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お見舞い

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
五輪の体操王者とその親友

重い病室の扉が開く気配に顔をそちらへ向けると、そこには嫌と言うほど見慣れたジャージ姿が立っていた。
「よぉ。」
軽く声を掛けられ、同じように答える。
しかし彼は最後に会った時より更に肩書きにまた一つ、称号を増やしていた。
体操界の頂点に立つ男。
そして親友であり盟友であり悪友でもある男を、それでも自分はこの時穏やかに迎え入れていた。

「足どうだ?」
ベッドの脇に置かれた椅子を引き寄せ座りながら尋ねられ、自分はあぁと軽く返事を返した。
「手術は成功。しばらく安静。様子見ながら徐々にリハビリだな。」
ほら、包帯も大分薄くなった。
言いながら足元を指し示せば、それを見て目の前の表情が少しだけ和らぐ。
「よかった。」
「心配かけたな。」
「まったくだ。」
「悪かったな。」
「団体戦の事なら謝らなくてもいい。」
俺も結構やらかしたし。微かに視線を落としそんな殊勝な事を言う親友の頭を手を伸ばし、クシャリとしてやる。
繊細とは程遠い、ワシャワシャした髪の質感。
夢の大一番なのだからもう少し切るなり整えるなりすればいいのにと思わない事もなかったが、本人はもはやそんな事は超越した次元にいるらしい。
そんな相手に心配をかけさせた。
それでも踏ん張って、やり遂げた。だから言ってやる。
「あらためて個人総合おめでとう。」
これだけはと見届けた競技の後ずっと声をかけたかったものの、試合後の彼は忙しくて、ろくに顔も合わせられなかった。
そしてそのまま自分は一足先に帰国した。
だから知らなかった。彼があの後プレス会見で自分の事に触れていた事など。
日本に着いて、人から言われて、自分にまで取材が来て初めてその内容に驚いたくらいだ。
しかし本人はそんな事はもはや忘却の彼方のようで。
「うん、ホッとした。」
素直すぎる言葉に、あれマジだったのか?と問い質す気も失せてしまう。だから、
「床も、満足できたみたいだな。」
直には見られず、そしてトップでも無かったが、それでもテレビ越しに自分自身納得がいったような顔をしていたのを思い出して告げれば、それにも彼は素直に頷いた。
「あれはあれで良かった。」
ならば後は、
「団体だけだな。」
「あぁ。」
「あと4年か。」
「あっと言う間さ。」
確かに。
それでもかつて彗星のように現れた少年は、その4年の時を経て今、この世界に絶対的王者として君臨している。
ならば4年後、彼は更にどんな風になっているのだろう。
友だけれど競争心はあって、だけれど不思議と嫉妬なんて感情は浮かばなくて、ただただ……誇らしい。
そんな彼とまた共に同じ場所に立ちたいと心の底から思う。だから、
「早く治せるよう、頑張るな。」
約束するように告げれば、彼はまたコクコクと首を縦に振った。
「そうしてくれ。おまえがいないと、色々場がもたない。」
「おい、人を宴会部長みたいに言うなよ。」
「でも辛い。疲れる……」
競技の上ではけして弱音を吐かないが、ことマスコミ対応になると苦手意識が先に立つらしい。
それでも以前に比べればその対応は随分と大人になった。
しかしだからこそ、この先しばらく各方面に引きずり回らされるその心労を思ってふと笑えば、すかさず笑い事じゃないと文句を言われた。
それにごめんなとまた謝れば、彼はそのまま無言で目の前のベッドの端に顔を埋めてくる。そして、
「早く戻ってこい。」
ポツリと呟かれる。
心からの懇願。
それには全力で応えたいと思う。だから、
「あぁ。」
もう一度その頭をクシャリと撫でてやれば、それを彼は当然のように受け入れ、それ以上何も言わなかった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
世界配信されたメダル秘話会見に打ち抜かれました。


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