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65-371 の変更点


#title(夏蝉)
殺し屋さんの不良少年と不良中年の同居話。今回も年下視点です。 
年上×年下を書いていたはずなのに、いつのまにかリバになっていた。な…何を言っているのか(ry 
先月のバックステージや2巻のカバー裏のネタなんかを元に色々と捏造しています。 
当方、単行本派なので本誌の展開はうっかり見ちゃったネタバレ以外知りません。 

※注意(苦手な方は回避して下さい)※ 
元ネタに沿った残酷な表現があります。特に、食事中の閲覧はご遠慮下さい。 

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 

 首折り男の一件が片づいた後、チクタクに事務所兼自宅のマンションを爆破されてホームレス状態、オマケに 
チクタクとの戦いを十日間止めるために岩西が元々持ってた五億、軍隊蟻どもを駆除するのに令嬢(フロイライ 
ン)の寺原とかいう社長と命がけの交渉をして投資させた二億、全部で七億の大金を使い切って軍資金ほぼゼロ 
の俺達は、しばらくホテルで暮らしてから、業界の組織のものじゃないフツーのマンションの二階に住み始めた。 
前の事務所みたいな部屋を借りるためには、たくさん金がいるんだってよ。 
 軍資金の調達といえば、チクタクを敵に回した俺達が死ぬと決めつけてた岩西の知り合いの金貸しの連中だけ 
ど、岩西がチクタクを壊滅させたことを知ったとたんに手の平返してあいつにすり寄ってきた奴らは「今後とも 
ご贔屓に」とか言っておきながらほんのちょっとしか金を貸してくれなくって、岩西の方から連絡した奴らは 
「金のことに関してはお前を信用してるが、今のお前には一円たりとも貸すつもりはない」って言ってホントに 
一円も貸してくれなかったらしい。 
 「一年だ。俺との同居生活を一年だけ我慢しろ。一年以内には、岩西事務所を建て直して、お前が一人暮らし 
する部屋を借りるための名義人を買ってやる」って俺に言った岩西は、殺し屋を必要としてる人間の情報を桃か 
ら買って、俺達のマンションじゃないどっかで依頼人と契約を結んで、標的(ターゲット)の調査をして、俺に 
仕事を殺らせてる。仕事の書類はいらなくなったらすぐに処分して、必要なもんは岩西曰く「どんな天才鍵師で 
も絶対に開けられない金庫」にしまってある。 


 フツーのマンションの二階に住んでるから、当然、近所の人間はフツーに俺達に話しかけてくる。そんで、俺 
達は義理の親子のフリをすることにした。クソ西のこの提案を聞いた時は「テメェみたいなインテリヤクザの子 
供だと思われるなんて冗談じゃねえぞ! どんな羞恥プレイだ!」って殴りかかったけど、「俺だってこんな非 
行少年の親だと思われるなんて恥ずかしい。この設定以外で、どうやって俺達の関係を説明するんだ?」って聞 
かれて、頭使って考えてみたら俺もやっぱり親子が一番しっくりきて、しぶしぶそれに決まった。俺達は「松尾」 
って偽名を使ってる。「松尾芭蕉」っていう有名な詩人から取ったらしい。まあ、偽名っつっても「蝉」って名 
前は岩西がつけたあだ名みたいなもんだし、「岩西」って名前も、あいつが親から受け継いだ名字じゃないのか 
もしんねえけど。 
 引っ越しの近所へのあいさつ回りに付き合わされた時、隣人の家庭持ちのサラリーマンに「お仕事は何をされ 
てるんですか?」って聞かれた岩西が平然と「しがない医者です」と抜かした時は、このオヤジは頭のいいフリ 
した大バカヤローだと思った。あんなイヤらしそうな医者がいてたまるか! うさんくさい昆虫顔が、あの闇医 
者に教えてもらったイリョウ用語を使って日本のイリョウ問題とやらについてべらべらしゃべったおかげで、金 
しか信じられない男をサラリーマンはすっかり信じ込んだ。人の命を助けんのが仕事の医者が、本当は他人を使 
って人の命を奪いまくってきた殺し屋のマネージャーだってわかったら、どんな顔すんだか。ちなみに、俺はコ 
ンビニ店員ってことになってる。どうせなら、俺の設定も頭が良くなきゃできねぇよーな職業にしやがれっての。 
 万が一、俺達の身分を疑う奴がいてもニセの身分証明書があるし、俺達が働いてるってことにしてあるマンシ 
ョンから遠く離れたところのコンビニと病院に直接問い合わせても、岩西が手を打ってあるから俺達の正体がバ 
レることは多分ない。 



