Top/62-23
62-23 の変更点
- 追加された行はこの色です。
- 削除された行はこの色です。
- 62-23 へ行く。
- 62-23 の差分を削除
*夢路愛し君恋し Part3 [#b0b0eca1] >>1乙です。 #title(三匹が斬る! 殿様×千石 「夢路愛し君恋し Part3」) >>1乙です。 時代劇「参匹がKILL!」より、素浪人の殿様×仙石。 前スレ>>280の続きで、今回はエロなし。 全三回投下の最後です。 |>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 朝まだき、淡い闇の中で、真之介はぼんやりと目を開けた。 空気は冷たいのに思いの外身体が冷えていないのは、上にかけられ下にも敷き詰められている、藁の温もりのおかげらしい。 静かな呼吸の音に気付き、大きく目を開いた。兵四郎の胸が目の前にあり、懐に抱かれるような姿勢で自分が眠っていたことを悟った。 慌てて離れ上体を起こし、急に立ち上がった真之介は、腰に重みを感じてふらついた。二、三歩歩くとよろめいてしまい、側にあった柱にしがみついた。 兵四郎は真之介が動いた気配に目を覚ました。寝ぼけまなこで横にいた筈の彼を探すと、なぜか中腰で柱に懐いている後ろ姿が目に入った。 「おはよう、仙石。お前そんなとこで、何をやってるんだ」 「う、う……うるせえっ」 ばつの悪さに悪態をついた真之介は、柱から手を離して逃げようとしたが脚に力が入らず、その場にへたり込んでしまった。 さすがに様子のおかしさに気付いた兵四郎は、腰を上げて真之介に近付いた。 「どうしたんだ、大丈夫か」 「だ、大丈夫だ!構うな、ほっとけっ」 「そうはいかん。腰を抜かしたのは、俺が夕べかわいがり過ぎたせいだな。謝る気はないが、とても放ってはおけん」 「ちっ、違う!こ、腰なんか、抜かしてないっ」 「そうか?じゃあどうして、そんな風に座り込んでいるんだ」 苦笑して尋ねる兵四郎に、顔を真っ赤にした真之介はあくまで意地を張った。 「これは、だから、そのう……そうだ、腹が減り過ぎて、脚に力が入らねえんだっ!それだけのことだっ」 「わかったわかった。なら水を汲んで来てやるから、とりあえずそれを飲め。もう少し休んで、歩けるようになったら出立しよう」 真之介に調子を合わせた兵四郎は土間に降り立ち、辺りを物色して見つけた杓を手に小屋の戸を開けた。すると後ろから、いじけたような低い声が聞こえてきた。 「……殿様、俺に構わんでいいから、先に行けよ」 「仙石、そう言うな。実は、俺は今少しばかり、懐が暖かいんだ。朝飯を奢ってやるから、元気を出せ」 「なにぃ、奢るだと!?ほっ、ほんとか、殿様!」 「本当だとも。だから、一緒に行こう。いいな、仙石」 まんまと餌につられ、こくこくと頷く真之介を見て、これでひとまず逃げられることはないと兵四郎は確信して笑った。 杓で川から水を掬い、とりあえず自分の喉を潤していると、少し離れた小屋から出て来た男女が平四郎に声をかけてきた。 「あれっ、おーい!殿様じゃない?あ、やっぱり殿様だ!」 「殿様ぁ!偶然ねえ、こんな所で会うなんて」 旅仲間の鍔黒陣内とお恵は思わぬ再会に喜び、嬉しそうに駆け寄った。 「なんだお前達、こんな近くにいたのか」 「ほんとね、びっくりしたわ。こんなことってあるのねえ」 「殿様、仙石の奴は一緒なの?」 「ああ、一緒だ。とにかく、中に入って話さんか」 「ちょっと待ってて。顔を洗って、荷物取って来るからさ」 小屋の方に戻るふたりに頷いて、兵四郎は先に真之介の待つ中に入った。 杓の水を飲み干した真之介は、少し元気を取り戻した。側の小屋にお恵と陣内が泊まっていた、と聞くとわずかにうろたえたが、やがてやって来て上がりかまちに腰掛けたふたりを、いつもの調子でからかった。 