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*三味腺屋×カザリ職人 [#x15622d2]
#title(三味腺屋×カザリ職人) [#x15622d2]

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 | __________  |    ̄ ̄ ̄V ̄ ̄|  ちょっとダークな展開ぽいよ 
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 | | |> 再生.        | |              ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 
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三味腺屋がやや壊れてます。 



月の光の中では、桜はこれほど違った姿を見せるのか。 
昼間その下に座っていた樹と同じとは思えず、ヒデは立ち止まってしばし眺めた。 
幹の高さも枝の広がりも変わる筈はないのに、ヒデを手招くように夜風に揺れる花が 
ひどく艶かしく見える。ヒデは引き寄せられるように根元へ近づき、そのまま足をかけてよじ登った。 
太い枝に腰を落ち着ければ、文字通り花の中に埋もれ視界が桜一色に染まる。 
幾重にも重なった花は寄せては引いて葉を鳴らし、目と耳の両方から 
花に捕らわれる錯覚にいつのまにか陥りかけている。 
香りがあるわけでもないのに、むせ返るような息苦しささえ感じた。 

ふと、足音が聞こえた。 
さらさらと鳴る枝の音に意識を飛ばしかけていたヒデは、一瞬で我に返った。 
身を起こし声を出そうとして、はっと動きを止める。 
ここに来るはずの男のものではない。 
ヒデは油断なく身構えて、そしてすぐに息をついた。 
「…お前ェか」 
いつもの着流し姿のユウジにヒデは気まずげに目を逸らした。 
自分がこの時分にここにいる理由を、勘のいいこの男なら察しがついているだろう。 
知っていて茶々を入れに来るほど野暮ではないと思っていたのだが。 
いや、それとも夜遊び帰りに女でも連れてきたんだろうか。そんな考えを巡らせていたヒデは 
黙ったままのユウジの様子に気づかなかった。 

わずかな音が、風を切った。 



「──── !?」 
気づくのが遅れた。黄色い三の糸は正確にヒデの右手首を捕らえていた。 
「何しやが…っ!」 
容赦なく糸を引かれ、ヒデは枝から転げ落ちた。咄嗟に受身を取ったものの、 
きりきりと音を立てて糸が手首を締め上げる。 
「おい!何のつもりだ!」 
ユウジは応えない。月明かりの中、月よりも冷たい視線がまっすぐにヒデを見つめている。 
力比べでユウジに勝てるはずはない。ヒデは少しでも痛みを緩和させようと糸を手元に手繰り寄せた。 
少しずつユウジのほうに近づきながら様子を伺う。 
「仕事の練習台か?それならそうと言わなきゃわからねえよ」 
「…なに、確かめてえことがあってな」 
行動と表情に反し、声は穏やかだった。 
「お前ェがどうしてえのかだよ。それがわかりゃ俺も腹が決まる」 
「…?」 
もう一本、糸が飛んだ。 
同時に足を掬われ、一瞬身体が宙に浮いた。直後に地面に背中をしたたか叩きつけられる。 
衝撃に目を閉じて、開けたときにはユウジが目の前にいた。 
「な…!」 
片手で腰を抱えられ軽々と桜の根元へ運ばれる。わけのわからない状態にヒデは抵抗もできなかった。 
ごつごつした幹に押しつけられ、ユウジの顔が改めてはっきりと見えた。 
ヒデは息を呑んだ。 
初めて見る顔だ。 
仕事を遂行する際の冷酷さとも、いつもの皮肉めいた表情とも違う。 
自分を戯れに抱くときの顔でもなかった。 



二人が関係を持つのは、特に理由があるわけでもない。身体の相性がいいからと言ったヒデに 
ユウジはただ笑っていた。 
昼間、仕掛けてきたユウジに応えながらお預けを食わせても、さっさと引き上げていった。 
「三味腺屋、お前ェ…」 
今のユウジの目に、遊び慣れた余裕はない。 
初めて見せられた本音の欠片に、ヒデは声が出せなかった。 