 今日のターゲットは、定年間近の刑事だった。それ以外のことは知らねェ。岩西がタレ込んだガセネタに騙さ 
れて、誰も住んでないボロアパートの二階で張り込みをしてた刑事のじーさんは、合いカギで部屋に入った俺が 
ナイフを抜いたと同時に拳銃を抜いて、銃口を向けながら俺を説得しようとした。そんで俺とちょっと会話して、 
話せばわかる相手じゃないって理解したじーさんは一発だけイカク射撃をした後、脳天を刺されて死んだ。俺の 
話を聞いた優しそうなじーさんは、悲しそうに泣いて「わからない」って言ってた。似たような話を聞いた優し 
くないおっさんは、嬉しそうに笑って「わかる」って言ったのに。当たり前の話をしただけなのに、何であいつ 
らが泣いたり笑ったりしたのか、どれだけ考えてもわかんねぇから考えるのはやめた。 

 ムダに遠かった現場からやっとたどり着いたウチのリビングは、節電なんざ知ったことかよって感じでクーラ 
ーがガンガン効いてて気持ちいい。ついでにテレビもつけっ放しだ。そのままキッチンまで歩いて、じーさんの 
ハゲ頭から噴水みてぇに出たアレに似た赤くてどろどろしたソースか何かをフライパンで作ってる背の高いおっ 
さんの隣に立つ。こいつはもう風呂に入ったみたいで、抹茶頭が少しぬれてる。青いTシャツと白のラインが入 
った黒いスウェットっつうラフなカッコで、メガネチェーンを外して髪を下ろしてる岩西は、ビミョーに若く見 
えて誰だかわかりづらい。これで黒縁メガネを外すと誰だか全くわかんなくなる。メガネって顔の一部だよなー。 
「ただいま」 
「おう、おかえり。今日の仕事はどうだったよ?」 
 仕事を終えて疲れた体で帰ってきたケナゲな部下は見ないでフライパンを見たままのジコチューな俺の上司は 
唇をつり上げた。 
「別に。フツーだった」 
「そうか。やくざ屋サンを射殺したことのあるマル暴のコワーイ刑事サンも、いたいけな子ウサギちゃんは撃ち 
殺せねぇよなぁ」 
 ふーん。あのじーさんも人殺しだったのか。あ、違うか。俺達と同じで仕事をしただけだから人殺しじゃねえ 
や。言葉間違えちまって悪いな、じーさん。 



「帰って来たらさっさと風呂入れ。腹減ってんならメシが先でもいいけどよ。もうすぐ出来っから」 
 岩西はコンロの火を止めて、フライパンから小皿に移した血の色した液体を右手のオカーサン指ですくって味 
見する。 
「……それとも、俺にするか?」 
 俺を見下ろしたエロ親父は指を舐めながらいつも以上にイヤらしい顔をして、細い目をもっと細くした。セク 
ハラが服着て歩いてるヘンタイめ……! 
「蝉。何で目を逸らした? 顔が赤いぜ。お決まりのジョークを本気にでもしたかよ、童貞が」 
「お前の左胸を今度は折れてないナイフでちょっと刺していいって意味なら、お前を選んでやる」 
「ヒヒッ、可愛くねえなあ」 
 エロ西が声を出して笑った直後に、俺の腹がぐうーって鳴った。すぐそこにある二枚の丸皿の上に、ゆでたニ 
ンジンとブロッコリーと、多分ウシとブタの死体を細かくしたモンをぐちゃぐちゃに混ぜて丸めて焼いたヤツが 
乗っかってる。やべ、ヨダレ出てきた。 
「で? 今日の晩メシ何? ハンバーグ?」 
「お子様が好きなハンバーグとコーンポタージュ。単純なガキにはウレシー献立だろ」 
「俺は単純じゃねぇから全然嬉しくなんかねーし。俺はなあ、味がうすくてマズいお前の手料理を毎日ガマンし 
て食ってやってるんだぞ。ありがたく思え! お前の舌はタバコの吸いすぎでイカれてるってことをいいかげん 
自覚しろっつぅーの」 


