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#title(並行世界のステイルメイト-3) 生 鯨人 蟻→霧 ちょっとエロい |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! ふいに手を強く引かれ、視界がぐるりと回った。 天井と、怖ろしいほど無表情な顔が僕を見下ろしている。 押し倒された、と半拍遅れで理解した瞬間、口づけられた。 「ん、むっ」 手首がつかまれて、シーツの海に沈む。青くさい匂いが鼻をつく。視界のすみに、コンドームの殻が見えた。 くぐもった吐息が、口中で溶ける。ん、と鼻にかかった声が自分の喉から出た。 伊静くんは舌が触れ合うとすぐに唇を離して、僕のベルトに手をかける。 「っ、!?な、なにすっ……」 ずる、とズボンを下着ごと下ろされて、「やめろ」と声が出る。 「汚い、洗って、な」 「そっちかよ」 伊静くんは構わず、まだ縮こまった『それ』に口をつけた。ひ、と小さい悲鳴。 自分の声だと遅れて気づく、ちゅぷっとぬかるんだ音がして、温かいものに包まれる。 「やめ、ろっ……やだ、って」 髪をつかんで引き剥がそうとしたが、伊静くんは構わずじゅるると音をたてて吸い上げた。 下腹のあたりに、どろりとしたものが溜まる。 「あっ、あァっ、やだ、くるっ……!」 僕は思わず、つかんだ髪を強く引いて押しつけた。脳天まで突き抜ける快感に恍惚としていると、 くぐもった呻き声がする。当然吐き出すと思ったのに、伊静くんは口で手をおさえて、 何回もえずきながら呑みこんだ。 これはまさか、この世界の僕がさせていたのか。こんな変態行為を強いるなんて、何があったんだ!? 「伊志井、さん」 伊静くんはぷちっとシャツのボタンを外して、まだ混乱している僕に跨がる。 「お、おい、まさか、やめろ。僕はそんな……えっ?」 ぱたんっと。紙の人形が倒れるように、伊静くんはベッドに沈んだ。 「え?おい、伊静く……あっつ!!」 ひたいに手を当てると、火傷しそうなほど熱い。 「き、君っ、こんな熱で運転……いや、収録したのか!?」 ひとまず寝かせようとして、彼の家に風邪っぴきの娘さんがいたのを思い出す。つまり感染源はその子だな。 「……しかたない」 ◆ 熱に浮かされた伊静くんが教えた住所には、分譲マンションがあった。 「おい、オートロックじゃないか。番号は」 「0322……」 なんで暗証番号が僕の誕生日なんだ?不用心だ。さっきの事もあって気味が悪い。 「よし、開いたぞ。部屋は?」 「20……」 そこで、首はがっくりと落ちた。自分より重い体を引きずって、なんとかエレベーターで最上階まで行く。 伊静、と表札の出た扉を見上げると、急に緊張感が出てきた。 この向こうに、伊静くんが歩む可能性のあった『人生』がある。そう考えると、胸の奥がざわざわする。 とりあえずインターホンを押した。 はーい、と可愛い声がして、扉が開かれる。 「……パパ!?」 出てきたのは、女の子だ。伊静くんにはあまり似てない、可愛い子。 ひよこ柄のパジャマで、ひたいに冷えピタを貼っている。その子を見た瞬間、僕の中のざわめきはもっと激しくなった。 「おじさん、パパどうしたの、ねえ」 「あー、いや……その、風邪が、伝染ったみたいなんだ。ママは?いるかい?」 そう聞くと、女の子は泣きそうな顔になる。 「おじさん、変だよ……なんでそんなこと言うの」 「えっ?ああ……ごめん」 とりあえず謝っておく。伊静くんを着替えさせて寝かせる間、娘さんはずっとこっちを見ていた。 「お粥でも作ろうか」 「うん」 伊静くんの家は僕の家と正反対に、ちゃんと片付いている。まるでモデルルームだ。僕はヒントを探して、 リビングのソファにランドセルが放られてるのを見つけた。 『いしづか さや』と書かれてるのをちらっと見て「さやちゃん」と呼びかける。 