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#title(ル/ナ/テ/ィ/ッ/ク/ド/ー/ン/第/三/の/書/ 冒険者×弱気吸血鬼6) |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )感想ありがとうございます!嬉しいです!! とは思ったが、この、天敵であるはずの人間の腕の中で静かに眠りかけている気の弱いヴァンパイアにはそれができるかどうか。 「くつろいでる最中に家の中で殴りつけるのだけはよしてくれよー」 ケラケラと笑ってみせる。 優しいその声に、夜桜はバルドを見上げた。 だがすぐにバルドの胸に顔をうずめた。 「…そんなことしない…、まだまだバルドと話もしたい、暮らしたいし、 人間の生活にいつまでいられるとかわからないけど、その本に書かれていた二人のように、いつまでも…仲良く…。仲…」 と、途端に声が小さくなった代わりに、寝息が聞こえた。 「おい、夜桜、よざ…おお、寝てる」 完璧に眠っている。 軽く、夜桜の額に口づけをしてみた。 灯籠の明かりを静かに消すと、そのままバルドも眠りに入った。 そういえば、誰かと一緒に寝るのは久しぶりだ。 結構心地いいものなのだと改めて認識する。 朝目覚めたが、夜桜は夜行性のせいか、起きる気配がないので、布団に彼を寝かせたまま、バルドは風呂に入ることにした。 湯船につかると、温かいお湯によって体も起きる。 (そういえば夜桜ずっと風呂入ってないな) 腹や胸や腕には無数の傷跡があり、今までどれほど戦ってきたか思わせるものがある。 筋肉は隆々としていて、逞しい。 それに女受けしそうな顔立ちで英雄ときたら、宿を訪ねてくる女も後を絶たないわけである。 (なんだっけ、ヴァンパイアはニンニクと水とサンザシと十字架と銀が苦手?) 苦手なもの多いなあと思いながら、湯船から出て、バスローブを着こむ。 食事を作るべく台所へ向かう。 バルドはガルズヘイム人だが、食事は日倭のものが好きだ。 特に甘いものが好きで、ケーキよりも饅頭が大好物だったりする。 (夜桜は饅頭食ったことないんだろうなー) 食事を作りながら、饅頭を一個頬張った。 「味噌汁にー、あ、やべ、味噌がなくなる。タイガーバターもなくなる。白飯炊いてー」 ごそごそと棚を漁ったところに、気配がして振り返ると、眠そうな顔をした夜桜が立っていた。 瞼をこすりながら、近づいてくる。 「早いじゃん、おはよう」 味噌を取り出すと、台所に置いた。鍋はすでにお湯を沸かしている。 「…もう一度…、もう一度したい」 「あ?どうした寝ぼけてんの?」 「…!あっ、わっ、私は、いや、その」 「?」 何をあわてているのか、夜桜は顔を真っ赤にして、たじろいだ。 「なんか変だけどどうしたんだよ」 「その…夢を見て…」 「夢?」 どうも夢で変なものを見たらしいのはわかったが、とりあえず朝食できるまで待っていてくれと、夜桜に頼んでちゃぶ台の前に座らせた。 「お前飯食えるっけ?この三日間何も食ってないけど平気なの?」 ちゃっちゃと用意するが、作った飯の量は一人分。これを分けることになるが、あとは茶菓子で腹を満たせば問題ない。 が、ヴァンパイアという種族は血しか飲まない。ので、夜桜はいらないと首を振った。 それより気になるのが、顔を赤くして今にも湯気が出そうなくらいに、下を向いている夜桜だ。 やっと茶と白飯とたくあん、味噌汁を用意すると、朝食が始まった。 「なんだよ、どうしたよ?」 「名前、ありがとう」 「これくらいどうってことねーし」 もしゃもしゃとたくあんを食らう。 相変わらず低姿勢の彼に、バルドは気にせず相手をしていた。が、どうも様子がおかしい。 「夢…、私はおかしいのかもしれない」 「なんの夢見たの」 「私が眠りにつくかつくかないかの時に、額に唇の感触がした。悪くないと思ったが、これは…、夢だと思うのに、先ほどから熱が止まらない」 思わず箸でつかんだたくあんを落とした。 ぺたりと音がして、たくあんはちゃぶ台に落ちた。 「…あんだって?」 「その、正直よくわからないけど、…よくわからないんだ。夢の中ではバルドは私の額に、キスして。これが欲求なのだろうか、そうだとしたら私はおかしい」 昨夜、こっそりと口づけしたことを夢だと思い込んでいるらしい。 たくあんを拾い上げると、白米の上に乗せた。 「…夜桜ってさ、女とやったりとかはしないの?」 「え」 「いや、何そのウブな反応。今どき人間でも珍しいぜ。だから、女とやらしーことしたことあんの?」 耳まで真っ赤になる夜桜に、確信した。 経験が全くないのだと。 「あっ、あるわけ…、二百年生きてきたけれど、そんなことあるわけないっ」 「二百年!?」 ある意味すごい。 味噌汁を飲みながら、すっかり真っ赤になった夜桜を見つめた。 (二百年生きてきて孤独で寂しい女経験なし。うーん、むしろ長生きしたからこそ寂しがり屋なのか?) 「よ、よく考えれば昨日もおかしかった!!バルドの腕の中で熟睡してしまうなんて、ヴァンパイアだったら普通しない、しないのに、私は変なんだ。 