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いつの日か

今年の鯛画 11話から
三朗→白羽織の人

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いつの頃からだったろう、と三朗は考える。
幼いころからずっと兄の、会津の役に立つ男になりたいとは思っていた。
でもそこに、あの人の、将之助の役に立ちたいという思いが加わり始めたのは。
最初に会った時には将之助はもう立派な大人で、三朗から見れば将之助は年の離れた兄がもう一人出来たという感じでしかなかった。
思慮深くて優しくて、何事にも通じていて、兄の役に立つ。
将之助のような男になりたいと思った。
それなのに一向に将之助を認めようとしない会津に腹が立つようになった。
でも兄ならそのうちどうにかできるだろう、そう思っていたのに兄は将之助を残して都に行ったきりになった。
勿論兄のせいではないが、時折もう何度も読んでいるだろう兄からの文に目を通している将之助の姿を目にする。
そんな時の将之助はひどく頼りなさげで、兄に対して理不尽な怒りに似た感情が湧いてきて胸がざわつくのだ。
それと共に段々三朗にはわかってきたことがあった。
兵馬や首里と話している時の兄は将之助と話している時とは違って見えた。
勿論身分や役職の違いもあろうが、そんなものだけではないように思えた。
それに一度三朗は銃の改良途中で将之助が手に怪我をしたところを見たことがあった。
『さすけねぇですか!』と声をかけて近寄ろうとしたけれど、
その前に近くにいた兄がやおら怪我をした将之助の手を取ると流れる血もそのままに傷口を舐めとった。
三朗は何故か慌てて柱の陰に隠れた。
『深くは切ってねぇようだな。だけんじょ膿むといけねぇからちょっと待ってろ』

そう言い残して兄は角場を去った。
三朗はおそるおそる柱の陰から顔を出して将之助を見た。
将之助は今しがた兄の舌が這ったそこをじっと見つめていた。
普通に考えれば怪我の具合を見ているのだろうが、三朗にはそんな感じには見えなかった。
今にも自分の舌もそこに這わせそうな、そんな雰囲気だった。
その時の将之助は三朗が見たことのない顔をしていた。
それはひどく綺麗で、どうして自分がそう思うのか、訳の分からないうちに心臓が高鳴っていた。
その時の事や兄と将之助の事をきちんと理解して自分の気持ちを認められたのは兄が旅立ってからだった。
未だ若輩の身では将之助の役にも藩の役にも立たないことがひどく苛立たしい毎日だった。
自分よりはまだ姉の方が将之助の役に立っているような様子なのも三朗の焦りをより大きなものにしていた。
それで狭川の元に入隊を願い出た。
しかし認められず、父からはきつい叱責を受けた。
三朗は鬱々とした気分で眠ることもできず、角場にフラリと立ち寄った。
境遇にめげずに作業を続ける将之助の後姿でも見られたら少しは気持ちも上向くか、と思ったのだが、
珍しく目当ての人はそこにおらず、三朗はそこに落胆した気持ちのまま銃を見詰めながらぼんやりと佇んでいた。
「それはまだ改良中です」
しかし今夜は会えないと思っていたのに、不意に将之助が現れた。
単純だと自分でも思ったが三朗の気持ちは確実に少し上向いた。
それに将之助は聞き上手だ。
家族ではないからこそ言えることもあった。
ずっとい言いたいのに言えなかったことを訥々と語ったら、将之助は優しく微笑みながら聞いてくれた。
将之助は何事においても面と向かって否定することもないが、逆に全部を肯定することもない。
確かにすべて正しいという事も、すべて間違っているという事もこの世の中にはないだろうことはわかっている。
でもそうわかっていても誰かに話を聞いてもらい、それでいい、間違ってはいないと言ってもらいたい時がある。
将之助は自分を理解してくれた、それだけで三朗は満足だった。

でも最後に励ますように肩に手を置かれた時に、一瞬よからぬ思いに駆られた。
肩から離れて行こうとする将之助の手を思わず掴んで引き寄せた。
「三朗さん?」
「・・・」
何を言おうとしているのか、また言いたいのか自分でもわからなかった。
ただこのまま離れて行ってしまうのが嫌だった。
でもずっとこのまま将之助の手を掴んだまま黙っていられるはずもなく、三朗は必死で言葉を探した。
「…こんなに腫らして」
沈黙を破ったのは将之助の方だった。
槍の試合で盛大に腫らした頬の傷に、将之助の三郎が掴んでいない方の手がそっと触れた。
「男前が台無しですね」
「・・・お、俺は、男前かなし?」
「男前ですよ」
そう言って将之助は穏やかに微笑みながら三朗を見ていたが、三朗はその将之助の表情にはいつも複雑な思いを抱いていた。
自分の中に他の誰か、勿論それは兄なのだろうが、それを見ている顔な事を三朗は理解していた。
「・・・俺ではあんつぁまの代わりにはなんねぇべか?」
「三朗さん?」
「も、勿論あんつぁまが帰ってくるままでいいし、あんつぁまには決して何も言わねぇ!だから・・・」
将之助の手を三朗は更に強くつかんだ。
きっと痛いだろうと思ったが、離すことは出来なかった。
将之助もそれを振りほどこうとはしなかった。
「代わりにはなれませんよ」
思った通りの答えが返ってきて、三朗は落胆したがどこか安堵もしていた。
「角馬さんの代わりには誰もなれないし、三朗さんの代わりにも誰もなれない」
「そ、そっだらことを言ってる訳じゃ…」
「三朗さんは角馬さんの代わりになっていいような人じゃありませんよ。そうですね…行きずりの誰かとの方がまだマシです」
「は?」
「たいせつ、なんです。あなたが」
「将之助さん…」

「角馬さんの弟だからってことだけじゃありませんよ。そりゃ最初はそのくらいな感じでしたけど、
今ではそれだけじゃない、角馬さんの弟というだけじゃなく、あなただから傷つけたくないし大事にしたいと思っています」
思わず涙ぐみそうになって、三朗は将之助から顔をそむけた。
正直に、逃げずに答えてくれたことが嬉しかった。
大体最初から兄が帰って来たら終わりにするなんて出来る訳もなかった。
そんな割り切り方はきっと自分にも、将之助にも出来なかったろうと思った。
でもそれでも、一度でいいから将之助の肌に触れてみたかった。
その気持ちはきっとずっとくすぶり続けるのだろうと思った。
思わずその未練から握ったままの手を引くと、将之助の体が少し傾いで、三朗の唇に将之助のそれが掠めるように触れた。
「・・・おやすみなさい」
一瞬の触れ合いの後、将之助はいつもの穏やかな笑みを顔に刷いてから踵を返した。
あれは将之助が意図したことだったのだろうか?それとも偶然だったのか、とその後ろ姿を見送りながら三朗はぼんやり考えをめぐらした。
答えは出ない。
でも出ない答えをこれからも自分は探し続けるのだろうと思った。
いつか、将之助の事を諦められる日が来るまで。
しかし将之助は諦めろとは言わなかった。
兄の代わりには出来ないと言っただけだ。
やんわりと断るための方便だったのかもしれないが、まだ若い三朗に淡い期待を抱かせるには充分だった。
そして初めて将之助と交わした口づけは、その夜の三朗を不眠に至らせるのに充分な効果を与えたのだった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

覗いてた弥恵さぁは肩ポンの後いなくなったと思っていてくだせぇ。
ありがとうございました!


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