思わず声を上げて笑い出してしまいそうなのを押さえ、96木は小瓶をポケットにしまいこんだ。 「ほら、コーヒー」 そう言ってカップを差し出すと、39間は本から顔を上げた。 39間はカップを受け取ったが、それを口にはせずに、そのままテーブルの上に置いた。 やましい所がある96木は、一瞬何か勘づかれたかと思って心臓をどきりとさせたが、それでも素知らぬ振りでソファーに腰を下ろして、自分のカップを口に運ぶ。 ───早く飲め。 ちらちらと様子を見る96木を余所目に、39間は悠長に本を読んでいる。 こんな時は、時間が経つのがいやに遅く感じられると96木は思った。 「・・・さっきから何をじろじろ見てるんですか」 96木の視線に気づいて、39間が顔を上げた。 「べ、別にいいじゃないか、見るくらい。減るもんじゃなし」 「欝陶しい。どこかよそを向いてて下さい」 「う、欝陶しいって・・・なんて言い草だ、コラ」 全く可愛くない奴・・・! 96木は腹立ち紛れと手持ち無沙汰に、近くにあった新聞を手に取り、広げた。 それを読む振りをしながら、39間の様子を改めてうかがう。 それからややあって、96木のカップが空になった頃、ようやく39間がカップを手に取り、そしてこくりと一口、茶を口にした。 とうとう飲んだな。 さあ、これからどうなるか───。 96木の口許が緩むと、39間がまたちらりと目を上げて、眉をしかめて96木を見た。 「・・・何をニヤニヤしてるんですか。一人で馬鹿みたいだ」 「───お前なあ」 96木は手にしていた新聞をばさりと置いた。 「この96木様に向かって、馬鹿みたいだのなんだの雑言を言う奴は、お前ぐらいなもんだぞ」 「馬鹿みたいなものは馬鹿みたいなんだから仕方がないだろう」 39間は鼻先で嗤い、言ってろよお前、と96木はむくれた顔をして黙りこんだ。 そんな憎まれ口を叩いているのも、今のうちだからな。 内心でそう思いながらも、とは言うもののどれくらいでクスリが効いてくるんだろう、と96木は考えた。 液体だから吸収は早いとは思うが、何しろそんな代物を使うのは初めてだったので、どういう展開になるのかが今一つ読めない。 いくら『媚薬』だからと言って、その気になった39間が自ら迫ってくる事はまずないだろうし、一体どんな反応を示すのだろうと興味津々で39間を観察していると、39間はコーヒーを飲み干し、また本に目を戻した。 「・・・ああ、もうすっかり日が暮れましたね」 さらに待つ事数分か、しばらくしてから、39間がそう言って立ち上がろうとした。 その足が、かくり、と突然折れて、39間は思わず床に膝をつく。 「───え?」 39間は驚いたように目を見開いた。 きたか、と96木も目を見張った。 さすがは濃縮エキスなだけはあって、やはりその効き目も即効性がある様子だった。 「おいおい、どうしたんだ」 96木は白々しくもそう訊いた。 「・・・変だ、身体が・・・力が入らない・・・」 39間は怪訝そうな顔でもう一度立ち上がろうとするが、すぐにふらりと身体を揺らす。 「・・・貧血・・・? いや、違う、何か変だ・・・」 大丈夫か、などと言いつつ96木は傍に近寄って、39間を支えた。 その身体が熱い。 「なんだか息苦しい・・・。暑い・・・」 おぼつかない足下に、とりあえずソファーい座り直した39間は大きく息を吐いた。 その白い頬はうっすらと紅潮し、明らかに体温と血圧が上がっている事がわかる。 心なしか瞳も潤んで、唇もその色合いを朱く増している。 へええ、こんな効果があるのか。 96木はそんな39間の様子を見ながらそう思った。 発情と言う言葉がぴったりとくる風情だと内心で妙な感想を抱きながらも、そろそろ頃合か、と思った。 「喉が変に乾くな。水・・・」 そう言いながらまた立ち上がりかけた39間の手首をつかみ、床の上に引き倒して、96木は39間の首筋に顔を埋める。 首の根元で感じる脈が早かった。 いつもはひんやりとしている肌も、少し汗ばんでいる。 「ば、馬鹿ッ、いきなり何をするんですか! 今、それどころじゃ・・・!」 脈打つ場所を唇で探り、そこをきつく吸うと、39間が怒って96木の身体を両腕で押し戻そうとした。 「でも、もう固いぞ」 96木はそう言って、シャツの裾から差し入れていた片手の親指の腹で、39間の固さを増した胸の飾りを押し潰した。 「・・・ッ!」 39間がぶるりと身体を震わせる。 