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63-475 の変更点


#title(Lord's Garden)
基本、ドラマ版準拠ですが、原作エピも交じってます。ビジュアルはどちらでも。 
「Silent Night」の続きですので、リバ苦手な姐さん、ここでバイバイ。

漫画&ドラマ モリのア○ガオ
渡瀬満×及川直樹 

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 
*Lord's Garden
 束の間、微睡んでしまったらしい。 
 一年で最も、日の出の早い季節だ。たとえごくわずかな間でも、寝ている場合ではない筈だった。しかも、この夜を逃せば、俺にはもう永遠に、昼も夜も訪れることはないのだ。 
 俺に残されたのは、たった一つの朝だけだった。 
 それなのに、不思議と惜しいとは思わなかった。ただひたすら平安で、満ち足りた、清々しい気分だった。 
 一瞬、あの抱擁は、口づけは、脳髄が痺れるような甘い陶酔は、夢だったのかと思った。思えば、いかにも現実離れした、目くるめく体験だった。 
 だが、幸いなことに、直樹は側にいた。裸のまま、半身を起こし、俺の寝顔を見つめていたようだった。 
 腕を取り、再び隣に横たわらせて抱きしめた。あの甘美な時間が紛れもない現実であったことを示す証のように、二人の体はまだ、どちらのものともつかない白い液体に塗れたままだ。 
 「どうだった?」などと、尋ねるのも野暮だった。黙ったままで直樹の上に覆い被さり、思う存分に唇を、首筋を吸った。直樹は身を捩って笑い声を上げ、素早く体勢を逆転させてこちらを組み敷いた。そのまま、子犬のように、或いは、何も考えずにただ白球を追いかけていたあの少年の頃に戻ったように、上になり下になりして転げ回った。 
 何度目かに俺が上になった時、ふと直樹が力を抜いて、俺を見つめた。息を弾ませながら、彼の顔の側で手を繋ぎ、指を絡ませる。 
 さっき、俺にあれほどの快楽を与えてくれた、この指。明日、この指が釦を押せば、俺の体は地の底に落ちて行く。 
 そして、衆人環視の中でみっともない姿を晒し、苦痛を味わいながら、数十分という時間をかけて、じわじわと死んでゆくのだ。 
 人を殺めるという、深い、深い罪の代償として。 
 俺が指名したたった一人の教誨師は、たとえ人殺しであっても、心から罪を悔い改めた人間は天国へ昇れると信じているらしい。彼を傷つけたくないから、口に出したことはないが、しかし、俺はそういった別の世界の存在をあまり信じている方ではない。 
 もし、慈悲深い神なんてものが存在するならば、両親のいのちを、俺の夢を、小春の声を、奪いはしなかったろう。 
 もう一度、直樹の小柄な体を抱きしめた。数えきれない日々、数えきれない言葉を共に語らってきた唇に口づける。 
 もし、神様があるのなら、俺が信頼したたった一人の親友が、そうなのだろう。もし、天国があるのなら、今、俺が愛したたった一人の恋人と過ごすこの一時こそが、それなのだろう。 
 今度は俺が、入ってもいい? 
 目でそう問いかけた。言葉で返事をする代わりに、直樹は微笑み、体の力を抜き、自分から足を開いて、両腿を手で支えた。 
 どこだかわからなかった。まごついていると、彼自ら手に取って導き、先端をその箇所に当てがってくれた。 
 さっき、直樹は、俺に些かの苦痛も感じさせることなく、入って来てくれた。 
 できれば、俺もそうしたかった。しかし、悲しいかな、男性は疎か、女性とすら経験がない。 
 遥か昔、血塗られた決意をしたあの日から、女性を近づけることなく生きてきた。一旦、女性と関わりを持ってしまえば、心が揺らいでしまう。復讐の意志がぐらついてしまう。だから、たとえ向こうから好意を持たれることがあっても、頑なに遠ざけてきたのだ。 
 直樹の方だって、男性を受け入れるのはこれが生まれて初めてだ。ましてや、彼は体が小さく、俺はそうではない。 
 俺の歓びと同じだけ、彼の痛みは深かった筈だ。彼の額には汗が、シーツを握りしめた指には白く関節が浮いた。 
 しかし、驚くべきことに、俺が散々もたついた挙げ句に、すっかり埋没してしまうまで、直樹の愛らしい唇からは、小さな呻き声一つ洩れることはなかったのだ。 
 ――君の苦しみを思えば、これくらいのこと・・・・――。 
 思い返せば、直樹はいつも、そう思ってきたような節があった。 
 思いもかけなかった、自分自身のおぞましい宿命を知り、迷子の小鳥のように、こんな穴蔵みたいな所に逃げこんで来た、いつかの遠い夜。俺に肩を抱かれながら、為す術もなく泣きじゃくっていた、あの子供っぽい姿。 
