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睦月のたのしみ

セイントヤングメンでネ申イムネ申。エロあり。現行の原作者作品スレからネタをお借りしました
※投下制限のため、保管庫に直接アップ
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

水の音で目が覚めた。まだ外は薄暗い。小さなアパートはきんと冷えた空気に包まれている。
(家須かな、何してるんだろう)
イム佗は寝返りをうった。隣の暗がりに目をやると、同居人の布団はからっぽで、水の音の正体が
家須であることは確からしかった。かけ布団が乱暴にはねのけられている。
(もう、起きてもいいけど、あと少し)
あたたかい布団をかぶりなおすと気持ちよくて、すぐにうとうとが帰ってくる。ああニルヴァーナ、と
思った途端、耳に音がすべり込んできた。忍ぶような足音、それからぽつん、ぽつんと畳に落ちる水の音。
「家須……? 」イム佗が顔を上げると薄明かりに立つ家須の体がこわばるのが見えた。
「あっ、イム佗、おはよう」
「おはよう、今日早いね。じゃなくてそれどうしたの、すっごい水垂れてるけど」
「えっあっほんとだ! ご、ごめんもう一回しぼってくる! 」
家須はあわててひっこんだが、しばらくするとさっきのそれを手の中に握りしめたまま部屋に戻ってきた。
今度は表情がちゃんと見えた。気まずい、という顔だ。
「パンツ? 」イム佗はつぶやいた。家須はぎくりとした顔になり、濡れて黒っぽくなった布をぎゅっと握る。
「う……うん、ちょっとその、失敗しちゃって」中身を隠すようなその指先は冬の水で真っ赤だ。
「失敗って、何家須まさかおねしょ……」
「いやそっちじゃなくて、大丈夫布団は無事だよ!ただちょっと引かないでほしいんだけど、
 ほんと自分でもびっくりしてるんだけど」
そこまで言って家須は言葉を区切り、なんとか次の言葉を絞り出そうとしたが音にはならなかった。
気の毒なほど狼狽している同居人の姿にイム佗はピンとくるものがあって、とっさにさえぎった。
「家須わかった、全部は言わなくて大丈夫だから」
「ごめんっ、起しちゃったしほんとにごめんね」
「なんで謝るのさ、もう起きようと思ってたんだ。朝ごはんにしよう」

身支度を終え、イム佗は台所に立つ。
手を動かしつつ部屋に目をやると、正座をした家須の背中があった。
干したパンツに向けられた顔は見えない。が、想像できる気がした。
(それにしても聖人がそんなことってあるのかな……)
「聖人がそんなことあるのかな」
家須がこぼすように言い、イム佗は心を読まれたようでびくっとする。
「そ、そうだね、確かにびっくりしたけど……」
「最近肉食べすぎだったせいかな!? ほらアブ.ラ.ハムさんのお歳暮でハムもらったから! 」
家須は振り返ってイム佗を仰ぎ見た。よほど不安らしい。
「家須あのさ、下界に来てから色々あったじゃない。私が熱を出したり君に親不知が生えたことも
あったし、 だから気にしなくていいんじゃないかな。でも肉断ちやってみる?」
「う、うんそうする……ありがとうイム佗」
イム佗がほほえむと、家須は少しほっとしてぎこちないほほえみを返した。
味噌汁に入れる人参を切りながらイム佗は考える。
(お歳暮か、今年もあちこちからたくさんもらったんだよな)
そして思い出した。家須は昨日も、ぎこちない笑い方をしたのだ。

