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47-203 の変更点


*鬼の片鱗 [#i53a550c]
#title(殿といっしょ 島津義弘×島津義久 「鬼の片鱗」)
自分以外に喜べる者がいるのかわからないけれど、殿といっしょの島津次男×長男 
史実云々とか時代考証とか突っ込み所は多いですが目をつぶってやって下さい 


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 



”大将の首は絶対に渡してはならない” 
常日頃から父や家臣に重ね重ね言われていた言葉が、その時パッと義弘の頭に浮かんだ。 
この戦の総大将は父・貴久だ。 
しかし自分の眼の先で窮地に陥っている彼の人は、他人はどうであれ自分や弟達にとっては大将に相違ない。 
それからの彼の行動は迅速だった。 
即座に馬を引いて返し、群がる者は轢かんばかりの勢いでの特攻。 
そして全身全霊力をこめて一刃を標的めがけて振り下ろした。 
「――――っ!」 
その瞬間、赤い花でも咲いたかのように血飛沫が飛び散る。 
更に刀を振るう義弘と崩れ落ちる敵兵を、義久は唖然として見ていた。 
嗚呼、前にも何かこんな時が―― 
「兄上、無事か?!」 
「あ……あぁ」 
義久は敵の体越しに聞こえた弟の声で我に返り、再び戦場に復帰したのだった。 



「すまなかった、義弘」 
「んー?別に気にするな」 
戦も、その後処理も無事に済み、ひと段落ついた薩摩・伊作城。 
日のあたる縁側で並んで腰かけるのは、薩摩の誇る戦隊ヒーロー(?)島津四兄弟の長男・義久と次男・義弘。 
「それよりさぁ」 
義弘は大きく伸びをすると、大げさにため息を吐いた。 
「折角の俺の活躍に、だーれも気付いてくれなかった事がさ……」 
「悩む所そこ?!」 
「あんだけ派手にやったのに」 
「でも兜首取ったんだろう?雑兵だけど」 
「いや、寸の所で逃げられた」 
「…………」 
「俺、どうやったら目立てるんだろうなー」 
そう言うと、もう一度ため息をつく。 
義久はまたか…といった顔で義弘を見ていた。 



しっかり者の長男で皆のまとめ役・義久、眉目秀麗で頭脳明晰な参謀長・歳久、戦場でだっていい笑顔・天真爛漫な家久 
そして、他の兄弟に比べてこれといった個性が無い義弘。 
今ではそれが持ちネタになりつつあるが、本人は真剣に影が薄い事を悩んでおり、現状を打開すべく剃髪したり、 
女装にはしったり、熊のキグルミを着てみたりと日々迷走を続けている。 
「何かを劇的に変えないと俺は日の目を見られねぇ訳か…うーん、どうすっかなぁ……」 
「まだ言ってるのか、お前」 
いつもと同じ義弘の愚痴を話半分で聞きながら、義久は先程の戦の事を考えていた。 
不意を突かれた…と言っても、言い訳にもなるまい。 
武勇で名高い島津の若殿が、一卒の兵に力で押し切られて刀を弾かれ、絶体絶命のピンチに陥った所を弟に助けられただなんて。 
しかし、義久が引っかかる所はそこではない。 
義弘に助太刀されたあの瞬間に感じた、既視感。 
かつてあれと同じ光景を目の当たりにした事があったからだ。 
それは今となっては笑い話に出来る程些細な出来事だった。 



その日はいつになく蒸し暑く寝苦しい夜だった。 
中々寝付けず「ちょっと外に出よう」と言いだしたのはどちらだったか。 
城を抜け出して、月明かりが照らす夜空の下を義弘と二人で駆けていった。 
ちょっとした悪戯のつもりだった。 
しかし朝までに帰ってくれば大丈夫と楽観視していたのが間違いだった。 
迂闊にも、弟とはぐれた上に道に迷ってしまったのだ。よりにもよって山の中で。 
「……しまった」 
早く城に戻らないとヤバい上に義弘の安否も心配だが、夜中の山を宛ても無しに進むのは危険だ。 
このまま動かず朝が来るまで待ち、下山するか。 
もし義弘が戻ってきていなければ改めて探しに来ればいい。 
そう結論を出して義久は座り込み、傍の樹木に背を持たれかけた。 
空を見上げると、いつもより一際美しい月。 
「もういい、寝よう」 
木を背にして無理矢理眼を閉じる。 
その場に漂うムッとした熱気のような風を不快に感じながらも、眠りに落ちるまで時間はさほど掛らなかった。 



