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67-580 の変更点


#title(その男に騙されるな)

半生注意。 
外事けいさつ 元上司×主人公。映画の後の設定です。 

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 

大臣との非公式な折衝、と言えば聞こえはいいが、要は言い訳と根回しだ。 
高級クラブからようやく辞去した倉田は、禁煙して久しい煙草を無性に吸いたくなった。大臣が下戸だったので、不味い酒を飲まずに済んだのがせめてもの幸いか。 
ソウルでの一件にあの男が絡んだお陰で、尻拭いが結局倉田の元に回ってきた。嫌味の一つでも言ってやりたいが、当の本人が今どこで何をしているのかも分からなかった。 
送迎を断って駐車場へ続く路地を歩いていると、店の裏口から罵声混じりで追い出された男とぶつかりそうになった。その顔を見て、倉田が固まる。 
―嫌いだな、その顔。かつて倉田自身がそう評した本人だ。 
男はそのまま壁にもたれてズルズルと倒れ込んだ。靴先で小突いてみたが、目覚める気配は全くない。 
「…何なんだ一体」 
苛々しながら携帯に手を伸ばすが、状況を考えると所轄なり部下なりを呼んでいいものか判断しかねた。人を呼んで余計な詮索を受ける可能性は?このまま放置して問題が起きる可能性は? 
この男がどんな背景を抱えてここにいるのか見当がつかない。目の前の男はそういう男だった。 
元警視庁公安部外事四課〈公安の魔物〉住本健司。 

住本を後部座席に乱暴に押し込んで、倉田は車を発進させた。首都高を走りながら、痛むこめかみを軽く押さえる。 
どうしてこんな状況になったのか。 

ルームミラーに写る住本は、完全に泥酔して動く気配もない。深く考え過ぎて保護してしまったが、こいつは単にプライベートで飲み過ぎただけじゃないのか。倉田は段々腹が立ってきた。 
あれこれ逡巡している内に、車は首都高を降りて自宅前に着いてしまった。 
「…いやいや、あり得ない」 
妻子とは別居中で家には誰も居ないが、あり得ない。いまさら道端に放置するのも躊躇われた。とりあえず車内に放置しようとすると、住本が呻き声をあげて口を手で押さえた。 
「…うっ…」 
「待て待て待て!」 
慌てて玄関の鍵を開け、トイレに押し込む。 
悪い夢を見ているような気分だった。 

普段全く使っていない客間に、布団を敷いて住本を転がした。水でもかけてやりたかったが、後片付けが面倒になるので止めた。 
住本は吐くだけ吐いたらすっきりしたようで、胎児のように丸くなってまた寝てしまった。部下だった頃の住本しか知らないが、度を越して深酒するような甘さに微かな違和感を覚えた。 
そもそも、こんなに間近で住本を見たのは初めてかも知れない。 
執務室で相対していた時は意識しなかったが、身長の割には肩幅が狭く、長い手足も身体も棒のように細い。ファイルで見た12歳の少年の面影が重なった。父親を亡くした直後だろうか、写真の少年は痛々しいほど暗い眼をしていた。 
住本の過去に、倉田が同情を感じなかったと言えば嘘になる。父親は職務に殉じながら組織の捨て駒にされ、母親は息子を置いて自死した。ただ一人残された住本は、何を思って父親と同じ職を奉じたのか。 
住本は法も仲間も警察も一切信用していない。有能さがそのまま組織の危険因子になるからこそ、倉田は部下だった住本が疎ましかった。
だが住本が組織を離れてなお、未だに自分の気持ちを苛立たせる理由は―倉田は住本の寝顔を見つめて、小さくため息をついた。 
自傷行為、と揶揄するのは言い過ぎか。住本のやり方は、明らかに公私の境を逸脱していた。〈魔物〉になることで、住本が蔑ろにしているのは住本自身の人間性だった。まるで自分に普通の幸せを赦さないように。 
住本は法も仲間も警察も一切信用していない。有能さがそのまま組織の危険因子になるからこそ、倉田は部下だった頃の住本が疎ましかった。
だが住本が警察を辞してなお、未だに自分の気持ちを苛立たせる理由は―倉田は住本の寝顔を見つめて、小さくため息をついた。 
自傷行為、と揶揄するのは言い過ぎか。住本のやり方は、明らかに公私の境を逸脱していた。〈魔物〉になることで、住本が最も蔑ろにしているのは住本自身の人間性だった。まるで自分に普通の幸せを赦さないように。 
―もう少しラクに生きればいいのに。 
倉田は頭を振って、傍らのタオルケットを投げるように掛けた。 
立ち上がって別室に移ろうとした時、急に腕を掴まれて倉田はバランスを崩した。そのまま住本の上に倒れ込む。 
思わず悪態をつこうとして、倉田は固まった。 

住本が泣いていた。 
何処かが壊れたような無表情のまま、閉じた瞼の端からから零れた涙が頬を伝っていた。 
幼い子供が抱っこをねだるように、住本の腕が倉田の首に回わされた。倉田は微動だに出来ない。状況が把握出来ない。 
吐息のような呟きが、耳元で意味を成した。

「…父さん」 

聞かなかった事にしよう、倉田は思った。 
そのまま安堵したように、住本は倉田の胸に頭を預けた。 
どれぐらい時間が過ぎただろうか。 
静かな寝息を聞きながら、いつの間にか倉田の手は住本の肩をそっと抱いていた。 
混乱と当惑と苛立ちと。それらの感情より、ある願いが胸を占めていた。 
穏やかに眠れればいい。 
せめて今だけでも。 

朝になると、住本の姿はなかった。テーブルの上の走り書きがなければ、昨夜の出来事は夢だと思う所だった。 
ありがとうございました。 
几帳面な文字で、一言だけ書かれていた。 

「住本が今何に関わってるか調べてくれ」 
陽菜が執務室に入ると、倉田局長が書類に目を落としたままそう言った。 
「もう日本にいるんですか?」 
「昨日見掛けた。…ああ見えて、有賀さんは人遣いが荒いからな」 
「ご心配ですか?住本の事が」 
鼻白んだ倉田局長と目が合って、陽菜は笑いをかみ殺した。 
「…申し訳ありません」 
「心配などしていない。犬にはちゃんとした首輪を付けるべきだ。内調で好きにやらせていたら、あいつはそのうち野垂れ死ぬ」 
それってつまり心配してますよね、と思ったが言わなかった。 
「まだあちらに正式に復帰した訳ではないようです。呼び戻しますか?公安に」 
「当面の使い道は?」 
「そうですね、ロシアで動きがあるようです…」 
淀みなく答えながら、陽菜は住本に提供したデータの事を考えていた。 
倉田局長の今週の行動予定。 
何に使うのかと問うた陽菜に、住本は肩をすくめた。 
「転職活動」 
何の冗談かと思っていたが、どうやら住本は内閣調査室の仕事に飽きたらしい。 
有賀室長がすんなりお気に入りを手放すとは思えないが、倉田局長があの様子なら復帰は近いだろう。 
―戻ってきたら、ランチ一週間分は奢ってもらおう。 
執務室を後にした陽菜の表情は、少し楽しげだった。 

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! 

前回レスくれた方ありがとうございました。 
主人公に落とされる元上司が書きたかったのですが、エロまで持ち込めずに残念です。
- 雰囲気が出ていて、すごく引き込まれました。住本ならこのぐらいやってそうです。 -- [[ihara]] &new{2012-09-03 (月) 19:45:32};

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