「や、やめて下さい・・・!」 抗いながらも、39間は本当に身体に力が入らないらしく、その抵抗の力は弱かった。 もがく39間の上にのしかかると、39間がそれでも腕を突っ張って96木を押し退けようとする。 96木はそんな抵抗をものともせずに、39間のシャツの襟を大きく肌蹴させた。 そうして剥き出しになった胸に顔を寄せると、上気した肌からふわりと甘い匂いがした。 そのまま、既に固く尖っている胸の飾りを口に含み、舌先で転がす。 右手は下肢に伸ばし、チノパンのファスナーを一気に引き下ろしてて、膝で足を閉じられないようにしながらその中に手を入れて中心を握りこむと、39間が短く息を吸いこんで96木の肩を両手でつかんだ。 「や、96木さん・・・!」 そうしてやがて39間の中心を直接手のひらで捕らえ、まだ緩いとは言え、明らかにいつもより早く熱を持った中心をこねるように刺激すると、それはたちまち敏感に反応して、96木の手の中ではっきりした形に変わっていった。 先端を指先で撫でると、すぐに溢れ出た透明な潤みが96木の指をたっぷりと濡らして、39間の身体が確かに普段にも増して一層敏感になっている事を証明していた。 「な、なんで、こんな・・・」 自分の身体の反応のあからさまな様子に、39間も自分自身でそれが信じられない様子で、動揺した瞳を揺らす。 この状態ならそんな心配もなかったが、それでも逃げ出さないように39間を身体の下に組み敷いて、96木は本格的に39間を抱き寄せた。 39間の肌は本当に滑らかで、女でもこれほどにきめが細かい肌にはそうはお目にかかれない。 その肌を手のひらで軽く撫でただけで、39間はぞくぞくと肌を粟だたせて息を吸った。 96木は39間の中心をじっくりと苛いながら、首筋から鎖骨、胸と、あちらこちらに唇で濡れた赤い跡をつけて、薄く汗ばんだ肌の甘い匂いを楽しんだ。 それから、39間の中心を弄っていた手を滑らせて、もっと奥まった所にある背後の窪みに指先で触れる。 39間はびくりと身体を揺らし、身を固くしたが、96木はそれには構わず、そのまま、一番長い指をゆっくりとそこに潜らせた。 「・・・あ、やッ・・・!」 39間は思わず目を閉じて身を固くした。 「───お前、すごく熱いぞ。それに、相変わらずきつい」 指の一本だけでもこれほどにきついのに、この先本当に自分のものが入るのかと、96木はこんな時いつも訝ってしまう。 でも、実際ちゃんと入るんだよなあ、これが・・・などとおかしな感心をしつつも、幾度かその指を往復させて、少しずつ39間を慣れさせていく。 「や、96木さん・・・!」 この後に及んで、まだ39間は96木を押し退けようとしていた。 「抵抗されればされるほど、襲う方は余計に燃えるんだぞ、佐久間」 「勝手な事を言うな・・・!」 「特にお前みたいな奴には、普段素っ気なくされてるだけに、こんな時ぐらいは好きなようにさせてもらわないとな」 「だから、勝手な理屈を言うなと言っているのに・・・!」 96木は一旦引き抜いた中指に人差し指を添えて、もう一度39間の内部に捻りこむようにして差し入れた。 揃えた二本の指を曲げたり伸ばしたりしながら出し入れすると、39間が左右に首を振りながら頭を反らす。 「・・・んッ・・・!」 根元まで含ませて、中を引っ掻くようにして指を回すと、押さえつけた身体の下で39間は声を詰まらせて身悶えた。 「・・・やめてくれ、96木さん、やめろッ・・・!」 「何を言ってるんだ、これからだろ。まだ指しか入れてない」 39間は余ほどのものを感じているのか、含みこんだ96木の指を強く締めつけてくる。 そうやって後ろを淫らがましくいじっただけで、96木の左手の中にある39間の中心はしとどに濡れて弧を描いて反り返り、大きく張り詰めてそのまますぐにも達してしまいそうだったし、クスリの効果はテキメンだなと96木は思った。 「なあ、ここがいいんだろ?」 96木は39間の耳元で囁いて、39間の内部の敏感な場所を曲げた指先で引っ掻いたり、つつくようにしたりして刺激した。 「・・・ん、うッ、や、あッ・・・!」 39間は身体をびくりと跳ね上げ、腰を浮かせた下肢を攀じるように悶えさせて、息を飲んできつく目を閉じ、顔を歪ませた。 96木の手の中の中心の先端からじわりと新たな滴が溢れて零れ、そのまま次々と溢れるままに茎を伝い落ちる。 39間の目尻にも、生理的に浮かんだ涙が滲んでいた。 