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夢の続きは

洋画半生「印背プション」E蒸す×朝。
64巻の335です。今更ですが続きを投下させて頂きます。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

俺は身じろぎもせずそこにいた。動けなかった。突き付けられた現実を認めたくなかった。
繋がっていた――つまり夢を共有していたのだ。他のどれでもない、あの夢を。
自分の浅はかな考えを呪う。投影の行動がいつもと違うことにもっと疑念を抱くべきだった。
E蒸スはあの夢を見た。見たばかりじゃない、そこにいたのだ。
彼に組み敷かれ、涙を流し、喘ぐ姿はさぞ滑稽に映っただろう。
俺は彼を自分の投影だと思い込んで何もかも打ち明けてしまった。
後悔と自己嫌悪と羞恥に叫び出したくなるのを必死に堪えていると、
再び機械の排気音が聞こえる。
鎮静剤が切れ、瞼を開けるE蒸スと目が合う寸前に俺は身体を横へ向けて顔を隠した。
「……おはよう、ダーリン」
勝ち誇った表情をしているのは見なくてもわかる。いけすかない相手の弱みを握ったのだから。
聞きたいことも言いたいこともあったが、ここで取り乱せば余計奴に付け入る隙を与えてしまう。
俺はただ膝の上に置いた拳をきつく握り締め、ようやく言葉を絞り出した。
「………いつからだ」
「キスする少し前かな」
それを聞いて確信する。俺は彼に弄ばれたのだ。隠していたものを見破り
それを突き付けて俺がオチるのを見て楽しんでいたに違いない。
「何であんな真似をした」
顔を上げないまま低い声でそう尋ねると、身体を起こしたE蒸スは
悪びれもせず淡々と語り始める。

「お前が機械に繋がってんのが見えたから、何やってんのか気になってな」
「…それで?」
「そしたらまぁ…あんなことになってて、せっかくだから
ちょっとお邪魔させてもらおうかなと」
予想通りの回答に呆れて笑いが零れる。何でこんな男に見られてしまったんだろう。
マジで最悪だ。
怒りを通り越して半ば自棄になった俺は、昂る感情に少し身体を震わせながら彼の方を見た。
「ハッ、だったらさぞ楽しかっただろ。泣き喚いて、縋り付いて、
恥ずかしげもなく腰振って悦んでる俺の無様な姿は」
「……だったら良かったんだけどな」
「…何?」
意外な言葉を返してきたE蒸スをよく見ると、想像していたような
優越感や満足感を読み取れるような表情をしてはいなかった。
悔しそうな、不満そうな…そんな顔で俺をじっと見つめている。
「お前が他の誰かに抱かれてるのなんて楽しめるわけないだろ」
「他のって……俺を抱いてたのはお前だろ!」
E蒸スの態度に戸惑った俺は思わず声を荒げてしまう。
「お前が俺の気持ちに付け込んで、偽造までして俺を嘲笑ってたんじゃないか!」
「それは違う」
「違わない!」
すっかり取り乱してしまった俺とは対照的に、E蒸スは落ち着いた表情で
ゆっくりと立ち上がる。
さっきまで横たわっていた長椅子から俺の方に歩み寄り、繋がれていたチューブを
片付けながら彼は言う。
「お前は古部のことしか考えてなかった」
「っ……当たり前だ」
「お前には古部しか見えてなかったんだよ…最初から。気付いてたか?
俺は途中から偽造を解いてたのに、お前はそれでも古部の名前を言い続けてた」
「なっ…!?」