「おじさん……なんか、おじさんじゃないみたい」 ぎくっ。鋭いなこの子は。さやちゃん(漢字不明)と向かいあって、僕もお粥をいただく。 「おじさん、泊まってくの?」 「駄目かな。ママが怒らなきゃいいんだけど」 「ママはずっといないよ。知ってるでしょ」 さやちゃんはちょっと怒ってる。なるほど、父子家庭だったのか。しかし僕ならともかく、伊静くんが 結婚生活につまずくのは想像つかないな。失礼だが、浮気される姿は簡単に想像できる。 「おじさん、おやすみ」 「ああ、おやすみなさい」 さやちゃんは、襖が閉まるまでじっと僕を見ていた。相方の娘ながら、薄気味悪い子だな。 布団からは、伊静くんの吸っていた銘柄のタバコが微かに香った。和室を見回して、仏壇を見つける。 そこの遺影を見た瞬間、僕の心臓は凍りついた。まだ成人したてのような、可愛い女の子。 僕たち蟻霧の漫画を描いてくれていた、あの子だ! 『わたしの漫画、読んでくれたんですか?――うれしいです!』 ずっと昔、はにかみながら喜んでいた姿が思い出される。 もうずいぶん会ってないが、僕のいた世界では元気に生きているはずの、彼女が―― 伊静くんの、お嫁さん? 下の引き出しが、少しだけ開いている。開けてみると、結婚式の写真が出てきた。日付は2007年。 紙吹雪を浴びている、笑顔の新婚夫婦。後ろで拍手する友人たちの中に、この世界の『僕』もいた。 「え……」 驚いて、しばらく写真を見つめる。 この世界の僕は、ぞっとするほどの無表情だった。とても晴れの日にはふさわしくない表情。 「君は……伊静くんを、好きだったのか?」 写真の僕に問いかけても、答えが返ってくるはずはない。仮に、そうだとして。あの手錠や、散らかった部屋からは 愛情と呼べるものなど見えない。この世界の僕らは、ずいぶんと拗れた関係のようだ。 僕はため息をついて、写真の下にあった手紙を読んだ。 『おめでとう!バツ一の伊志井からは、厄除けの意味で 倍のご祝儀をもらっておくように。 PS:名付け親は俺が予約済みや!残念やったな、伊志井! 村太シ者』 やっぱり。さっき、877マンの後ろにいた男は、村太さんだったのか。記憶より老けていたから、 一瞬分からなかったが……僕と目が合うと、逃げるように行ってしまった。 「聞きたいな。……いや、聞かなきゃきっと、後悔する」 きっとあの人は、何かを知っているはずだ。胸に空いた小さな穴に手を当てて、決めた。 ◆ 「……ごめん、ちょっと、まずは話し合おうか」 俺はとりあえず、伊志井さん(?)を家に連れて帰った。とりあえず、この人は家に泊めるとして……いや、 俺は伊志井さん家の合鍵持ってないし。そんだけだから! (俺は誰に言い訳してんだ)……別人、かな。うん。明らかに別人だろ。 服もちがうし、話し方もなんか、親しげだし。つまりあれだ、小説なんかによくある、あれだ。 「えーと……もしかしてお前は、パラレルワールドの伊志井さん、みたいな?」 「その通りだよ。君は理解が早くて助かる」 さすが相方だね、と笑ってる伊志井さん。正直ちがうって言ってほしかったよ。 「あ、一応“元”相方だからな」 「待て、まさか解散したのか!?」 「え、ああ……2016年の、大晦日に」 「そこまで長くやっていて、なんで解散なんか……」 なんで。それは俺も11年考えて、分からなかったよ。どこから歯車がちがう方向に回ったのかも、もう思い出せないんだから。 心臓のあたりが冷えてくる。シャツの上から穴を探ると、最近また広がった『穴』から肋骨が触れた。 「伊志井さんが……お芝居、やりたがったから……かな。 いや、俺のせい、かも」 「君の?」 「ん、俺がもうちょっと……ちゃんとした相方だったら……色んな人に、言われてたしね。 君がもっと頑張らなきゃ、って。……頑張った、つもりだったん……だけど、なあ」 あ、やばい。