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62-219 の変更点


#title(スキマスイッチ 「どうして」)
生。☆と元アフロネタ。☆サイド。 

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 

ふっふっふ。バカシンタめ。 
世の中にはタクシーっちゅう、ごっさ便利なもンがあるんですよ、ふっふふふ。 
スタジオの住所さえ覚えてれば、都内どっからだって帰って来れるんだ。舐めんな~、俺を舐めんなあ。 
というわけで、もうちょっとで着く。 
あの角を曲がって、信号の手前で降りて歩こう。 
コンビニに寄ってえーと、何か買ってくか。 
まさか呑みに行った俺が、本気で一人帰って来るなんて、きっと思ってへんやろなあ。 
ギリギリ意識は飛んでないけど、でも声はヘロヘロだから、確かに俺が戻っても意味は全く無い。無いな。 
もしかしたら邪魔しに帰るのかもしれん、という状況だが。いや、それでもね、今日はね。 
絶対にシンタの顔を見ないと落ち着かないんだ。 
何か喰ったかな。喉乾いてないかな。ビール…は、俺がまだ飲みたいから、買う。 
千円札で貰ったお釣りをそのままポケットにちゃらちゃらさせながら、街灯の数を数えながら、俺は歩く。 
随分と寒くなってきた。おお、息もちょっと白く浮かぶ。 
耳と酔いの残る頬、だけが自分でもあったかいのがわかる。でも今日は、大して飲んでないんだ、これが。 
途中でペースがぴたっと止まってしまって、だからこそ今まともに前に歩けている。一人で。 
次の街灯まで十歩でいけるかな。ああ、最後ジャンプしたら足りるかも。 
空は真っ暗で、それも冬っぽい。ジャケットだけじゃ足りなくなってきた、そろそろマフラーも出さなきゃな。 
そういや今日のシンタは結構薄着だった。寒くないかな、もうアタマもアフロじゃねーし。 
ビルの階段も静か。コンクリートが冷えてる証拠。 
一段飛ばしで飛んでやる。 
でも流石にドアの前では、俺もちょっと一つ、息を吐いた。一人で咳払い。えーと、ごほん。 
ドアノブに手をかける前に、少し考える。中のことを。 
目を閉じたら簡単に浮かぶ。シンタ君が眉間にしわを寄せながら、メモを片手にコンポーザーをいじっていたり。 
こつこつ長い指先でキーボードのヘリを叩きながら、もう片方で髭をひっぱったりしながらブツブツ言ってたり。 
そんないつもの風。見慣れてる背中。 
正解が出るまで迷う人だ。その正解を探す人。 



大体俺はそこに、その世界にぽんと飛び込んで浮かび上がって、もしかしたらしっちゃかめっちゃかにしたりする。 
時には額くっつけながら二人で唸る。全く俺が考えるのをやめてしまうこともある。 
でもふと思いついて、理論的にごちゃごちゃ言うシンタ君を、酷いスピードで振り回したりもする。 
俺にはそういうやり方しか、出来ない。 
がちゃ。 
「!」 
いや、ドアの音だよ。でも、俺じゃねえよ! 
「タクヤ……」 
「……うーす」 
「え……マジですかよ!」 
タイミング悪いよ!いやむしろ良すぎだよ!! 
俺の手が回す前に、勝手に冷えたそれが回って、俺はつられて中に引きずり込まれる形になった。シンタだ。 
「……ほい、お土産~」 
「あー、りがと……つか、もう!いいって言ったろ、顔真っ赤なのに!」 
何で帰ってきた、って言外に言ってますね、この人。うるっせいやい。 
どーしても今日は、もう一回シンタの顔を見なきゃと思った。それだけだ! 
「固いこと言うな~、ねえ」 
「寒っ!そんで寒っ!……冷えるな~」 
シンタ君はコーヒーでも買いに行こうと思ったらしい。俺のコンビニ袋を見て、とりあえず俺を中に入れて、それを取り出す。 
俺は俺で、3歩ダッシュで背後のソファにダイブだ。 
ええ、正直。立って歩いてんの、結構ツラかったです!! 
そんな俺をシンタ君は、コーヒー片手に苦笑いで見下ろしている。長袖のTシャツ一枚、絶対寒いぜ、今日は。 
「寒いっしょ」 
「寒いな」 
「どーすんの」 
「……帰らないで、居ようかな」 
けけけけけと俺が笑うと、シンタ君は何だその声、とまた呆れたみたいに言ってきた。 
「んだな。それが正解だと思うよ~」 
「ん?」 
「じゃあ俺も、帰んない」 
つるっと言ってクッションを探して、ごそごそ定位置を探ってたら、シンタ君は返事をしなかった。 
出て行った時と同じ、多分さっきまでも同じところに居たんだろう、いつものコンポーザー前の椅子にもう一度戻る。 



