Hamming sweet days
更新日: 2012-12-19 (水) 17:39:00
生。某セ糾弾の気ャプ点と、某パ糾弾に遺跡した名居也酒。
ちょっと前にも投下させて頂きましたが、続きものではないです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
不安を酒で流し込むようにしながら、俺は携帯電話を握っていた。
富士他さんには何度も電話しているというのに、コールを聞いている間の緊張感はいつまでも消えない。
電話に出なかったらどうしよう、だとか、そういう女々しいことばかり考えてしまう。
けれど、今まで富士他さんが俺の電話に出なかったことは、一度足りとも無い。
あるときは、二回目ぐらいのコールですぐに出て、おう岳匕口、と余裕のある声で答えた。
またあるときは、六回目ぐらいのコールでやっと出て、おう岳匕口、と息切れしながら答えた。
そういうとき、ああ忙しかったんだろうな、と俺は申し訳ない気分になる。
今回は後者のパターンだった。そろそろ切ろうかと思った瞬間にコールが途切れて、岳匕口、出るの遅うなったわ、と聞こえてきた。
「すんません、忙しいなら切ります。」
「ああ、平気や平気。今ちょうど終わらせたとこや。」
一体何をしていたのだろうか。
気になったけれど、なんとなく聞かない方が良いような気がして、俺は口を噤んだ。
「岳匕口、元気やったか?風邪ひいてないか?」
聞き慣れた質問をされて、俺の緊張が僅かにほころぶ。
俺が電話するたび、富士他さんは決まってこう聞いてくる。
「元気ですよ。一応俺、もう26なんすよ。」
「あかんわ、どうしても心配になってまうわ。」
「富士他さんこそ、元気でやってるんすか。」
「ああ、俺も元気やで。」
季節の変わり目からか、近頃風邪をひく人が増えている。
冷たい風が吹き付けるたび、富士他さんは平気だろうか、と心配になっていたから、元気そうな声が聞けて安心した。
「なあ、そういや、もうすぐ府ァンフェ酢やな。」
いつも通りのやり取りを終えた後、話題を振るのは決まって富士他さんだ。
電話をするのは俺からが多いくせに、俺は何の話も振ることが出来ない。
「ああ、そうでしたね。そっちはいつなんですか。」
「11月24日や。そっちもそんなもんやろ。」
「そうっすね、俺んとこは23です。」
「ほんまに。」
去年の府ァンフェ酢ティバ流のことを思い出す。
そのときは、次の府ァンフェ酢ティバ流には富士他さんが居ないだなんて、考えもしなかった。
「今年は、どんなことすんの。」
「4つの地―ムに分かれて、対抗戦をするらしいっす。」
「へえ、面白そうやね。」
「俺が地―ムの気ャプ点やるんすよ。」
「すごいやん。さすが気ャプ点やな。」
いつもの調子で喋れていることに、俺は安心する。
電話するたびに気まずい空気になっていたら、いつか出てくれなくなってしまうような気がして怖かった。
「俺の地―ム、地―ム居間ドキっていうんですよ。」
「なんやねん、居間ドキって。×ンバ―が居間ドキなんか?」
「意味わかんないっすよね。×ンバ―は、俺と、海苔さんと、あとは邦世氏とか……」
俺が地―ムのメンバーの名を挙げていくのを、富士他さんは黙って聞いていた。
何人かの名を挙げた後で、不意に口を開いた。
「なんか……あれやな。」
「え、なんすか?」
「なんか、懐かしいわ。」
富士他さんは明るく言ったようだったけれど、どこか寂しさもにじんだ言葉だった。
俺は身体を強張らせる。頭の中を掻き回して、必死で返事を考えた。
「そ、そっちは何するんすか。」
「ああ、せやった。こっちも地―ム対抗戦らしいわ。」
「へえ、なんか似てますね。」
「初めてやからな、緊張するわ。」
酢ポ―津ニュ―酢で観ていた、富士他さんの姿を思い出す。
地―ム×イ卜とはもうずいぶん慣れ親しんだようで、そこに馴染んでいた。
「富士他さんなら大丈夫っすよ。もう馴染んでるじゃないすか。」
「なら、良いけどなあ……。」
そう答える富士他さんの声は弱々しくて、いつもの自信は感じられない。