昨日イム佗は一冊の冊子を熱心にめくり、時折ページに折り目をつけていた。
「それもしかして試練カタログ? また天部からのお歳暮? 」家須がおそるおそる覗き込む。
「うん、今回は遅れたんだけどいいのが揃っててね、どれにするか迷っちゃって。一緒に選ぶかい? 」
「もー! いいのって辛いのってことでしょ! やめなよ、イム佗が辛い目に合ったら悲しいよ」
「でもすごいんだ、今回は下界でも浮かなくてけっこうキツい感じの試練が多くてさ。
 それに期限切れで微妙なやつが来てもなんだしね……」
「ああそうだったね……だけど死別系はだめだよ、こっちでお世話になってる人多いんだからね! 」
「あはは、選ばないよ」
素早くページを繰っていくイム佗を、家須は脇から興味深そうに眺めていたが、突然視線がイム佗の手元に
釘付けになった。正確には、イム佗が手で持ち上げているページのその裏に、だ。
「どうしたの家須、気になる試練が……」ページをかえしたイム佗もぎょっとした。
そのページは『情愛系』と銘打たれ、こんな説明書きが添えてあった。

【男女OK! 】
知らないものを我慢するのは簡単です。
この試練「睦月のたのしみ」では、大事に思う男性と睦みあう喜びを
一度知ったうえで、次なる誘惑に耐える辛さを味わっていただきます。
持ち上げてから落とされる苦しみをご堪能ください! (上級者向け)

文の下には、服こそ着ているものの明らかに怪しげな雰囲気の男女の絵が描かれている。
「こ、こういうタイプのもあるんだね……」
「うん、毎回内容が違うんだ……あっ、今年は遭難系と天災系で迷ってるんだけどどっちがいいかな」
「どっちもやだけど遭難系かなあ。私たち基本立川から出ないし。おお~、お届け日指定もできるんだね」
「忘れたころにきた方がいいって人もいるからね、私はいつもお急ぎ便だけど」
大げさにハガキに顔を近づけていた家須だったが、ふと目をそらすと小さくつぶやいた。
「……"男女OK"なのに"大事に思う男性と"なんだね……」
「そこ引っ張らなくていいじゃないか! いろんなニーズに対応しようとしてるんだよきっと」
家須はそれには応えず、ただきまりの悪そうなほほえみを浮かべた。
「家須よ」とイム佗は言った。「なにかすごく徳のさがることを考えていませんか? 」
「考えてないよ! ちょっとどうなるのかなって思って……」口ごもった家須を後目にイム佗は立ち上がった。
「よし、ハガキ出してくる。ついでに何かいるものある? 」
「別にない…けどもう夜だよ、外寒いし出すのは明日にしたらいいのに」
「こういうのは早い方ががいいからね、いってきます」
本当ワーカホリックだなあと笑いながら家須はいってらっしゃい、と言った。

(思い当たる原因っていうとそれくらいかなあ)
味噌を溶きながらイム佗はさらに考えた。
(夢の……って書くくらいだから眠ってる間のことなんだろうけど。にしてもなあ)
病気だったらどうしようなどと心配する。一月はただでさえ何かと出費が多いのだ。
当の家須は一旦忘れることにしたのか、PCでブログについたコメントをチェックしている。
いつも通りの姿になんとなく安心して、お茶お願い、とイム佗は声をかけた。

ところがその日から家須の態度が妙によそよそしくなった。
ごはん時にもあまりしゃべらないし、銭湯はひとりで出かけて入ってきてしまう。
遅寝が習慣の彼がさっさと床に入って、朝はいつも通りイム佗のあとから起きてくる。
それでいて時々、何かを恐れているような、おどおどした目でイム佗を見るのだった。
はじめは朝のことを気にしているのだと思った。気持ちはわかる。
何千年もそういうことと無縁で、突然みだらな夢を見たら動揺するだろう。
愛別離苦はしたものの、妻も子もいるイム佗でさえそうなのだから。
だが今の家須を見ていると、たとえばすうすう寝息を立てている姿を見た時やことわりもなく
さっぱりした顔で銭湯から帰ってきた時、どこか後ろめたそうな顔でこっちを見る時には、
イム佗も妙に心がふつふつとして、柄にもなく肩をつかんでゆすぶって、問いただしたい
衝動にかられた。どうしていつもみたいにしゃべらないのか。笑わないのか。
わがままを言わないのか。何を隠しているのか。
そんな日が五日ほどもあって、ある日の夕方、とうとうイム佗は家須に宣言した。
「家須、カーテンを閉めてくれる? 」
イム佗が怒る時に出す光を、外に漏らさないためのお約束の文句だ。
部屋の隅で畳んだ膝にすっぽりとセーターをかぶせて体育座りをしていた家須は心底驚いた顔をした。

「え……私何したっけ。何をしたでしょうか」
「まずセーターはちゃんと着て、伸びるよ」
「これは寒いからやってるだけで、ごめんもうしない」
「私に隠していることがありますね。家須・キ.リ.ス.トよ」
「隠しごと!? しないよそんなこと」家須の言葉にイム佗は右手の指を二本たてる。
「最近は何を聞いても上の空ですけど」
「たぶん気のせい……ちょっ仏の顔減るの早……」一本になった指を見て家須が叫んだ。
「せっかく有給でふたりバカンスに来たのに、君がそんな苦しそうな顔しててどうするんだい。
 困ったことが起きてるんだったら、言いなよ。私じゃなくても四天使やペト.ロさんたちだっていい」
「だって、どうにもならないことだと思う」
「きっと大丈夫だから話してみて。世紀末だって乗り越えてきたじゃない」
「……じゃあ、言うけど」家須はぎゅっと膝小僧を握った。「聞いても嫌わないでね? 」
イム佗が強くうなずくと家須は目を伏せ、ためらいながら口を開いた。
「何日か前に、私が寝てて失敗、したことがあったでしょ。
 あの朝夢に出てきたのってイム佗だったんだ」
「えっ」
「驚くよね、私もびっくりして、前の日にカタログ見たせいかなって思ったけど。
 でもその日また夜中に目が覚めて、イム佗の寝顔見てたら変な気持ちになっちゃって、
 ああこれアガペーじゃないなって自分でもはっきりわかったんだ。
 なるべくイム佗より早く寝て顔見ないようにして、
 もう、もうなんで急にこんな……そういうのが朝も夜ものべつまくなしにあるし、
 どうしていいのか……隠すつもりがなかったのはほんとだよ。
 でも考えちゃうことを考えないようにするので精いっぱいで、ほんとにごめん! 」
切れ切れに、時間をかけて話し終えると、案外胸のつかえがとれたのか、
家須は子供のような表情になった。ふっと空気がゆるんだ。
「……言いにくいこと話してくれてありがとうね、家須」イム佗は言った。
「うう、恥ずかしくて帰省しそう。でもけっきょく原因がわからないんだよ」
「そうだねえ肉もあれからぜんぜん食べてないもんね」
「こんな辛いの悪魔的ってレベルじゃないよ。そのうち治るのかなあ」
「悪魔以上なんてあとはもう天界しか…あ! 」
叫ぶと同時にイム佗は携帯を取り出し、どこかへと電話をかけ始めた。
『はい天部の梵.天でございます! これは先生! 悟アナのネームはあがってますか? 』
梵.天のはきはきした、というか無駄に大きな声が電話から漏れ聞こえてくる。
「それは二、三日中に…あの梵.天さん、このあいだはお歳暮ありがとうございました。
 ちょっとそのことで確認なんですが… 」
イム佗が梵.天に事情をかなり薄めて話している間、家須はそれをいたたまれない気持ちで聞いていた。
ぼかして話しても自分が同居人に欲情しているという事実は伝わってしまうだろう。
『なるほど事情はわかりました。カタログ担当の天女に伝えるのでお待ちください! 』

一旦電話を切ってイム佗は家須に笑いかけた。「なんとかなるかもしれないよ」
「ほんとかい!? 」
「うん、たぶん間違いないよ。カタログの手違いで変な試練が来ちゃったんだと思う」
「試練かあ! そういうページもあったもんね」
「だから正しい希望を伝えて変えてもらったら……あ、かかってきた。もしもし。はい……ああやっぱり!
 じゃあ……ええっ? いやそれをなんとか……」イム佗の受け応えから戸惑いがにじむ。
『一度起こったことは消えません。消えたら試練ではない』
「それはそうですけど、じゃあどうするんですかこの状況!? 」
『まあこちらとしても家須様を夢精させてしまったというのであちらさんの感情もありますから』
「は、はっきり言わないでください」
『シッ.ダー.ルタにもひと肌脱いでもらおうと。それで痛み分けです! 」
「ねえちょっと、それ痛いのは私たちふたりだけですよね! 」
『今回のことは天界でノーカンとしますので、おふたりで解決なさってください。ネームができたらご連絡を! 』
通話を終えたイム佗は手で顔を覆った。
「あの人たちが無茶ぶり気質なの忘れてた……! 」
「けっきょくどうなったの? 」
「えっと、やっぱり手違いで別の試練が来てたんだけど、取り消しはできなくて……
 だから試練の通りにやって、そうしたら元通りだみたいなことを……言われて……ごめん」
「えっそれは私がイム佗を、っていうこと? 」
イム佗がうっと言葉に詰まり、沈黙は肯定の意味になって部屋に広がった。
「君さ、今我慢してるだろ」
「してる……けどぜんぜんヘーキ! あ、どのくらいで治るとかは? 」
「梵.天さんは一月いっぱいだって」
「一月いっぱい……」家須は台所にかかっているカレンダーをちらりと見た。まだ二十日以上残っている。
「試練通りにした方がいいんじゃないかって思うんだ。私は、正直にいうけど、そ、そんなに嫌じゃないよ」
目を泳がせながら言い放ったイム佗に、家須はぐらっとよろめきかけたが、踏みとどまった。
「いや、やっぱりダメだよ! 私が耐えれば済む話なんだから。二十日でも三十日でも…」
そう言う家須の眉間に、つっと一筋の血が流れた。家須はごしごし手の甲で拭う。
「あっこれは違うから、ちょっとジュース、そうさっき飲んだトマトジュースだから」
イム佗は困り顔でそれを見ていたが、指で血の跡をぬぐい、家須の頬をそっと撫でた。
「ねえ家須。こないだ私がカタログを見てた時、私が辛い目に合ったら悲しいって言ってくれたよね。
 私もまったく同じだよ。家須が辛い目に合ってたら悲しい。布団しこうか?」
イム佗が包むような笑みを向けると家須は唾を飲み込み、ゆっくりうなずいた。

「えーと明かりってこのままつけなくていいよね? 暗いくらいでいいよね!
 布団かぶってもいいのかな私が一応男側だけどよくわかんないから変だったらごめんね、あと……」
「家須落ち着いて」
用意をするにも大騒ぎだった。イム佗はコタツを隅に寄せ、自分の布団をしく。
「ごっごめんイム佗……あ! こういう時って布団はやっぱりこう! だよね! 」
家須が自分の布団をぴったりと並べた。いつもは少し離して寝ているのだ。
「そ……そうですね……」
急に恥ずかしくなってそっぽを向いたイム佗につられて、家須も赤面する。
「あっなんかすみません……調子のっちゃった……」
うつむいている家須をよそにイム佗はせかせかとズボンを脱ぎ、布団にもぐりこんで横になった。
「はい、じゃ、おいで」
「えっ何もう始まってるの?? 前段階とかないの? 」
「いやー逆に気恥ずかしいっていうか君無理でしょ……私もだけど」
「言われてみれば……さっと入っちゃった方が気が楽かも」
茨の冠をとりズボンを脱いだあと逡巡していた家須だったが、えいっと小さく叫びながら布団に飛びこんだ。
「はいようこそ~」
「えへへ入れた、うわっ中あったかい! 一人と違う」
ぎゅう、と勢いにまかせて抱きしめると、ふたりともぬくぬくしたよい気持ちになる。
触れ合っている脚が素肌であることだけがこの状況で奇妙だった。
「家須ちょっと重い」
「わっそうだよね、えーとこのあとどうすれば? 」体を浮かせて家須は尋ねる。
「どうって触りたいところを触ればいいんだよ」
言ってしまってから、なんか好きにしてって言ってるみたいだな、とイム佗はひとりどぎまぎする。
しばらくの間、うーんといううなり声が頭上でしていたが、やがてイム佗の耳に指がのばされ、
(最初に触りたいところ、そこなんだ……)とイム佗は思った。
応えるように家須のセーターの中へ手を挿しいれ、背中を撫で上げると家須は「わあっ」と身をすくめた。
耳には相変わらず健気にキスと指が降ってくるが、イム佗が撫でるたびにわっ、やらあっ、やら声があがる。
「家須、もしかして上と下交代した方がいい……? 」
「え!大丈夫だよ! ちょっとくすぐったくてびっくりしてるだけだから」
「いやそんな怯えなくても、交代っていってもそんな違わないよ?本格的なことはしないし」
「あれそうなの? てっきりイム佗を女の子にしないといけないのかと思ったよ」
「そんな風に考えてたのかい……カタログだとそのへんザックリだったから大丈夫だよ、変わる? 」
「えーいやうーん、いやがんばる! ちゃんとイム佗のこと気持ちよくしたいし」
なんてこと真顔で言うんだ、とイム佗は面食らい、気おされて、一度起き上がりかけた身をまた横たえた。
「そう、じゃ、じゃあよろしくお願いします」
「よろしくお願いします! 」

家須は覚悟を決めたのか、イム佗のセーターの裾を掴みぐいとずり上げた。胸元にキスが落とされる。
左手が体を滑ると、指の冷たさに胸がふっと上下した。
(なんだろ、すごいくすぐったい……)イム佗は思った。
家須の唇が胸板の上を動き、突起をかすめていく。時折鳴る唇の音がひどく恥ずかしい。
(あっこれ髭だ! 髭超くすぐったい! )
髭と長い髪の毛が体に当たって今にも声が出そうになる。呼吸があがってきた。
「なんかイム佗もちもちしてる、柔らかい」
「あ、あんまり言わないで、気にしてるか、らっ」
息が乱れて少しぼうっとしてきたところへ、また家須の指が胸の突起をかすめた。
「う……」
「んん?? 」
家須が即座に反応する。指の腹でぐい、と押された。
「あぁちょっと、それぇ……」
「イム佗気持ちいいの? 」答えないでいると、さらに質問が飛んできた。
「気持ちいい? 痛い? 大丈夫? ごめん言ってくれないとわかんないや」
「……気持ちいいよ」
「えっホント!? 」ぱっと家須の顔が明るくなった。

