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Title(きらいなはずだった冬に。)
#Title(きらいなはずだった冬に。)
ショウギ 生ものです。クンショウ授与記念。エロなし。ふいんきのみ 
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 

ここ数日は寒い日が続いていたが、今日は久し振りに雲間から太陽が覗いていたため 
か、空気も心なしか暖かく感じた。寒がりの休光としては何とも有難い限りだった。 
足取りも軽やかにショウギ会館の玄関から出ていこうとするのを、後ろから呼び止めた声 
があった。 

「あの、ちょっと……会長?」 
「え?……あ、ああ、盛内さん?」 

大きな背を少しくかがめ、盛内がはにかみ笑いを浮かべているのを、休光は怪訝な顔 
をして振り返った。たった今まで連盟の事務室で、二人して顔を突き合わせて仕事を 
こなしていたのだ。なにか連絡漏れでもあったのだろうか。 
微笑みながらも言いにくそうに口籠っていた盛内から、意外な言葉がこぼれた。 

「いや、あの、砂糖さん……例の、クンショウの…祝賀会の件なんですけど」 
「な、なんですか盛内さん?何か手違いでも?」 

慌ててつい早口になってしまった休光を、ひらひらと手を振って盛内が制する。 

「いやいや、そうじゃないんですよ……ただちょっと気になったので」 
「…なんですか盛内さん。勿体ぶらないではっきり言ってくださいよ」 

会長職に就いてからは、より一層丁寧に応対することを心掛けているはずの休光の口ぶ 
りに珍しく刺が含まれていた。盛内は穏やかな笑みを浮かべながらも、話の核心に中々 
触れようとしない。はぐらかされていることで、普段押し隠していた休光の一途な性格 
が露わに出てしまった。
「いえ、あの……クンショウを頂く時って、確かモーニングか紋付を着ていかなきゃいけない 
んでしょう?」 
「あ、はい、そのような書状が届いていましたね」 
「あの、でも、その、授章の祝賀会には……和服で行かれますか?」 
「え?ええ、まあ、そのつもりではいますけど、それが……?」 
「何色系ですか?」 
「…………はぁ?!」 

休光は思わず大声で叫んでしまった。この男は一体何を言い出すのだ。 

「…いやぁ、何と言っても桧舞台じゃないですか。いつもはそんなこと気にしませんけど 
この間子供に言われましてね、『お父さん、折角なんだからインスタ映えするようにきち 
んとしていってね』なんて…その時に、来て下さる皆さんに写真撮られるのに、二人で着 
物の色がかぶっちゃったら申し訳ないな、と思いまして…その前に伺っておこうかと」 

最早デレデレとした笑みにしか見えない表情で盛内は長広舌を振るった。 

なんだ。俺相手に惚気か。惚気なのか。 
唖然としてその顔を見詰めていた休光は、やがて自分の身の内にふつふつと暗い感情が湧 
き上がってくるのを覚えていた。 

「………教えません」 
「…え?」 
「ぜっっっっっ対に教えません!」 

普段の低い声音が金切り声のように裏返る。そのままくるりと踵を返すと、休光は呆気に 
とられた顔をしている盛内を残して自分の車へ乗り込んでいた。 

(…何やってんですか、一体……いい大人が、恥ずかしい……)
自分をこのような理不尽な行動に駆り立てた感情が自分自身で理解できない。どさっとシ 
ートに身を埋め、休光はハンドルに顔を伏せた。 
馬鹿だ、馬鹿だ、馬鹿だ。心の中で何度も繰り返す。自分の間抜けさに、余りにも無礼な 
振る舞いに、我が事ながら腹が立ち怒りで目尻が熱く滲んだ。 
…このまま別れてもいいのか。こんな想いのままでこの地を後にしてもいいのか。 
傍目に分からないようにそっと拳で目を拭って顔を上げると、困った顔で頭を掻きながら 
盛内が窓を覗き込んでいるのが見えた。 

「あ……あの、砂糖さん、すみませんでした、僕何か気に障ること言ったみたいで」 
「…………」 
「申し訳ないです、本当にすみませんでした」 

勝負の時ならいざ知らず、盛内は嘘のつけない男だ。こんな風に大きな身を縮めて腰を屈 
めているのは、心から済まないと思っている時だった。自分がそれ以上に嘘のつけない男 
であることを脇に置いて、休光は気まずそうに頷いた。 

「…いえ、何でもないんです。僕の方こそ失礼しました…変な勘違いをしたんです、多分」 
「……」 

その時休光の目に、夕闇に沈みかけた空の色が映り込んだ。自分に向いていた視線が背後 
に移ったことに気づき、盛内は不思議そうに目を瞬いた。 

「……暗い色です」 
「…え?」 
「暗い色の着物を着ます。だから、君は明るい色で」 
「………はい」 
「すみませんでした、本当に。盛内さん、じゃぁ、これで」 
「はい、では……お疲れ様でした」
互いに深々と頭を下げ合い、休光は車を前へ進め、盛内は再び会館の方へと向かった。もう 
仕事は済ませたはずだが…そうか、カバンでも取りに戻ったのか、ぼんやりと休光は思って 
いた。 
…何が自分の心をあのように掻き乱したのか。分からない、分からないが……ぶんぶん、と 
勢いよく頭を左右に振る。もう考えるな、運転に集中しろ、休光はそう自分に言い聞かせな 
がらハンドルを左に切った。それを柱の陰で手に汗握りながら見送っている数人の騎士や職 
員がいることを、二人共気づいていなかった。 


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! 
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