Top/56-223
56-223 の変更点
- 追加された行はこの色です。
- 削除された行はこの色です。
- 56-223 へ行く。
- 56-223 の差分を削除
*原因と結果 [#l46410b3] #title(原因と結果) [#l46410b3] ふと目が覚めた。 暗い部屋に目が慣れてくると、うっすらと家具の輪郭が浮かんでくる。 水が飲みたい。 一旦そう思うと、喉の渇きが我慢できない。 隣の寝息を乱さないように、そっと布団から抜け出る。 自分の部屋では無いものの、通い慣れ、泊まり慣れた部屋である。 さしたる迷いも無くドアを向かおうと立ち上がったつもりが、へなへなと床に座り込んでしまった。 「マジかよ……」 体ががくがくして、腰に力が全く入らない。 何故こんなことになったのか。 原因は分かってる。 今も安らかな寝息を立てているこの部屋の主のせいだ。 新曲の練習が終わった後部屋に来て、風呂から始まりベッドに移動して、何度も何度も愛された。 宝物を扱うかのような優しい指先は、どこまでも甘く追い詰めてきて、半ば失神するように眠りに落ちた。 「あんなに放してくれなかったら、そりゃ腰も立たないよな」 ある種の納得と諦めが混じったため息を一つつき、布団の中から手探りでTシャツとボクサーパンツを引っ張り出して身に着ける。 サイドテーブルに手をかけてなんとか立ち上がって壁伝いに歩き出した時、背後で衣擦れの音と共にスタンドライトの小さな灯りがともった。 「ひろ、み……?」 かすれた声に心臓が跳ねる。 この寝起きの声で名前を呼ばれるのが一番好きだ。 もちろん本人には一生言うつもりは無いけど。 「比呂巳、なんでそんな格好してんの?」 言われて己の姿を確認してみれば、へっぴり腰で壁にすがっていて、まるで老人のようだ。 「誰のせいだと思ってるんですか?まっすぐ立てないんですよ」 「マジで?」 驚いた声に続いて噴出している。 ムッとした瞬間、軽々と抱え上げられた。 「ちょ、ちょっと!なんでお姫様抱っこなんですか!?」 「なんでって俺の姫みたいなもんじゃん」 「俺は男です」 「知ってるよ。で、どこ行こうとしてたんだ?トイレ?」 「違います。喉が渇いて……」 「おっけー。水持ってくる」 ベッドに下ろされ、部屋を出て行く背中を見送る。 「タフだなー」 こっちは腰が立たないのに、向こうはダメージゼロ。 お姫様抱っこする余裕すらあることが、なんとなく腑に落ちない。 時計に目をやると、3時を回ったところだ。 疲れてくたくたなのに、変な時間に目が覚める事がたまにある。 今日もそんな日なんだろう。 「お待たせ」 ペットボトルを受け取ろうと手を出すと 「俺が飲ませてやるよ」 「大丈夫ですよ」 「いーから、いーから」 「でも……」 水を含んだ唇に反論を封じ込められる。 流し込まれた冷たい水が驚くほど甘いのは、喉が渇いていたせいなのか。流し込む相手のせいなのか。 唇の端から零れた水が首筋を伝うのを丁寧に舐めとられると、それだけで息が弾む。 もう一口、と流し込まれ、水が無くなっても唇は離れない。 絡めた舌で口の中を探られると、体の芯に熱が宿る。 「…ん……だめ、ですよ……今日もしゅう、ろくが」 途切れ途切れの抗議に力があるはずも無く、呆気無く押し倒された……。 「だから駄目だって言ったじゃないですか」 収録で大失態を演じた俺の前で土下座する人物を睨むのは、この日の夜のお話。