この無邪気な同居人は、自分が相手を言葉で追いつめていることに気付いていないだろう。
胸への刺激を繰り返しながら楽しそうに体を探る家須を見て、慣れていないだけで意外と床上手かもしれない、
とイム佗は思った。神の子でなかったなら、誰かを愛するためにこうやってふつうの夜を過ごしたかもしれない。
今家須は指で腰の弱いところを探り当て、舌さえ使って、夢中になっていた。
なるべく声を押さえたいけれど、頭がじいんとして押さえ方が思い出せない。
「イム佗たってるね」
「……」
「触ってもいい? ……触るね」
下着に手が伸ばされ、そこが外気にふれる感覚が伝わってきた。布団の中とはいえ、なかなか心もとない。
「わー熱い……ど、どうしてほしいとかある? 」
「じょ、上下に……ふつうに、こすったりとか……」
イム佗も恥ずかしがるだけの余裕がなくなってきた。他人に触られるってこういう感じだったな、
と数千年ぶりの熱を感じている。イム佗はふと家須の腰に手を伸ばした。
「な、何なにイム佗」
「はー……わ、私ばっかり、っ、わるいから」
「別にいいのに、っうわうわうわ」
握ってみるともうとろとろと先端が濡れている。ずいぶんがまんをしたのだろう。
「ごめんね、私の、せいだね」
「ち、ちがうっ、でしょイム佗わるくな……あっぁ」
「私のせいって、言ってみて」
長い長い間があった。熱心に動かしていた手さえ止めて、家須はようやく言葉を吐き出した。
「イム佗のせい……イム佗の、せいでっ、こんなんだよ」
ふたりが、いっぺんにまた動き始めて、突きあわせるような形になった。
場所も時間も、熱いのか寒いのかもわからなくなる。
「あぁ、はーっ、んっ、ん……イ.エ、スっ、も、だめかも」
「わっわたしも、これだめ、かもっていうかあっ、うぁっあーっ……」
先に家須が達し、追うようにイム佗が果てた。ふたりしてはあはあと息を荒げる。
脱力した家須の髪の毛をかきあげるといつもと違うだらしない表情がそこにあった。

イム佗はまた心が泡立ってくるのを感じた。家須のわき腹を抱きかかえ、そのまま自分が上になるよう体勢を入れ替える。
「わ、どうしたの」力の抜けた家須は、転がされてもされるがままだ。
「家須、私ね」とイム佗は余韻に顔を紅潮させて言った。
「ここ何日か、家須にいらいらしてたんだ」
「あ、ああ、私がイム佗のこと避けてたからでしょ」
「うん。そう思ってた。でもね、今思うといらいらしてたんじゃなくて、むらむら、って感じだったかも」
「む……むらむら……」
「長い間こんなことなかったから忘れてたよ。試練のせいかな」
さっきまで自分がされていたように、覆いかぶさる。暗い中でも家須の長い髪の毛が頬に触れ、
シャンプーのにおいと体のにおいがするのがわかる。
「家須かわいい」
「え~私なんて見た目的には髭の中年だよ」
「そういうこと今は言わなくていいんだよ……」
家須の、放ったばかりのそこを握りやさしくしごき上げる。家須の体がびくっと跳ねた。
「イム佗何してんの、あっあぅっちょっと……」
幹にはほとんど触れずに、先端をすべらかな手のひらでくるくる撫でさするように刺激すると、
ふたりぶんの精液が肌と粘膜の間で音をたてた。「くすぐったい? 」
「く、くすぐった、ていうかっ、今出たばっかだから、ダメッ! はぁっ! もう終わったでしょ終わっ、たでしょっ」
「家須、手、どけなさい」
左手で家須の片方の手と腿を押さえ、右手で「くるくる」を続ける。
家須は抵抗していたが、やがて手でセーターの腹をぎゅうっと掴んで耐えるかっこうになった。
「あ゛ー……! 待っでっちょっとでいいがらぁ、待っ……」
「気持ちいい? よくない? 」
「まっしろ、わかんないっ、いい、はぁ、気持ちい……」
「ならよかったね」

そう言われると家須は黙り込み、悲鳴を漏らすだけになった。
口がぽかんと開き、上唇から少し前歯がのぞく。イム佗はそこにキスをした。悲鳴がひときわ大きくなって、
終わりが近いのがわかった。泣いているような顔と声のまま、家須は絶頂を迎えた。

