Top/S-3

萎えの配達員

希望とはぁ何か。
問われても答える答えは無い――たとえ、答えるだけの権利があったとしても。
言葉の端を捉えて批判する輩もいない反面、議論するものも、同意するものも、笑うものも怒るものも、――あまつさえ問うものもいなかった。
これは自分自信hむけた。
だが、発する権利は自分には無い。

『希望とはなにザマすかね』
(知ったことか)

毒づいて…そして地にふした、一人の少年――16,7歳といったところだろうか。
土ぼこりと、血と、喧騒にまみれた体に、1点の輝き。銀色の髪だった。
鋭利な刃物で裂かれたように鋭い瞳も、今はひっそり影を潜め、ただ強者に蹂躙されるのをまつばかりの脆弱なよどみをおとしていた。
対照的に、鋭い刃を得た瞳で問い掛けるのは男だった――ただし中性的なといえば過言だが、しなやかで細い体躯で、流れるような銀髪を伸ばしっぱなしにしている。

銀髪。それは、天使と呼ばれる――あるいは天使と呼ばれた、一種の生命の証。
神と呼ばれる世界そのものから生まれた――そして、思うよりも卑しい種族。
純白の翼も、不思議な輪も、両性具有でもない。
伝説とは違う。誰もが思う天使偶像を裏切る。最大の裏切り者。

男は、瞳同様鋭利な、体同様細身な長剣を少年に付きつけた。

『無様ざますね。マコティエル――戦闘の天使』
(……勿体つけてやることか…イヤミエル)

これからすることなど、知れている。

『天界の救い手が、裏切り者に倒されたとあってはもう下々のものも、天界の長老達を信じてなどいられないでしょう』

含んだ笑顔で言う男。イヤミエル。

『希望などは無いのですよ』

こちらの表情を伺ったのだろうか、聞いてもいない――だが問いたいことを言ってくる。
全く腹が立つ。憎い。憎くて仕方が無い――
と、するりと衣擦れの音を立ててイヤミエルが動いた。
こちらが思っていることに気づかず――あるいは無視して、あらぬ方向を見つめる。
そしてつぶやいた。

『希望など無いのですよ』

始まりは神だった。
世界そのものとして、何処からか、いつからかいたもの。生きていたかどうかはこの際問題ではない。なぜならば、後々生み出されたもの達が、自分達を生み出した――といわれている――ものに、「神」という名前をつけてもてはやしただけなのだから。
信じるべきものの無い世界。そこに、無理やり言葉として具現するしかなかったのだから。

ともかく神に創られし生き物たちは、あるべき場所へと配置され発展と衰退と進化と絶滅を繰り返し均衡を保っていた。
天界でも、同じだった。
「ヒト」という種族と同じような外観の、ただし「同じような」と表現されるに過ぎない程度の姿形をしたもの――天使。それから数え切れないほどの生き物が、「ヒト」の住まう大地と似たような場所で生きていた。
天使達はカガクを使わず――魔法でヒト以上に高度な文明を築いて、豊かで安全な暮らしをしていた。均衡。その上に成り立つ、天使の全て。

あの日までは。誰も、考えようとはしなかった。
それが崩れる――などと。

「……イヤミ…ル」
『なんざましょ?』
息も絶え絶えで、マコティエルは口を開いた。
「ど・・・して・・・反乱…なんて。。。」
 平和な世界。何不自由の無い神の楽園。まさしくそこはエデン。
 なのに。
「…不満なんて…」
『…不満なんて無いというザマすか?』
 マコティエルの言葉に、イヤミエルが嘲った。
『はぁうーざます…これだからユーのような一般天使は…』
 イヤミエルはかぶりを振った。
『いや、これはユーだからざますね。聖書に「反乱より世を救いだしたる勇者」などと書かれていたばっかりに、ちやほやされてきたマコティエル、貴方だからざます』
「。。。何、」
 マコティエルは、剣を付きつけられたまま。倒れたままで。
 うっすらと閉じていきそうな瞳。それを開いて相手を見つめていた。
『マコティエル。貴方は楽園の誰もが満足で不自由の無い生活をしていると思っているざますか』
 剣の切っ先がマコティエルのあごを軽くつつく。
 イヤミエルはそれすら楽しげに眺め――そしてひとりごちた。
『それに・・・貴方に任せていたら・・・いつになっても気づいてくれなさそうざますからね…』

 彼はさらに1ミリ、剣を突き出す。強くなったあごへの刺激に、マコティエルは体を蠢かせる事も出来ず、ただ問い掛けるしかない。たとえ、それが不快でも。
「・・・なにを?」
『ユーは鈍感ざますね』
 イヤミエルは笑んでいた。ただし、――何処か寂しそうに。
 今度は1ミリどころではなく剣の先端を差し出す。
 ぷつりと音を立てる肉。刺激が声帯を震わせる。うめき声が「楽園」に染み渡っていく――
『マコティエル・・・救い手の天使。さよならザマす。。。』

 気のせいか、その声が震えるようにゆがんで耳に届く――

「いたぞ!!イヤミエルだ!!」

 は、と。イヤミエルの剣が抜ける――それほどまでに深く切り裂かれた体も、もう痛みも感じない。
『…厄介なことに・・・なったザマす』
 わあわあと集まってくる、「神の兵」――つまり、マコティエルの味方にあたる軍勢のもの。
 イヤミエルが舌打ちする。マコティエルの思っていた以上に、イヤミエルの疲労は激しかったようだ。あからさまに、戦うことを嫌悪している。
「・・・投降。。。しろ・・・。俺を殺してから逃げる時間は…」
『…確かに無いざますね』
 血のぬめりに光るつるぎをぶらさげ、どうにも渋い顔で佇むイヤミエル。
 かといって――隙は崩さない。
 そうしているうちにも軍勢は集まってくるー―
『殺してから逃げる時間は無いざます』


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