Top/53-127

53-127 の変更点


*その偉人のひそかな愉しみ [#i3fed936]
#title(その偉人のひそかな愉しみ) [#i3fed936]
イニ 量間×陣です。 
初棚投下なので何かやらかしたらまっことすまんぜよ…。 

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 


 気がつくといつもあの男の事を考えている。 
 皆肩イニという奇妙な医者の事だ。 
 大男と呼ばれるのには慣れっこな自分と並ぶほど、いやそれ以上に背が高く、そのくせ全く威圧感を人に与えない。 
 いつもやわらかな笑顔でおっとりと話す。 
 医術のことなると鬼神の様な活躍を見せるのに、普段は後ろから斬られても相手に謝りそうなくらいのんびりしているから、見ているこっちは気が気じゃない。 
 世俗には極めて疎い。 
 人の悪意にもとことん鈍い。 
 どこでどう育ったらあんな人間が出来上がるのだろう。 
 まるで月から来たかぐや姫の様な…。 
 (「量間さん」) 
 確かにあの笑顔は天人の様な…。 




 「皆肩先生のこと、お前さんはどう思う?」 
 「はあ?!」 
 突然キセルを向けられて、量間はひっくり返りそうなくらい驚いた。 
 慌てるあまりじたばたと尻で後ずさってしまい、克の前にある火鉢を蹴り飛ばしそうになる。 
 おいおい、危ねえなあと言いながら克は舞い上がった灰を手で仰ぐ。 
 傍らの今日太郎が「不調法な」と言わんばかりの渋面で量間をチラと睨んだ。 
 「ほ、ほ、ほんじゃども、克先生が肝消る様な事を言うから!」 
 「坂元殿、克先生は皆肩先生の素性について、どうお考えかとお尋ねなのですよ」 
 そんなに突拍子もない質問でもあるまい。大体今までの話を聞いていなかったという事かと、今日太郎はまたジトリと量間を睨む。 
 量間の慌てぶりの真意を理解し、克はニヤニヤとキセルをくわえた。 
 「なに勘違いしてやがんだか。あれだけの名医がこれまで話題にならないわけがねえ。今までどこに隠れていたのかって話さ」 
 「どこかよっぽどの御家のお抱えだったのでしょうか」 
 「それにしたってどこであれだけの医術を学んだのかねえ」 
 「ああ」 
 それなら、と量間は膝を手で叩いた。 
 量間にはひとつ、考えていた事があった。 
 皆肩イニのあの浮世離れした様子。偏った知識。それにあの体格。 
 「皆肩先生は、ひょっとすると異人じゃなかろうか」 




 皆肩イニはどこかからこの江戸に流れ着いた異人なのではあるまいか。 
 そうであれば納得出来ることが幾つかある。 
 「坂元殿」 
 また今日太郎がたしなめる様な声を出す。 
 皆肩先生は日本語も堪能だし、姿形だってどう見ても日本人ではありませぬか、と。 
 「異人と言っても西洋人とは限らんぜよ。清や朝鮮なら見た目は儂らとよう変わらんきに」 
 「面白ェ」 
 克が懐手で顎を撫でた。 
 それから何を思い付いたのか、ニヤリと人の悪い笑顔を浮かべ、量間をチョイチョイと指で招いた。 
 ひょこひょこと寄ってきた量間の耳元で何やらボソボソと囁く。 
 「へ? え…せ、先生、そがいな?! はあ?!」 
 「ん、まあ方法の一つとしてな」 
 今日太郎は耳ごと体をそちらに倒して、何とか二人の会話を聞き取ろうとしたが、量間の慌てふためく声が大きすぎて殆ど何も聞き取れなかった。 



 量間が立花邸の皆肩の許を尋ねたのは、その日の夜の事だった。 
 「ああ、量間さんいらっしゃい。どうしました?」 
 のそりと入ってきた量間の姿を見て、皆肩はいつもの天人の様な笑顔を見せる。 
 それが今日はやけに眩しくて、量間はよそ見をして「どうしましたって…どうもせんがよ」とボソボソ呟いた。 
 皆肩は「あっ」と頭を掻いて、 
 「すみません、口癖なんです」 
 照れた様に笑う。 
 その様子がまた可愛らしいので、量間はますますおかしな気分になった。 
 「皆肩しぇんしぇい」 
 「はい?」 
 「儂ゃあ先生に聞きたいことが…確かめたいことがあって来たぜよ」 
 「? なんでしょう?」 
 量間は皆肩の前にビタンと座ると、ズイと顔を近づけた。 
 「量間さん?」 
 「先生、目をつぶっとうせ」 
 皆肩は半端な笑顔を浮かべたまま、首を傾げる。 
 同じ角度に量間も首を傾けた。 
 「えいから」 
 「いやですよ、また何か」 
 「ちっとない、つぶっとうせ」 
 「やっぱりやめときます!」 



