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*バレンタインナイト・パニック [#tf7bf7a9]
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            //  .||               ∧∧ 
.          // 生 ||             ∧(゚Д゚,,) < 半ナマ・ドラマ半町より>>バレンタインデイ・パニックの続き的なもの 
        //_.再   ||__           (´∀`⊂|  < 中身自体は黒樹くんと素田さんの独立したお話です 
        i | |/      ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ~ 
         | |      /  , |           (・∀・; )、< 黒視点片想い?な感じでここにはこの二人しか出てこないよ 
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )! 
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..| 
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´  引き続きもう数レスお借りします。 
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 |         | ./ 
 |_____レ" 



「…よし、あと10枚!」 
「まだ10枚もあるんすか!?」 
午前に起きた事件は何とか無事に解決を見、他の班員たちが帰宅した後の刑事部屋で素田と黒樹は報告書を書いていた。 
デスクワークも刑事の大事な仕事だ。大事ではあるが、如何せん事件の際には後回しにされることが多いのも事実だ。 
今日のものはこれまたひとまず置いておき、まずはこれまでに溜めていた書類からかからなくてはいけない。 
幸か不幸か今夜は素田と二人で当直にあたっている。 
もののついでと言っては何だが、出来れば今夜中に在庫を全て片付けてしまおうというのが黒樹のひそかな目標だった。 
「別にいいだろー、今晩中には終わるよ多分」 
「夜中に何にもなけりゃ、の話ですけどね」 
「ま、ね」 
その返事に小さく肩をすくめ、黒樹はまたデスクに向き直ろうとする素田に話しかけた。 
「もう昨日のことみたいですよね」 
「ん?」 
「バレンタイン…事件」 
場所柄、“事件”を軽く強調してみせる。 
「ああ」 
素田が思い出したように小さく笑った。 
「桜衣も災難だったよなあ」 
「邑鮫さんのあの顔!俺、うわー自分じゃなくてよかったーってちょっと思っちゃいましたよ」 
「うーん、…うん、実は俺も。そう思った」 
「………」 
「………」 
何故か不思議な間が空いて、自然と顔を見合わせて、その間が妙におかしくて、二人ほぼ同時に吹き出した。 
「っははは、ははっ」 
「ふふ、ふっ」 
まるで小さなこどもが拗ねるかのような、不機嫌を隠さないあの表情。 
普段はすこぶる冷静な先輩刑事のあんな顔など滅多に見られない上に、そのご機嫌斜めの原因と 
そんな直属の上司にひたすらびくびくしていた後輩刑事の顔がまた同時に思い出され、 
申し訳ないと思いつつも思い出しただけでまだ笑いが込み上げてくる。 



お互いひとしきり笑った後。 
よっぽど笑いのツボを刺激されたのか素田が目尻を指でごしごしと拭って、懐かしそうに呟いた。 
「そういえば俺たちの頃ってどんなだったかなあ、バレンタイン」 
由希子は、今の時代チョコレートは特定の一人の相手に渡すものでもないという前提で喋っていたようだった。 
尤も去年は覚えがないので、今年はたまたま今日この部屋にいたためご相伴にあずかれたといった感じだろう。 
それほどに忙しない今の職業に就いてから、各シーズンイベントの盛り上がりは正直なところよくわからない。 
せいぜい、この時期が近づくと街全体が目に痛いくらいの赤色やピンク色へ一気に染まる印象があるぐらいだ。 
バレンタインデーに関するイメージなど今やその程度のもので、本番は気づけば過ぎていることの方が多い。 
しかし自分の学生時代は「女子が好きな男子にチョコを渡し告白する日」としてそこそこ定着していた気がする。 
少なくともそこら全体にチョコレートをばら撒くような日ではなかった、と黒樹はしみじみ思い返した。 
告白する側の女子だけでなく、今日という日が近づくと貰うあてのない男子連中も妙にそわそわしていたものだ。 
時間としてはそんなに経過していない心地がするのに、この日の持つ意味は随分と変わってしまったのだろうか。 
素田の頃は果たしてどうだったのだろう。ぼんやりとした疑問が浮かぶ。 
「素田さんチョコレートとか貰ってましたか?」 
素田はその問いに、言葉よりもまず顔の前の手をひらひらと横に振ることで答えた。 
「俺はほんとそういうのさっぱりだったってば。お前は?モテたろ」 
「…そうでもないっすよ」 
「嘘つけえ」 
「いやいやほんとですって!ていうかほら、手止まってますよっ」 
疑いの眼差しを向けてくる素田を苦笑いでごまかしながらやり過ごし、自身もデスクに向き直る。 
何故だろう。 
甘い菓子と一緒に甘い言葉を貰った体験が過去にないわけではない。 
むしろ一般的に見ると少しばかり経験が多い方かもしれない。 
だけれど、何故だか。 
それを素田にはあまり知られたくないと思った。 