それから、どれだけの時間が経っただろうか。 
「…………ん」 
ガサガサと木々が揺れる音で義久は目を覚ました。 
「義弘?」 
複数らしい話し声が聞こえるが、返事はない。 
寝惚け眼をこすって目を凝らすと松明の灯が近付いてきているのが見えた。 
誰だ? 
幾らかの可能性が義久の頭に浮かぶ。 
自分達を捜索しに来た家臣達か。 
仕掛けた罠か何かの様子を見に来た猟民か。 
ここらへんを縄張りとしたゴロツキ共か。 
はたまた狐狸妖怪の類か山男か。 
「…………」 
とっさに木の影に身を隠して息をひそめる。 
しかし既に遅かった。 
ガサッ! 
「――――っ!!」 
「何だ、餓鬼じゃねえか」 
振り向くと、そこには松明の灯に照らされる隻眼の男。 
その後ろにも人相の悪い男が二人立っていた。 
「何者だっ!」 
キッと相手を睨みつけて声を張り上げる。 
「いやに威勢のいい餓鬼だな」 
男はニヤニヤと笑みを浮かべているだけだった。 
「どうする頭領?今からでも明日の船出には十分間に合うだろう?」 
「しっかし餓鬼じゃ大した金にならねえよ。せめて女ならよかったのに」 
「フフそう言うな、金になる分マシさ。百姓やるよりよっぽど稼げる」 
口々に勝手な事を喋り出す男達。 



義久は彼らの目的を理解し呟いた。 
「成程……人買いか」 
最近、南蛮船相手の人身売買が横行していると父が言っていたのを義久は思い出した。 
どうする? 
自分が子供とは言えゴロツキ相手に泣いて命乞いなど島津の名が廃る。 
出来る事ならこんな悪党共、とっ捕まえてお縄にしてしまいたい。 
しかしこちらは丸腰で相手は大人三人。 
隙を見て逃げるしかない。 
自分を無視して更に会話を続ける男達を尻眼に義久はそっと後ずさる。 
このまま気付いてくれるなよ……! 
そう願ったのもつかの間だった。 
「逃がすか!」 
ドガッ! 
隻眼の男によって両腕を封じられ地面にねじ伏せられてしまった。 
「ぐぁっ!」 
「いい身なりしてやがる……お前、武家の子だな?」 
「だったらどうしたっ……!」 
「なら売り飛ばすのは止めだ。お前を掻っ攫って身代金たんまり頂くとしよう」 
「ふざけるな!このっ…外道が!!」 
「餓鬼が!なにデカイ口叩いてやがんだ!!」 
そう声を荒げると男は捩じり上げた両腕に一層力を込める。 
骨がきしむ音、それと同時に走る激痛の所為で、義久は悲鳴を上げた。 
「さぁ、大人しく観念する――――」 
ゴッ!! 
義久の頭上で高笑いする男の声が鈍音で遮られた。 
思いっきり首を捻って後ろを見上げると、頭を抱えてしゃがみ込む男と棒っきれを手にした子供が一人。 
吐く息を荒くし鬼気迫る形相で男達を睨みつける彼を、義久はただただ凝視していた。 
月光に照らされたその姿はまるで―――― 



「……義弘?」 
思わず、その名を呟く。 
「馬鹿っ!何ボーッとしてやがる!!」 
義弘はすぐさま義久の腕を掴んで引き寄せた。 
そして唖然とする男達を残して、二人は一目散に駈け出したのだった。 
どこへ向かっているのか分からないまま遮二無二走って山を下る。 
体が熱いのも息が切れるのも気にしていられない。 
ただひたすらに。 