なんか目尻が熱くなってきた。別に悲しいとか思ってないはずなのにな、なんでだろ。 「……ごめん、ちょっと思考が追いつかないから、飯作ってくる」 俺はとりあえず逃げる事にした。伊志井さんはなんとなく察してうなずく。 「その間、風呂でも入ってなよ。料理しながらちょっと頭落ち着かせるからさ」 そうだ、まずは落ち着かないと。そして、明日からの予定を考えるんだ! 俺は自分に言い聞かせながら、料理を始めた。 「出たよ」 湯気の中、全裸で出てきた伊志井さんに、俺は「服を着て出ろよ!!」と怒鳴った。 「服がないんだ」 「そこにパジャマ出てんだろ!?その、畳まったやつ!」 「ああ、これ……「それはシーツだって!」 ぶら下がってるのを視界に入れないようにしている俺に、伊志井さんは「なんだ、君の大好物だろ」と 近づいてくる。ボケだよな?ボケで言ってんだよな!? 「とっ、とにかく着がえろって。冷えるだろ」 パジャマを押しつけると、伊志井さんは目をぱちぱちさせて、ちょっと笑った。 「いいな、君がこんなに優しいんなら、ずっとこっちにいてもいい」 「え?」 「冗談だよ」 伊志井さんはパジャマに着がえながら「これ、君には小さいだろ」と聞いてきた。 「形見だよ。……村太さんの」 あの人は、よく俺に古着をくれた。形見になった後はしまっておいたのが、役に立つとは思わなかった。 でも、俺が着れないのは分かるだろうに。やっぱりあの人は、伊志井さんにって意味でくれてたのか。 今となっては分からない。 「村太、さん……?おい、それはどういう」 「死んだよ。もう12年も昔に」 伊志井さんは下を向いた。しばらくもごもご言葉を探して、「こっちでは、元気に生きてる」と呟く。 「そっか。よかった」 もう会えない事に変わりはない。だからよかったとしか言えないのに、伊志井さんはちょっと眉をひそめた。 そこで、俺のスマホが鳴った。伊志井さんは座らせて、電話に出る。 「はい、もしもし。……伊志井ですか?いえ、いませんよ」 ソファの伊志井さんをちらっと見て、囁く。ベランダに出るまでの間、伊志井さんのマネージャーはずっと怒鳴っていた。 『ロケの休憩時間に出ていって、帰らないんですよ…… 明日は映画の撮影なのに、どうしてくれるんですか!!』 どうしてくれる、と言われても。伊志井さんのスマホは、持ち主と一緒にパラレルワールドだ。出ようがない。 「……元相方に聞いてどうするんですか」 『もう手がかりは全部聞いたんです……あとは伊静さんしか』 「とにかく、俺にはどうしようもないんで、撮影はキャンセル『明日来なかったら出演中止になるんですよ!?』 ……じゃあそれでいいですよ!!」 リビングに戻ると、もう一人の伊志井さんは、心配そうな顔で俺を見ていた。 「ほら、食えよ」 「どれどれ……んっ、美味いじゃないか。特売のコロッケで食いつないでた子が、成長したね」 「それ、俺がハタチくらいの話だろ?」 俺たちは、薄っぺらい会話をしながら食事をした。 それが辛いのか、伊志井さんがそわそわし始めたので、「そっちはどんな感じなの」と聞いてみる。 どうやら、伊志井さんが降畑のオファーを断って。お笑いコンビとしてがんばりましたって感じの世界みたいだ。 もったいないね。伊志井さん、いい声してるのに。 「こっちの君さ、結婚してるよ。可愛い娘さんもいる」 「えー、嘘だろ。俺なんかにお嫁さん来てくれたの?」 「君の大ファンだった人。ここまで言えば分かるんじゃないか」 伊志井さんは、なぜかこわばった表情で、向こうの俺と嫁さんのなれそめを語った。 「ところで。こっちの蟻to霧ギリスは、どんな歴史を辿ったのかな」 ……そうだよな。そう来るよな。 俺は言葉を選びながら、11年のコンビ時代について話す。伊志井さんはずっと、暗い顔で聞いていた。 「一つだけ、いいかな」 「いいよ」 「君は、こっちの僕をどう思っていたんだい?」 