 味オンチはコーンポタージュの鍋をかき混ぜながらげんなりしたカオをして、わざとらしいタメ息をついた。 
「俺が作るメシの味が薄いと思うのは、お前がずーっとコンビニ弁当やカップ麺ばっか食ってきたからだっつっ 
てんだろ、味オンチめ。若いのほど濃い味が好きってのもあるけどよ。そんなに文句があるなら自分で作れるよ 
うになれ。教えて欲しけりゃおじさんがお料理教室開いてやってもいいぞ。もちろん、受講料はお前の報酬から 
がっつり引いてやるからヨロシク」 
「誰がお前なんかに教わるか、ケチ。お前のそういうとこホント嫌い」 
「じゃあ、どういうとこが好きなんだ?」 
「何もかも大大大っ嫌いに決まってんだろ!」 
 岩西は、また俺を見下ろしてにやりとイヤらしい顔をしやがった。 
「ああ、知ってるよ。俺も、お前の何もかもが嫌いだからな。ひひひひ。同族嫌悪ってヤツだよな」 
「俺だって、お前のことをずっと前から『ドウゾクケンオ』だと思ってたんだよ!」 
「赤ペンでバツだ。『同族嫌悪』の使い方が間違ってるぜ、バカ蝉」 
「――っ……! バカ西のバカ!」 



 メシを食い終わって、俺がやった殺人事件のニュースをテレビで見てから浴室に向かった。湯船につかりなが 
らぼーっとする。岩西が入浴剤を入れたからお湯が青くて、熱いのに涼しい感じがする。やっぱ風呂はいいよな 
あ。ネカフェ難民だった頃に何が不快だったかって聞かれたら、風呂に入れなかったことって答えると思う。シ 
ャワーはある店も多かったけど、さすがに風呂がある店は無かった。 
「おい、蝉」 
 戸の向こうから俺を呼ぶ声がする。 
「寝巻き置いとくぞ。つーかよぉ、いい加減テメェが着る服くらいテメェで用意しやがれ、クソガキ。今時、小 
学生でも自分で服選んでるぜ?」 
「だって、クソオヤジがコーディネートがどうとかうるせぇんだもん」 
「はっ。お前、そんなに俺の着せ替え人形になりてえのかよ?」 
「……俺はお前の人形じゃねー……」 
「明日、お前の服買ってる店に連れてってやるから自分で買え。店員がどんなに馴れ馴れしくてウザくても殴る 
んじゃねーぞ。アレがあいつらの仕事なんだ。ただ楽しいから笑顔で接客してるワケじゃねぇんだよ」 
 それきり岩西の声は聞こえなくなった。今頃、食器洗いながら食後の一服でも吸ってんだろ。 
 もしも俺の父親が、自分と同年代の男が息子に別の名前を勝手に付けて、テメーがやらなかった男手一つでガ 
キの面倒を見るってのを、俺をこき使って金を稼ぐためとはいえ楽しそうにやってんのを見たらどう思うんだろ 
うな――何とも思わねぇか。 



 ……髪、結構伸びたな。浴槽から出て、鏡に映る自分を見て思う。岩西が買ってきたシャンプーとリンスを使 
うようになってから、髪質が変わった。「ボサボサじゃみっともねぇからちゃんと手入れしろ。せっかく殺人犯 
らしくねえキラキラした金色の髪の毛と目ン玉持って生まれたんだしよ。自分で気に入ってるから髪伸ばしてん 
だろ?」だと。俺の髪が長いのは、美容室に行くのも自分で切るのも面倒だからそのままにしてるだけだ。馴れ 
馴れしくてウザい美容師に「殺されたくなかったら少し黙れ」って言っただけでその店を出入り禁止にされたこ 
ともあったし、俺と同じような生活してた奴らはヒゲも髪も伸ばしっぱなしの男も結構いたし。そういや、岩西 
が毎朝カミソリ使ってヒゲ剃ったり、ワックス使って髪を逆立てたりしてんのが、俺はカミソリもワックスも使 
ったことがねぇから最初の頃は珍しくて観察してたよな。今思えば、何であんなの面白がって見てたんだかわか 
んねえけど。めんどくせぇ手入れをしなきゃならねえなら俺もあいつくらい短くしてみようかとも思ったけど、 
「俺は短い方が好きだから切っちまえ」ってマジなトーンで言われたから、ぜってー切らないことに決めた。誰 
が、お前を喜ばせるようなことをわざわざしてやるもんか。 



