Top/69-367

あべこべ鏡の向こう側

半生。善元の某劇場開館6周年記念(というか久々に動画で観たよ記念)
おとぎ話が題材の第2回公演。李(2010年R-ONE覇者)×桃(板長)←犬(裸足)

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

とある舞台上に、人ならざる3つの影が立つ。演者の右手にはそれぞれ、剥き出しの日本刀が握られている。
上手には白の光。下手には赤の闇。混ざった中央は桃の色。
「目が見えない」
舞台の中央に立っているのは、立派な袴のよく似合う青年だ。
形の良い大きな瞳は、生まれ持った美しい輝きを失い、10年の闇に沈んでいた。
「俺は一体、何処へ向かっているんだろう?」
「鬼さんこちら♪手の鳴る方へ♪」
鬼が、唄う。青年は振り向いた。
「李太郎」
「私が桃太郎様を導いて差し上げましょう!」
祭り囃子のような声の持ち主は、着流しのよく似合う、背の高い弟。黒と桃の短髪に、右頬にあるのは二本傷か。
目には深い隈が刻まれている。顔立ちそのものは人が良さそうだが、笑顔がどことなく胡散臭い。
「俺の巧妙な話術で、兄貴にHAPPYをお届けしてやるぜィ!」
桃の子の影に生まれ堕ちた李の子は、永い孤独に冒され、天邪鬼という名の鬼になってしまった。
桃太郎の恋人を斬り、火を放った天邪鬼。純粋で清らかな兄は、弟の歪み病んだ心に気付かず、信じ続けている。
心優しき英雄が傷だらけの盗人を庇い、善良な村民を力で捻じ伏せた日から、物語は狂い始めたのだ。

「……可哀想に。村の連中は、お前を疫病神のように忌み嫌う」
歩み寄った桃太郎が、赤い闇へ手を差し伸べる。その手を李太郎が引き寄せ、兄弟は抱き合った。
唇を重ね、舌を絡める。接吻は甘酸っぱい果実の味だ。互いの躯を纏う、果実の香りだ。
「愛に恵まれなかった弟に、俺は愛を与えたいんだよ」
接吻の後、兄は弟の胸に顔を埋めた。良き弟の芝居を止めた天邪鬼の、酷く冷めた双眸が宙を彷徨う。
鬼が助かる方法は、桃太郎を鬼の道へ堕とすこと。鬼を倒す方法は、桃太郎が自らの過ちを悔い改めること。
サルとキジは堕ちた主人に失望し、村を出た。残ったのは――。
「そちらへ行ってはいけません!」
右頭上で髪を束ね、眼鏡を掛けた、袴姿の白き犬。
「犬の声…犬よ、どこにおるのだ!?」
犬に対する桃太郎の声色は険しい。声だけではなく、表情も。対照的に、柔らかく紳士的な口調で、忠犬は言う。
「ここです。私はいつでも桃太郎様の傍におります」
「捨てられたくなかったら、俺がお前に触れられるところまで来い!」
桃太郎は鬼の形相で怒鳴り、鋭い刃を犬に向けた。犬は悲しい顔を返す。
「貴方が私に刀を向けている限り、近づくことは出来ません」
犬に刀を向けたまま、桃太郎は天を仰いだ。綺麗な目は潤んでいる。弱々しい声で、天に問う。
「俺は何処にいるのかな?我らは何処から来て、何処へ向かっているのだろう?」
従者2人も、主人の問いの答えは知らない。神は答えを教えてはくれない。

牙を剥き出しにした犬が、低く腰を沈め、構えを取った。李太郎も犬を睨み、大上段に刀を構える。
駆ける光と闇――舞台の中央で、刀が混じる。
「犬。李太郎。目が見えないよ。耳も…聞こえなくなってきた」
「ところで話変わっちゃうんだけどさァ、お犬様ってマジで兄貴のこと愛してるっぽくない?」
力で圧していた獣が、長い脚に蹴り飛ばされた。弟は兄を見遣り、口角を歪める。
「兄貴は俺を愛してるっぽいぜ。超ウケるんですけど。温室育ちの恵まれた甘ちゃんが。あはっ、あはははは!」
鬼が、嗤う。
「俺には愛など分からんが、愛が兄貴を惑わすならば、兄貴は俺だけを愛していれば良い」
そうして、狂気染みた高笑いを上げて、李太郎は赤い闇の奥へと消えていった。
蹴られた犬は立ち上がり、白い光の下で台詞を紡ぐ。掌に血が滲むほど、強く強く刀を握り締めて。
「飼い犬の私は、飼い主が戻ってくる日を、ただひたすら待つことしか出来ない」
李太郎はあべこべ鏡に映った桃太郎。だから犬は、サルやキジのように「出て行け」と言えなかった。
「鏡の向こうの男を斬ったところで、桃太郎様の目が見えていなければ、意味は無いんだ」

『――これは、誰もが知っている桃太郎の、誰も知らないお話』

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP