きらきら終わる
更新日: 2013-08-19 (月) 10:09:59
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// .|| ∧∧
. // 生 || ∧(゚Д゚,,) < 先日読みきりで復活したおとぼけアンドロイド
//_.再 ||__ (´∀`⊂| < ぬるいけど登坂×r
i | |/ ||/ | (⊃ ⊂ |ノ~
| | / , | (・∀・; )、 < 原作から20年くらいたってる設定
.ィ| | ./]. / | ◇と ∪ )!
//:| | /彳/ ,! ( ( _ノ..|
. / /_,,| |,/]:./ / し'´し'-'´
/ ゙ / / / ||
| ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./ / /,!\
| | / `ー-‐'´
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|_____レ"
最初の異変は、ひどく些細なことだった。
「とさかさん、この人は誰でせう」
微かに色褪せた写真を指差し、rは尋ねる。その写真は飯田線での旅の最中に撮った、バチアタリな写真だった。
「あー、これは岸田だな…いや、あさ…やっぱり岸田だ」
「きしだ?」
「お前の同期だろ!忘れるんじゃない!!」
そう言いながら登坂はrに間接技をかける。あらぬ方向にrの体が曲がり、気の抜けた声があうあうとうめく。
「とさかさんだって、ちょっと曖昧だったじゃないですか~」
「私は先輩だからいいのだ!」
登坂は高らかに笑う。理不尽な登坂とまぬけなrの、何年も変わらぬやり取りだ。
登坂は少し腹に肉がつき髪に白いものが増えつつあるが、rはなにもかも昔と同じだった。
「大体、アンドロイドが物忘れをするのか」
「高性能なので」
しれっとした態度のrの頭が、登坂のハリセンに叩かれてぽろりと落ちた。
人並みであるゆえにこんなこともあるだろう、と登坂は自分を納得させた。
その後、少しずつそういうことは増えていった。
「この丸くなってる人は誰でしょう?」
「文芸部の伊東」
「う~ん…」
rは首をひねっている。そんな人間と関わりがあったかどうかすら謎だ、そんな顔をして。
他にも山田さん温泉の話をしてもキョトンとしていたり、生徒会や土研の存在を忘れていたり。
そんなrに登坂はなにかうそ寒いものを感じたが、気づかないふりで接した。
認めてしまえば自分の奥底が決定的に損なわれてしまうような、そんな恐ろしさがあった。
r自身は無表情で何を考えているのかわからない。ただ、ぼんやりと部屋に座っている時間が心なしか増えたようにも見える。
それも登坂が認めたくないことのひとつだった。
だが、残酷な瞬間は突然訪れた。
「とさかさん、とさかさん、この女の子かわいいですね」
rが珍しいことを言った時、登坂は一瞬背筋に冷たさを感じたが、見ないふりをした。
「どれだどれだ」
「ほれ、この子です」
登坂は口が聞けなかった。rの指差す先の写真に写っていたのは
「おまえ…もしかしてさんごのこと…」
「さんごと言うのですか、この人は」
「どうして覚えていない!」
登坂はほとんど恐怖に近いような気持ちで、rを殴った。
rは長い銅線の先の顔で登坂を無表情に見つめた。その顔が、まるで知らない機械人形のように見え、登坂はたじろいた。
「どうしたんですか、とさかさん」
しかし、そう尋ねるrは紛れもなくrだった。呆けたような顔も、のんびりした声も、とれた首を直すその所作も。
翌日、登坂は仕事を休んでrと共に也腹のもとへ向かった。
そう簡単にコンピューターの記憶が消えるとは思えない。きっと、何らかの手段で復元できるに違いない、と祈るような思いで。
研究所の雑然さは前に訪れた時に輪をかけてひどくなっている。
半身だけのロボットや、折れた基盤がそこらじゅうに転がっていて、歩くたびにどこからかほこりが立つ。
数年ぶりに会った也腹は、昔とあまりかわりなく見えた。多少は腰が曲がり、頭髪も寂しくなりつつあるが、rの修理に支障があるようには見えない。
登坂は少し安心して、也腹に事情を話した。だーいじょうぶ、きっとなんとかなる、と自分に言い聞かせながら。
「まぁ、見てみんとなんとも言えぬが…」
也腹は一通り事情を聞いてから、rに様々な機器を取りつけた。コンピューターの画面には登坂にはわからない数列がならぶ。也腹の顔が険しくなった。
「記憶回路の電池が切れつつあるんだな」
「電池切れ?」
あまりにも単純な理由に、登坂は拍子抜けした。あんなに恐怖したことが、時計が止まるのと同じ原因だったとは!