 「ほたえな!」 
 逃げようとした皆肩の肩を掴んで引き戻す。 
 その勢いに任せて床に押しつけると、量間は左手で皆肩の体を押さえ、右手でその顎を掴んで彼に深くくちづけた。 
 「ん?! んーっ!」 
 組み敷いた体がじたばたと暴れてもお構いなしに唇を吸う。 
 あんまり暴れるので掌で後頭部を掴んで固定し、さらに深く口腔をむさぼる。 
 (「異国の挨拶にキッスってのがある」) 
 (「口を吸って舌を絡めてきたら、皆肩先生は異国の育ちかも知れねえ」) 
 (「ま、機会があったら試してみな」) 
 克の言葉が量間の背中を押した。…押しすぎた。 
 量間はそもそもの目的も忘れ、その唇の柔らかさと暖かさに夢中になった。 
 「んっ、んぅ…、んんん!」 
 皆肩が甘い声を出すのがまたたまらない。 
 うっとりと唇をはみ、角度を変えて吸い付こうとしたところで、量間は皆肩に思い切り下腹部を蹴り上げられた。 
 「な、な、何するがじゃあ! つえたらどうするがよ!!」 
 「き、急所は外しました、よっ! そっちこそ何なんですか! いきなり!」 
 皆肩は量間の体の下から這い出ると、壁にへばりついて怒鳴った。 
 しきりと拳で唇を拭っているが、そのせいで口元が赤く色づいて見えて、量間は怒鳴られながら目尻を下げる。 
 …あの唇に、触れた。 
 舌でねぶって、甘い声と溢れる唾液を啜って…。 
 途端、量間の顔に、咲のお手製の綿たっぷり座布団が直撃した。 
 「しぇんしぇい!」 
 「…次はメスを投げますよ…」 
 凄みの利いた声を出されて、量間は観念したように両手をあげた。 



 「克先生も…何をバカな事を…」 
 量間の言い分を聞いて、皆肩はがっくりと肩を落とした。 
 この時代の日本人の知識というのはこういうものなのだろうか。それとも克回収が量間をからかったのだろうか。 
 どうも後の方の様な気がしてならない。 
 幕末の偉人というのは誰も彼も、どうしてこう食えない曲者揃いなのか。 
 「けんど舌を入れてこんかった、ちゅう事は、先生ばあ西洋人ではないっちゅうことじゃなァ」 
 「…私は日本人ですよ。言葉で聞いて貰えますか」 
 「ほうか! その手があった」 
 今ひらめいたと言う様に量間は掌を拳でポンと叩く。 
 どうにも憎めない男の無邪気さに、皆肩は苦笑した。 
 「大体、西洋でも普通、男同士でそんなキスはしませんよ」 
 「ほんなら挨拶いうんは、間違っちゅうかよ」 
 「間違いではないですけど、ああいうものでは」 
 「どがいな?」 
 「だから、こう…」 
 新しいことを知りたい、と言うときの量間の表情は、少年の様だ。 
 瞳がきらきらして、まるでここではない遙か彼方の素晴らしいものを見通している様にも見える。 
 きっと人々はこの男のこんな魅力に突き動かされて、この国を変えていったのだろう。 
 (かなわないなあ…) 
 皆肩はふっと笑うと、わくわくしながら待ちかまえている量間に顔を近づけて… 




「…ん?」 
 む、と眉を寄せた。 
 「しぇんしぇい?」 
 「いや別に俺が教える必要は全くないわけで」 
 早口で何か呟くと、口元を掌で押さえて、皆肩はそそくさと立ち上がる。 
 量間はその着物の裾に縋った。 
 「ちょお、先生、儂に本物のキッスを教えゆう話は」 
 「ひ、人聞きの悪い事言わないで下さいっ」 
 「儂が西洋人相手に間違えた挨拶して恥をかいたらどうするがか」 
 「克先生に聞いたらいいでしょう」 
 「先生に教えて欲しいぜよ」 
 「私は西洋人じゃありませんから知りません!」 



 わあわあと怒鳴り合う声が表まで響いている。 
 量間と違って、克の書類整理などを遅くまできっちりこなしていた為に今ようやく屋敷に戻ってきた今日太郎は、そうか、と呟いた。 
 「皆肩先生は、異人ではないのか…」 
 まったく、坂元殿はでたらめばかり。 
 やはり私の言った通りではないか。 
 したり顔でひとつ頷くと、彼はからりと玄関の戸を開けた。 
 明日、克先生にこの事を報告しなくては。 

 克はきっと喜ぶに違いなかった。 


  □ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! 


数え間違えてて気がついたら全部で8にならなかったので 
最後がやけにコマギレですみません。 
土佐弁に悩むあまり「教えてたもれ」とか書きそうになった。 

本スレのキッスネタ姐さんたちありがとうでありんした!
#comment

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP