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鋼鉄都市シリーズ ダニールとイライジャ

                       l 豚切りごめんね。>>158-169のロボットシリーズの最後だよ。
 ____________     l パート3は、足モフセンセーのとある話のネタバレだから、
 | __________  |     l それでも(・∀・)イイ!!人だけ読んでね。
 | |             .| |      \ …学者さんの性格の把握が微妙に怪しいかもだよ。
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二万年。
そんな月日をたった一人で生き続けるというのは、一体どんな心持がするのだろう。
歴史学者のペロ.ラットは、伝説のロボットのR・ダニ一ル・オリヴォーと向き合いながら、
そんな答えの出ない疑問を、宇宙の果てについて考えるように、漠然と思いをめぐらせていた。
ロボットは椅子に腰掛けて、静かな視線を投げかけてきている。
一分の隙も無く整った容貌の冷たい美しさと、それにもかかわらず、
その全身から滲み出る哀しげな倦怠に心を押しつぶされそうになりながらも、
ペロ.ラットは懸命に口を開いた。
「あなたの話を聞かせてくれませんか」
目の前のロボットは黙りこくったまま動かない。
「私にはあなたの記憶を分かち合って、あなたと一緒に人類に対する仕事をすることはできない。
そちらについては、先ほど理解しました。
だから、せめて、あなたをここまで突き動かしたものを知っておきたいのです」
「一人の学者として、ですか?」
「いえ、私の個人的な関心として。一人の人間として」
質問を発した後、なおもロボットは黙っている。
「あなたは、私に話をしたがっているのではないでしょうか」
ペロ.ラットが挑むように言うと、しばしの沈黙のあと、ロボットが椅子から立ち上がる。
頭ひとつ背の高い彼の、見下ろす青い目は優しい表情を浮かべているように見えた。
その姿は、宇宙全体を統べる存在というよりもむしろ、
中世の書物に出てくる絵のような、神に仕える高位の司祭を思わせた。
真摯な、報われない忠誠を何かにささげている敬虔さを、
ペロ.ラットは彼に痛いほどひしひしと感じていた。
「わかりました。お話致しましょう」
そう言うと彼はゆっくりと立ち上がり、歩き始める。
その時、ロボットの左手首がきらめき、
そこに何か細い腕輪のようなものが巻かれているのが見えた。
古代の装飾品だろうか。それとも、何か大事なことに必要な道具なのだろうか。
歴史を良く知るペロ.ラットにすら、それが何を意味するのかわからなかった。

「私が語るのは歴史ではありません。ですから、あなたは少々失望されるかもしれません。
あなた方の言葉で言えば、単なる『思い出話』に過ぎないのですから。
あなたはそれでもよろしいのでしょうか」
彼らは長い廊下を歩いていた。ペロ.ラットが承諾すると、その途中で、
ロボットは少しずつ語り始めた。
彼を作った宇宙人のこと、旧友のロボットのこと、
そして、かの有名な文化英雄「イライ.ジャ・ベイリ」のこと。
「『イライ.ジャ・ベイリ』とは、いったいどのような人間だったのでしょうか。
ある地の民間伝承によると、彼は七日七晩で自らの宇宙船を無から作り上げ、
他の星々に星間移民を説いて回ったなどという逸話が残っていたりします」
それを聞くと、ロボットは驚いた様子も見せずに答える。
「いいえ、そのようなことはなさいませんでした。
したくともできなかったでしょう。あの方は地球人でしたから」
「『地球人』?…ああ、彼はあの星で生まれたのですね。
イライ.ジャ・ベイリが地球人であったことに、何か関係があるのでしょうか」
ロボットは仰向き、今では放射能物質の塊でしかない、鈍色をしたかつての地球に目をやった。
「地球という星の特性について、少しお話させていただいてよろしいでしょうか」
「ええ」
「かつて80億の地球人は、巨大な鋼鉄のドームの中で暮らしていました。
彼らは通常、生まれてから死ぬまで、その中から一歩も外に出ることはありませんでした。
その鋼鉄の洞窟から、最初の一歩を踏み出したのがあの方だったのです。
あなたが仰る様な形ではなく、半ば強制的に連れ出されるような形でした。
このようなことをお話してしまったら、あの方はお怒りになるかもしれませんが…」
少し考えるように言葉を切り、ロボットは再び口を開く。

