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間王カエル

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )某懐ゲーの黒野鳥画ーより。
                スレで同志を発見して嬉々として書きますた。
                間王×カエノレです。

最終決戦の時が迫っている。
仲間を一人も欠くことなくラウ゛ォスの外殻を破壊した6人は、闇を抱きながらもヒトの胎内のように息づくその内側へ足を踏み入れた。
時折視界が不明瞭になるのは、ぴりぴりと張り詰める緊張からか、それとも。
「…まさか、最後までお前と一緒とはな」
しんがりを務めていたカエノレは、その斜め後ろを音も無く進む影に小さく声をかけた。
声音は軽くもないが、沈むような重さも湛えずただ淡々と紡がれる。
後ろを進む影が音を立てないのは、それもそのはず足が宙に浮いているためだった。
滑るように宙を進むその姿は重力の存在を感じさせず、生来の気品のようなものを漂わせていたが、カエルに『楽そうだな』と言われてからは仲間達にたまに笑われるようになってしまっていた。
「…その言葉、そっくりお前に返そう」
紫の髪が闇に靡いた。
低い声と共に、間王は背の低い異形の隣へ並んだ。
そういえば、こうして肩を並べて歩いたのは初めてかもしれない。
剣技と気配の察知に優れた隣の人物はしんがりを務めることが多かったし、間王は仲間の列を離れてついていくことが多かったから、いつも近くにいたことは確かなのだが。
見下ろせば、ヒトのものではない大きな瞳が、ぎょろりと辺りを見回している。
「…何故、私を殺さなかった?」
最終決戦が近いことが、禁句を口に乗せる免罪符となった。ここで死ねば勿論のこと、ラウ゛ォスを倒したとしてもきっと二度と顔を合わせることはないだろう。
どちらにしろ、待っているのは別離しかないのだ。
見事なほどカエノレの造詣をした顔が、器用に自嘲の色を浮かべた。
「さあな。正直、自分でもわからねえ。……」
言葉の後に降りてきた微妙な間に、闇が深く分け入ってくる。不安はないはずだったが、それでも別れを前に語り残したものをお互いに探り合っていた。
「…お前を殺しても、際ラスは戻って来ない。それに…」
カエノレはその大きな目を、自らの腰に下がった剣に一瞬流した。堂々と揺れるその姿は、勇者の剣と呼ばれるにふさわしい威厳をもって、彼に寄り添っている。

「…邪鬼」

その名を口に出したのは初めてだった。出会ってこの方、無表情という表情と自嘲的な笑み以外を見たことのない間王の顔に、動揺が走る。
珍しいもんだ、とカエノレは内心ほくそ笑んだが、語るべき言葉を持った口はごく真剣にそれを紡ぎ続ける。
「…同情なんかやらねえよ。例えどんなことがあろうと、一人で戦うことは、一人で逃げることと同じだ。自己犠牲は美徳でも勇気でもなんでもない」
確かに、自分は一人でラウ゛ォスと戦うつもりだった。
しかし、その後は?
本当に勝つつもりだったのかと問われれば、自分でも甚だ疑問だった。ラウ゛ォスを呼び、そして一人で対峙し、自分の全てを壊した相手に復讐して…
そう、自分は死んでもいいと思っていた。自分にはもう守るべきものも捨てるべきものもなく、ただ情けなくぶら下がった、自らの命というものを持て余していただけだった。
間王の思いを読み取るかのように異形は続ける。
「自分で自分の命を捨てるような奴は嫌いだ。…もう二度と、俺の目の前で、誰にも…命を捨てるなんてことさせねえ」
彼の目に、腕に、身体に漲っていたのは、決意だった。
間王はふと思い出す。あの時、緑の髪の青年はただ護られているだけで、立ち向かってきたのは勇者と呼ばれる男一人だった。
そしてラウ゛ォスとの戦いでは、目の前を歩く逆立った髪の少年が彼らを庇って犠牲になった。
彼は仲間を、目の前で二度も失っている。
「仲間を守る力は、際ラスが貸してくれた。一人で戦わなくてもいいことは、黒野が教えてくれた。…もう誰も、失わない」
歩みを進めるにつれて高まっていく張り詰めた糸のような緊張感と、確かにラウ゛ォスがそこにいるという圧倒的な存在感。
これを全身で感じながらそんな言葉を発せられるのは、彼の決意が固いことを如実に表していた。
そうやって彼を育て勇者の名に恥じない傑物にした二人の人物に、自分はそんなことはできないと分かっていても、胸にわだかまる思いが僅か身を焦がし、内心苦笑する。

「…もちろんお前も、だ」

低いところから、真っ直ぐな視線が合わされる。
仲間などと思っていないだろうと、分かりきっている言葉を揶揄に返すこともできないほど、真剣な眼差しだった。
期待ではない、ただ視界に入る者全てを死なせたくないという奴の決意であって、自分だからというわけではないと、言い聞かせる自分に溜息をつきたくなる。
間王は宙を進む速度を、ほんの僅か遅めた。前を進む少年達を見失わない程度に追いかけながら、自然と歩調を合わせた隣の影に目を遣る。
視線は他人が見てもその変化に気づかないほど微かに、和らいでいた。
「…お前をカエノレの姿にして良かった」
「どうしても一騎打ちしたいのか?お前は」
ひっそりと呟いた声はしっかりと相手に届いていたらしく、怒りマークを頭上に飛ばしながらカエノレが睨み上げてくる。大きな目で見上げられれば、嫌でもそう見えてしまうのかもしれないが。
間王は口端を僅かに上げて、お得意の嘲るような笑みを見せた。
ただこれは、彼がこれ以外の『笑い』の表情を知らないだけなのだが。

手を差し伸べないのに、死ぬなという。
大事な者を殺した私に、背中を預けて戦うという。
一人で立ちすくむ必要はないと、教えてくれる。

あの時、震え怯えていた軟弱な青年は、みちがえるほど強くなって…自分には眩しいほどだった。惹かれる心を隠すのも馬鹿らしくなるほどに。
カエノレの姿でなければ、この場で唇の一つも奪い、自分の城へ連れ帰っているかもしれない。決戦など、関係なく。
だからこそ発した『良かった』の科白だったが、その真意は彼には伝えないでおく。
その代わりというように、まだ怒りのおさまらない彼のつるりとした頬を両手で包み、鼻の頭辺りに優しく、
口付けを落とした。

一瞬何が起こったか分からないというように疑問符を浮かべたカエノレが、今起こったことを認識するなり大きな口をぱくぱくさせ始める。
確かに唇独特の柔らかい感覚が鼻の頭に残っている。ぬくもりも感じた。しかし余りにも今までの話から脈絡がなく、そして自分達の関係からも脈絡がなかった。
カエノレは柄にもなく混乱しているのか、自分の状態を落ち着かせるより先に周りを見渡した。幸い、黒野達は不明瞭な視界の中では僅かに姿が認識できる程度で、しかもこちらに背を向けている。
「な、な………」
それを確認してもまだ混乱は治らない。いい加減に万能薬でもやろうかと間王が荷物を探ろうとした時、やっとカエノレが意味のある言葉を発した。
「………そんなことしても、戻らねえぞ!」
支離滅裂というか、何を言っているのか分からない。訝しげに目を細めた間王は、ふと思い当たったことを問うてみた。
「ああ…確か、宮殿の私の部屋にそのような童話が置いてあったな。蛙の姿になってしまった王子が、姫の口付けで元の姿に戻る話だ…読んだのか?」
意外と子供のような趣味を持っているんだなと、意趣返しのように揶揄してみれば、言葉の意味はそれであっていたらしく返ってくるのは動揺が目に見えるような慌てふためいた声。
「ひ、暇だったからだ!」
中身は落ち着いた大人の男だというのに、外見はカエノレそのものなので、リアクションがいちいち大きく見えて面白い。
すっかり茹でガエルになってしまった彼は、今まで紡いだ真摯な科白も、流れる真剣な雰囲気も、全て自分でぶち壊してしまった。
笑みこそ浮かべないものの、間王は彼にしては至極楽しげに、慌てる小さな影を見つめている。
柔らかいと錯覚してしまいそうな時間は、共に戦うようになってから初めて味わう感覚だった。
「それなら…あの女にでも口付けしてもらってはどうだ?確かリ一ネとかいう姫の子孫なのだろう」

くい、と顎で示す先には、少し前を行く金髪の少女。ポニーテールが彼女の元気さを表すように背中で揺れ、姫という高貴な立場よりは年頃の少女、といった雰囲気を強く醸し出している。
視線を追ってマ一ルを見遣り憮然とした表情を浮かべた彼は、合わせていた視線を斜め下方へ外して心なしか小さな声で呟いた。
「…今更戻りたいなんて思っちゃいねえよ。大体あれはおとぎ話だろ。……」
カエノレは器用に鼻を鳴らし暫し逡巡するように沈黙を守った後、手袋に包まれた指を先程ぬくもりを感じたあたりに押し当てる。

「どうせ戻れないなら、…これでいい」

口にしてしまえば一言、言いたいことを吐き出してしまった彼はカエノレの姿で笑みを浮かべた。楽しげな声の代わりに耳に届いたのは、ゲロゲロ、というカエノレ独特の喉音だったが。
「…」
間王は言葉を発することが出来なかった。眩しい言葉に心惹かれ、その悔しさから意趣返しとして放ったからかいは更に大きな爆弾となって心に投下されてしまった。
凍り付いていたはずのそこが、その爆弾によって乱暴にあばかれる。よりにもよって宿敵との、自分の命を捨てることを覚悟した最後の戦いを目前にして。
無意識に進めていた足はついにそこへたどり着いてしまったらしく、一足先に気持ちを切り替えたカエノレが静かに剣の柄へと手を伸ばした。

「さあ、行くぞ。これが本当に最後だ」
皮肉だと嘲笑うことは、剣を構えた相手が許してはくれないだろう。
そして命を捨てることも。
「……ああ」
各々の武器を構えた『仲間達』が目に入る。全ての因果を断ち切る時が来たのだ。

間王は、自らの胸に生まれた温かな感情に、見て見ぬふりをした。戦いの中では、まだ知らなくても良いと思った。
ただ、彼が心に誓ったのは、

この戦いが終わったら、彼を攫っていこうと。
そして自分を犠牲にせずに彼を元の姿に戻す方法を探そうという、そのことだけだった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )あ、あげちゃった…マジですみません
ちょっとテンパりすぎでした自分
あと本文詰め込みすぎで見にくいのもスマソ

需要なさそう…トボトボ


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