 二枚の布団が並んだ寝室の、開いてる窓から入ってきた夏風が赤い風鈴を鳴らしてる。俺と同じ名前の虫がう 
るさく鳴いてる。蚊取り線香の落ち着く匂いがする。 
 まだ寝るには早いけど、俺はもう布団にもぐってる。コンセントで充電中の、俺達が着てるTシャツと同じ色 
のピンクと青の携帯のうち、青い方の携帯が短い音を鳴らして光った。ちょうど蚊帳を張り終えた岩西は、小さ 
いタンスの上の灰皿でタバコを消して、灰皿のそばに置いておいたタバコの箱から新しいタバコを一本取り出し 
て口にくわえた。で、やっぱり灰皿のそばに置いておいたマッチの箱を手に持って歩いて、携帯を充電器から抜 
いて、床にあぐらをかく。そのまま右手でメールを打ちながら、器用に左手だけでマッチに火をつけようとした 
けど、ほんの一瞬、傷跡の残る指がひくついちまって箱と棒が落下した。 
「――ちっ。糞ったれ……」 
 岩西は左手をにらんで舌打ちして、携帯を置いてから両手でマッチを擦ってタバコに火を付けた。 
 でっけえ犯罪会社の社長にちょん切られた、ちっちぇえ殺人請負事務所の社長の五本の指は、たまに自慢のテ 
クを披露できなくなるらしい。初めてこいつの指が動かなくなるところを見た時、「お前の指をくっつけた医者 
って、とんだヤブ医者だったんだな。プロなら完ペキな仕事しやがれっての」って呟いた。そしたら、「あー… 
…いや、精神的なもんなんじゃねーの? そのうち治るだろ」って、予想外の弱い言葉が返ってきて、「へぇ~。 
お前、拷問されたことがトラウマになってたのかよ。そりゃそうだよなー。俺が助けてやらなきゃ、もっとヒド 
い目にあってなぶり殺されてたんだもんなー。助かったとたん、キンチョーの糸が切れたみてえに気絶してたし 
よ。ダッセー! お前のド根性だけは認めてやってたのに、がっかりだぜ。スリやる時に動かなくなったらどう 
すんだ、岩西ぃ?」ってからかってやったら、「お前は本当にみんみんみんみんうるせぇな、このパーが。深層 
心理の問題は根性じゃどうにもならねえだろうが。俺の弱みを一つ見つけた気になってバカにしたつもりみてぇ 
だが、俺はお前の弱みをこの手でいくつ握ってるんだろうな? ダッセーのは自分の方だと思うよなあ、蝉ぃ?」 
ってからかい返されたことがあった。「深層心理」の意味は後でネットで調べてからわかった。 



 ……眠れない。岩西が電気を消して布団に入ってから結構経つけど、全然寝られない。 
「おい、岩西。まだ寝てないなら、窓閉めてクーラーつけろ。暑い」 
「あ? ……ひよっこの分際でこの俺に命令しやがるとは、イイ度胸だなあ……?」 
 岩西は顔だけ俺の方に向けて、みけんに深いシワを寄せて、不機嫌度百二十パーセントの声を出した。ヤバい。 
口元は笑ってるけど、目が笑ってねえ……こいつをキレさせちまったら、後で何されるかわかったもんじゃねー 
ぞ……! どうにかしてオッサンをなだめる方法を考えてると、そのオッサンはイヤらしくない感じで笑った。 
「たまにはこういうのも、風流でいいじゃねーか」 
 ……何だよ、怒ってなかったのかよ……まぎらわしいことすんな、バカ。まあ、確かに、お前の頭の近くにあ 
る人を殺すためだけに作られた黒い鉄のカタマリさえなけりゃ、イイ感じなのかもな。こんな住宅街で撃つこと 
なんかねぇのに、枕元に拳銃がなきゃ眠れないとか意味わかんねえし。 
「お前がよくても俺はよくねぇんだよ、バーカ。暑い。暑すぎ。それに、昆虫の方の蝉がうるさい」 
「ったく、どうしてこう現代っ子ってのはワガママなんだ?」 
 岩西は本日二度目のタメ息をついた後、何か思いついたようなカオをして、今度はイヤらしさ全開で笑った。 
「俺は優しいオトナだから、別の方法で涼しくしてやる」 
 ……殺人犯らしい毒々しい紫色の目ン玉が暗闇の中で光った気がして、すげーヤな予感がした。 


