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Ignis aurum probat

罪歯車~罪歯車2で悪男×団長(ラストは陛下)

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「やる」
男がそれをぞんざいに放ってよこしたのは、奇しくも私の誕生日の朝だった。
「一体どういう風の吹き回しです?」
素人目に見ても金ではないことが分かる、ぴかぴかした金色の指輪だ。恐らく真鍮鍍金だろう。石の類は一切なく、指輪全体に優美なアルファベットが刻まれている。
「誕生日なんだろ? 小僧にゃそいつがお似合いだ」
「こんな戦闘の邪魔になるものを身につけることはありません」
「つけろなんて一言も言ってねえだろ」
あの男が好意で私にプレゼントを贈るなど、それこそ太陽が西から昇るようなものだ。賄賂にしてはあまりにもちゃちすぎる。そもそも、この男に賄賂を贈るなどという概念があるとは思えない。要するに、嫌味なのだ。
指輪に刻まれた文字をたどる。『火は黄金を証明する』という意味のラテン語の文句だ。女性に贈る指輪であれば不似合いな言葉だが、私は男だ。
まあ、この文句そのものは悪くないだろう。刻まれているのが金を模した安物の指輪でさえなければ。こんなひどい代物、一体どこで手に入れたのだろうか、この男は。
「悪趣味な……」
悪趣味な指輪を投げつけた悪趣味な男は、私の感想を鼻で笑い飛ばして立ち去った。
1人になった私は、改めて手の中の指輪を眺める。捨ててしまっても構わないはずだが、何となく惜しい気もする。あの男が珍しく起こした気まぐれだからだろうか。
はめる気にはなれなかったので、とりあえず上着の隠しにしまい込むことにした。

――初めて手にしたその指輪は、傷一つなくぴかぴかに輝いていた。

私は憤慨していた。いや、私だけではない。少なくとも私が見た者達は確実に、そして恐らく聖騎士団の全員が憤慨していた。
あの男。脱走というだけでも許しがたい行為だというのに、よりにもよって神器を盗んでいくとは。私がその場にいれば、殺してでも止めたものを。
……いや、だからこそ、私がいないタイミングを見計らって実行したのだろう。私が戻ってきた時には、全てが遅すぎた。降りしきる雨は完全に男の足跡を消し去り、夜の帳は厚く男の向かった方向を隠していた。
今頃、国連本部での査問会はどうなっているのだろうか。奴が脱走した時には遠征に出ていたために現場にいなかった私には、参加する権利が与えられなかった。
気を紛らわせるために仕事をしようと引き出しを開けた私の目に、金色の輝きが止まった。あの悪趣味な指輪だ。結局捨てることも、身につけることもしなかったそれを持て余して、引き出しの隅に置いておいたのだった。
それを見た途端に脳裏にあの男の顔がよぎり、私はとっさにそれを窓から投げ捨てた。つもりだったが、怒りのあまり手元が狂ったのか、それは窓枠にぶつかり、澄んだ音を立てて跳ね返って私の足元まで転がってきた。
何て嫌味ったらしい! まるで送り主のようだ。
もう一度投げ捨ててやろうと拾い上げた矢先、けたたましい警報が鳴り響いた。
その瞬間、私の頭から忌々しい指輪のことも、忌々しい男のことも綺麗さっぱり消え去った。
ギアを全て滅ぼす。聖戦を終わらせる。そのために私はいるのだ。
戦いに必要のないものはしまいこみ、剣だけを持って、私は駆け出した。

――あの男が消えたその時、ぴかぴかだった指輪に傷が入った。

どんな惨事があったとしても何事もなかったかのように装うことに慣れていてよかったと、この時ほど思ったことはない。
第二次聖騎士団選抜会場跡で倒れていた私はそのまま警察病院に搬送された。意識を取り戻してすぐ、私は見舞いに来ていた部下たちにあそこで何があったのかを簡潔に報告した。
何が起こったのか、語れるところまでは一応語ったものの、恐らくギアの王が再び現世に舞い戻り死した事実が日の目を見ることはないだろう。きっと、上にいる誰かが握りつぶす。
しかし、そんなことなど今の私にはもうどうでもよかった。
私の目の前でギアの王を殺した、あの男。その額に刻まれていた紋章のことだけは、語ることができなかった。それでも、そんな虚偽混じりの私の報告が疑われることはなかった。
嘘をついてしまった。それは私の正義に反する。だが、私の正義とは結局何だったのだろうか。
人間に弄ばれながらも必死で己の存在意義を勝ち取ろうと戦ったモノを一方的に悪として滅ぼすことか? 己に都合のいいように世界を動かそうとするご老人どもに従うことか? もう分からない。
分からない。分からない。己の拠り所を失いぐちゃぐちゃになった頭をよそに、体はいつもどおり脱いだ制服をきっちりとクローゼットにしまい小物類をきちんと所定の場所に収めていく。
ふと、引き出しの奥で何かがきらめいた。それは、いつかの悪趣味な指輪だった。sとaの間を横切るようについた傷から酸化が始まり変色している。
「ははっ……」
自嘲の笑みがこぼれる。そう、つまり私はこれと同じ、単に誰かに押し付けられた正義を鍍金しただけのつまらない存在だったのだ。そして今、その鍍金が剥がれ落ちてきている。
あの忌々しい男が述べたように、「お似合い」ではないか。
……そう、あの男。
未だ混沌とした私の思考回路が、その一点に集中していく。奴は、私の知らない何かを知っている。それを知らなければならない――私の、「正義」のためにも。
引き出しをそっと閉じ、私は先ほど脱いだ制服を再びまとった。あの男を追わなければ。あの男を追わなければ。