96木は39間の両膝を大きく左右に開かせて、その間に腰で割って入って身を重ね、片手で自分のズボンのファスナーを引き下ろした。 96木の中心は39間の乱れる姿を見ただけで十分過ぎるほど勢いづいて硬くなっていたし、本当はもう少し39間を焦らしてみようかとも思っていたが、こんな39間のあられもない煽情的な様子を見ていたら、96木の方が39間が欲しくて、これ以上の我慢ができなくなっていた。 「39間、力を抜いてろよ」 そう言って、指を引き抜いたばかりの39間の窪みに、今度は熱を孕んで硬直した自身の中心の先端を押し当てる。 「やだ、や・・・96木さんッ・・・!」 96木しか知らぬその密やかな窪みに軽く切っ先を潜らせると、すぐに39間のきつい肉の抵抗にあった。 女の秘所の造りとは違って、本来男を受け入れるようにはできていないそこは、中も外も狭いために入れにくい。 毎回が生娘相手のようなものだと96木は思い、それは39間の方も、その身に生じる貫通の痛みは破瓜の時のそれと同じなのではあろうが、こればかりは仕方がないと小声で39間に詫びる。 それから96木は39間の両足を腕に抱えこみ、体重をかけるようにして39間の抵抗を半ば無理やり押し開いて、一気に身を進めた。 「・・・んッ、う、んッ───!」 圧倒的な存在感のある強張りが身の内の奥深くまで強引に入りこんできて、39間はこれ以上はないほどに身体を固くして背中を反らし、その侵入の瞬間に96木の肩に爪を立てた。 気の強い39間は、こんな時にもはっきりした声を上げたり、痛いなどとは決して言わないが、39間が反射的につかんだ96木の腕や肩のシャツ越しにぎりぎりと食いこんでくる爪先が、身を二つに引き裂かれるような強烈な痛みを代弁している。 それでも取り敢えず根元までを深々と含み込ませて、完全に39間と一つになってから、96木はせめてとばかり39間の中心を捕らえ、最初の痛みが去るまでの間ゆっくりとそれを撫でさすった。 「・・・さ、触るなッ・・・!」 39間が肩をすくませて96木のその手をつかんだ。 96木を包みこんでいる39間の肉壁が、心臓が脈を打つのと同じ早さで96木を繰り返し締めつけてくる。 それでも取り敢えず根元までを深々と含み込ませて、完全に39間と一つになってから、96木はせめてとばかり39間の中心を捕らえ、最初の痛みが去るまでの間ゆっくりとそれを撫でさすった。 「・・・さ、触るなッ・・・!」 39間が肩をすくませて96木のその手をつかんだ。 96木を包みこんでいる39間の肉壁が、心臓が脈を打つのと同じ早さで96木を繰り返し締めつけてくる。 びくびくとした痙攣が96木の中心に伝わって、96木はこのまま動かずにいるのももう限界だと思った。 「・・・少し我慢してろよ」 96木はそろそろと腰を引いて、またそれをゆっくりと39間の中に戻した。 39間は唇を噛み締め、竦ませたままの自分の肩に横顔を押しつける。 ───本当にきつい。 96木は感じる快感に眉を寄せた。 あれだけ指で押し広げるようにしても、慣れるという事を知らない。 39間の狭い内部を屹立が往復する度、密着した肉と肉が直接擦れ合う刺激に、次第に96木は我慢がきかなくなり、徐々に手加減を忘れていった。 39間を、自分のものにしている。 そんな思いが96木を一層昂ぶらせて、たまらなくさせる。 「・・・あッ、あ───!」 96木が39間を強く突き上げると、その律動の衝撃に、39間が小さく喘いだ。 少しかすれた、いつもより高い声。 「39間・・・」 名前を呼びながら髪を梳かしあげ、紅潮した頬を撫でると、39間が唇を開いて96木の親指を咬んだ。 その仕草に、96木はぞくりと背を震わせた。 39間の中はますます熱く、燃えるような熱を96木に伝える。 「・・・ああ、駄目だ。俺の方がもう持たない」 96木はそう呟いた。 こんなにも呆気なく達してしまうのははなはだ不本意ではあったが、取り敢えず一度済ませてからでないとおさまらない。 「39間、イイならお前もイけよ」 96木は39間の中心を手のひらで包みこみ、擦り上げるのに併せて39間を犯す腰の動きを早めた。 「・・・いッ、いい訳がないだろ、馬鹿ッ・・・!」 最奥まで96木に貫かれながらも、39間はまだ身を捩るようにして96木から逃れようとした。 「強情だなあ。お前だってもう限界だろう?」 96木は、39間の腹の方に押しつけるようにして、39間の中心を手中に握りこんで弄う指に力をこめた。 