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遠い時間の果て

鬼切丸」最終回後で、鬼喰→鬼切。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 後藤が「力になれることがあったら連絡して」と電話番号・メールアドレスと共に教えていた住所に、結婚報告の葉書が来た。
 純白のウエディングドレスの美人、その傍らには征夷大将軍、ではなく、人の善さそうな優男。あるいは、彼の人は武勇伝に似つかわしくない、このような面差しをしていたのだろうか。
「先越されちまったなぁ」
 ニヤリと笑い、左の指先に挟んで差し出す。
 受けとった後藤は、取材から帰ったばかり。スタイリッシュなパンツスーツ姿は、年齢を重ねてなお華のある容姿を引き立てている。
 写真越しに祝福するように顔を綻ばせ、ダイニングテーブルへ葉書を滑らせた。
「いいのよ、でっかいコブ付きでもいいって男なんかそうそういやしないんだから」
「でっかい……おいおい、俺のことかよ」
 こちらのぼやきに背を向け、リビングのソファに腰を下ろした。スプリングの軋む音に、仕事の疲れが表れる。
「頼もしいボディガードをヒドい言い種じゃねえの」
 鬼に引き寄せられているのか、鬼を引き寄せているのか。鋭い爪は届かずとも、危なっかしいことこの上ない女。
「私の命懸けの取材のお陰でメシ喰ってんでしょー、扶養家族じゃない」
 扶養されているつもりはないが、この女をアテにしている部分も無きにしも非ず。仕方がないので、二人分コーヒーを淹れてささやかなご機嫌取り。
 こんなやり取り、何度繰り返してきたか。

 後藤の前に彼がまた現れるのではないかという期待が、無かったと言えば嘘になる。
 彼に引き寄せられているのか、彼を引き寄せているのか。「切り札」と言わしめた人間。その繋がりは強い。
 後藤は後藤で、俺の鬼気を感じ取る能力をアテにすることもある。
 彼の存在を信じている、信じたい。
 その思いが、今一度人間の伴侶を得た鬼姫も含め、この奇妙な縁を結び付けていた。
 駆けずり回り草の根分けて探すような存在ではなく、また探したところでそうそう見つかるまい。できることは、こうして鬼縁を絶やさずいることくらい。彼が現れるとすれば、それは鬼あるところだから。

 時が流れ、人間は変わり、死に、生まれ、世界が変わっていく。
 鬼もまた絶えず生まれる。
 鬼と引き合う後藤がおらずとも、幸い――人間世界としては不幸――なことに、飢えに苦しまない程度には獲物にありつくことができていた。
 人ゴミは守るべき存在であり、撒き餌であり、種を蒔かれた畑。その中で感覚を澄ませれば、何かしら引っ掛かってくる。
 今日は当たり。鬼気の芽吹きとでも言おうか、まだ微かなそれ。
 在り処を探る。それは少女だった。小さな唇を噛み締め、落とした視線は夢うつつ。今も昔も、思春期の女という奴は手に負えない。
 芽吹いたそれが育ち血の花を咲かせれば狩るだけのこと、自分の飢えは満たされる。しかし一方で、育つ前に枯れてしまえばいいとも思う。
 彼や後藤ならば、鬼になるなと首を突っ込み、救おうとするだろうか。
 鬼と人間の狭間に揺らぐ存在は、こうして彼を思い出させる。

 数日を経て、再び目にした少女の、噛み締めていた唇からは凶悪な牙がはみ出し、その牙は鮮血に濡れていた。
 なんと哀しい、醜い姿。

「人間の味を覚えちまえばよ、戻ることはできねえのさ。
 情け深いヤツの角を以てしても、な」
 彼は鬼でありながら、人間に深く深く情を抱いていた。人間の味を知る前に彼と出会っていれば、末路は違ったろう。
 泣き声のような咆哮をあげながら、少女は鬼へと姿を変える。
「だからな、せめて俺が浄めてやるよ」
 不動明王の御力を以て、勾玉へと封じ、この体内で浄化してやろう。
 制服を破り膨れ上がる体、そして鬼気。
 拳を振り上げたことも無かったのではないか、そんな華奢な腕はもはや無く、禍々しい爪が振り下ろされる。
 飛びすさる。一瞬前に立っていたコンクリートがえぐれた。
 この血肉が猛毒だとも知らず、ただ鬼の本能のままに人間の鮮血を求めている。
 片手では装填が難しい分、予め全弾込めておいた拳銃を抜く。変化の鬼一匹など、一発二発で事は済む。
 充分だ、そう思った矢先、近付くもう一つの鬼気。
 一瞬覚えた焦りは、すぐに霧散する。
 それは、忘れてしまいかねないほど遠い記憶の中の、忘れえぬ愛しい強大な鬼気だった。
 鬼気の強大さのわりに小さな後ろ姿が、鬼との間に降り立つ。
 遠い過去、呼ぶことのできる名を持たない彼に、何と声をかけていただろう。数瞬迷ううちに、彼がこちらに半身を向ける。
 詰襟の学生服。かつての鈍い金の釦を並べた漆黒ではなく、濃紺。
 揃った長い前髪と、その下の陰気だが清廉な眼は、変わらない。手にした刀も。

「転校したのかよ、この鬼め」
 やっと、逢えた。
 鋭い爪がその頭を潰そうとするように迫る。
 つれなくも素早く視線を外し、振り向きざまに振るった刀が、自らの胴ほども太い腕を切り落とす。
 鬼はやはり、絶えず生まれる。それでも彼は、夢物語を捨てるわけにはいかないだろう。
 はるか昔、鬼の屍より少年の姿をした鬼が生まれた――そんな一節から始まる物語。
「とどめは俺に寄越せよな」
 口元がだらしなく緩みそうになるのは、獲物を目の前にしているからだけではない。
 応じたか確かめぬまま、照準を合わせる。邪魔をするなら、お前がこの弾を喰らうだけだ。
 そういえば、こうして一匹の鬼を相手取ったとき、しばしばとどめは俺だった。遠い記憶がいくつも連鎖して蘇る。お前は甘かった。人間から逸した、こんな化け物にまで。
 「鬼と鬼喰いが組めるわけがない」とは、いつか昔の彼の言葉。
 仲良しこよしと組まずとも、こうして繰り返していけばいい。永遠とも知れぬ二人の命の、いずれかが尽きるまで。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

制服は私の趣味です。
準レギュラー三人は、少年に惹かれている同志だと思ってます。
懐漫のスレで書かれてた、「日本刀持ったスペースレンジャー」になっても、こんなこと続けてたらいいよ。


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