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*鴉達零 源時×伊埼 [#nfd853e6]
#title(鴉達零 源時×伊埼) [#nfd853e6]
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 

邦画 鴉達零 源時×伊埼 
念のため固有名詞伏せ字で。 



病院は嫌いだった。 
さして行ったこともないけれど。 
白い静かな大きな箱。 
仏間に安っぽいシャンデリアの下がる、がらくたが詰め込まれた実家とは正反対だが、 
あそこと同じ、辛気くさい、カビくさい場所。 

けれど源時は足を伸ばした。 
別段行くことはないかなと思いながらも。 

・・・・・・牧世に。 
「ついていけない」と言われて。 
汚れた水に沈んで。 

慰めの言葉が欲しいわけでは、もちろんなかったけれど。 



蝦塚中というのは、鈴欄ほどではないがまあ大差はない。 
ただ、ベンガクに励みたいという真っ当な学生がある程度いたばっかりに、 
虐げる側と虐げられる側、という構図が出来上がっていた。 

弱ければ、踏まれ、蹴られ、身ぐるみ剥がされる。 
伊埼瞬は入学してすぐにそれを察知し、 
即、当時の最大派閥に属した。 

リーダーは3年、いつもサバイバルナイフを持ち歩いてちらつかせるような奴だったが、強かった。 
ナンバー2はリーダーの幼なじみで同じく3年、体がでかくて柔道黒帯。 


伊埼はその頃から学年では抜きん出て強く、派閥でも重宝された。 
ついこの間までそれでも子供だったその体は、 
蝦塚中で生き残るべく、 
過酷な筋トレと、たまに通うボクシングジムと、日々の殴り合いですぐに男になっていった。 



「うぁ・・・っ!」 
汗びっしょりになって飛び起きる。 
途端に、脇腹が痛む。脇腹と言わず、体中が悲鳴を上げる。 
「くっ・・・」 
病室だった。見下ろせば、包帯とテープだらけの自分の体。 
「・・・・・・」 
嫌な夢を見た。久しぶりだった。 
戸鍛冶のせいか。 
それともこの間、懐かしい中学時代の後輩3人組の顔を見たせいか。思い出したのか。 
「くそ・・・・・・」 
まあ、少なくともこの体の痛みは戸鍛冶のせいに違いなかった。 
何でまた、よりによってあのテの奴なのか。 
「てめぇは瀬利沢でも見てオナってろ・・・!」 
低くうめいて横になる。 
夢なんか怖くない。 
無理矢理目を閉じる。 



伊埼クンのお見舞いに、と源時が受付で告げると、職員に胡乱げな顔で見られた。 
無理はない。 
リンチ以外の何者でもない、体中の傷で運び込まれたのだ。 
歯が折れてなくて良かったな、と唐突に源時は思った。 
伊埼は男前だから。 

不思議に思ったものだ。 
ひとつライターの火で煙草に火を点けながら、 
その炎が落とす、伊埼のまつ毛の影を見ながら。 

ずたぼろになって崩折れた自分に、 
終わってねえと言いながら、伊埼に拳ひとつ浴びせてやれなかった自分に、 
なぜついてくれる気になったのか。 

でもやがて、何となく分かったような気がした。 
ダーツを教えてもらいながら、「筋はいいよ」と言ってもらったときの、なにげない気の遣われ方とか。 
野球でバカやりながら大勢で騒ぎながら、 
声を上げずに小さく笑ってる伊埼が何か可愛いなあと思ったりとか。 

牧世は笑って、「お前ら、似た者同士よ?」と言ってたっけ。 
でもその牧世ももういない。 
胸に束の間忘れていた暗雲が、再び立ちこめる。 
ああ、時夫も、この病院にいるんだろうか。 
暗雲は濃くなる。 

一人だったときは、知らない感情だった。 
でも、知らなければ良かったなんて。 
「・・・ぜってぇ言わねえかんな」 



「瞬坊、明日第二中と戦争するぞ」 
リーダーがそう言ったのは、伊埼が中学1年の2学期の終わりだった。 
その年の寒さは厳しく、溜まり場の剥き出しのコンクリートがいっそう冷え冷えとしていた。 

