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拙者スレ住人

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    |  ガッチュンシーンは無いんだ
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄V ̄ ̄|  そりゃちょっと物足りないのでは?
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 | | |> PLAY.       | |              ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
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ビデオ棚は初投下。
変なトコあってもスルーしてくれるとウレスィ。

「男子が懐妊する事は無いのだよ」
そう教えられた時の衝撃は今も忘れない。
生涯部屋住みである事など別に構いはしない。
むしろ婿養子などになると兄上と離れなければならない。
その方が遙かに辛い。

「何を見ておられるのですか?」
遊学と称して気ままに暮らしている小兄を見て拙者が聞く。
縁側の柱に背をもたせ掛け、膝の上に書物を開いたまま、小兄の視線が拙者へと向いた。
「余所では言うなよ」
悪戯っぽく笑った小兄に促され、拙者は書物を覗き込む。
そこに書かれている字を追う内に拙者の顔から血の気が引いていった。
「小兄・・・」
声を震わせて拙者が小兄へと視線を移す。
「何だ?」
小兄は何事も無かったかのようににこにこと笑っていた。
「何で・・・どこからこのような物を・・・」
「大丈夫、別に私がそうだという訳じゃない」
「そのような話ではありません!!」
思わず上がった拙者の声が邸に響いた。

「何を騒いでいる?」
拙者の声を聞きつけたのだろう。
母屋の方から長兄が姿を見せた。
「兄上・・・」
拙者は悲痛な面持ちで長兄を見た。
「どうした?」
拙者の表情を見て、長兄の表情が変わる。
何事が起きたのか・・・緊張が走った。
「小兄が・・・小兄が・・・」
「何だ、ちいが何かしたのか?」
長兄が小兄へと棘を含んだ視線を向けた。
「違います・・・兄上・・・小兄が・・・」
拙者の目に涙が登ってくる。
小兄が肩を竦めて膝の上の書物を閉じ、長兄へと差し出した。
「先に申し上げておきますが、別に私はそういう者ではありませんから」
「何だ?」
差し出された書物を受け取って、長兄はそれを開いた。

徐々に長兄の顔に青味が刺していく。
「これ・・・は・・・」
長兄の咎める視線が小兄へと向いた。
「どこで誰から手に入れた?」
低い声で詰問する。
「出島の蘭人からです。誓って申し上げますが、この家以外では見ておりません」
「それだけの問題でも無かろう」
「興味だけですよ。別に私は切支丹になろうなどとは思っておりませんので」
「当たり前だ!!」
長兄が声を荒げた。
「これとてもご禁制の物であろうが。解っていて何故」
「ですから、ただの興味です。なかなか面白い話もありますよ」
「ちい・・・」
「何でも神の子は男を知らぬ母から産まれたとか」
「・・・え」
驚きの声は拙者から挙がっていた。
それを承知していたのだろう小兄は、にっと笑って長兄の手から書物を、聖書を取り戻した。
禁教基督教の聖典、聖書。
ご禁制の書物を何故小兄が持って帰ったのか、何故興味を引かれたのか、それはどうでも良かった。
拙者の頭の中ではただ、小兄の言葉だけが響いていた。

部屋住みで終わるはずの身である。
下手に子を作られては厄介とばかりに男女の事など殆ど教えられていない。
それでも『男と女が契りを結んで初めて子が産まれる』位は知っている。
子が産まれるには『男と女』でなければならず、どれ程愛しく契っても『念友』には出来ない。
そして『男を知らぬ女』が孕むはずも無い。
それが拙者の知識だった。

拙者の縋り付くような視線が小兄へと向く。
「小兄・・・」
「ん?」
「拙者は・・・子は契りを交わした男女にしか生まれぬと思っておりました」
長兄の視線も拙者へと向いた。
「切支丹では、契らずとも子が出来るのでござるか?」
長兄がぎょっとした顔をするが、小兄は気にせず、拙者は気付かない。
「いや、神の子が生まれる時、父者人たる者がいなかっただけで、普通は違うだろう」
「しかし、その母者人は男を知らなかったのでござろう?」
「そうらしい」
「なら、切支丹ならば男とて身籠もる事は可能なのでござらぬか?」
「拙者!!」
長兄の焦る声がするが、小兄は構わず拙者に笑い掛けた。
「それはどうだろうか?」
「しかし、現に有り得ぬはずの事が起きておるのでござろう?」
「そうだが拙者、切支丹になりたいのか?」
「基督の神に祈れば孕むというのなら拙者は・・・」
「拙者!!そのような事は許さぬぞ!!ちいも何を考えている!?」
「大丈夫ですよ兄上」
長兄に宥める声をかけてから、小兄は拙者へと向いた。
「拙者、基督教では念友は認められておらぬぞ」
「・・・え?」
「基督教では同性と契る事は禁じられている」
「・・・そんな・・・」
拙者の顔には哀しみが浮かび、長兄の顔には安堵が浮かんだ。
「切支丹になどなると、兄上も悲しまれるぞ」
「兄上・・・」
拙者の悲しそうな瞳が長兄に向けられる。長兄は宥めるように微笑んだ。
「拙者は今のままでは嫌なのか?」
拙者は小さく首を横に振った。
嫌な訳じゃない。今のままでも長兄の傍に居る事は出来るのだ。