信じられない事実に言葉を失った。
そんな変化に気付かないほど…いや、気付けないほどに、あの情事に溺れていたなんて。
……俺は一体どこまで情けない男なんだ。
「お前を抱いてたのは古部だ。そして俺は、古部に抱かれるお前を
ずっと見せられてたんだよ」
最高の特等席でな、と付け加えてスーツケースを閉じる。その音に何故か身体がびくついた。
「それでも俺が楽しんでたと思うか?」
「…………」
「お前が泣きじゃくって、叶わない望みをぶちまけて、もっと抱いてもっと壊してなんて
せがんでくるを見ても、俺は何も感じないって?」
E蒸スはそう畳みかけてくる。まるでこっちが責められているようで
居心地が悪くなり、少し目を逸らした。
「…お前が俺に何を感じるっていうんだ。いつも俺をからかって楽しんでるだけだろ」
「確かにそうかもな。でもな、俺はからかって楽しむためだけにわざわざ夢の中に入って
偽造してまで、しかも男を抱いたりはしないぞ」
「……何?」
意味深な口振りと共にE蒸スがスーツケースから顔を上げた。
その表情は寂しさすら感じさせる。
「からかうどころじゃねえよ…アイツに抱き締められた瞬間泣きそうな顔してるお前見たら」
「E蒸ス…?」
「何でアイツなんだって嫉妬しちまって、それどころじゃなかった…」
「…ちょっと待て、お前何を言ってる?」
意味が分からず混乱する俺の肩を、突然E蒸スが掴んで長椅子に押し倒す。
まだ過敏になったままの身体を押さえ付けられて思わず声が漏れた。
「あっ!」
容易く組み伏せられ、カッとなった俺はE蒸スを睨み付ける。

だが奴は真剣な眼差しで俺を見下ろしていた。夢の中の古部と同じように。
「こうやって、やっと手に入れたと思ったのに……お前は俺なんか見ちゃいなかった」
「…、E蒸ス…?」
「抱いてたのは俺なのに、お前は違う名前を呼んでた」
こんなバカみてえなことあるか?と、自嘲気味に笑う。
「……俺はお前しか見てないのに」
「!!」
思い詰めたようにE蒸スが口にしたセリフにあの夢がフラッシュバックする。
それは意に反して俺の鼓動を速まらせる。
「なぁ亜ー差ー……俺を見ろよ」
「っ……止めろE蒸ス」
「何でだ。ここじゃ俺は古部になれないからか?」
「そうじゃない…」
俺は詰問されるような視線に耐え切れず顔を背けようとするが、
E蒸スは追求を止めようとはしない。
「…俺が古部じゃないから?」
「違う!…思い出したくないんだ」
「あの夢を?あんなに望んでたのに?」
――俺の夢。俺の潜在意識。虚しいだけの自己満足。醜い感情の爆発。
「望んでない…!あんな……あんな夢…っ!」
「本当か?あんなに、どうしようもないほどに古部と一つになりたかったくせに」
「止めろ…!」
「あんなになるまで……古部のことを―――」
「もういい!!止めてくれ!!」
それ以上の言葉を聞きたくなくて俺は叫んだ。
泣き出しそうになるのを隠すように両手で顔を覆う。
「……あんな夢見なきゃよかった…っ!!」
夢で願望を叶えたところで何の意味もない。余計虚しくなるだけだ。
現実でも一緒にはいられるのだから、それで満足していれば良かったんだ。

いつから俺はあんな夢を見てしまうほど、彼に溺れてしまったのだろう。
初めはあの唯一無二の才能に惚れたはずだった。彼女を亡くし苦しんでいる姿を見て、
支えになれたらと確かに思った。でもそれだけだったはずだ。
こんなに古部のことしか考えられなくなるなんて思わなかった。
彼を愛してしまうなんて思ってもみなかった。
どこで道を違えてしまったのか、今となってはもうわからない。
忘れられるなら忘れたい。彼に狂ってしまう前に戻りたい。
「――だったら…あんな夢思い出せなくなるくらいのこと、してやろうか」
そんな俺の思考に割って入るようにE蒸スが口を開く。
「…は…?」
「あんな夢見なくて済むように、こっちでお前を抱いてやるよ」
「なっ…!?」
驚いたのと同時に顔を隠していた手を剥がされ、恐らく涙ぐんでいるであろう目を
じっと見つめられる。そこにはいつものにやけ顔も不遜な態度もない。
初めて見るようなE蒸スの様子に何故か胸の奥がざわめいた。
「嫌だ、止めてなんて懇願もできなくなるくらいめちゃくちゃにしてやる」
「っ……」
掴まれたままの手首を頭上に固定され、さっきよりぐっと顔が近付く。
そんな奴の行動にオスの匂いを感じ、まだ熱を燻らせていた俺の身体は正直に反応した。
「…そうすりゃちょっとはお前の中にいられるか?」
「え?」
「憎しみや恨みでもいい。アイツよりもお前の頭ん中を占拠できるなら、
俺は何度でも…どんなやり方ででもお前を抱くぞ」
そう言ったE蒸スの瞳は本気だった。それで気付いた。
コイツも俺と同じ、叶わぬ想いを抱えていたのだと。