「大嫌いだった」 そう答えると、伊志井さんは打ちのめされたみたいになる。 「……って言えば満足する?」 教えてやらない。お前にも、向こうにいる『俺の』伊志井さんにも。俺の心なんか、絶対に見せてやらない。 「どうして」 伊志井さんは、やっとそれだけ言って、両手で顔を覆うのにちょっとだけ満足する。 ――指先に触れるむき出しの心臓が、また脈を打った。 ◆ 朝。起き出してリビングへ行くと、伊静くんはもう起きていた。 何食わぬ顔でコーヒーを飲みながら、スマホを見ている。目が覚めたら元の世界に戻ってるんじゃ ないかと思ったけど、さすがにそれはなかったようだ。 「……おはよう」 伊静くんは顔を上げておはよう、と素っ気なく返す。その後ろで、さやちゃんがセーラー服の スカーフと格闘していた。ランドセルには『3年1組』とあるのに、まだ着れないか。 「さや、行ってらっしゃい」 ちゅっとリップ音が聞こえた。なんだ、僕にはあんな態度をとるくせに。あんな優しい顔して。 ……胸の穴が、ずきずきと痛みだす。 「あ、そういえば……車、僕の家に置きっぱなしじゃないのか?」 黒い感情を隠して言ってみると、伊静くんはああ、と思い出したようだった。 「あとで取りに行く。……聞かねぇの?」 「何を」 とぼけてみると、伊静くんは冷やかすように「中身もアリか」と言って、スマホに戻った。 なっ……な、な、なんなんだ!僕は何も知らないんだぞ!僕の知ってる伊静くんと性格違いすぎないか!? 謎のいらいらは、稽古場に行ってからも消えなかった。 「よっ、異世界人」 にやにや顔の下等が、肩に手を回してくる。信じる気になったのかと思ったが、「伊志井はそんな 自然な演技できねえだろ?」とのこと。伊静くんといい、辛辣すぎないか君たち。 「そうだ、気になっていたんだが……こっちの僕は、どんなキャラクターなんだ? 打運他運さんにも"今日明るいな"ってびっくりされたんだが」 「んー、ネガティブクズ?KOCのキャッチコピーはしびれたね。"キング.ルサンチマン"」 そうか、こっちの『僕』は劣等感をこじらせたキャラで売ってるのか……。 「あ、お前さあ。昨日生放送でやらかしたじゃん。マネージャー怒ってたぞー。 罰として今日の百太郎商店、伊静だけだってさ」 「ハァ?自重課長が来んだぞ、今日。こっちが一人でどうすんだよ」 あ、まずい。伊静くんの機嫌がまた悪くなってる。ていうか百太郎商店、まだ続いてるのか。長寿番組だな。 「お前、ほんっと自重課長好きな」 下等が笑うと、伊静くんはそっぽを向いて「甲本、同い年だし」と答えた。 伊静くんが出ていくと、下等は「ハァ……」とため息をつく。 「あいつさ、いつからあんな天邪鬼になっちまったのかなぁ」 「え?」 「あ、そっか。お前は知らねえのか」 下等は話していいものかどうか、迷っていたが、僕が真剣に知りたがってると分かると座った。 「だいたい予想ついてると思うけどさ、お前らって人目がないとこでは冷えてるよ。仲良しコンビで売ってんの。外には」 「それは……よくある話じゃないか」 「うん。お前がネガティブなキャラで、伊静は天然ボケでやってるけどさ。見ての通り。 あいつ、なんでも逆に言うんだよなぁ。実際は井之上の方が仲良しなくせによ」 そこで、誰かが稽古場に入ってきた。下等はその人に何か耳打ちして、「じゃ」と離れる。 「伊志井、おはよさん。……なんや、幽霊でも見たみたいな顔して」 「……村太さん」 僕はなんとか立ち上がって、その人と向かい合う。この人はきっと、僕に答えをくれる。生前そうだったように。 「教えてほしいんです」 そう言った僕に、村太シ者はにっこりと笑った。 □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! どこかから怒られたら土下座します。 (ゲーム芸人の走りみたいな人たちだったのになー) #comment