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引退セレモニー

しゃちほこの盛野→元ド荒の中の人(盛野の引退セレモニーより)

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「お久しぶりです」
盛野にとって、挨拶に来た彼に会ったのは実に4年ぶりだった。
2013年まで彼は、ド荒を演じていた一人だった。
一人だった、というのは、ド荒を演じるにあたり数人のローテーションを組んでいたからだ。
その中でも彼とは一際仲が良く、飲みにも行ったし、プライベートで旅行に行ったりもした。
しかし、2013年。彼は、異動してド荒を演じることから離れた。
他のド荒担当から、今頃ヒーローショーをやってますよ、と教えてもらったりもしたが、大半は眉唾ものの噂だった。
家族の都合とも聞いたし、足の故障とも聞いたし、転職とも聞いた。
真実はわからず、結局マスコットを演じることも球界とは大差ないのだと盛野は理解した。
引退、FA、移籍、海外挑戦。様々な理由で球団から選手は去っていく。
次第に盛野は彼のことを考えるのをやめた。盛野自身が、自分自身の身体の制御をできなくなっていったからだ。

「最後の日にあなたに会えて良かった」
昔と変わらぬ人懐っこさで、森乃に握手を求める。求められるまま、握手をした。あの頃と何ら変わらない握手だ。
ド荒の本にコメントを書いたことがある。ド荒、は、ファンにとっては一人だが、盛野にとって彼がド荒だった。
盛野のコメントは、彼が演じるド荒に向けたものだった。

「バク転は、若い子がしますけど…。セレモニーでは一緒に歩きましょう」
足をさすりながら彼は言う。
「ありがとう、来てくれて」
勇気が必要だったろうに、来てくれたことに労いの言葉をかけた。

ド荒は、何人もの役者に脈々と受け継がれている。坊主好き、珍妙なダンス好き、バク転、その他諸々。
設定として引き継がれてはいるが、細かく見るとそれぞれ違うな、と盛野はわかる。

「コーチとしているんですってね」
「ああ」
「後進の指導は大事ですよね。わかります。この球団一筋のあなたらしい選択だ」
そこへ、一人の若者が入室してくる。盛野は、名前も顔も一致しないその若者を訝しげに見つめた。
「今日、バク転してくれる若い子です。僕の教え子」
「教え子?」
「今、何をやってるんだ、って顔ですね。足が悪いので激しい動きはできませんが、育成部の責任者です」
よろしくお願いします、と彼は、頭を下げる。
「盛野コーチ。これからもこのド荒くんをよろしくお願いしますね」

世代交代。
華の選手はいつしか引退し、指導に回る。
彼は野球選手ではないが、彼もまた、己の身体と戦い、力尽き、次の道を選んだのか。

球場全体に、応援歌が響く。昔の応援歌。
球場全体に、「ありがとう盛野!」コールが響く。
球場全体に、ジェット風船が飛ぶ。

盛野はその中で、彼の足音を聞いた。
振り向けば、彼は、左手には、サインボールを入れた箱を抱え、右手にはデジカメを持っている。

ド荒。
俺の大好きなド荒。
一番大好きなド荒。

ボールを投げ込む。一球一球に別れの悲しみと長年の感謝を込めて。

ド荒。
俺の大好きなド荒。
一番大好きなド荒。

カメラも憚らずに、ド荒の抱擁を受け止める。
自分は、今、すごい笑顔なんだろうなあ、と考える。

なあ、お前に会えて良かった。また、飲みに行こうな。また、遊びに行こうな。
盛野は、これからの人生を楽しんでいきたいとようやく感じることができた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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