 あの時、口下手な俺は、慰めるつもりで、随分と自分勝手なことを言ってしまったかも知れない。後で、どうせなら黙っていればよかったと思ったくらいだ。 
 それなのに、直樹は、俺に救われたと言ってくれた。 
 だが、それは俺も同じことだったのだ。彼が俺に助けを求めて、勇気を出して打ち明けてくれたからこそ、こんな俺でも、まだ誰かに胸を貸すことはできる、誰かの苦しみに耳を傾けることはできる、と思えたのだから。 
 少し悔しいが、彼に救われたのは、俺だけじゃない。 
 運命に見放され、人を恨み、傷つけた挙げ句に当然の報いを受け、来る日も来る日も、この忘れられた森の奥で、蹲り、震えながら、ただ縊られるのを待つだけの連中。 
 その一人一人が歩んできた暗い人生に思いを馳せ、深く毒された心に、柔らかな羽毛のようにそっと寄り添う。普通なら絶対に、誰にも相手にされないような奴らと、いちいちまともに口を利こうとする。どんなに裏切られても、嘲られても、人の良心を信じ、自分の思う所に従って、挫けず、恐れず立ち向かってゆく。それが、俺の愛した刑務官、及川直樹だった。 
 そして、幾つかの奇跡が起こった。荒みきった男たちが、彼の前に心を開き、自らの過去と、罪と向きあったのだ。 
 その様はまるで、鎧も盾も武器もなく、凶暴なライオンを手懐ける乙女のようだった。 
 さながら聖人のようだった――、友の罪を庇って、絞首刑の苦しみに耐え抜いたという、父の血なのだろうか――直樹・・・・。 
 彼の人の願いは叶えられた。思いを込めて付けられたその名の通り、若木のようにしなやかな彼の体を、今一度、強く抱きしめた。 
 俺だけの直樹じゃない。 
 俺は明日、死ぬ。 
 直樹はこれからも、この森で生きていくべき人だ。 
 だが、今は――今だけは、この肌の温もりは俺だけのものだ。朝が来るまでのこの短い一時だけは、二人だけのものだ。直樹と繋がっている体の芯から、脳天まで、手足の指先まで貫くこの熱い、得も言われぬ至福の感覚を知る者は、この三千世界で俺一人なのだ。 
 こんなに汗だくになるほど体を動かしたのは、どれだけぶりだろう。 
 直樹の上げる啜り泣きのような声が、快楽故のものなのか苦痛故のものなのか、俺にはわからなかったし、彼自身にも、もうわからないようだった。 
 細い肩を押さえつけ、愛というよりも恨みでも叩きつけるかのように、何度も突き上げ、引き落としながら、山中で、あの忌まわしい男と格闘した時以来だろうかな、と、自答した。 
 初めて、そして、この世で最後に目にする直樹の艶姿。その表情や仕草の一つ一つを、眉一筋、指一本の動きに至るまで、逃さずに、この目に焼きつけておこうとする一方、視界の端に、一瞬、別のものを捉えた。 
 それは、直樹がくれたボールを分解した糸で作った、あの二体の人形だった。 
 これでよかったんだろう、直樹。 
 直樹が荒い息をつきながら、俺の首にしがみついてくる。右肩を軽く、やさしく噛まれる。思いがけなくも、一瞬、意識が遠のくほど感じて、思わず声が洩れる。 
 それとも、たとえ彼から友情の終焉を宣告されたとしても、飽くまで助かろうと足掻くべきだったろうか? 
 実際、小春の許に戻ってやることができたかどうかはわからない。だが、少なくとも、精いっぱい、道を模索することはできたし、兄として、そうすべきだったのではないか。 
 直樹が涙を流していることに気づく。頬に唇を寄せ、素早く吸い取る。直樹が俺の頭を抱えこみ、頬に、顎に、瞼に、鼻に、唇に、甘い口づけの雨を降らせる。 
 或いは――心の湖の最も深く、最も冷たい奥底から、得体の知れない、実体があるのかどうかもわからない魔物が、ちらりと暗い影を覗かせる。 
 小春も、俺自身のいのちも、名誉も、他の何もかも、俺にとってはさして大切ではなかったのかも知れない。あの男が死んだことを知った時には少し揺らいだものの、それは一時の気の迷いに過ぎなかったのだ。 
 俺はただ、ここで直樹に見守られて、残りの生涯を平穏に過ごしたかった。外界から完全に隔絶されたこの箱庭のような場所で、同じ年頃の若者たちがそうするように――いや、失われた少年時代を取り戻すように、肩を寄せあって語らい、ゲーム盤を挟んで歓声を上げ、時につまらない喧嘩をして、仲直りがしたかった。 
 最後に直樹に抱かれ、直樹を抱きたかった。 
 最後に直樹を見て、直樹の手によって、死にたかった。 
 永遠に、直樹の心の中に生き続けたかった――。 
 もしかしたら。最後の大波が来る。愛する人を掻き抱き、窒息させるほど締めつけ、獣の咆哮と共に、直樹ぃぃぃぃ!!と、その名を叫びながら、噴き上げる。 
 あんな人形を作ったのも、ただ、直樹を欺き、自分の心を偽る為に過ぎなかったのかも知れない――。 