「ほら、イけよ。意地張らずにイっちまえ」 「・・・ッ!」 瞬間、固く目を閉じた39間が、きり、と唇を噛みこみ、喉の奥で短い声を上げる。 堪え切れずに39間の放ったものが96木の指を濡らし、それとほとんど同時に、96木も39間の中に白濁した欲望の証しを解き放っていた。 ああ、これだ、この感じだ───。 快感が背筋を走り抜け、96木は39間をきつく抱き締めた。 クスリのせいでまだ力が入らないせいもあって、39間は荒い息を吐きながら達した余韻でぐったりと96木の腕に身を任せていて、そのしどけない姿に、96木は今放ったばかりだというのに、もうまたしても39間が欲しくなっていた。 「これからもっとよくしてやる」 96木は閉じたままの39間の瞼に口づけして、目尻に滲んでいる涙を舌先で拭った。 ───正直、女を抱いても、さしてイイと思った事がなかった。 こんなものかと思うだけで、かといって男が好きな訳でもないだろうと96木自身は思うが、39間とこうなるより前に感じていた情事に対するそんな醒めた感覚も、こうして39間を抱いていると信じられないほどに興奮を呼ぶ。 「・・・39間、お前の中、絡みついて」 96木は感じる悦楽に眉を寄せて低く呻いた。 「お前って、本当にイイ・・・」 激しく突けば突くほど、その分に応じて締めつけてくる。 最奥まで突き上げても、まだその先を望むかのように吸いついて、蠢く。 「もう少し力を抜けよ。じゃないと、俺も動きにくい・・・」 96木は39間の両脚を肩に抱え直して、その身体を二つに折り曲げるようにして深く腰を沈めた。 「・・・あッ・・・う、んッ、ん・・・・!」 最初は声を上げる事を意地で拒もうとしていた39間も、達して埒をあけるたびごとに余裕の出てきた96木の念入りで執拗な愛撫に耐え兼ねて、どうしても押さえ切れない声を乱れた呼吸の合間に微かに上げていた。 それでなくても感じやすい39間の身体が、今はクスリのせいでただならぬほどに高ぶっているのだから、いくら強情な39間でもそうそういつまでも我慢はできなかった。 「もっと大声出したっていいんだぞ」 96木は39間の中心の先端からくびれにかけて、指で摘んで揉みこむように刺激した。 立てた人差し指の先で、透明な涙をとめどもなく溢れさせている先端の中心にある窪みを穿るように弄う。 その刺激がまた新しい涙を次々に零れさせる。 「───やッ・・・!」 39間が首を振り立てて、喘ぎながら頭を大きく反らした。 身体を波打たせてくねるように悶え、96木にすがりつこうと腕を伸ばして、ここまで39間が乱れる姿などそう滅多に見られるものではない。 96木は思う様39間の身体を開かせ、折り曲げて、39間を貫き続けた。 ゆっくりと引き伸ばしたり、じりじりと焦らしたり、強弱も緩急もつけて、ありとあらゆる快感を39間に与え、また39間から奪おうとした。 一旦ぎりぎりまで屹立を引き抜いてから、しばらく39間の内部に通じる入り口の辺りで腰を回し、今度は不意に最奥まで一気に押し入ってそこを激しく突き上げて存分に責め立てる。 「・・・は、あ・・・ん、んッ───」 39間は眉間を寄せて目を固く閉じたまま、不規則に乱れ切った呼吸の合間に、切れ切れな押さえ切れない喘ぎをこれは逆に閉じる事を忘れた唇から漏らす。 白い歯の奥に、濡れた赤い舌が踊っていた。 たまらない声と顔つきだと96木は思った。 もう幾度、そしてどれだけの時間、こうして39間とくながり合っている事だろう。 96木が動く度に、二人が深く繋がった場所で、96木がそこに何度も放ったものが濡れた淫靡な音を立てる。 そのせいで滑りはかなりよくなっていたが、擦れ合った部分が熱で溶けそうだった。 「・・・お前の身体は、どこもかしこもいやらしい。卑猥で、理性なんかどっかへ吹き飛んで、どうしようもなくそそられちまう」 96木はそう言って、39間の一番深い部分を思う様うがち、言葉の通りに本能のまま39間を貪った。 それ独特の律動で身体を揺さぶられ、96木の屹立の固く張り出した部分で泣き所を的確に擦り上げられて刺激され、内臓を直接責め立てられている39間は、もう息も絶え絶えになっている。 「・・・も、やめ・・・お、かしく・・・なる・・・」 39間は荒波のような官能の悦楽に絶え間なく苛まれ続けて、思考がすっかり混乱した状態でそう苦しげに訴えた。 