E蒸スは俺に、俺は古部に。その想いが報われる時は永遠に来ない。
それでも、相手を求めずにはいられない。どうしようもないのだ。
今になってようやく先程のE蒸スの言い分が理解できた。
考えてみればなんて残酷な仕打ちだろう。
罪悪感と同情と共感が胸に積もり、俺は少し表情を歪める。
それに気付いたE蒸スは、俺の手を解放して慰めるように頭を撫でた。
――コイツはどれくらい悩んできたんだろう。俺みたいに、夢で自分を慰めたりしたんだろうか。
もしそうなら、自分がやっていたことが全く馬鹿げたことでもないのかもしれないと
少し安心できる。そしてそれをコイツと共有してもいいかもしれないとさえ思えた。
だが俺がこの脅迫めいた提案に乗ることはE蒸スにとって苦痛なんじゃないのか?
俺はE蒸スの気持ちに応えられない。それなのに身体だけ重ね合わせるなんて、
余計虚しくて仕方なくなるんじゃないだろうか……今の俺のように。
それでもいいと、コイツは言うのか。報われなくてもいいと。それなら――…
「……なら、やってみろよ」
「!」
「俺の中をお前で満たしてみろ」
俺はE蒸スのシャツの胸元を軽く握り締めてそう答えた。
もっと違う反応が返ってくると思っていたのか、奴は少し驚いているようだった。
「………いいのか?」
「あぁ…ただし優しくなんてするな。慈しむような台詞も吐くな。ただ俺を汚せ」
そう言うと、E蒸スの表情が険しくなる。
「お前――」
「俺には、それがふさわしい」
惨めな俺。愚かな願望。届かない想い。何もかも全部吹き飛ぶくらいに、俺を壊してほしい。

――何だ。結局自分が楽になりたいだけじゃないか。
自己満足のためにとうとう他人まで利用するのか、俺は。
「………忘れさせられるんだろ?」
俺は挑発的な表情を作ってE蒸スを見上げる。目尻から涙が零れたのには
気付いていないふりをした。そんな俺を見てE蒸スは苦しそうに目を閉じたが、
すぐにいつもの飄々とした顔に戻って頷く。
「……お前がそれを望むんならな」
「来いよ」
それ以上目を合わせていられなくなって、俺は自分から相手の首に腕を回した。
抱き締めた身体の感触や温度、香水の匂いも何もかも夢とは違う。
そう。これが現実だ。思い通りになんてならない。思ってた通りにもならない。
知覚するもの全てが俺に思い知らせる。お前の望むものなどここにはない、と。
――それでいい。そうでなければいけないんだ。
「…壊してくれ……今だけ…!」
E蒸スの肩に顔を埋めて縋った。甘えたことを言ってるのはわかってるつもりだ。
それでもアイツは俺をそっと抱き返し、「わかった」と小さく囁いた。

その日以来、俺はあの夢を見るのを止めた。だが本質は何も変わっていない。
夢から現実に場所を変えただけ。E蒸スを巻き込んだ分かえって性質が悪くなったかもしれない。
それでも俺は、あの惨めな自己満足から抜け出せない。例え何度E蒸スに抱かれても。
アイツも満たされない。俺も満たされない。一体何のための行為なのか。
いつかお互いが相手への想いに疲れるまで、この関係は続いていくのだろう。
良い夢か、悪夢か。今でもその答えはわからない。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

代行人より:連投規制に引っかかってました。支援ありがとうございました

  • 萌え!! -- 2013-02-15 (金) 05:00:29

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