 ……眠れない。寝られるはずがねえ……口だけは達者な岩西が語る怪談話なんか聞いたら、涼しいどころか寒 
くてますます寝れねーよ……だって、幽霊ってもう死んでるから、ナイフで刺しても意味ないんだろ? そんな 
の怖ぇに決まってんじゃん。こいつわかってて怪談話しやがったな、チクショウ。人のことさんざんからかっと 
いて、自分だけのんきに寝やがって! 俺はいつでもお前を殺せるんだ。俺がお前を生かしてやってるだけなん 
だからな。 
「……くかーっ……」 
 口半開きで小さないびきかいて、こいつマジ親父くせぇ……俺も二十年後まで生きてたらこうなっちまうのか 
よ? つうか、俺に「夏風邪引くから腹出して寝るな。体調管理もプロの仕事だ。ああ、でも夏風邪は馬鹿が引 
くって言うから、お前は腹隠したところで無駄だよな」って言った奴が腹出して寝てんじゃねえよ、アホ。あー 
もー! お前の腹見てたらイライラしてきたじゃねーか! 戦う時は拳銃頼みの弱っちいデスクワーク派の中年 
のくせに、痩せてて筋肉ついてるってのが前々からムカついてたんだよ! ずる賢い頭とデカい身体と、カミサ 
マは何でこのド外道にいいもん二つも与えちまったんだ!? とんでもねぇパーだな! 



 そういえば、このおっさん、血生臭い世界で生きてきたくせに、俺の雇い主になってから怪我したとこ以外は 
体に目立つ傷が無えんだよな。仲介業者が狙われることは滅多に無いらしいし、ヤバくなったら雇った殺し屋を 
生贄にしてきたんだから当たり前なのかもしれねえけど。こいつがあちこち怪我したのはコンビニ店長からの依 
頼を請け負ったこいつの自業自得だけど、俺を雇わなきゃあちこち怪我しなかったかもしれねぇワケだ。これっ 
てつまり、岩西を殺しかけたのは俺だけってことだよな。俺が仕事でヘタうって死んだり、また捨てられたりし 
て岩西の心から俺が消えても、体の傷は――俺が刺してやった左胸の傷は一生消えねぇだろうし。 
「……へへっ。ざまーみろ、クソッタレ」 
 岩西。お前さ、いつだったか「蜂蜜塗れになって泣いてるチクタクのお姉ちゃんは可愛かったんだぜ。それで 
も立ち上がったあの女は、胸は小せぇが抱きたいくらいイイ女だった」って言ってたよな。俺には、俺が初めて 
会った、岩西以外のプロ意識のある業界の人間の泣き顔なんて想像できなかった。なあ、岩西。指チョンパされ 
た瞬間は、お前みたいな奴でもみっともねえ叫び声を上げたのか? それとも、また歯ぁ食いしばってド根性で 
悲鳴を噛み殺したのか? あんなに強かった女が痛くて苦しくて泣いたのに、何でお前は痛くて苦しくても泣か 
なかったんだ? 大人の男だからとか? 大人とか子供とか男とか女とか、俺達には関係ねーじゃん。大人より 
強い子供も男より強い女も、同業にはいっぱいいるし。 
 泣けよ、岩西。俺がお前にすがりついて悔し泣きしちまったんだから、お前も俺にすがりついて悔し泣きしや 
がれ。そしたら俺はお前を全力であざ笑ってやった後、お前がいつも俺にするみてぇに、こうやってお前の頭を 
なでてバカにしてやるんだ。 

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! 

文章が長すぎると言われたため、定められた分割数をオーバーしてしまいました。申し訳ありません。 
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