見慣れた光景だ。他のスタッフさんやミュージシャンと一緒に、相談したり指示を出したりしながら、シンタ君はいつもそこに居る。 
満足いくまで突き詰めて煮詰めて、時々煮詰まりすぎてため息をついたり顔がこわばったりしながら。 
でもあくまでクールに、真面目に。 
プロフェッショナルに。 
「……進んでないよ」 
イキナリ、ぼそっとシンタ君が呟いてきた。ああ、と間抜けな声で俺は返す。 
何がって、ああ、アレンジか。俺が一旦出て行ってから4時間は経ってるんだけど、さ、まあそういう日もある。 
まだ詞も全部乗ってないし、焦らなくてもと思うけど、そういう手抜きが出来る人じゃないんだよなあ。 
「お前のことばっか、考えたから」 
って、でも、おいおい。 
「……ナニ?」 
いや、聞こえてる。シンタ君は振り返らない。 
そりゃ、さ。俺も悪いよ。キスして、やり逃げみたいにしてホッタラカシにしといたんだからさ。 
でもさあ、らしくないでしょ。らしくないでしょ。それ。 
知ってるんだ、俺。誰より俺が一番知ってるんだよ、シンタ。仕事、音楽、曲、絶対それから逃げねい人でしょ。 
別に、今日皆に言われたことを気にしてるわけじゃないよ。 
「変なの。……じゃあ何で残ってたの」 
寒いから、じゃないよな。 
「こんなとこで、俺のことばっか考えるとか、無いでしょ」 
俺を待ってたわけでも、ないよね。 
「変。らしくない。シンタっぽくない」 
今まで100パー、酒飲んで約束守ったことなんてないし、さっきだって俺を見て、明らかに意外って顔してたし。 
シンタはこっちも向かないし、微動だにしない。返事する気も無いな、これは。 
何で俺を優先するよ。今まで俺に、皆に、誰にも見せて来た全部をひっくり返すようなこと、言うなって。 
俺を優先するなよ。バカシンタめ。 
プロなんだろ。ビジネスなんだろ。だから手を抜かない、絶対に逃げない。そうだろ、シンタ。 
「……もしかしてさ」 
俺とは、違うんだろ? 
「シンタ君の全部って、俺なの?」 



違うでしょ。俺じゃないし、俺とはアンタ、タイプが違うでしょ。 
そんな風に考えながら、こんなこと言ってた。我ながら酷いこと言うなあ。うん、ムゴいな、俺。 
だからドSだとか、ツンデレだとか言われんの?って、誰がツンデレだよ。 
「……うん」 
シンタ。バカ。言うな。 
んなわけ、ねーでしょ。無いって、ホラ、否定しろ。 
まだ間に合う。 
「そうだよ」 
でも小さくトドメみたいに言われて、俺は、声が出なくなった。 
げらげら笑ってた、数時間前のその一瞬と同じように。 
最近シンタはどうって聞かれて、まだスタジオだって言ったら、皆みんな、らしい!って笑ってた。 
新曲だ、って。久しぶりじゃん、って言われて。ああもう、今回は今が難産でねえ、ってぶっちゃけてさ。 
まだ詞が乗ってないってのを、タクヤのそれも毎回だなって言われて俺はむくれた。違う、シンタのダメ出しが、今回は。 
ダメ出しがだなあ、本当に今回は。まあ俺にダメを出して、俺が受け入れるのも、シンタだからだけどな。 
そうやってあくまで冷静クールに、俺のものを評価するから、俺はそこを何より、誰より信頼してる。 
「いつか、愛想つかされっぞ、それ」 
笑い声、ああもう、何でその声をリアルに思い出しちゃうんだろう。関係無い、関係無い、違う、違う。 
「タクヤは天然だし、シンタはプロ意識高いもんなあ」 
俺とシンタのことは、誰にも言われたくない。俺とシンタだけのことだ。関係無い、違うんだ。 
でもそれは、言われてることは、何となくわかった。 
何も飲み込めないし言えなかった。 
だから、もう一回顔を見ないと、俺がどうにもならなかった。 
「……俺には、シンタ君が、全部じゃないんだけど」 
どんな声だ、これ。 
絞り出したのは俺だけど、声もなら耳もおかしな感じで、上手く聞こえない。 
「うん」 
シンタ君は相変わらず、背中を向けたままで言った。 
「構わないよ」 
でも俺には、あんたなんだよ。お前なんだよ。 
ゆっくり立ち上がったら、膝ががくん!となって、よろけてしまった。そしてジーンズのはじっこを踏んで、もう一度。 
一歩ずつ近づく足音と気配を知ってるはず、絶対に知ってるはずなのに、シンタは逃げなかった。 



後ろから、羽交い締めに近い感じに抱き締める。 
頬に、シャツ1枚を通して、直ぐにシンタの体温が通じてわかる。 
シンタ君は、また。懲りずに、俺が全部だって言った。あくまで静かに、クールに、冷静に。 
「タクヤ」 
名前も呼んだ。 
でもそこに。 
俺はその底に、仄暗い何かを感じ取って、ぞっとした。 
背筋が寒くなった。こんな人だと思ってない。こんな風だなんて無い。 
俺の歌や曲がダメになったら、きっとこの人は離れてくだろうなと思ってた。俺も多分その時は、お互いのやり方があるだろうからと。 
ただし音楽を止められない俺は、まさに止められない、天然だとか言われてる俺は、そうなったら自由すぎるかもしれない。 
クールで、真面目で、冷静で、さあ。時々熱くて面白くて、世話焼きでおせっかいで。 
だから結構、初めてだった。怖いなと思ったのは。 
背中凍るくらい、こいつが怖いと思ったのは。 
それから数秒して、だけどその冷たさは胸の下の方で真っ赤に燃えるようになった。熱く熱く熱く。 
また酔ったのかと、まるで思った。まさか。 
そして俺の中で何か暴れて溢れかえるようになって、髪や指の先隅々にまで行きわたって、最後は強いため息に変わった。 
本当に熱くて熱くて、もう冬なのに俺は、熱くてどうにかなりそうだった。 

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
- 書かれた方天才ですね!続編をいつか是非 -- [[ぽろ]] &new{2012-06-30 (土) 19:49:44};
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