どれだけ愛しく契った相手であろうとも、離れてしまえばそれで終わってしまうかもしれない。
どれだけ長兄が大切にしてくれたとしても、長兄はいつか嫁御を迎えねばならない。
嫡子である長兄が子を残さぬ訳にはいかない。

いつか来る日が悲しくて、未だ見ぬ兄嫁に対する嫉妬を抑える術が解らない。

ずっと傍にいる事は出来るかもしれない。
それでも、いつかは離れなければならないかもしれない。
兄の重荷にだけはなりたくないのだ。
それくらいならば・・・。

拙者の気持ちに気付いてはいるものの、長兄も何も約束してやる事ができない。
自分の立場くらいは解っている。
今の気持ちがどうであろうとも、拙者だって一生を部屋住みとして終わるよりも、
良い縁談があるのならば、送り出してやる方が幸せになれるかもしれない。
・・・自分が嫉妬を抑えきれるのならば・・・。

数日後、小兄は再び同じ柱に同じようにもたれて本を読んでいた。
声をかけようかどうか悩む拙者に気付き、小兄が手招きする。
「拙者、おいで」
「はい」
ゆっくりと小兄に近付くと、小兄はにこっと笑って拙者に本を差し出す。
「小兄?」
「今度は支那の物だよ」
「支那?」
「まぁ、読んでごらん。ここだ」
小兄の開いたページの文字をを拙者は素直に目で追った。
「・・・・・・」
「これは別に禁教に関わるものじゃない」
「・・・小兄」
「起こるか起こらないか解らないから、奇跡というのかもしれないな」
にこにこと笑う小兄。
つられるように拙者も顔を綻ばせた。
「その本、あげるよ。兄上にも見せておいで」
「はい」
拙者は嬉しそうに本を抱えて長兄の部屋へと駆けて行った。

「兄上!!」
勢い良く飛び込んで来た拙者に長兄は丸い目を向けた。
「どうした?」
嬉しそうな拙者の顔を見て手を広げると、拙者は躊躇わずに飛び込んだ。
「兄上、拙者妊娠するでござるっ!!!」
「・・・は?」
拙者の発言は長兄の目を更に丸くした。
「小兄が別の本をくれました。支那の本です!!」
「・・・今度はどんな本を?」
小兄の本と聞いて、長兄が怪訝そうに聞く。
「支那では男が身籠もって子を産んだ話や、男が女に変体して子を産んだ話があります!!」
「・・・え?」
「だからきっと拙者も兄上の御子を妊娠するでござる!!」
「せ・・・拙者・・・」
「兄上はお嫌でござるか?」
話を読んで飛び上がりそうな程に喜んだ自分と違い、困った顔の長兄を見て拙者は不安になる。
「いや、嫌という訳ではない」
「本当でござるか?」
「あぁ」
「なら、拙者はきっと元気な子を産むでござる!!」
長兄は小兄に言いたい事はあるが、嬉しそうな拙者を悲しませたくはない。
とりあえず、小兄の事は後にして、拙者を抱き締めた。

「何ですか?」
仏頂面で現れた長兄に対し、小兄はにこやかに応対した。
「また拙者に妙な事を」
「妙な事ですか?」
小兄はあくまで微笑んでいる。
「あれは支那の昔の話です。蘭方医学でも男が女になった話はあるそうですよ」
「何?」
「そして子まで産んだ者も在るとか。なら奇跡というものを望んでも宜しいのでは?」
「そなた・・・」
「兄上、私は兄上が好きですよ。そして拙者も好きなんです」
小兄の笑顔が優しくなる。
「奇跡は起きるのかもしれないし、起きないかもしれない。でも諦めたら決して起きない」
「詭弁だな」
「はい。それでも・・・兄上、先の事など解りませぬ。
しかし、だからこそ今、私は拙者の笑顔が見たいのですよ」
あくまで嬉しそうに、楽しそうに言う小兄。
長兄にも言い返す事が出来なかった。

長兄が部屋を出ると、小兄は笑顔のまま、袂から一枚の布を取り出し、口へと当てた。
「うっ・・・」
布が赤く染まっていく。
「例え詭弁でも・・・夢くらいは見たいのですよ、兄上・・・」
小兄はゆっくりと身体を横にした。
顔からは血の気が引き、息が浅くなっている。
「本当に奇跡が起きるなら・・・私が子として生まれ変わりたいんですよ・・・」
小さなか細い声は、誰が聞く事もなく、静寂の中に溶けていった。

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