「…よし、あと1枚!」 
「えっ、黒樹速くない!?」 
「俺は素田さんと違って走るのも報告書書くのも速いですから」 
にやにやしながらそう言ってやると。 
「何だよそれー」 
はははっと素田が笑う。悪意の全くない軽口と承知してくれているからこそこちらも遠慮なく言えるし、笑える。 
仮にも警察という厳格な組織の上司と部下で有り得ない、と感じる人間もいるかもしれない。 
それでも素田と自分にとってはこれが自然な日常なのだ。まるで呼吸をするのと同じくらい。 
この関係と距離感が、心底たまらなく心地いい。 
安曇班自体がそういう人々の集まりであることは間違いないが素田と二人の時間はまた特別だと黒樹は思う。 
この人に出会えてよかった、と思う。 
左の手首にちらと視線をやって腕時計を確認する。 
あっという間に数時間が経過し、あと少しで今日という日が終わろうとしていた。 
この報告書を書き終わったら少し仮眠を取ろうか。そう思った。 
「あー、でも」 
書類から目を離したついでに両腕を揃えて指を組み頭上に伸ばし、全身で大きく伸びをする。 
「やっぱ疲れますね、書類書きは」 
「だな」 
「外で犯人追いかけて走ってる方がある意味楽っす」 
「そうかあ?」 
「そうですよ」 
「ま、脳みそ使うと糖分消費するからな。腹減るよな」 
そのいかにも素田らしい物言いに思わずくすりと笑ってしまう。 
「そうそう、そうですよ。今なんかまさにその状態で」 
「あ、じゃあさあ黒樹」 
「はい?」 
素田が緩慢な動きでごそごそと机の引き出しを探った。 
「あったあった」 
出てきたのは、よくコンビニで見かけるような一袋百円均一で売られている安物のチョコレートだった。 



素田は既に開封済みのその袋の中から二、三粒を無造作に取り出して黒樹に手渡す。 
「はい、糖分補給」 
「あ、ありがとうございます」 
「それ食べてラストスパートがんばれよ」 
そう言って素田は引き出しを閉め、自分の目の前に先程の菓子を袋ごとガサッと置いた。 
「あっ、素田さんも食べるんですか!?」 
「え、食べちゃダメなの!?」 
「こんな時間に食べたらまた太りますよー?」 
「いいじゃん、お前も食べるんだから!それとも要らない?要らないの!?」 
「いや貰いますけど!せめて袋はやめといて下さいってば」 
言いながら素田のデスクに置かれた袋を取り上げ、中から数粒を取り出して袋のあった位置に転がした。 
「あ」 
「これは今夜一晩預かっときますからね」 
「えー…」 
未練がましく手元の袋を見やる素田に「ダメです」ともう一度通告してそれを自分の引き出しに仕舞う。 
「はいはい、わかったよ」 
潔く諦めたらしい素田が机上の報告書に向き直る。その手がごく自然に個包装の包みへと伸びた。 
「………」 
やれやれと黒樹はこっそり苦笑する。だけれどそんなところも嫌いじゃない。 
むしろ微笑ましく、好ましくあるとさえ思った。 
「…いただきまっす」 
「うん、どうぞ」 
両端で軽くねじられた簡素な包装を両手でつまんで引っ張り、くるりとねじり返して包みを開ける。 
役目を終えかけた薄いプラスチック製のそれが微かな音を立ててその存在を主張した。 
ふわりと鼻腔をくすぐる甘い匂いと同時に生身の姿を現した茶色の菓子を、口の中に放り込む。 
見た目の色濃さと口の中に広がる甘ったるい味からしてどうやらミルク入りのようだった。 
「…あ、美味し」 
あまりにも素直な感想がその唇から零れ落ちた。 