「お前ら、ひとつ屋根の下で寝たのか。大丈夫かお恵ちゃん、このたこ野郎に寝込みを襲われなかったか」 「やだなあ、仙石ぅ。俺がこんな大根足の娘、襲うわけないでしょ。陣ちゃんこう見えて、女には不自由してないのよ」 「何よ、大根足で悪かったわねっ」 手甲脚半を身に付けて旅仕度をしていたお恵は、陣内の耳を摘みねじり上げた。痛い許して、ごめんなさいと謝る陣内に、兵四郎と真之介は笑い声を上げた。 「ほんとはね、あたし達この先の宿場まで足を延ばして、そこに泊まるつもりだったのよ」 「そうなの。でもあの井戸の水を飲んで歩いてたら、あそこの小屋の前辺りで、急に眠くなってきちゃってさ」 土間に足を下ろして床に腰掛けたふたりは、ねえ、不思議だよねと首を傾げ合った。井戸という言葉に引っ掛かった兵四郎は、ふたりに問うた。 「その井戸というのは、ここから少し行った竹林の中の、横に小さな祠がある井戸のことか」 「そうそう、それそれ。殿様、よく知ってるね」 「あたし達その井戸の噂を聞いて、水を飲みに寄ったのよ」 「おいおいお前ら、井戸だの噂だの、一体なんの話なんだ」 話にさっぱりついていけない真之介が、懐に入れた手でぼりぼりと胸を掻きながら口を挟んだ。 「仙石、街道脇の竹林にある井戸を見なかったか。俺達は、そこの水を飲んだんだ」 「いや、知らん。俺は道をそのまま歩いて来た」 兵四郎の言葉に、陣内とお恵は驚いた。 「えっ、じゃあ殿様も飲んだの、あの水」 「ああ。噂とやらは知らんが、竹林の見事さに道を外れて眺めていたら、あの井戸を見つけた。ちょうど喉が渇いていたので、祠を拝んでから水をもらった」 「ふうん、そうなの。ねえ、じゃあ、夢を見なかった?」 「夢?夢がどうした」 夢と聞いて兵四郎は驚いたが、何食わぬ顔をしてお恵に訊いた。兵四郎が不埒な夢を見たことを知っている真之介は、少し不安げに眉根を寄せた。 「あそこはね、ここいらじゃわりと有名な井戸で、お参りしてから水を頂くと、土地神様の御利益があるんですって」 「水を飲んでから眠って見た夢に、その人が一番欲している物が出て来たら、それは将来、きっとその人の手に入るんだってさ」 「御利益が無ければただの水なんだけど、それでもやたらに美味しいから、ちょくちょく旅人が寄るみたいよ」 「その点俺達、御利益ばっちりだったよね。しっかり、夢見ちゃったもんね」 ねーっ、と嬉しそうに笑い合うふたりの言葉に、兵四郎はますます驚いた。 思わず後ろにいる真之介を見やると、やや顔を赤らめて、なんとも言えない渋面を作っていた。 兵四郎の視線に気付くと、軽く睨んでから勢いよくそっぽを向いた。 「それでお前達、どんな夢を見たんだ」 「それがね、聞いてよ殿様!すごいんだよ、陣ちゃん、山吹色のお風呂に入ってる夢見ちゃった! も、ほんとすごいの。小判が俺の周りにこう、どばーっと、ざばーっと」 「殿様、あたしはね、小綺麗な小料理屋をやってる夢。近所に住む人達がたくさん来てくれて、美味い美味いって、あたしの料理を食べてくれるの。 粋な感じのお客さんが多かったから、あれは江戸だったかもしれないわねえ」 「そうか、なかなかいい夢を見たんだな」 「うん、陣ちゃん幸せ!あれはねえ、正夢になるよ絶対」 「ねえねえ、殿様も見たんでしょ?どんな夢だったの」 教えて教えてとにじり寄るふたりに、兵四郎は困って真之介をちらりと見やった。 真之介は急に立ち上がると、はしゃぐ仲間を怒鳴り付けた。 「あーっ、うるさい!夢がどうのと、くだらんっ。俺は、もう一回寝るぞ。話が済んだら起こせ、殿様!」 床を踏み鳴らして奥へ向かおうとしたが、歩くうちに勢いをなくし、へろへろと倒れ込むようにまた藁の上に伏した。 陣内とお恵はぽかんとしてそれを見送ったが、気を取り直して兵四郎に向き直った。 