47-507 のバックアップ(No.1)
生白ぬこ †
生もの、最近調子よくないけれど、今夜ばかりは祝いたいネタ。
2747で。47☆オメ!
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
いつもはちくちく言ってくる後輩も、今日ばかりは「おめでとう」と言った。
勿論この図体のでかい後輩は自分のことのように嬉しそうに、もう大騒ぎだ。
「穂脚さん、穂脚さん!」
「んーだよ、ちから!」
「はい、おめでとうございま、っすー!!」
高々とビール缶を掲げられると、穂脚には正直届かない。全く、わかってることだろうに。
「へいへい、お前もお疲れさん、ありがとな」
本当は寒風するつもりだったんだが、とその言葉は己の頭の中で呟いた。
いやいや、左肩が抜けそうだ。久しぶりに渾身の出来だった、そのツケが今始まっている。
最後の最後ガス欠なんて決まらない、とは思うが、まあそれも自分らしいかと思わなくもない。
そのおかげで斧寺には、自分の尻拭いを押し付ける羽目になってしまったんだが。
「うあー、いい飲みっぷり」
「俺明日フリーやもんね!」
「ずっるい」
「おめーは明日もスタンバっとけ」
もう何本目かわからない缶を一気にあおる。
ホテルの床の上には、多分自分が殆ど飲み干した亡骸どもが、累々と転がって鈍く光っていた。
それにしても気分は良い。何ヶ月ぶりだ、この気だるい爽快感は。
さっきから何度も、ポケットの携帯電話が震えていた。おめでとう、のメールも鳴り止まない。
穂脚は片手にビール、片手に携帯でそのどちらをも薄目で眺めた。
部屋飲み相手の斧寺はかなり酔いが回ったのか、正面のベッドに突っ伏して笑っている。
「お祝い、いっぱいっスね」
「おー」
「地元はつしょーり~」
「へへへ、んだな」
プロ入りしてからもう何年にもなるが、この土地で勝ったのは実は初めてだ。
そう思うと、数ヶ月ぶりの爽快感よりもデジャヴの逆のようなものが、不意に穂脚のこめかみを閉めた。
「?」
顔をしかめた穂脚に、斧寺は端正な顔を緩やかにして、人のよさそうな笑みで問いかける。
ぼったりしたホテルのシーツに、その逞しい身も優しい笑みも存分に埋まっている。
周囲は静かで、まるで全くいつものことのようで、穂脚を余計混乱させた。
電話の中に文字盤が光る。「お疲れさま、おめでとう!」と、何てことないメッセージがまたひとつ。
ただその差出人が、ここにいないことが、それだけが非日常だった。
「…何でもねーよ」
別に、今日の歩主のサインが気に入らなかったことはない。
それにまた、別にその構える姿勢に違和感をおぼえていたわけでもない。
ただ、お前はそこにいなかった、だけだ。
「メール、糸田川さんすか?」
「…」
斧寺は、必要ないところで勘が良い。それ以外は全然役に立たないくせに、と穂脚は思っている。
むしろ不要なそのセンサーは、隠しておけば良いのに隠せないぶん、時折彼の立場を不利にもする。
全く。穂脚の何かがざらついたのを、肌が粟立ったのを、多分斧寺は知らない。
「…おう、おめでとうって」
「あっちは調子どうなんすかねぇ」
「そこまで知るかよ、書いてねーもん」
パタンと携帯をまた、もとの二つ折りに戻した。部屋の優しいだけの明かりは反射せず、写りこむだけ。
お前がいないだけだ。別に。
それだけで簡単に、俺は欲しかったものを手に入れた。何だかあっけない。
「…あっけねぇ」
「はい?」
まさか、お前がいないなんて思ってなかったのが本音。怪我なんて、お前には無縁かと思ってた。
丈夫さだけが取り柄、と何度も揶揄して笑ったことがある。その度うっせ、と三白眼で睨まれたことも。
浮き沈みするのは穂脚の肩の具合だけで、糸田川はいつでもそれを受け止めている、はずだった。
そう勝手に、穂脚はどこか思い込んでいたと、それを今思い知っている。
「独り言」
なあ、俺にここで何とか勝たせたくて、お前まで四苦八苦していたのはずっと知っていた。
だから何だか変な気分だ。本当に落ち着かないんだ、あっけない。
落ち着かないということを、逆に突きつけられているような気がする。お前がいない、何でだと。
お前がいない、それだけだという風には、何故かとても思えない。
穂脚は、たった、と笑えない。
「で、穂脚さん返事はー?」
誰も悪くない話、誰のせいでもない話。
だが、他人に立ち入って欲しくもないし触れて欲しくもない。俺と、お前の話についてだ。
「…後で出す」
ゆっくり思い知っている。自分の無意識について。
それから、今言えないあらゆることについて。
「へぇ?」
「呑んでんだもんよ、今変なことしか書けねって!」
ざらついたものを、穂脚は隠した。
だからお前がいないなんて、変な気分だ。
お前抜きで得たものがここに、確実にあるなんて。
「…」
左肩を撫でさする。そこに呑みかけのビールは残っている。
穂脚がげらげら笑ってまた、利き手の缶を空にするのを、斧寺もまた笑って見ていた。
その視線はよくわかった。だが、虚空を見て穂脚が笑ったのは、多分気付かれていなかった。
虚空には本当に何もなかった、けれど穂脚は笑っていた。
欲しかったものは貰っておく。誰にも渡さない、お前にもだ。
ただそれとは逆に、突きつけられた話がある。
無意識の下の風景が、めくれ上がるように瞼の裏にフラッシュバックした。
俺は何時からか無意識に思い描いていた。必ずお前がいる風景を。
ずっと思っていた、欲しかった勝利の瞬間手を掲げるのは、俺にはお前だと思っていた。無意識に何度も。
何度も何度も、俺にはお前だと。
俺には、お前なんだと。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
早く27も帰ってきて欲しいなあ。