 バターのように、互いの体液の中に溶けてゆき、一塊の何かになることが叶うならば、そうしたかった。 
 俺と直樹とは、固く固く抱きあったまま、いつまでもいつまでも、離れないでいた。 
 直樹の髪の向こうには、相変わらず、人形が見えている。最初に作ったのと、次に作った、それより一回り大きいやつ。我ながらかわいいと思う。 
 いつものように、その前にちょこんと置かれているのは、幾つかのキャンデーと、昔、誰ぞやが好きだった、ふざけた名前のスナック菓子だ。 
 ついさっきまで、それらのものの輪郭は見えなかった。 
 今や、朧気ながら、夜明け間近の薄闇の中に浮かび上がろうとしていた。 

Fin. 
*
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

「明日っていうか、もう今日なんですけどね」
というお馴染みの台詞が、これほど言いにくい状況はないな。
- か…悲しい切ない、あれ見てたらこういう展開って自然だね。これってBLだけじゃなく立派に文学の題材になる素材だな。版の方で要望があった後日談(直樹と小春が結ばれて、でも直樹が生涯だた一人心から愛した人は満だけだったみたいな…)もぜひ読みたいな、ちなみに姐さんセミプロですか?(表現が巧いので --  &new{2014-06-07 (土) 11:24:46};
- わあ、ありがとうございます~。何年も前に書いた作品で、まさか今になってレスが付くとは思わず・・・・。そのように言って頂けると本当に嬉しいです。こんなに長く、しかも三編とも書いて頂いて・・・・。滅多にないことです。ちなみに私は素人ですよw -- [[作者]] &new{2014-06-09 (月) 19:29:00};

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