「あの方は『そと』に出るということに大変な恐怖を感じていらっしゃいました。
あなた方には想像ができないかもしれませんね。頑丈な壁の中で育った人間が、
四方に何も無い、むき出しの戸外に身をさらす時、
いかに大きな恐れを感じうるか、ということが。
私はそのような地球人の特性を知っていましたから、
『そと』の恐怖から守ろうと、できうる限りのことをしようとしました。
けれど、あの方はそれを拒まれました」
そこで言葉を少し切って、ロボットは黙り込む。
「あなたは、お疲れではないでしょうか?」
自分ばかり喋りすぎてしまったと感じているのか、そうペロ.ラットに尋ねてくる。
「いいえ、全く。そのまま続けてください」
彼はそう促すと、ロボットは、そうですか、と相槌を打ち、話を続けた。
「私の回路には戸外への恐怖は組み込まれていないので、
あなただけでなく、私にも、あの方の正確なご気分を想像することは不可能でした。
けれど、あの方にとって、昼間の白い太陽が夕方には赤く染まり、
地平線のかなたへ姿を隠すなどということは理不尽の極みでした。
天から水が滴り、轟音とともに空から電気が降って来るなどということも、
到底理解できない現象でした。
けれど、そのような状況に直面しても、あの方はすべてを耐え忍ばれました。
決して、易々とではありません。
手ひどく苦しみ、恐怖に震えながらも、果敢に立ち向かって行かれたのです」
「イライ.ジャ・ベイリの、苦しみに満ちた最初の一歩のおかげで、
現在の我々人類が現在の形で在るということですね」
「あなた方人間だけではありません。私もそうなのです」
ロボットの声が少し小さくなり、ペロ.ラットは思わずその顔を見上げたが、
その端整な顔立ちには相変わらず、何の表情も浮かんでいなかった。

「決して意図した訳ではありませんが、私があの方を苦しめてしまったことも幾度もありました。
最期にお会いしに行った時、あの方は『もう疲れた、死にたい』と仰いました。
私が、あの方の死の時間を引き延ばしてしまったのです」
「…もしかするとあなたは、イライ.ジャ・ベイリに対する贖罪として
このようなことを続けているのですか?」
ペロ.ラットの胸に一抹の不安が過ぎり、彼はロボットに尋ねた。
「それは違います。あの方がいなくなってしまった世界で、私が何をしたところで、
起こったことを実際に変えられるわけがないのですから。
私はただ、あの方が生きていらっしゃった時の苦しみや、
そうまでしてあの方が成し遂げられた事が全くの無に帰してしまうのは、
あまりにも忍びないことだと感じているだけです」
ロボットが溜息を一つついた。
無表情な顔に似合わずその仕草があまりにも人間的だったので、ペロ.ラットは驚く。
「あの方の行為が、今も私を生かしています」
先ほどからずっと、ロボットの問わず語りを聞いていたペロ.ラットの頭の中で、
一つの考えが組み合わさる。自分でそれを訝しみながらも、彼はその事を口にした。
「こんなぶしつけなことを言う私をお許しください」
ロボットの青い目が向けられる。
「あなたは彼に愛情を抱いていたのですね」
痛々しいような気持ちで、ペロ.ラットはそう聞いてみた。
ロボットは、二、三度瞬きをして、また視線を正面に戻し、
先ほどよりは、幾分自信のなさそうな声で呟いた。
「それも違うと思います。私にはそもそも感情というものがありませんし、
人類に平等に奉仕しなければならないという使命を負った存在なのですからね。
けれど、あの方が私を気に懸けていてくださったから、
私はこうして両足で立っています。それは確かなことです」