――あの男の正体を知ったその時、ぴかぴかだった指輪は黒ずんだ。

まだ世界の真実は見えてこないが、私の信じる正義は霧の向こうにかすかに見えた気がする。……完全にその姿を見るにはまだまだ時間がかかりそうだが。
視界の端に愛剣が映った時に、私はふとそんなことを思った。
ずっと背中を追い続けたあの男に別れを告げたのは――私の名誉のために言っておくが、奴は友人でもないしましてや恋人だなどということは断じてありえない――つい昨日のことだ。
そう、ただがむしゃらに奴を追っても意味がないのだと気付いたのだ。
辿る道こそ違えど、奴と私の向かう先は結局同じものだ。ならば、無理に奴を追うよりも早く私のやるべきことをやり遂げ、再びまみえるであろう奴に対抗するために己を磨けばいい。
その前に、まずは目の前の仕事を終わらせよう。
「……あ」
少し勢いよく開いた引き出しの中で、何かが転がり澄んだ金属音を立てた。
ずっとしまいこんだまま忘れていた指輪だ。酸化は全体に行きわたり、最早かつてのちゃちな金色はどこにも見当たらなくなっていた。
捨ててしまおうかどうしようか少し悩んだが、何となく捨てる気にはなれず再び引き出しの奥に指輪をしまい込んだ。
別に形見のつもりではない。そんなものは必要ない。私が行くべき道を誤らなければ、いずれ奴とは再び会えるのだから。
約束は果たされる。必ず。

――あの男を追うのをやめた時、指輪は完全に輝きを失った。

私が執務室に戻ると、いつの間にかやって来ていた愛息が何かを不思議そうに眺めていた。
「どうかしましたか?」
「うおっ!? い、いきなり現れんなよ! ノックぐらいしろっての!」
「いえ、ここは私の部屋なんですが……」
ちょっと身構えられたのはさびしいが、ここで逃げられなかっただけでも少しは関係が改善された気がする。……そうあってほしいものだ。
「それで、何を見ているんです?」
「いや、ひきだし開けたら、こんなのが出てきたんだ」
そう言って見せてくれたのは、あの指輪だった。すっかり黒ずみ埃をかぶっているが、まだあったのだ。
十年以上も前にもらった安物が、特に大事に扱った覚えもないのに未だに私の許にあるというのは何とも奇妙なものだ。
「ああ……懐かしいですね。すっかり忘れていたのに、まだあったとは」
私が簡単にその指輪の来歴を話すと、何故か不愉快そうな表情をされた。
「なんだよ、せっかくオヤジがくれたものなんだからダイジにしろよなー。あーあきったねーの」
どうやら、奴が贈ったものだということに反応したらしい。私の代わりに大事にするつもりなのか、どっかりとデスクの上に腰かけ、服の裾でごしごしと無造作に指輪を磨き始める。
安物の指輪のためにお気に入りの服を汚すのは忍びないのではないかと思い、私がやんわりと制止しようとした時、不意にその隻眼と目が合った。

「ほら、ちょっとふいただけでキレイになんじゃん。指輪の1つくらい自分で管理しろよなー」
目が合ったのは一瞬、ふいと目をそらされて指輪を押しつけ、私が声をかける間もなく息子はそのまま部屋を出て行ってしまった。……結局逃げられてしまった。
ため息をついて、手の中の指輪をながめる。と、一番最初に傷ついた場所が金色にきらめいた。
「……え?」
鍍金の錆が、ちょっと拭いたくらいでどうにかなるはずがない。よく見ると、どうやらそこだけ拭いた時に鍍金がはがれたらしく、地金が覗いているようだ。蜜のようにとろりとした、柔らかな金色に輝く地金が。
「……え?」
まさかと思いながら、額の略式冠を外して指輪と並べる。剥げ落ちた鍍金の下の輝きは、純金製の冠と全く同じ色をしていた。
それは、つまり。あの男は、あのラテン語の文句を刻んだ金の指輪に鍍金を施したものをよこしたということだ。
金の指輪をわざわざ鍍金するような職人がいるはずもないのだから、犯人はただ一人だ。
あまりの馬鹿馬鹿しさに、私は押し殺した笑いと共に悪趣味極まりない指輪を引き出しにしまい込んだ。……全く、私が捨てていたらどうする気だったのか。
「悪趣味な奴め……」
もうちょっと素直に言ってくれればもっと早く――いや、無理か。あの頃の私では理解できなかった。
というか、素直に私を褒めるあの男なんて想像しただけで寒気がする。
ペンと公印を手に、中断していた仕事を再開する。
磨いてなんかやらない。私が私の行くべき道を行っていれば、忘れた頃にまたひょっこりどこかから出てくるのだろう。送り主と同じように。
きっとその時には、今まで表面を覆っていた鍍金は剥がれ落ちているに違いない。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )未だに新作がプレイできない腹いせにやった。後悔はしていない。
               糖度が低い? 悪男がいない? でもそんなの関係ねぇ!


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