山の麓まで辿り着いた時、ようやく二人は一息ついた。 
「ハッ……っぶなかった……本気で…ハァ……死ぬかと思った……」 
「あっ……あぁ」 
それから暫く二人の間には荒い呼吸音しか聞こえなかった。 
「おい……」 
それを最初に破ったのは義久だった。 
「義弘、手」 
「あ」 
その言葉で義弘は、人攫いから逃げる時から義久の手首を掴みっぱなしだった事に気付く。 
「悪い」 
そう言って手を離す。 
今度は義久が義弘の手を握った。 
「これならもうはぐれないだろ」 
「ん、そうだな」 
二人で並んで月明かりの下をてくてく歩く。 
城はもう目と鼻の先だ。 
「あーぁ、帰ったら父上に大目玉食らわされるぜーまったく……」 
「馬鹿、父上よりもお祖父様の方が恐ろしいぞ」 
「そうだった…一寸抜け出して気付かないうちに戻るつもりだったのに」 



「お前が俺からはぐれるのがいけないんだろ」 
「いや、迷子になったのは兄上の方だろう」 
「いいやお前だ。お前を探してウロウロしていなければ、悪党共に遭遇していなかったものを」 
「くそっ!あの時俺が助けて無けりゃ、あんた掻っ攫われてたんだぞ?!」 
「あ…………」 
「あーっ、あったま来た!もう二度と助けてやんねー!!」 
「…………」 
脹れっ面になる義弘と、黙り込んで俯く義久。 
「ん?どうした?」 
「義弘、すまなかった」 
そう義久が申し訳なさそうに呟くと、義弘は笑って繋いだ手を大きく振った。 
「別に気にするな、兄上」 
「うぁっ!」 
その勢いで義久が前につんのめり、それを見て義弘は一層楽しそうに笑った。 
「兄上探し回ってて、見つけた瞬間にアレだろ?ヤバイって思って、無我夢中で……。気がついたら兄上の手ぇ握って走ってた」 
あの義久救出劇を、義弘自身よく覚えていないらしい。 
「そ、そうなのか」 
これが火事場のクソ力というやつかと、義久は妙に感心した。 
「兄上だったからだよ、きっと」 
「もう無茶するんじゃないぞ」 
「分かってる」 
そう言って二人は顔を見合せて笑い合った。 



城に戻ると案の定、二人の脱走の件で家中は大騒ぎになっていた。 
帰ってくるなり二人は母に泣きつかれ、祖父にカミナリを落とされ、父にこってり絞られ、家臣達にも説教を食らった。 
そして、何故自分も誘ってくれなかったのかと拗ねる歳久をなだめ、いつもどおりの笑顔で二人を迎える家久に癒されていた。 
勿論それだけで終わるはずもないのだが……それからの事はご想像にお任せしたい。 



その時以来、あの時の義弘に感じた”何か”の事など義久はすっかり忘れてしまっていた。 
思い出せたのは、幼い頃の記憶とあの戦での光景が重なったから。 
あの時の射殺さんばかりの眼光と気迫、身を呈して自分の事を庇ってくれた彼が見せたそれはまさしく 

――――鬼 

「おい、今何て言った?」 
「えっ?」 
義久が顔を上げると、怪訝そうな顔をする義弘がそこにいた。 
先程考えていた事が口をついて出てしまったらしい。 
「あー……」 
なんて言葉を繋げようか義久が考えていると、急に義弘が両手をパンッと叩いて頷いた。 
「な、何?」 
「いいなそれ!」 
「だから何が」 
「目立つ方法!そっかー鬼かぁ、鬼!いいよな!!デカイし、カッコイイし、強そうだし!!!!」 
「そっ……そうか」 
「早速兜にツノでも付けてみるか!兄上ありがとう!!」 
義弘は一人で勝手に盛り上り、上機嫌で自室へと戻っていった。 
なんだって思い立ったら即行動、それが義弘。 
「まったく、あの馬鹿は……」 
一人取り残された義久はそう呟いて苦笑した。 
「やっぱりあれは気のせいか」 



動乱と野望渦巻く戦国時代。 
ここ九州・薩摩の地に、いずれ全国にその名を轟かすであろう四人の兄弟がいた。 
その名は島津四兄弟。 
目立たない次男坊こそ義弘が、後に”鬼島津”と呼ばれる猛将になる事をまだ誰も知る由も無いのだった。 



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! 

まずは満足。 
回想シーン、二人とも幼名だろとも思いましたが、ややこしくなりそうなので今の名前で通しました。 
島津四兄弟は”弟は兄思い、兄は弟思い”だといいなぁと思ってます。 
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