なんだか富士他さんらしくなくて、俺はどこか不安になる。
やはりまだ、世子歯真に未練があるのだろうか。
騙し通してきた『寂しい』という気持ちが、顔を覗かせたような気がして、しっかりしなきゃ、と首を振る。
「千代はもう、寒いんですか。」
地―ムのことから話を逸らそうとして、必死で考えた末に出てきたのは天気の話題だった。
もっと気の利いた話題は無いのだろうかと、言った後で後悔する。
「ああ、めっちゃ寒いわ。11月入ったら、急に来たな。」
俺が話すつまらない話題にも、富士他さんはちゃんと答えてくれる。
「雪も降ったりしたんですか。」
「お前、千代の位置わかってないやろ。」
頭の中に、もやもやとした日本地図の絵が浮かんでくる。
どうやら俺の頭には、塔北といえば雪というイメージが根付いているようだ。
「話題、変えましょうか。」
「なんやねん、自分から振っといて。」
富士他さんはそう言って電話の向こうで笑うけれど、俺は唇を噛み締めていた。
もちろん、バカにされて悔しいからではない。
富士他さんの口からこういう話を聞くたび、もう世子歯真の人ではないんだな、という実感がわいて、俺に突き刺さる。
どんな生活をしているのか気になって、電話をするたびに近況を聞いたりするけれど、こんな風に決まって後悔することになる。
心のどこかでまだ、富士他さんの卜レ―卜"を認めたくない自分がいるのだろうか。あれからもう五ヶ月が経とうとしているのに。
「岳匕口、どしたん。」
ジレンマに陥って黙り込んでいると、富士他さんが心配そうに訊ねてきた。
俺は我に返り、慌てて誤魔化す。
「いえ、なんでもないです。」
とりあえずそう言ってみたはものの、それ以外の話題を振ることが出来ない。
地―ムのことも話したし、きちんと生活していることも話した。
黙ったままでは、電話した意味がない。焦れば焦るほど、頭の中は混乱していく。
「なあ、岳匕口。」
悶々としている俺を見計らったように、富士他さんが口を開く。
大事な話をしようとする時の富士他さんは、こういう風に改めて俺の名前を呼ぶ。
一体どんなことを言われるのだろうか。返事もしないで、俺は身体を強張らせた。
「寂しくさせて、ごめんな。」
唐突にそんなことを言うもんだから、俺はなかなか反応を示せなかった。
今富士他さんが千代にいるのは、富士他さんのせいじゃないのに、どうして謝っているのだろうか。
「寂しがってるのは……、」
富士他さんの方じゃないのか。そこまで言いかけて、俺は言葉を呑み込んだ。
富士他さんは、寂しいとか悲しいとか、そういう類のことを俺の前であまり言わない。
いつも俺の心配ばっかりして、俺が悲しんでいれば慰めて、俺が寂しがっていれば傍にいてくれて、いつだってそういう人だった。
今までとは違う。俺と富士他さんの間には距離があって、俺が悲しんでもいつでも慰めてくれるわけじゃないし、寂しがってもいつまでも傍にいてくれるわけじゃない。
さんざん甘えてきた富士他さんから、自立しなければいけない時が来たのかもしれない。
電話の向こうの富士他さんは、俺が返事をするのを黙って待っている。
「……俺、寂しくないですから。」
そう断言してみせると、息を呑むような音が聞こえた。
ちょっと考えた後で、悲しみを笑いで誤魔化すようにして富士他さんは答える。
「せやな……岳匕口だってもう26なんやもんな。」
富士他さんが溜息を吐いて、音声にノイズが入る。
「俺が知らん間に、こんなに立派になったんやね。」
「俺はずっと前から立派でしたよ。」
どこがやねん、と富士他さんがおかしそうに笑って、俺もそれにつられる。
少し時間はかかってしまったけれど、いつも通りに話せることに安心した。
「だから、富士他さん。」
富士他さんがするのを真似して、俺も改めて名前を呼ぶ。
それを察したように、富士他さんの笑い声が止まった。
「俺がいない生活を、楽しんでください。」
たぶん、富士他さんがいない生活を、俺は楽しむことが出来ない。
今まで当たり前にいた人が突如いなくなって、それをすっぱり割り切るなんて難しすぎる。