それでも39間の内部はもっともっととばかり96木を誘って、まるでそこだけが違う生き物のようにすら感じられた。 96木が39間の中心を捏ねるように揉みしだき、丸めた指の内側で上下に茎を擦り上げると、その刺激で内部が一際すぼまり、壁がひくつく。 そうしながら、96木は身体ごと強く打ちつけるようにして、大きな動きで激しく39間の内側を責め上げた。 「・・・あ、や・・・やッ、く、96木さ、んッ・・・!」 96木の手の中で、39間の中心が弾けた。 耐え切れずに後ろと前で同時に絶頂に達して、とうとう愉悦の限界を迎えた39間が、短い悲鳴を上げて身体をこれ以上はないほどにがくつかせて硬直させる。 その瞬間、39間の内部が一層きつく96木を締めつけて、96木もまた39間の中に熱いものを迸らせた。 39間は半分気を遠のかせながら身体を震わせていて、もう何度目かも知れない絶頂感に、96木も39間の身体の上にそのまま突っ伏した。 薄い皮膚の下で、39間の心臓がどきどきと激しく脈を打ちつけているのがわかる。 ずっと39間を攻めて動き通しだったせいで、96木の心臓も同じように弾んでいて、96木は大きく息を吸うと、ゆっくりと目を閉じた。 「こんなに何度も欲しいと思うのは、お前だけだ・・・」 96木の囁くような言葉は、その時にはただもうぐったりと目を閉じて意識すら手放しかけていた39間には届いたのだろうか───。 96木が目を覚ました時は、すっかり昼を過ぎていた。 取り敢えず裸のままではなかったが、朝方まで39間と睦んでいたせいでさすがに疲れ切って、いつの間にか泥のように眠っていたらしい。 いくらなんでも、あれだけ立て続けにやれば当然か───。 そう思って寝返りを打つと同時に、 「・・・やっとお目覚めか」 と、すぐ近くで抑揚のない声がして、見れば39間が腕組みをして近くのソファーに座って96木を見下ろしていた。 「やあ、おはよう、39間」 96木が呑気な口調でそう言うと、39間が組んでいた腕をゆっくりと解いて、すうっと96木の目の前に手を差し出した。 「───96木さん、これはなんです」 39間が手にしていたものは、例の小瓶だった。 「・・・えッ、いや、そ、それはその・・・!」 96木は息を飲んだ。 「ガラナにクコの実、ウイキョウ、蛇胆・・・精力剤というより、見事なまでの媚薬ですね」 39間は96木の目を真っ直ぐに見据えている。 「───あんた、僕に、一服盛ったな」 ぞっとするほどに低い声で威すように言われて、戦くくらいに兇悪な目つきで射竦められて、違うとも誤解だとも言えず、96木は返す言葉も顔色も一気に失った。 誤魔化しようがなかった。 39間に情の欠片もないこわい目で刺すように睨まれたまま、96木はその視線を逸らす事もできなかった。 「い、いつ・・・気づいたんだ・・・」 あたふたとしながら身を起こして、そう尋ねた96木の声は引き攣っていた。 「・・・夕べ。最中にですよ」 「───」 「急にあんなふうになるのは、どう考えてもおかしいとは思っていたんだ。それで朝、あんたが寝ている間にまさかと思ってあんたの服を確かめたら、これが出てきた。・・・よりにもよって、こんな代物を使ってくれるとはな」 顔も無表情なら、39間の口調もまた恐ろしいほどに静かだった。 「───信じられないケダモノだ、あんたは」 39間は目を細めた。 「けッ、ケダモノってお前・・・! お、お前だって気持ちよがってたじゃないか・・・」 「僕の本意じゃない。クスリであんな風にしといて、散々いいようにするなんて最低だ。卑怯にもほどがある」 「そ、それは単なる好奇心ってやつで・・・!」 「単なる好奇心で、僕に人体実験したとでも?」 「ち、違う、人体実験なんかじゃない。本当にただの好奇心だよ、出来心ってやつじゃないか・・・!」 「出来心にしちゃ度が過ぎてる。自分勝手に好き放題して何度も僕を犯しといて、出来心じゃ済まされませんよ」 「お、犯した、って・・・」 96木は一瞬言葉を飲んだ。 「人を性犯罪者みたいに言うなよ。俺は刑事なんだぞ!」 情けない口調でそう呟いたが、 「同意の上じゃないんだから、犯した、だろうが」 と、39間はとりつくしまもない。 これは本気で心底から怒っている───。 96木はそう思った。 口調が静かな分、余計にそれがひしひしと骨の髄まで伝わってくる。 96木は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。 