Top/S-46

郷実×材前

「………っ!」
短い悲鳴とともに郷実は飛び起きた。全身にびっしり汗をかいていた。
時計を確認する。午前3時。まただ。
「…どうしたの?」
「悪い。起こしたか?」
「ずっとうなされているみたいだったわよ」心配そうに光世は瞬きした。
「ああ…。すまん」
材前をめちゃくちゃに犯す夢。
なんだというんだ。このところずっとそんな悪夢にうなされている。

「武内、おい、この患者…」
「はい?」
「まだ外科のほうに話を進めるのは早いといっていたじゃないか」
郷実は乱暴に武内からカルテを奪った。
最近ピリピリしている郷実に内心溜息をつきながら
「でも有外教授がはやく外科に受け渡せと…」武内は小さな声で言い返した。
「もしかしたら胃のほうへ転移が認められるかもしれないといっていたはずだ」
言い終わらないうちに郷実は医局をとびだした。

廊下で医局員とぶつかりそうになる
「失礼」確認すると楊原だった。
「君、ええと…この患者の執刀医は?」カルテをつきつけた。
郷実の慌てぶりに不審な顔をしながらも「東教授ですが」
それがなにか?楊原が逆に聞き返すと
一瞬郷実は難しい顔をしたが「ありがとう」とまた走り出した。

東教授。不在。
プレートを確認すると仕方がなく程近い材前の自室をノックした。
「どうぞ」
中から小さく返事があった。
小さく深呼吸すると郷実はドアを開いた。
「いきなりおしかけてすまん」
材前は意外な来訪者に驚いているようだった。
「あ、ああ…」吸いかけの煙草をもみ消しながら
材前はいつもの笑顔をつくった。
「どうしたんだ。いきなり」
「いや…」郷実は頭の後ろを掻きながら俯き
「体調はどうだ?戻ったのか?」ふとこの間のことを思い出した。
いきなり自分のことを聞かれた材前はまた驚いた顔をしたが
「ああ。心配をかけたな、大丈夫だ」
「そうか…。」郷実は眩しいものでも見るかのように目を細めた。
何ごともなかったかのように会話をしている。
そんな事実が余計に自分達を汚い大人だと知らしめていた。
材前の細く白い指。まだ絆創膏がはってある。
首筋、俯いたまつげ、唇、すべてが郷実を挑発しているように思える。
いや、それは俺の思い上がりだ。そうでなければ困る。

「そんな用事でわざわざきたのか?」材前の言葉に現実にひきもどされた。
郷実は瞬きを数回すると、カルテを差し出し
「実はこの患者なんだが…」ときりだした。

「東教授は4日後までもどらないよ」
「じゃあ、君の方から話を通しておいてくれ。5日後の手術の日程は白紙に戻すということに」
郷実がいい終わらないうちに「断る」と材前は吐き捨てた。
「時間がないんだ、頼む」
「有外教授から東教授へのじきじきの患者だろう?何故僕が関わらなくてはいけないんだ」
「おい、本気でいってるのか?」
郷実は勢いあまって材前の肩を掴んだ。びくりと材前の顔が引きつる。
「すまん」郷実がぎこちなく手をはなすと
「郷実、全部が全部、君みたいな医者ではないんだよ」
材前は低い声でそう告げると、煙草に火をつけた。

*********

ふと眠気に襲われて目頭をこする。
目の前にコーヒーが置かれた。
「お疲れさまです」
武内だった。
「もう1時をまわってますよ。終電終わっちゃってるじゃないですか」
「ありがとう」郷実はコーヒーをすすりつつ
「君こそもう帰りなさい。俺はもう少し詰めていくつもりだから」
そういってパソコンに向き合った。
「昼間の患者のことですが…」武内はそういって黙ってしまった。
「君が心配することじゃない」
郷実が促すと、失礼します、と武内は退出した。
シンと静まり返る室内。フラスコを回すモーター音だけが響いていた。

カタンという物音がして振り向くと
スーツ姿の男がふらりと入ってきた。
どこかで酒を飲んできたらしい、材前だった。
「こんな時間にどうした?」
内心の動揺を悟られないように、硬い声でパソコンの液晶から目を離さずに問いかける。
「用事がなくて来ちゃ悪いか」
材前は郷実の斜後ろの椅子に座ると机につっぷした。
「酔ってるのか?」
返事はない。
「だったら出てってくれないか。酔っ払いの相手はもう」
いいかけて郷実は黙ってしまった。嫌な記憶を掘り返すところだった。お互いに。

「あの患者のことだが…やっぱり俺が東教授に掛け合うことにするよ」
郷実がいうと、材前は飛び起きた。
「君はバカか?」郷実に詰め寄る。
「そんなことしたら君は有外教授になんと思われるか、解って言ってるんだろうな」
材前はまくしたてた。
「ああ」郷実がやれやれといった感じで頷くと、いきなり左頬を痛みが襲った。
どうやら材前に殴られたらしかった。理解するのに数秒かかってしまった。
材前は肩で激しく息をしていた。その顔は怒っているようにも泣いているようにも見えた。
自分の行動に一番驚いているのは彼らしかった。その彷徨う瞳。
郷実は猛烈に彼を抱きたいと思った。
殴られたショックで頭がどうかしたのだろうか。
出ていこうとする材前の足を払うと強引に床に押し倒した。
恐怖の余りに暴れる材前を上から両手で押さえ付ける。
体格で材前に勝ち目は無かった。

「どういうつもりだ!離せ!」
強引に口を唇で塞ぐ。あの時と同じく冷たく柔らかい唇だった。きつく舌を吸う。
耳たぶから甘い匂い。この男の汗の匂いか。
郷実は材前のシャツに手をかけた。乱暴にネクタイをほどき
柔らかい胸の皮膚に吸い付いた。
材前は依然暴れていた。手が空を切り、郷実の頬に爪の後を残す。
「きみはこんなやりかたで…」
材前の頬を涙がつたった。その涙を舐めとり、郷実は材前のベルトを引き抜く。
足首を掴むと強引に股を開かせ、露になった内股の皮膚を舌でなぞった。
皮膚が薄く血管が青く透けて見えた。
材前は言葉にならずに戦慄いた。
尖った胸の先端を指で押しつぶしつつ、下着に手をすべりこませた。
材前の体は軽く痙攣をおこすしたように震えている。
夢なのか現実なのか。
腰を持ち上げるといっきに貫いた。材前の白い両足が人形のように郷実の肩の上で揺れた。
悲鳴。嗚咽。
いたい。いたい。おねがいだ。とめてくれ。
壊れたレコードのように繰りかえされる材前の呟き。
互いの荒い息遣いだけが室内に響く。
材前の大きな目からは涙がとめどなく流れていた。
「俺は君を憎んでいるのか…」
愛しているのか…。
両手で小さな顔を包む。
やがて材前の呼吸に艶めいたものが混じってくる。
痛みから解放され快感だけが腰に伝わってくる頃だった。
頬に赤みが戻り、まつげは小さく揺れ、壮絶な色香だ。
材前の喘ぎをききながら、郷実はこの男の体に溺れていく。
いつまでもこの狂った交わりは終わりそうになかった。

********
終わりです。やっぱし長かった…。


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