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#title(夜が明けて)
蟲l師の「夜lをl撫lでlるl手」より、銀×辰。エロなし 
単行本133-34ページの間にあった出来事の捏造妄想です 

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 

……まずい。待て、出てくるな!! 

その声を耳にしたときには、もう、手遅れだった。 
木という木、その枝という枝にとまった夥しい数のカラスどもが、 
文字通り、辰を喰い殺そうと襲いかかってきた瞬間だった。 
翼が、爪が、嘴が。身を守る術を何も持たない辰の身体を、 
容赦なく打ち据え、突き、抉った。 
声すら上げられなかった。 

──たつにい、たつにい。 

悲鳴にも似た弟の声が、凄まじい羽音や鳴き声に混じって聞こえた。 

──顔を伏せろ、目を守れ。 

蟲師の言葉に従おうにも、自分が立っているのか倒れているのかもわからなかった。 

(腕が、右腕が、灼けるように、痛ぇ!) 
(俺、このまま、死ぬのか……?) 

「じっとしてろ!」 

声がすると同時に、誰かの手で地面に引き倒された。 
訝る間もなく、今度はその誰かの手で布を被せられる。 
闇の中、何が起こっているのかもわからない。 
だが蟲師が何かをしているのは確かで、あれほど激しかった鳥たちの攻撃が急速に遠ざかっていく──。 


────静寂。 

自分の荒い呼吸音の他は、僅かの物音しか聞こえなかった。 

「……もういいぞ」 

蟲師の声がした。 
被せられていたコートを捲り上げると、今にも泣きそうな表情で自分の顔を覗き込む弟の顔と、シャツ姿の蟲師の背中があった。 
「何を……したん、だ?」 
血にまみれた辰は息も絶え絶えに、蟲師──ギンコという名の──に問うた。 
問われたギンコはすぐには答えず、まず外套から煙草を取り出すと、火を点け、 
ふうーっと長く紫煙を吐き出し、それからおもむろに口を開いた。 
「……別に。大したことは何も。ただ、鳥が怯える蟲をちょいと呼び寄せただけ── 
だが、辰はその説明を最後まで聞けなかった。 
あまりの痛みと疲労とで、意識を先に手放してしまったから。 


──卯介、薬箱、重くねえか? 
──大丈夫だよ、ギンコさん。 

……次に目覚めると、辰はギンコの背に負われ、山を下る最中だった。 
怪我のひどい箇所には応急処置がなされ、血もあらかた拭われていた。 
「よお。お目覚めかい?」 
「辰兄、大丈夫? 痛くない?」 
心配ねぇよ、と弟に笑いかけようとした辰だが、上手く行かなかった。 
──右腕の感覚が、なかった。 
「俺、生きてるのか?」 
「あー、死んではないようだがね」 
白髪の蟲師は飄々と答える。彼が何を考えているのか辰には今ひとつわからない。 
「辰兄、ギンコさんが助けてくれたんだよ」 
弟の卯介は、目にいっぱいに涙を溜めながらも、嬉しくて仕方がない、 
といった様子で声を弾ませた。病気がちで白い頬も、今は興奮でうっすらと上気していた。 
その卯介に、ギンコは声をかける。 
「卯介、一足先に村に戻って、医者を呼んでおいてくれ」 
──うん、わかった。 
卯介は村に向かって足を早めたが、数歩のところで振り向き、 
気遣うように兄を見やると、今度は意を決したように一目散に走り出した。 
その背中を目で追いながら、ギンコは言った。 

──いい弟を持ったねぇ。 
──ああ、俺には勿体ないぐらいだ。 
  ギンコさん、あんた、家族は? 
──いない。 
──……そうか。 


山の地面を踏みしめる規則的な音だけが周囲に響く。 
時折、山鳥が短い声で鋭く鳴くのが聞こえ、そのたびに辰はびくりと身を硬くしたが、ギンコが「心配ない」と背中越しに声をかけた。 