ほんの思いつきの好奇心と一方的な欲望で、39間を本心から怒らせる事をしでかしてしまったのだと思うと、血の気が引いて手足がすううっと冷えていく感じがした。 ぬきさしならない切迫した事態だと96木は悟った。 「ふん。『禁じられた雫』か。禁じられているものを僕に使ったのか、あんた」 39間は96木の目の前に『Forbidden Drop』とラベルに書かれた小瓶を投げた。 「───さ、39間・・・!」 96木はたまらず、あわてて正座して居住まいを正し、すがるように39間を呼んだ。 「なんですか」 「・・・お、俺が悪かったッ・・・!」 96木はへりくだって床にこすりつけるように頭を下げ、それに対して、ふん、と39間はまた唇を歪めて冷たく嗤う。 「なんだ、ずいぶんと殊勝じゃないか。何が悪かったって?」 「な、何がって・・・! いや、だから、悪かったよ! 俺が悪かった! 人体実験みたいな真似して、無理やり・・・」 「無理やり?」 「・・・無理やりやって悪かった! 俺が全部悪い! 本当に反省してる、反省してるから、だから・・・!」 「だからなんだと?」 96木はそれ以上何も言えずに言葉を失った。 「───そんなに僕が欲しかったのか、あんた」 96木は俯いたたまま、小さく頷いた。 本当の事だから仕方がないと呟く。 「クスリを使ってでも、お前の事が欲しかったんだ・・・」 「呆れて愛想が尽きる!」 39間は眉間をしかめて、きつい口調でびしりとそう言い放った。 返す言葉もなく96木が黙りこむと、39間は96木から顔を背け、それきり険悪な沈黙が部屋に満ちた。 39間と96木との間に時折起こるどんな諍いも。 言い争いも行き違いも、そんな時はいつも、96木を叱り倒し、罵りあげた揚げ句にだんまりを決めこむ事になるのが39間の常だった。 そしてそうした場合、原因はどうであれ先に折れてくるのは決まって96木の方からで、そっぽを向いて口をきこうとしない39間の機嫌を、96木はあの手この手で取ろうする。 96木は39間には心底から甘かったし、39間もまた、96木がそうしてそろそろと声をかけてくる頃には、内心ではこのまま突っぱねているのも大人げないという事を認めているので、それで片がついてしまうのだ。 けれど、今回ばかりはさすがの39間も一服盛られた事に本気で激怒していたので、96木には声のかけようも機嫌の取りようもなかった。 96木は39間に詫びる事すらも拒まれてどうする事もできなくて、嘘や冗談でなく愛想を尽かし切った態度で96木から目を逸らした39間の前で正座したきり、ひたすら押し黙って視線を落としてうなだれていた。 が、突然、先刻39間が放り投げたまま床の上に転がっていた小瓶をいきなり手に取ると、蓋を開けて中身を一気に飲み干した。 「───ばッ・・・、馬鹿、何やってるんだッ!」 39間は96木を正面から見ていた訳ではなかったが、それまでみじろぎもしなかった96木がいきなり大きく動いた姿が横目に入って、思わずふと視線をやってその突拍子もない行動に気づき、あわてて96木の手から小瓶を奪うように取り上げた。 だが、その時にはもう既に小瓶の中の透明な液体は全部96木の胃の中に流れこんでしまっていた。 「何をしてるんだ、あんたはッ! 何を考えてそんな真似を・・・!」 39間は96木の唐突な所業に驚愕しながら、勢いに任せてきつく叱責したが、96木は叱られていじけた子供みたいな顔をしていた。 「お前をイヤな目に遭わせた責任を取ろうと思ったんだ。これを買ってきたのは俺だから、俺が始末する」 「始末するなら捨てればいい事だろうが!」 39間は、何をどう考えて思いついたらそんな突拍子もない行動に出る結果に行きつくのか、まるで理解できない96木の思考回路と精神構造に目を見開いていた。 「お前と同じ目に・・・いや、それ以上に酷い目に遭って、反省する」 「いくらなんでも、一本全部飲むなんて、死ぬぞ、あんた!」 「死にはしないだろ。人畜無害だって言ってたし」 「馬鹿ッ! そんなに飲んで無害な訳がないでしょう! 僕にだって十二分に有害だったのに! とにかく吐け! 今すぐに全部吐け!」 39間は96木の腕をつかんで強引にキッチンへ引っ張って行くと、半ば無理やりに大量の水を飲ませてから、吐くだけは目一杯に何度も繰り返して吐かせた。 「うう、ぐえぇ、く、苦しいぃ・・・」 96木が喉元を手で押さえ、身体を折るようにして涙目で喘ぐように唸った。 「苦しくもなるだろうが! あんなものを丸ごと飲めば!」 39間は眉をしかめて怒鳴った。 「クスリのせいで苦しいのか、無理に吐かされて苦しいのか、わっかんねえ・・・」 96木はもうこれ以上は何も吐くものはないとばかりにふらふらとリビングに戻って、床の上にごろりと転がった。 「ああ、なんだか暑くなってきたぞ・・・」 96木は呻いて身を丸くした。 身体が火照ってきて、息苦しさを覚える。 心臓はどきどきと音を立てて脈を打ち始めた。 「体温と血圧の急激な上昇、呼吸数と脈拍の著しい増加・・・。んむう、昨日のお前の気分がだんだんわかってきた・・・」 「全く、一体何を考えているんです、あなたって人は・・・!」 39間が目を吊り上げて96木に怒鳴り散らした。 「だから、この身をもって責任を取ろうと思って・・・」 「そんな責任の取り方をしろと誰が言った! 馬鹿が!」 「自分の気の済むようにしたかったのだ」 96木はそう言ったが、喉が競り上がってきていて上手く喋る事ができない様子だった。 声は掠れているし、息遣いは荒い。 「───ううん、暑くて息苦しいな・・・」 96木は大きく息を吸って、吐き出した。 鼻からの呼吸では追いつかず、何度も深呼吸を繰り返して、乾いた唇を舌で潤す。 「ああ、媚薬だって触れこみは嘘じゃなかったな・・・」 体温の上昇に連れて浮かんだ汗が肌の上を伝って流れ落ちる感触にすら、身をよじりそうになる。 「昨日、あんたがどれだけの量を僕に盛ったのかは知らないが、僕の様子を見て知っているなら、大量に飲めばどうなるかぐらいわかるだろうに!」 「・・・頭の中がぐるぐるぐるぐる回っているう・・・。いや、回っているのは目かあ? 地球が俺を中心にすごい勢いで回っているう・・・」 96木の声は震えていた。 身体にもおこりのような震えがきていた。 「回りもするだろうが!」 「・・・も、猛烈に暑いのに、妙にぞくぞくもする。ああ、もやもやともしてきてものすごく変な気分だ・・・。なんだか頭も身体も何もかも全てが大暴走している・・・」 96木が飲んだクスリの量は明らかに一回に摂取していい服用分を大幅に越えていて、血圧が上がって血流がよくなっているのなら紅潮するはずの顔色は逆に真っ青で、96木は意識さえも混濁しかけている様子だった。 神経に賦活作用を起こす興奮剤の類の成分ばかり入った代物だったので、恐らく今の96木の心臓は不整脈の上に激しい頻脈まで起こし、脳にはすさまじい勢いで血が巡り回って発奮しているのだろう。 「・・・ううん、ああ、自分の身体が今まさに、男としてもんのすごい元気で大変にお盛んな事態になっているのも・・・あからさまにわかるぞ・・・」 その言葉通りに、96木の下半身の中心は、厚手の生地のズボンを履いた布地越しにもそうとわかるほどに興奮しきった状態になっていた。 「僕は相手しないぞ! 昨日の今日で冗談じゃない! あんたのせいで腰が酷く痛いんだ!」 39間は怒りをこめてすかさずそう答えた。 「・・・い、いや、俺も、今はとても・・・そんな事はできそうもない・・・。身動きしたら心臓が破裂するか、脳の血管がぶち切れてしまいそうだ・・・。うう、うええ、き、気持ちが悪いい・・・」 「自業自得だ!」 「・・・うん、そうだ・・・全部俺が悪い・・・」 ぞわぞわとする悪心にがくがく震えながら脂汗を浮かべてただひたすら身体を丸めている96木の姿に、39間はほとほと呆れ返って大きくため息を吐き、キッチンから氷を沢山入れたコップとミネラルウォーターのペットボトルを持ってきた。 「とにかくもう身体が吸収してしまったものは仕方がない。水を飲めるだけ飲んで、クスリの血中濃度を薄めた方がいい。喉も乾くだろう?」 「・・・うん、んん・・・」 96木は朦朧としたような返事を返して、39間がつっけんどんに差し出したコップをぼんやりとしたまま震える手で受け取って、水を何杯か立て続けに飲み干す。 「救急車を呼びますか? いや、病院へ行った方がいいかも知れない」 「・・・ううん、いや、大丈夫だ・・・。多分・・・」 「───もう、あんたって人は本当に」 驚いたり呆れたりするどころの騒ぎじゃない。 39間は、強壮作用のある催淫薬の濃縮エキスを瓶から一息に一滴残さず飲むという信じ難い暴挙を起こした96木に対して、今まで胸に渦巻いていた憤りや怒りや憤懣の矛先をどこに向けたらいいのかがわからなくなった。 