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71-63 の変更点


#author("2020-09-17T16:31:51+09:00","","")
#author("2020-09-17T16:32:46+09:00","","")
#title(偽兄弟) 
とあるアーティストさんのPVを見て滾った勢いで書きました。元ネタあるっちゃあるけどもうオリジナルということで。
殺人・暴行・薬物描写ありでめちゃくちゃバッドエンド注意。兄弟のように生きてきた年上と年下の話。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

──そんなつもりじゃなかったんだ。
お前が傷付いていくのをこれ以上見たくなくて、止めたかったんだ。
助けたかった。
救いたかった。
だから俺は──…

家に帰って来るなり台所に駆け込んで行ったアイツに嫌な予感がした。
後を追うと案の定、シンクに向かって咳き込んでいる。震える手で蛇口を捻り、流れる水を掌で口へ運ぶ。俺は大きく溜息を吐いて彼に駆け寄った。
「おい、しっかりしろ」
「ぅう……うぇっ」
「またアレ飲んだな?水飲んで全部吐け」
「っ、ゲホッ!んぐっ、うぅ」
フラつく身体を支えつつ背中を擦る。何度か水を口に含んではいたが、飲み込めないのか全部吐き出してしまっていた。
「はぁ…はぁ……苦しぃ……っ、気持ち悪いよ…」
「そうなるのはわかってたことだろ!何度やれば気が済むんだ」
「……っ…!ぅ…っ」
「もう止めるって約束したのに……どうしてお前はっ…!」
苦しんでいる最中の弟をつい非難してしまう。弟といっても血の繋がりはない。境遇が似ていたからか出会った時から俺を兄のように慕ってくれ、俺も弟のように可愛がってきた間柄だ。
コイツはあまりにも酷い家庭環境で育ち、自分やお袋さんを虐待していた親父さんを手にかけてしまった過去がある。絶え間ない暴力への恐怖とお袋さんを救えない無力感から精神が歪み始め、ある時糸が切れてしまったらしい。
全身を真っ赤に汚して泣きながら俺のところに辿り着いたコイツを警察になんて突き出せなかった。多分お袋さんも無事ではないような気がして、余計に一人にはさせられないと思った。
でも自分とそんなに歳も変わらない人間の面倒を見きれるほどの力なんて俺にはなかった。彼を一生逃げ続けなければいけない立場に追い込んでおいて、ボロボロになった心に寄り添ったケアもろくにしてやれない。
そんな状況で、彼が一時の快楽に救いを見い出してしまうのを止められるはずがなかった。


昔は愛嬌たっぷりで目を奪われるほど華やかな笑顔をしてたアイツが、今はやつれて澱んだ瞳に絶望を浮かべて毎日泣いている。
俺にできるのは、時々ネジが外れたような笑い声を上げて自分ごと全てを壊そうと暴れ出す弟を必死に抑えることだけだった。
「…どのくらい飲んだ」
「……ぇへへ………兄ちゃんには…あげなーい……全部僕のだ」
「っ!?まさかお前っ……!」
咄嗟に彼の財布をひったくって中身を確認する。今朝生活費にと多少の金を渡していたからだ。そして最悪な予想ほど当たってしまう。
「……全部注ぎ込んだのか…!?」
「全部ちゃんと飲んだもん……怒らないでよ…」
「は!?お前死ぬぞ!早く吐き出せ!!」
「何言ってんの兄ちゃん……飲んだ水は吐き出せないんだよー…知らないの?」
「バカ!!何言ってんだよ!早く吐けって!!」
一気に血の気が引いた俺は無理やりにでも水を飲ませようとしたが、彼は邪魔だというように手でそれを払ってしまう。俺の手から滑り落ちたコップが床に当たって割れてしまい嫌な音を立てた。
「っっ!!」
その音がアイツのトラウマに突き刺さる。
──アル中だった親父さんに酒瓶で殴られる音。
定まっていなかった視線が俺で止まり、恐怖と混乱で見開かれた。
「うわぁああっ!!」
パニックに陥った彼が叫びながら腕を振るい、俺の頬を弾き飛ばした。想像以上の力にバランスを崩しかけたが、彼が死ぬかもしれないという恐ろしさの方が俺の足を踏ん張らせる。
どうにかして腹の中のものを出させたいと考えるあまり、俺は思いっきりみぞおちに拳を叩き込んだ。力加減なんて考えていられない。必死になって二度、三度と殴りつけた。
「うぐっ!っ、がはっ!!」
「っ…すまん、でもこうしないとっ…!!」
「っっ、ぐ、ぇ…っ、ゴホゴホッ!」
彼が俺から逃げるように腹を押さえながらシンクに寄りかかる。激しく咳き込んでいるものの吐き出す様子が見られなくて、焦った俺はもう一度拳を作ろうとした。
「はぁ…っ、許せ……お前のためなんだ…!」
「……ぅ……うぅ…っ、ううぅ…!!」
「…?」
「っうああぁぁああ!!!」
すると次の瞬間、弟が獣のような唸り声を上げながら俺に向かって突進してきた。体当たりをモロに喰らって尻もちをついた俺に彼が覆い被さる。