「ヒデよ、お前ぇはどうしたい?」 
まっすぐな想いを抱えた心に興味を持ったのが始まりだったはず。 
くたびれた後姿を見つめる子犬が不憫で構ってやっていただけ。 
ふとした悪戯心をヒデは拒否しなかった。何故かなどどうでもよかった。 
惹かれていったのは本当だ。だが、互いにただ楽しんでいた。それだけだ。 
ユウジはぎりぎりのところで理性を保っていた。 
欲望とも違う、殺意とも違う、ずっと凶暴な感情が暴れだそうとしている。 
自分はどうしたいのか、自問し続けて答えは出なかった。 
ヒデから答えが得られるとは思っていない。それを言うならお互いさまだ。 
では今、自分は何をしている。このままどうしようとしている。 
一方的に、自分でも整理のつかない感情をぶつけて、どう言わせたい? 



自分より少しばかり年上というだけで、常に余裕綽々な態度が気に食わなかった。 
心のうちを見透かすような、いつも涼しい眼が癪に障った。 
そして本当に心に隠していたものを知られて、初めてゆっくり話ができた。 
伸ばされた手に、少々乱暴な行為に逆らわなかったのは、 
追いかける背中があって、それでも熱い手を拒まなかったのは、 
普段そっけない会話しかしないくせに、気がつくと側にいたから。 
あの男に追いついても隣に並べないことを、その間は忘れられたから。 
────それだけか? 
無意識に考えないようにしていたことを、この場所で、こんな形で突きつけられるとは。 
(しっぺ返し、か…) 
冷淡な仮面の裏を垣間見たときの、ぞくぞくするような感情は紛れもなく本物。 
その熱に溺れたのは忘れるためだけではない。欲しかったから。それが欲しかったから。 
それを告げたらこいつはどんな顔をするだろう。 
いや、それを告げる資格が自分にはあるのか。ヒデはただユウジを見つめた。 

三本目の糸が、頸にかかった。 



「ゆう、じ…」 
じりじりと糸を引く。柔らかい人体に食い込む感触が妙な興奮を呼び起こす。 
大きな目が見開かれ、わずかに逃れようとする動きを片手で封じた。 
唇が何かを紡ぎだそうと動くが、やがて乾いた空気が押し出される音に変わった。 
震える右手がユウジの肩を掴む。その手首に残る糸の跡がやけに目についた。 
このまま最後まで行くのか。他人事のようにぼんやりした思考と、このままでは 
取り返しがつかなくなると警告する声が、同時に頭の中でせめぎあう。 
それでも糸を握る手は止まらない。ヒデの顔色がどんどん変わっていく。 
逸らした喉に食い込む糸が、頸の細さを際立たせ目が離せない。 
あと少し、あと少しで… 

あと少しで────? 

ユウジは弾かれたようにヒデを突き飛ばした。よろめいて二、三歩後ずさり幹に寄りかかる。 
痩身が放り出されて地に転がり、激しく咳き込んだ。わが身を抱えるように身体を丸め 
何度も息を吸い込んだ。呼吸と血流が一気に戻り、ぐらぐらと眩暈がして起き上がれない。 
肺が痛みを訴えるほど吸って吐いて、全身が震えて止まらなかった。 
ユウジはただ棒立ちのままそれを眺めていた。まだ手には生々しい感覚が残っている。 
「行け…はやく…」 
激しい呼吸の合間、途切れ途切れの声が上がった。 
「…ハ丁堀が…来る…」 
知っている、と言おうとしてやめた。 
わずかな逡巡の後、ユウジはヒデを担ぎ上げ、そのまま歩き出した。 
「おい…!」 
「黙ってろ」 