そうした感情のやり所のないやるせなさに複雑な顔をして、興奮剤の限度を越えた大量摂取のせいで苦しげに身悶える96木を見る。 「頭が絶対にどうにかしてるぞ、あんた」 そう言うと、96木は、ううん、うん、と唸り声で答えた。 それから丸二日、96木は瀕死の体で寝こんでしまい、そのまま39間の家に泊まりこんでいた。 媚薬の濃縮エキスを原液のまま一気飲みするという無謀もはなはだしい行為の後、口を利けたうちはまだマシな方で、96木はしばらくすると激しい頭痛に襲われ始め、ひっきりなしの嘔吐を繰り返し、腰も抜けた状態になり果てて、満足に起き上がる事も歩く事もできなくなった。 39間も、そうなった原因は全て96木自身にあるものの、そんな有り様で高熱に浮かされて、前後不覚に酩酊しているかのように苦しんでのたうっている96木を無下に追い帰す訳にもいかず、仕方がなく寝こんだ96木の看病をしていた。 「一体なんだって僕が、一服盛られた上にこんな面倒まで見なければいけないんだ、全く!」 三日目になって96木がようやく調子を戻して半身を起こした時に、96木の寝ついているベッドまで重湯を運んできた39間は、極めつけに不愉快そうな顔で96木に向かって一気にそう毒づいた。 「お陰で僕はこの三日、あなたの世話に懸かりきりで夜もろくに眠れやしなかったじゃないか! こんな下らない事で休みまで取って! 大体、そもそもの被害者はこの僕の方だと言うのに!」 病気ではないが、病気も同ような状態であったので、枕元で病人を責める真似をしなかっただけで、心の中ではずっと文句や鬱屈の十や二十や三十を悪しようにぶちまけたいのを我慢していたらしい。 「いや、本当にすまなかった。俺ももうすっかりつくづく懲りた。クスリはよくない。うん、よくないぞ、あんなものは。だから、本当にお前には悪かったと心底から思う。散々苦しんで嘘偽りなく実感した」 96木は見るからにやつれきった表情で真剣にそう返して、本当に俺が悪かったと39間に真顔で何度も詫びた。 「あんなものがなくたって、俺は十分にお前を愛してるし、お前もいつものお前のままでいい」 39間は眉間を酷くしかめたまま、深々とため息を吐いた。 怒りはまだ消えてはいないし、文句も山ほど言ってやりたいが、これ以上96木を突っぱねていたら、詫びだと言って次はまた何をしでかすかわからない。 仕様のない人間だ。 生まれついて根本的に性質がよくない。 そんな性分の人間相手には、こんな時は不承不承にでも退くしかない。 「───今度僕に妙な真似をしたら、殴りますよ」 39間には、そうとしか言えなかった。 「もうしない。絶対しない」 ドスの利いた39間の低い声に、96木は頭を左右に勢いよくぶんぶんと振った。 「禁じられているものは使わないに越した事はない。例え雫一滴でも」 96木のその言葉に、39間はもうそれが癖にでもなっているかのようにまたしてもため息を吐いた。 「禁じられているものには、そうされるだけの理由があるものだ」 39間がそう答えると、96木は、ううんと意味不明に唸った。 「───ああ。でも、そうだ、39間」 それからしばらくしてから、96木が思いついたように顔を上げる。 「同じ雫でも、禁断じゃなければいいと思わないか?」 「・・・どういう意味だ」 39間は嫌な予感に眉を寄せた。 96木がそんなふうに何かを思いつくのは、大概がろくな事ではない。 「今、ふと思ったんだが、イランイランなんかはどうだ。あれを使えばお前もアノ時にずいぶん楽だと思うぞ」 「───」 ぴくりと39間の片頬が小さく攣る。 「イランイランはすごくエロい匂いがして、昔から催淫効果があるって評判の香油だろ。あれは別名を『愛の雫』と言って、入れる時にあの部分にたっぷり垂らすと、精油だからぬるぬるして俺も入れや・・・」 言葉の途中で、96木は容赦の全くない力加減で、地獄の悪鬼が憎悪の余りに殺意を抱いたような顔をした39間から往復で顔面を思い切り目一杯に張り倒されていた。 □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! 長々と場汚しすみませんでした。 ありがとうございました。 #comment
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