「うるさい…!消えろ!!」
「!?」
「消えろ消えろ消えろ消えろぉ!!消えろ!!消えろっ、消えろぉおっ!!」
そのまま彼は俺の腹に向かって何度も拳を振り下ろした。
親父さんの影を消そうとしてるように。自分に襲いかかる脅威から逃げるように。
半狂乱になって、悲鳴を上げながら、何度も何度も必死に。
俺は抵抗出来なかった。取り返しのつかないことになったと思った。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……はあ………っ…ぁ……?」
「……っぅ……」
「………あれ…?兄ちゃん……?」
しばらくして動かなくなった俺に気付いたのか、一瞬弟が冷静さを取り戻す。
そして自分の手を見て、自分の身体を見た。
「…ぁ……え?」
「……ごほっ…」
俺の口から咳と一緒に熱い何かが零れた。それは弟の手や身体を染めていたものと同じ。
彼の手にはシンクの横に置いたままだった包丁が握られていた。
「に、ぃ…ちゃん……?」
呆然と俺を見下ろす弟は、自分が何をしたかを悟った。
親父さんにそうしたように、俺をメッタ刺しにしてしまったのだ。
彼の震える手から包丁が床に落ちる。肩を大きく揺らして息をしながら、やがてボロボロと涙を溢れさせた。
──あぁ、泣かせてしまった。
「……ご…めん、な……」
「っ、ごめん……ごめんね、兄ちゃん……あぁ、なんで僕、こんなっ…」
弟は俺に開いた穴を両手で塞ごうとした。だけどズタズタになった身体はもうそれじゃ元には戻らない。
「……俺が、悪か……っ、お前、を……殴る、な……て」
「兄ちゃん……兄ちゃん……っ!!」
「ご……め…っ、ごふっ…」
ちゃんと謝りたかったのに上手く声が出ない。
苦しみ続けた弟に俺は何もしてやれなかった。
いや。しなかったどころか、追い詰めてトドメをさした。


見てみろ。涙で濡れる瞳から感情が消えていく。
後悔も絶望も怒りも全部なくなって、ただの真黒い穴みたいに虚ろな目。
弟は天を仰いで一言、溜息と一緒にか細い声を漏らした。
まるで何かが抜け出ていったように見えて、多分それが、彼が彼だった最期の瞬間だった。
「…………ごめんね兄ちゃん」
もう一度俺に目を向けた彼の口元は不自然に歪んでいた。
そういう風に見えただけかもしれない。だって俺の意識はもう薄れ始めている。
窓から射した月明かりに照らされた弟は、涙と血で彩られてこの世のものではない完璧さで輝いているように映る。
それが彼の本当の姿だったのかもしれないなんて思うのは、きっと俺のエゴだ。
傍観してただけで彼を救えなかった事実から目を背けようとしてる、都合のいい言い訳だ。
「──……っ」
力を振り絞って弟の名を呼んだ。返事はない。
その代わりに唇が降ってくる。
彼が飲んだあの毒々しい甘みと、俺が吐いた血の味。
混じり合わせるように何度も深く重なって、離れていく。
「僕はこれから地獄へ行くから、もう会えないね」
温もりを感じない声が耳元に届く。
「さよなら。兄ちゃん」
そしてのしかかっていた重みが消え、覚束無い足音が遠ざかって行った。
──何言ってるんだ。どこへ行く気だ。何するつもりだ。
バカな真似するんじゃないだろうな。戻ってこい。行っちゃダメだ。
「…………ぃ……く、な……」
──行くな。
行かないでくれ。
俺を独りにしないでくれ。
世界が恐ろしいほど静かになる。
全身を包む冷たさが俺の罪を突き付ける。
弟に家族を殺させ、俺を殺させ、自分を殺させた。

──こんなつもりじゃなかったんだ。
お前が傷付いていくのをこれ以上見たくなくて、止めたかったんだ。
助けたかった。
救いたかった。
だから俺はお前を抱き締めたはずだったのに──
あの時引き留めずに自首させてれば、それより早く手を差し伸べてたら、こんなことは起きなかったかもしれない。
でももう遅い。
俺は何も出来なかった。
悔しくて、情けなくて、哀れで堪らなくて、俺の目から涙が零れる。
自分の返り血が混じって赤く滲んだ涙が目尻を伝って床に落ちる頃には、俺はもう何も感じなくなっていた。
そしてずっと遠くで、何かが潰れる音がする。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

投稿してるうちにレス数が増えてしまいましたすみません
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