だからこそ、富士他さんにはそんな思いをさせたくなかった。
いつまでも俺の影を追いかけて、新しい地―ムでの生活さえままならなくなってしまったら、俺もたまったもんじゃない。
電話の向こうの富士他さんは、何も返事をしない。急にこんなことを言われたんだから、当たり前のことだけれど。
「……岳匕口」
だいぶ時間が経ってから、富士他さんがもう一度俺の名前を呼んだ。
それは出来ない、だとか、何を言ってるんだ、だとか、そういうことを言われると思った。
せっかく自立しようと決めたのに、富士他さんにそういうことを言われたら、俺は先程言ったことを撤回して、またすぐに甘えてしまうだろう。
それだけはしたくなかったから、富士他さんが何か言おうとするのをデカい声で遮る。
「すんません、ちょっと切らなきゃいけないんで、これで。」
「……ああ。」
あまりにも唐突すぎる展開に、富士他さんも俺の考えを察したのか、素直に応じた。
これで良いんだ、とひたすら自分に言い聞かせ、今までの自分が出てきてしまいそうになるのを必死で抑える。
終話ボタンに指をかけたと同時に、富士他さんが負けじと口を開いた。
「今度は俺が、電話するわ。」
「……」
「岳匕口が出てくれなくても、何回も何回も電話したるから、覚悟しといて。」
抑えつけていたものが、一気に溢れ出してくる気がする。
やっぱり富士他さんには敵わないな、と、終話ボタンから指を離して俺は頭を抱えた。
「ばかですね、富士他さんも……。」
「ああ、なんとでも言え。一番ばかなのは岳匕口やけどな。」
「なんでですか。」
「あんなえらそうなこと言っといても、後で一人でシクシク泣いてるくせに。」
そんなことないですよ、と言えない自分に腹が立って、反論も出来なくなる。
「そういうのが思い浮かんでくるから、ほっとけないねん。」
さすが八年間一緒にいただけあるな、と感心するぐらい、富士他さんは俺に関することならなんでもお見通しだ。
この人を上手く丸め込もうと思っていた自分が浅はかだった。
「そろそろ切らなくて良いん?」
「……切りますよ。切らなきゃいけないんで、切ります。」
バカにされたような口調で促されて、俺は今度こそ終話ボタンに指をかけた。
「またな、岳匕口。風邪引かんようにな。」
「はい。じゃあ、おやすみなさい。」
自分から切ると言ったくせに、俺はどうしても自分から切ることが出来ず、ボタンを押せずにいた。
結局いつものように富士他さんから電話を切って、通話終了を知らせる機械音を聞いてから、携帯電話をベッドの上に放り投げた。
俺はこのまま、富士他さんに甘え続けるのだろうか。それで良いのだろうか。
そんなことを悶々と考えていると、突然放り投げてあった携帯電話から着信音が流れ出した。
慌てて画面を見てみると、「新着メール1通」という文字が浮かんでいた。
さっき電話したばかりの、富士他さんからだった。
一体何の用事だろうか、やはりあんなことを言って怒らせてしまったのだろうか。
少し怖くなりながらメールを開く。
『府ァンフェ酢の気ャプ点、頑張れ。
そばにいてやることは出来ひんけど、いつでも応援することは出来るから。
それだけは忘れんといて。』
文面を読んだ後で、携帯電話を持ったまま布団に突伏して顔を押し付けながら、富士他さんには敵わないな、と思った。
いつだって俺の一枚も二枚も上を行く。
俺がこうやって富士他さんのことで泣きたくなるのも、なんで知ってるのだろうか。見透かされすぎてなんだか怖くなってくる。
携帯電話のメール返信画面を開いて、「ありがとう」と打ちかけてから、それを消して再び携帯電話をベッドに放る。
次に話すのは、府ァンフェ酢ティ場流が終わってから、俺がそこで頑張ったことをたくさん話そう。
電話の着信が来ることを待ち遠しく思いながら、カレンダーの23日に印をつけた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
代行者様、ありがとうございました。
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