「美味しいだろ?やっぱこういう時には糖分が一番だよなあ」 
にこにこと満足げに微笑んだ素田が早々と二粒目に手を伸ばす。 
「……はい」 
正直、少し驚いた。 
昼間に由希子から差し入れられたブランド物のチョコレートとは美しい包装も高級感も比べ物にならないのに。 
今口にした安物の一粒の方がずっとずっと甘くて、ずっとずっと美味しかった。 
(…ん?) 
そもそも何故チョコレートなんて物を差し入れられたのだったか。 
再びペンを右手に持ちつつ、左の指で頭を掻き掻きたっぷり数秒間、考える。 
「――――――――あ。」 
カチッ。 
妙に大きな音を立てて、耳元で長針が動いた。 
慌てて見ると時計の文字盤に表示された日付はつい今しがた、2月の15日になったところで。 
この数年間、意識もしなかった昨日という日が終わりを告げたところだった。 
(これって) 
空になった包み紙を見やる。薄く透明なそれの内側には僅かに残った茶色の欠片がこびりついていた。 
「どした?」 
怪訝そうな声が隣から聞こえた。その声にふっと我に返る。 
「え…や、何でもありません」 
「ほら、手ぇ止まってるぞー」 
先刻自分が言われた台詞をこちらへ投げ返して素田がにやにやと笑う。 
何故かその顔を直視するに忍びなくて、無言で最後の報告書にすっと視線を落とした。 



殺人犯を前にしたところで最早滅多に動揺することもなくなった黒樹の強い心臓が途端に早鐘を打ち始める。 
(…俺、今、何考えた) 
「黒樹?」 
打って変わって少しばかり心配そうな声がした。 
「何か顔赤いけど大丈夫か?暖房効きすぎ?」 
「だっ、大丈夫、です!」 
「…おっ、あ、ああ、そう……?」 
「あっ」 
思ったよりも大きな声が出てしまったようで、隣へ目をやると小さな目を真ん丸に開いた素田の顔があった。 
驚かせるつもりじゃなかったのに、と内心で軽く舌打ちをする。 
「…すいません、素田さん」 
「ん?んん、ああ大丈夫大丈夫。ちょっとびっくりしたけど」 
ぱっと穏やかな笑みを浮かべ直して素田はぽんぽんと黒樹の背を叩いた。 
すぐ傍で優しい声がする。 
「まあ疲れてるだろうけどもうちょっとがんばろう。な、黒樹」 
「…はいっ、がんばりましょう」 
自分に言い聞かせるように返事をして頬を両手ではたく。 
言われた通り、その頬は微かに熱かった。 
叩かれた背も、熱かった。 
やはり暖房が効きすぎているのだろう。経費削減のためにはもう少し寒々しいくらいがいいのかもしれない。 
(考えすぎ、だよな) 
疲れているからうっかり変なことを考えてしまうのだ。それだけだ。 
心の中でそうも言い聞かせるようにして黒樹はペンを握った。 
真横ではまたぞろ包みを開く微かな音とともに緩慢に身じろぐ柔らかな気配がした。 
仕事で疲労の溜まった脳を、労わるように、もうひとつ。 
…甘いチョコレートを、手に取った。 







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.          // 止 ||             ∧(゚Д゚,,) < 両片想いノマ問わず基本が二人の世界な黒素萌え! 
        //, 停   ||__           (´∀`⊂|  < あまりバレンタインぽくもない話でしたが 
        i | |,!     ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ~ 
         | |      /  , |           (・∀・; )、< お読み下さった方ありがとうございましたー 
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )! 
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..| 
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