「何あれ。殿様、仙石さんどうかしたの?」 「あいつ、自分だけ夢見れなかったからひがんでんだよ。あんな馬鹿ほっといていいよ、ねえ殿様」 「まあそう言うな、陣内。仙石は腹が減っていて、ちょっとばかり具合と機嫌が悪いんだ」 「ああ、だからあんなにふらふらしてんのね。まあいいじゃない、仙石さんのことは。それで殿様、殿様の夢は?」 「そうそう、そうだよ。殿様の見た夢、気になるなあ。気になる!」 「俺か。俺が見た夢はなあ……」 背中を向けて寝そべった真之介は動かないが、こちらに聞き耳を立てているのに違いなかった。 兵四郎は笑って、ふたりに夢の内容を打ち明けた。 「俺が見たのは、綺麗で上品な着物を着て、豪勢な座敷にいて、美味い酒と食い物で腹一杯になる夢だったなあ。 周りにはすこぶるつきの美人がずらりと並んで、争うように次々と酌をしてくれてな。いや全く、極楽のようだった」 ご満悦といった風情で顎を撫でつつ語ると、陣内とお恵は呆れたように顔を見合わせた。 「まあねえ、殿様らしいっちゃ、らしいけど……」 「悪いけど殿様、それは正夢にはならないわね、きっと」 「そうかあ?わからんぞ。いずれ御利益が効いて、まことになるかもしれんぞ」 「ないない。ないよ、殿様」 真顔で首を横に振る陣内に、お恵が茶々を入れてきた。 「まあでも陣内さんの山吹風呂も、現実味がないってとこでは、殿様と似たようなもんよねえ」 「ひどいっ、なんてこと言うのお恵ちゃん!この、大根娘っ!」 「あー、はいはい。わかったから、とりあえず次の宿場で地道に売りましょうね、たこの吸い出し」 悲憤する陣内の肩をぽんぽんと叩き、お恵は冷静に悟した。ふたりのやり取りに、兵四郎は声を上げて笑った。 外に出て、吸い出しを一つ陣内から貰い受けると懐にしまい、真之介を連れて後から追うと告げた。 宿場で落ち合うことを約束し、出立するふたりを見送った。 中に戻ると、横たわる真之介はやはりじっと動かなかった。 けして寝相が良いとはいえない彼のやけにおとなし過ぎる寝姿を、兵四郎は狸寝入りだと見破った。 近寄ってすぐ後ろに腰を下ろし胡座をかくと、静かな呼吸に揺れる身体をじっと見つめた。 「……真之介、俺が見たのはあくまで夢だ。俺はあまり、御利益などというものは信用していない。だから、お前が手に入ったとか手に入るなんてことは、全く思っておらん」 真之介が少し緊張しながら言葉を聞いていてくれるのを感じ、兵四郎は更に語りかけた。 「夕べも言ったが、お前のような男を飼い馴らそうとしても、それは無理なんだ。そして俺は、お前のそういうところが……気に入っている」 好きだ、という言葉を飲み込んで、兵四郎は言葉を重ねた。 「自由に駆けるお前の近くにいて、俺はそれを見ていてやりたい。だが、今は……」 兵四郎は真之介の後ろに寄り添って横たわり、左腕を下から差し入れて肩に回し、右腕を腰に絡めて、ぐっと身体を抱き寄せた。 うなじに寄せた唇から熱い息がそこにかかると、目を閉じた真之介はわずかに震えた。 「今だけは、こうしてお前を捕まえていたい。許せ、真之介」 囁くと髪に顔を埋め、真之介を抱きすくめたまま兵四郎は目をつぶった。 真之介は何も言わず、腰を抱いた兵四郎の腕に手を添えた。 夜はすっかり明けて、朝になっていた。ふたりはまだ、夕べの眠りから醒めようとはしなかった。 □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! なんか最後しんみりしてしまいましたが、やはり参匹+妹分のじゃれ合いは書いてて楽しかったです。 長々とお付き合いいただき、誠にありがとうございました。 - たぎりましたっ…!^///^ -- &new{2011-02-08 (火) 02:09:31}; #comment