やがて、道程の半分ほどを過ぎた頃、辰は重い口調で問うた。 

──なぁ、俺、ちゃんと元の俺に戻れるかな? 
──ん? 
──卯介に聞いたんだろ? 親父のこと。 

確かに、聞いていた。 
身に宿した腐酒のせいで蟲の側に引っ張られ、その命ずるままに無益な殺生を 
繰り返していたという、兄弟の父。 
その最後は、人の理から外れて完全に蟲となり、ついに人の目には映らざるモノとなる、 
──というものだった。 
ギンコは紫煙を吐き出すと、空中にゆらゆらと漂い流れるそれを眺めながら、青年にかけるべき言葉を探した。 

『処方通りに光酒を飲んで、精がつくもん食って、しばらく安静にしてろ。そうすりゃ治る』 

おそらくこう言えば事足りるはずだが、辰が欲している言葉はそれとは違うはずで。 
やがて吸いさしの煙草が終わり、次の一本に火を点ける頃、蟲師は話し始めた。 


──話を聞く限りじゃ、なるほど確かにお前さんの行動は親父さんのそれとよく似ている。 

──……だよな。 
──だが。 
──……だが? 
──だが、婆さんが死んで、母親が逃げ出して、父親が消えちまっても、 
  お前さんはずっと弟の側にいて、守ってきた。……違うか? 
──……。 
──それに、覚えてるか? 
  腐酒の病のことを教えたとき、お前はすぐに弟の身を案じた。 
  その治療法を知れば自分のことのように喜んだ。 
  ついさっき──蟲に半ば操られてるときでさえ、 
  お前は真っ先に、卯介の分の薬を置いていくように言ったんだ。 
──……。 
──お前さんはいつだって優しい辰兄だったんだし、これからもそうだろうよ。 

辰からの返事はなかった。 
が、ギンコは自分の言葉が相手に確かに伝わっていることを感覚的に理解していた。 


「それにしても重いなぁ」 
ギンコは足を止め身を揺すると、背中からずり落ちそうになった辰の身体を負ぶい直す。 
「こりゃ割に合わんぞ」 
わざとらしくぼやいて見せるが、無論そこに悪意などはなかった。 
「その上、上等な洋物のシャツまで血で汚しちまった」 
対する辰も軽口を返す。 
ギンコの服は、見れば辰の血やら泥やらで台無しだった。 
「なぁに、洗えば落ちるさ」 
──それよりも。 
それよりも、辰の語尾が僅かに震えていることが問題だった。 
何と不器用な男か、とギンコは思う。 
わざわざそのために、弟の目を遠くにやったというのに。 
だから、無粋を承知でギンコは口に出して言う。 

「──なぁ、泣いてもいいんじゃないか?」 


──その言葉が、引き金となった。 

肉親を次々と失い、頼るべき相手もいないまま、それでも弟の前では気丈に振る舞ってきた兄。 
実父に殺されるかもしれないという恐怖。いざとなればその父を殺めてでも弟を守らねばという義務感。 
そして、その恐れていた父の姿に自分自身が近付いていくことへの不安──。 
胸の内でずっとわだかまってきたものが氷解する瞬間だった。 
すすり泣きは程なくしてくぐもった嗚咽に変わったが、それが号泣となるのにも時間は掛からなかった。 
シャツの左肩の辺りが力いっぱい握りしめられ、そこに大粒の涙がとめどなく零れ落ちた。 
背中で声を上げて泣く辰の身体は、日頃ギンコが背負う薬箱などよりもずっと重かった。 
だが、彼が幼い頃から背負ってきたもののほうが、遥かに重いはずで。 

二人のほかには誰もいない山の中、慟哭が木霊する。 

狐が一匹、驚いたようにこちらを見ると、慌てて茂みの中に飛び込んだ。 

(少しゆっくり行こうかねぇ……) 

ギンコはそれと気付かれぬ程度に歩調を緩める。 
ほんの少し──せめて、この家族思いの優しい青年の涙が、村に着く頃に乾いている程度には。 

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! 
久々にアニメ観たら再燃したので投下 
辰兄は一話だけには惜しい良キャラでした 
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