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透明な子供たち

オリジナル ショタ×お兄さん 暗い
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手を握る。
僕たちはどちらも手袋をしていなかったから、大きさがよくわかる。僕の手より、大きかった。カコさんのほうが、僕よりも身長が大きい。
お父さんの手とどちらが大きいのだろう、と思って最後に見たのはいつだったかと考えた。弟に聞いてみれば、もしかしたらわかるかもしれない。

いつも歩いているとき、カコさんは歩幅を合わせてくれる。
夜の街灯は、明るいはずなのにどこか心もとなくて怖くなる。なのに、カコさんが隣にいれば楽しい道のりになる。
すごく長い時間塾とかいろんな場所を渡り歩く毎日の中で、この時間が唯一の楽しみだ。けれど、それも今日は違った。
取り留めもないことをたくさん考えてみたけれど、どうしても気になった。
「カコさん、公園いこ」
「門限あるんだろ」
カコさんがちらりと片目でこっちを見る。
「でも、カコさん痛そうだよ」
足が止まる。
街灯の光の下で、浅黒く腫れてる目の周りは、今まで見たことのない程に酷かった。
くっきりと残る傷を僅かに眉を寄せて、そして、口をつぐんだままカコさんは僕の手を引いた。
「カコさん、」
「大したことないから行くぞ」
「カコさん、お願い」
 じっと見る。カコさんから視線をずらさないでいれば、少しの問答の後、近くの公園へ足を向けることになった。
いつだってカコさんはこっちのことを無理矢理言うことを聞かせようとはしない。
その公園は猫の額ほどで、ブランコとベンチと水飲み場以外は何もない。
 自分のハンカチを濡らして、ベンチに座ってくれたカコさんの傷に当てるとじんわりとした熱さだけが取れていく。
もっと綺麗なハンカチだったら良かったのに、と思うとやっぱりちゃんと買わないといけないなと思う。
今のやつは弟が幼稚園の時に使っていたハンカチだから、薄くて端っこが破れている。
公園の水はまだ出てくれたけれど、あと少しできっと閉められてしまう。冬が来る。息をするたびに白い息が出る。
冬が来る。カコさんも僕も暖かい服なんて持っていないから、これまで以上にきっと寒くなる。
僕は弟のお下がりがもらえるけど、カコさんはどうするんだろう。少しだけ不安になった。

「カコさん、」
「……」
手を添える。怖かった。
「カコさん、このままだと死んじゃうよ。逃げようよ、僕も一緒に行くから」
「お前は帰る家があるだろ」
「ないよ、弟がいればうちは大丈夫なんだもん。きっと。僕一人いなくても、きっと気づかないよ」
カコさんは、黙っている。
「お金だって、ちゃんとあるよ。お年玉、だから、それ持って一緒に僕のおじさんところに行こうよ。カコさん」
カコさんがカコさんのお家に帰るたびに、ケガしているのを僕は知っている。
それはどんどん数も量も大きさも多くなってきていて、おんなじぐらいカコさんもおかしくなってきてる。
この間は右の方から話しかけてもちゃんと返事をしてくれたのに、左側へ向いてくれないと話しかけても聞こえなくなった。
なんで、って聞いても答えてくれない。何でもない、ってばっかり言って答えてくれない。
それなのに、みんなはカコさんのことを怖い不良だと言っている。いつも喧嘩なんてして、といっている。
カコさんがいつもけがをしているのは、どうしようもなくておうちに帰るときで。
不良になっちゃったのはカコさんがおうちに帰れないから、どうしようもなくてずっといるしかないんだと言うことを誰も気づいてくれない。
誰も見つけてくれない、僕が夜に一人で歩いていても誰も見てはくれなかったように。
カコさん以外僕のことを見つけてくれる人はいない。なのに、僕はカコさんをさらってどこかに行ってしまえるほど大人じゃなかった。
夜の公園のベンチは腰かけているととても冷たい。そして、周りのおうちは幸せそうな明かりが漏れている。
けれど、その光が僕に降ってくることはないし、カコさんに降ってくることもない。誰も僕たちがいることに気づいてくれない。
「……ああ、それもいいかもな」
「本当!」
だから、カコさんの答えに、僕はとてもうれしくなった。
おじさんは弟も僕もおんなじくらい大切にしてくれるし、こっそり僕にテレホンカードをくれた。
弟はキッズケータイを持っているからいらないらしいけど、これを使えばいつだっておじさんは迎えに来てくれると約束してくれた。
だから、二人でおじさんのところへ逃げちゃおう。

そうすれば、あそこは遠いからカコさんのおうちの人も追いかけては来れない。
お父さんもお母さんも弟がいれば、きっと僕がいなくても気づかないから、誰も悲しくならない。
絵本みたいに全部綺麗に解決してくれる。なんて素晴らしいんだろう。
そんな素敵な発想に少し誇らしくなる。そんな僕に対して、カコさんは、なんだかぼんやりしたように口を開いて。

「でもさ、俺がいないほうがおまえは幸せになれるよ」
どこか夢みたいに呟いた。
その声は消えてしまいそうで、すごく怖かった。怖くて、ぎゅうとカコさんの手を握る。
指先からどんどんこの人はほどけてしまうんだと思った。
生きようって思う力がどんどんほどけて、頑張ろうって気持ちが抜けていって。きっと、近いうちにバラバラになってしまう。
カコさんは少しずつほどけてる。
しゃべってるとボロボロ泣いてしまう時もあるし、何もないところでぶつぶつとしゃべっている時もある。
ぐるぐるしているときもあれば、僕には見えない何かにおびえている。
怖くなってカコさんの手首を掴んだ。思わず見てしまう。
聞き手の方にいっぱい、注射みたいな痕とか、切ったみたいな痕がある。見てはいけないものだ。
びっくりした僕に気づいたカコさんは、上がっていたジャージの袖を伸ばしてそれを隠した。そして、どこか諦めるようにへらりと笑った。
「俺は馬鹿だからこうなったけど、おまえはきっと上手くやれるよ。こんなんなる前にさ、きっと助けてもらえる。おじさんもいるんだろ」
自分を馬鹿だって言ったカコさんは、こっちを見た。そして、僕を見て困った顔をする。
「……泣くなよ」
「泣いてないよぉ……」
僕はまだ子供で、どうしようもなく子供だったから守りたかった人の前でわんわん泣いてしまった。
冷たい指先でカコさんは僕の涙を拭って、頭をポンポンしてくれる。こんなことはカコさんしかしてくれないのに。
この人は僕を置いていってしまうのかもしれないと思うと悲しくて、寂しくて、悔しかった。
なんだか、遠いものを見る目で優しくカコさんは笑ってる。
魔法にかけられたみたいに、幸せそうに笑ってる。
なのに、僕が大人になるまで生きていてね。なんて簡単な約束をカコさんは頷いてくれない。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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