彼らはしばし、黙りこくって歩みを進めた。
すると突然、ペロ.ラットの耳に聞きなれない言葉が飛び込んできて、
彼は隣のロボットの顔を思わず見上げた。
小さな、しかし張りのある声で、ロボットは何かを呟いていた。
その声の温かさに竦んで、ペロ.ラットは思わず立ち止まり、耳を傾けた。
発せられた言葉があまりに古すぎて、彼に理解できる単語はほとんどなかった。
けれどもそんなことは問題ではなかった。
ひどく優しい声だった。
その響きは、祈りの言葉の響きに少し似ていた。
ペロ.ラットは、直感的に、この声はロボットの言う「あの方」のものだと思った。
伝説の中にしか存在しなかった「文化英雄イライ.ジャ・ベイリ」が突然、
肉体を持って語りかけてきたようだった。
ダニ一ルの肩をそっと抱いて、笑顔でゆっくりと手を振り、
ペロ.ラットが目をそらした隙に、知らないうちに去っていってしまったかのようだった。
ダニ一ルは黙りこみ、そのまぼろしの背中を追うように遠くを見つめている。
金属でできたロボットの体のいったいどこから、こんな声が出てくるのだろう。
「その言葉は…」
あまりの驚きに声が上ずる。
「地球の言葉です。あの方の最期の言葉です」
「あなたは今…いや、彼の人はかつて、あなたに何とおっしゃったのですか?」
「ご自分の死に動揺するな、と。そんな取るに足りないことよりも、
この宇宙のすべてのものが織り成す、
美しく精緻なタピストリーのことをよく考えろ、と、私にそう仰ったのです。
あの方自らの意識が、もう二度と戻れない場所まで行ってしまう、
まさにその直前であったというのに」
ロボットは、自らの左手首を右手で強く握り締めながら言葉を続ける。

「あの方の言葉が無ければ――私はロボットですから――
私の頭脳は恐慌状態に陥ったのち、ほどなく機能停止に陥ってしまっていたでしょう。
あんなに弱りきった体で、あの方は私にこの言葉を伝えてくださったのです。
それは酷い苦しみだったに違いありません。
以来ずっと、あの方の苦しみを考えてきました。
けれどもそのうち、私には決して理解ができないだろうことが推測できました。
私には、そもそも死というものがありませんから」
ロボットは言葉をやめない。隣に人間がいるのも、とっくに忘れ果ててしまったかのように。
「あの方にこの命を頂き、生きる目的も示していただきました。
獣のようにただ存在を続けるだけの、みじめな在り方から救っていただいたのです。
あの方は最期に、死ぬことのない私に、人間としてごく当たり前の、
それでいてこの上なく気高い行動を示してくださいました。
死に一人で対面するという。誰も道連れにしてはいけない、という。
その絶対的な孤独に比べれば、今の私が一人でいることなど、取るに足りないことだと考えます」
そうは言うものの、口をつぐんだ彼は、
表情のない顔に、今までとは違った寂しげな雰囲気を纏わりつかせ、足を速めた。
「けれども…」
後に付いていたペロ.ラットには、そう呟いたロボットの表情は見えなかった。
「けれども、時々考えるのです。矛盾しているとは思いながら。
あの方がかつてのように、命じてくださっていたら…
いや、そうでなくてもいい、根源的な存在の消滅に向かう恐怖からの、
たわいのないうわごとで良かった。
もし、あの方が、『一緒に来てくれ』と仰ったなら…
そう言って私に手を差し伸べて来られたならば…
命に代えて、尊厳に代えて、絶対にそのようなことはなさらなかったでしょうけれども…」
ロボットは立ち止まり、虚空を見上げながら、独り言のようにささやいた。
「私はあの方のおそばを決して離れはしなかったでしょうに」
孤島の洞穴に吹きすさぶ風のように、彼の言葉は空気の中に流れてかき消えた。

立ち止まったロボットが優雅な動作で手を動かすと、目の前に見えた壁が開いていく。
足を進めたその先に、は白く大きな円形状の部屋があった。
天井は高く、見上げていると眩暈がするような錯覚に襲われた。
ペロ.ラットの横を通り過ぎたロボットは、その空間の中心で立ち止まると、
そのままゆっくりと両腕を大きく広げた。
すると、彼の指先から、白い部屋に限りなく青が広がっていく。
身が竦むような驚きに満たされ、しばし茫然自失としていたペロ.ラットがふと我に帰ると、
彼ら二人が、ただひたすらに青い空間の真ん中に立っているのに気づいた。
目を上げると、見たことも無い程に澄み切った青空がある。
足元には、空の色より青い水が穏やかに波打っていた。
その水の行方を目でたどると、ずっと遠くのほうで、
上方の青と、下方の青が淡く交じり合い、優しい線が描かれている。
目に沁みるような青が、世界の果てまでも、どこまでも続いているように思えた。
「この映像は…」
「あなたの求めていたものです。
あなたは人類の発祥の地のことを知りたがっていらっしゃいましたね。
これが、最初に生命が生まれた場所です。
かつて地球の七割を占めていた塩水の中から、彼らは誕生したのです」
ロボットは、ペロ.ラットに背中を向けたままで言う。
「あなたにこの光景をお見せしたかった」
「…イライ.ジャ・ベイリの代わりにですか?」
答えは返ってこない。
自分でもなぜそのようなことを言ったのかよくわからないまま、
ペロ.ラットはロボットのそばへ近づいて行き、さらに言葉をつなぐ。

