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最終戦の後で2

生&完全捏造注意! 里予王求 25×きれいな監督+6
だいぶ前に落とした話の続きだけど、これだけでも分かるはず
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

どうして、こんなことになっているのだろう。
自チームの選手の腕の中で、こうなるに至った経緯に思いを巡らせる。
今夜はシーズン最終試合、そして自分にとってはこのチームの監督としての最後の試合だった。
大した功績も結果も残せなかったが、それでも選手達は自分の最後の日を勝利で飾ってくれた。
3年間着たユニホームを脱ぐ。このチームのユニホームに別れを告げるのは2度目だった。
3度目はないだろう。そう思った時、辞任を発表した日から、考えないようにしていた未練と
後悔の思いが押し寄せてきた。
その時、彼がやって来た。自分が監督に就任してからずっと気にかけていた選手だった。
彼になら自分の思いを託すことが出来ると思った。そうすることで、彼にまた重荷を背負わせる
ことになると分かってはいたが、伝えずにはいられなかった。
そうしたら、いきなり抱き締められて、その上―――。
彼がこんなことをする理由は分からないが、この状態でいることがまずいことは分かる。
「…あの、もう、離して…」
自分を抱き締めたまま動こうとしない彼に声をかける。しかし、離すどころか、彼の腕の力は
さらに強まり体を締め付けてくる。逃れようともがくが、現役選手の腕はびくともしない。
「……っ…、粗居っ…」
息苦しさに彼を呼ぶ声に吐息が混じる。彼が息を呑む気配が伝わってきて、不審に思って
見上げようとした時、ドアがノックされた。

「すんませーん、こっちに粗居さん来てませんか――……っと」
返事も待たずにドアが開かれ、顔を覗かせたのは彼の兄貴分の選手だった。
彼の姿を見て、粗居の腕の力が緩む。その隙に、素早く彼の腕から抜け出し、距離を置く。
「……あれまあ」
鉢はそう言って目を見開いたが、さして驚いているようには見えない。
「なかなか帰ってこんと思うたら…」
断りもなく部屋に入って来た鉢は、彼を見ていつもの人の悪そうな笑みを浮かべる。
「いきなりそうくるとは、また思い切ったの」
からかう様な鉢の言葉だったが、そんな時にいつも彼が返す言葉も笑顔も、今は現れない。
「けどまあ、すこーし遅かったの」
「…え?」
遅いとは何がだろう。不思議に思って聞き返すと、鉢の悪そうな笑みがさらに深くなる。
「やっぱり知らんかったんですか。こいつ――」
「か、鉢さんっ」
慌てて制止しようとする粗居を無視して鉢が続ける。
「ずっと監督のこと好きやったんですよ」
いつもの彼の冗談かと思って粗居を見たが、気まずそうな表情をしたものの、否定する様子はない。
「俺を追いかけて入団してきたくせに、監督見た途端一目惚れしよってからに」
思いも寄らないことだった。粗居が自分のことを好きだった?
彼がそんな素振りを見せたことがあっただろうか。
「ちょっとすみません。すぐ戻りますんで」
そう断ると、鉢は何か言いたげにこちらを見ている粗居の腕を掴んで部屋を出て行った。

1人になって少し冷静さの戻った頭で、彼と出会ってからの3年間を懸命に思い返す。
彼との会話や接触は多くはなかった。いつも声をかけるのは自分で、彼から何か言ってきたことは――。
「ま、そういうことなんで」
「は?」
いつの間にか部屋に戻って来ていた鉢の声に、いきなり思考が中断され、間の抜けた声を出してしまう。
「後は俺がうまいことやりますんで、粗居さんのことよろしくお願いします」
「…お、おい、…よろしくって…」
一体2人で何を決めてきたのだろう。聞こうとする自分に、鉢が静かな口調で語り始めた。
「前のチームでも、今のチームでも、あいつは俺しか見てませんでした」
鉢の言葉通り、粗居が鉢を慕う様子は、微笑ましいを通り越して少々気味が悪いほどだった。
「けど、3年前に貴方が来て、いつからかあいつは貴方だけを見るようになりました」
そう言われても、やはりそれを感じさせるような彼の言動は思い出せない。
「あいつをこのチームに引っ張ったのは俺です。けど、俺はここでいろんな事があって、あいつが
来た時の俺は、昔の俺ではなくなっとりました。ここに来る為にあんな辛い思いをさせたのに…」
そこまで言って、鉢は目を伏せて唇を噛み締めた。同じチームを出て同じチームに入ったのに、
彼と粗居では何もかもが違っていた。いつも陽気に彼を弄り倒している鉢ではあったが、やはり責任は
感じていたのだろう。あるいは、それは彼なりの気遣いであったかもしれない。
「俺はあいつにずっと負い目がありました。だから、あいつの為に出来るだけのことはしてやりたい。
監督のことは、本人が動かん限りは何もせんつもりやったんですけど」
そう言って悪戯っぽく自分に笑いかけ、片目を瞑って見せる。
「あれをやられたら、放っとくわけにはいかんでしょ」
「だから、さっきからよろしくとか放っておくとか…」
「それから」
鉢は自分に何をさせるつもりなのだろう。尋ねようとした言葉は、またしても遮られる。