「なーんだ、じゃあ、電池さえ入れれば元通り!ですね」
「いや、そうはならん」
登坂の安心した顔が凍る。
「確かに電池を変えれば、R28号の物忘れはなくなる。だが、電池を変える際にR28号は完全に初期化され、それ以前の記憶も人格も失うだろう」
rは眠っているように瞳を閉じており、也腹の声が聞こえているかはわからない。
登坂は自分の脚が震えていることに気づいた。暫し、彼は口をきくことができなかった。
「記憶を復元して、USBメモリみたいなのに入れておくことはできないのか?」
「無理だ。R28号の記憶あまりにも複雑で、他に移したら壊れてしまう。それに、こいつの記憶は復元できん。」
「せめて人格だけでも…」
「R28号の人格は、記憶によって作られているのだ。だから初期化したらもう、別のアンドロイドになると考えてほしい」
也腹との絶望的なやり取りを繰り返すうちに、登坂の顔からは血の気が引いていった。これは、もうどうにもならぬことなのだ。
「…どちらにせよ、電池が完全に切れたなら記憶も人格もなくなる。せめてそうなるまではこのまま様子を見る方がいいだろう」
うつむいて唇を噛み締める登坂に也腹はそう声をかける。凝固したような息苦しい時間が流れた。
しばらくして也腹はrの方を見、
「全く、こいつも幸せなアンドロイドだ」
と呟いて頭をかいた。
也腹のもとから帰宅する際も、rは眠っているようだった。
次に眼をさましたとき、もしかしたら自分も忘れられているかもしれない。そんな予感が登坂の胸を刺した。だから、
「やあ。とさかさん、もう朝ですか」
登坂の部屋で眼を覚ましたさrが声をかけたとき、登坂は心の底から安堵した。
「外を見ろ、まだ暗いだろ。夜だ」
rはゆっくりと窓の外を見ると、興味なさそうにまたその場に寝転んだ。
「さっき会っていた人は誰だったんでせう」
「也腹博士か?あれはお前のお父さんだ」
「お父さん?」
rは虚ろな眼を散らし、
「僕にもお父さんがいたとは、ありがたいことですね」
微かに笑った。
登坂はrの頭を優しくはたいて、
「今日はもう寝ちまえ。起きてると何かと不経済だ」
「あい」
rはすぐに眼を閉じた。これで少しでも電池が切れるのを遅くできれば…という登坂の悲しい悪あがきだった。
寝袋に入る習慣も忘れたのか、rは床の上で眠っている。
登坂は冷蔵庫からビールを出すと、一息に飲み干した。飲まないとどうにかなりそうだった。味はほとんど感じない。
光画部の部室で飲んでいた時は、どんなに怪しげな酒でもひどくうまかったのに。
冷え冷えとした夜だった。冷えは登坂の体の内側から湧き上がってきて、血液と共に体内を駈け廻っている。
北風がガラスを細かく震わせた。枯葉が幽かな音を立てて枝から振り落とされていく。
登坂は空の缶をぐしゃりと握ると、眠っているrを見た。合宿の時や、部室で何度も見たまぬけな寝顔だった。
なかなか起きないrを文字通り叩き起こし、駅まで走ったこと。
自転車で行かせた修学旅行、幽霊探し、春高での也腹との戦い…たくさんの思い出が登坂によみがえってきた。
あれから短くはない時が流れ、少しずつみな変わっていった。どこで何をしているかわからないものもいる。
そんな中、rだけは変わることなく、ずっと登坂のそばにいたのだ。
rと共にいさえすれば、すぐに10数年前の高校時代に帰ることが出来るように錯覚していたが、そのまやかしすら登坂から取り上げられつつある。
明日、rはいったい何を忘れてしまうのだろうか。
登坂はrの体を抱き締めた。限りなく無為に輝いていた青春の残梓を愛おしむかのように。
rは眼をさまさない。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・;)イジョウ、ジサクジエンデシタ!
長々と申し訳ないです!支援ありがとうございました、とても助かりました!
連続2回で連投規制とは・・・
- 良かった! -- 2013-01-20 (日) 17:05:49
- 切なす… -- 2013-08-16 (金) 14:52:44
- すばらしい…! -- 2013-08-19 (月) 10:09:56
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