確かに私は寂しがり屋かもしれない、けれど、誰でもいいだなんて思ってない。話せる相手は、バルドだと楽しいし、私のことも気遣ってくれるところもあるし。 平気で添い寝までしてくれるなんて、私に全く警戒していない。そのせいか、やけに心が許せる」 素直にすべてを話す夜桜に、ちょっとしたいたずら心が芽生えた。 彼は自分を妄信している状態で、恋愛か友情かわからなくなってきているのだろう。 もちろん恋愛だなんてバルドも夜桜も軽く考えていない。 バルドはともかく、夜桜は全く経験がないうえに、恋愛すらろくにしたことがなかった。 「よっし」 飯をすべて平らげると、バルドは夜桜の顎をつかんで引きよせた。 目の前にバルドの顔がある状態で、夜桜はとても驚いているようだった。 「賭けしよう、賭け」 「賭け?」 「その感情が恋愛なら俺の勝ち、その感情が一時の気の迷いなら俺の負け。俺が勝ったら家事全てお前にやらせるし、 頼みも何でも聞け。ただし一カ月な。俺が負けたら、お前の好きなこと何でもしてやるよ。こっちも一カ月な。 答えが出るまで一週間待とう。どうだ?」 しばらく考え込んで、一週間の間に答えが出るものなのかと思った。 確かに一時の感情なら、熱はすぐにさめるだろう。 さめなければ、どうなるのだろう。 ぐるぐると考え込んでいるうちに、夜桜はすっかりパニックに陥った。 「大丈夫、手出しはしないから、な、無理やり抱いたりなんかしないしない」 「ほ、本当か?」 「ああ、でもまー、これくらいなら」 と、唇が唇に軽く触れた。 それが何を意味しているのか、一瞬思考が固まった夜桜はわからなったが、唇が離れた時、思いっきりバルドを突き飛ばした。 バルドは柱に頭をぶつけたが、すぐに起き上がって笑って見せた。 「!!!!!!」 「いてて。まあ、まだ俺に気があると決まったわけじゃないもんね、そりゃ拒否するよな」 「別にそんなことはどうでもいい!かっ、賭けとやら、乗ってやろう。ただし一時の気の迷いだ、これは、間違い…ない…と思う…よ!」 だんだん最後のほうに行くにつれ、言葉が弱々しくなっていくが、夜桜はその賭けに乗ってしまった。 何せ恋愛をしたことのない夜桜が、経験豊富なバルドに勝てるはずがなかった。 直感もかなりあるバルドには、もう答えはわかりきっているというのに、悩む姿が面白くて、ついつい意地悪をしてしまった。 (でも…夜桜が、俺に恋愛感情があるとすりゃ面白いよな) そう、面白い。 嬉しいじゃなく、面白いのだ。 夕方になると、バルドは街に買い物に出かけてしまった。 調味料と食糧がないからだという。 ついていくと言ったのに、目立つと悪いからと、夜桜は連れて行ってもらえなかった。 当然だ、ヴァンパイアが街に出没したと分かれば、警備員が九人は余裕でやってくるだろう。 バルドならそれくらい蹴散らすことはつらいことではないが、夜桜のためによくないと判断してのことだった。 夜桜は、暮れていく空を見つめ、自室兼物置の布団の上で、体育座りをしていた。 まだ心臓がバクバクしている。 ファーストキスなのに、それをいともたやすく奪われてしまった。しかも、まだ好きだとも決まっていない、人間の男に。 いいや、そんなことはどうでも良かった。 ただ、口づけという行為が、好き者同士ですることを知っているがゆえに、バルドがふざけてやったのか、それとも何か意味があるのかとずっと考えてはため息をついた。 (一時の感情なら…私の勝ちだ。何をしてもらおう。ずっと話を聞かせてもらおうか。それともどこかに連れて行ってもらおうか。異世界にも行きたいし、 特にロマールは行ってみたい。この世界の街すべて案内でも楽しいかもしれない。…うん、そこら辺だ。まず人間のように冒険に出たい) 特に血を吸ってやるとか、こき使ってやるという感情はない。 当然血を吸わないと生きていけないが、四日ほど前に十分吸血したばかり、あと一カ月は吸わなくても平気だ。 一緒に遊んでもらいたい。一緒にいてもらいたい。一緒に異世界に冒険に出たい。一緒に、ずっといたい。 (寂しい) ごそ、と、バルドの部屋を訪れて、敷きっぱなしの布団に寝転がった。 バルドの匂いがして心地いい。昨日寝たときの安心感を思い出した。 (あんなに心地よかった眠りは初めてだ) それから夜まで、バルドは帰ってこなかった。 もちろん酒場で久しぶりに会ったなかま友人たちとたまたま飲んだだけであるが、ずいぶん待たせてしまったと反省しながら手土産を持って家に帰る。 がらがらと豪華な家の戸をあけ、大きな声を出した。 「おーい、ただいまー」 しん、と、大きな屋敷からは何も声が上がらなかった。 「夜桜ー?」 自分の部屋に戻ると、なぜか布団の上で夜桜が爆睡していた。 とても心地よさそうな顔をして寝ている夜桜の寝顔はとても無垢で、可愛らしい。 (本当にヴァンパイアなのかなー、なんかとのハーフなんじゃねーの?) □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )レインの回より短くします。レイン覚えてくださってありがとうございます!! #comment