足音を殺し、大の男一人を担いでいるとは思えない速さでユウジは店へ戻ってきた。 
ようやく呼吸の収まったヒデを下ろし、すぐさま水を汲みに土間へ向かう。 
互いに一言も発しない。 
顎を上げさせれば、鮮やかな赤い糸が頸にくっきりと残っている。 
手足にもあるこの跡が消えなければいい、そう思っている自分をユウジは自覚していた。 
そこへ手拭を当てると冷たさと痛みにヒデが眉が顰める。 
傷薬を出そうとすると「放っときゃ治る」と呟くように言った。 
重い沈黙が降りた。 
このまま閉じ込めてしまおうか、そんな考えが性懲りもなく浮かび、 
ユウジは振り切るように口を開いた。 
「ヒデ」 
手拭を握る手に知らず力が篭る。 
「このまま行ったんじゃそれの説明がつかねえよな」 
意地悪く赤い跡を指してみせると、ヒデがゆるゆると顔を上げた。 
「ハ丁堀のこった、とっくに気づいてるんだろうがな」 
黒い目がいつものように上目遣いで見上げてくる。 
こんな状況になってまでそんな顔をするなとユウジは内心ため息をついた。 
「どうする。俺に殺されかけたって言うか?」 
「言ってどうなる」 
即答され今度はユウジが黙った。 

「殺りたいほど…俺が憎いか」 
「ああ、憎いね」 
低く呻くようにユウジが一歩踏み出す。 
「ここで殺ってもいいぜ」 



糸ではなく大きな手がゆっくりと頸を掴んだ。 
冷たい指に力はなく、掴むというより包むような触れ方でヒデを捕らえる。 
燭台の明かりが頼りなく揺れ、二人分の影が重なって踊った。 
背中を壁に押しつけられたヒデに逃げ場はない。 
ぎりぎりまで顔を寄せ、互いの呼吸がわかるほどの距離で見つめあう。 
手のひらに乱れのない脈動を感じ、ユウジは妙な高揚感が湧き上がるのを感じた。 
文字通り、ヒデの命は今ユウジの手の中にある。 

「俺と寝たのは、上手いからか?」 
ユウジらしくもない投げやりな質問は、その答えを求めていなかった。 

「そうだったらいいのにな」 
小さな声はわずかに震えていた。 


両手が頸から外れた。 
「…頭冷やしてくらあ」 
ユウジは三味腺を掴んで立ち上がった。 
「おい」 
「俺が戻ってもまだいたら、どうなっても知らねえぞ」 
「ユウジ」 
「帰ってろ」 
振り返らず、ユウジは襖を閉めた。 



「…で?」 
早朝の長屋、まだ起きだす者もまばらな頃に、ユウジはノミを片手に憮然と立っていた。 
馴染みの店でしたたか飲んで、帰ってみれば無造作に置き去られたカザリ職人用のノミが一本。 
一気に酔いも醒めた。あの男が職人の命と言える道具を置き忘れるはずがない。 
「……」 
ばつが悪そうに梯子の上から見下ろしてくるヒデ。こちらも疲れた目元にクマが浮いている。 
「本当に性悪だなお前ェは」 
「うやむやのままじゃ落ち着かねえ」 
ぼそりと言い訳めいた口調で言い、ヒデは一階へ降りた。 
俯き、口ごもり、やがて声が聞こえた。 
「お前ェの言い分、聞いてねえ」 

ユウジは無言のまま荒っぽくヒデを引き寄せた。一瞬だけ腕に閉じ込め、すぐに離す。 
そのままふいと背を向けて障子を開けた。 
「ハ丁堀に夜道でバッサリは御免だぜ」 
複雑な表情のヒデを肩越しにちらりと見て、ユウジはさっさと長屋を後にした。 


それからユウジは何かと理由をつけて花見の席を断り続けた。 
数多の女たちがやきもきするうちに桜の時期は過ぎ、花は儚く散っていった。 



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 | | □ 停止        | | 
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この二人は難しいです。 
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