第二中とは何度もぶつかりあって来た仲で、 
個々の実力はこちらが上回るが、いかんせん向こうは数が多かった。 

「午後10時、場所は埠頭の5番倉庫。裏口の鍵壊れてっから、中で集合だ」 
ナンバー2が溜まり場の連中に言い聞かせ、みなが頷く。伊埼も頷く。 
「いい加減これで決着つけねえとなあ、頼りにしてるぜ、瞬坊」 
リーダーは粗暴で気まぐれな男だったが、腕の立つ伊埼をそれなりに可愛がっていた。 
いつもおごってくれたし、幹部だけの飲み会にも声をかけてくれた。 

「ああ、それとなあ、瞬。明日はエモノは無しだ」 
ナンバー2の言葉に、伊埼がリーダーの顔を見ると、相手は笑って頷いた。 
「ああそうだ。拳で勝負。第二中とも話はついてる。俺もナイフは使わねえよ」 
伊埼の頬が思わず笑うと、リーダーも大声で笑って伊埼の頭を抱え込み、くしゃくしゃにした。 
「あっはっは、何だその満足げな顔は。おめえエモノ嫌いだったもんなあ! 
まったくクソ生意気なヤツだよ!」 
「・・・へへっ」 
くしゃくしゃにされながら、伊埼も笑った。 



「・・・埼っ、伊埼!・・・っおい!」 
はっとして目を覚ますと、人の顔が見えて、やがて焦点があって、それがおおいかぶさる源時だと分かった。 
肩に痛みを覚えて、両手で掴みしめられていると分かる。 
・・・・・・また夢だ。うなされたのだ。 
「伊埼、い、ざ、きー? 分かる? 俺。だいじょぶ?」 
声を落として源時が顔を覗き込んでくる。 
「ああ・・・悪ぃ・・・」 
呟いて顔を背ける。 


「夢でも見た?」 
体を離しながら、源時が問いかける。 
「いや・・・部屋ん中に人いて、驚いた」 
「ん・・・見舞い、来た」 
手ぶらの両手をポケットに突っ込みながら肩をすくめる立ち姿に、伊埼は少し笑って 
「何かあったか?」 
「え」 
「おまえひどい顔してるぞ」 
今にも泣きそうな。 
牧世が、こいつは泣き上戸だと言っていたっけ。 



「おいっ?!」 
いきなりがばと、源時が再び身を伏せた。 
というより、だらりと両手を下げ、ほとんど伊埼の包帯だらけの胸に倒れ込んだ。 
「いっっ・・・てえな何してんだ!」 
「あー伊埼あったけー」 
「傷が熱持ってんだよ、バカ離れろ!」 
源時が両膝をついたタイル床は冷たくて、それが余計に源時の頬に伊埼の体温を伝えた。 


「なあ何の夢見てた?」 
「・・・・・・」 
「俺、おまえのこと知りたい」 
「・・・おれがおめーに訊いてるんだろ、何があったんだよ」 
「何で伊埼が俺についてくれてんのか分かんねーし」 
だって、牧世も離れていったし。 
「ばーか」 
伊埼は、一向にどこうとしない胸の上の源時を諦めて言った。 



窓の外は晴れて、雲が流れていた。 
窓の下の草っぱらでは、看護婦が誰かの車椅子を押し、家族が訪ねに来てるだろう。 
鈴欄では、相も変わらずクソのような教室で、クソつまらない小競り合いが続いてるだろう。 
どちらも同じ世界だ。 


どうして話す気になったのだろう。 
「中坊の頃、・・・」 
それは子守唄のような穏やかな声だった。 
「真冬の埠頭の倉庫でさ、ヤクザに囲まれた」 
「・・・・・・」 
「センパイに、他校と戦争するからって言われてた。 
で行ったらヤクザが待ってた」 
「何で?」 
「知らねえ」 

リーダーが、街でヤクザといざこざを起こした。 
おいたで済んだが、おとしまえは求められた。 
ナンバー2は画策し、交渉の席にリーダーを来させなかった。 
そして伊埼が売られた。 