「あなたを責めているというのではありません。
ただ、あなたは先ほど、かの人の苦しみについてばかり語られました。
それは違うと思うのです。死の床にあってさえも、あなたをそんなに深く想う人が、
そんなに強く苦しみだけを感じていたはずはありません。
かの人も幸せを感じていたはずなのです。本当です。
あなたが、かの人と共に居ることに喜びを感じていらしたように」
それを聞いても、ロボットは身じろぎもせずに立ちつくしていた。
左手首の装飾品が、光を受けてきらめいた。
「そのようなことについては、私は昔からずっと、理解ができませんでした。
私はロボットですから、感情などは持ち合わせてはいませんし、
それに、私の体は鉄でできています。
あなた方と違って、私はこの海から生まれたものではないのです。
こんなに異なる私たちが、全く同じように『感じる』ことなど、いったい有りうることなのでしょうか?」
ペロ.ラットはロボットの横顔を見上げた。
彼の端整な顔立ちは、相変わらず無表情のままだった。
けれども、唯一、彼の青い両の瞳は、先程とは全く違う光を湛えていた。
その目の中には、あまりにも人間的な、ひたむきで激しい感情が表れていた。
今は遠く届かない存在への、決して尽きることの無い、深い愛情と悲しみがそこには確かに有った。
こんな表情を浮かべているのに、どうして彼はこんなちぐはぐなことを言うのだろう。
そうペロ.ラットは一瞬考え、すぐに理由に思い当たり愕然とした。
…彼はロボットなのだ。

それでも、ペロ.ラットはどうしても黙っていられずに口を開く。
「あなたの仰るとおり、確かに、あなたは我々と同じではありません。
けれど、あなたの知性や心は、我々人間と何ら変わりないものだと確信しています。
このような大きな共通点に比べれば、そのほかの相違点などは全くささいなものなのです」
ロボットがペロ.ラットを見下ろしてくる。幾千もの思いの詰まった深く青い瞳で。
「ですから、もし古代の人々が信じていたように、
肉体を失った後にどこか休むための場所があるならば、
その門はあなたにもきっと開かれているのではないでしょうか。
あなたの心は、いずれその場所に行き着くことができるのではないでしょうか。
いささか、非科学的なものいいですが、私には心からそう感じられるのです」
「あなたは、そのように思われるのですね…」
「はい」
その場所はしんと静まり返っていた。水際にあるべきさざ波の音は聞こえなかった。
青い空間がどこまでも広がり、動くものは何も無かった。
ペロ.ラットは時の止まったような静けさの中で考える。
人間でもロボットでもない、世界にたった一人きりの彼は、この青の向こう側から、
いつかこの場所に、あの懐かしい足音が聞こえて来る日をじっと待っているのかもしれないと思った。
「私は――」
ふいに何かを言いかけたロボットが口をつぐむ。
遠い答えを待ちわびるように、彼は澄んだ青い目を天にさまよわせる。
その瞳と同じ色の静寂の中にひとり立ち、じっと痛みを堪えるように、苦しげにまぶたを閉じた。
「私は、あなたがたを、人類を、心から愛しています…」
ロボットはゆっくりと微笑んで、悲しい程の強さで、左の手首を心臓の上にかたく抱き締めた。

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 | __________  |       ナガナガト ゴメンナサイ
 | |             .| |       ヨンデクレタミナサン ホントニホントニアリガトウ
 | | □ STOP       .| |       >199タソ ウンメイ(゚∀゚)ラヴィ!!
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  • 夢中になって読んだ……!!!作者さんに心からお礼が言いたい こんなのが、ずっと読みたかったぼろぼろ泣いた 鋼鉄都市から全部読み返してくる!!!!!! -- 名無し? 2011-12-28 (水) 00:00:24
  • このお話を読むことができて幸いです。作者様に感謝を。 -- 2013-02-13 (水) 17:38:19
  • 泣きました。作者様ほんとうにありがとうございます!ダニール大好きだーっ! -- 2013-02-14 (木) 00:09:36

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