「イム佗なんかこわかったよ! あれこれ聞いたのがいやだったの? 」
「え、別に? 怒ってないよぜんぜん」
「……最後のほう立場が逆転気味だったよね」
「ふふ、愛の形にもいろいろあるということですよ……」
今度こそ後始末まで終えて、ふたりはひとつの布団にくるまっていた。
「あったかいなー布団出たくないなあ」家須がひとりごとのように言った。
「そうだねえ、でもなんとか終わってよかったね」
「そうか、これ試練のせいなんだった……あっじゃあさ、最後にもっかいぎゅってしない? そうあることじゃないしさ」
どんなふうに抱きあうか、ふたりの間に目配せがあり、けっきょく家須の胸のなかにイム佗が収まる形になった。
「あーぽかぽかする……なんか私、ふつうにその、気持ちよかったの、ショックといえばショックだな……」
「まあ私たち、眠るのも、ごはん食べるのも、散歩するのも、ぜんぶ気持ちいいなって思うもんね。そんなもんだよ」
「そうかあ……あ、イム佗」
「何? 」額をさらにうずめながらイム佗は応えた。
「触りたいところを触ればって言ってたけど、私まだ触ってないところあるんだけど、びゃ、白毫ってだめかな」
「やめてください」がば、と起きあがってイム佗は言った。
「あー、もうちょっとこうしときたかったのに」家須は声を上げた。
「あんまり長いと天界も心配するし。一応試練の一部だからね」
「それはあるね……でもイム佗はこんな試練ぜんぜん平気でしょ? 大目に見てくれてもいいのにねえ」
イム佗はそれに答えず、黙々と布団を畳む。
「えっイム佗……? 」
カチッ。と、確かに聞こえた気がした。苦行スイッチの入る音が。
家須に追及する勇気はとてもなかった。

数日後、弁.才.天から電話がかかってきた。
『シッダールタ大丈夫? なんとなく話は聞いてるけど』
「なぜ聞いてるんですか……そうですよ! 天部のムチャぶりには慣れっこですけど今回はあまりにひど……」
『そうなのよごめんなさいね。カタログ担当が自分により過激な試練を作り続ける試練を課しちゃったみたいで』
「それは……辛そうですね」イム佗は思わず想像する。
「好評と不評とまっぷたつなのよね。でもお詫びに苦行サポートするわよ! ワイセツな写真とか送ろうか? 」
「けっこうです! ハガキ出した次の日からもう大変だったんですからね! 」
『え、次の日から? どんなに急いでも届くのに二日はかかるはずだけど』
「えっ……」
イム佗は隣でデモハンにいそしむ家須を横目で見た。大きな戦いの最中らしく熱心にPCを操作している。
『何があったか聞いてもいいかしら』
「いえ! もう終わったことなので……」
適当にあいさつをして電話を切り、ため息をつく。
(じゃあ、じゃあどこかまでは試練じゃなかったってことか)

懸命に思い出そうとした。家須の失敗が翌日だったことはもう間違いようがない。
そのあと、家須が私を見て「変な気持ち」になったのはいつのことだったんだろう。
私が家須に「むらむら」した気持ちになったのはいつからだったんだろう。
思い出せなかった。
家須が隣で伸びをした。
「あーあ、クエスト失敗だよ……今日はここまでかな。ねえイム佗、そろそろ買い出しの時間じゃない? 」
「えっ、あ、ああそうだね」
「行こう行こう! 今日ごはん何? 」
「寄せ鍋だよ」
「わー、私お鍋大好きだよ」
「私も大好きだよ、おいしいよね」
ふたりが出ていくと、まだ人の体温が残るアパートはしんと静かになった。
その後ふたりは、地元の商店街であるにも関わらず迷子になり、荷物を抱えたまま三時間の遭難に苦しむ羽目になったという。

原作者スレのみなさまありがとうございました&代行スレのみなさまご迷惑をおかけしました
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

  • シャーロック -- 2013-02-10 (日) 16:27:17
  • 萌える♪♪(ノ´∀`*) -- らな? 2013-10-31 (木) 10:18:49
  • 萌えた! -- 2013-12-23 (月) 23:23:39
  • 作者さんありがとうございます。最近ハマッたので読めて嬉しかったです。 -- 通りすがり? 2015-11-10 (火) 12:37:21

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