ふと思い出して、伊埼は源治に 
「おまえ、おれに向かって来たよな。D組全員に囲まれてたのに」 
「うん」 
「おれは、勝算のない喧嘩はしないガキだった」 

最後の手段のために、ナイフを忍ばせることはたまにあった。使ったことは無かったが。 
だがあの日はそれも置いてきた。 

「さすが本職は容赦ねえのな」 
「・・・・・・」 
「まず、服脱げって言われて、裸に水ぶっかけられんの。 
12月でさ、隙間風だらけの倉庫だぜ? 暴れる前に凍死するっつーの、だせー」 
伊埼が小さく笑う。 
「そんで・・・」 
身じろぎひとつしない、源時は眠ってしまっただろうか。 
「体売りもんになるのは女だけじゃないって知ってるか、とか言われて」 
起きてた。胸の上で伏せてる源時の顔がこわばった。 
「・・・・・・そいつら殺してくる」 
「ばーか何もされてねーよ」 
顔を上げ、きかん気の強い子供のような表情をする源時を、上から小突いて、 
「あーまあ、何もねーわけねえけど」 
「・・・なにされた?」 
「それ言わすの?」 
「・・・ごめん」 


源時は伊埼の胸から立ち上がって言った。 
「オレ、おまえのこと大事にすっから」 
「はは、何だそれ」 
伊埼は笑った。その後、少し赤くなった。 
それを見て、ちょっと源時も赤くなった。 



少しの沈黙の後、突然源時が言った。 
「オレのこと殴ってもいいけど」 
「はあぁ?」 
「オレさ、ヤクザの息子なの。伊埼をやった奴らは別の奴らだといいなって思うんだけど、それでさ」 
そうして源時は、鈴欄に入った理由をぽつりぽつりと喋った。 

父親を越えたかったこと。 
ひとづきあいの苦手だった自分が、拳と出会い、GPSを旗揚げし、楽しかった。 
伊埼がやられて、目の前が真っ赤になったこと。 
中太もやられたこと。 
荒れて暴れて、牧世に言われたこと。 

そうかと、聞き終わった伊埼は言っただけだったけれど。 
喋り終わった源時には、病室を出てすべきことが分かっていた。 
暗雲が晴れた。 



あの日から1か月後に、伊埼は派閥のリーダーとそのナンバー2を殴り倒し、蝦塚中から叩き出した。 
派閥は伊埼のものとなったし、周りもそう見ていたが、伊埼はすべてのものと距離を置いた。 
卒業するまで蝦塚中のトップは伊埼だったが、派閥は彼を遠巻きにしていたし、 
伊埼もナンバー2は決して作らなかった。決して。 



「なーんか、笑うよな」 
誰もいないダーツバーで一人ごちる。 

『源時についてやってくれ』 
C組の牧世に頼まれたときの感想は、誰だそれ?だった。 
瀬利沢に何度負けても諦めない牧世が認めたというその男に、多少の興味はあったけど。 

『源時は熱いヤツだし、強い。でもバカだ』 
あー牧世にバカだと言われるなら相当のバカなんだな、と思って。 
『切れ者のおまえが源時のナンバー2になってくれれば、鬼に鉄棒だ!』 
『・・・・・・』 
敢えて訂正はせずに、冗談、と歪んだ唇で笑った。 
重ねて頼みこんでくる牧世に、顔ぐらいは見てみるよ、と手を振って背を向けた。 


何よりも大事なのはオレらの頭だろ。 
そのためには末端くらい切って捨てる。 
叩きのめして地に這わせて、さっきまでナンバー2だった男が言った台詞だった。 

それは嘘だ。 

大事なのは組織だ、生き残るべきは組織だ、頭では分かる。 
だが、自分が認めた男を、何があっても立てたいと思っちまうだろう。 
そう、ナンバー2だって3だって、戸鍛冶だってそうなんだろう。 
おれだって源時に惹かれてる。 


伊埼はダーツを手に取った。 
まあ、GPSにナンバー2は要らねえよ、と思い、一投目を投げて。 
相変わらずだらだら歩ってるだろう、遅いあいつらを待った。 



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! 

改行失敗。もっと分割減らせましたな。すんません。 
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