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若者のすべて

旧局朝仁R 田和場×登坂

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

夕暮れ近くなってもなかなか部屋の気温が下がらないのは、風ないためだと気がついた。窓からはひぐらしの声と、赤い西日だけしか入ってこない。窓から身を乗り出すと、外の空気の方が冷たくなってきている。
「部屋はだめだ、空気こもっちゃって」
畳の上にT シャツ1枚で溶けている登坂に声をかけた。伸ばした髪を結びもせずにいる姿は見ているだけで暑苦しい。畳に伏せられた顔からは、
「さうですね」
と、常よりは弱った声が返ってきた。扇風機すらないこの部屋はさすがに暑いらしい。
「外、出るか」
「川原で夕涼みですか?」
「いや、今日川原はまずい」
「なぜです?」
そう登坂が聞いてきた時、遠くの空がポンと鳴った。
「敵か!?」
「バカかお前は」
とっさに身構える登坂の頭をはたくと、また同じ音が聞こえた。
「今日は川で花火なんだよ、あんなところ行ったら人混みで涼むどころじゃないぞ」
窓の外を見ると、白い煙が雲に紛れて揺れている。日はほぼ落ち、白い星がふたつみっつ夕明かりの中に現れていた。
「じゃあどこいきます?」
「花火を見る」
そう答えると、登坂は口を開けたまま数秒固まっていた。眼鏡越しでもぽかんとしているのがよくわかる。
「人混みが嫌だって今言ってたじゃないですか」
「屋根から十分見える」
「なーるほど!」
登坂はやっと腑に落ちたような顔をした。もう、開始の合図が鳴ってしまっている。のんびりして居ては見逃してしまうので、慌ててビールとコーラとさきいかをひと袋用意し、先に登坂が上がって俺は後からそれらを受け渡しつつ這い上がった。もともと登ることが想定されている訳ではないので、雨どいを壊しそうでなかなか上がれず、登坂に思い切り引っ張り上げてもらう途中、背中に轟音と閃光が走った。
「お、もうはじまっちまったか」
「なかなかよく見えますよ」
「どれどれ」
ぐっと力を込めてまだ温かい屋根に腰を下ろす。斜面で、しかも重なった瓦のためバランスが取りづらい。立ち上がったらすぐ落ちてしまうような気がするが、座って空を見ている分にはあまり問題はない。
次の花火は三色の花火が三連だった。さすがに近くで見るよりは小さく、建物や木に邪魔されて所々途切れることはあったが、充分鑑賞に堪えるレベルだ。夜の風は少し湿っぽいが、涼しい。
「穴場じゃないですか」
「だな」
花火は次々に上がる。ぱっと開いてすぐに消えるもの、ぱらぱらと小さな爆発を繰り返すもの、柳のように垂れ下がるもの、これらを見ながらのんびりビールを飲むのは何ともいえずいい気分だった。
「しかし、一緒に見るのがお前じゃむさくるしいな」
登坂は花火に顔を向けたまま、
「お互い様ですよ」
と言ってコーラを飲んだ。俺は黙ってさきいかをさらに裂いて噛んでいた。
「カメラ持ってくるべきでしたね」
「この距離じゃ、写真としては微妙だろ」
それに第一野暮だ、と思ったがそれについては言えなかった。一瞬の美などという、手垢にまみれた言葉を使いたくはなかったのと、なにか胸の奥に引っ掛かるものを感じていた。
そのつかえなど忘れるためにさきいかでも食べようと思い屋根の上の左手を見ると、その数ミリ横に登坂の右の手があった。花火が空でどんと言った。その手を握ってしまえ、と心の中で声がする。しかし、今さらそんなことはできはしない。あらゆる過程を飛ばし、感情の伴わないまま体だけは進んで行って、今になって気持ちをどうこうなどそんな虫のいい話はない。感情がないから軽口も叩け、甲賀部で気まずい思いをすることもなくすんでいると言うのに。ここで手を握ってしまえばきっと何かが変わる事だけは確かだった。先ほど引っぱり上げられた時とは意味合いがまるで違うのだから。その変化を誰よりも恐れているのは、きっと俺だ。
馬鹿な事を考えたな、と思い黙ってさきいかを袋から出した。たったひと缶のビールに酔ったかと、我ながら情けない思いすらする。登坂は俺の様子には全く気が付いていないようで、飲み終わったコーラの瓶を屋根の上に転がして、顔は花火ばかり見ている。怪しまれずに良かった、とひそかに胸をなでおろした時、ひときわ大きな火の玉が真っ直ぐに空をあがっていった。
「ラストか?」
「そのようですね」
他の花火よりも高く上がった火の玉は、これまたどれよりも大きな音を立てて開いた。まず丸く開いたその花びらがゆっくりと垂れ、小さな爆発がその中でいくつもいくつも起こった。しかしそれもほんの数秒のことで、すぐに煙のもやを残して消えてしまい、それからすぐに花火大会の終了を告げる小さな合図がふたつだけどこかで鳴った。
「いやあ、絶景でした」
「最後のはでかかったな」
光の残像だけを残して花火が終わると、あとは静かな夜だった。川原の喧騒は遠すぎてわからず、静かな街並みしか見えない。虫の音があちこちから湧き上がってきて、花火があったことなどまるで嘘のようだ。その平凡な様子に毒気を抜かれたのか、登坂は部屋に戻りたいと言い出した。
「いい加減ケツが痛くて」
瓦の段差に押し付けられていたところをさすりつつ、登坂は窓の桟に足をかけようとするも、なかなかバランスが取れないので今度は手で助けてやった。今度はためらうことなく手を伸ばせる自分がなんだかふがいなかった。
登坂を部屋に戻し、そのまま俺は屋根の上で煙草をふかした。ぼんやりと夜空を漂う花火の煙と、煙草の煙が目の前で混ざった。あの時は赤や緑に照らされておかしなことを考えていた。もしかしたら、ある意味最後のチャンスをあの時逃したのかもしれない、と思ったがその危機感も今ひとつしっくりはこなかった。あれはきっと気の迷いで、それこそ一瞬で消えてしまう夢だったのだと思おう。屋根の上でつぶした煙草をビールの空き缶に入れて、さてここからどうやって下りるべきかと、俺はしばし考え込んだ。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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