「ご迷惑おかけしました」
先程とは打って変わって、真摯な表情で自分に向かって深々と頭を下げる鉢に、返す言葉が見つからない。
この球団での彼の功績は大きすぎた。ここ数年の衰えは誰の目にも明らかなのに、彼にそれを指摘出来る
者はいなかった。自分もまた、拘るべき記録が途切れてもなお試合に出続ける彼を止めることは出来なかった。
同じプロ野球選手だった者として、現役であることに拘る気持ちは痛いほどわかる。
けれど、それが壊れた体以上に彼の心を傷つけている。自分の成績よりチームの勝利を優先してきた彼が、
今はチームの足枷となっていることに気付いていないはずはないのだから。
「自分の引き際は自分で決めますんで」
「……そうか」
それでも、自分を見据えてきっぱりと言い切る鉢にようやくそれだけを口にした。
「けど、それと粗居さんのことは分けて考えてやってください。虫のいい頼みやと思いますけど」
「……そうか…、…って、えっ?」
唐突に話題が変えられ、我に返った時には監督室を出て行く鉢の背中が見えた。
それと入れ替わりに、押し込まれるようにして粗居が入って来た。
また監督室に2人だけになったものの、彼とどう接すればいいか分からない。
僅かな時間のうちに、彼が全く知らない人間になってしまったようだった。
粗居はしばらく鉢の消えたドアを見つめていたが、やがて意を決したように自分に向き直って言った。
「俺、ずっとあなたが好きでした」
それはさっき鉢から聞いた、と言いそうになったが、かろうじて我慢した。
「…一目惚れではないんですけど」
粗居が遠慮がちに付け加えたが、もうどうでもいいことだった。

粗居に手を掴まれて、引きずられるように球場の裏口から外に出る。
待機していたらしいタクシーに乗り込むと、彼が運転手に市内の有名なホテルの名を告げる。
タクシーが静かに動き出してから、恐る恐る彼に尋ねる。
「…あ、粗居…、その、ホテルって…」
「…鉢さんが部屋取ってくれてるそうなので」
それまで何を言っても無言だった彼が、ようやく話してくれたことに安堵したのも束の間、
すっと血の気が引く感覚が襲ってくる。
「…へや……」
思わず呟いた時、粗居が監督室から繋いだままの手を握りしめてきた。その力の強さに顔を
顰めながら彼を見る。一見無表情に見えるが、不安と緊張で僅かに触れるだけで、すぐにも
崩れてしまいそうな――シーズン中に度々見せた表情だった。
思えば鉢の後の4番を埋めるために、彼には随分無理をさせてきた。彼にその力があると
信じてのことだったが、彼にとっては苦痛でしかなかったかもしれない。
それでも、必死に周囲の期待に応えようとした彼に、自分は何も与えてはやれなかった。
古巣の関係者やファンを裏切ってまで、熱望した勝利も優勝も。
「…粗居…、俺は――」
言い澱んだ自分を見て、彼が運転手に行先の変更を告げる。チームの宿泊先だった。
「…いや、そのまま行ってください」
手を握る彼の力がさらに強くなって、それを口にしたのが自分であることに気付く。
その痛みを感じながら、目を閉じ、深呼吸して思う。
今夜何があったとしても、もうすぐ自分とは全てが無関係になるのだ。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
兄貴が喋りすぎ…。投下代行者様、支援者様、どうもありがとうございました!


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